紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第八話「不死の龍は断頭台」#6



ついこの間、セルシオと渓の二人と戦った時、奴の強者の気配には心底驚かされたもんだ。
しかもそれを普段隠しているんだから、油断も隙もない。

つい先程俺に上半身と下半身を分断された男、龍我もセルシオとほぼ同等の強者の気配、
そして幾つもの敵を葬ってきた正に『断頭台』と呼ぶに相応しい雰囲気を放っていた。
恐らく一対一なら、切断されていたのは俺の方だろう。

そう、両者共それほどまでに圧倒的な強者だったことは言うまでもない。
恐らく彼らが裏社会のトップクラスに位置する強者たちだと、






・・・そう、錯覚していた。



夕陽は暮れ、闇が舞い降りた、壁は吹っ飛び、焦げた後、切り傷が目立つ病室の中。
俺達はその幻想を幻想と、錯覚を錯覚と自覚させるほどの雰囲気を放つ圧倒的な強者・・・

・・・霊零十六夜、そう星一に呼ばれた男の方を向いていた。
そして、戦慄していた。

「星一さん、この人は一体・・・?」
斗夢は星一に訊いた。



「・・・日本の一大クリアマフィア、『霊零組』の頭領にして・・・一国を滅ぼしたと噂される男、
 霊零十六夜、コードネームは『血雨月』だ」
「国を・・・!?」



「・・・胴体両断の上に、切り口を焼かれて再生すらも封じられましたか・・・」
「!?」
音も無く、十六夜は龍我の目の前に立っていた。

・・・そして俺達がそれに気付いたのは、奴が喋った後。

「じゃかましい、何しに来た」
龍我は十六夜を見上げ、睨みつけながら言う。

「ちょっと計算外の事が起こりましてね・・・。セルシオ=ライクラインと夜桜渓がやられました」

「!?」

・・・馬鹿な!
今、何て・・・?

「・・・死んだのか?」
一瞬、予想外といった表情を浮かべた後龍我は訊く。
「いいえ、生きています。尤も、恐らく相手の実力からしてあえて殺さなかっただけでしょうが」
十六夜は淡々と言う。

「・・・つまり、そいつを仕留める方が先決と?」
「その前に、その男に関する調査です。我々の計画を破綻させられかねないので」

「・・・わかった。ならさっさとしろ」
「言われなくても」






本当に一瞬だった。
十六夜は爪を模した刃渡りの長い刃物で、龍我の首を刎ねた。

「え・・・!?」

無論俺達は状況をのみこめないまま驚愕した。

が、俺達は次の瞬間更に驚く。



龍我の首ははねられ、転がり・・・






そして、一瞬で首の切り口から体が生えてきた。

「!?」

「・・・相変わらずの再生能力で安心しましたよ」
「当たり前だ。俺をなめるな」

そしてゆらり、と龍我は立ちあがった。

「・・・では、行きましょう。これ以上ここにいる意味は無い。
 ・・・彼らは私達の弊害には成り得ない」
ちらり、とこちらを見て十六夜は言い、部屋の外へ向かおうとする。






「待て」

「・・・・・?」

俺は十六夜達を呼び止める。

「それはどういう意味だ」

そして、問う。

「どういう意味だも何も、難しい事は言ってませんよ。
 ・・・貴方達は弱いと、そう言っただけです」






「ふざけんじゃねえぞ」

正直、勝てる見込みとかどうでも良かった。

「そこまでなめられて、黙って引き下がれるかよ」

『大太法師』の情報のこともあったが、それよりも。






「アンタはここでぶっ倒す」

その見下したようなもの言い。気に食わねえんだよ。

俺は『村正』とハンドガンを構える。



「あたしの台詞をとらないでくれる?」
焔は間接剣を構える。

「どの道戦うんだから、別に今やっても変わりは無いよね?」
斗夢はリュックからぬいぐるみを幾つか取り出す。

「【『大太法師』の情報を手に入れるチャンスだ。逃すわけにはいかない】」
破魔矢は懐から針を数本取り出す。



「・・・やれやれ、面倒だ。早く帰って、ディナーを嗜もうと思っていたのに・・・」
ふー、と溜め息をつき、十六夜は言う。



「しかし・・・空腹は最高のスパイス・・・そして何より・・・
 生かしておいても、殺しても変わりはありませんね。



 ・・・少し、貴方達がどの程度なのか観察させていただきましょうか」

十六夜がそう言うと、龍我はナイフを拾い上げ構え、



十六夜は、惜しみなくその殺気を披露した。






「・・・戦ってはいけない・・・!」

その瞬間の杙菜の小さな呟きを聞き流してはいけなかったと、俺はその時気付かなかった。

           第八話・完