紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第九話「星の力は平和を求める」#2



「傷一つ負っていないところをみると、余裕だったみたいだね」
箒を持った、黒いコートと猫の仮面の男は、黒い仮面をつけた黒いコートの男に言った。
しかし、黒い仮面の男はそれを聞こえなかったかのように箒の男の隣を通り過ぎていく。
「・・・スルーとは酷いな。そんなに俺の能力を警戒しなくても良いのに」
箒の男は、黒い仮面の男の背に視線をやり、言う。

その時。
「オイ、お前ら」
縁側から二人を呼び止める、野太い声。
二人が向いた先には、大柄な男。男もまた黒いコートを着ている。
どうやら、黒いコートはこの集団の一員である証の一つのようだ。
大柄な男は二人に告げる。
「お頭がお呼びだ。来い」

___屋敷内、書斎と思しき部屋。

屋敷の大きさにしては少々狭い部屋。
しかし掛け軸や盆栽など、それらのものからは一目で安物ではないとわかるほどの気品。
恐らく個人の部屋と考えるのが妥当であろう。

例えばこのような屋敷の場合・・・暴力団、もといクリアマフィアの組長に値する者の部屋、など。

「それで、滞りなく終わったんか?」
座布団の上で胡坐をかき、掛け軸の前に座する銀色の髪の男が言う。
男の年齢は五十前半といったところだろうか。体型はふくよかで、顔は、一言で言えば『気品が無い』。
男は黒い羽織に袖を通し、煙管をふかしている。
腹部は袴の帯に締め付けられ、見事な曲線を描いている。

「直接『奴』に関する情報は、『霊零十六夜』という奴が握っているらしい。
 『語り部』はあくまでも奴の手先に過ぎなかったようだ」
黒い仮面の男が銀髪の男に言う。

「なんじゃあそりゃあ。おい。しっかり頼むで?
 まあええわ。で、十六夜てえと・・・霊零のところのか。手強いな。
 ま、その為にお前さんら雇った訳なんやけどな。まああれや。
 とりあえず死んでもええから次はそいつから情報抜き取ってきてくれや」
銀髪の男は唾を飛ばしながら言う。
「で、灰被りさん」
そう言って銀髪の男は顔を猫を模した仮面の男の方へ視線を移す。
「今日奴等と政府の狗とかがドンパチやりあっとるやしいんやけど、ちょいと様子見に行ってきてくれ」

「・・・わかりました」
嘘吐きと呼ばれた猫を模した仮面を着けた男はそう言った。

「正直言って今死なれると困るんや。どっちが殺られるにしても。
 


 ・・・利用できるもんは、とことん利用せえへんとな。
 ま、その後くたばろうがどうなろうが知ったこっちゃはあらへんけど」




「・・・利用できるものは利用しないと、か」
再び、庭。猫を模した仮面を着けた男は呟いた。月明かりを仰ぎながら。
「確かにその通りだね。君もそう思わない?」
箒を持ち、猫を模した仮面を着けた男は、黒い仮面の男に向かって言う。

「さあ、どうだろうな」
黒い仮面の男は素気なく返す。

「何だか嬉しそうだね。何で?」
箒を持った男は更に問う。

「さあ、何故だろうな」
男は再び素気なく返す。

「・・・つれないね」



箒を持った男はくるり、と黒い仮面の男に背を向け歩き出す。

「さて、僕は少し滑稽な喜劇でも見に行くとしようかな。



 ・・・銀嶺一家の為に」



そう言うと箒を持った男は歩いていってしまった。




「・・・まるでペテン師だな」
黒い仮面の男が、彼の背を見据えながらそう言ったのは果たして彼に聞こえただろうか。



___某病院4階、412号室。



絶望を前にしているというのに、今の俺の心境はすべからく『憤怒』。
敵の傲慢不遜な態度に対しての『憤怒』。
仲間を倒されたことに関しての『憤怒』。
数日前の約束さえ守ることのできない自分に対しての『憤怒』。
今の一瞬の顛末を、見ている事しかできなかった自分への『憤怒』。

「・・・やめだ」

俺は、そう言って『村正』とハンドガンを構える。



「確保するのは止めだ。







 ・・・今ここで、ぶっ殺す!」


「!?」


俺は十六夜の懐に入り込み、剣戟を連続で、息をつかせる暇も与えず叩き込む。
十六夜は一瞬驚いたような表情を見せたが、剣戟を爪を模した刃で弾く。
背後から、龍我がナイフで俺に斬りかかる。
が、それより早く俺は龍我にハンドガンで爆炎の弾丸の嵐を叩き込む。
龍我は右上半身と左足を吹っ飛ばされる。
十六夜が爪を模した刃を振りかぶる。
俺はハンドガンを撃った反動を利用して十六夜の腹に肘打ちを喰らわせる。
一瞬隙ができる。
『村正』を火炎と同化させて、十六夜に斬りかかる。
十六夜は体勢を低くして俺の一撃を潜り抜け、間合いを取り、体勢を立て直す。

・・・想像以上に体が動く。

さっきこいつは反応できないほどの速度で攻撃を繰り出してきたはずだが・・・。

「・・・成程」
不意に十六夜が言う。
「その心の強さ・・・厄介ですね」
「あ?」
「先程貴方の心に絶望の種を植え付け、心を無防備の状態にしたはずだというのに・・・
 まさかその状態から自身の力で復帰しようとは」

「何言ってんだお前・・・」






迂闊だった。



次の瞬間、俺は十六夜の凶刃に貫かれていた。



「・・・がはっ・・・」

畜生、シャレにならねえほど痛え。

「恐らく貴方のその反応、私の攻撃に反応できなかった要因は『速さ』と勘違いしているようですが
 残念ながら、はずれです」

十六夜は俺の頭を掴み、刃を抜く。



「・・・私の能力は『人心操作』。人の恐怖を、油断を支配する。
 貴方が私の挙動に反応できなかったのは速さが故ではない・・・
 意図的にあなた方の心に『虚』をつくり、それを突いていただけの話」

「人心・・・操作・・・!」

「・・・しかし、その絶望を破るとは侮れないですね。

 ・・・認めましょう。貴方は強い。



 ・・・だからこそ、この場で貴方を終わらせることにしました」

背筋に寒気が奔る。

「何をする気だテメエ・・・!」

嫌な予感がする。






「貴方の心を完全に破壊させていただきます」

何か、嫌なものが俺の心の中に入り込んできた。






やめろ。





何をする気だ。






やめてくれ。





入ってくるな。






壊すな。






俺の手が、十六夜に向かって伸びていくのが見えた。






でもおれのてはそのつぎのしゅんかんちからなくだらんとたれた。





「一馬君ッ!!」

くいながさけぶのがきこえた。
























そしてせかいはまっしろになった。