紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第七話「満月の夜の新月は破滅の足音」#7
___とある病院の四階、廊下。
「・・・さて、約束だったね。僕が知っている限りの『大太法師』に関する情報を全て教えてあげよう」
「と、その前に訊きたいことがあるのだが」
ザイツェフがセルシオに言う。
「情報屋に向かって言う台詞ではないが、本当に君の情報は信用できるのかい?」
「・・・何が言いたいのかな?」
セルシオは笑顔のまま言う。しかし目は笑っていない。
「何故先程の戦い、わざと負けたのかと訊いている」
「・・・へえ、気付いてたんだ」
「わざと負けてまで私達に『大太法師』の情報を与えたところで君には何のメリットも無い筈だ。
それどころか、『大太法師』の情報を握っているのならば
奴を探った人間は全員抹殺されている事も知っている筈。
だというのにも関らず私達に情報を与えようとした。
情報を吐いた後、自身が殺されるリスクを考慮した上で、だ」
「・・・随分と一気に言うね」
「・・・何を企んでいる?」
「・・・・・」
セルシオはふう、と溜め息をつくと近くにあったベンチに腰をかける。
「・・・あーあ、なるべく言うなって言われていたんだけど。まあ、どっちでもいいか。。
簡単な話だよ。僕達は『大太法師』側の人間だ」
「「!?」」
「・・・師匠、それ言っちゃって良いんですか?」
「もうそんな些細なこと気にする必要はないだろう?」
「・・・なるほどね。『裏社会の頂点』の手下、という訳だ。
道理で『裏社会随一の情報屋』などと呼ばれている訳だよ」
「正確には彼の『右腕』の手下、とでも言うべきかな?」
「『右腕』・・・?」
「・・・そうだね、そろそろ本題に入ってしまおうか。
・・・『大太法師』に関する情報について」
「いや、待て。アンタは『大太法師』側の人間なんだろう?
だったら余計にあんたの情報は信用できないじゃないか。ひょっとすれば罠の可能性がある。
いや、むしろその可能性の方が高い」
「『大太法師』の『右腕』の刺客が数日以内にこの病院にいる君たちの仲間を襲撃に来る
・・・という情報でもかい?」
「・・・・・!」
「・・・成程、それが嘘であれ真であれ変わらない、そんな嘘をつく理由も無い
信じるしかないという事か」
「ようやくわかってもらえたようだね。
・・・さて、と。僕が『彼』について知っている情報はこれで全てだ」
「・・・え? それだけ?」
「・・・一流は多くを語られずとも察するものさ」
セルシオはにやり、と笑い言う。
「・・・・・」
「・・・情報提供感謝する」
「じゃあ、他に用が無いなら僕達はもう帰らせてもらうよ」
そう言うと、セルシオはベンチから立ち上がる。
「ではまた会う時まで、ごきげんよう」
そして、足音だけを残して廊下の闇へと消えていった。
「・・・次は手加減しないからな」
渓はそう言って、彼もまた師の後を追い廊下の闇の中へと走っていった。
「・・・『右腕』、ねえ」
「これはまた厄介そうなのが来たな。一馬君、どう思う?」
「・・・おそらくその『右腕』とやらを介して『大太法師』はセルシオ達腹心に指示を出している、
そしてこれも推測ではあるがセルシオ自身は『大太法師』に直接会ったことは無い・・・
つまり『大太法師』に会うことができるのはその『右腕』とやらのみ」
「そして奴の『右腕』はセルシオより遥かに強い・・・
おそらく、彼の精神にプロテクトをかけているのもそいつだろうな。
・・・まあ、とにかくまずは・・・」
「・・・その『刺客』とやらをとっ捕まえて色々吐いてもらうとしようじゃないか」
「うむ。『大太法師』の『右腕』が信用するほどの刺客ならば『右腕』の情報を知っている可能性が極めて高い」
「そして『右腕』とやらをぶっ飛ばし、『大太法師』を仕留めて一丁上がり、と」
「・・・今日だけで随分と状況が好転したな。
楽観視はできないのも確かだが、君達が入ってくれたおかげで捜査がかなり進んだ。
協力感謝するよ」
「何言ってんすか。まだまだこれからっすよ。
・・・この勢いで『裏社会の頂点』の座も奪い取ってやるつもりですから」
俺はザイツェフに向かってにやり、と笑ってみせる。
「・・・頼もしいな」
ザイツェフはふ、と笑う。
「・・・さて、私は色々と報告しなくてはならない事が出来たのでな。
一旦警視庁に戻るが、その間君にはここにいて欲しいのだが」
「了解!」
「では、また後で。
君用の新しいハンドガンも支給してもらってくるとしよう」
「随分と気が利くんすね」
「・・・私は子供には甘いんだ」
そう言うとカツ、カツと足音を反響させながらザイツェフは廊下を歩いていった。
「・・・さて、と」
とりあえず俺は皆の様子を看にいくとしようか。

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