二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.411 )
日時: 2014/02/18 22:50
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「楽しそうだねぇ、君たち」
 汐、流、零佑の三人で《海洋神話》を用いたデッキを構築している最中、カランカランという鈴の音と共に、客が訪れた。
 汐と零佑はその人物に対し、特になんとも思わなかったが、流だけは激しい反応を見せた。
「お前……!」
「や、久し振り。『大渦流水モスケスラウメン』くん」
 その人物は、フランクに片手を上げる。
 黄色いコートが特徴的な、金髪の少年だ。歳は汐よりも下に見える。
「おいリュウ、誰だ?」
「……【神聖帝国師団】の四天王の一人だ」
 そして、流が負けた相手でもある。
 相手の正体が割れるや否や、汐は身構え、緊張も高まる。
「そ、ハスターだよ。前にそこの水瀬流くんと遊んでもらったんだ。ぼくの圧勝だったけどね」
 少年らしい悪戯っぽい笑みを浮かべるハスター。
「なんの用だ? また戦争を吹っかけに来たのか?」
「べっつにー? 正直、君たちに用はなかったんだよねぇ」
 白々しく言うハスターだったが、事実、彼は狙ってこの場所のいるわけではなかった。
「ぼくはカードショップの穴場を巡るのが趣味でね、ニャルと一緒に事後処理に勤しみつつ、いろいろこの町の穴場を探してたんだよ。その中で見つけた店の一つがここってわけ」
 まあ、店名から君らと関係ありそうだとは思ってたけど、とハスターは付け足す。
「本当はちょっと店を見てすぐ帰ろうと思んだけど……この場所に『神話カード』が二枚もあるのなら、それを見逃す手はないよね」
 デッキを見せつけつつ、ハスターはニヤリと微笑む。明らかに、戦う意思を見せていた。
「…………」
 流は腕を押さえた。あの時の傷が疼く。
 ダイレクトアタック時に受けるプレイヤーのダメージは、とどめを刺したクリーチャーのパワーが関わってくる。ひまりや亜実と違い、流にとどめを刺したのはコスト3のバニラクリーチャー。なので傷自体はそこまで大きくなかったが、服の下にはまだ包帯が巻かれている。
「ここは私たちの店です。あなたのようなお客さんには早く出て行ってもらいたいのですが——」
「待て」
 汐がカウンターから出ようとするのを、流は制止する。
「俺が行く」
「水瀬さん……ですが」
「俺にやらせろ」
 二言目は、命令形だった。
「俺は以前、こいつに敗北した。その雪辱戦だ」
「へぇ、君もそういうの気にするタイプなんだ? クールに見えて意外と熱い? ま、なんでもいいけど。君も今は持ってるんだろう? 《海洋神話》。なら先にそっちを貰っとくよ」
「できるものならな」
 流も、今しがた完成したばかりのデッキを手に、ハスターと相対する。
「リュウ……」
「ナガレだ。俺は大丈夫だ、任せろ」
 零佑も抑えつつ、流とハスターは、歪んだ空間に飲み込まれていく。
「じゃ、新しくデッキも組んだことだし、それの実験台になってもらうよ」
「奇遇だな。俺たちも新しくデッキを組んだばかりだ。その試運転をさせてもらう」
 そして二人は、神話空間へと突入する。



 流とハスターのデュエルは、まだどちらも大きな動きを見せていない。
 お互いシールド五枚。
 流の場には《青銅の鎧》《飛散する斧 プロメテウス》の二体。
 ハスターの場は《薫風妖精コートニー》のみ。
「ぼくのターンだね。マナチャージして、ターンエンド」
 ハスターはマナを溜めるだけで特に行動を起こさない。マナ加速すらしていないほどだ。
「なにを考えているかは知らないが……そちらが動かないのなら、こちらの準備を整えるまでだ。まずは《ライフプラン・チャージャー》を発動、山札の上から五枚を見て《蒼狼の始祖アマテラス》を手札に加える。さらに残りのマナで《アクア・スーパーエメラル》を召喚。手札とシールドを入れ替える」
 流のデッキは、三人の意見をいろいろと中途半端に取り込んでしまった感があり、デッキの方向性は《海洋神話》を出す、という一点を除いて一貫していない。だが逆に言えば、様々な戦術があり、その場その場で様々な手段を講じることができる、ということでもある。
「よーし、じゃあぼくのターン。これで5マナ溜まったよ」
 マナチャージして、ハスターは溜ったマナ全てをタップする。
「呪文発動! 《超次元フェアリー・ホール》! マナを一枚追加して、呼び出すのはこのサイキック! 開け、超次元門! 《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》!」


エイリアン・ファーザー<1曲いかが?> 闇/火文明 (4)
サイキック・クリーチャー:エイリアン 4000
バトルゾーンにあるエイリアンはすべて「スレイヤー」を得る。
覚醒リンク—自分のターンのはじめに、バトルゾーンに自分の《マザー・エイリアン<よろこんで>》があれば、そのクリーチャーとこのクリーチャーを裏返しリンクさせる。


 超次元の門より現れたのは、エイリアンの父《エイリアン・ファーザー》。それが母と一体となる時の片割れである。
「《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》か……またなにかのコンボを狙ったデッキのようだな」
「コンボはロマンだからね。難易度の高いコンボを決める時ほど気持ちいものはないよ」
「【師団】のわりにはまともなことを言うな。俺のターンだ」
 《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》に限らず、覚醒リンクしたクリーチャーは厄介だ。だが、覚醒リンクさえしなければ、対処しようはある。
「《蒼狼の始祖アマテラス》を召喚。山札から《スパイラル・ゲート》を発動。《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》をバウンス」
「あぁ、戻されちゃった」
 サイキック・セルが手札に戻されたが、ハスターはくすくすと笑うだけだった。
「まあ戻されても、また出せばいいだけだしね。呪文《超次元エナジー・ホール》! 一枚ドローして、開け、超次元の門! 《マザー・エイリアン<よろこんで>》!」


マザー・エイリアン<よろこんで> 光/水文明 (7)
サイキック・クリーチャー:エイリアン 6000
バトルゾーンにある自分のエイリアンはすべて「セイバー:エイリアン」を得る。
W・ブレイカー


 次に現れたのは、母なるエイリアン、《エイリアン・マーザー》。その父と一体となる時の片割れ。
「さらに《霞み妖精ジャスミン》を召喚して即破壊! マナを追加してターンエンド!」
 《ファーザー》を除去したら今度は《マザー》が出て来たが、流のすることは変わらない。
「《キング・ケーレ》を召喚。《マザー・エイリアン<よろこんで>》をバウンス。続けて呪文《セブンス・タワー》、メタモーフでマナを三枚追加」
 さらに、
「追加したマナを払い、《神秘の宝箱》。山札から自然文明以外のカードをマナゾーンへ」
 流は山札から一枚のカードを抜き取り、マナへと落とす。
(……奴のデッキは、光、水、自然の三色、ならば除去カードそう多く積んでいないはず。こちらの軽量クリーチャーが一掃される心配はなさそうだな)
 流はまだハスターのコンボに時間がかかると読み、そのままターン終了。
「ゆっくりだねぇ。ま、正直ぼくの方が出遅れてるけど。手札も微妙だし、ここは手札補充しといたほうがいいかな」
 カードをドローしつつ、ハスターは手札を眺める。そして、
「まずは《再誕の社》を発動。墓地のカードを二枚マナゾーンに置いて、次は《超次元ガロウズ・ホール》! 《プロメテウス》をバウンスして、《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》をバトルゾーンへ!」
 《プロメテウス》をバウンスされ、新たなサイキック《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》も並ぶ。超次元ゾーンを見る限り覚醒リンクを狙うためではなく、純粋な手札補充のために投入しているようだ。
「…………」
 流のデッキも除去カードばかりはいっているわけではないので、出て来た《<BAGOOON・パンツァー>》を除去できない。
「……仕方ないな。《プロメテウス》を召喚し、マナを二枚追加。マナゾーンから《ネプトゥーヌス》を回収」
 戻された《プロメテウス》を再度召喚し、前のターンに《神秘の宝箱》で仕込んだ《ネプトゥーヌス》を回収する。マナの枚数は足りているので、次のターンには普通に進化して召喚できる。
「ターン終了だ」
「《海洋神話》が手札に入っちゃったか。怖い怖い」
 などと言うが、ハスターは笑っている。怖いと言う状況を楽しんでいるようだ。
「《<BAGOOON・パンツァー>》の能力で、ターンの初めに一枚ドロー。続けてターン最初のドロー」
 一気に二枚手札を補充するハスター。さらに、
「呪文《スパイラル・ゲート》で《アマテラス》をバウンス! さらにこいつだ! 《サイバー・N・ワールド》を召喚!」
「っ!」
 呼び出されたのは《サイバー・N・ワールド》。その能力で、互いの墓地と手札が掻き混ぜられる。
「《ネプトゥーヌス》が……!」
 せっかく手札に加えた《ネプトゥーヌス》と、先ほどバウンスされた《アマテラス》が、他の手札もろとも山札に戻されてしまう。
(分かってはいたが、やはりこいつ……!)
 以前、負けた経験が、流の焦燥を加速させる。
 そしてハスターの強さを、より強く刻み込む。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.412 )
日時: 2014/02/19 16:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 手札に入れた《ネプトゥーヌス》を山札に戻されてしまった流。だが、手札が入れ替えられたので違う手を打つことができる。
「呪文《ドンドン吸い込むナウ》。山札の上から五枚を見て、《母なる星域》を手札に加える。自然のカードが手に入ったので、《アクア・アタック<BAGOOON・パーンツァー>》をバウンスだ」
「また戻されちゃったよ」
 流のデッキは、挙動こそ違うものの、バウンス系のカードが多い。時間稼ぎにしかならないバウンスも、サイキック・クリーチャー相手なら効果的だ。
「さらに《電脳決壊の魔女 アリス》を召喚し、三枚ドロー。手札二枚を山札の上に戻し、ターン終了」
 布陣を固めていく流。《ネプトゥーヌス》は山札に戻されたが、まだ流の優勢は変わっていない。
「うーん、どうしょ。とりあえずG・ゼロで《妖精の裏技ラララ・ライフ》を発動してマナを加速させるね。さらに《超次元フェアリー・ホール》で《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》をバトルゾーンに!」
 マナを増やしつつ、サイキックを呼び出すハスターは、さらに、
「続けて《超次元ドラヴィタ・ホール》! 墓地の《ラララ・ライフ》を回収して、超次元ゾーンから《マザー・エイリアン<よろこんで>》をバトルゾーンに!」
「っ、二体のサイキック・セルが揃った……!」
 これでは次のターンに覚醒リンクされてしまう。
 だが流の手札には除去カードがある。片方だけでもバウンスできれば、問題ない。そう思っていたが、
「まだまだ! さっき回収した《ラララ・ライフ》をもう一度G・ゼロで発動! マナを追加して、次は《超次元エクストラ・ホール》! 僕の墓地のカードを二枚デッキに戻して、《時空の喧嘩屋キル》をバトルゾーンに!」
「なんだと……!?」
 呼び出されたのは、よりによって《キル》。サイキック・クリーチャーにバウンス耐性をつけられてしまい、除去できない。
「くっ、まずい……!」
 カードをドローする流。しかし、サイキックを除去できるカードはない。
「……せめて、ブロッカーだけでも出しておくか。《アクア・スーパーエメラル》を召喚。手札を入れ替え、《キング・ケーレ》を召喚、《N・ワールド》をバウンス」
 さらに、今更手遅れな感はあるが、ここで流は攻め込む。
「《青銅の鎧》と《プロメテウス》でシールドをブレイク、ターン終了だ」
「……うん、じゃあぼくのターンでいいんだね?」
 ニヤリと微笑むハスター。
 ハスターのターンが訪れる。その瞬間、彼の場の二体のエイリアン、異次元の星の父と母が、光に包まれる。
「覚醒せよ、そしてリンクせよ! 《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》《マザー・エイリアン<よろこんで>》を覚醒リンク!」

「——《魅惑のダンシング・エイリアン》!」


魅惑のダンシング・エイリアン 光/水/闇/火文明 (20)
サイキック・スーパー・クリーチャー:エイリアン 12000
このクリーチャーが攻撃する時、自分のエイリアンを好きな数破壊してもよい。こうして破壊したエイリアン1体につき、相手のシールドをひとつ選んで持ち主の墓地に置く。
T・ブレイカー


 二体の父母は、一体となる。
 その姿は、愛し合うエイリアンの父と母による舞踊。この二体が舞い踊る時、エイリアンの内なる力が爆発し、敵を根絶やしにするのだ。
「《ダンシング・エイリアン》……だが、お前の場にエイリアンはいない」
 流の言う通り、ハスターの場にいるのは、他には《コートニー》とついさっき覚醒したばかりの《セツダン》だけだ。
 確かに《魅惑のダンシング・エイリアン》は強い、だが場にエイリアンがいなくては意味がない。
 しかし、
「心配しないで、お望み通りこれから出すよ。まずはマナ爆誕0で《陰陽の舞》を召喚!」
 マナゾーンからクリーチャーが飛び出す。だがそれも、エイリアンではない。
 マナ爆誕とは、端的に言えばマナゾーンからクリーチャーを召喚する能力だ。マナ爆誕持ちのクリーチャーは、マナ爆誕で召喚するためのコストを払うことで、マナゾーンから召喚できる。
 《陰陽の舞》のマナ爆誕のコストは0。つまりマナゾーンからタダで出せるわけだが、当然代償もある。この効果で召喚した場合、マナゾーンの自然のカードを一枚墓地に置かなければならないのだ。とはいえハスターのマナも結構溜まっているので、今更一枚削れたところで大した痛手にはならないだろうが。
「《陰陽の舞》……?」
 それよりも流が意識を向けるのは、《陰陽の舞》。この局面でそんなクリーチャーを出す理由が分からない。確かにマナゾーンのカードを一枚削るだけで出せるので便利だが、ビートダウンするわけでもなくエイリアンでもない。いまいちその登場の意義が見出せないでいた。
 だが、ハスターの場と今まで使用したカード、そしてマナゾーンのカードにふと目線を遣り、即座に理解する。
「《コートニー》《ラララ・ライフ》……! まさか……!」
「あ、気付いた? って言っても、気付くの遅すぎだけどね。っていうか君って、意外と井の中の蛙だよね。いや、単に無知なだけかな? このコンボ、かなり有名なんだけどなー」
 などと言いながら、ハスターは手札のカードを一枚、抜き取る。
「呪文《ヒラメキ・プログラム》。破壊するのは《陰陽の舞》だ」
 《陰陽の舞》はコスト5、なので山札から現れるのは、コスト6のクリーチャー。
「《サイバー・N・ワールド》はもう出しちゃったから、このデッキにあるコスト6のクリーチャーはあと一種類だけ。さあ、常勝の力を閃け! 《常勝ディス・オプティマス》!」


常勝ディス・オプティマス 光/水文明 (6)
クリーチャー:グレートメカオー/エイリアン 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スペース・チャージ:光/水
SC—光:呪文を1枚、自分の墓地から手札に戻す。
SC—水:自分のシールドを1枚、手札に加える。ただし、その「S・トリガー」は使えない。その後、自分の手札を1枚裏向きにして、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加える。
W・ブレイカー


 《ヒラメキ・プログラム》で現れたのは、常勝と言われたエイリアンの名軍師《ディス・オプティマス》。このクリーチャーは強力なスペース・チャージ能力を持つ。
 光のカードがマナに置かれれば、墓地の呪文を回収。水のカードがマナに置かれれば、手札とシールドを入れ替えられる。この二つの能力を組み合わせれば、一度使用したS・トリガー呪文を再びシールドの仕込み、唱えることができるのだ。
 だが、ハスターはそんな受動的な使い方はしない。もっとアグレッシヴで、派手な使い道を選ぶ。
「最後はこれで仕上げだ! 《カラフル・ダンス》!」
 最後に唱えるのは、《カラフル・ダンス》だ。
「山札の上からカードを五枚マナゾーンへ! その後マナゾーンのカードを五枚墓地へ!」
 これで最大5マナ回復できるハスター。しかし、やはり彼が狙っているのは、そんな小さなことではない。
 ここで重要なのは、マナゾーンに置かれる五枚のカードはすべて、《薫風妖精コートニー》の能力ですべての文明を持っている、ということだ。
 スペース・チャージは多色カードを用いれば、一度に複数の能力を発動できる。だが今は、シールドの入れ替えなど必要ない。必要なのは、呪文の回収だった。
「《コートニー》のお陰でぼくがマナゾーンに置くカードはすべて全文明になる。つまりどんなカードが置かれても《ディス・オプティマス》のスペース・チャージが発動するのさ。というわけで、《カラフル・ダンス》でマナゾーンにカードが五枚落ちたから《ディス・オプティマス》のスペース・チャージを五回発動! 《カラフル・ダンス》で墓地に送った呪文を五枚回収!」
「っ……!」
 嫌な予感しかしない。そしてその予感は、十割以上の確率で、的中する。
「さらに、そのまま回収した《ラララ・ライフ》をG・ゼロで発動! マナを追加するよ。そしてこの時《ディス・オプティマス》のスペース・チャージが発動して、《ラララ・ライフ》を回収。もう一回、G・ゼロ! 《妖精の裏技ラララ・ライフ》!」
 分かっただろうか。
 《コートニー》と《ディス・オプティマス》そして《ラララ・ライフ》。
 この三枚のカードを組み合わせるだけで、ハスターは無限にマナを増やすことができる。
 まず《コートニー》の能力でマナに置かれるカードはすべての文明となる。《ディス・オプティマス》が場にいる状態で、場にはスノーフェアリーの《コートニー》がいればG・ゼロでコストを支払わず《ラララ・ライフ》を唱えられる。こうしてマナゾーンに置かれたカードは光文明でもあるので、《ディス・オプティマス》のスペース・チャージが発動し、《ラララ・ライフ》を回収する。そして再び《ラララ・ライフ》を唱える、というループコンボとなる。
「なんて奴だ……!」
 流は、ただただ見つめるしかなかった。
 ハスターが、自分を殺しにかかる準備を整える様を。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.413 )
日時: 2014/02/19 18:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 流とハスターのデュエルは、長引いていた。
 だがこれは、ターン数が長引いているという意味ではない。時間がかかっている、という意味だ。
 もうどのくらい経つのか、神話空間の中では時間感覚が狂うが、今回ばかりはいつも以上に狂っている。
 シールドがまだ五枚ある流の場には、《青銅の鎧》《飛散する斧 プロメテウス》《電脳決壊の魔女 アリス》、そして《アクア・スーパーエメラル》と《キング・ケーレ》が二体ずつだ。
 対するハスターのシールドは三枚だが、場がとんでもないことになっている。その状況を今ここで説明することができないほどだ。
 ハスターの場にいたのは《巨人の覚醒者セツダン》《薫風妖精コートニー》《常勝ディス・オプティマス》《魅惑のダンシング・エイリアン》。
 だが、彼はこれらのクリーチャーに加え、さらなるクリーチャーを展開している。ハスターは《コートニー》《ディス・オプティマス》《ラララ・ライフ》の三枚のカードを組み合わせたループコンボを発動させ、マナを自由に増やしまくり、《セイレーン・コンチェルト》のようなマナ回収カードで手札を補充し、タップしたマナは《ボルバルザーク・エクス》でアンタップさせ、山札が切れそうなら一度《悠久を統べる者フォーエバー・プリンセス》を墓地に落として山札を回復、場に出たクリーチャーも《スパイラル・ゲート》で使い回し、さらには超次元呪文を連打してエイリアンのサイキック・クリーチャーまで揃える。
 このようにしてバトルゾーンに並んだのは《ボルバルザーク・エクス》《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》一体ずつと《勝利のプリンプリン》が四体だけだが、サイキックの登場時能力も使い回したので、流のブロッカーもアタッカーも動けない。流にとどめを刺すには十分すぎる戦力だ。
「ふぅ、ちょっと冷や冷やしたけど、なんとか揃ったね。今回は少しばかり事故ったけど、まあなにはともあれ、完成してよかったよ」
 ハスターは、まるでプラモデルでも作り上げたかのように、一息吐く。
 だが勿論、彼が完成させたのはプラモデルなどという玩具ではない。流にとどめを刺すための、破壊の布陣だ。
「こういうのはエクストラウィンとかを狙った方が手っ取り早いんだけど、やっぱりコンボは実用性よりロマンだよね。この一撃が決まった時の爽快感! あー、想像するだけでわくわくしてきた」
 映画上映間近の子供のようにうずうずと震えているハスター。もう一度言うが、彼が待ち望んでいるのは映画の上映などというエンターテイメントではなく、流を倒すという結果である。
「……ま、もう御託はいいよね。ここまで敷いた完璧な布陣、もう少し見ておきたいけど、時間ももったいないし、実験台になった君にも悪いからね……これで終わりだよ」
 一瞬、ハスターの目が冷たくなる。
 そして、次の瞬間、

「《魅惑のダンシング・エイリアン》で攻撃、能力発動!」

 ハスターの必殺の一撃が、解放される
 彼のバトルゾーンのエイリアン、四体の《プリンプリン》と《ディス・オプティマス》が爆ぜる。そして、舞い踊るエイリアンの父母、その舞踊が一段も二段も激しくなる。その激しい舞により発生した凄まじい衝撃波が、流へと放たれる。
「《ダンシング・エイリアン》の能力で、攻撃時、破壊したエイリアンの数だけシールドを破壊する。君のシールドはすべて墓地送りだ!」
 衝撃波は流のシールドを根こそぎにする。ブレイクすらされず、直接墓地へと送られたので、S・トリガーに期待することもできない。
 シールドがなくなった流は、エイリアンの父母の攻撃を防げない。
 《ダンシング・エイリアン》の最後の踊が、流へと襲い掛かる——

「——効かないな」

「……え?」
 その時だ。
 《ダンシング・エイリアン》が、水流に飲み込まれて消え去った。
「え? え? な、なに、なにが起こって——」
「お前は」
 軽くパニックに陥るハスターに、流は静かな言葉を放つ。
「シールドをすべて墓地に送れば、S・トリガーも発動させず、そのまま勝てると思っていたのかもしれないが、少し甘かったな。S・トリガーでなくとも、その攻撃を止める手立てはある」
「え……?」
「俺の墓地を見てみろ」
 流が指差すのは、先ほど《ダンシング・エイリアン》の能力でシールドから墓地に送られたカード。
「っ! これは……!」
 そのカードを見て、ハスターは吃驚する。


疾封怒闘(スパイラルアクセル) キューブリック 水/火文明 (7)
クリーチャー:アウトレイジ 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
自分のマナゾーンに火のカードが3枚以上あれば、このクリーチャーは「スピードアタッカー」を得る。
W・ブレイカー
このクリーチャーがどこからでも自分の墓地に置かれた時、自分のマナゾーンに水のカードが3枚以上あれば、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。


「《疾封怒闘 キューブリック》……どこからでも墓地に送られた時、マナゾーンに水のカードが三枚以上あればクリーチャーを一体バウンスできる。当然、シールドから墓地に送られても発動する」
「っ、そんなカードを入れてたなんて……見たところ、そのデッキに火文明なんてないじゃないか……!」
「タッチで少しだけ加えている。そもそもこいつの役割は、このようなバウンスだ。それに、踏み倒し手段もあるからな、普通に出すことはまずないだろう」
 《セツダン》はサイキック・クリーチャーにバウンス耐性を付けるカードだが、その効果の範囲は「バトルゾーンにいるクリーチャーか
呪文」なので、墓地に送られた時に発動する《キューブリック》のバウンスは防げない。
(手札に来て腐っていたのを、とりあえず邪魔だからシールドに埋めていたが……まさかこんな形で役立つとはな。このカードの投入を発案した御舟汐にも、感謝しなければな)
 墓地へと送られた《キューブリック》は二体。よってリンク解除を持たない《ダンシング・エイリアン》と《ボルバルザーク・エクス》がまとめてバウンスされる。
「で、でも、君のシールドはどの道一枚。ぼくにはまだ《コートニー》と《セツダン》がいる。《セツダン》でダイレクト——」
「それは通さない。《斬隠オロチ》をニンジャ・ストライクでバトルゾーンに」
 これで《セツダン》を山札に戻すつもりかとハスターは思ったが、しかし流が取った行動は違うものだ。
「《青銅の鎧》を山札の底へ」
「自分のクリーチャーを……?」
 流の2ターン前、彼は《電脳決壊の魔女 アリス》を出し、山札を操作していた。
 その操作したカードのうち一枚は、まだ彼のデッキの頂点で眠っているはずだ。つまり、《オロチ》の効果で出て来るのは、
「零佑……お前の力、借りるぞ」
 友人に感謝の意を込めつつ、流は山札の頂点にあるカードを、解き放つ。

「出て来い! 《サイバー・G・ホーガン》!」

 《オロチ》の能力で現れたのは《サイバー・G・ホーガン》だった。零佑も愛用するクリーチャーで、確かに展開力の必要な『神話カード』とは相性が良い。
「そして《サイバー・G・ホーガン》の能力発動、激流連鎖! 山札の上二枚を捲り、こいつよりコストの低いクリーチャーをすべてバトルゾーンへ!」
 勢いよく山札のカードを捲り上げる流。そして捲れた二枚は、
「捲れたのは《キング・シャルンホルスト》と《斬隠テンサイ・ジャニット》だ! 《キング・シャルンホルスト》で《セツダン》をブロック、相打ちにする! そして《テンサイ・ジャニット》の能力で《コートニー》をバウンス!」
「あ、う……」
 ことごとくクリーチャーの攻撃を止められるハスター。気付けば彼の場にはなにもない。
(だが、油断はできない)
 《ディス・オプティマス》の呪文回収能力を如何なく発揮していたハスターだが、《ディス・オプティマス》にはシールド交換の能力もある。
 ループの最中、シールドに埋まっているキーカードを探す目的もあるだろうが、もしもの時、仮に攻撃を防がれた時、防御用のS・トリガーを仕込んでいても不思議はない。
(俺のシールドはゼロ、《ナチュラル・トラップ》程度ならいいが、スパーク系呪文では太刀打ちできない。もし攻撃が止められれば《<BAGOOON・パンツァー>》にとどめを刺される)
 しかし、手札にはもう除去カードがない。だからといって下手に引き延ばすと、スパーク呪文でブロッカーを無力化されてしまう恐れもある。
(場にクリーチャーは揃っている。欲を言えば、次のターンに決めたいところだが……)
 次のターンに決めるか、1ターン伸ばすか、どちらが最善の選択なのか、悩ましいところだ。
 だがその選択権を絞る存在が、流のデッキにはあった。
(こんな時、奴がいれば——)
 ふとそんなことを思った、その時だ。

 ——我を呼んだか

 流の脳内に、重い声が響く。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.414 )
日時: 2014/02/19 22:18
名前: 大光 ◆HynV8xBjBc (ID: kBbtVK7w)

学校に現れた終末の神々テストのことですと戦っている大光です。

そんなどうでもいい冗談は置いといて、流対ハスターのデュエルですが、まさかのラララオプティマスのループを行うとは...、あれって凄いソリティアですよね。ついでに相手がキーカードを手札に加えたところに《サイバー・N・ワールド》を使うと、結構効果的なことにこれをみて気付きました。
そしてソリティアの末に強力な布陣を築き上げたハスターでしたが、やはりクリーチャーでアタックすることは少し残念でしたね。まあ、デッキ開発部の青い悪魔みたいなことをされると、流石にヤバイですが。
流の窮地を救ったカードの一つの《オロチ》ですが、こいつもループコンボがあったはずです。それと《オロチ》は、《ミステリー・キューブ》などでクリーチャーを踏み倒すデッキと相性が良さそうと思ったのですか、どうでしょうか?
窮地を脱した流ですが、遂にあのクリーチャーが現れるときが来るのか?
...これって感想と言えるでしょうか?
ついでに九頭龍などの裏設定を深夜に投稿出来そうです。それと希野の登場の検討をしていただきありがとうございます。



Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.415 )
日時: 2014/02/19 22:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 ——我を呼んだか

 流の頭の中に、重く静かな声が響き渡った。
「っ……!」
 思わず周囲を見回す流。だが、その声の主と思しき姿はない。

 ——我はここだ

「ここ……?」
 次に目を向けたのは、デッキ。さらに言えば、山札の一番上。
 流はゆっくりとそのカードを、持ち上げる。
 そして、
「《ネプトゥーヌス》……!」
「いかにも」

 実体を得た《ネプトゥーヌス》が、カードから飛び出す。

 デフォルメされているが、三さの槍を構えた厳格な雰囲気は変わらない。声にも重みを感じ、軽さをまったく感じない。
「我が力を使え、流」
「…………」
 手札と相手のフィールドを見遣る流。そして再び、ネプトゥーヌスに視線を戻す。
「……分かった。お前の力、また使わせてもらおう」
 マナは十分すぎるほどに足りている。わざわざ踏み倒す必要もない。
「行くぞ……《キング・ケーレ》《飛散する斧 プロメテウス》《電脳決壊の魔女 アリス》を進化元に!」
 刹那、《キング・ケーレ》を中心とした三体のクリーチャーが大渦に飲み込まれた。大渦は水流となり、柱の如く天へと上っていく。
「海神の怒り、三叉の槍と天地を揺るがす嵐をもって、すべての大海を支配せよ! 神々よ、調和せよ! 進化MV!」
 大渦は一つの収束する。そして、流水の鎖を断ち切り、一体の海神が、その姿を現す。

「——《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》!」

 怒りの海神が、水飛沫を散らしながら顕現する。三叉の槍を静かに構え、ジッとハスターを見据えている。
「《ネプトゥーヌス》……」
『案ずるな、流』
「……あぁ、そうだな」
 短く応答する二人。言葉数こそ少ないが、意思疎通は完ぺきだった。
「うわ……《海洋神話》出て来ちゃったよ……」
 《ネプトゥーヌス》の登場で本格的に焦り出したのはハスター。S・トリガーに期待をかけようにも、シールドの中身が分かってしまっているので期待もなにもない。それに、《ネプトゥーヌス》という存在もある。
『我が能力発動、コンセンテス・ディー6。我が主に、三つの知識をもたらす』
「三枚ドローだ」
 《ネプトゥーヌス》の表現を訳しつつ、三枚のカードを手に入れる流。
『続けてコンセンテス・ディー9。貴様の知識と盾の内を見、罠を消し去る』
「お前のシールドと手札をピーピングし、それぞれ一枚ずつ入れ替える」
 強制的に公開させられるハスターの手札とシールド。案の定、やはりS・トリガーを仕込んでいた。
「お前のシールドの《DNA・スパーク》と、手札の《獰猛なる大地》を入れ替えろ」
「う……っ」
 元々コンボパーツに押されてS・トリガーを投入する余裕はほとんどなかったのだろう。ハスターのシールドに埋められているS・トリガーはそれだけだった。手札にシノビもいない。
『最後だ、コンセンテス・ディー12! 我が流水に、飲み込まれるがいい!』
 三叉の槍を振り回し、《ネプトゥーヌス》は叫ぶ。同時にどこからともなく激流が押し寄せ、唯一ハスターの場にいた《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》をバウンスする。
「お前のクリーチャーはすべて山札送り……とはいえ、サイキックは超次元ゾーンに戻るだけだがな。さあ、これで終わりだ」
 もし《DNA・スパーク》を発動されていれば、勝ち目はなかった。しかしそれも潰した今、ハスターが生き残る術はない。
 矮小な少年に、巨大な海神が迫る。
「《ネプトゥーヌス》でTブレイク!」
 投槍のように、三叉槍を飛ばす《ネプトゥーヌス》。その一撃で、ハスターのシールドは三枚まとめて砕け散る。当然、S・トリガーは出ない。
「マジやば、完璧に終わった……これ」
 完全な詰み。これ以上の逆転は絶対に不可能。
 そのことを思い知らされながら、ハスターは襲い掛かる最後の一撃を見る。

「《サイバー・G・ホーガン》で、ダイレクトアタック——!」



「あーあ……負けちゃったよ」
 神話空間が閉じるや否や、ハスターは唇を尖らせる。だがそれもすぐに綻び、笑みへと変わっていった。
「まあでも、そこそこ楽しかったかな? 負けたけどコンボ自体は決まったし、ぼくも全力全開! ってわけでもなかったしね。今まで影を潜めていた《海洋神話》も表に出るようになりそうだし、それなりの収穫はあったってことにしとこう。いやー、有意義な休暇だった」
 白々しくもそんなことを言うハスターだが、実際あまり悔しがっているようには見えないし、負け惜しみというわけでもないようだ。
「じゃ、ぼくはもう帰るよ。ばいばい」
「……待て、そう簡単に逃がすと——」
 さり気無く出口に向かっていたハスターに手を伸ばす流。汐と零佑も身構えていたが、
「えい」
 ハスターは三人に向けて、それぞれ一枚ずつカードを飛ばす。
「!」
 流は避け、零佑は受け止め、汐も受け止めたがすぐに捨てた。
 【師団】がカードを放るということは、大抵の場合クリーチャーの実体化が目的だ。ここで新たなクリーチャーが実体化されては困る。すぐに対処しなければならないと、三人は構えたが、
「実体化しない……?」
 カードはカードのまま、実体化しなかった。
「これはただのカードだ。我らの影響を受けたそれではない」
 いつの間にか、デフォルメされたネプトゥーヌスが床に落ちたカードを一枚拾い上げていた。
「どうやら、ブラフだったようですね。今の間に逃げられたようです」
「あ、本当だ……逃げ足早いなぁ、あいつ」
 気付けば、ハスターは見る影もなくその場から逃走していた。零佑の言うように、逃げ足が早い。
「……まあいい、あいつらとは、また接触する機会があるだろう。それより……ネプトゥーヌス」
「呼んだか」
 流の呼びかけに、ネプトゥーヌスは振り向く。
「……お前は、俺の力となってくれるのか?」
 一度はこの手を離れた力だ。汐には返してもらったが、こうして実体と意志を持って存在している以上、ネプトゥーヌスの意向を無視することはできない。
 だから流は問うた。自分は、またこの力を手にしてもいいのかと。
 ネプトゥーヌスは、静かに答えた。
「勿論だ。我らは単独では微々たる力しかない。だが、我は汝の力があれば、我が力をどこまでも広げられると信じている。我にも汝が必要だ」
「……そうか」
 その答えに流は安堵する。自分が彼の力を必要とするように、彼もまた自分の力が必要だと言う。
(今初めて理解した。もう、この力は手放したくない。この《ネプトゥーヌス》だけは、失いたくない)
 かつて海の家の店長に欠けていると言われた、執着心。
 今まで理解の及ばなかった感覚だが、今ここで、理解した。
 この、目の前の存在を失いたくないという気持ちが、まさしくそれなのだろう。
「よろしくたのむ、ネプトゥーヌス」
「ああ、こちらこそ頼むぞ、流よ」
 理解と同時に、流とネプトゥーヌスの間で、契約が交わされる。水流を操る青年と、海洋の神。それが今、元の流れへと戻った。
 即ち、水瀬流。彼は真に、《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》の所有者となったのであった。



「……『神話カード』、ですか……」
 汐は、流とネプトゥーヌスの契約を見て、ふと呟く。
 自分が持っていた『神話カード』を、彼に返還したのは正解だった。ここまでのことはさすがに予想していなかったが、その予想以上に良い結果に辿り着いたと思う。
 だが彼女はもう一枚、似た境遇のカードを保有している。
(私は、《ネプトゥーヌス》は水瀬さんが持つべきだと判断したから、彼に返還したのです。先輩には《アポロン》、このみ先輩には《プロセルピナ》、光ヶ丘さんには《ヴィーナス》……それぞれが、それぞれの『神話カード』を所有しているです。それはまるで、彼らが『神話カード』と強い繋がりを示すかのように)
 ならば、自分はどうなのだろう。
 今、自分の所有するもう一枚の『神話カード』が、そうなのだろうか。
 もしくは、他に自分と強い繋がりを示す『神話カード』が、存在しているのだろうか。
 それとも、自分に見合う『神話カード』は、存在しないのだろうか。
(そして……あのカードは——)
 まだ眠っている、あのカード。
 賢しき愚者の神話は、誰の手に渡るべきなのか。
 それは、汐には分からなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。