二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.110 )
日時: 2013/09/15 13:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 『炎上孤軍アーミーズ』こと火野亜美対『深謀探偵シャーロキアン』こと和登栗須のデュエル。
 シールドの枚数では亜実が四枚、栗須が二枚と、亜実が優勢だ。だが栗須の場には《エメラル》と、《偽りの羅刹 ミスディレクション》がいる。亜実も《アクア・スーパーエメラル》と《腐敗電脳ディス・メルニア》で牽制しているが、それもいつまで持つか分からない。
 そして、栗須のターン。
「《シンカイドーベル》召喚。これで僕の召喚するコマンドのコストは1軽減される。さらに《ライフプラン・チャージャー》を発動」
 山札の上から五枚を確認し、うち一枚をつかみ取る栗須。その表情は少しだけ緩んでいた。
「これだ。《偽りの羅刹 アガサ・エルキュール》を手札に加え、ターンエンド」
「ちっ。こっちがクリーチャーを出すか呪文を唱えるかすると、シールドから光のデーモン・コマンドを出すか呪文を唱えられるあいつか。出されると面倒だな」
 栗須のマナはそれなりに溜まっており、《シンカイドーベル》もいる。次のターンには普通に召喚することも可能だろう。もし出されれば、相手のシールドが残り二枚とはいえ召喚や呪文の詠唱を躊躇ってしまう。
「なら、出される前に叩き落とす! 呪文《ゴースト・タッチ》! お前の手札を一枚墓地へ!」
 どこからともなく現れた亡霊が栗須の手札のうち一枚に触れる。するとそのカード——《アガサ・エルキュール》は、はらりと墓地に落ちていった。
「さらに《インフェルノ・サイン》も発動! 墓地から《爆裂マーズ・ギル・ヒドラ》を復活させる!」


爆裂マーズ・ギル・ヒドラ 火文明 (6)
クリーチャー:フレイム・コマンド/エイリアン 6000
スペース・チャージ:闇
SC—クリーチャーを1体、自分の墓地から手札に戻す。
W・ブレイカー


「これで闇のカードをマナチャージするたび、墓地からクリーチャーを回収できる。《ディス・メルニア》でシールドブレイク!」
 ブロックされない《ディス・メルニア》は、《シンカイドーベル》をすり抜けて栗須のシールドを粉砕する。これで残り一枚だ。
「ふん、単調な動きだな。僕のターン《アクア・スーパーエメラル》を召喚。シールドと手札を入れ替え《シンカイドーベル》も召喚だ。《エメラル》で《ディス・メルニア》を攻撃!」
 ここで栗須は、《エメラル》に攻撃を指示する。亜実の場にも《アクア・スーパーエメラル》がいるので、ブロックされて破壊されるのが関の山だが、
(《ミスディレクション》による攻撃を確実に通すためか? シールを増やされるのも厄介だ、《ディス・メルニア》を犠牲にすれば、《スーパーエメラル》で《ミスディレクション》の攻撃を防げる。それにこっちの場には《マーズ・ギル・ヒドラ》がいるから、クリーチャーの回収は容易。ブロックしないでおくか)
 結局、亜実は《エメラル》の攻撃を通し、《ディス・メルニア》と相打ちさせた。
「なら、《ミスディレクション》でシールドブレイクだ!」
「《スーパーエメラル》でブロック!」
 栗須のシールドは残り一枚、一気に押し切りたい亜実からすればシールドを回復されなくない。
「あたしのターン。まずは手札の《地獄門デス・ゲート》をマナに置き、スペース・チャージ発動。《ディス・メルニア》を回収」
 《マーズ・ギル・ヒドラ》のスペース・チャージで、闇のカードをマナに置けば墓地のクリーチャーを手札に加えられる。これで序盤に相手を道連れにしたスレイヤーを回収するのが目的だ。
「さらに呪文《リバース・チャージャー》を発動。二体目の《ディス・メルニア》を手札に加え、チャージャー効果で発動後このカードをマナへ。さらにスペース・チャージが発動し《ディス・ドライブ》を回収だ」
 さらに、
「《ボーン・おどりチャージャー》で山札の上から二枚を墓地に送り、チャージャー効果でスペース・チャージを発動。二体目の《ディス・ドライブ》を回収し、《ディス・メルニア》を召喚!」
 一気に手札を増やし、攻めの姿勢を顕著に表す亜実。
「《マーズ・ギル・ヒドラ》で最後のシールドをブレイクだ!」
「《アクア・スーパーエメラル》でブロック!」
 栗須の場にはまだ《シンカイドーベル》が二体おり、守りは固い。しかしスレイヤーを多用する亜実が相手では、時間の問題だろう。
 栗須のターンがやって来る。この時は防戦一方となっている栗須だが、彼はどこか不敵な笑みを浮かべ、焦りを見せない。
「数多くのスレイヤー、チャージャー呪文、そして《マーズ・ギル・ヒドラ》」
 唐突に、栗須は今までの亜実のカードを並べ立てる。
「他にも細々とした要素はあるが、大まかにはこの三つ。この三種のカード、特に《マーズ・ギル・ヒドラ》が、貴様のデッキの中核と推理しよう」
「ふん、またお得意の推理か……だったらなんだ」
「《マーズ・ギル・ヒドラ》は確かに強力なクリーチャーだ。マナチャージだけで墓地のクリーチャーを回収でき、チャージャー呪文と組み合わせればその効力は跳ね上がる」
 事実、亜実は《リバース・チャージャー》で二体ものクリーチャーを回収し、《ボーン・おどりチャージャー》で擬似的な山札からのサーチを行っていた。
「だがそれらの大元となっているのは墓地だ。墓地にカードがなければ、大して怖くもない」
「いつまでも御託を並べるな。なにが言いたい?」
 痺れを切らしたように亜実が言うが、それに対し栗須は肩を竦める。
「やれやれ、少しは推理したらどうだ。とはいえ答え合わせに時間をかけるのも億劫だ、実際に見た方が早いだろう」
 と言って、栗須は手札から一枚のカードを抜き取った。
「出でよ《サイバー・N・ワールド》!」


サイバー・N・ワールド 水文明 (6)
クリーチャー:サイバー・コマンド 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーは自身の手札と墓地のカードをすべて山札に加えてシャッフルする。その後、それぞれ、5枚カードを引く。
W・ブレイカー


「なっ……!?」
 手札と墓地をリセットする、《サイバー・N・ワールド》。単純な手札補充をするにしても、相手も手札が五枚になるため、ハンドアドバンテージを広げることはできない。しかし亜実のように墓地を利用する相手にならば、その能力は実際以上の効力を発揮する。
「効果で互いに墓地と手札をすべてデッキに加えシャッフル、五枚ドロー……そして、《魂と記憶の盾》を発動、《ディス・メルニア》をシールドへ!」


魂と記憶の盾(エターナル・ガード) 光/水文明 (3)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
バトルゾーンにある、進化ではないクリーチャーを1体選び、裏向きにして、新しいシールドとして持ち主のシールドゾーンに加える。


「くっ……!」
「まだだ、《ミスディレクション》で《マーズ・ギル・ヒドラ》を攻撃!」
 次々と消されていく亜実のクリーチャー。墓地も手札もリセットされ、形勢が逆転してしまう。
「まずい、とにかく《ミスディレクション》をなんとかしなければ……あたしのターン、《電磁翔天ピピッピ》と二体の《襲撃者ディス・ドライブ》を召喚! 《ディス・ドライブ》で《ミスディレクション》を攻撃!」
 二体の《ディス・ドライブ》が《ミスディレクション》に特攻をかける。しかし、その攻撃は通らない。
「《シンカイドーベル》でブロックだ!」
 二体の《ディス・ドライブ》の攻撃は、二体の《シンカイドーベル》が防ぐ。互いに同名クリーチャー二体が墓地へと落ちる。
「……それで終わりか?」
 《ディス・ドライブ》の特攻も通じず、亜実のクリーチャーは《ピピッピ》のみ。シールドの枚数で言えば亜実が五枚、栗須が一枚と、亜実が勝っているのだが、もうペースは完全に栗須のものになってしまっている。
 しかもこの時、栗須は亜実を絶望に叩き落とすことのできる切り札を引き当てた。
「……! ここで来たか」
 手札を確認したのち、マナに視線を落とす栗須。《腐敗無頼トリプルマウス》や《ライフプラン・チャージャー》を使用していた栗須のマナは、このターンで10マナになる。
「確か《アクア・スーパーエメラル》でシールドを入れ替えていたからな、S・トリガーを仕込んだ可能性もある。ここは出し惜しまずに行くべきか」
 ぶつぶつと呟く栗須。傍からはただ熟考しているようにしか見えないが、亜実は彼が今正に出さんとするカードに対し、大方見当がついていた。
(まずい、ここで“あいつ”を出されると——)
 しかし相手は、亜実の事情を考慮してはくれない。栗須はもちうるマナをすべて使い切り、今しがた引いたカードを手にする。
 刹那、怪しげな霧が立ち込めた。白い靄のような霧と、黒い煙のような霧。
「光臨せよ! 未知なる侵攻者よ! 我が命に従い、偽りの力を持って、真実を導きださん!」
 霧は少しずつ収縮し、一つの形を形成する。しかしその形は、どこか不安定なまま。
 不可解で不明瞭、未知なる存在が今、ここに現れる。

「召喚——《偽りの名 シャーロック》!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.111 )
日時: 2013/09/15 17:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

偽りの名(コードネーム) シャーロック 光/闇文明 (10)
クリーチャー:アンノウン 23000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、サイキック・クリーチャーをすべて破壊する。
誰も、サイキック・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。
Q・ブレイカー
バトルゾーンにあるクリーチャーを相手が選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。


 現れたのは、異次元の力を封じる策略のアンノウン、《シャーロック》。
「っ、相変わらず理解できないな……多少のマナブーストは入っていても、そのデッキに《シャーロック》は合わないだろうに……」
「僕はかの名探偵、シャーロック・ホームズを敬愛している。それと同じ名を冠するこのカードを入れてもおかしいことはない。他人にデッキ構築についてとやかく言われる筋合いはないな、しかもそれが、デュエルで負けている相手ならなおさらだ」
 痛いところを突かれたというように呻く亜実。
 直後、栗須のクリーチャーによる猛攻が開始される。
「少し長引きすぎたな、あまりに冗長になる推理は良いものではない、これで終わらせるぞ。《ミスディレクション》と《サイバー・N・ワールド》で攻撃!」
 最初に《ミスディレクション》のW・ブレイクが炸裂し、亜実のシールドが削られる。だが、
「S・トリガー! 《デーモン・ハンド》及び《めった切り・スクラッパー》! 《ミスディレクション》と《サイバー・N・ワールド》を破壊!」
 《アクア・スーパーエメラル》で仕込んだS・トリガーを発動させ、追撃を阻む。だが《シャーロック》は選ばれないため、破壊できないのが痛いか。
「とりあえずこのターンは凌いだ……だが」
 栗須のシールドは残り二枚、場にもシャーロックが一体だけ。にもかかわらず、亜実は劣勢を感じている。
(あたしの場も《ピピッピ》しかいない、シールドは三枚だが、うち一枚は《ディス・メルニア》で、残りのシールドにもS・トリガーはあるか……)
 《シャーロック》はQ・ブレイカー、三枚のシールドも、一撃で消し飛ばされる。
「ともかく、殴り手を増やしておくか。《セブ・コアクマン》を召喚、さらに《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚」
 《コアクマン》で手札を補充し、《ジャニット》手数を増やす亜実。
「さらに、《ピピッピ》でシールドブレイク!」
 破壊される栗須のシールド。これで残り一枚。次のターンに《ピピッピ》が殴り返されても、そのまま攻め切れる。
 と、思うのは些か甘い考えだ。
「僕のターン。やはり君の推理は甘い、《虚構の支配者メタフィクション》を召喚」


虚構の支配者メタフィクション 光文明 (6)
クリーチャー:デーモン・コマンド 6500
ブロッカー
相手が呪文を唱えた時、呪文を1枚、自分の墓地から手札に戻してもよい。
W・ブレイカー


「さらに呪文《ミステリー・キューブ》……来たぞ、二体目の《メタフィクション》だ」
「っ、ブロッカーが二体……!」
 一気に攻め入ろうと思っていた亜実だが、その考えは崩されることとなった。ブロッカーが二体も並んでしまえば、どうしたって攻めきれない。
「次のターン、確実にとどめを刺してやる。《シャーロック》でQ・ブレイク!」
 一瞬で吹き飛ばされる亜実のシールド。その中に、S・トリガーはない。
 亜実のシールドはゼロ、アタッカーこそ三体いるが、栗須の場にはブロッカーの《メタフィクション》が二体おり、さらには選ばれない《シャーロック》まで存在している。
 このターンで決めなければ確実に亜実の敗北。とはいえ、それで亜実が失うものがあるとすれば、そういうわけでもない。プライドの問題はあっても、そもそもの地位は栗須の方が上なのだ。ある意味、負けても仕方ないと言うことはできる。
 だが、
(……負けて得るものなんてなにもない。負ければただ失うだけ、『神話カード』も、プライドも、そして、強さも……それは嫌だ)
 沸々と何かが込み上げてくる。怒りとも憎しみとも違う、熱く煮え滾ったそれは、亜実の中で燃えるように爆発する。
「負けられるかってんだ! あたしのターン!」
 このターンで決めなくては負ける。逆に言えば、このターンで決めれば勝てるということだ。そのためには《メタフィクション》を排除するか、このターンで攻撃できるアタッカーを増やすかの二択。
(だが、除去呪文は手札にはない。スピードアタッカーを出すにしても、《ディス・ドライブ》は墓地だ。召喚はできない)
 そう、“召喚”は。
「みじめだな、最後の最後でそんな虚勢を張るか。証拠を突きつけられた犯人だって、もっと潔い。それとも、このターンで逆転できるというのか? だったら証拠を見せてほしいものだ」
「ああ、構わない。そんなに見たいなら見せてやる、これであたしの勝ちだ。《鬼人形ボーグ》を召喚! そして——」
 まず最初に出されたのは《鬼人形ボーグ》。勿論、このクリーチャーが逆転に繋がるわけではない。
 だが亜実は。続けて手札からもう一枚のカードを抜き取り、《鬼人形ボーグ》の上に重ねた。

「拡大せし異世界の侵略者よ、死したものへ鞭を打て! 蘇りし数多の配下を率い、愚鈍な狩人、傲慢な未知を制圧せよ! 《魔水晶スーパー・ディス・リバイバー》!」


魔水晶スーパー・ディス・リバイバー 水/闇文明 (7)
進化クリーチャー:リキッド・ピープル/ゴースト/エイリアン 9000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化—自分の水または闇のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のクリーチャーを2体、自分の墓地から選び、バトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー


「! 《スーパー・ディス・リバイバー》だと……!?」
 ここで進化クリーチャーを出されるだけでも、栗須としては苦しい展開だ。加えて《スーパー・ディス・リバイバー》の能力が、さらなる追い撃ちを駆ける。
「《スーパー・ディス・リバイバー》の効果発動! 甦れ《ディス・ドライブ》!」
 《スーパー・ディス・リバイバー》の効果は、墓地のコスト3以下のクリーチャーを二体、復活させること。それによりスピードアタッカーの《ディス・ドライブ》が二体とも復活してしまった。
 これで亜実の場のアタッカーは六体。いくら栗須にブロッカーがいても、残りシールドが一枚では防ぎきれない。
「終わりだ! 行け《ディス・ドライブ》!」
 二体の《ディス・ドライブ》が栗須のシールドへと特攻をかけ、最後のシールドが割られる。
「っ、まだ終わらない! S・トリガー発動! 《ハピネス・ベル》!」


ハピネス・ベル 光文明 (6)
呪文
S・トリガー
自分の山札の上から2枚を裏向きにして、それぞれ別の新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加える。
次の自分のターンのはじめに、自分のシールドを2枚手札に加える。ただし、その「S・トリガー」は使えない。


 決死のS・トリガーでシールドを二枚増やす栗須。だがその壁では、まだ亜実の軍勢の方が多い。
「二枚シールドを増やした程度じゃ、あたしは止められない! 《スーパー・ディス・リバイバー》でW・ブレイク!」
「《メタフィクション》でブロックだ!」
「だったら《ディス・ドライブ》でブレイク!」
 亜実のアタッカーは残り三体、対する栗須のブロッカーは一体、シールドも残り一枚だ。
 しかし、割られた栗須のシールドが、光の束となって収束する。
「S・トリガー発動! 《クリスティ・ゲート》!」
 発動されたのは、まさかの《クリスティ・ゲート》。
 ここで栗須が残り一枚のシールドを見て、逆転に繋がるクリーチャーを場に出せるかにかかっているのだが、彼のデッキに入っている《クリスティ・ゲート》で出せるブロッカーはもう出尽くしている。ゆえに、彼がここで亜実の攻撃を止められる確率は限りなく低い。
 仮に《クリスティ・ゲート》が不発だったとして、残り一枚のシールドにトリガーが出ることを信じるにしても、基本的に栗須のデッキは攻め切られる前に制圧するようにして動くため、攻撃を凌ぐタイプのS・トリガーは少ない。
 なんにせよ、栗須にとってこの一枚の呪文が、生死を分けることとなる。果たして、その結果は——

「——出たぞ、僕の勝ちだ! 《偽りの羅刹 アリバイ・トリック》!」


偽りの羅刹(コードファイト) アリバイ・トリック 光文明 (8)
クリーチャー:デーモン・コマンド/アンノウン 8000
バトルゾーンにある相手のクリーチャーがタップされた時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーを1体アンタップしてもよい。
W・ブレイカー


「《アリバイ・トリック》……!?」
 栗須の場にはブロッカーである《メタフィクション》が一体残っている。そこに《アリバイ・トリック》の効果が合わされば、《メタフィクション》はバトルに勝つ限りクリーチャーの攻撃を止めることが出来る。
 そして亜実の場に、《メタフィクション》を超えるパワーのクリーチャーはいない。唯一《メタフィクション》を凌ぐ《スーパー・ディス・リバイバー》はタップ状態で、スレイヤーである《ディス・ドライブ》も攻撃済み。
 これで完全に、亜実は手出しができなくなってしまった。もうシールドのない栗須に対し、その攻撃は届かなくなってしまった。
 そしてシールドはゼロ、ブロッカーもいない亜実に、未知なる存在が襲い掛かる。

「《偽りの名 シャーロック》で、ダイレクトアタックだ——!」



「……負けた、か」
 気付けば仰向けになっていた。最後の《シャーロック》の攻撃が相当効いたのだろう、体のいたるところに痛みが走る。
「お、おい! 大丈夫か?」
 誰かが近寄ってくる、夕陽だ。少し前までは敵意を向き出していたのに、今は心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
 夕陽を押し退けながら体を起こし、栗須に視線を動かす亜実。栗須は酷く不愉快そうに、熱意が冷めてしまったかのようにため息をつき、踵を返した。
「……興がさめた。『昇天太陽サンセット』、今日のところは退く。デッキの中身もばれてしまったしな。だが、僕に限らずお前は『神話カード』を持つ限り、様々な敵に狙われることだろう。精々、守り通すことだ」
 そう言い残して、立ち去った。
 興ざめ。いつもどこかエンターテイメント性を求める彼らしい理由だった。なんにせよ、夕陽としては無益なデュエルをすることがなくなり、安堵しているだろう。
(しかし、負けたな……思ったよりも喰らいつけたが、やっぱり負けたか。強い奴とこうして戦うのは、久しぶりだな……)
 ふと亜実は思い返した。自分が【神格社界ソサエティ】などという不穏な集団に属する理由。そのきっかけを。
 そして、独り言のように、呟くように、隣の彼に言う。
「……おい、空城」
「え? あ、なに?」
 少し戸惑いながらも言葉を返す夕陽。その挙動に若干の苛立ちを感じるが、この際気にしない。
「お前、これから先も自分が狙われたり、襲われたりすると思うか?」
「は? さあ……どうなんだろう。さっきの奴もそうだったけど、事情を知ってる人が言うには、僕の『神話カード』は狙われやすいみたいだし、きっとまた僕らを襲ってくる連中は現れるんじゃないかな……?」
 どうやらそこまでは認識しているらしい。ただの高校生にしては切り替え早いなと評価しつつ、次の言葉を紡ぐ。
「なら、もしまた敵が出てきたら、あたしを呼べ」
「? なにそれ? 一緒に戦う、ってこと?」
「どう解釈しようと構わないが、あたしにも戦わせろと言いたい。これはあたしの勘だが、お前はもっと大きな戦いに巻き込まれるだろうからな。もしそうなら、あたしも戦う」
 つっても勘違いするなよ、と亜実は続け、
「あたしはより強い奴と戦い、勝つためにここにいる。人は戦うことで進化してきた。それは実際の戦争でも、“ゲーム”の戦争でも同じだ。勝敗は確かに重要だ、負けたところで得られるものなんかたかが知れてる。だが、それでも戦うことに意義があるんだと、あたしは思っている」
 だから強い敵が現れたら、あたしに戦わせろ。そう言って、亜実は締めくくった。
「……お前、意外といい奴だったんだな」
「だから、勘違いするなって言っただろう。あたしはただ、自分の目的のために言っているだけだ。利害が一致しているだけだ、お前を助けようだなんて微塵も思っていない」
「それでも、結果的にそうなるように、一緒に戦ってくれるなら、凄い助かるよ。僕らもまだ、“ゲーム”については知らないことが多いし」
「いやだから、あたしはあたしとして戦うだけで、一緒に戦うわけじゃ——」
「ま、助けてくれるなら願ったり叶ったりだ。よろしく頼むよ、アミ」
「人の話を聞いてるのかお前は! つーか人の名前を軽々しく呼ぶな!」

 『昇天太陽サンセット』と『炎上孤軍アーミーズ』の同盟関係、なんだかんだと言いつつも、最後には共同戦線を張る彼らの姿は、名軍師《マルス》とその盟友《アポロン》と、どこか被っていた。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.112 )
日時: 2013/09/19 04:19
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夏のイベントと言われ、人は真っ先に何を思いつくだろう。一般的な感性なら高校野球などと言えるだろう、現代に即せばコミックマーケットなども挙がるか。
 勿論、何を思い浮かべようと個人の自由なのだが、言うなればそれらは祭典のようなものである。
 祭典、即ち祭り。夏の祭り。
 あまり意味のない前置きだったが、というわけで、夕陽たちは地域の夏祭りを訪れていた。



 訪れていた、はずなのだが。
「——《守護聖天タース・ケルケルヨ》で攻撃、その際能力で《ケルケルヨ》の下にある《シャングリラ》を場に出して、《シャングリラ》でも攻撃、メテオバーンで《爆竜 GENJI・XX》をデッキの一番下へ。さらにアタックチャンス《無情秘伝LOVE×HATE》を発動。二体目の《シャングリラ》を召喚、そのままダイレクトアタック」
「嘘だろ!? 《シャングリラ》二体とか、防げても後がないって……」
 デュエマをしていた。
「まさか一回戦から霊崎と当たるとは、ついてない……」
 一回戦、という言葉から概ね想像できるかもしれないが、一応説明すると。
 どういうわけか夏祭りでデュエル・マスターズの大会が催されており、このみの提案で夕陽ら四人は出場することになった、というわけだ。
「しっかし、こんな特設ステージまで作ってこんなことするとは、運営はなにを考えてるんだ?」
「さぁ……?」
 適当な椅子に座り、初戦敗退組である夕陽と姫乃は隣り合っていた。まずはこの大会について疑問があるのだが、それを応えてくれる者はいない。
「でも、意外とクラスメイトとかの知り合いも多いね。さっき空城くんと戦ってたのって、霊崎さんだよね?」
「ああ、そうだね。前に見た時は速度の遅いデッキだったから油断してたよ、まさか序盤からマナブーストして、速攻で《タース・ケルケルヨ》から《シャグリラ》を展開してくるとは……」
 そもそも油断などできる相手ではなかったのだが、それでも意表は突かれた。
「そんな時は! やられる前に押し切っちゃえばいいんだよ!」
 と、唐突にこのみが走ってきた。どうやらこちらの対戦も終わったらしい。
「それができたら苦労しないっての」
「お疲れ、このみちゃん。勝った?」
「当然! あと、汐ちゃんも勝ったみたいだよ?」
「流石、御舟はやるなぁ……」
「わたしたちの中で一番強いのって、御舟さんだもんね」
 とかなんとか言っていると、当の汐もこちらへと歩み寄ってきた。
「や、お疲れ、御舟」
「汐ちゃん、今日はかなり気合はいってるねー」
「えぇ、まあ、そうですね。今日はちょっと、どうしても勝たなければいけない理由があるのです」
「へぇ? 御舟がそういうこと言うのって、珍しいな。なにがあるの?」
 普段からクールな汐は勝負ごとに頓着しない、と言うほどでもないが、そこまでがっつくようにも見えない。少なくとも、どうしても勝たなければいけない、という言葉が出て来るとは思わなかった。
 と、その時。
「そこから先は俺が説明しよう」
「うわっ!? 澪さん、いたんですか……?」
「まあな」
 突如姿を現したのは、汐の兄である澪。
「しっかし、今日も今日で女を連れて遊び歩いてるな、主人公。しかも一人は俺の妹ときた。これで浴衣でも着てれば、言い逃れは出来ないな」
「嫌な言い方しないでください」
「両手に持ちきれないほどの花があるのは結構だが、もうすぐ海の家のバイトがあるからな。忘れるなよ?」
「忘れてませんって。というか、なんですか? なにしに出て来たんです?」
「そうだ、汐が大会に出ている理由だったか。まあなんてことはない。俺が頼んだだけだ」
 だからなんだ、と言いたいところではあるが、そう言ってしまうと話が進まないのでとりあえず黙っている夕陽。
「実は、俺の店もこの祭りの露店として出しているんだ。だから汐には、その宣伝も兼ねて優勝してもらおうと思ってな。うちの店は、どうも客の出入りが少ないからな」
「はぁ……そうですか。御舟も大変だな」
「いえ別に、ただデュエルしていればいいだけですから、特に苦もないです」
 素気ない返しだったが、しかし彼女らしいと言えばらしい。恐らく、汐からすれば宣伝はついでなのだろう。
「そういえばうちのおねーちゃんもそんなこと言ってような気がするなー?」
「木葉さんが? っていうか『popple』も露店出してるの?」
「そだよー。たぶん飲み物配ってるんじゃないかな?」
 カードショップと喫茶店、どう考えても夏祭りのムードとは合わないと思うのだが、しかしデュエマの大会が催されている時点でそんなことを気にしても仕方ないのかもしれなかった。
「……このみ先輩、そろそろ二回戦が始まる時間です。急いだ方がいいですよ」
「ん、分かったよ。そんじゃねー、ゆーくん、姫ちゃん、澪にーさん! みんなの分も勝ってくるよ!」
 グッと親指を突き上げてサインを出すこのみ。しかし、それに対する反応は淡泊なものだった。
「……好きにしろ」
「頑張ってね、このみちゃん」
「俺はそろそろ店に戻るか」
 主に夕陽と澪の二人は。
 このみと汐は、三者三様の言葉を受け、ステージへと向かっていった。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.113 )
日時: 2013/09/19 08:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「——で、負けてきたと」
「……うん」
 数十分後、最初の威勢はどこへ行ったのか、しょんぼりした面持ちでこのみが戻ってきた。
 対戦相手はあの零佑で、どちらも速いビートダウンデッキで白熱した試合になると思われたのだが、スピードだけでなくバウンスやロックなどの搦め手も利用する零佑の方が一枚上手で、防戦を強いられたこのみはなす術もなく押し切られてしまった。
「まあ、しょうがないだろ。殴ることしか出来ないお前のデッキじゃ、バウンスとドローを繰り返しながら攻撃するあの人のデッキとは相性が悪い。そういうこともあるさ」
「うー……そうなんだけどさー……」
 同じ速効型のデッキに負け、釈然としない様子のこのみ。
 その時、まだ試合が続行されているらしい会場が、さらに沸き上がった。それにつられ、夕陽たちが目を向けると、
「《ガル・ヴォルフ》進化、《悪魔神ドルバロム》です」
 今しがた、汐が切り札《ドルバロム》を出したところだった。闇以外のカードの存在を許さない《ドルバロム》が出てしまえば、同じ闇をベースにしたデッキでなければまず勝ち目はない。
 相手のデッキは闇文明を入れていなかったようで、そのまま汐が展開した大量のデーモン・コマンドによって一気に押し切り、汐は二回戦も抜けたようだった。
「御舟は二回戦も抜けたか。まあ、《ドルバロム》まで出て来ると、もう勝てる気しないしな……」
「やっぱ汐ちゃん強いなー……なんであんなに強いんだろ?」
「お前と比較するなら、どう考えてもここだろ」
 と言って、このみの頭を小突く夕陽。しかしこのみはその意味に気付いておらず、首を傾げている。
「あれ? 御舟さんの相手って、武者小路さん?」
「は? ……あ、本当だ」
 姫乃がふと漏らした言葉に反応して夕陽も首を回すと、そこには見慣れたクラスメイトの姿があった。
 武者小路仄。白髪に赤目、スレンダーな体型と、アルビノっぽい匂いのする夕陽たちのクラスメイト。夕陽個人としては、どことなく勝ち気だったり上から目線だったりするので、若干の苦手意識を持っていたりする。
「しかし、本当に知り合いが多いな……まあ、大きな祭りだし、当然と言えば当然だけど」
 だが、夕陽としては武者小路仄というクラスメイトがデュエマをしているとは思わなかったので、少々意外ではある。
(いやでも、デュエマの専門学校とか、デュエマを専攻する学校みたいなのもあるらしいし、そんなに驚くことでもないか?)
 とかなんとか思っていると、服の裾を引っ張られた。このみだ。
「ねーねー、ゆーくん。喉かわいた」
「……自分で買ってこいよ。というか、木葉さんも出店出してるんなら、お前が行ってくればいいだろ」
「だってー、おねーちゃんが忙しそうにしてたら、あたしが手伝わなくちゃいけないじゃん。汐ちゃんの試合を最後まで見届けたいじゃん」
「いや、手伝えよ。そして僕だって観戦したいよ」
 要するにこのみは横着したいということなのだが、その意図に気付いている夕陽も頑として動こうとしない。いつもなら最後にこのみが折れるのだが、しかしこの場にいるのはなにも二人だけではない。
「あ、ならわたしが行ってくるよ」
 率先して申し出たのは、姫乃だった。
「いや、いいって。こいつが怠け者なだけだし、こいつに行かせればいいよ」
「ううん、わたしも木葉さんにあいさつしておかないといけないし」
 小賢しいこのみとは対照的に、善人の鑑のような姫乃。そんな姫乃の対応に、このみは目を輝かせていた。
「姫ちゃんありがとー。ほらほらゆーくん、姫ちゃんの心意気をかってあげないと」
「お前、都合のいい時ばっかり……!」
 夕陽としては、このみがすぐ調子に乗るので、姫乃の提案はあまり嬉しくない。しかし彼女の好意を無下にすることもできず、
「それじゃ、いってくるよ」
「ラムネ一本、よろしくね!」
「……飲めればなんでもいいよ」
 結局、姫乃を送り出すことになってしまった。



「えーっと……木葉さん、どこだろう……?」
 飲み物を買いに出た姫乃だが、しかし祭りの雑踏は相当なもので、人の波に揉まれているうちに道に迷ってしまった。
 というより、そもそも『popple』の露店がどこにあるのかが分からない。
「最初に場所を確認しておけばよかったよ……あれ?」
 ふと、姫乃の目に光が当たる。その光はすぐに消えたが、また同じように光が当たり、すぐに消える。
 その光源に目線を向けると、その先は露店のある道からは逸れた林。だがそこから、チカチカと小さな光が瞬いている。
 普通ならそんな光のことなんて気にしない。子供かなにかが遊んでいるのだと思うだろう。しかし今回ばかりは、そうではないと断言できる。
(この感じ……なにかある……?)
 以前戦った教祖と似た感覚、しかし確実に違う感覚。言いようもない気配を感じる。
「…………」
 ポケットの中のデッキケースを確認し、姫乃は林の奥へと歩を進めていった。



「うーん、負けちゃったか……あの中学生、見た目によらず強かったな」
 二回戦に負けてしまった仄は、とりあえず祭りの出店を回っていた。なにも祭りはデュエマだけではないのだ。
「……あれ?」
 先程のデュエルの反省をしつつ歩いていると、人込みの中で見知った顔を見つけた。特別な関わりがあるわけではないが、それなりに名の知れた人物。
 光ヶ丘姫乃だ。
 一学期後半、体調不良で倒れたことがきっかけで、姫乃の名前はわりと知れ渡っている。そのため、一度も口をきいたことがないのだが、同じクラスである仄も自然と顔と名前を覚えていた。
(なにしてるんだろ、あんなとこで……って、え?)
 屋台の前にいるわけでも、どんな店があるかを見ているわけでもない姫乃をなんとなく見つめていると、彼女は林の奥へと進んでいった。
「なにしてるんだか……ちょっと気になるな」
 見て見ぬ振りをすることもできたのだが、幾分かの好奇心と心配、それから直感で、仄も人混みをかき分け、姫乃の後を追うように林へと向かっていった。



 姫乃が林の中を進んでいくと、思いのほか早く、目的のものに辿り着いた。いや、元より目的が何なのかがはっきりしていないため、その言い方には語弊があるか。
 しかしそれでも、姫乃の感じた“なにか”の正体は、判明した。
「あなたは……」
 そこにいたのは、銀髪をショートカットにした美青年。民族的な意匠をしており、どことなく人間味を感じさせない風貌をしている。
「人間、なの……?」
「否」
 絞り出すようにして発した姫乃の言葉に、彼は答える。
「私はパイル。貴様が感じているように、クリーチャーだ」
「パイル、クリーチャー……」
 言われて、姫乃は夕陽たちが言っていたことを思い出す。クリーチャーが実体化する現象のことを。
「パイルって、確かオラクルの……?」
「否」
 姫乃の言葉を、またしてもパイルは否定した。
「今の私は、オラクルなどという烏合の衆に属する者ではない。そもそも私は、貴様らの知るクリーチャーとは別の存在なのだ。私は十二神話の頂点に君臨する“神々”から生み出されたクリーチャー、存在理由も神々のためにある」
「? ……よくわからない」
 まだ“ゲーム”の事情に疎い姫乃、しかもパイルはそれを考慮しているようには思えない。なのでパイルの発言のほとんどが、姫乃には理解できない。
「えっと、じゃあ、あなたの目的は、なんなの……?」
「それは言えんな。私の目的は神々の目的、それを他言することは許されていない。だが、目的を達する手段は教えてやろう」
 言って、次の瞬間、パイルの周囲の空気が豹変する。
「まずは貴様を倒す! そして、『昇天太陽サンセット』を引きずり出すのだ!」
「っ……!」
 パイルのあまりの剣幕に、気圧される姫乃。だが、その時。

「はいストップ」

 パンパン、という手を叩く音と共に聞こえた静止の声。その声に、姫乃もパイルも動きを止め、その声の主を見遣る。そして姫乃は驚いたように目を見開き、パイルは訝しむように目を細めた。
「武者小路さん……!? なんでここに……」
「それはこっちの台詞なんだけどね……まあでも、今はあなたの事情は聞かないでおいてあげる」
 唐突に現れた仄、彼女のやや上から目線の物言いに戸惑う姫乃だが、彼女の言動は頼もしく思えた。
 硬直する姫乃を一瞥して、前に出る仄。それに対し、パイルが口を開く。
「下がれ、人間。貴様のような惰弱なものに用はない。消えろ」
「惰弱とは随分な物言いね。それにしても、《パイル》……クリーチャーが実体を持って現実に存在するなんて、どんな現象?」
「聞こえなかったのか? 私は消えろと言ったのだ、三度目の忠告はない」
「へぇ……なら三度目には、なにがあるの?」
 挑発気味に発した仄の言葉に、パイルは目を閉じ、次の瞬間、カッと見開く。
 そして、仄とパイルの周りの空気が、豹変した。
「……その身で知れ!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.114 )
日時: 2013/09/22 00:25
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「あ……」
 姫乃が状況を認識した時には、もう遅かった。
 パイルは仄を神話空間に引きずり込んでしまい、二人のデュエマが始まってしまった。
「どうしよう、武者小路さんを巻きこんじゃった……」
 一度神話空間に入ってしまえば、デュエルが終わるまで出てこれない。外部から介入することもできなくはないが、姫乃にその力はない。
 だから後は、仄の力を信じるしかない。無事、この神話空間から出ることを、祈るしかなかった。



 パイルと仄のデュエルは、まだどちらも大きな動きは見せていない。
 互いにシールドは五枚。パイルの場には《霊王機エル・カイオウ》。仄の場には《王機聖者ミル・アーマ》と《知識の精霊ロードリエス》。
 そして後攻パイルの10ターン目。
「行くぞ、まずはこいつだ。《封魔のイザナイ ガラムマサラ》召喚!」


封魔のイザナイ ガラムマサラ 闇文明 (5)
クリーチャー:オラクル/グランド・デビル 3000
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト7以下のグランド・デビルを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。


「《ガラムマサラ》……アーク・セラフィムのデッキかと思ったけど、グランド・デビルも入ってるなんて、随分とアンバランスなんじゃない?」
「これが私の戦術だ。なにも知らない小娘に口出しされる言われはないな。ターン終了」
 と言ってパイルは静かに手番を終える。
「じゃあ、私のターン」
 仄は今の手札と引いてきたカードを見て、目を細める。
(どうも手札が良くないな……シールドに埋まってるのならそれでいいけど、このままずっと来なくても困る。ならここは……)
 キーカードを引けないでいる仄は、手札からカードを一枚抜き取る。
「呪文、《反撃のサイレント・スパーク》!」


反撃のサイレント・スパーク 光/水文明 (6)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
S・トリガー
次のうちいずれかひとつを選ぶ。
▼バトルゾーンにある相手のクリーチャーすべてをタップする。
▼カードを2枚まで引く。


「その効果で二枚ドロー!」
「6マナの多色呪文で二枚ドローか。随分と非効率的だな」
「うるさいな、今はこれでいいの」
 パイルの言うように、《エナジー・ライト》の倍のマナを支払って同じ枚数ドローするのはコスト論的にかなり損しているが、それでも手札の悪い今なら致し方ない。
 そしてその選択が功を奏し、仄はこのデッキの核となるカードを引き当てた。
「……どうやら、目的のカードを引いたようだな。だが遅い。私のターン、私自身を召喚だ!」


霊騎のイザナイ パイル 光文明 (4)
クリーチャー:オラクル/アーク・セラフィム 2000
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト6以下のアーク・セラフィムを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。


「さらに《転々のサトリ ラシャ》も召喚! 効果で無色以外をすべてタップ!」
「っ、まずい……!」
 オラクルの第三階級であるイザナイの多くは、自身がタップされている状態でターンを終えることで効果が発動する。
「ターン終了する時、《ガラムマサラ》と私の効果が発動する! 出でよ《魔聖デス・アルカディア》! さらに私を進化元に、《聖帝エルサル・バルティス》!」


魔聖デス・アルカディア 闇文明 (6)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/グランド・デビル 6000
ブロッカー
スレイヤー
相手のクリーチャーが自分のシールドをブレイクする時、そのシールドを手札に加えるかわりに墓地に置いてもよい。そうした場合、そのシールドをブレイクしたクリーチャーを破壊する。
このクリーチャーは攻撃することができない。


聖帝エルサル・バルティス 光文明 (6)
進化クリーチャー:アーク・セラフィム 7000
ブロッカー
進化—自分のアーク・セラフィム1体の上に置く。
W・ブレイカー
相手が自分自身のシールドの「S・トリガー」を使う時、自分の山札を見る。その中から「S・トリガー」を持つ呪文を1枚選び、山札をシャッフルした後、その呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。


「また厄介な……でも、こっちの準備はもう整ってる。私のターン! 呪文《ヘブンズ・ゲート》を発動!」
 手札から光のブロッカーを二体呼び出す呪文《ヘブンズ・ゲート》。その効果で仄が呼び出すのは、
「出て来なさい《偽りの名 オレオレ・ライオネル》《真実の名 タイガー・レジェンド》!」


偽りの名(コードネーム) オレオレ・ライオネル 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/アンノウン 8500
ブロッカー
このクリーチャーが攻撃する時、相手とガチンコ・ジャッジする。自分が勝ったら、「ブロッカー」を持つクリーチャーが出るまで自分の山札の上からカードをすべてのプレイヤーに見せ、そのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。その後山札をシャッフルする。
W・ブレイカー


真実の名(トゥルーネーム) タイガー・レジェンド 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/アンノウン 7500
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分が負けるか中止するまで、相手とガチンコ・ジャッジする。その後、こうして自分がガチンコ・ジャッジに勝った回数、「ブロッカー」を持つ光の、進化ではないクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー


 現れたのは二体の大型ブロッカー。しかも、どちらもさらにブロッカーを展開する能力を持っている。
「まずは《ロードリエス》の効果で、ブロッカーが二体出たから二枚ドロー! さらに《タイガー・レジェンド》の効果発動! ガチンコ・ジャッジ!」
 ガチンコ・ジャッジ一戦目、仄はコスト11《白騎士の聖霊王ウルファス》。パイルはコスト3《ボーンおどり・チャージャー》。
 二戦目、仄はコスト7《聖霊王イカズチ》。パイルはコスト1《転々のサトリ ラシャ》
 三戦目、仄はコスト3《コアクアンのおつかい》。パイルはコスト4《ブレイン・チャージャー》。
 結果、仄はガチンコ・ジャッジに二勝し、《タイガー・レジェンド》の効果が二度発動する。
「手札から光のブロッカーを二体場に出す! 《真実の名 バウライオン》《天門の精霊キバッテ・キャット》!」


真実の名(トゥルーネーム) バウライオン 光文明 (8)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/アンノウン 8000
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、呪文を2枚まで、自分の墓地から手札に戻してもよい。
W・ブレイカー


天門の精霊キバッテ・キャット 光文明 (4)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/アンノイズ 4000
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から4枚を見る。その中から、名前に《ヘブンズ》とあるカードを1枚、相手に見せ、自分の手札に加えてもよい。その後、残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。


「《バウライオン》の効果で《ヘブンズ・ゲート》と《反撃のサイレント・スパーク》を回収。《キバッテ・キャット》の効果で二枚目の《ヘブンズ・ゲート》を手札に加え、《ロードリエス》の効果で二枚ドロー! ついでに《ミル・アーマ》で《ラシャ》を破壊!」
 次々と現れる大型ブロッカー。さらには次に展開するクリーチャーとその手段も引き入れ、攻防共に完璧な布陣を敷く仄。
 しかしパイルは、まったく焦りを見せていない。
「やはりその程度か。私のターン、呪文《リバース・チャージャー》でクリーチャーを回収し、そのまま回収した《封魔バルゾー》を召喚、《オレオレ・ライオネル》を手札に戻す」
「っ、でもまだ《タイガー・レジェンド》と《バウライオン》がいる。このターンでシールドを一気に吹き飛ばしてあげる」
「好きにすればいい」
 とどめまではいけないが、ブロッカーで守りも固めているので、相手の手札が多少増えてもそこまで痛手にはならないだろう。ここは攻めるべきだと思い、仄は総攻撃をかける。
「呪文《反撃のサイレント・スパーク》! 相手クリーチャーをすべてタップ! そして《バウライオン》でW・ブレイク!」
 《バウライオン》の剣が振り下ろされ、パイルのシールドが二枚切り裂かれる。しかしそのうちの一枚に、光が収束した。
「S・トリガー《地獄門デス・ゲート》だ。《タイガー・レジェンド》を破壊!」
「くぅ……!」
「さらに《タイガー・レジェンド》よりコストの低いクリーチャーを墓地から復活させる。蘇れ《バルゾー》、効果で《ロードリエス》を手札へ!」
 一気にアタッカーもブロッカーも削られてしまった仄。これ以上の攻撃は危険だと判断し、そこで攻めることを止め、ターンを終える。
(最初は舐めてたけど、このクリーチャー、強い……!)
 この状況で仄の胸中には、決して小さくない焦りが渦巻き始めたのだった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。