紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第八話「不死の龍は断頭台」#2



___とある大量殺人現場。

「・・・よく私だとわかったな」
血の池の中に佇む白金の髪の美少女・・・鈴瀬は無表情のまま、
自身をその深紅と漆黒のオッドアイで睨みつける美少年・・・紅に言う。
「分かって当然だ。素顔を見るのはこれが初めてとはいえ・・・





 五年前から姿が変わっていないんだからな、『最高の成功例』よ」



「・・・皮肉にしか聞こえないな、『失敗例』。
 それで、何の用だ?自ら首を差し出しに来たのなら、直ぐにでも剣の錆にしてやる」
鈴瀬はそう言うと仮面を着ける。
「それはこっちの台詞だ、と言いたいところだが・・・
 それはまた今度にしてやる。今日俺達が来たのは別の用事だ」
不意に、隼が言う。
「・・・別の用事?」
鈴瀬は訊き返す。



「籐堂紫苑、コードネーム『紫電』・・・いや、

 実験体42号『紫電スパイダー』について、だ」

「・・・・・!」
紅の口から出たその名を聞いた途端、鈴瀬は仮面を外し妖しい笑みを浮かべながら言った。





「・・・その話、詳しく聞かせてもらおう。

 実験体74号『紅水鴉』」



___某病院4階、412号室。

俺は『村正』の切っ先、ハンドガンの銃口を黒衣銀髪の男に向け、気を張り詰めていた。
そのウワサの黒衣銀髪の男はこちらを向いたまま身動き一つしない。
だがそれでも、この間のセルシオ達と同等、或いはそれ以上の使い手であることは伝わってきた。
強者には共通して特定の雰囲気が備わるみたいだ、
とか呑気に考えてる場合じゃないよね。

「・・・蜘蔵さん、餡子さんを連れて逃げといてくれ」
俺は蜘蔵に言う。

「・・・わかった」
蜘蔵は俺の言葉に頷き、餡子もまた病室のドアへと駆け寄る。






その刹那。
どす黒い殺気と共に『刺客』が目にも留まらぬ速さで餡子達を仕留めんと駆け、
そして『刺客』のナイフは・・・






「させねえよ!!」

俺の『村正』に弾かれた。

「!?」
『刺客』は弾かれたのが予想外だったようだが、こっちはその一撃の重さが予想外だよ。
畜生、重い。これ『村正』じゃなかったら折れてるぜ。

だが俺は全力で踏ん張り、何とか持ちこたえる。

「二人とも、今の内に早く!」
「ああ!」
そう言うと蜘蔵と餡子は病室の外へと駆けていった。

「・・・予想外だな。少しは付け入る余地のある馴れ合いが展開されると想像したが」
『刺客』が言う。
「まあ、逃げたところで関係ねえ。どうせ仕留めるからな・・・

 お前を八つ裂きにした後で」

そう言うと『刺客』は二本目のナイフを素早く懐から取り出し、俺の喉笛を切り裂こうとする。





が、次の瞬間俺の命を停めようとした『刺客』の腕は赤い軌道を描き、宙に舞う。

「!?」

「私がいる限り、そんなことはさせない」
杙菜が言った。

「私の能力は『切断』。どんなに厚い鉄の壁でも、どんなに遠い標的でも切り裂く不可視の刃。
 ・・・もう手段は選ばない。あなたが屈服して、情報を吐くまであなたを切り刻んでやる」



凛とした表情で杙菜は言う。その覚悟に満ちた眼差しに曇りは見れなかった。

そして一抹の安堵と共に、俺は確信した。






大丈夫。やっぱ杙菜は敵じゃない、と。





「・・・ふん。自分から手の内を晒すなんてな。
 いいぜ、俺も見せてやるよ。





 俺の能力と、『絶望』を」



そう言うと同時に、『刺客』の斬りおとされた腕の断面から一瞬で新しく腕が生えてきた。



「!?」
「な・・・!?」

俺も杙菜も、一瞬目を疑った。






「・・・俺の能力は『超速再生』だ」
そう言うと『刺客』は、更に懐から新しいナイフを取り出した。