二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.431 )
日時: 2014/02/22 13:00
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 流れるようなドロン・ゴーでシールドと手札を一気に削り取られてしまった夕陽。S・トリガーの《オドル・ニードル》でなんとか凌いだが、それでもささみの場にはまだ《百仙閻魔 マジックマ瀧》《突撃奪取 ファルコン・ボンバー》の二体が残っている。このターンにどうにかしなければ、そのままダイレイクとアタックを決められてしまうのだ。
 逆に言えば、このターンでなんとかすればいいだけの話なのだが。
「……《スケルトン・バイス》ってさ、強いよね」
「は? なによ、いきなり」
「だからさ、4マナで二枚も手札を破壊する《スケルトン・バイス》は、流石プレミアム殿堂入りするだけあって、強力だよねって」
 あまりに唐突過ぎる夕陽の発言に面喰うささみだが、その内容自体には同意を示す。
「そりゃそうでしょ、2コストマナブーストから繋げれば早期に撃てるから、より強力になる。まあ普通に二枚ハンデスでも強いけどね。だからその《スケルトン・バイス》を内蔵しているこの《瀧》も、強力なクリーチャーよ」
 しかもブロックされないWブレイカーだ、弱いはずがない。それには夕陽も同意するが、
「そうだね、確かに《瀧》は強い。けど、弱点もあるよね」
「弱点? エグザイル・クリーチャーだから、同名クリーチャーを並べられないこと? でも、他のエグザイルと違ってドロン・ゴー先の《クーマン》なんかは並べられるし、そこまで弱点ってわけでも——」
「違うよ。ハンデスの方の弱点だ」
 ささみの言葉を遮って、夕陽は続ける。
「《瀧》のハンデスは強い。でも、それはアタックトリガーでしか発動しない。攻撃しないと能力が発動しないから、能力を発動させるためには攻撃しなければならない。クリーチャーを殴り返すのならそれでいいけど、相手にタップされているクリーチャーがいないなら、シールドをブレイクするしかないよね」
「……なにがいいたいのよ」
 迂遠に語り続ける夕陽。痺れを切らしたように、ささみは単刀直入に尋ねた。そして夕陽も、素直に答えた。
「シールドを割ってくれたおかげで、ハンデスされても手札ができたってことだよ」
 次の瞬間、夕陽のデッキが爆裂したように弾ける。いや、実際にはそんなことは起きていないが、ささみにはそう見えた。
「僕のターン! 《コッコ・ルピア》を召喚! さらに《ボルバルザーク・エクス》を召喚! マナをすべてアンタップして、《セルリアン・ダガー・ドラゴン》を召喚!」
 手札を使い切ってクリーチャーを並べていく夕陽。だがその手札も、《セルリアン・ダガー》の能力で補充される。
「よしっ、ベストなカードを引いた。《無双竜鬼ミツルギブースト》を召喚して、即マナへ! そしてパワー6000以下の《ファルコン・ボンバー》を破壊! 続けて《爆竜GENJI・XX》を召喚! 《GENJI》で《瀧》に攻撃、相打ちだ!」
 次々とささみのクリーチャーが破壊され、彼女のバトルゾーンにはなにもなくなってしまった。対する夕陽は、まだドラゴンが残っている。
「手札がないから、ドロン・ゴーもできないよね? ターン終了だよ」
「うっ、くぅ……!」
 悔しそうに歯噛みするささみ。事実、彼女は《マジックマ瀧》の高速ドロン・ゴーを決めた代償として、激しく手札を消費してしまっている。なので《マジックマ瀧》が破壊されても、ドロン・ゴーができない。
「あ、あたしのターン……《命水百仙 しずく》を召喚……」


命水(ウォーター)百仙(バイト) しずく 水文明 (3)
エグザイル・クリーチャー:アウトレイジMAX 3000
このクリーチャーはブロックされない。
ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に「百仙」とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
自分の他の、名前に「しずく」とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。


 引いた来たクリーチャーをそのまま召喚するが、スピードアタッカーを引けなかったのは痛い。
 残念だが、ささみの勝ち目はもうほとんど残っていないだろう。
「ターン、エンド……」
「なら、僕のターン!」
 意気消沈しかけているささみと、対照的に活力が漲ってくる夕陽。この様子だけでも、夕陽の優位が見て取れる。
「《偽りの名 バルキリー・ラゴン》を召喚! 山札から《闘龍鬼ジャック・ライドウ》をサーチしてそのまま召喚! そして、《アポロン》、出番だよ!」
「合点だ!」
 連続サーチで《アポロン》を手札に呼び込む夕陽。前のターンにも決めようと思えば決められたが、決めるなら確実に決めたい。そして、このカードなら、それが可能だ。

「《コッコ・ルピア》《ジャック・ライドウ》《バルキリー・ラゴン》の三体を進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

 三体のクリーチャーの力が集い現れたのは、《太陽神話 サンライズ・アポロン》。夕陽の相棒たる『神話カード』。
「行くよ《アポロン》!」
『ああ! 任せろ!』
「《アポロン》で攻撃! そして能力発動! まずはCD9! 山札の一番上を捲るよ!」
 こうして捲られたカードは、《メンデルスゾーン》。クリーチャーではないので手札へ。
「さらに! CD12!」
 夕陽はマナゾーンの《コッコ・ルピア》《無双竜鬼ミツルギブースト》《爆竜トルネードシヴァXX》の三枚を墓地へと落とす。
『これで俺のパワーは30000! そしてシールドをすべてぶち破るワールド・ブレイカーだ!』
 《アポロン》の周囲を旋回する小型太陽がどんどん加速し、頭上の疑似太陽も巨大化する。《アポロン》はそれらの太陽から膨大なエネルギーを得て、そのエネルギーを凝縮した熱線を、解き放つ。
「う、くっ……S・トリガー発動! 《月面ロビー・スパイラル》《地獄門デス・ゲート》!」


月面(ムーンサルト)ロビー・スパイラル 水文明 (6)
呪文
S・トリガー
相手はバトルゾーンにある自身の、タップされていないクリーチャーを2体選び、手札に戻す。


 ささみは決死の思いで二枚のS・トリガーを発動。夕陽の《ボルバルザーク・エクス》と《コッコ・ルピア》をバウンスし、《セルリアン・ダガー》を破壊して《ファルコン・ボンバー》を蘇らせた。
 だが、そこまでだ。
 彼女にはブロッカーはいない、シールドもない。だが夕陽の場にはまだ、アタックできるクリーチャーが残っている。

「《エコ・アイニー》で、ダイレクトアタック!」



 神話空間が閉じ、四人はほぼ同時に現実の世界へと戻って来た。
「ご、ごめんね、ささちゃん。負けちゃった……」
「いいのよ、うさ。あたしも負けたし……完敗よ」
 敗北したささみとうさみは、大人しく身を退いた。特に噛みついてきたささみは、あっさり道を空ける。
「約束よ、この先に進みたいならご自由に」
「ど、どうぞ……」
 二人に促され、顔を見合わせる夕陽たち。少々あっさりしすぎているのではと疑ってしまうが、
「……通してくれるなら、行こうか」
 そもそもここを通ることが目的なのだから、そこを疑っていては話にならない。
 夕陽たちはささみ、うさみの横を通り抜け、会場へと続く扉を、押し開ける。



「……ささちゃん、よかったの? あの人たちを、中に入れて……」
 夕陽たちが会場に入ってから、うさみはささみへと問いかける。
「なんで反対してからそういうこと言うのよ……まあでも、別にいいんじゃない。さっきはああ言ったけど、戦ってみて分かったわ。少なくとも『昇天太陽サンセット』は、あの人が喜ぶ相手よ」
「だから、ここを通したの? かいちょーさんを、喜ばせるために……?」
「そんなんじゃないけど……もしあたしが勝ってれば、突っ撥ねるつもりなのは変わらなかったと思うわ」
 うさみとそんな会話をしながら、ささみは数々の名前が記入された名簿を眺める。どうせ偽名もいくつか入っているのだろうが、こんなものは形の上だけの受付だ。本来不必要なものである。
 “ゲーム”の世界での種火となる『昇天太陽サンセット』が危険だと判断し、追い返そうとしたのは確かだが、その種火に対して、逆に燃え上がる相手もいる。そのことを深く考えれば、彼らを通さない理由はない。
「……久々に、楽しいパーティーになりそうね」
「ささちゃん、かいちょーさんが楽しそうだと、嬉しいもんね」
「なっ、いやちがっ……そんなんじゃないから!」
 焦ったように赤面しながら、うさみの言葉を否定するささみ。
 その直後だ。
「っ……うさ」
「う、うん……たぶん、かいちょーさん、だよね……」
 この扉の向こうで、一つの空間が展開された気配を感じた。いくら無礼講のクリスマスパーティーだからといって、会場内でそんな馬鹿げたことをする輩は一人しか思いつかない。
「……前言撤回。今年は去年以上に、大変なパーティーになりそう……」
 そのことを考えると、ささみはげんなりと、溜息を吐く。
 扉の向こうで起こっているだろう現象を、思いながら。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.432 )
日時: 2014/02/22 15:06
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 扉を押し開けて会場へと入った夕陽たち五人。その会場——大ホールは、正に圧巻の一言に尽きた。
 奥の壁が見えないほど広大で、ここは天国かと思うほど輝かしいシャンデリアが無数に釣り下がっている天井に、煌びやかな装飾を施した内装。
 ホールのいたるところには純白のテーブルクロスが欠けられた丸テーブルが置いてあり、そこにはいかにも三ツ星シェフが作りましたと言うような料理の数々。それを食する人々の意匠もまた、豪奢であった。
 絵に描いたというか、夢に見たとでもいうような豪華さ。あまりにも場違いな自分たちが悲しくなってくるが、そんなことも吹き飛ばすほど、その光景は凄まじかった。
 夕陽たちがその景色に圧倒され、言葉を失っていると、一つの人影が夕陽たちに近づいてきた。
「来たか。遅かったな、お前たち」
「あ、亜実……」
 その人物とは、『炎上孤軍アーミーズ』こと火野亜実だった。周りがスーツなりドレスなりと正装をしているにもかかわらず、彼女は男っぽいカッターシャツとジーンズという、趣味全開の普段着だ。
「亜実……なんでお前、そんな恰好なんだよ……」
「第一声がそれか。別に構わないだろ、正装していなければならないというルールはない。他にもちらほらと、普段着で着ている連中はいる。それに、あたしにああいう服は似合わないしな」
 確かに亜実の言う通り、たまに普通の服を着ている者もいる。中にはピエロやらナースやら宇宙服やら、おかしな恰好をしている者もいるが。
 それでも、やはり正装をしている者が多い。
「うーん、逆に似合うと思うけどなぁ」
「うるさい。そんなことよりもだな——」
 と、その時。
 また新たな影が、疾駆する。
「!?」
 その影は一直線に夕陽へと向かってきていた。道中のパーティー参加客を文字通り撥ね飛ばしながら、まっすぐに、夕陽へと突っ込んで来る。

「『昇天太陽サンセット』!」

 そんな叫びと同時に、その人影と夕陽は、神話空間へと飲み込まれた。



「な、なんなんだよ、一体……!」
 急に人に突っ込まれて名前を叫ばれたと思ったらいつの間にか神話空間でデュエルすることとなった。急展開過ぎてついていけない。
「『昇天太陽サンセット』! 俺と戦え! 戦うぞ! 戦うんだ!」
「だからなんなんだよお前は! 何者だ!」
「俺のターン!」
 無視された。というか夕陽の言葉が聞こえていないのかもしれない。
「くそっ、わけ分からねぇ……! ああもう! やるしかない!」
 そんなわけで始まった、夕陽と謎の男とのデュエル。
 夕陽の場には《コッコ・ルピア》が一体、シールドは五枚。
 男の場には《正々堂々 ホルモン》《飛散する斧 プロメテウス》の二体、シールドは五枚。
「なんか意味不明なままデュエルすることになってるし……なんなんだ!」
「落ち着け夕陽! いいじゃねえか、こうして戦うのなら分かりやすいだろ」
「そういう問題じゃないって……まあでも、あいつはまともに取り合ってくれる気ないみたいだし、速攻で終わらせて聞き出してやる」
 夕陽は勇みながらカードを引く。
「ここでコスト6のドラゴンを出してもいいけど……」
 相手の場に視線を送る。男に場にいるのはどちらもパワー1000のクリーチャー。数でこそ負けているが、《ホルモン》も《プロメテウス》も召喚すればもうほとんど用済みのクリーチャー。放っておいても問題ない。
「まだ攻めてこないみたいだし、こっちも準備を整えておくか……《エコ・アイニー》を召喚! マナを追加して、マナゾーンに落ちたのがドラゴンの《ミツルギブースト》だから、もう1マナ追加!」
 まだ夕陽も攻めず、マナを増やしてターンを終える。
 そして、男のターン。
「俺のターン! 《一撃奪取 トップギア》《一撃奪取 マイパッド》《蛙跳び フロッグ》を召喚!」
「うわ……っ」
 一気にクリーチャーを並べてきた。小型ばかりとはいえ、これはこれで厄介だ。
「やっぱ前のターンにドラゴンを出すべきだったか……いや、もうそんなこと悔やんでも仕方ない。僕のターンだ!
 夕陽はカードをドローし、手札を一枚マナへ。
「これで7マナか……なら《無双竜機フォーエバー・メテオ》を召喚! そして、《フォーエバー・メテオ》で攻撃、Wブレイク!」
 クリーチャーに攻撃できればそのまま殲滅できたのだが、残念ながらそれは叶わない。だが、先手は取れた。
「《エコ・アイニー》でもシールドブレイク!」
 《コッコ・ルピア》では攻撃せず、夕陽はターンを終える。
(次のターンにスピードアタッカーを引かれるかもしれないけど、ここで残りシールドを二枚にしておけば、次のターンに《エコ・アイニー》が破壊されても、《フォーエバー・メテオ》で残りのシールドをブレイクして、《コッコ・ルピア》でとどめを刺せる)
 それにもしこちらがスピードアタッカーを引ければ、S・トリガーが出てもとどめを刺せる確率が高くなる。
 やや分の悪い賭けではあるが、夕陽はこれが最善手だと思い選択した。
 しかし、
「俺のターン!」
 男の背後から、強大な覇気が、放たれる。

「無限の攻撃と無限の防御! 無法の皇よ、三千年の秘技を解き放て! 《無限皇 ジャッキー》!」


無限皇(インフィニティ・ビート) ジャッキー ≡V≡ 水/火文明 (8)
クリーチャー:アウトレイジMAX 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スピードアタッカー
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を墓地に置いてもよい。そのカードが進化ではないアウトレイジであれば、バトルゾーンに出す。
W・ブレイカー
相手の呪文を唱えるコストは無限のマナを必要とする。


「《ジャッキー》だと!? まずい……」
 現れたのは、水文明を代表するアウトレイジ、《ジャッキー》。数あるアウトレイジの中でも屈指の実力派であり、無限流と呼ばれる三千年の年月をかけて研磨された秘技は、その名の通り無限の攻撃と無限の防御を実現する。
 《ジャッキー》はスピードアタッカー、これだけでも夕陽のシールドをすべて割り、ダイレクトアタックに繋げるほどの打点があるのだが、加えて《ジャッキー》は攻撃時に山札からアウトレイジを呼び出すことができる。いわば、アウトレイジ版の《竜星バルガライザー》だ。
 さらに、呪文を唱えるコストも無限となり、実質的にコストを支払っての呪文を唱えられなくなる。夕陽のデッキは呪文は少ないものの、仮にS・トリガーなどでこのターン生き残ったとして、返しのターンに除去呪文が撃てない。
「行くぞ! 《ジャッキー》で攻撃!」
 夕陽に考える間など与えず、即座に《ジャッキーが》殴りかかってくる。その時《ジャッキー》の咆哮により、山札、そしてこの神話空間までもが震撼する。
「山札の一番上を墓地へ!」
 《ジャッキー》の雄叫びがデックトップを吹き飛ばした。そのカードがアウトレイジならば、そのままバトルゾーンに出すことができる。
 そして、バトルゾーンに現れた無法者は——

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.433 )
日時: 2014/03/03 21:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

終末の時計(ラグナロク) ザ・クロック 水文明 (3)
クリーチャー:アウトレイジMAX 3000
S・トリガー
このクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、ターンの残りをとばす。(次のプレイヤーのターンをすぐ始める。)


「…………」
「…………」
「…………」
「……ふっ、ターンエンドだ」
 《ジャッキー》の効果で呼び出されたのは《終末の時計 ザ・クロック》。
 場に出た瞬間ターンを強制終了させるという、型破りなアウトレイジらしい能力を持っており、S・トリガーで出れば問答無用で相手のターンがスキップされ、完全に攻撃を止めることができる。
 だが、逆に自分のターンに出してしまえば、残りのターンがすっ飛ばされ、そのターンそれ以上のことができなくなる。
 男は《ジャッキー》で《クロック》を呼び出してしまったがために、このターン夕陽にとどめを刺せなくなってしまった。せっかくのチャンスが潰えてしまう。
「こんなふざけた奴に負けてたまるか! 僕のターン!」
 なんとか難を逃れた夕陽だが、それが相手の自滅となっては逆にヒートアップするばかりだ。
「《ボルバルザーク・エクス》を召喚! さらに《ジャック・ライドウ》召喚! 来い、《アポロン》!」
「合点だぜ!」
 立て続けのクリーチャーを呼び出し、《アポロン》もサーチし、手札に呼び込む夕陽。さらに、《エコ・アイニー》《ジャック・ライドウ》《フォーエバー・メテオ》の三体が炎の渦に飲み込まれる。
「進化MV! 出て来い《アポロン》!」
『《太陽神話 サンライズ・アポロン》推参! そして、俺で攻撃だ!』
 ドラゴン展開から流れるような《アポロン》への進化へ繋げ、そのまま《アポロン》で攻撃。その瞬間、爆風が巻き起こり、《ジャッキー》のように山札の一番上のカードが吹き飛ばされる。
「最高のドラゴンが出たな……《ボルシャック・クロス・NEX》をバトルゾーンに!」
 《ボルシャック・クロス・NEX》がいれば、誰もコスト4以下のクリーチャーを召喚できない。見たところ男のデッキはほとんど呪文を積んでいないように見え、S・トリガーはさっき出て来た《クロック》頼みだろう。だが《クロス・NEX》なら、その《クロック》も封じられる。
 だが、
「S・トリガー発動! 《秘拳カツドン破》!」
 《アポロン》が焼き払う一枚目のシールドが、光の束となって収束する。
「手札から《プロメテウス》をバトルゾーンへ! 《プロメテウス》の能力で山札の上から二枚をマナへ! そしてマナゾーンの《ストップ》を回収し、《コッコ・ルピア》と強制バトル!」
 《プロメテウス》の斧が《コッコ・ルピア》を切り裂くが、《コッコ・ルピア》も決死の特攻で《プロメテウス》を貫き、相打ちとなる。
「……だからどうした。どの道、お前はこのターンで終わりだ! 残りのシールドもブレイク!」
 一度中断されたものの、《アポロン》の攻撃は終わっていない。二枚目のシールドにも熱線を放ち、吹き飛ばすが、
「S・トリガー発動! 《秘拳カツドン破》!」
「また!?」
 二枚目のシールドから現れたのは、またも《カツドン破》。再び手札からコスト7以下のアウトレイジが飛び出す。
「手札から《ストップ》をバトルゾーンに! 《アポロン》と強制バトル!」
「っ、しまった……!」
 《カツドン破》で現れた《ストップ》が《アポロン》へと突っ込んでいく。だが《ストップ》のパワーは3000、パワー15000の《アポロン》に到底敵うはずなどない。
『邪魔だ!』
 実際《アポロン》が軽く腕を払うだけで、《ストップ》は燃やし尽くされてしまう。だが、それこそが男の狙いだった。


破滅の時計(アルマゲドン) ザ・ストップ 水文明 (3)
クリーチャー:アウトレイジMAX 3000
シールド・ゴー
このクリーチャーを表向きにして自分のシールドゾーンに加えた時、このターンの残りを飛ばす。


「《破滅の時計 ザ・ストップ》のシールド・ゴー発動。お前のターンは終わりだ」
 急に熱が冷めたように落ち着きを見せる男だが、夕陽にとってはどうでもよかった。
『すまない夕陽、止められた……!』
「いや、これはどうしようもない……まさか、《クロス・NEX》が召喚だけを封じることをいいことに、《カツドン破》で出してくるなんて、思ってもみなかった……!」
 なにはともあれ、これで夕陽のターンは終わり。
 男のターンだ。
「《侵入する電脳者 アリス》を召喚」


侵入する電脳者(コードブレイカー) アリス 水文明 (5)
クリーチャー:アウトレイジ 4000
自分のアウトレイジが攻撃する時、カードを1枚引いてもよい。
自分のコスト7以上のクリーチャーが攻撃する時、カードを1枚引いてもよい。そうした場合、自分の手札を1枚、山札の一番上に置く。


 ダメ押しのように現れたのは、女性型のアウトレイジ《アリス》。ビートダウンが得意なアウトレイジが攻撃するたびにカードを引き、後続を確保することができるが、このクリーチャーの神髄はそこではない。女性型といえども、彼女も無法者のアウトレイジなのだ。
「今度は外さない! 《ジャッキー》で攻撃! 能力発動!」
 また《クロック》でも出て来れば万々歳だが、今度はそんなへま犯さない。
 《ジャッキー》が攻撃すると同時に、能力が発動する。ただし、《アリス》の能力が、だが。
「まずアウトレイジが攻撃したので一枚ドロー! 続けてコスト7以上のクリーチャーが攻撃したので一枚ドロー! その後手札を一枚山札の一番上に!」
 つまり《アリス》は、手札を補充するだけでなく、大型クリーチャーが攻撃した時、手札のカード一枚を山札の一番上に仕込めるのだ。これを《ジャッキー》と組み合わせれば、《クロック》のような外れを引くこともなく、好きなアウトレイジを踏み倒せる。
「そして《ジャッキー》の能力発動だ! 来い《疾封怒闘 キューブリック》!」
 《ジャッキー》の呼びかけに応えた無法者は《キューブリック》だ。
「《キューブリック》はどこからでも墓地に送られた時、マナゾーンに水のカードが三枚以上あれば、クリーチャー一体を手札に戻せる……《アポロン》を手札に!」
 そう《ジャッキー》の能力は他のデックトップからの踏み倒しとは違い、一度墓地を経由する。そのため、《キューブリック》などの墓地に落ちた時に発動する効果を使用できるのだ。
 そして《キューブリック》の効果が発動し、《アポロン》の周りに水流が発生。水流は渦となり、《アポロン》を飲み込んでいく。
『くっ、夕陽、すまない……!』
「《アポロン》!」
 手札に戻された《アポロン》。さらに男の場には《キューブリック》が降り立ち、加えて《ジャッキー》の攻撃がシールドを叩き割る。
「ぐぅ……S・トリガー! 《黒神龍オドル・ニードル》を二体召喚!」
 《ジャッキー》に割られたシールドから二体の黒龍が飛び出すが、
「《ホルモン》と《プロメテウス》で《オドル・ニードル》に強制攻撃!」
 すぐさま脇のアウトレイジに攻撃され、相打ちとなる。無法者たちの猛攻は、この程度では止まらない。
「俺のマナゾーンに火のカードは三枚! 《キューブリック》はスピードアタッカーだ! Wブレイク!」
「っ……S・トリガー発動! 《黒神龍オドル・ニードル》! 二体召喚だ!」
 《キューブリック》の刃に切り裂かれたシールドからも《オドル・ニードル》が飛び出す。これで夕陽のデッキに入っている《オドル・ニードル》をすべて繰り出したが、
「《トップギア》と《マイパッド》で《オドル・ニードル》を攻撃! 《フロッグ》で最後のシールドをブレイク!」
 それも《トップギア》《マイパッド》に討ち取られる。そして《フロッグ》が最後のシールドを砕くが、五枚目でS・トリガーは来なくなった。
 そして、無防備を晒す夕陽に、最後の無法者が襲い掛かる。

「《終末の時計 ザ・クロック》で、ダイレクトアタック!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.434 )
日時: 2014/02/22 17:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 神話空間が閉じ、夕陽と男は現実へと戻ってくる。
「くっ……アポロン……!」
「夕陽……!」
 神話空間の中で、夕陽は負けた。それはつまり、『神話カード』の所有権を失うことと同義だ。
 カードへと戻った《アポロン》が、夕陽の手から離れる。そして、男の手へと渡った。
「ぐ……っ」
 悔しそうに歯噛みする夕陽。
 唐突過ぎて納得のいくデュエルではなかったが、それはそれだ。結果は変わらない。
「空城くん……」
 夕陽はキッと男を睨みつけている。姫乃が心配そうに声をかけるのも、聞こえていないかもしれない。
「……お前は一体、何者——」
「楽しかったぞ、『昇天太陽サンセット』。いや、空城夕陽」
 夕陽が敵意剥き出しで男に問おうとするその時、男は手にした《アポロン》を手放し、夕陽の足元へと滑らせる。同時に、夕陽の中になにかが戻ってくるような感覚を得た。
「これって……」
「夕陽!」
 アポロンがカードから出て来る。
「夕陽、オイラ……」
「ああ、僕にも分かる。これは……」
 《アポロン》の所有権が、夕陽に戻った。
 つまりこの男は、《アポロン》を手に入れたにも関わらず、すぐさまその所有権を夕陽へと返還したのだ。
「どういうことだ……お前は一体、何者なんだ!」
 わけが分からない。いきなり勝負を仕掛けられたことも、《アポロン》を奪われたことも、そしてそれをすぐに返されたことも、なにもかもが意味不明だ。
 そんなやり場のない未知への不満をぶつけるように、男に問う。
 そして男は、敢然とした態度で、答えた。

「【神格社界】界長——ルカ=ネロだ」



「かい、ちょう……?」
 目の前の男、ルカ=ネロは、確かにそう言った。
 【神格社界】という組織は、様々な目的を持った者が集う組織。そしてこのルカは、その長。つまり、
「この人が【神格社界】の創始者ってことだ」
 亜実は夕陽を引き起こしながら言う。
「【神格社界】の創始者……それ、かなり凄いんじゃ……」
「そうだ。まあ、だから負けたからってあまり悔やむな。お前が勝てるような相手ではないんだ」
 亜実の説明によると、ルカは現時点の“ゲーム”の世界におけるナンバー2、二番目に強い男らしい。知名度で言えば、【ラボ】の所長ラトリ、【師団】の師団長ジークフリートと同列に語られるほどで、この三人が主に重鎮と呼ばれる存在らしい。
 そして歴代“ゲーム”最強と謳われるジークフリートと、まともに渡り合える数少ない参加者だそうだ。夕陽が勝てないわけである。
「いや、そうでもない。今回はかなり危なかったぞ……流石は巷で騒がれている『昇天太陽サンセット』というだけのことはある。なあ?」
 語りかけるような口調のルカ。その顔をよく見てみると、どこかで見覚えがあるような気もする。
「……先輩、この人」
「え? なに?」
「ひまり先輩が、その、亡くなった時……師団長の人と戦おうとしていた人です」
「あぁ……」
 言われて思い出した。
 ひまりを倒し、怒り心頭のジークフリートが夕陽にも迫った時、ラトリがその間に割って入った。だが彼女自身はジークフリートに対してはなにもしていない。代わりにジークフリートを追い払ったのが、この男——ルカだった。
「そういえば、あの時もあの場にいたんだったか。悪いな、ジークしか見てなかった。あいつとまた戦いたかったが、逃げられた……まったく付き合いの悪い奴だ」
「…………」
 まるで友達を遊びに誘って断られたかのような素振りのルカ。あの時は、そんな状況ではなかったと思うのだが。
「……まあ、それは分かったけど、なんでアポロンを返してくれたんだ……?」
「興味ないからだ」
 即答だった。
 さらにルカは、自分の戦う意義についても語り出す。
「俺は強い奴と戦えればそれでいい。俺が『神話カード』を持って強くなるより、他の『神話カード』を持って強くなった奴と戦う方が断然楽しいからな。奪うとか奪われるとか、そういうのはいらない。楽しいデュエルをすることこそが、俺の戦う意味であり、俺が“ゲーム”に参加している理由の一つだ。だから、そいつはお前が持ってろ。お前にはそいつが必要だろ?」
「…………」
 夕陽は言葉を失う。
 つまりルカは、戦うことそのものが目的なのだ。『神話カード』を集めるだとか、強くなるだとか、そういうことは彼にとって不必要なこと。戦いは楽しい、その戦いで楽しめればそれでいい。それこそが、彼の戦う意義。
 戦闘狂などと言ってしまえばそれまでだが、戦い終わった彼の、心の底からデュエルを楽しんだような笑みは、そんな陳腐な言葉で表すべきではないと思える。
「ま、そういうわけだ。たまたまお前たちが入ってくるのが見えたから、つい我を失って突っ込んじまったけど、楽しかったからよかったよな?」
「はぁ……」
 よくない、と反論しようとしたが、少年のような屈託のない笑顔を見せられては、毒気が抜ける。夕陽は曖昧に頷いておいた。
 と、その時。背後の扉が開く。
「界長! また勝手なことして! ほら、もうすぐ時間なんだから、早く準備してよ!」
「かいちょーさん、大丈夫、ですか……? お怪我とか、お洋服が破れたり、とか……」
 飛び出したのは、受付にいたささみとうさみ。
「お前たちか。どうした?」
「どうしたじゃないわよ、ほら、もうすぐ挨拶しなきゃいけないんだから!」
「なんのことだ?」
「始まる前に言ったじゃない! あーもう! とにかく来て!」
 疑問符を浮かべるルカに対して、まるで子供の世話でもしているようなささみ。彼女はルカの腕を引っ張る。
「で、では、みなさん、また、後ほど……」
「じゃあなー」
 ぺこりと頭を下げるうさみと、ひらひらと手を振るルカ。そうして三人は、どこかへと行ってしまった。
「……まあ、あんな人なんだ、うちのトップは」
「なんか……本当に変な組織だね、【神格社界】って」
「そうだな……」



 夕陽とルカとのデュエルがあり、会場はしばらく騒がれていたが、亜実が睨みを利かせているとその騒ぎも時間の経過と共に自然と収まっていった。
 夕陽は亜実と共に行動しているが、このみ、姫乃、汐は三人で、流は単独でそれぞれパーティーを満喫している。
 とりあえず騒がれないのは夕陽にとってはいいことだが、そんな中でも、近づいてくる者はいる。
「やあアミさん、今日は来てたんですね」
「半月ぶりだな、『炎上孤軍アーミーズ』」
「青崎、和登……」
 騒ぎが沈静化した頃合いを見計らってか、二人の男がやって来る。一人はこの場に溶け込んでしまいそうな正装だが、どこか軽さも残したカジュアルスーツを着込んだ青年。もう一人は、正装でこそないがわりときっちりしたコートを着込んだ男。
 『機略知将ノウレッジ』青崎記と、『深謀探偵シャーロキアン』和登栗須の二人だった。
「アミさん、こういうパーティーとかはあんまり参加しないと思ってたんですけど、今回は参加したんですか。どういう心境の変化です?」
「お前の目的とそう変わらん。情報収集だ」
「のわりには、高校生の男の子を侍らせてますね?」
「侍らせてるとか言うな。焼くぞ」
 《マルス》のカードを取り出しつつ、青年を睨みつける亜実。
 なにやら親しい、とは少し違うが、交流のある様子の二人。夕陽は、栗須とは面識があるが、こちらの青年は知らない。
「亜実、誰……?」
「ああ、そういえば君とは初めましてだね。『昇天太陽サンセット』、空城夕陽君」
 青年——記はフランクに夕陽へと話しかける。
「僕は青崎記、『機略知将ノウレッジ』って呼ばれることが多いかな。【神格社界】に限らず、いわゆる情報屋を営んでるんだ。なにか知りたいことがあったら僕に——」
「高校生に売り込むな馬鹿」
「痛いっ!?」
 亜実の鉄拳が記の脳天に直撃する。わりと勢いよく振り下ろされたように見えたが、記は大丈夫だろうか。蹲って悶絶しているが。
「……相変わらず愉快なことをしているな、貴様たちは」
 その光景を見ながら、しかし愉快そうではない栗須。そうだろう、彼と亜実は犬猿の仲、つい半月前も争い合ったばかりだ。
 そのこともあってか、亜実はデッキケースに手を伸ばすが、
「そう身構えるな。今日は戦うつもりはない」
「ですよねー、和登さん。界長がドンパチやらかしたお陰で、下手に騒ぐと巻き添えになっちゃいそうですもんね」
 敵意は剥き出しだが、戦う意思は見せない栗須。青崎の言う通り、ルカが夕陽たちの登場で軽く興奮状態なので、下手に戦う気を見せると戦いたくもない相手と戦う羽目になる。無駄な戦いは避けたい栗須にとって、ここで『神話カード』奪取のために動くのは得策ではない。
「……先輩」
「あ、御舟。どうしたの?」
 唐突に、ぬっと汐がやって来る。このみ、姫乃と行動していたはずだが、戻って来たようだ。
 いや、彼女にとってはただ戻って来ただけではないが。
「見覚えのある顔を見つけたので、戻って来たのですが……」
「やぁ」
 汐のジトッとした眼差しなど意にも介さず、片手を上げる記。
 そういえば、と夕陽は思い出す。汐と記は、夕陽たちが“ゲーム”に巻き込まれ始めた時に一度戦っている。ある種、因縁の相手ともいえる。
「久し振りだね、御舟ちゃん。元気してた」
「……どうも、です」
 だが『神話カード』を奪われた側の記は妙にフレンドリーで、逆に奪った側の汐は警戒度マックスだ。
「そう警戒しないでよ。僕は、今日は純粋にパーティーを楽しみに来たんだから。ほらほら、君ももっと楽しんだら?」
「……あなたがいなければ、もっと楽しめたでしょうね」
「手厳しいなぁ」
 汐に冷たくあしらわれる記だが、くすくすと笑っている。まったく堪えていない。
「まあそういうわけだから、今日くらいは仲良くやろうよ」
「やめとけ。こいつと仲良くするとロクなことにならない」
「誰かと仲良くしているところなど、見たこともないがな」
「二人も手厳しいなぁ」
 まだ出会って数分だが、なんとなく記のことが分かってきた夕陽。
 滲み出る胡散臭さが原因なのかは分からないが、この青崎記という男の仲間外れにされている感がひしひしと伝わってくる。本人はそれほど気にしていないようだが。
 【ラボ】や【師団】の面々ともそれなりに関わってきて、そのたびにこのように思ってきた夕陽だが、この【神格社界】の者たちに対しては、特にそう思う。
(なんか、【神格社界】って、変な人ばっかりだな……)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.435 )
日時: 2014/02/22 21:54
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

『皆様、大変長らくおまたせいたしました』
 突如、どこからか声が聞こえて来る。
 いや、どこからかなどと曖昧にする必要もなく、それは前方——広すぎてどちらを前と断定すればいいのかは分からないが——の段が高くなっているステージから聞こえてきたものだった。
「なんだ……?」
 夕陽は人混みを掻き分けて、ステージが見えるところまで移動する。そこでマイク片手に立っていたのは、ささみだった。
「あの子……なんであんなことしてるんだ? 受付じゃなかったのか?」
「奴は界長の秘書だからな」
 いつの間にか亜実がすぐ横にいた。
「界長はあんな性格だからな、【神格社界】の運営はほぼ彼女が受け持っている、らしい」
「らしいって、曖昧だな……それに運営?」
 夕陽の【神格社界】、ひいては“ゲーム”絡みの組織のイメージとはそぐわない言葉に首を傾げる。
「言っただろう、【神格社界】は他の組織とはかなり異なる組織だ。人が集まれば自然と金も動くし、その管理も必要だろう。帝国主義の【師団】や秘密主義の【ラボ】はともかくとして、“ゲーム”の世界における組織は会社染みた側面もあるからな。特に【神格社界】は相当オープンだ。組織に投資するような者もいるし、それを目的とした組織も存在する」
「マジか……」
 今まで【ラボ】や【師団】との関わりが強く、ラトリの言葉もあったので、夕陽は亜実のその言葉に少なからず驚いていた。
 “ゲーム”の、殺伐とした世界とはまた違う側面を垣間見た夕陽だった。
『——それではまず、【神格社界】界長、ルカ=ネロから挨拶を頂きたいと思います。界長、よろしくお願いします』
 ささみの言葉を受けて、壇上に現れたルカ。着替えたのか、きっちとしたスーツを着ている。
 こうして見ると意外とまともな人物に見える。さきほどはいきなり戦いを挑まれ、わけの分からないうちに敗北したが、そのスタンスは他の“ゲーム”参加者とは違う。だからといって完全に気を許したわけではないが、悪い人物ではない、と思う。
 ルカは壇上に設置されているマイクの位置を調整し、そこに口を近づける。とその時、ふとなにか思いついたような表情を見せた。
(う……)
 ぞわりと、なにか悪寒のようなものを感じる。そしてその嫌な気配が気のせいではないことを示すかのように、ルカは大きく息を吸い込み——
『空城夕陽! と、その愉快な仲間たち!』

 ——叫ぶ。

『今からお前たちに、決闘を申し込む!』



「決闘……?」
 突然言われたその言葉の意味を見失う夕陽。なんとか必死にその意味を、知りたくもないが考えているうちに、
『って、ちょっとー!? 界長! なにまた勝手なこと言ってんのよ! 挨拶は!?』
『ルールはこうだ! 俺とお前たち五人がそれぞれ順番に戦う、つまり俺はお前たちと五連戦だ! そこでお前たちが一勝でもすれば……』
 ささみを無視して続けるルカ。だが途中で言葉が繋がらない辺り、思いつきで言っているようだ。深く考えてのことではないらしい。
『……どうするか。そうだ、一千万円、賞金として一千万円贈呈しよう! 五人で分配すれば一人二百万だ!』
『一千万!? そんなに払えるわけないじゃない! この会場借りるのだってかなりのお金かかってるんだからね!? 一千万も払ったら今月も大赤字よ!』
『さ、ささちゃん……これ以上は、その、もう、滅茶苦茶……』
 うさみが仲裁に入ろうとするが、ヒートアップするささみと夕陽たちしか見ていないルカの二人を止めることなどできず、混沌としてきた。
 結局、挨拶とやらは有耶無耶になって消失し、代わりにルカと夕陽たちとのエキシビションマッチという催し物だけが、残ったのだった。



 壇上ではルカ、ささみ、うさみの愉快なコントが繰り広げられていたが、夕陽たちはそれを他人事と見てもいられない。ルカが押し通してしまった特別企画は夕陽たちとの五連戦、つまり夕陽たちはある意味メインの存在なのだ。
「……で、どうする? 僕らの同意なしでなんか決まっちゃったけど」
 同意はないが、しかしこの会場から抜け出せば戦わずには済みそうだ。夕陽は緊急招集をかけてこのみ、姫乃、汐、流の四人と相談タイムに入る。
 ちなみに会場から抜け出す案は、先ほどうさみがやって来て提案したものだ。彼女曰く、ルカはよくこういう無茶苦茶な企画を提案しているらしい。そのたびにささみやうさみ、またその他の者たちが振り回されるのだとか。この場合のその他の者たちは夕陽ら五人。ルカは自分が楽しむことしか考えていないようだ。
「あたしはいいと思うけど? だって一千万だよ? 一千万」
「いや、でも、お金のためにデュエルって、なにか違うような……」
 姫乃の言うことも分かる。夕陽も本気で一千万円も貰えるとは思っていないが、賞金目的で戦うというのは自分たちらしくない。自分たちにとってデュエル・マスターズというのは、そういうものではないはずだ。
「では、逆に考えればいいのです。デュエルすることを目的として、そのついでに勝てば一千万円が貰えると考えれば、そこまで後味が悪くなることもないでしょう」
「そうだな。相手は【神格社界】のトップ、負けて『神話カード』を失う恐れもない。その経験も、無駄にはならないだろう」
「意外と乗り気だなぁ、みんな……」
 姫乃は性格からかやや消極的なものの、このみはともかく汐や流は意外にノリノリだ。
「どうする、光ヶ丘?」
「わ、わたしっ? んっと、まあ、御舟さんや水瀬先輩の言うことも、分からなくはないかな……」
「そーだよ! 確かに料理は美味しいけど、このまま食べるだけで帰るなんてもったいないよ!」
 このみとしては、ただ食べるだけは不満らしい。
 うさみが言うには、本来なら他に企画があった(それもルカが誰かしらとデュエルするというもの)らしい。要は対戦相手が夕陽たちに入れ替わったというだけの話だ。
「んー……まあ、賞金云々はともかくとして、僕たちのレベルアップとかを考えると、ありなのかな……?」
 正直な話、夕陽はついさっきルカと戦ったばかりなので、進んで戦いたいとも思わない。少し、最初の印象が悪すぎた。その後の彼の性格からかなり緩和されたものの、まだその印象の悪さは引きずっている。
 しかし夕陽と姫乃が渋っても、やる気な三人に対しては多数決で押し切られ、結局はルカと戦うことが決定してしまうのだった。



「あーもう! またこうなった……しかも今回は最悪一千万の損失って! なに考えてるのよあのばかいちょう!」
「さ、ささちゃん、落ち着いて……かいちょーさんも、すごく楽しそう、だったし……?」
「楽しいからって一千万はないわ。まったく、好き勝手やってくれちゃって、うちの家計をやり繰りしてるのが誰だと思ってるのかしら……うちが破産してもいいのかしら……」
「で、でも、ささちゃん、最後はかいちょーさんのわがまままも、許すよね……」
「はぁ?」
「だって、本当に嫌だったら、止めてるもん……でも、止めなかったのって、かいちょーさんが勝つって、信じてるから、だよね……?」
「……ま、まあ、自分勝手な界長だけど、実力は本物だし、それはあたしたち自身がよく分かってることだし……いやでも! それでも負ける時は負けるわよ、あの界長も! もし最悪の事態になったら、明日からどうすれば……」
「大丈夫だと、思うけど……あの人たちも、事情を説明すれば、分かってくれるよ……たぶん」
「だといいけど……」



 そんなわけで始まった、空城夕陽と愉快な仲間たちvsルカ=ネロの変則エキシビションマッチ。
 夕陽たちは先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と順番に出て来て、各人ルカと戦う。この五戦の間に夕陽たちのチームが一勝でもできれば賞金獲得。負けたとしても、神話空間内でのデュエルではないので『神話カード』を奪われることはない。仮に奪われたとしても、すぐに返されるだろうが。
 なお、五連戦の途中、ルカは一戦ごとにデッキの変更が認められている。
 何千なのか何万なのか、桁数すら分からないほどのギャラリーに囲まれながら、今、夕陽たちは壇上へと上がっていく。


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