二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.626 )
日時: 2015/03/10 14:02
名前: Dr.クロ (ID: /PtQL6mp)

ところでクロのデッキにカード入れたいのですがいいですか

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.627 )
日時: 2015/04/05 14:38
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「やったよゆーくん! あたしたちおんなじクラスだって!」
「知ってるっての……それより、あんまり騒ぐなよ」
「? なんで?」
「他の人が、こっち見てるだろ。お前はただでえさえ目立つんだから……変な誤解されてもこまるし……」
「誤解? なにが?」
「……なんでもない。ほら、さっさと教室に行くぞ」
「あ、待ってよゆーくーん!」



 脳内名簿からめぼしいカードショップ選考し、最終的に夕陽が訪れたのは、ショッピングセンターだった。
 勿論デュエルマスターズ・カードは置いてあるが、他にも多数の玩具と一緒に売られており、カードショップというよりはホビーショップだ。『御舟屋』のように税抜き価格で売ってくれるサービスなどなく、シングルカードもないため、普通に買うにはあまり効率は良くない。
 ただしデュエルロード開催店舗で、パックを複数買うと特典のプロモカードが付いてくるのは、『御舟屋』にはない利点だ。それと、ポイントカードがある。夕陽がここをチョイスした理由は、ポイントが溜まるから、というものが大きい。
「とりあえず、エピソード3まで置いてあればいいな。あとは特殊エキスパンションがまだ残ってるといいけど……」
 こういう大型店舗だと、最新弾やその付近のエキスパンションはあっても、少し古い弾や、過去に発売していた特殊エキスパンションはすぐに取り扱わなくなるケースが少なくないので心配だったが、商品棚を見る限り、夕陽の目当てのもの概ね揃っているようだ。
「まあ、シングルで揃えた方がいいっていうのはその通りなんだけど、この辺りの汎用性の高いカードも欲しいからね」
 誰に言うでもなく一人でぶつぶつと呟いている夕陽。傍から見たらどう映るのか。と言っても、他人には聞こえない程度の声量だが。
 現在の財布の中身と、目当てのカードが手に入る期待値を天秤にかけ、どのくらい買おうか考える。とりあえずこのくらいでいいか、と盗難&サーチ防止のためのペラペラな商品サンプルを手に取ってレジへと向かう。
 すると、レジ前で見覚えのある人物が目に入った。
 このみほどではないにしろ小柄な体躯。栗毛のショートボブに、左右を白いリボンで結った少女だ。
(つーか、なにかにつけ背の低い子を見ると、このみと比較してしまうのは如何なものか……)
 そんな自分に若干呆れつつ、夕陽はその少女を呼ぶ。
「柚ちゃん」
「ひゃぅっ」
 驚き竦み上がった。
 その表現以外では言い表せないほどに、少女は怯えるように身体を硬直させていたが、夕陽の存在を視認すると、どこか安心したように夕陽を見上げる。
「ゆ、ゆーひさん……」
「そんなに驚かなくても。久し振り」
「お、おひさしぶりです」
 霞柚。
 それが彼女の名前。
 現在は中学一年生で、夕陽の妹の親友。夕陽も面識はあり、それなりの付き合いはある。それでも今のように、不意に声を掛けられるだけで飛び上がるくらいには気の弱いところがあるのだが。
「今日は、おひとりなんですか……?」
「そうだけど、なんで?」
「このみさんとか、御舟せんぱい——あ、いえ、月夜野せんぱいとかと、一緒じゃないんだなって……いつも、お二人のどちらかと、一緒にいるので……」
「僕って、そんな一人でいることが珍しいと思われてるんだ……」
 ショックを受けたわけではないが、少々心外だ。自分だって一人で出歩くことくらいはある、と誰に言うでもなく心の中で反論する。
 ただし、口に出すと目の前の少女が申し訳なさそうに身を縮めるだけなので、心の中だけに留めておくが。
「……御舟は受験だよ。今が追い込みの時期だからね。このみは進級をかけて勉強中。このままだと、もう一度一年生をやり直す羽目になる」
「え、えぇっ? それって、大変なことなんじゃ……」
「そうだよ、大変だよ。あいつの欠課はこっちにまで飛び火しかねないし……今は光ヶ丘が勉強を見てるけど。柚ちゃんも先の話とはいえ、試験勉強くらいは真面目にやった方がいいよ」
「は、はい、覚えておきます……」
「ま、あいつと違って柚ちゃんなら心配ないと思うけどね」
 あいつ、と一言で言う夕陽だが、その中には二つの人物像が浮かんでいた。
 春永このみと、もう一人は、夕陽の妹。
 そしてその二人共を知る柚は、そこまで理解が及ぶ。
「あいつって……このみさんのこと、ですか? それとも、あき——」
「どっちも。あいつは本当、変なとこばっかこのみに似ちゃったもんだから、こっちも大変だよ」
「そ、そんなことない、と思いますけど……最近は、前みたいな無茶はしなくなりましたし」
「確かに最近のあいつは少し大人しいかもな」
 とはいえ、それでも夕陽の中では手のかかる存在に変わりはない。
 いや、手のかかると言っても、手をかけているわけではないが。特に“ゲーム”の世界に介入してからは。
「それでも妹については柚ちゃんにも迷惑かけてごめんね。本当は兄である僕が面倒を見るべきなんだろうけど、僕が絡むとやたら反抗するしな……」
「い、いえ、そんなこと……むしろ、わたしがいつも助けられてばっかりです」
 彼女の性格からして、きっとそれは本心なのだろう。とはいえあの愚昧が誰にも迷惑を掛けずに立ち回ることができるとは到底思えない。なので兄という立場上、その辺りがどうしても気がかりであった。
「あの、ゆーひさん。一つ、お聞きしてもいいですか……?」
 とそこで、急に柚が話を転換する。
「ん? なに?」
「ゆーひさんの言葉で思い出したんですけど……お兄さんのこと、なにか知りませんか……?」
「お兄さん? 柚ちゃんの?」
「はい……」
「…………」
 夕陽は黙った。同時に、苦い顔をした。
 柚には歳の離れた兄がいて、その存在は夕陽も知っている。夕陽とも年齢が近いわけではなく、また家の事情で妹や柚のように特別親しいわけでもないが、何度か顔は合わせたことがある。
(柚ちゃんのお兄さんって、あの人だよな……柚ちゃんには悪いけど、できれば関わりたくないんだよな、あの人とは……)
 そんなことを思うも、しかしその妹である柚はどことなく悲しげで、心配そうな表情をしている。
 そんな顔をされるとなにか言ってあげたくもなるが、しかし関わりたくないと同時に、あまりかかわりのない相手であるため、夕陽はなにも分からなかった。なので、
「ごめん、僕はなにも知らないんだ」
 と、答えるしかなかった。
「そうですか……」
「なにかあったの?」
「実は最近、お兄さんはよく外出しているんです。でも、お仕事じゃないみたいで……帰って来る時も、怪我をするのはいつものことですけど、最近は特にひどくて……」
 今にも泣きだしそうなほどに表情が沈んでいく柚。
(柚ちゃんのお兄さんの仕事ねぇ……そりゃ傷もできるだろうけど、僕にはなんと言ったらいいのやら……)
 しかし夕陽にとってはまったく無関係のことだった。少なくとも、ここ一年近く柚の兄とは出会っていないし、彼が今どこでなにをやっているのかもわからない。
 柚とは親しい仲なので力になりたいとは思うが、いくらなんでも情報がなさすぎる。これでは力になりようがない。
 そしてそれは、柚自身も分かっているようで、
「……ごめんなさい。こんなこと言っても、ゆーひさんに迷惑かkちゃうだけですよね……」
「いや、そんなことは……」
「心配ですけど、お兄さんなら大丈夫だと思いますし……今度、わたしからもいろいろ聞いてみます」
「う、うん。そうした方がいいんじゃないかな」
「はい! がんばります!」
 と、その辺りでこの話は終わりになった。
 妹についてもそうだが、彼女も少し見ない間に変わったような気がする。去年までは兄に対しても怯えていて、こんなにはっきり自分の意志を言うこともなかった。
(僕の知らないところで、妹たちも成長してるってことなのかな……)
 などと柄にもないことを考えながら、夕陽と柚は別れた。
 柚はまだ買い物があると言って別の場所へと向かい、夕陽はそのまま家へと帰宅する。
 その道中。夕陽はふと思い出した。
「……あれ、そういえば僕、なにしにあの店に入ったんだっけ……」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.628 )
日時: 2015/05/24 00:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「わー、海だよゆーくん! 海! 久しぶりだなぁ……」
「…………」
「? ゆーくん? どうしたの? 元気ないけど、どこか悪いの?」
「……このみ」
「なに?」
「お前、金輪際、水着を着るな、薄着をするな」
「え!? いきなりなに!? どゆこと!? イヤだよ!?」
「うるせぇ、問答無用だ。見つけたら全部剥いで簀巻きにするぞ」
「えー……なにそれ……ゆーくん、どうしちゃったの? いきなり」
「自覚がなさすぎるんだよ、お前は……流石に今のお前を見てると、なんか危ない気がしてきた」
「?」



「むー……!」
「……なにしてんだ、お前」
「っ! わぁ、ゆーくん!?」
 昨日訪れたばかりではあるが、本日も何気なしに『popple』に足を運んだ夕陽は、店の隅の通路の奥で、こそこそと動く影を見つけた。
 その影の大きさから、誰なのかは一発で分かったため、近づいて声をかける。
 するとその影——このみは、驚いて後ずさった。
「ゆーくん、うちに来てたんだ、珍しい……」
「プロセルピナのことがあるからな、たまに来るようにしてるんだ」
「そっか、ありがとね、わざわざ」
「それよりお前、なにしてんだよ、こんなところで。勉強はどうした」
 夕陽がそう言うと、このみはギクッとした表情で、分かりやすく目を逸らした。
「あー、えーっと……姫ちゃんが、まだ来てなくて……」
「休憩休憩って駄々をこねて来たんじゃないのか」
「わ、当たり。すごいゆーくん。やっぱあたしとゆーくんの仲だと、そのくらいはお見通しなんだね!」
「さっさと戻れ」
 一人勝手に盛り上がるこのみを抑えて、夕陽はこのみの腕を引っ張るも、このみは必死に抵抗する。
「うー、待って待って! もう少し! もう少しだけ見張らせて!」
「……見張る?」
 本来なら有無を言わさず連行するところなのだが、このみの口から、彼女には似つかわしくない言葉が出てきたために、夕陽は腕を引く力を弱めた。
「誰を見張ってるんだ?」
「あの人だよ」
 そう言ってこのみが指さすのは、カウンター席。
 そこにいるのは、このみの姉の木葉と、客が一人だけだった。
 そして、その客というのが、夕陽の知らない人物ではなかったのだ。
(あの人……確か、昨日も来てた……)
 金髪碧眼、頬にガーゼをしている銀縁眼鏡の男性。
 昨日も『popple』に来ていたことは、夕陽も覚えていた。その時には、明らかに日本人顔なのに西洋人的な特徴があり、容姿は少し変わった人だと思ったが、それでもただの客にしか見えなかった。
「あの人が、どうかしたのか?」
 だからこのみが、彼となにがあったのか、興味本位で聞いてみたのだが、
「あの人……ずっとおねーちゃんとお喋りしてる」
「……は?」
「最近よくうちに来るようになったお客さんなんだけど、あの人、いつもいつもカウンターに座っておねーちゃんとお話してるんだよ! ゆるせないよ!」
「…………」
 それを聞いて、夕陽は脱力した。
 要するにこのみは、自分の姉に身も知らぬ男が寄りついていることに、気分を害しているようだ。嫉妬にも近い感情である。
 このみが姉として、一人の女として木葉のことを慕っていることは、夕陽も知っている。そんな木葉も、このみのことはただの妹以上に愛を注いでいることも、今まで見てきたことだ。
 だが、それでも呆れざるを得なかった。
「このシスコン姉妹が……くだらねぇ」
「くだらないとはなにさ! ゆーくんはおねーちゃんが他の男の人に取られちゃってもいいの!?」
「僕に聞くなよ。つーか、あの人もそろそろいい歳だろ。男の一人いてもおかしくない。むしろ喜ばしいことじゃないのか?」
 これは昨日も木葉に言ったことではあるが、夕陽が常々思っていることでもある。むしろ、今まで彼氏の一人もいなかったというのだから驚きだ。
「……でもあたしはイヤなの」
「あっそ。だが、それとこれとは関係ない。休憩ももう終わりだ。ほらとっとと光ヶ丘んとこに戻れよ」
「むー……ゆーくんのいじわるー」
 と、夕陽はこのみを上階へ向かう階段まで引っ張ると、そこでこのみも諦めたようで、渋々ながら階段を上っていく。
 その途中で、このみは首だけでこちらに振り返った。
「プロセルピナのこと、よろしくね、ゆーくん」
「……全部終わったら、ちゃんとお前が面倒見ろよ」
「うん、分かってる。あたしも、ちゃんと謝らなきゃね」
 それだけ言って、このみはトタトタと、上階の奥へと消えていった。



「……で、お前はいつまで拗ねてるんだ」
「す、すねてなんかないもん……」
 夕陽は家に帰ると、ずっとカードの中に閉じこもるプロセルピナに言った。
 今日は少しだけだがこのみと直に話したわけだが、その間、プロセルピナはまったくカードから出ようとはしなかった。しかし、それでもカードの中でそわそわしているのだけは感じ取れた。
「それってつまり、お前もこのみのとこに戻りたいってことじゃないのか?」
「そんなこと……」
「素直になれよ、プロセルピナ。オイラに夕陽が必要なように、お前にはこのみが必要だろ? オイラたちは、たった一人じゃなんにもできないんだ」
 反抗期の子供のようにいじけているプロセルピナに、諭すような口調で語りかけるアポロン。
 それを聞いてプロセルピナは、俯き加減になりながら、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「……わかってるもん、ルピナのワガママだってことくらい……」
「なら、ことが全部終わったら、あいつのところに戻れよ。あいつは光ヶ丘が進級させるはずだし、そうなればお前が拗ねる理由もなくなるだろ」
「……うん」
 まだ最後の意地が抵抗しているのか、プロセルピナは消極的だったが、しかし確実に頷いた。
 今は反抗的だが、根っこは素直で純真な性格なのだ。プロセルピナ自身、自分の非はちゃんと認めている。
 それが分かると夕陽は、とりあえず、この問題は大丈夫だろうと結論づける。プロセルピナはまだ意地を張っているところがあるが、一度少々強引にでもこのみとくっつけてしまえば、彼女らの性格からしてなんとかなるはずだ。
 なのであとは、このみが進級できるかどうかだが、これは姫乃に任せるしかない。そこは夕陽の管轄外だ。
(まあ、管轄なんて僕が勝手に思ってるだけだけど……)
 そのことについては、姫乃に多少の罪悪感がないでもないが、夕陽としてはこのみの自業自得に手を差し伸べてやる義理などないし、なにより今はできるだけ姫乃と会いたくない。
 会いたくないと言うよりは、少し距離と時間が欲しいのだ。
 冷静に考えられるだけの距離を。そして、じっくりと悩む時間を。
 しかし、時間を与えられていても、途中で夕陽の思考は途切れる。思考を進める中で、どうしてもシャットダウンしてしまう。
 考えが、どうしても進まない。ゆえに、いくら冷静でも、時間があっても、無駄であった。
(……これは、僕が逃げてるってことなんだろうな、光ヶ丘の思いから)
 そう思うと、自分がたまらなく嫌になる。
 そして、そんな嫌な自分を考えたくなくなり、夕陽はカードケースに手を伸ばした。
「ん? 夕陽、デッキを改造するのか?」
「いや、作る。ちょっと思いついたことがあってさ。とりあえず形にしてみたいんだ」
 普段はあまり多くのデッキを作らない夕陽ではあるが、時たまコンボなどを思いつくと、とりあえずデッキとして作りたくなるのだ。
 とはいえ、大抵はロマン止まりの失敗に終わるが。それを知ってか知らないでか、アポロンは玩具を買う約束でもした子供みたいに微笑む。
「おぉ、そいつは楽しみだな」
「いいなぁ、アポロン」
 アポロンに、玩具を買って貰った兄を見る妹のような視線を向けるプロセルピナ。
 そんな彼らに、夕陽は言った。
「言っとくけど、お前のデッキだからな、プロセルピナ」
「え? ルピナの?」
「あぁ。お前の性能って、実はかなりコンボ向きだろ? それを最大限に利用すれば、お前はかなり色々なことができるはずだ。だから、前から凄いコンボとかができないかと思ってたんだよ」
「そうなんだ……このみーはそんなことなにも言ってなかったよ?」
「まあ、あいつの頭じゃな。御船とか、もっとコンボに精通した人なら、かなり多くのコンボを考えていたと思うよ」
 とはいえ、『神話カード』の性質上、プロセルピナ自体を場に出すことが難しく、ゆえに実用性は分からないが、しかし、もしかしたら物凄いことが起こせるかもしれない。
 そんなロマンのような期待をするだけの性能が、彼女にはある。一人のデュエリストとして、その可能性を模索したがるのも、無理からぬ話だろう。
「もう大体の構想は練ってるんだ。あとはカードの枚数だけど、こればっかりは実際に動かして確かめるしかないか……」
 そんなことを独り言のように呟きながら、夕陽はカードを広げていく。
 アポロンとプロセルピナは、そんな彼をただただ見つめていた。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.629 )
日時: 2015/05/26 16:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「ゆーくん、ゆーくん! 聞いた聞いた!?」
「いきなりどうしたんだよお前。いつも騒がしいけど、今日は一段とやかましいな」
「一年にね、てんこーせーがきたんだって! これは行くしかないよ!」
「は? てん……なんだって? 早口すぎて聞き取れねえよ、もっとゆっくり言え」
「いいからいいから、早く来てよ! デュエマもすっごい強い女の子だって!」
「なにがだよ……って引っ張んな! おい!」



「——姫ちゃんが来れない?」
 試験日も近づいてきたこの頃。
 このみは首を捻って、受話器を置く木葉に問う。
「なんで?」
「家の用事ができちゃったんだって。まだ少し、ゴタついてるみたい」
「ほぇー……じゃ、明日の勉強は休みかー」
「本当に自分から勉強する気はないのね……このみ、自分の成績がどうなのか、ちゃんと分かってる?」
「分かってるけどさー、あたし一人じゃなんにも分かんないもん」
 一人で教科書を読んで内容が理解できるのであれば、誰だって赤点は取らない。
 勿論、このみの場合は、彼女自身の怠惰さが一番の原因なのだが。
「私が見てあげてもいいんだけど、明日は生憎、用事が入っちゃってるのよね。夕陽君は……きっと断るでしょうね」
 ならば他に候補は、と頭の中で人物を挙げていくが、誰も彼も、このみの相手ができそうな人物はいない。またできそうだったとしても、他の事情で恐らくは無理だろう。
「……まあ、このみも頑張ってきたわけだし、一日くらい休みを挟むのもいいかしら」
 と、木葉も考えるのがやや億劫になり、このみへの甘さも発動して、そんなことを言う始末であった。
「……明日は勉強しなくてもいいのかー……」
 ぐでーっとテーブルに突っ伏すこのみ。
 明日は休み。その予定外の休息は、彼女にとっては大きかった。
 このみは突っ伏したまま、誰にも聞こえない声で、ボソッと呟く。
「……なら、明日しかけてみようかな……」



「——そうか、そういうことだったか」
「なにか分かったんですか、黒村さん」
 某所にある【ミス・ラボラトリ】の研究所。
 その一室——『個人研究室 黒村形人』とという表示のある部屋にて、黒村と希野は、二人で《豊穣神話》の所有者を探っていた。
 そして黒村は、今し方その手がかりを掴んだようであった。
「所長が年明け後に所有者が変わっただなんて適当なことを言うから、なかなか難航したが……いや、事実としては、確かに変わっていた可能性は否定できないか。むしろそうすることで、本当の所有者をカモフラージュしていたのかもしれん」
「話が見えてこないんですが……《豊穣神話》の所有者が分かったんですか?」
「かもしれないな」
 そう言って黒村は希野を呼び寄せる。
「俺は《豊穣神話》の以前の所有者を追っていたんだが、年明け後に《豊穣神話》を所有していた集団の姿が掴めなかったんだ」
「でも、年明け前に所有していた者が誰かは掴んだんですよね? そこから手がかりなしですか?」
「あぁ、ほとんどな。無所属の個人所有という線も考えたが、そちらのアプローチから洗っても、ヒットしなかった」
 年明け後から、チーム所有の《豊穣神話》が動いた形跡はない。かといって、無所属による個人所有でもない。
 それでも、所有者が変わっている。
 これは黒村たちのリサーチ不足だろうか。当然、その線も大いにあり得る。だが、他の可能性も存在し得るのだ。
「つまり、一つの集団内で、所有者が変わったということだ」
「……え? でも、それじゃあ、結局は集団所有に変わりないんじゃないですか? 元々その集団は、そういう観点で見ていたんですよね?」
「だからその観点を変えたんだ。俺たちは『神話カード』を収集することよりも、観察や管理すること重視する。だからこそ、集団で所有するということに、囚われていた」
 観察するにしても、管理するにしても、集団という単位で行動してくれた方が、黒村たちにとっては効率がいいのだ。だからこそ、《豊穣神話》も集団で所有していると思いこんでいた節がある。
 だが、事実は違っていた。
「構成員一人一人のランクや立場がすべて明確に違っていたり、幹部以上の構成員とその他の構成員の差が大きなものであれば、さらにいえば幹部以上の立場の構成員が有名な者であれば、集団所有内の個人所有権の移動はより明確となる。これは【神格社界】や【師団】と同じだな」
 【神格社界】はそもそも個人の集まりというコミュニティ的な側面が強いので、この内部で『神話カード』の移動は大きな意味を持つ。
 【師団】はそのスタンス、というよりポリシーでもあるのか、下位構成員が手に入れた『神話カード』を上位構成員に献上するようなことはまずないが、“ゲーム”参加者でその名は知らないほどに絶対的な力を持つジークフリートが、他の『神話カード』を手に入れたとなれば、その情報が流れてこないわけがない。
「現在、《豊穣神話》を所有している集団は、上下関係の存在する集団でありながら、故意に下位構成員に『神話カード』を渡していたものと思われる。無名な組織であればあるほど、そのカモフラージュは生きるだろうな」
「それで、最近になってその《豊穣神話》が別の構成員……いや、集団のトップでしょうか? の手に渡ったということですか」
「恐らくな」
 なぜこのタイミングなのかは分からないが、年明け後くらいからなにかを画策していると考えられる。
 となると、そろそろ本格的に動き出すだろう。
「それで、その集団というのは、今現在《豊穣神話》を所有している集団は、一体どこなんですか?」
「以前の所有者が所属を偽っていたがゆえに、絞り込むのは骨が折れたがな。ある程度その可能性がある集団はすべて探ってみたが、前所有者の経歴、在住所、交友関係などをすべて洗い出した結果……恐らく、ここだ」
 黒村はそう言って、ディスプレイに一つの名前を表示させる。見覚えはない。資料で見た可能性は十分あるが、少なくとも“ゲーム”に大きく関わってきたことはないはずだ。
「この集団の一人と、俺の知人が多少なりとも関わりのあるのだがな……正直、盲点だった。まさかこの集団が《豊穣神話》を所有していたとはな」
 してやられた、とでも言うように、ふぅ、と息を吐くと、黒村はスッと立ち上がった。
「ど、どちらへ……?」
「もしも奴らが動き出すならば、狙うのは“あいつら”だ。あいつらになにかがあったならばすぐに情報が来るはず、それがないならまだ事は起こっていないのだろうが……あいつらにも警戒を促す必要があるのも確かだ」
「……あたしも行きます」
「あぁ、頼む」
 二人は、部屋の状態をそのままに、やや早足で研究室を出ていった。
 黒村に続き、希野も部屋から出ようとするが、その時、ふと先ほど表示された画面の名前が目に入った。
「…………」
 だが、すぐにそこから目を外し、部屋を出て、バタンと扉を閉める。直後、ガチャリと鍵の閉まる音が鳴った。
 電源も落とされず残されたまま、ディスプレイには一つの名前が残されたままだった——

 【Kasumike】——【霞家】

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.630 )
日時: 2015/05/30 19:56
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「もうあたしたちも卒業かー」
「意外とあっさりしてんな。もっとはしゃいだりするものかと思った」
「だって、汐ちゃんとはまた会えるでしょ? はなればなれになるわけじゃないから、高校に行っても、あんまり変わらないのかなって」
「まあ、御船屋は近いし、いくらでも会いに行けるか。確かに変わらないかもな、今までと」
「ゆーくんとは学校おんなじだし」
「お前のせいで僕は受験校のレベルを下げたんだからな……本当は烏ヶ森の高等部に編入したかったのに……」
「ま、しょうがないね」
「なにがしょうがないだてめぇ! お前その調子だと、中学は卒業できても、高校は卒業どころか進級だって危うくなるぞ!」
「そん時はまたゆーくんが助けてくれるでしょ?」
「知るか。あんま僕をあてにすんなよ」
「あはは、頼りにしてるよ」
「人の話を聞けよ」



 カフェ『popple』は地元ではかなりの有名店で、良い品質を手軽な価格で待たせず出す、要ははやい、うまい、やすいの三拍子が揃っているが、それだけではない。昨今のニーズに沿ったサービス提供にも力を入れており、それが今の制服や、半ば店長の趣味で置かれているデュエマテーブルや、店長やその関係者が引き抜いてくる店員に現れている。

 しかしそんな『popple』は、休日というものがいまいち安定していない。定休日は設けられているはずだが、急遽休みになったり、定休日でも開店したり、定休の意味を問いただしたくなるような開店模様である。
 そんな状態でも売り上げを安定させられているのだから、そこは実力だろう。
 しかし、定休日が定休でない上に、店の前の掛け札もしょっちゅうかけ忘れるというのだから、お得意さまでもない限り、うっかり開店している時を閉店だと思ったり、間違えて閉店しているはずなのに開店していると思って入ってしまうことも、よくあることだ。
 それが起こりうるのは、よくこの店を利用し、なおかつ利用し始めたのが最近の者だ。



『——そういうわけだから、今日だけでもこのみの勉強を見てもらえないかしら?』
「断ります」
『ありがとう、よろしくね、助かるわ』
「会話が成り立ってませんよ、木葉さ——って、ちょっと! もしもし、もしもし!? 木葉さん!? くそっ、一方的に切りやがった!」
 ガシャンッ、と夕陽は叩きつけるようにして受話器を戻す。
 その音を聞きつけたのか、背後に誰かがやって来る足音がした。今この家にいるのは、自分の他には妹しかいないので、その存在が誰かはすぐ確定した。
「……どしたのお兄ちゃん」
「木葉さんから電話が来てな……今日は光ヶ丘が来れないから、このみの勉強を見てやってくれって頼まれた」
「え、なに? どゆこと? バイトのおねーさんと、このみさんと、お兄ちゃんと……?」
「お前には関係ねえよ。はぁ、ったく、面倒だ……」
 一人混乱する妹を置いて、夕陽は自室に戻った。
 こんな一方的な要求、突っぱねることも出来るには出来る。
 だが、わざわざ木葉が夕陽に頼んできたということは、彼女も相当危機感を抱いているのだろう。断っても無理やり押し通したことからも、それは伺える。
 だからなのか、夕陽はほんの少しだけ気まぐれを起こして、今日一日くらいは、行ってやってもいいだろう、と思ってしまったのだ。
 自分のテスト勉強のついでとでも考えれば、一日くらいなら、と。
「……アポロン、プロセルピナ。このみんとこ行くぞ」
「ん? 今日も行くのか?」
「今日は勉強だ。光ヶ丘がこれないからって、代打を押し付けられた」
 夕陽は適当に教科書やノート、そして筆記具などを鞄に押し込んで、最後にアポロンとプロセルピナのカードを仕舞いこみ、家を出た。
 しばらくは無言だった。今は人通りがないとはいえ、外で軽々にアポロンたちと会話はできない。なので黙って『popple』を目指していた。
 だが、道中。ふと夕陽が、口を開く。
「プロセルピナ、どうする」
「……なにが?」
「このみのことだよ。わざわざ場をセッティングするより、自然な形で一緒になった方が、お前も切り出しやすいだろ」
 プロセルピナも、自分の非はちゃんと認識している。だから、それをはっきりとこのみに伝えることが必要だろう。
 だが、言ってしまえばこんなものは、ただの子供の喧嘩。謝罪の場をわざわざ用意して、お互いに謝らせるよりも、さりげなく、自然な形で、お互いにそれを促す方がいい。
 その絶好の機会が、今だ。
「……このみーにはあやまるよ、でも……」
「でも、なんだよ」
「ちゃんと、あやまれるか、じしんない……だってゆーひー、べんきょーしに、このみーのとこにいくんでしょ?」
「まあ、そうだな」
 思い返せば、プロセルピナが家出した理由は、このみの成績不振で、このみがプロセルピナに構わなくなったからだった。
 夕陽なりに気を利かせたつもりが、状況を見誤ったようだ。
(つっても、僕もいつまでもこいつの世話をしたくはないんだがな……)
 今はまだ大人しい方だが、それでもプロセルピナは、このみに似てやかましい。一緒にいると、常にこのみと一緒にいるように感じてしまい、夕陽としては決して居心地は良くなかった。
 そのことを抜きにしても、やはり、『神話カード』は持つべき者が持つべきであり、あるべき場所にあるべきなのだ。少なくともプロセルピナのいるべき場所は、夕陽のところではない。
(……そうしたら僕は、本当にアポロンの所有者に相応しいのだろうか……)
 あまり深く考えたことはなかったが、ふと、夕陽は思った。
 そもそも夕陽が《アポロン》のカードを手に入れたのは、本当に偶然だった。その時も、本来の所有者はひまりであり、ひまりが夕陽に託したようなものとはいえ、ひまりがいなくなったから夕陽の元にあるに過ぎない。
 ひまりが《アポロン》の所有者に相応しいと言えば、千人が千人、万人が万人、イエスと答えるだろう。
 だが、一方で夕陽はどうだろうか。夕陽もアポロンと共に戦ってきた期間はそれなりに長く、アポロンの所有者として、その名は知られている。
 だが、それは一種の固定観念ではないのだろうか。本当は、もっと他に相応しい者がいるのではないだろうか。夕陽以上に、アポロンの力を引き出せるものがいるのではないだろうか。
 そんなことが、ふと頭をよぎるが、
(……いや、関係ないな)
 と、一蹴する。
(僕は先輩の意志を継ぐって決めたんだ。もっと他に、アポロンの所有者に相応しい人がいたからといって、僕の意志は揺るがない。関係、ないんだ——)
「ゆーひー」
 と、そこで夕陽の思考は中断された。
 見れば、プロセルピナが実体化し、夕陽の腕を引っ張っている。
「な、なんだ?」
「お店、見えたよ。でも、あかりがない……」
「木葉さんはいないわけだし、店を閉めてんだろ」
「でもあそこに、『OPEN』って書いてあるぜ」
「このみが変え忘れたんだろ。ったくあいつは、同じミスを何度も何度も……だから成績が下がってばっかなんだよ。少しは身長と一緒に成長しろってんだ」
 などと、口をつくようにして言葉を並べながら、夕陽たちは『popple』に近づいていく。
 そして、店の窓ガラス越しに、その光景が目に飛び込んできた。
「え……?」
 薄暗い店内で立つ、このみを。

 そして、あの男の姿を——



「ん……?」
 男はその店に入ると、すぐに違和感に気づいた。
 いや、気付いた、などという発見的表現は適切でないかもしれない。“それ”は隠すつもりもなく、そこにあるのだから。
 否、ないからこその違和感であった。
「どういうことだ……?」
 “ある目的のために”、最近はよく通うようになったこの店に、今日も入店したのだが、客が今し方入ってきた自分以外、一人もいない。
 確かに静かな店ではあるが、客が完全に途切れることなどほとんどない店であることは、今までの通って分かっている。なのに、この光景はなんだろうか。
「……表には『OPEN』と掛け札があったはずだが、今日は休みしてたのか……?」
「そうだよ」
 唐突に、店の奥から一人の少女が出てきた。
 幼い顔立ちや小学生のような背丈に、それらとはアンバランスすぎるほどに発育した女性的な膨らみ。ある意味、この世のものとは思えない容姿をしており、まるでのアニメや漫画から飛び出してきたかのようだ。
 あまりに突然に出てきたためか、男は少し狼狽えていたが、しかし男はこの少女のことを知っている。直に話したことはないが、見たことはある。
「……君は、確か……店長、さんの、妹さん、だったっけ……? えっと……」
 なぜか少したどたどしく言葉を紡ぐ男。まるで、どういう口調で話せばいいのか分からず、使ったこともないような口調を無理に使おうとしているかのようだ。
 さらに男は店長から、この少女のことは聞いていた。とてもそうは見えないが、今は高校生なのだとか。
 そして名前も知っていた。
「春永、このみ、さん……」
「うん。待ってたよ、お客さん」
 耳に残る幼くも幼児のものではない声。普段の彼女であれば、明るく溌剌として聞こえるはずなのだろうが、今はそうは聞こえない。
 そこから憤りを感じる。
 いや、それよりも彼女の言葉が気になった。
「待ってた……? 俺を……?」
「そう。お客さんに言いたいことがあるの。でも、他のお客さんやおねーちゃんたちがいたら言えないから、今日は休みだけど、掛け札を変えといたよ」
 ということは、今この場にいるのは、男とこのみの二人だけということになる。
「……そうか、この場はお前だけか……」
「お客さんもおねーちゃんがいないところの方がいいでしょ。あたしなりの、はいりょだよ」
 このみは真剣な顔で言うが、男はなにか考え込むようにぶつぶつと呟いており、彼女の話をまともに聞いているようには見えない。
 しかしこのみも相手のことなど気にしていない風であったので、お互い様とも言えるが、せめてこのみは相手のことをもっと気にするべきだったかもしれない。
 自分が一人になるということが、どのような危険をはらむのか、考えなければならないのだから。
「たんとーちょくにゅーに言うけどね、お客さん。おねーちゃんは——」
「ならば、都合がいいな」
 ガシッ、と。
 このみの言葉は、物理的に遮られた。
「……っ!」
「まさかそちらから出向いてくれるとはな。わざわざ通いつめて外堀を埋めていく手間が省けた」
 無警戒に詰め寄ってくるこのみに対し、男はその腕を掴み、捻った。
 腕を固められたこのみは、そこから動くことができない。それだけではなく、手首や肩から、じわじわと鋭い痛みが走ってきた。
「いた……痛いよ! 離して!」
「それには、それなりのものを提供してもらわなきゃならんな。とりあえず、出すものを出してもらおうか」
 男はこのみの腕を固定したまま、彼女に手を伸ばす。腕を掴まれ、ふりほどくこともできないこのみには、そのてを避けることなどできない。
 男の手が、このみに触れる——


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