二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.70 )
日時: 2013/07/26 09:30
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 夕陽はまた、あの老朽化したアパートを訪れていた。まさかここ一週間ほどで三回もクラスメイトの家を訪れることになるとは思わなかったが、今はそんなことを気にしている場合でもない。
 傾いた階段を慎重に上り、光ヶ丘と書かれたプレートが下げられている部屋の前に立つ。インターホンを押そうとしたが、そのような文明の利器が存在しないことに気付いた。代わりにアナログ式の呼び鈴があったので、それを鳴らす。
 その音はくぐもっていたが、しかし来訪を伝えるのには十分だ。応答の声と共に部屋の中からパタパタと足音が聞こえ、躊躇なく扉が開かれる。流石に少し無防備だと思ったが、今回に限っては都合が良かった。
「どちら様で……っ、空城くん……!」
 扉を半分ほど開けたところで、姫乃は目を丸く見開いた。そんなに夕陽の来訪に驚いたのだろうか。
 姫乃に最初に何て言えばいいのか色々と考えていたが、やはりここは、ストレートに、単刀直入に言うことにした。
「……話がある。立ち話でも構わないけど、家に誰もいないなら入れてほしい」
 自分で言って、酷い押し入りだと思った。だがやはり、今の状況を考えればなりふり構っていられないだろう。
 というか、それ以前に、先日にあんなことがあった後では、姫乃がそう素直に入れるとは思えない。そしてその予想は的中する。
「……帰って。わたしの家のことなら、空城くんには関係ないよ……」
「そうだ、確かに関係ないな。関係なくても、話さなきゃいけないことがあるんだ」
 姫乃のドアノブを握る手に力がこもる。そして、次の瞬間。
「……っ」
「おっと」
 ガッ! と、二つの物体が衝突する音が響く。具体的に言えば、姫乃が扉を閉めようとしたところに、夕陽が足を差し込んで止めたのだ。
 会話を放棄するという選択肢を潰され、俯く姫乃。彼女は俯いたまま、ぽつぽつと震える声で言葉を紡ぐ。
「なんなの、なんで……なんで、空城くんは、そんなにわたしに関わろうとするの……? 放っておいてって、言ってるのに……」
 声だけでなく、姫乃は体も震えているように見える。
 やはりというか、予想していたが、そして姫乃は知らなくて当然なのだが、両者の間には齟齬があることを改めて認識する夕陽。まずはその食い違いを取り除かなければならない。
「……光ヶ丘、君、なにか勘違いしてない?」
「え?」
「僕は確かにこうして光ヶ丘の家に押しかけてるし、正直な話、君の家の事情っていうのも知りたいと思っている。ただ、君がそこまでそれを拒否するなら、踏み入るつもりはない」
「だ、だったら——」
 バッと顔を上げて詰め寄る姫乃を手で制し、夕陽は続けた。
「実は僕ら——僕とこのみと、僕の後輩は今、大事なものを失っているんだ。それを取り返すための鍵を君が握っている、と僕は読んでいる。僕の考えでは、僕らの大切なものを奪った奴と、君の家庭の事情は繋がっている。つまり、間接的に僕らと君の家の事情は関係を持っているんだ。でも君は秘密を打ち明ける必要はない。ただ、教えて欲しいことがいくつかあるだけだ……勿論、僕らが今どういう状況なのかは、全部説明するから」
 一気に捲し立てるように話し、気付けば逆に夕陽が姫乃に詰め寄っていた。その勢いに押され、姫乃も困惑している。
「僕らの状況っていうのは、凄く非現実的で、荒唐無稽で、信じ難いものだけど、真実だ。それは全部打ち明ける。そして、僕らには君の力が必要なんだ。だから——」
 最後の一言。人が良く、優しすぎるほど優しい、慈愛に満ちた姫乃には、止めとなるであろう言葉。自分で言うのは少しこっぱずかしいが、ここまで来たからには、もう押し通すしかない。
 一拍置き、夕陽はその言葉を、告げる。

「——光ヶ丘、僕らに力を貸してくれ」



 姫乃には、夕陽とこのみ、そして汐の置かれている状況をすべて説明した。
 ゲームのこと、『神話カード』のこと、【慈愛光神教】のこと、そして——金守深のことを、すべて。
 しばらく黙って話を聞いていた姫乃は、話が終わると、彼女らしからぬ溜息を吐き、
「……あの人、他の人からもカードを取ってたんだ」
「あの人? 教祖のこと?」
「うん……わたしのデッキも、あの人に取られちゃったから」
「な……っ!?」
 驚く夕陽をよそに、今度は自分の番だと言うように、姫乃も自分の家庭のことを、包み隠さず話してくれた。
 その内容は、夕陽の予想通りだった。そこまで不思議な話でも、珍しい話でもない。姫乃の両親が宗教——【慈愛光神教】の熱烈な信者で、その宗教にのめり込み、その結果よく分からないものを買わされ、経済的に困窮していると。
 悪徳宗教、カルト宗教、その手のものにはよくある話だ。なにも光ヶ丘家だけではないだろう。だが、光ヶ丘家ではそんな普通とは少し違う点もあった。
「【光神教】はね、結構昔からあった宗教なんだ。わたしの両親は、わたしがまだ小学生くらいの頃からその宗教を信仰してて、それもあって今でも信者としての地位は高いみたい。でも、昔は今ほど盲信的じゃなかった。【慈愛光神教】は、昔からこの部屋にあるようなものを売ってはいたけど、今ほど積極的じゃなかった。わたしの家は昔からあんまり裕福じゃなかったから、両親もそれが分かってて、そういうのは買わなかったから」
 なんとなく見えてきた、光ヶ丘家と【慈愛光神教】の関係。そして夕陽は思った。
「ってことは、どこかを境に、宗教団体に変化があった、ってこと?」
「たぶん……なにがきっかけで、とかは分からないけど、あの人も変わっちゃったみたいだし……」
 あの人、金守深。【慈愛光神教】の教祖。
 夕陽にとっては打破すべき敵だが、姫乃の口振りはどこか友好的な感情が伺えた。それも含め、夕陽は疑問をぶつける。
「あの、さ。光ヶ丘と教祖は、面識あるの……?」
「うん。わたしは親によく【光神教】の本部に連れてってもらってて、その時に知り合ったの。最初に出会ったのは小学四年生の時であの人にデュエマを教えてもらったんだ」
 また、意外な事実。あの教祖が、年端もいかぬ少女にデュエマを教えている様子を想像したら、酷く妙な気分になる。
「中学二年生の一学期くらいまでは、ちょくちょく本部に顔を出してたんだけど、夏休みに入る直前に、おとうさんの会社が倒産しちゃって、それ以降はドタバタしてて顔を出してないんだ」
「なら【光神教】が変わったのは、その辺りからか」
「そうかな、たぶん。それで、仕事がなくなっちゃって、おとうさんもおかあさんも心が疲れてたんだと思う、そこから」
「一気にのめり込んで、取り込まれた、と」
 ありがちなパターンだ、と思ったが口には出さない。
「でも、少し変なんだ。二人とも、家のことを二の次にしてまで宗教にのめり込むなんて……二人とも、そんな性格じゃないはずなのに」
「どうだろ……人間、追い詰められるとなにをするか分からないからね」
 ここまでの話を簡単にまとめると、光ヶ丘家は元々貧乏で、しかし無理をしない程度に【慈愛光神教】を進行していたが、会社の倒産を受けショックを受けているところに、苛烈さを増す【慈愛光神】に取り込まれてしまった、ということになる。
「——そう言えば、光ヶ丘、教祖が他の人からもカードを取ってたって、言ってたよね……?」
 ふと尋ねてみたが、言っている途中で答えにくそうな質問だと思い、声がしぼむ。
 しかし姫乃は気にせず、とはいえ少しだけ声のトーンが落ちて、
「わたしも、あの人にカードを取られちゃったんだ。正確には、おとうさんとおかさあんに、なんだけど。わたしのデッキが神話に糧になるから、とか理由はよくわからないけど、あの人の命令でわたしもデッキを取られちゃったんだ」
 他のカードは残ってるけど、と続ける姫乃。しかし夕陽の耳には届いていない。
「神話の、糧……」
 ようやく繋がってきた。十中八九それは『神話カード』のことだろう。教祖はこのみや汐のデッキも奪っていた。その理由が、『神話カード』を十全に扱うためのカードを集めることが目的なら、辻褄が合う。
 さらに宗教団体そのものが変わる原因は、普通に考えれば教祖にある。つまり教祖が変われば団体も変わる。例えば、教祖が『神話カード』を手に入れたとしたら、それが彼を変えてもおかしくはない。
「やっぱり神話カード……教祖も、なにかの神話カードを持ってると考えるのが妥当か」
 今日だけでかなり多くの情報を手に入れられた。それが相手に対してどれほど有益なのかは分からないが、それでも無駄にはならないだろう。
「あ、そうだ。最後に一つ、聞きたいことがあったんだ」
「え? なに? もうほとんど話したと思うんだけど……」
 という姫乃だが、夕陽からすればまだ疑問点は多くある。だがそれよりも先に、これを聞いておかなくては始まらない。
「あのさ、【慈愛光神教】の本部って、どこにあるの?」

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.71 )
日時: 2013/07/26 10:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

 姫乃から得た情報によると【慈愛光神教】の総本山は隣町の山中にあるという。確かにそんな場所なら、安々と情報が漏れるようなことはなさそうだ。
 夕陽は光ヶ丘家を後にすると同時にこのみと汐に電話し、そのまま乗り込むことにした。希望的観測だが、デュエマで強行突破ができればなんとかなるだろう、という作戦も何もない考えだ。
 とはいえこのまま手をこまねいていても仕方ない。最初からこの手しかないだろうと薄々思っていたので、ある意味では計算通りだ。
 その中に誤算があるとすれば一つだけ。
「……光ヶ丘、君までついて来る必要はないんだよ?」
 電車の四人の並ぶ姿、右から汐、このみ、夕陽と——姫乃。
 夕陽としては“ゲーム”に関係のない姫乃はあまり巻き込みたくなかったのだが、やや強引に姫乃がついて来たのだ。
「言ったと思うけど、僕らのデュエマは命懸け。シールドを割られるだけで、体がズタボロになる。危険だよ」
 何度も引き返すように言ったが姫乃も頑なに、
「ううん、わたしも行く。ちゃんとあの人と話がしたいし、それにこのままじゃいけないって思ってた。空城くんのお陰で、変えるきっかけがつかめたんだ。だから、行く」
 と返すのだった。
 しばらく電車に揺られ、次の駅で目的地というところで、汐が唐突に口を開く。
「……先輩、今、いくらくらいあるでしょうか?」
「へ? 財布の中身ってこと?」
「はいです」
 あまりにも唐突過ぎるので面食らい、疑問符を浮かべながら財布の中を確認する。ちょうど大きな収入が入った後なので、中身はかなり潤っている。
「……福沢諭吉が一人」
「あたしは一文無し! というか財布持ってない!」
 金がないなら黙ってろ、と言いたくなった。ちなみにこのみの切符代は夕陽が払っている。
「一万円ですか。ならば二箱は行けそうですね」
「え……あの、御舟? それはどういう……?」
 夕陽が恐る恐る尋ねるも、汐は何も言わなかった。そして夕陽がその言葉の意味を理解するのは、駅を降りた後だった。



 汐の言い分は、これから敵の本拠地に攻め入るのなら、戦力を増強すべき、ということだった。
 この場合の戦力とはつまり、デッキ。デッキを強化しようということだ。
 電車でこのみのデッキを見せてもらったのだが、その中身は相も変わらず酷いもので、以前使用していた速攻寄りの進化ビーストフォークデッキ(制作者・汐)を雛形にしているが、マナカーブが悲惨すぎる。
 さらにどうせ来てくれたのだから戦力に数える、ということで姫乃のデッキ強化も行うこととなった。姫乃は持っているカードが少し古く、また奪われてしまったデッキに有用なカードをすべて詰め込んでいたようなので、現在のありあわせとも言えるデッキではとても戦えないだろう。
 というわけで、夕陽の一万円を犠牲に、汎用性の高い有用なカードが詰まっているエキスパンションを二箱購入し、デッキの改造を行った。
 とりあえず形にはなったこのみと姫乃のデッキを軽く動かしてから、四人はいよいよ、敵の本拠地に乗り込む決意をする。



 山中にあると言っても、その山自体はそこまで深いわけでも大きいわけでもない。山道もある程度は整備されているため、歩きにくいということもない。とはいえ、山は山なので踏み入るには多少の勇気が必要にはなるが。
「はぁ……僕、来月の終わりまでほぼ無一文で生活しなきゃいけないのか……」
「いつまで言ってんの。使っちゃったものはしょーがないよ」
「お前が言うな! お前が!」
「先輩方、一応は登山なのですから、あまり体力を無駄に消耗しない方が良いと思われるのですが」
「……空城くんたちって、仲良いね」
 とかまあ、そんなやり取りの末、十分ほどでその建物に辿り着いた。
「うわ……山の中によくこんなもの建てられたな……」
「すっごー! サグラダ・ファミリアみたい! どんなのか知らないけど」
「外装は綺麗ですね。しかしそれでいて、周りの木々とある程度調和し、同化しているようです。拠点というか、隠れ家のような役割もあるのでしょうか」
 そこにあったのは、聖堂だ。教会のような神聖で荘厳な外観を持つ大聖堂。それが、山の中に木々の埋もれるようにして鎮座している。
 いつまでも眺めているわけにはいかないので、やがて夕陽が入口まで歩いていき、皆に視線で合図する。
「じゃあ……入るよ」
 入口もそれなりに大きく、重厚な木製の扉を押し開ける。すると中は、まんま教会のような造りをしていた。
 石畳の中央には赤い絨毯が敷かれ、壁にはキラキラと光るステンドグラス。脇には燭台が均等間隔で並んでおり、奥には白いクロスに覆われた台座がある。
 そしてその台座の前に立っているのは、見覚えのある男。
「……まさか本命が真正面から突っ込んで来るとは、子供は単純だな。嫌いではないが」
 【慈愛神光教】教祖、金守深。
「今日は一人増えているな……む?」
 姫乃に視線を動かす深。だがその視線が、不自然に固定された。そして何かを思い出すような仕草そして、
「……ああ、思い出した。見覚えがあると思えば、光ヶ丘夫妻の娘か、姫乃、と言ったか。久しいな」
「……おひさしぶり、です」
 おずおずと言葉を返す姫乃。声はほんの少しだけ震えているが、目つきは彼女らしからぬ、厳しい目で睨むように深を見つめている。
 その視線に見つめ返していた深は、やがて目線を夕陽たちに戻し、本題に入る。
「お前たちがここに来た目的は分かる、私が奪った『神話カード』だろう?」
「それは第二の目的ですね。一番の目的は、私たちのデッキを取り返すことです」
 意外にも、汐が真っ先に答えた。そして深はその回答に対し、意外だと言うように声をあげる。
「ほう? 唯一無二にして絶対的かつ超越的な力を持つ『神話カード』より、たかだか大量生産されているカードの束を欲するとは、理解しがたい思考だな」
「あなたと私たちでは、考え方が違うのです。少なくとも私は、楽しくデュエマができれば、それで十分なのです」
「そうか……そうだな。確かに私とお前たちとでは考えが違う。同じ考えなら、お前たちはとっくに私の傘下なのだから」
「……?」
 深の言葉に、首を傾げる夕陽。意味が分からない、なにを言っているだ、思った。
 思ったが、口には出さない。その理由は、夕陽が問う前に、深が言葉を発したからだ。
「いい機会だ、知らないのなら教えてやろう。無知なものを見ていると無性に腹が立つからな、不愉快で好感が持てない」
 そう前置きし、深は一枚の『神話カード』と思しきカードを掲げる。見たことないカードだ。
「『神話カード』には、不思議な力が宿っている。カードのテキストに書かれている能力などではなく、カードが命のあるものとしての力だ。たとえば、そうだな……試したところ、《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》は、敵前逃亡を許さない力がある。具体的には、逃げる敵を炎で阻む力だ」
「っ、それって……!」
 夕陽は思い出す。最初に『神話カード』と戦った時のことを、『炎上孤軍アーミーズ』と戦った時のことを。
 あの時、夕陽は逃げようとしたが炎の壁に阻まれた。深の言うことが真実なら、それは《マルス》という『神話カード』の力、ということなのだろう。
「そして私の持つ『神話カード』、《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》にも、そのような超常的な力が備わっている。所有者と他者の思考を同化させるという力がな」
「? しょゆーしゃとたしゃのしこーをどーかさせる? ごめん、全然わかんないんだけど……」
 このみがしきりに首を傾げている。このみだけでなく、夕陽も汐もいまいち意味が掴みとれない。
 それを察してか、深は補足するように説明する。
「《ヴィーナス》の所有者は、その考えを他人に押し付けることが出来る。私の思考、意思、嗜好、目標、信仰といったものが、他者にも伝播する。私の傍にいる者は全て、私と同じ考えを持つことになるのだ」
 まだいまいち要領を得ない夕陽たち。無理やり頭の中で、分かる単語とつなげると、
「つまり……洗脳、みたいなものか……?」
「乱暴に言ってしまえば、そうなるな。だがあくまで考えを同じくするだけだ、本人の思考そのものが消えるわけでもなく、自由もある。ただの洗脳なら、もっと使い勝手が良いのだがな」
 そう言って肩を竦める深。それと同時に、姫乃がハッとしたような声をあげる。
「! もしかして、最近、おとうさんやおかあさんが【光神教】に入れ込んでいるのって……」
「察しがいいな、夫妻だけでなく、信者全員が《ヴィーナス》の力を受けている。お陰で操るのが簡単になった」
「……外道だな」
 堂々と言い放つ深に、突き刺すような言葉を発する夕陽。だが深はそんなことは気にも留めず、
「そろそろ話を戻そうか。お前たちの目的は、まあ私の蒐集したデッキだとして、運の良いことにそのデッキはまだ原型を留めている。つまりお前たちは、私に勝てばめでたくそのデッキを取り返せるというわけだ」
 ご丁寧にも嬉しい情報を開示する深。だがその意図が読めない。
「無論、私とて鹵獲物を安々と渡したりはしないがな。信者の集まりにくい今日に限って襲撃されてしまったために、戦える信者はそこまで多くないが、数人の子供の相手くらいはできるだろう」
 と言って、深は手元にある小さな鐘状の鈴を鳴らす。すると、
「っ!」
「わわ、なんか出て来た!」
「戦闘要員、ですか」
 室内にいくつもある扉から、何人もの人間が飛び出す。年齢も性別もバラバラだが、全員が手にデッキを持っている。その数は十人弱。
「やっぱこうなるのか。一人一殺じゃ足りないな、これは」
「だいじょーぶ、あたしが速攻で薙ぎ倒すから!」
「なら私はまとめて消し飛ばすですよ。こんあこともあろうかと、三つデッキを持ってきたので」
 各々臨戦態勢に入り、場の空気が一変する。そして聖堂内で、クリーチャーによる激しい戦闘が開始された。

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.72 )
日時: 2013/07/26 11:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

「さて、では私は見学させてもらおうか……ん?」
 深は夕陽たちが戦う様子を眺めていたが、視界に入って来た少女の存在により、すぐにそれは中断される。
「…………」
「お前か。どうした、友人が戦っているぞ。それともお前は戦力外通告か?」
 少しおどけたように言う深。だが姫乃は酷く静かな表情と、静かな声で、言葉を紡ぐ。
「違う。あなたが、わたしの相手」
「……本気で言っているのか?」
 深の問いかけに、首肯する姫乃。
「お前のデッキは、光ヶ丘夫妻を通して私が奪い取った。その理由は、お前のデッキが《ヴィーナス》の力を引き出すのに有益だと思ったからだ。ここから導き出される解は二つ」
 二本指を立て、深を続ける。
「一つ、お前の戦力は激減している。流石に四十枚しかカードを持っていないということはないだろうが、ありあわせのカードで作ったデッキなど恐れるに足らず。二つ、私のデッキはお前のカードによって強化されている。私が“ゲーム”の参加者であり、十二枚しかない『神話カード』のうち一枚を持っている状況で今まで生き延びられたのは、なにも拠点を隠していたからだけではない。実力もある。以上のことから、お前の勝ち目は薄い。加えて言うのなら、私たちのデュエマは命を賭した戦い、勝っても負けても傷を負う、そんな戦いだ。私も無闇に手の内を晒したくないのでな、退け」
 静かに、しかし重く告げる深。だが姫乃は、退かない。
「もう現状に甘んじているのだけは嫌だ。せっかく空城くんがきっかけを与えてくれたのに、それをふいにはしたくない。それに」
 ほんの一時間ほど前のことを思い出す。デッキを作っている間に交わした約束。



 ——僕らは他の信者を蹴散らすから、光ヶ丘は教祖を頼むよ

 ——えぇ!? わ、わたしが……? でもそういうのは、もっと強い人の方が……

 ——ならば光ヶ丘さんでもなんら問題はないですよ。あなたは十分です。これだけのカードで、よくここまでプレイングできるものです

 ——そーそー、姫ちゃんならだいじょーぶ! あたしが保証するよ!

 ——で、でも……

 ——いいから、頼むよ。それに君自身も、教祖に言いたいこととかあるんじゃないの?

 ——それは……

 ——なら決まり! ガンバ姫ちゃん!

 ——お願いです、勝ってくださいね

 ——頼んだ、光ヶ丘。僕らのデッキとカード、取り返してきてね

 ——う、うん……がんばる



「わたしは約束したんだ、みんなのデッキとカードを取り返すって。それに——」
 それ以上は何も言わず、姫乃は手首に巻いてあった髪紐を手に取り、ポニーテールに結ぶ。そして、デッキを取り出した。
 それを見て、深は溜息を吐き、
「致し方ない、不本意だが相手になろう。昔はお前が幼かったゆえに加減していたが、これから行うデュエマは命を賭けた戦争だ。本気で行くぞ!」
 次の瞬間、二人の間の緊迫した空気が一変し、両者の目の前には五枚の盾が展開される。
「これが、“ゲーム”のデュエマ……」
 急にプレッシャーがのしかかってきたが、姫乃はその重圧に耐え、カードを引く。



 先攻、姫乃の3ターン目。
「マナをチャージして、《コッコ・ギルピア》を召喚!」
「ほう? デッキが変わっているのは当然だが、ドラゴン主体のデッキか。皮肉だな、過去のお前のデッキは、ドラゴンには滅法強い種族だったからな」
 言いながら、深のターンが来る。
「《墓守の鐘ベルリン》を召喚」
「う、ブロッカー……」
 ブロッカーの出現に、たじろぐ姫乃。
 姫乃のデッキは、二箱分の拡張パックでかなり改善されているが、それでもありあわせ。資産のかかるコントロールデッキなどはとてもじゃないが作れず、光・自然の二色で構築した遅めのビートダウン系のデッキとなっている。それもドラゴンを搭載している、超異色の連ドラ、と言えなくもないかもしれない。
 そのため、ブロッカーを出されて攻撃を止められると、デッキカラーから除去がしにくく、かなり戦いづらくなってしまうのだ。
「わたしのターン……《竜舞の化身》を召喚して、ターン終了……」
「私のターンだ。《双剣の使徒ブレイ》を召喚し、ターンエンド」
 次々と並べられるブロッカー。なかなか攻勢に転じられない姫乃。
「《エコ・アイニー》を召喚、効果でマナチャージ……マナに置いたのがドラゴンだから、もう一枚チャージ。さらに《コッコ・ギルピア》をもう一体召喚」
 攻撃に移れないのなら、移れるまで準備を整える。姫乃のマナはどんどん増え、場にはドラゴンの召喚コストを減らす鳥が二体。
「ふん、だがその色構成ではすぐには動けまい。《光器クシナダ》を召喚」
「またブロッカー……わたしのターン」
 三体ものブロッカーを並べられ、焦りを覚える姫乃。だが彼女は、ドローしたカードを見るなり、目つきを変えた。
「これ! 《緑神龍バルガザルムス》!」


緑神龍バルガザルムス 自然文明 (5)
クリーチャー:アース・ドラゴン 5000
自分のドラゴンが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を表向きにしてもよい。そうした場合、そのカードがドラゴンであれば手札に加え、ドラゴンでなければマナゾーンに置く。


 深のブロッカーを突破できるだけのパワーを持つクリーチャー。さらにアタックトリガーで手札補充かマナチャージができる、強力なドラゴンだ。
 しかし、
「私のターン。《光器パーフェクト・マドンナ》を召喚だ」
「え……?」


光器パーフェクト・マドンナ 光文明 (5)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/エイリアン 2500
ブロッカー
このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、そのパワーが0より大きければ、離れるかわりにとどまる。


 《光器パーフェクト・マドンナ》。パワーがゼロにならない限り場に残り続ける不死身のブロッカー。壁としてはこの上ないほど有用で、また姫乃の攻撃が通りにくくなってしまったが、彼女の驚きの理由はそこではない。
「それは、わたしのカード……」
「分かるのか? そうだ、お前から取り上げたカードの一枚だ。有効活用させてもらっている」
 ターンエンドだ、と言って、手番を終える深。
 そうだ、なにも奪われたのは夕陽たちだけではない。姫乃自身も、この男に多くのものを奪われている。
 改めてそのことを自覚した姫乃は、次のカードをドローする。



「《アサイラム》でW・ブレイク! そして、《エンドラ・パッピー》でとどめだ!」
 一人目の信者を倒した夕陽。信者はダイレクトアタックの衝撃で吹っ飛ばされ、地面に頭を打ち付けて気絶した。
「《無頼勇騎タイガ》二体でシールドブレイク! 《番傘の牡丹》でとどめだぁー!」
 同時に、このみも一人倒したようだ。汐は三人同時に相手をしているため、まだ終わっていない。
 夕陽はふと祭壇のように高くなっている聖堂の奥を見遣る。そこでは、姫乃が戦っている。
「姫ちゃんのこと、気になる?」
 次の相手との戦いが開始され、シールドを展開している途中で、このみの声がかかる。
「そりゃまあ、今になってちょっと後悔してる。無理やり言いくるめるみたいにあいつと戦わせたこととか」
「うーん、あたしはだいじょうぶだと思うけど? 姫ちゃんはか弱い女の子だけど、あたしよりずっとしっかり者だから」
「お前よりずぼらな奴を探す方が難しいっての……でもま、必要なことでは、あるんだろうな——」
 ——姫乃と、深の戦いは。
「……考えても、もうどうしようもないか」
「そだよ。今はあたしたちがやるべきことをやんなきゃ」
「お前にそういうこと言われると物凄く腹立つんだが、とりあえず、もっと腹立つ奴の手下を蹴散らすところから始めるか」
 そう言って、夕陽はデッキに手を乗せ、ゆっくりとカードを引いた。

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.73 )
日時: 2013/07/27 08:06
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)

「《バルガザルムス》でシールドをブレイク! その際に、デッキの一番上を捲って……ドラゴンじゃないからマナに!」
「《ベルリン》でブロックだ」
「まだだよ! 《緑神龍グレガリゴン》と《緑神龍ガラギャガス》でWブレイク! さらに《バルガザルムス》の効果でマナチャージと、ドラゴンを手札に!」
「二体の《パーフェクト・マドンナ》でブロック」
 ことごとく止められてしまう姫乃の攻撃。
 現在、どちらもシールドは五枚。姫乃の場には二体の《コッコ・ギルピア》と《エコ・アイニー》。それと《緑神龍バルガザルムス》、全く同じ能力を持つ《グレガリゴン》に《ガラギャガス》といったように、かなり多くクリーチャーを展開できている。
 対する深の場は《光器クシナダ》《光器ララバイ》に、《パーフェクト・マドンナ》が二体。かなり守りを固めている。
「私のターン。《地獄門デス・ゲート》を発動、《コッコ・ギルピア》を破壊し、墓地からコスト2以下のクリーチャー……《墓守の鐘ベルリン》を復活」
「う、うぅ……」
 地獄の門より出でし悪魔の手に引きずり込まれる《コッコ・ギルピア》。その《ギルピア》を生贄に、墓地から《ベルリン》が復活する。
「さらに《ララバイ》の効果発動。光のハンターをバトルゾーンに出すたびに、相手クリーチャーをタップする。二体目の《ギルピア》をタップ、そして《クシナダ》で攻撃だ」
「あ……」
 《クシナダ》の光線に貫かれる《ギルピア》。緑の鳥は、墓地へと埋葬された。
「ごめん、《ギルピア》……わたしのターン!」
 反撃したいが、手札も尽きてきた姫乃。だがここで、最も欲するカードを引けた。
「《雷鳴の守護者ミスト・リエス》召喚! これでクリーチャーが場に出るたびに、わたしはカードを引ける。《バルガザルムス》で《クシナダ》を攻撃! 《グレガリゴン》《ガラギャガス》でシールドをW・ブレイク!」
「……《バルガザルムス》と《グレガリゴン》の攻撃はブロック。守れ《パーフェクト・マドンナ》」
 マナチャージと手札補充を行いつつ、シールドを割る《ガラギャガス》。しかし、
「S・トリガー発動《デーモン・ハンド》。《ミスト・リエス》を破壊したいところだが、そろそろ攻撃手を潰したい。《ガラギャガス》を破壊だ」
 悪魔の手に捕縛された《ガラギャガス》は、一瞬で地獄の底へと葬り去られてしまう。
「私のターン。私も《ミスト・リエス》を召喚。さらに《ベルリン》を召喚。《ララバイ》の効果でお前の《ミスト・リエス》をタップ」
「えっ、そんな……」
「《ベルリン》で攻撃《ミスト・リエス》を破壊だ」
 出て来て早々、墓地へと向かう《ミスト・リエス》。だがある程度、手札は潤った。
 深のデッキはブロッカーばかり。それも起動が遅い。今のうちに、攻めるだけ攻めておきたいところだ。
「《光神龍セブンス》《緑神龍ジオグラバニス》を召喚! 《バルガザルムス》と《グレガリゴン》でシールドをブレイク!」
「無駄だ《パーフェクト・マドンナ》でブロック」
 だがそれでも、《バルガザルムス》の効果でマナチャージと手札補充ができる。デッキも大分減ってきた、マナも十分なので、これ以上は必要ないかもしれないが。
「……分からんな」
 深は次のカードをドローしたところで、呟く。
「昔のお前は、もっと臆病だった。内気で奥手で、従順なただの少女だったはずだ。なのに、なぜ今、こうして私の前に立ちはだかっている?」
「言ったはずです。わたしは、友達と約束している、その約束を果たすためです」
「違う、それは建前だろう。他人の事情のみで動く人間などいない。選択権があるのなら、最終的に自分に利益のあることのみをするのが人間だ。その利益が、実利的なものであるかどうかは置いておくとしてな。それともお前は、友人と果たす約束に、命を賭けるほどの重要性があると思っているのか?」
「…………」
 黙り込む姫乃。正直、命を賭けた戦いなんて言われてもピンとこない。しかし深の言うように、夕陽たちと交わした約束だけが、自分の行動原理ではない。
 はっきりとその感情はあるが、言葉にするのは難しい。それでも、なんとか、独り言のように言葉を紡ぎ出す。
「わたしは……きっかけにのっかっただけ」
「なに?」
「わたしだって、貧しい暮らしのままでいいだなんて思ってない。お腹は減るし、ご飯は味気ないし、ぐっすり眠れないし、お風呂も二日に一回しか入れないし、トレイに行くのもためらうし、楽しいことはないし……いいことなんて、なにひとつない。こんな生活は嫌だ、って何度も思ったよ。でもその現実は変えられないし、変えられるとも思わなかった」
 表面ではそうと悟られないようにしていたが、それはすべて偽りの姿。見た目や言動以上に姫乃は強い少女だが、それ以上に弱い少女でもあった。
「おとうさんもおかあさんも、わたしのことなんて見てない。三人家族なのに、あの家にいるのはいつもわたし一人。寂しいし、辛いし、悲しいかった。もしかしたらずっとこのままなのかもしれないって思って、絶望すらした」
 けど、と姫乃は続け、
「最初はただの偶然、次はちょっと必然、その次は……分かんないけど、空城くんは、わたしにきっかけをくれた。空城くん自身にはそんなつもりはなかったみたいだし、偶発的に発生したきっかけで、ただの利害の一致、みたいなものだけど……それでも、変えられるきっかけには変わりない」
 それが今だよ、と締めくくる。
「……うん、そうだよ。わたしは今のままでいいだなんて思わない。あなたを倒して、空城くんたちのデッキを取り返して、カードの力も解いて、そして……おとうさんやおかあさんの目を覚まさせる!」
 力強く叫ぶ姫乃。それとは対照的に、深の反応は冷めていた。
「なにが、目を覚まさせるだ……彼らは元から、私の信者だ。覚めるもなにもない」
「それでも! なにかは変わるはずだよ! だから、わたしが変えなくちゃダメなんだよ!」
「……はぁ」
 諦めたように息を吐く深。
「お前も、結局は私利私欲のために動く人間の一人というわけか。良いだろう、ならば昔、お前に教え忘れたもの——絶望を、ここで教えるとしよう。呪文《ヘブンズ・ゲート》!」
「っ、それは……!」
 《ヘブンズ・ゲート》。手札から光のブロッカーを二体、タダで場に出す呪文。光のコントロール系デッキ、それも多くブロッカーを詰め込んだデッキなら、入っていてもおかしくはない。
「闇に身を堕とした戦乙女よ! 破滅の時間だ。数多の敵を葬るべく、戦場へと駆れ! 《破滅の女神ジャンヌ・ダルク》!」


破滅の女神ジャンヌ・ダルク 光/闇文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/デーモン・コマンド/ハンター 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある自分の光のハンター1体につき、相手は自身の手札を1枚選んで捨てる。


「……わたしの使ってた《ジャンヌ》とは違うんだね」
 そう呟く姫乃。安心したような、少し寂しいような、相反する二つの感情が入り乱れる。
 だがそんな思いに浸っているのも束の間、すぐに《ジャンヌ・ダルク》の“破滅の時間”が訪れる。
「《ジャンヌ・ダルク》の効果により、場の光のハンターの数だけお前の手札を破壊する! 私の場には二体の《ジャンヌ》と二体の《ベルリン》、そして《ララバイ》がいる。《ジャンヌ》は順番に出るため、合計で九枚の手札を墓地へ!」
 普通、九枚ものハンデスは手札をすべて捨てろと言うようなもの。そして実際、わりと溜まっていた姫乃の手札は一瞬で全て消し飛んだ。
 しかし、
「まだ! 手札から捨てられた時《無頼聖者サンフィスト》が場に出る!」
 姫乃の手札から飛び出したのは、黄色いアーマーを装着した二体の獣人。


無頼聖者サンフィスト 光/自然文明 (3)
クリーチャー:ビーストフォーク/イニシエート 3000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
ブロッカー
相手のターン中、このクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりにバトルゾーンに出してもよい。


「ふん、今更そんな雑魚が二体出て来たところで無意味だ。二体の《ジャンヌ》が現れたことにより、《ララバイ》の効果で《バルガザルムス》と《ジオグラバニス》をタップ。《ララバイ》で《バルガザルムス》に攻撃!」
「《サンフィスト》でブロック!」
 《ララバイ》はハンティング能力を持つクリーチャー。深の場には《ララバイ》自身を含めた五体のハンターがいるため、パワーは7500。《ジャンヌ・ダルク》に次ぐパワーだ。
(光のハンターが出るたびに相手クリーチャーをタップする《ララバイ》、思ったより厄介だよ……)
 分かっていたことだが、深の強さを改めて認識する姫乃。
 その強さに些かの戦慄を覚えながら、彼女のターンが訪れる。

デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.74 )
日時: 2015/08/16 04:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

「これなら……呪文《リーフストーム・トラップ》! 《エコ・アイニー》をマナに送って、《光器ララバイ》もマナゾーンに!」
「ほう、そう来たか。光文明が柱になっているゆえに除去カードが比較的少なめなこのデッキはタップキルで相手を潰すのが基本。パワーの高い《ジャンヌ・ダルク》ではなく、タップキルの起点である《ララバイ》を選んだのは正解だ。私の昔の教えをまだ覚えていたか。そういう子供には好感が持てる」
「好感なんて知らない。ターンエンド」
「つれない子供には好感が持てんな、今のでプラマイゼロだ」
 軽く肩を竦め、深のターン。
「……昔の、従順だった頃のお前は、今のお前よりは好感が持てたな」
「知らない。わたしだって、昔のままじゃない」
「そのようだ。実際、私もあの時を境に変わったのだしな。たった一枚のカードを手にするだけで、大革命が起こったかのように変わってしまったよ。きっかけが小さいわりに、結果は壮大だ」
「……?」
 首を傾げる姫乃。深が何を言いたいのかが理解できない。いつも、誰に対しても妙に難しく感じる言葉を使う深ではあるが、今の発言は言葉が難しいというより、言葉そのものをぼかしているように感じられる。
 実際、深は言葉をぼかしていた。ただそのぼかしは、すぐに取り払われる。
「見せてやろう、光ヶ丘姫乃。お前の家庭を変えた私、そんな私を変えた、大いなる力を!」
 深は三枚のカードを重ねる。《墓守の鐘ベルリン》《破滅の女神ジャンヌ・ダルク》そして《光器クシナダ》。
 刹那、場が静寂に包まれる
(え……?)
 無論、実際に音が消失したわけではない、そんな気がするというだけだ。だがその感覚はあまりにもリアルで、姫乃にさらなる戦慄を教える。
「慈しめ、美の完成形。愛の抱擁と無欠の身で、あらゆる破滅を包み込め——神々よ、調和せよ。進化MV!」
 静寂の世界に一陣の風が吹く。キラキラと光る風、見えないのに、とても美しいと感じる風。
 目の間では、その風の源が、渦となり、三体のクリーチャーを包み込んでいる。やがて風はその勢いを殺し、停止する。

「《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》!」

 現れたのは、聖母のような女性型のクリーチャー。慈愛に満ちた微笑みを称えている。非常に美しい、滑らかな裸体に純白のヴェールを纏っており、その肌はどこか彫像のような硬い質感をも与える。
 その容姿を一言で表すのなら、女神像。金色の女神像が、純白の薄布を纏っている。



慈愛神話 テンプル・ヴィーナス 光文明 (5)
進化クリーチャー:メソロギィ/メカ・デル・ソル/アポロニア・ドラゴン 12000
進化MV—自分のメカ・デル・ソル1体と光のクリーチャー2体を重ねた上に置く。
コンセンテス・ディー(このクリーチャーの下にある、このクリーチャーと同じ文明のすべてのクリーチャーのコストの合計を数える。その後、その数字以下の次のCD能力を得る)
CD4:自分の他の光のクリーチャーはすべてブロッカーを得る。
CD8:自分のターンの終わり、または相手のカードの効果によって自分のブロッカーを持つクリーチャーがタップされた時、バトルゾーンにある自分の光のクリーチャーをすべてアンタップしてもよい。
CD10:このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、かわりに自分の「ブロッカー」を持つクリーチャーを2体タップしてもよい。そうした場合、このクリーチャーはバトルゾーンを離れない。
T・ブレイカー



「……きれい」
 思わずそう呟いてしまう姫乃。だがそう言ってしまうのも無理はない。それほどの美が、《ヴィーナス》にはあるのだ。
「そうだろう。これが、私たちの象徴、我々【慈愛光神教】そのものだ!」
 そして声高らかに言い放つ深。
 【慈愛光神教】の象徴、シンボル。過去は実利と救済の双方を求める集団だった。だが今は、ただ貪欲に『神話カード』を蒐集する組織となってしまったと思っていたが、もしかしたら一概にそうとも言い切れないのかもしれないと、《ヴィーナス》を見て思った。
(……いや、もしそうでも、わたしのするべきことは変わらない。変わるため、変えるためには、思いだけは変えちゃいけない……!)
 何度も揺らぎそうになる姫乃の心、しかし揺れるたびにその決意をまた固め直していく。
「《ヴィーナス》でT・ブレイク!」
「あ……《サンフィスト》でブロック!」
 少々反応が遅れたが、《ヴィーナス》の光の波動を、《サンフィスト》が体を張って防ぐ。
「ターンエンド。そしてこの時、《ヴィーナス》の効果が発動する」
 深の言葉の直後、攻撃してタップ状態だった《ヴィーナス》がアンタップされた。
「……っ」
「《ヴィーナス》はターンの終わりと、相手のカード効果で自分のブロッカーがタップされた時、光のクリーチャーを好きな数アンタップできる」
「……防御に抜かりはない、ってことかな」
 ややこしいテキストだが、要するに《ヴィーナス》がいる限り、深のターンの終わりに光のクリーチャーはアンタップされる。さらにこちらが深のブロッカーをタップしても、光のクリーチャーがアンタップされるということだ。
「てことは、タップ系の呪文は使えないんだ……わたしのターン! 《口寄の化身》を召喚して二枚ドロー!」
 自分の場にある種族の数だけドロー出来る《口寄の化身》で、逆転の一手につなげようとする姫乃。
「さらに呪文《父なる大地》を発動!」


父なる大地 自然文明 (3)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、持ち主のマナゾーンに置いてもよい。その後、相手のマナゾーンから進化ではないクリーチャーを1体選び、相手はこれをバトルゾーンに出す。


「《ヴィーナス》をマナへ!」
「……残念だが、それは叶わないな」
 《ヴィーナス》の身体に乾いた樹木が巻きつく。樹木は少しずつ《ヴィーナス》を大地へと取り込んでいくが、突如《ヴィーナス》が輝き、その光で樹木を弾き飛ばした。
「えっ? な、なんで……?」
「CD12……《ヴィーナス》は場を離れる時、自分の光のクリーチャーかブロッカーを二体タップすることで、場に留まる。《ベルリン》と《ミスト・リエス》をタップだ。さあ、お前はどのクリーチャーを私の場に出す?」
「う……じゃあ、《邪脚護聖ブレイガー》を場に出すよ……」
 深のマナは、序盤に重いクリーチャーをチャージしていたために引っ張り出したくないクリーチャーばかり。後は呪文くらいで、一番実害のなさそうなのが《ブレイガー》だけだった。
「ターンエンド……」
 このターンの行動も無意味に終わり、深のターン。そこでさらなる脅威が姫乃に襲い掛かる。
「呪文《クイック・スパーク》を発動、コスト6以下のクリーチャーをすべてタップ! さらに《魔光王機デ・バウラ伯》で《ヘブンズ・ゲート》を回収だ!」
「……!」
 眩い閃光が放たれ、姫乃の場の《ジオグラバニス》を除く全クリーチャーがタップされてしまった。これはこれで、かなりピンチだ。
「《ヴィーナス》で《セブンス》を、《ジャンヌ》で《バルガ・ザルムス》を攻撃!」
「っ、《セブンス》! 《バルガザルムス》!」
 ドラゴンをブロッカーにする《光神龍セブンス》と手札を補給できる《緑神龍バルガザルムス》を同時に破壊される姫乃。手札もクリーチャーも失い、どんどんアドバンテージの差を広げられる。
「ターンエンド。そしてこのターンの終わりに、私にクリーチャーはすべてアンタップされる」
 攻撃後の隙もなく、すぐさま防御態勢を整える《ヴィーナス》とブロッカー軍団。全くつけこめない。
「わたしの、ターン……」
 力なくカードを引く姫乃。この状況を打破するカードはこのデッキに入っていただろうか、少なくとも一枚二枚のカードで何とかできるとは到底思えない。
「……ターン、終了」
 そして事実、姫乃が引いたカードではどうしようもない。何もせずにターンを終える。
「私のターン……遂に万策尽きたか。しかし、私に《ヴィーナス》を出させ、ここまで粘ったことは評価しよう。お前は私に負けたところで失うものはなにもない。恐れるな、お前はただ、静かに《ヴィーナス》の力を、その身で感じればいいだけだ」
 静かに告げられる、深の言葉。それは神の啓示のようであったが、神は神でも死神。死神のお告げは、死の宣告に他ならない。
 その宣告が今、現実となって姫乃に刃を向ける。


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