二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.606 )
日時: 2014/10/27 01:47
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)

 ラトリと《グレイテスト・グレート》のデュエルは、かなり《グレイテスト・グレート》の一方的な展開となっていた。
 ラトリにはもうシールドがなく、場には《雷鳴の守護者ミスト・リエス》と、ガーディアンを指定した《光器ペトローバ》。
 一方《グレイテスト・グレート》のシールドは五枚、場には自分自身である《「命」の頂 グレイテスト・グレート》と《神聖麒 シューゲイザー》そして《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》《突撃奪取 ファルコン・ボンバー》の四体だ。
「きっつい……私のターン。とりあえず《音感の精霊龍 エメラルーダ》を二体召喚。手札を二枚、シールドに加えるよ」


音感の精霊龍 エメラルーダ 光文明 (5)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 5500
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のシールドをひとつ、手札に加えてもよい。その後、自分の手札を1枚裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。(こうして手札に加えたシールドの「S・トリガー」を使ってもよい)


 とりあえずシールドを回復させたラトリだが、もうマナがない。このターンはこれで終了するしかないようだ。
 一応《グレイテスト・グレート》がなにもクリーチャーを召喚しなければ、ブロッカー二体とシールド二枚でなんとか乗り切れるが、
『《青銅の鎧》を召喚。《シューゲイザー》で攻撃、能力発動。マナより《黒神龍オンバシ・ラオーン》をバトルゾーンに』
 当然そんな甘いプレイングをするわけもなく、場にはさらにクリーチャーが並ぶ。これで《ファルコン・ボンバー》の効果でスピードアタッカー化したクリーチャーがとどめを刺しに来るが、
「引っかかった! S・トリガー《DNA・スパーク》&《緊急再誕》!」
 ラトリはあえて《シューゲイザー》の攻撃をブロックせず、《エメラルーダ》で仕込んだ二枚のS・トリガーを発動させる。
 《DNA・スパーク》で《グレイテスト・グレート》のクリーチャーはすべてストップ。さらに《緊急再誕》で《エメラルーダ》を破壊し、
「《天運の精霊龍 ヴァールハイト》をバトルゾーンに! これでまたシールドが二枚だよ!」
 しぶとく粘るラトリ。とはいえ《シューゲイザー》がいるので相手クリーチャーはこれからさらに増えるはず。このままではジリ貧だ。
「私のターン! 《エメラルーダ》召喚して、手札を一枚シールドに!」
 これでシールドは三枚。さらに、
「呪文《母なる星域》! 《エメラルーダ》をマナゾーンへ!」
 ここで発動するのは《母なる星域》。ラトリのデッキは進化クリーチャーがほとんどいないデッキだが、しかし進化クリーチャーが核となるデッキなのだ。
 その進化クリーチャーというのが、
「アテナ! 行くよ!」
「了解しました、マスター」
 《エメラルーダ》が星域の紋章に包まれると、それと入れ替わり、一体の進化クリーチャーが現れるのだ。
「守護の力を解き放て! 主を護る盾こそが、すべてを貫く矛となる! 神々よ、調和せよ! 進化MV——」
 星域を経て、守護の力を内包した神話が、今ここに呼び起こされる——

「——《守護神話 エンパイアス・アテナ》!」

 閃光の中より現れた、やや小柄な人型、それも女性型のクリーチャー。羽のような装飾、一枚布で縫製された衣服など、民族的な点が多数散見されるが、同時に目元を覆うバイザー、広範囲を防護する両腕のシールド、翼状に広がったアーマーなど、近代的デザインの装備も混ざっている。
「《アテナ》の能力発動! 私のシールドをすべてオープン!」
 『神話カード』が持つ、CDと呼ばれる三段階に分かれた能力。《アテナ》が持つ三つの能力のうち、最も弱いCD4能力は、自身のすべてのシールドを開くこと。同時に相手の攻撃を誘導することもできる。
 だが、無論彼女の力はそれだけではない。
『今回は光文明の進化元が《ミスト・リエス》《エメラルーダ》《ヴァールハイト》……コスト合計が17なので、すべてのCDが発動します』
「そっか。久し振りだね、君の全力が見られるのは……じゃあ、遠慮せずに行こうか! CD12、発動!」


守護神話 エンパイアス・アテナ 光文明 (8)
進化クリーチャー:メソロギィ/ガーディアン/ジャスティス・ウイング 17000
進化MV—自分のガーディアン一体と光のクリーチャー二体を重ねた上に置く。
コンセンテス・ディー(このクリーチャーの下にある、このクリーチャーと同じ文明のすべてのクリーチャーのコストの合計を数える。その後、その数字以下の次のCD能力を得る)
CD5:自分のシールドはすべて表向きになり、自分のシールドが相手クリーチャーにブレイクされる時、ブレイクされるシールドを自分で選ぶ。
CD9:自分のシールドがカードの効果でシールドゾーンから離れた時、手札、墓地にあるS・トリガーでないカードを一枚、または山札の上から一枚目を新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
CD12:自分のシールドゾーンからカードを使用してもよい(クリーチャーを召喚、呪文を唱える、クロスギアをジェネレート、城を要塞化してもよい)。この効果で使用するカードのコストは、自分のシールドひとつにつき1少なくしてもよい。ただしコストは1より少なくならない。
T・ブレイカー


 刹那、ラトリのシールドが淡く発光する。
「《アテナ》の能力で、私はシールドから《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》を召喚! さらに私のシールドの数は三枚、その数だけコストを軽減するから、4マナで召喚するよ!」
 淡く光るシールドから《ヴァルハラナイツ》が飛び出す。そしてその穴を埋めるように、山札の一番上がシールドとなった。
「さらにカードの効果で私のシールドが離れたから、今度はCD9発動! 山札の一番上をシールドに!」
 これまでで、墓地やマナゾーンからクリーチャーを召喚したり、呪文を唱えたりするカードがいくつか存在している。しかし《アテナ》はマナゾーンや墓地には干渉しない。そこに干渉するのは、闇文明や自然文明の役目だ。
 《アテナ》は《守護神話》。守護の力を司る神話。守護の力——それ即ちシールドだ。
 だが、シールドをただ増やしたり、守る能力ではない。彼女はより多彩に、守護の力を多用に変質させる力がある。守る力ではなく、守りの力あらゆる力に変えることで操る。ゆえに彼女は《守護神話》と呼ばれているのだ。
「《ヴァルハラナイツ》の能力で《グレイテスト・グレート》をフリーズ! さらに今度は1マナで《超過の守護者イカ・イカガ》を召喚! 能力で手札から《時空の守護者ジル・ワーカ》をバトルゾーンに! 《アテナ》の能力で減ったシールドは、山札の一番上から補填するよ!」
 さらにコスト3以下の光クリーチャーが出たことで《ヴァルハラナイツ》の能力が再び発動。《キリュー・ジルヴェス》と《オンバシ・ラオーン》をフリーズさせる。
「次、行くよ! 《アテナ》で《シューゲイザー》を攻撃! さらに《ペトローバ》で《ファルコン・ボンバー》を攻撃!」
『……《メッサダンジリ・ドラゴン》を召喚』
 《グレイテスト・グレート》は勢いを増してきたラトリを止められない。ワンショットキルで決めるデッキゆえに、基本的に一度止められてしまうと、なかなか立て直せないのだ。しかも肝心の《シューゲイザー》がおらず、《シューゲイザー》の能力でマナも手札も消費してしまっている。
「どんどん行くよ! シールドから《ジル・ワーカ》を召喚! 墓地の《エメラルーダ》をシールドに戻してそのまま召喚! 手札をシールドに置いて、その置いた《ヴァールハイト》を召喚! さらに今度は手札から《束縛の守護者ユッパール》と《慈愛の守護者マモリ・タイハッピー》を召喚! 相手クリーチャーをフリーズ!」
 気付けば、ラトリの場は圧倒的だった。1ターンで大量のクリーチャーを展開し、なおかつ相手の動きも封じている。
「《アテナ》で《グレイテスト・グレート》を攻撃! 相打ちだけど、《マモリ・タイハッピー》の能力で私のガーディアンはすべてウルトラ・セイバーだよ。《ユッパール》を代わりに破壊!」
 破壊される《グレイテスト・グレート》。エターナル・Ωで手札に戻るが、
「《ジル・ワーカ》で《オンバシ・ラオーン》を破壊! 《イカ・イカガ》で《青銅の鎧》を破壊! 《ヴァルハラナイツ》で《メッサダンジリ》を破壊! 《ペトローバ》でシールドブレイク!」
 これでグレイテスト・グレートの場は全滅。返しのターン、もはやなにもできない。なにをしたところで、もうどうにもならない。
「私のターン! 《ヴァルハラナイツ》でWブレイク! 《ヴァールハイト》でWブレイク!」
 守るための力を変質させた、《守護神話》の圧倒的攻撃力。主を守るための盾が、相手を殺すための矛となり——

「《守護神話 エンパイアス・アテナ》で、ダイレクトアタック!」

 ——天頂の存在を、貫いたのだった。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.607 )
日時: 2014/10/27 23:30
名前: もとり ◆LuGctVj/.U (ID: m3GYxJXP)


 ≪アテナ≫ってジャスティス・ウイングだったんですか、地味に≪ジャスティス・プラン≫で引ける、かもしれない……!
 などと思ったり思わなかったり。
 ラトリのエセ外国人振りがキャラ作りだったという描写に思わず吹いてしまいました。緊張感あるシーンなのに、なんかキャラ作りとか言われると、やっぱり……!
 それにしても面白い……!
 

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.608 )
日時: 2014/10/28 02:30
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)

 お久し振りです。
 《アテナ》のジャスティス・ウイング設定は実は後付だったりします。一応、翼状のアーマーはありますし、性格的にもジャスティス・ウイングで間違ってないかな、と思いまして。
 後々ジャスティス・ウイングのサポートを受けられると思ってこうしましたが、思ったほどジャスティス・ウイングのサポートがなくて少しがっかりでした。基本的にはガーディアンとして運用していくことになるでしょう。
 一応、これまでにキャラ作りであるというような描写はしてましたし、キャラが崩れているところもたびたびありましたが、明確にキャラ作りと描写したのは今回が初めてですかね。
 なんかラトリって一部では口調が人気らしいですね。最初は本当にキャラ付けのためにつけた口調なのですが。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.609 )
日時: 2014/10/29 00:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)

 ラトリが《グレイテスト・グレート》を倒したことで、この街の騒動は収まった。
 正確に言うと、最初に力の集合体が消失した時点で、街のクリーチャーはすべて消えたらしい。なので《グレイテスト・グレート》が実質的な最後のクリーチャーであったらしい。
 そんなわけで、めでたく今回の事件は解決したのだった。
 とはいえ、この不可解な現象がなんだったのかは分からないままだ。こんなことがまた何度も起こっても困るが、しかしかといって、原因もなにも分からないため、どうしようもないというのが現状である。
 つまり、結局なにも変わらないのだ。ただ、今後もこのようなことがあるかもしれない、という可能性を見出したに過ぎない。
 なお、後に夕陽たちの住んでいた町でも同じようなことが起こっていたことが発覚するのだが、そちらはかなり軽微なもので、何人がかりかで町のあちこちを小一時間ほど駆け回るだけで、完全に収まったらしい。
 今回の事から得られたことは少ない。しかし、なにも得なかったというわけではない。
 今後も同じようなことが起こるかもしれない。そしてラトリが見た謎の影——もしかしたら今回の一件は、彼らに新しい敵が迫っていることの予兆なのかもしれなかった。



「かーんせーい!」
「できたぁ……」
 2月23日、バレンタインデー前日。
 このみと姫乃は『pople』のキッチンにて、達成感に満ちた表情を見せていた。
「見た感じ、今までで一番いい出来だと思うよ。これならゆーくんも一発だね!」
「毒盛ってるみたいだからその表現はちょっと……でも、確かに一番自信作かも」
 あとはこの完成品にラッピングをするだけである。
 姫乃は脇に置いておいた袋からガサゴソと包装紙を取り出す。
「物は完成したし、いよいよ明日だね。汐ちゃん情報によると、ゆーくんもちゃんと準備したみたいだし、あたしのお膳立てもバッチリ!」
「え? 空城くんが、なに?」
「なんでもないよー。姫ちゃんは明日ことだけを考えてれば……って、そうだ」
 このみはなにかを思いついたかのように、ポンッと手を打った。
「ゆーくんのことだし、これを渡すだけじゃ効果薄いかも」
「え……そ、そんなこと言っちゃったら、今ままでの努力全部否定しちゃうよ……?」
「あ、いや、そんなことはないかもだけど、もう一押し、もう一発パンチが必要だよ」
「その言い方だと本当の拳みたいだよ……」
 しかし夕陽と付き合いの長いこのみが言うのであれば、そうなのかもしれない。とりあえず姫乃は、彼女の言うことを聞くことにする。
「それに“この後”のことも大事なわけだし、やっぱそろそろ変化が欲しいよね」
「変化?」
「うん。ゆーくんのことだから自分から変化をつけるなんてしないだろうし、姫ちゃんの方から変わっていかないと」
「え、えっと、でも、どうすれば……」
 このみの言いたいことはなんとなくわかるが、一口に変化と言われても具体的にどうすればいいのか、姫乃にはさっぱりわからない。
 しかしこのみは、ふふふ、と不敵に笑う。
「だいじょーぶ! あたしに考えがあるから。えっとね——」



「……なーんか、今日みんな浮き足立ってるな……」
 夕陽は椅子にもたれ、クラスメイトたちを眺めながらそっと呟く。
 今に始まったことではないが、街一つを巻き込んだ騒動の後でも平気な顔をして登校し、授業を受けるというのは変な気分だった。
「わいわいきゃっきゃきゃと……騒ぐなとは言わないけど、もう少し大人しくしてほしいかも……」
 夕陽の視線の先に映るのは、なにかを渡したり受け取ったりしているクラスメイトの姿。笑い声が絶えないのはいいのだが、その裏でこの世界の終わりを見たかのような狼のような声がする気がするのは、気のせいだということにしよう。
 このクラスだけでなく、学校全体で多くの生徒がそんな調子だった。
(そういえばうちの妹もなんか作ってたな)
 今日がどのような日であるかをちゃんと把握しておけば夕陽にも理解できた現象であるが、この時の夕陽は別のことを考えていたため、そちらに意識が向かなかったのだ。
(……今日だったよな、2月24日——光ヶ丘の誕生日)
 そっと鞄に手を添える夕陽。
 このみに唆され、汐に手伝って貰って選んだが、こうなってくると本当にこれで良かったのかと少し不安になる。
(いやいや、変に意識するなよ僕。いつも世話になってるわけだし、これはお礼を兼ねたお祝いだ)
 なにに対する言い訳化は分からないが、自分にそう言い聞かせる夕陽。
 その時、教室の扉が開いた。
「おーっす、お前ら席つけー、ホームルーム始めっぞー」
 気のないというか、気だるげというか、気の抜けたような声で担任教師の白石が教室に入ってくる。
「まあ言っても連絡事項なんてそんなねーんだけど……お? そういやもうすぐ学年末考査か。まー赤点にならないよう頑張れや」
 白石は適当すぎる中身のない連絡事項を済ませて、もーねーなー、などと言いながら連絡すべきことが書かれているらしい紙をペラペラさせていた。
「あ、そうそう。春永、あとで先生んとこ来てな」
「あたし? よく分かんないけど分っかりました!」
「おーおー、元気だねぇ……んじゃこれでたぶん終わりだし、もー帰っていいよ。解散解散」
 苦笑いを浮かべながらも、やはり適当にホームルームを終える白石。
この適当さ加減に慣れた一年四組は誰も突っ込むことなく、各々が放課後ライフを始めるのであった。
(さて……)
 夕陽もそんなクラスメイトたちに混じって立ち上がる。そしてぐるりと教室を見回して、目的の人物を見つける。
「じゃ、あたしは行くね。姫ちゃんガンバ!」
「う、うん。ありがとう、このみちゃん」
 目的の人物とはこのみ——などではなく、このみが白石に呼ばれる前に二、三言葉を交わしていた人物、姫乃だった。
 このみが教室から出ていくのを確認してから、夕陽は姫乃の元へと歩いていき、
「光ヶ丘——」
「そ、空城くんっ!」
 いつものように声をかけようとしたら、逆にこちらが呼びかけられてしまった。しかも平静を保とうとしているこちらとは違い、向こうはどこか必死というか、気がこもっているようだった。
 やや出鼻を挫かれてしまった感があり、夕陽も思わず勢いを削がれる。
「え、な、なに?」
「その、えっと……と、とりあえずちょっと来てっ」
 姫乃は夕陽の制服の袖をつかむと、それを引っ張りながら教室の外へと出ていく。
 それほど強い力で引っ張られているわけではないが、いつもと様子の違う姫乃に気圧されるかのように、夕陽は抵抗せずになされるがまま、彼女に連れられる。というか、普通に混乱していた。
(なんだなんだ? なんか今日の光ヶ丘、少し変というか、なんかアクティブだぞ? なにがあったんだ? このみの馬鹿がなにか変なこと吹き込んだのか?)
 などと思いながらも、姫乃は速足で校舎を歩いていく。白石のホームルームは適当だがその分終わりが早い、そのためか廊下にはまだ生徒がほとんどいなかった。
「こ、ここでいいかな……」
 姫乃は人通りの少ない、校舎の隅、廊下の曲がり角の陰になっているところまで来ると、その足を止めた。
 そして、夕陽を前にまっすぐ立つと、どこか緊張したような面持ちで口を開く。
「いきなりごめんね。でも、わたし、空城くんに渡したいものと——言いたいことがあるから」
「そっか。僕も光ヶ丘に渡すものと言うことがあるんだ」
 先ほど教室でやられたことの意趣返し——のというほどではないが、姫乃の言葉を抑えて、夕陽が先んじた。
 夕陽は鞄から、先日クリーチャー騒動に巻き込まれながらも商店街で購入した、あるものを取り出す。
「はいこれ。誕生日おめでとう」
 自分でも軽い物言いだと思いつつも、友達同士ならこんなものか、と思い直して、取り出したもの——包装紙やリボンでラッピングされた箱——を姫乃に手渡す。
「あ、ありがとう。わたしの誕生日、知ってたんだ……」
「いやごめん、悪いんだけど、このみに言われるまで全然知らなかったんだ。そのプレゼントを選ぶのも、御舟に手伝ってもらったりして……まあ、日ごろの感謝の印、って意味も込めてさ」
 おめでとう、と再び言葉にする夕陽。少し気恥しくなってきたので、このみやら汐やらの名前も出したりしたが、祝う気持ちははっきりとあるのだ。それは姫乃にも伝わっているだろう。
「……開けていい?」
「勿論」
 姫乃は丁寧にリボンを解き、包装紙を取っていく。そして小さな箱を開けると——
「——リボン?」
 中に入っていたのは、黒いリボンだった。ラッピング用のそれではなく、髪を結ったりする装飾用のものだ。
「こういうのって、どういうものを渡せばいいのか分からなくて……最後には僕のセンスで選んだものだし、大したものじゃないんだけどね」
「う、ううん、そんなことないよっ。すごく、嬉しい……っ!」
「そう言ってくれて安心したよ」
 実際、本当に安心した。なぜなら、
(昔、柚ちゃんにあげたプレゼントとまったく同じ発想だからな……成長しねぇな、僕も)
 ということだからだ。
「じゃ、じゃあ、今度はわたしの、番……これっ!」
 軽い調子で渡した夕陽とは対照的に、バッと勢いよく、そしてなにかを強く思うかのように、姫乃もラッピングされた包みを夕陽に差し出した。
「えっと……僕は誕生日、今日じゃないけど……」
「ち、違うよっ。バレンタインデーの、チョコレートだよ」
「あぁ」
 今更ながら、ようやく合点がいった。だからクラスの連中はこぞって浮き足立っていたのか。妹がキッチンでなにか作っていたのも、大方部活仲間にでも配るつもりだろう。この日が姫乃の誕生日と強く意識していたので、すっかり失念していた。 
「そうか、今日はバレンタインデーだったか、すっかり忘れてたよ。ありがとう、光ヶ丘」
「う、うん……」
 姫乃は包みを渡すなり俯いて、しばし言葉を発さなかったが、やがて、
「あ、あの、空城くん……っ」
「なに?」
「…………」
 呼びかけたと思ったら、また黙ってしまう姫乃。まるでまだ迷っているような、決意が固まっていないかのように言葉に詰まっている。
 しかしやがて、決心したように、顔を上げた。
「あ、あのね、空城くん。そのチョコレート……義理のつもりじゃ、ないよ」
「……?」
 少し言っている意味が分からなかった。少し考えて、近年流行っている友チョコとかいうやつだろうか、と思ったが、確かあれは女子同士で渡し合う場合に使う言葉だったはず。
 そんなトチ狂ったことを思っているのも、後から思えば、この時点で夕陽は察していたのかもしれない。姫乃のことを。ただ、無意識的にその可能性を排していただけなのだろう。だからこその思考だった。
 しかしそんな夕陽の考えなどとは関係なく、姫乃の心中が変わることはない。
「空城くん……ううん」
 いつもの呼び名を言ってから、小さく首を振る。今渡したものが完成した時、このみに言われたことを思い出しながら、姫乃は彼の呼び名を言い直す。
「“夕陽くん”」
 そして、深呼吸して、しっかりと彼を見据えて。今の自分に伝えられる全てを——
「友達としてじゃない。わたしが思う、一人の男の子として、あなたが——」
 ——伝える。







「——好きです」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.610 )
日時: 2014/10/29 00:56
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)

 世界が暗転したようだった。
 しかし頭の中は真っ白だった。
 なにを言われたのか理解できなかった。
 それ以前に言われたことを理解しようとしなかった。
 脳内が混沌としている。
 目の前の友人はなにを言っているのだろうか。

 いや、そもそも——友人という認識で、いいのだろうか?



「…………」
 気付けば、廊下の角で夕陽は一人で立っていた。さっきまでいたはずの姫乃の姿はない。軽く放心していたのかもしれない。
 まだ頭の中が滅茶苦茶な状態だが、一つずつ思い出す。確か、姫乃に誕生日プレゼントを渡そうとして、渡した後に、バレンタインデーということでチョコレートを貰って、そして——
「う……」
 思い出せない。いや、思い出してはいる。思い出しているが、それを脳が言語に変換して認識することを拒否している。
 だが、はっきりと言われたのだ。いくら夕陽が認めなかろうがどうしようが、その事実は変わりない。確かに、姫乃に告げられたのだ。

 ——好きです、と。

「今すぐに返事してくれなくてもいいよ。わたしはいつでも——待ってるから」
 そして、そう言って、姫乃は立ち去ったのだった。思い出した。
「……情っけねぇなぁ、僕……」
 壁にもたれ、夕陽はずるずると膝を折り曲げる。そして、悔やむように呟いた。
「気……遣わせちゃったな」
 姫乃の言葉に対し、なにも言えなかった。それがかえって彼女に気を遣わせてしまったのかもしれない。
「しかも、なにも知らなかったならともかく、気があるって知っててこれだもんな……」
 実のところ、夕陽は姫乃の好意には多少なりとも気づいていた。流石に実際に告げられたら驚いたが、ここ最近の姫乃の挙動から、なんとなく分かっていた。確定的な根拠はないが、感覚として感じていたのだ。
 しかし、そんなこともあり、夕陽はあえて気付かない振りをしていた。いや、気付きたくない、そうではないと思い込んでいたのだ。あくまで光ヶ丘姫乃は友人である、という認識を崩さなかったし、崩したくなかった。
 そんな夕陽の願望が、先ほどの姫乃の言葉と相反し、そして突き崩されたのだ。もう、自分がなにを考えているのか分からなくなるほどにパニック状態である。
 今のそんな自分が情けなく思うし、これから姫乃とどう接すればいいのかも分からない。そもそも姫乃の告白に、どう答えろというのだろうか。
「う……あぁ……」
「どうしたんだ、夕陽?」
 アポロンの声が聞こえる。そこでハッと我に返った。
 さっきまで廊下にいたと思ったが、いつの間にか帰路についていた。考え込んだり後悔したり自己嫌悪に陥ったりしているうちに、帰宅しているという意識が飛んでいたらしい。
 こういう問題を軽々しく他人に振ってよいものかと思う夕陽だが、相手がアポロンなら問題ないだろう。
「なあ、アポロン。君も聞いてたよな、さっきの光ヶ丘の言葉」
「姫乃は夕陽が好きなんだろ? いつものことじゃねぇか。オイラだって夕陽は好きだぞ」
「……ああ、そうか。うん」
 よく分かった。
 ここで夕陽の言う“好き”と、アポロンの言う“好き”に絶対的に隔たりがあることが。
 それが分かった瞬間、夕陽はアポロンに意見を仰ぐことを放棄した。
 となるとやはり、自分で考えなければいけないのだろうか。いや、誰に意見を聞こうと最終的に決定するのは自分だ。それは変わらない。
 別に、夕陽は姫乃が嫌いなわけではない。それこそアポロンの言うように、夕陽だって姫乃が好きだ。しかし、姫乃の告白に応える形で、夕陽の姫乃への思いを告げるとなると——言葉にできない。
 そもそも夕陽は、姫乃とは友人関係でいるつもりであったし、そうありたかった。男とか女とか、そういう関係ではない。友達や仲間、そんな範囲で共にありたかった。そして、それが当たり前であると、自分の周りはそうであると、自分に刷り込んでいた。
 このみだってそうだ、彼女は腐れ縁でありを女として意識したことは過去一度もないと言ってもいい。汐も同様に良き後輩であり、彼女は一度仲違いした十二月の夜に、お互いに先輩後輩の関係でいると宣言したほどである。
 しかし、姫乃はそうではなかったようだ。彼女は夕陽とは相反する思いを秘めていた。それを否定するつもりはないが——ないが。
 否定するつもりはないが、ならどうなのか。分からない。
 また、頭が巡り巡る。
 沸騰したように顔が熱くなり、鍋の中身を掻き回すように頭の中が掻き乱される。そのままシチューでも作れそうだ。
「う、うぅ……」
 いくら考えても、考えが堂々巡りになる。巡って巡って、最も大事なところまで来ると、立ち止まる。
 一歩を踏み出さなければいけないところで踏み出せない。どうしても先に進めない。
 自分が、彼女と相反する思想を抱えている限り、この先には一生進めないのかもしれない。
 つまり、一生答えが出ずに、悩み続けるのかもしれない。
「うあぁー……! うがっ!」
「うわっ! お兄ちゃんなにしてんの!?」
 また、ハッと意識が戻る。
 視界に映るのは黒い二本のなにか——足だ。それを徐々に追っていくと、見慣れた妹の顔が映ってくる。同時に、自分が扉の前で仰向けに倒れていることも理解した。
 どうやら考えに耽っている間に帰宅して、ベッドの上で考え込んでいるうちにベッドから転落。ゴロゴロと転がっているうちに部屋に入ってきた妹と鉢合わせた、ということらしい。
「お前……なんの用だよ」
「ご飯できたから呼びに来たの。今日はシチューだよ」
「……いや、いい。いらない」
 とてもじゃないが、まともなものが喉を通る気がしない。下手に気分を歪ませて吐いたりするのも御免だ。
「? なに、体調悪いの? 病院行く?」
「お前にそういうこと言われるとすげぇムカつくんだが、とりあず放っておいてくれ……」
「ふーん。じゃあ、とりあえずお兄ちゃんの分は残しとくから、食べたくなったら言ってね」
 と言って、バタンと扉が閉まる。
 最近、あの妹は利きわけが良くなった気がする。それは喜ばしいのだが、一方兄はというと、やんちゃな妹にガミガミ苦言を呈していたはずが、今や床に転がって妹と応答するという体たらく。何をやっているんだ自分は、と自問自答したくなる。
「あー……くっそなんだよ、乙女かよ僕は……!」
 真剣に悩むことで、軽々に答えられないことではあるのだが、しかし告白されて悶々と思い悩み、食事も喉を通らない状況というのは、些か男らしさに欠けているだろう。かといって女らしいかと言えば、男の夕陽には分からない。
 なんだか、どんどん思考がおかしな方向へ逸れている気がする。本題から逃避するためだとすれば夕陽の望む形ではあるが、このままではただの頭がおかしいだけの人間になってしまうし、非生産的だ。もっと別のことで紛らわせなければ。
「……そうだ、デッキ組もう。こういう時こそデッキビルディングだ。アポロンも手伝ってくれ」
「おう。よく分かんねぇが、夕陽の手伝いならするぜ」
 とりあえず夕陽は、デッキケースからデッキを取り出して広げる。最近はS・トリガーにドラゴンを起用したり、闇のカードを増やしたり、呪文をできるだけ削ったりと、色々と試行錯誤をしており——

 カタ、カタ……カタタ……

「ん?」
 カードを広げていると、窓がカタカタと揺れ動いていることに気付いた。錯乱している時に開けていたのだろうか、などと思いつつ夕陽は窓へと目を向ける。
「っ!? なぁ!?」
 そして、そこに映っていたものを見て、驚愕した。なぜここにいるのか分からない、あまりにも予想外すぎるその存在。
 それは、唸るように声を上げた。
「ゆーひー……」
「プロセルピナ……!」
 カードの状態ではあるが、プロセルピナが窓に張り付いている。何事かと、夕陽は慌てて窓を開け、プロセルピナを部屋に入れる。すると彼女は、ポンッ、とデフォルメされた妖精のような姿へと実体化した。
 どうしてこんなとこにいるのか、このみはどうしたのか。彼女には聞きたいことが色々あるが、それよりも先に、彼女が泣き声のような声を上げる。
「ゆーひー、アポロン……このみーが……このみーがぁ……」
「え? このみが、なんだって?」
「落ち着けよプロセルピナ。落ち着いて、ゆっくりオイラたちに話すんだ」
「なんか凄い泣いてるけど、一体……」
 と、その時。
 ピリリリリ、と机の上の携帯が無機質な音を鳴らした。
「っ……このみから?」
 慌てて携帯を取ると、発信者はこのみからだった。
 泣きながら夕陽の下へと訪れたプロセルピナ、そんな状況でのこのみからの電話。一体このみになにが起こったのか、そんなことを思いつつ、通話ボタンを押し、携帯を耳に押し当てる。
「このみ!? どうした、なにがあった!?」
『うぅ……ゆーくん……』
 プロセルピナ同様、このみの声も泣き声が混じっていた。同時に、切羽詰っているような、なにかに追い詰められているような、苦しみの中に放り込まれたような、そんな声をしていた。
 いつも溌剌としているこのみがこんなに弱っているなんて相当だ。なにがあったのかと何度も問うが、夕陽の声が聞こえないほどに焦っているのか、このみはただただ、告げるだけだった——助けを求める言葉を。

『ゆーくん……助けて……!』


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