二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.471 )
- 日時: 2014/02/28 04:06
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
かくして始まった、夕陽と汐のデュエル。
夕陽の場には《コッコ・ルピア》が一体、シールドは五枚。
汐のシールドも五枚あり、場には《一撃奪取 ブラッドレイン》《豚魔槍 ブータン》《神豚 ブータンPOP》の三体。
「僕のターン」
カードを引きつつ、夕陽は汐の場に目を向ける。
(海の家で流と戦った時と、昨日見た闇単色のアウトレイジデッキ……とは、違うな)
神(シェン)豚(トン) ブータンPOP(ポップ) 無色 (4)
エグザイル・クリーチャー:アウトレイジMAX/オラクル 4000
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から3枚を見てもよい。そうした場合、そのうちの1枚を自分の手札に加え、残りを墓地に置く。
ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《神豚》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
自分の他の、名前に《神》とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。
闇単色ではなく、そこに無色カードも織り込んだ、準闇単色と言ったところか。さらに言うと、《ブータンPOP》の種族はアウトレイジとオラクル、その混合デッキとも言えるだろう。
(場数では結構差ができちゃってるし、エグザイルが二体ってのはきつい……早く決めたいけど、御舟はS・トリガーを多めに積む傾向があるからな……)
速攻で決めるということは、とどめの一撃はギリギリの土壇場になる可能性が十分考えられる。そんなギリギリの状態でS・トリガーを踏んでしまえば、逆転される恐れもあるだろう。
だが、
(下手に長引かせて、昨日の界長戦の二の舞は御免だ。オラクル入りとはいえ、アウトレイジはビートダウンが得意な種族。反撃準備を整えておくに越したことはない)
幸い、まだ手札はある。手札破壊を受けたとしても、次のターンにもドラゴンを呼ぶ余裕くらいはあるだろう。なのでここは、
「《ガイアール・アクセル》を召喚! ターン終了だ」
味方をサポートするドラゴンを呼び出す。次のターンから本格的に攻めるのだ。
「では、私のターンです。《神豚 ブータンPOP》で攻撃、能力発動です」
《ブータンPOP》は攻撃時、山札の上三枚を見て、その中のカードを一枚手札に、残りを墓地に送る能力がある。攻撃しながら手札が増やせ、墓地も肥える。これでパワーもそれなりにあり、コストパフォーマンスに優れるゼロ文明らしいカードと言えるだろう。
「山札の上から三枚を見て、一枚を手札に加えるですよ。残りは墓地へ置き、そしてシールドブレイクです」
《ブータンPOP》の槍が夕陽のシールドを突き破る。
しかし、そのシールドは、光の束となり、顕現した。
「S・トリガー! 《王龍ショパン》!」
夕陽の場には《ガイアール・アクセル》がいるので、《ショパン》はS・トリガーを得て召喚される。
「そして《ショパン》の能力発動!」
相手クリーチャー一体と強制的にバトルを行う。つまり、疑似的な6000火力を放てるのだ。
とはいえここでどのクリーチャーを破壊するかは、考え物だ。
(一番無難なのは《ブラッドレイン》だろうけど、《ブータンPOP》の効果は鬱陶しいし、《ブータン》の打点も馬鹿にはできない。でもこの二体はエグザイル、ドロン・ゴーされたら厄介だけど……)
夕陽は汐の手札を見遣る。先ほど《ブータンPOP》で補充しているので、今は二枚。
(……前のターン、御舟は《ブータン》で攻撃しなかった。攻撃したら、次のターンで破壊される可能性があるけど、この早いターンで《コッコ・ルピア》を失うわけにはいかないし、自爆特攻は普通はない。でも《GENJI》とかが出ればそのまま殴り返せる)
だがその殴り返しを考慮してなのか、《ブータン》で殴りに来なかったところを見ると、手札に《ブリティッシュ》はいないのかもしれない。
(勿論《ブータンPOP》で手札に入れられている可能性もあるけど、この早い順目で手札は二枚、ドロン・ゴーされる可能性は低いはず。《ブータンPOP》を皮切りにしてビートダウンに移行されるのも嫌だし、どうせそのうち対処しなければならないクリーチャーだ。ここは一か八か)
破壊する。
「《ショパン》の能力で《ブータン》と強制バトル! 相打ちで破壊だ!」
その巨体で《ショパン》は突貫し、《ブータン》も槍を構えて迎え撃つ。結果、パワーが同じ二体のクリーチャーはともに破壊された。
「……単純ですね、先輩は」
「なに?」
「こんな簡単なトラップにも引っかかるのですから、単純です。もっと二手三手先、裏の裏の裏までかかなければ、私は倒せないですよ」
その時、汐は《ブータンPOP》で手札に“入れていない方”のカードを、抜き取った。
「統治せよ、地獄の国家。生きとし生ける者は死者への糧、魔槍の王の君臨です——《地獄魔槍 ブリティッシュ》」
「っ、出て来た《ブリティッシュ》……!」
とんだ罠に掛かってしまった。
どうやら汐は前のターン、破壊される可能性があり、ドロン・ゴーの準備を整えていたにもかかわらず、《ブータン》で攻撃せずに、破壊される機会もふいにした。
このS・トリガーを読んでのことなのかは分からないが、少なくとも今回は、そのトラップに引っかかってしまった。
「《ブリティッシュ》が出た時の能力で、先輩の手札を一枚墓地へ」
「あ……《バルキリー・ラゴン》!」
手札から落とされたのは《バルキリー・ラゴン》。後続のドラゴンに繋げるつもりだったのだが、潰されてしまった。
「クリーチャーが墓地に落ちたので一枚ドロー。さあ、私のターンは終了です」
早速大型クリーチャーが出て来てしまい、一気に苦しくなる夕陽。だが、
「まだ僕の手が完全に消えたわけじゃない……《セルリアン・ダガー・ドラゴン》召喚! 僕の場にはドラゴンが二体いるから、二枚ドロー!」
さらにこの《セルリアン・ダガー》は、《ガイアール・アクセル》の能力でスピードアタッカーだ。
「《セルリアン・ダガー》で攻撃、Wブレイク!」
「……S・トリガー発動です。《プライマル・スクリーム》で山札の上から四枚を墓地へ送り、《世界の果て ターミネーター》を回収です」
二枚のシールドを割られる汐。《プライマル・スクリーム》をトリガーするも、夕陽の攻撃を捌くことはできない。
「よし、ならここは……《ガイアール・アクセル》でもWブレイク!」
殴り返しの危険はあるが、夕陽の手札にはスピードアタッカーもいる。ここは削れるだけ削っておきたい。
だが、
「S・トリガー発動です。呪文《デッドリー・ラブ》」
「なっ、やば……」
ブレイクされた四枚目のシールドから現れたカードは《デッドリー・ラブ》。自身クリーチャー一体を代償に、相手クリーチャーを破壊する呪文。
「破壊するのは《ブータンPOP》、先輩は《コッコ・ルピア》を破壊してください」
「くそっ、《コッコ・ルピア》が……しかも……!」
最後のシールドをブレイクする予定だった《コッコ・ルピア》が破壊されただけでなく、汐はここで《ブータンPOP》を破壊した。
それは、つまり、
「《ブータンPOP》が破壊されたので、ドロン・ゴー発動です」
死した《ブータンPOP》の魂が、新たな身体を得て転生する。オラクルになろうとアウトレイジでありエグザイルの《ブータンPOP》は、ゼロの力に染まりながらも、エグザイルだけに伝わる力を使うことができる。
「ドロン・ゴー——《神豚槍 ブリティッシュROCK》」
神(シェン)豚(トン)槍(ギヌス) ブリティッシュROCK(ロック) 無色 (7)
エグザイル・クリーチャー:アウトレイジMAX/オラクル 6000
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を墓地に置いてもよい。その後、自分の墓地にあるカードの枚数よりコストが小さい相手のクリーチャーを1体、破壊する。
W・ブレイカー
ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《神》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
自分の他の、名前に《神》とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。
転生した《ブータンPOP》が新たに手に入れた身体も、ゼロの力に染まっていた。オラクルのそしてゼロの力を注ぎ込まれた《ブリティッシュ》は、アウトレイジでありオラクルでもあるゼロのエグザイル《ブリティッシュROCK》となる。
「こっちもドロン・ゴー……《ブリティッシュ》二体が揃い踏みかよ……!」
どちらも元は《ブータン》で今は《ブリティッシュ》だが、エグザイルとして唯一存在できる名称は違うため、共存できる。
それはそれとして、かなりまずいことになった。
(こっちのシールドは四枚、相手の場にはWブレイカーの《ブリティッシュ》が二体に《ブラッドレイン》が一体……)
普通にこのまま、押し切られてしまうだけの戦力が揃ってしまった。
「では、私のターンですね」
そしてこのターン。
夕陽に、魔王の槍が襲い掛かる。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.472 )
- 日時: 2014/02/28 16:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
夕陽と汐のデュエルは、汐が場を支配していた。
夕陽のシールドは四枚、場には攻撃してタップした《ガイアール・アクセル》と《セルリアン・ダガー・ドラゴン》。
汐の場には《一撃奪取 ブラッドレイン》《地獄魔槍 ブリティッシュ》《神豚槍 ブリティッシュROCK》の三体がおり、シールドは残り一枚。
「では、私のターンですね」
S・トリガー発動でドロン・ゴーに繋げつつ、このターンに夕陽を葬るだけの戦力を揃えた汐。
だが、彼女の取った手は、夕陽をこのターンに殺すことではなかった。
「まずは呪文《ボーンおどり・チャージャー》で山札の上二枚を墓地へ、チャージャー呪文はマナへ。続けてもう一枚《ボーンおどり・チャージャー》です」
最初に汐は、マナと墓地を増やす。ここまではいい。
だが、この後だ。
「《ブリティッシュ》で《ガイアール・アクセル》を攻撃です」
「え……?」
汐は夕陽ではなく、《ガイアール・アクセル》を攻撃。そして破壊した。
「クリーチャーが墓地へと落ちたので《ブリティッシュ》で一枚ドローです」
「あ、あぁ……」
このターン、汐には夕陽にとどめを刺せるだけの戦力がいる。しかし、夕陽を攻撃しなかった。
少々驚いた夕陽だが、しかしそのプレイング自体は分からないでもない。夕陽のマナゾーンにS・トリガーはない、公開ゾーンで見えているのは、前のターンに出た《ショパン》だけだ。
(S・トリガーを警戒したのか……でも、僕相手に1ターン引き延ばすのは命取りだ)
御舟らしくもない、と心中で夕陽は歓喜する。
夕陽の手札にはスピードアタッカーのドラゴンが複数いる。次のターンに連続でそれらを呼び出し、一気に勝負を決めることは可能だ。
いつもの汐なら、夕陽のデッキのパターンは分かっているはず。なのでこの状況で勝負を引き延ばすような真似はしないはずなのだが、
(やっぱり、クールぶっていても頭の中では熱くなってるんだな。冷静じゃない御舟なら、怖くはない)
まだ油断はできないが、しかしこれなら、ほぼ勝ちは決定したようなもの。
夕陽は再び、胸中で歓喜する。
「《ブリティッシュROCK》で攻撃、能力発動です」
いくら夕陽が狂喜乱舞していたとしても、今は汐のターン。彼女の攻撃はまだ終わらない。
「攻撃時、山札の一番上を墓地へ。その後、私の墓地のカードの枚数以下のコストの相手クリーチャーを一体破壊です。破壊するのは《セルリアン・ダガー》ですよ」
《ブリティッシュROCK》の槍が《セルリアン・ダガー》を貫き、破壊する。
そして次に、その槍は夕陽へと向けられた。
「クリーチャーが墓地に行ったので《ブリティッシュ》でドロー……そして《ブリティッシュROCK》でWブレイクです」
《ブリティッシュROCK》の槍が夕陽のシールドを二枚、突き破った。さらに、
「《ブラッドレイン》でもシールドをブレイクです」
これで残りシールドは一枚、汐に追いつかれてしまった。
しかし、
「……それで終わりか? だったら僕のターンだ」
このターン生き残っているのなら、まったく問題ない。
「まずは《コッコ・ルピア》を二体召喚! さらに《ボルバルザーク・エクス》を召喚! マナをアンタップして、《セルリアン・ダガー・ドラゴン》を召喚!」
夕陽の場にドラゴンは二体。なので二枚ドローし、
「夕陽!」
「アポロン……!」
引いたカードは、アポロンだった。
「夕陽、オイラを出すんだ!」
「ああ、分かった! 《爆竜GENJI・XX》を召喚! そして《コッコ・ルピア》《セルリアン・ダガー・ドラゴン》《ボルバルザーク・エクス》を、進化MV!」
一体の火の鳥と二体のドラゴンが炎の渦に飲み込まれていく。その中でその三体は、神話となるのだった。
「出て来い《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
呼び出された夕陽の『神話カード』、《アポロン》。
《アポロン》は爆炎を吹き上げて顕現し、汐を、そしてその裏にいるアルテミスを見据える。
『……夕陽、アルテミスがなにを考えているのかは俺にも分からない。汐のことも、俺にはまったく分からない。だが、一つだけはっきりしていることがある』
《アポロン》は視線を夕陽に向け、静かに、しかし熱く、その言葉を発す。
『この勝負には勝たなければならない。汐のことは、悪いがお前に任せるしかない。だが俺は、夕陽の元を離れるつもりはない、俺には夕陽が必要だ、ひまりとの約束もある……だから、勝つぞ!』
「そんなこと、言われるまでもない! 行くよ《アポロン》! シールドを——」
「待ってください」
今まさに攻撃せんとするその時、汐にストップをかけられた。
「その攻撃、本当にシールドに向かってよいのですか」
「……なに? まさか君が、この期に及んで怖気づいた、なんてことはないよね」
「そんなわけないじゃないですか。これは先輩に与えるチャンスです。先輩はシールドではなく、《ブリティッシュ》と《ブラッドレイン》から破壊した方が、よいように思われるですが」
「…………」
ブラフだ、ハッタリだ。
夕陽は自分にそう言い聞かせる。汐は前のターンもプレイミスを犯していた。そのミスに今更気づき、夕陽の攻撃を躱すためのハッタリをかけているだけだ。
恐らく手札に《ヴァーズ・ロマノフ》でも持っているのだろう。《ブリティッシュ》と《ブラッドレイン》が破壊された後に墓地進化で呼び出し、《ブリティッシュROCK》と共に攻撃するつもりなのだろう。
そんなトラッシュトーク紛いの行為をしてまで勝ちに来るほど、汐はこの勝負にかけているのだろうか。夕陽はそんな風に考えた。
そして、
「《アポロン》……シールドブレイクだ!」
『ああ!』
夕陽は、シールドブレイクを選択する。
『俺の能力! クリーチャーを呼び出す! 来い《ボルシャック・スーパーヒーロー》!』
「そして《ボルシャック・スーパーヒーロー》をマナに送って《ブラッドレイン》は破壊だ!」
《ブラッドレイン》は破壊された。そして直後、《アポロン》の放つ熱線が、汐のシールドを突き抜ける——
「——S・トリガー発動です」
「な……っ!」
が、そのシールドは、暗い光の束となって、汐に手中に入るのだった。
「呪文《ブータン両成敗》」
ブータン両成敗(ジャッジメント) 闇文明 (3)
呪文
S・トリガー
相手は自身のクリーチャーを1体選んで破壊し、その後、自分のクリーチャーを1体破壊する。
飛び出たS・トリガーは《ブータン両成敗》。そのカードに、安どの溜息を漏らす夕陽。
「……ふむ、もしこの感覚が外れていたら、私はただのルールとマナー違反者になっていたところですが、あの青崎という人の言うことも、間違いではなかったようですね。思った通り、本当にS・トリガーでした」
一方汐は、まるでこのトリガーが発動することを予測していたかのようなことを呟いているが、夕陽の注意はそこには向かない。
「互いにクリーチャーを破壊だろ……なら僕は《ボルシャック・スーパーヒーロー》を破壊するよ」
もしこれが《地獄門デス・ゲート》などであれば、《GENJI》が破壊され、墓地からブロッカーを呼び出されて攻撃が止められていた。
しかし、安心するには早い。いや、安心など、本来できるはずがない。
夕陽は気付くべきなのだ。《ブータン両成敗》の真価は、自分のクリーチャーを破壊するところにある。そして汐にとって、自身のクリーチャーが死ぬことは、新たな力を得ることと同義であった。
「私は《ブリティッシュROCK》を破壊です」
《ブータン両成敗》の効果で、汐もクリーチャーを破壊しなければならない。破壊したのは《ブリティッシュROCK》。
「《ブリティッシュROCK》が破壊されたので、ドロン・ゴー発動です」
「え……?」
失念していた。ドロン・ゴーで大きくなったクリーチャーでも、ドロン・ゴーはできるということを。たとえば《ブリティッシュ》を破壊したとしても、汐の手札に二枚目の《ブリティッシュ》がいれば、もう一度その《ブリティッシュ》を呼び出せる。
だが《ブリティッシュROCK》に限っては、そうはいかない。《ブリティッシュROCK》が破壊されたからといって、呼び出されるのは、次の《ブリティッシュROCK》ではないのだ。
その時、世界が震撼する。常識を粉砕する、神聖なる偽りの、無法の神の降臨に。
無法と神託の力を得た《ブータンPOP》《ブリティッシュROCK》には、さらなる力が内包されている。
「……支配せよ、神聖の国家。死した民たちは不滅の奴隷、神鎗の神の降臨です——」
そしてその、最終の力が、解き放たれた。
「——《神聖牙 UK パンク》」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.473 )
- 日時: 2014/05/19 02:10
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
神(シェン)聖牙(チュリー) UK(ウルトラナイト) パンク ≡V≡ 無色 (11)
エグザイル・クリーチャー:アウトレイジMAX/オラクリオン 14000
このクリーチャーを召喚または「ドロン・ゴー」能力を使ってバトルゾーンに出した時、コスト7以下のオラクル、アウトレイジまたはデスパペットをすべて、自分の墓地からバトルゾーンに出す。
T・ブレイカー
ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《神》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
自分の他の、名前に《神》とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。
《神豚槍 ブリティッシュROCK》がドロン・ゴーした、《神豚 ブータンPOP》最後の姿——《神聖牙 UK パンク》。
ゼロの力を注ぎ込まれ、《不死帝 ブルース》の力を取り込み、オラクリオンと化した《ブリティッシュ》のなれの果て。しかしその力はオラクルとアウトレイジ、二つの種族を《ブルース》の不死の力で支配する、凶悪なものだ。
「《UK パンク》の能力発動。このクリーチャーが召喚、及びドロン・ゴーで現れた時、墓地に眠るコスト7以下のオラクル、アウトレイジ、デスパペットをすべてバトルゾーンへ」
次の瞬間、《UK パンク》が雄叫びを上げる。
その叫びで、汐の墓地が蠢動し——《一撃奪取 ブラッドレイン》《血塗られた信徒 チリ》《特攻人形ジェニー》《闇噛のファミリア ミョウガ》《代打の消耗 テンメンジャン》《魔犬人形イヌタン》《解体人形ジェニー》《自壊のファミリア トリカブト》——墓地に沈んでいたクリーチャーたちが、《UK パンク》の咆哮により一斉に目覚めた。
「……!」
声も上げられない夕陽。この状況は、まずい。
「とりあえず、先輩に手札はないので《ジェニー》や《ミョウガ》の能力は発動しないでおくですよ。ですが、こちらは発動です」
超巨大な切り札が登場したにもかかわらず、汐本人も至って冷静で、淡々と場を進めていく。
「《自壊のファミリア トリカブト》の能力発動です。私は《トリカブト》自身を破壊、先輩もクリーチャーを破壊してください」
「う……!」
『夕陽……』
夕陽が破壊出来るクリーチャーは《爆竜 GENJI・XX》か《太陽神話 サンライズ・アポロン》のどちらか。
とどめを刺すことを考えれば、このターンにまだ攻撃していない《GENJI》を残したいが、汐の場にブロッカーは二体。これでは《GENJI》一体だと突破することができない。
タップしているとはいえ、《アポロン》のパワーなら殴り返しはない。ここでブロッカーを減らしておきたいと思わなくもないが……夕陽には、自ら《アポロン》を破壊することはできなかった。
だが、その選択は最悪の結果を招く。夕陽がそれを目の当たりにする時は、既に一寸先まで迫っている。
「……《GENJI》を破壊するよ」
しかし、今ここで夕陽が、そのことを知る由もない。この絶望的状況からの逆転を試みるのは、それこそ絶望的。夕陽は《アポロン》を残し、《GENJI》を破壊した。
「では、ターン終了ですか」
「ああ……」
このターンはこれ以上動けない。夕陽は仕方なく、ターン終了を宣言する。
そして、汐のターンが訪れる。
「私のターンです。まずは呪文《邪魂創生》で《ジェニー》を破壊し、三枚ドローです」
この期に及んでカードをドローすることになんの意味があるのかと問いたくなるが、今の夕陽に、その権限はない。
今の夕陽は、誰がどう見ても、支配される側なのだから。
「もう一枚《邪魂創生》です。《ジェニー》を破壊し、三枚ドローです」
汐の山札が残り少ない。だが夕陽に残された時間の方が、それよりもずっと少ない。
マナを使い切り、後はとどめを刺すだけと言うその時、汐は、夕陽に問いかける。
「では、先輩……なにか言いたいことはないですか」
「え?」
遺言ということだろうか。
しかし汐は、間違えたです、と訂正した。
「私に、なにか言うことはないですか」
「君に、言うこと……」
「このデュエルの目的を見失わないでください。このデッキは今の私そのものです。先輩なら分かるでしょう、今の私がどうなっているか。正直な話、私も少しデュエルに熱中してしまったのですが、これがファイナルターンです。ですから、最後に先輩の答えを聞かせてください」
このデュエルの目的。それは、この戦いを通して、互いの主張をぶつけるというものだったはず。
汐は、先輩なら分かるでしょう、などと言っているが、過大評価しすぎだ。夕陽には汐の言わんとしていることが分からない。分かるとすれば、いつもの彼女とはまるで異なる、ということだけ。
「僕は……」
必死に言葉を探り出す。ここで汐の求める答えが導き出せれば、なにかが変わるかもしれない。
しかし、結局、夕陽にはその言葉が出なかった。
「……分からない」
夕陽は呟く。
心の底からの、本心を。
「君の言いたいことも、君になにがあったのかも、僕には、全然分からないよ」
「……そうですか」
残念です、と。
「《UK パンク》で攻撃——アタック・チャンス」
汐は手札からカードを四枚、公開する。
「呪文《トンギヌスの槍》」
トンギヌスの槍 無色 (6)
呪文
アタック・チャンス—名前に《神(シェン)》を持つクリーチャー
相手のカードを1枚、バトルゾーン、マナゾーン、またはシールドゾーンから選ぶ。バトルゾーンに自分の 《神聖牙 UK パンク》があれば、かわりにそれぞれのゾーンから1枚ずつ選ぶ。相手はその選んだカードを自身の山札の一番下に好きな順序で置く。
「《トンギヌスの槍》が、四枚……!?」
夕陽のシールドは残り一枚、手札がなく、汐の場には九体のクリーチャー。これだけで夕陽にとどめを刺せるだけの戦力が揃っている。そこに《トンギヌスの槍》が四枚も放たれるとなれば、用心を通り過ぎ、オーバーキルどころでもなくなる。
そこまでする必要はあるのかと問いただしたい夕陽だが、その答えは汐の方から明白にした。
「目的と言うのなら、このデュエルはアルテミスの目的も含まれているのです。アルテミスの目的は《アポロン》。しかしこのデュエルで私が勝っても、それは私に権利が移るだけ……獣を捕えるには、まずその獣を弱らせるところから始めなければならないのです」
突如、《UK パンク》の周囲に四本の槍が落ちて来る。《UK パンク》はその槍を一本、掴み取った。
「まずは一本」
《UK パンク》は《トンギヌスの槍》を投げ放つ。その槍は一直線に——《アポロン》へと向かっていった。
『ぐあぁ!』
「《アポロン》!」
《トンギヌスの槍》が《アポロン》の左翼を削ぐ。
「《ボルバルザーク・エクス》」
汐が呟く。そして《トンギヌスの槍》で山札の底へと埋められたのが、《ボルバルザーク・エクス》だった。
《トンギヌスの槍》は《デーモン・ハンド》のようにクリーチャーを指定して除去するのではなく、カードを指定して除去する。なので進化クリーチャーに対しては、そのクリーチャーが内包するカード全ての中から一枚を選んで山札の底へと送り込むのだ。
つまり汐は、四発の《トンギヌスの槍》で、《アポロン》を構成するカード全てを殺すつもりだ。
「続けて二本」
『がぁ……っ!』
二投げ目の《トンギヌスの槍》が、《アポロン》の右翼を剥ぐ。
両翼を失った《アポロン》は、地に落ちる。
「《セルリアン・ダガー・ドラゴン》」
「や、やめろ……!」
「そして三本」
夕陽の制止も聞かず、汐の令により《UK パンク》は三本目の《トンギヌスの槍》を放つ。
『ぐ、あ、あぁぁぁぁ!』
「《アポロン》……!」
三本目の《トンギヌスの槍》は、《アポロン》の胸を貫く。
「《コッコ・ルピア》」
進化元三体が消され、収縮する《アポロン》。そこにいたのは、デフォルメ化された、コンセンテス・ディー・ゼロと呼ばれる、弱々しい姿の彼だった。
「最後に四本」
「も、もう、やめろ……やめてくれ! 御舟!」
夕陽の悲痛の叫びも、彼女には届かない。
《UK パンク》が、最後の槍を掴む。
そして——放つ。
『う、く……夕陽……すま、ない……』
「アポロン——」
最後の《トンギヌスの槍》が、《アポロン》を——貫き殺した。
「あ、アポロン……そんな……」
「なにをよそ見しているのですか、先輩」
結果的にはクリーチャーを一体除去されただけ。だが、異端者を処刑するかのようにして消された《アポロン》の苦しみは、察するにあまりある。
だが夕陽も、《アポロン》のことばかりを気にしている場合ではない。
「先輩には、こちらで直接手を下して差し上げるですよ」
汐はわざと《UK パンク》で《アポロン》を攻撃し、攻撃を無効にした。
《UK パンク》の役割は、《アポロン》の処刑。代わりに夕陽を処する者は——《ブリティッシュ》だった。
地獄の魔槍を手に《ブリティッシュ》は、夕陽の処刑を、執行する。
「《地獄魔槍 ブリティッシュ》で、ダイレクトアタックです——」
- デュエル・マスターズ メソロギィ コラボ短編 0・メモリー ( No.474 )
- 日時: 2014/03/01 14:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「うぁー凄い埃だなぁ……」
大晦日の直前と言えば、日本では大掃除と呼ばれるイベントが行われる。いや、イベントではなく風習や習慣、と言うべきだが。
大晦日の直前と言っても、年を越す寸前に掃除如きでバタバタしたいと思う人間は、普通いない。なので大抵の人々は、一週間くらい前には掃除に取り掛かるものだ。
この空城家もその例に漏れず、それなりに時間をかけて掃除をしているのだが、ことこの空城夕陽に限っては、そうではなかった。
ビル一つ貸切るレベルのクリスマスパーティーやら、後輩とのいざこざやらで、十二月は大忙し。掃除なんてしている暇はなかった。
そのツケを払う時が来た、とでも言うのか。夕陽は十二月三十日、自室の大掃除に取り掛かっていた。
とりあえず手始めに、積み上がっていたカードケースを整理するところから開始したのだが、途轍もない埃が夕陽の繊維を削ぎ落とす。
「いつもならもう少しちゃんとしてるんだけど、“ゲーム”で色々とバタバタするようになってから、こういうのは本当に疎かになるってるよなぁ……地味な被害だよ」
とりあえず古いカードケースを引っ張り出す。
同時に、部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃー……ってなに!? 埃すごっ!?」
「あぁ、お前か……どうした?」
入室してきた妹のややオーバーな反応を流しつつ、埃を払う夕陽。
見れば、妹の格好は外出用のそれであった。
「どっか行くの?」
「うん、シオ先輩のお店に行くんだけど、お兄ちゃんはどうする?」
「見ればわかるだろ、掃除中だ。行くなら一人で行け。お前のために金なんて払うか」
「ちぇ」
夕陽を同伴させてたかるつもりだった妹の魂胆を見抜きつつ、カードケースを一つずつ分けていく夕陽。普段あまり気にしていないが、こうして見るとかなりの量だ。
「なんか懐かしいなぁ……これとか中学の頃に買ったやつだ」
「っていうかなんで今頃掃除なんてしてるの? お兄ちゃんがサボるなんて珍しいね、いつもはちゃんとやってるのに」
「最近忙しかったからな。それに、お前はこのみに似ているが、家事だけはいっちょ前にこなすからな。僕がそこを疎かにすると、なんか負けた気分になって不愉快だ」
両親が共働きで不在でいることも多い空城家の家事は、妹に一任している。そのため兄として、夕陽もあまり弱みは見せたくないのだ。兄の意地である。
「にしてもすごい埃……なんでこんなになるまで放っておいたの。デッキの改造と化する時にこのカード使うんじゃないの?」
「最近はあんまりデッキの大筋は変えないからなぁ……それに、ひまり先輩のカードがあるし……」
「え? なに?」
「いや、なんでもない」
とりあえず埃を払い、雑多に積み上がっていたケースは、まとめて押し入れに入れておく。
と、その時、押し入れの奥からあるものを見つけた。
「ん……これ……」
「なにそれ? デッキケース? なんか書いてあるけど……」
年季の入った、とは言えないが、それなりに時間の経過が見て取れるデッキケース。表にはなにか文字が書いてあるが、やや掠れ気味だ。
「きん……やま、まめ……? りゅう……」
「鎧竜だろ。なんで途中で縦読みになるんだよ」
「がいりゅー?」
首を傾げる妹。どうやら知らないらしい。
「鎧竜決闘学院。端的に言ったら、デュエマをする学校だよ。海戸ニュータウン、だったかな? にあるんだ」
正確にはデュエリストの養成学校、もしくはデュエマの専門学校だが、妹の知能レベルに合わせるべく、そんな風に説明する。しかしあながち間違ってはいない。
「学校でデュエマするの!? え、それって、授業で、ってことだよね」
夕陽が首肯すると、妹の目が光り輝く。
「なにそれ天国じゃん! 眠たい授業はデュエマになって、テストも全部デュエマ!? そんな学校があったなんて……!」
「いや、お前が思ってるほど楽なところじゃないと思うぞ。というか別にデュエマだけをするってもんでもないだろうし。普通の授業もするだろ、一応は学校なんだから」
「えー……」
今度はガックリと項垂れる。アップダウンの激しい妹だった。
「……っていうか、お兄ちゃん詳しいね」
「お前がものを知らなさすぎるんだ。有名なんだぞ、鎧竜は。日本国内は勿論、世界的にも注目されているし、二年くらい先の拡張パックが先行販売されているし」
反応がないので視線を妹に向けると、唖然としている。驚きすぎて声も出ないようだ。
「なにそれすごすぎ、二年先のパックが先行販売って……あれ? でもお兄ちゃん、中学の頃から《不敗のダイハード・リュウセイ》とか使ってなかったっけ?」
「お前にしてはよくそんなに早く逆算できたな。まあ、それはあれだよ。僕が鎧竜決闘学院に行ったことがあるからだよ」
事もなげに言うと、ガタッと妹が身を乗り出す。
というか、押し倒された。
「なにそれなにそれなにそれ!? お兄ちゃん、いつの間にそんな世界の天国に行ってるの!?」
「うるさいうざい離せ重い痛い! とにかく落ち着けどきやがれ!」
凄まじい反応を見せる妹を撥ね退け、とりあえず順序立てて説明する。
「行ったって言っても、イベントに参加しただけだよ……ほら、鎧竜も一応学校なわけだし、オープンスクールみたいなのがあるんだよ」
それにこのみと二人で参加したんだ、と言うと、今度は駄々をこねる子供のようになった。
「なにそれ、そんなの初めて聞いた! なんで一緒に連れてってくれなかったの!」
「そりゃ、お前はその時まだ小五だったからだろ。対象者は小学六年生以上だったはずだし、そもそも人数が多いから抽選で選ばれるし。そんでもってこのデッキケースは、そのイベントの参加賞みたいなものだ」
言って夕陽は、デッキケースを開く。中に入っているのは、一つのデッキ。
「懐かしいなぁ——」
そのデッキを見て、夕陽は回想する。
二年前の、あの日のことを——
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.475 )
- 日時: 2014/03/01 22:12
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「うぁー凄い人だなぁ……」
「人いっぱい……なんかわくわくするね!」
海戸ニュータウンの一角に居座る、鎧竜決闘学院。
この日は鎧竜決闘学院の、一般的に言うオープンスクールが開かれる日だ。
会場自体は誰でも入れるのだが、学院で行われているイベントや模擬授業、模擬デュエマ(なにが模擬なにかは不明)に参加するためには、事前申し込みが必要となる。しかもその申し込みも、規定人数を超過すると抽選になるため、それらのイベントに参加できる者は限られている。
それほどに、鎧竜決闘学院は注目された学校であり、人気も高い。
(まあ、絶対普通の授業がデュエマになる、とか思って来てる奴もいるよな……)
そんなことを思いながら、夕陽はすぐ隣で目を爛々と輝かせている幼馴染、春永このみを見遣る。こいつなんか正にそうだし、などという呟きは心の中でとどめておいた。
「……っておい、このみ! あんまうろちょろするな……あぁ、もう!」
「うー……」
ちょこまかと動き回るこのみの首根っこを掴み、動きを固定する。中学生になっても一向に140cmを超えない低身長の彼女なので、この人混みでは速攻で迷子になることは明白だった。
「木葉さんからお前を見るように言われてるんだ。頼むからあんまり動き回るなよ」
「だってー……ほら、あれ見てよ! 拡張パック先行販売会場だって! 行きたい行きたい!」
その気持ちは夕陽もよく分かるが、今はとりあえず受付に行って、イベント参加などについての案内を貰わなくてはならない。
「それに、先行販売のエキスパンションなら、この学校じゃなくても海戸ニュータウン内にあったぞ」
「ほんとに!? うわー、ぜんぜん気付かなかった……」
そんなこのみを引っ張りながら、夕陽は受付に向かう。
ちなみに、夕陽もこのみもこの時は中学二年生。東鷲宮中学なる某県某市の中学校に通っている。そのため、もし鎧竜に来た目的を学校の視察とするのなら、来年くらいにはここへ転校することになる。
しかし二人にそんな考えはなかった。視察目的でこの場所にいるのではなく、お祭り感覚で来ていた。そもそも住んでいる都道府県も違う。抽選も、当たったら儲けもの、程度の意識だ。それで二人まとめて当たってしまったのだからラッキーだ。
というわけで、二人は完全に楽しむ目的でこの場所にいる。
受付を終え、参加賞らしい鎧竜決闘学院のシンボルや名前の書かれたデッキケースを貰いつつ、渡された案内に目を通す。
「どうするこのみ。模擬授業とか部活動イベントとかは時間が決まってるみたいだけど……あ、ちょうど五分後に模擬試験があるのか」
「なんでここに来て試験なのさ! ゆーくんはなにしにここ来たの!?」
試験、というワードだけで拒否反応を示すこのみ。分からないでもないが、そんなに速攻で否定しなくてもいいような気はする。
「いやだって、デュエマ関係のテストとか、どんな問題か少し気にな——」
「まずはデュエマ! 模擬なんちゃらにゴー!」
「っておい! 動き回るな!」
このみが向かったのは、模擬デュエマのゾーンだった。
「あ、ゆーくん見て! ここにも先行販売が!」
「デュエル前にデッキを強化しろ、ってことか……? まあせっかくだし、新しく手に入れたカードを試すのもいいかな」
模擬デュエマ、というのは、簡単に言えばフリーデュエルのスペースのことだった。とはいえただのフリーデュエルではない。
鎧竜にはD・リーグという、S・ポイントなるものを溜めて成績を決めるシステムがあるのだが、それを模したものらしい。
今日一日、オープンスクールが終わるまでの時間に、どれだけそのS・ポイントを溜められるかを競い、上位者には景品もあるらしい。しかし景品に興味のない、純粋にデュエマで対戦したいだけの参加者は、それはそれで自由に頼んでくれればいいというスタンスで行っている。
なお、基本的に対戦相手は同じオープンスクール参加者だが、たまに鎧竜の生徒が混じっているらしい。彼らも彼らで、勝てば実際の成績に関わるS・ポイントを手に入れるので、中には躍起になって参加者たちを薙ぎ倒していく生徒もいるとかいないとか。
「わ、なんかレアっぽいの出た……《神々の地 ディオニソス》? なんか分かりにくい説明だなぁ、クリーチャーが破壊されたらマナに行くってこと? ゆーくんはどうだった?」
「…………」
「ゆーくん?」
反応のない夕陽の顔を覗き込むこのみ。
夕陽の表情は、なんとも言えない、なんと表現したらいいのかよく分からないものとなっていた。
分かりやすく言うのなら、歓喜と困惑を絶妙な比率で混成したような、そんな表情。
「どしたのゆーくん? なんか、変な顔してるけど……」
「やばい……」
「なにが?」
「これ……」
夕陽の手元には、先ほど開封したらしいパックから出て来た五枚のカード。またその他のパックから出て来たものもあった。
その中で目を引くのが、
「う、わ……え? なに? スーパーレアがこんなに? ベリーレアとかもいっぱいあるし……すごいラッキーじゃん!」
「ああ、生まれてこの方、ここまで引きのいいのも初めてだ……特にこいつ、なんか凄そうだ。せっかくだし、こいつ中心にしてデッキを組み直そうかな」
と言って、デッキを組み替えるために設置されていると思しきスペースに移動し、鞄を広げる。
「今あるカードで組み直すの? できるの?」
「たぶん大丈夫だろ。ある程度はカード持って来てるし。それに、当てたカードも汎用性の高そうなカードが多いから、こいつらを多く投入してもなんとかなりそうだ」
なんにせよ、夕陽たちも一端のデュエリスト。新たなカードを手に入れたら、使いたくなるのが性。
夕陽は一際目を引くそのカードから視線を外さないまま、デッキの組み直しに取り掛かった。
デッキの枠組み自体は簡単に出来上がったので、完成は早かった。
しかしやはり、もっと入れたいがカード枚数が足りなかったり、実際に動きを見ていないデッキなので、不安要素は残る。だがそれでも、それなりの自信作ではあった。
「よし、じゃあこれで早速誰かと……」
と立ち上がり、辺りを見渡す夕陽。このみがいない。いや、それは知っている。待ちきれなくなったこのみは、一足早く対戦しているはずだ。
だがその対戦スペースに、空きがない。どこもかしこも対戦中だ。
「嘘だろ……」
せっかく自信作のデッキが組み上がったのに、対戦できなければ意味がない。どこかのテーブルが終わるまで待てばいいだけの話だが、やや興奮気味でテンションも上がり、ノリノリな夕陽にとっては、その時間さえも苦痛だ。
夕陽は眼をギラギラと光らせながら空いているテーブルを探す。そこで、対戦が終わったのか、一人の少年がテーブルから離れていくのが見えた。
その少年の相手は、小柄な少女だった。あまりにも華奢で背も低いので、小学生かと思ったが、鎧竜の制服を着ているのでそうではないとすぐ理解する。
(まあ、このみだって似たようなものだしな……)
身体的にある一点(ないしは二点)だけが絶対的に違うので、単純比較できるものではないが。
などと思っていると、その少女の向かいに、ピョコッと人影が割り込んできた。
「あ……」
先を越された。しかも、その人影というのが、
「このみ……!」
だったのだ。
なにか言ってやろうかとも思ったが、すぐに対戦を始めてしまったので、ここでちょっかいを出すのもマナー違反だと思い、引き下がった。
さてそうしたらどうしよう。また新しい相手かテーブルを探さなければと思っていると、
「なんだよ、どのテーブルもいっぱいじゃねーか!」
すぐ隣で、愚痴るような叫び声が聞こえる。結構な大声だったが、これだけの大人数から生み出される喧騒に、その叫びもすぐ飲み込まれてしまった。
見たところ鎧竜の生徒のようだ。室内にもかかわらず、頭にかけたサングラスが目を引く少年だ。
どうやらこの少年も、夕陽同様に対戦相手、もっと言えば対戦するスペースがなく、嘆いているようだ。同じ境遇の者として同情する。
と、他人事のように思っていると、
「ん? お前、もしかして相手いなくて暇してる?」
「え? あ、ああ、まあ、そんな感じかな……」
「だったら俺の相手してくれよ。さっきから同じ学校の生徒としか当たんなくてな……ちょっとトイレ行ってる間にスペースも埋まるしよ」
少年の申し出に、とりあえず首肯する夕陽。
対戦相手はできたが、しかしもう一つの問題は解決していない。対戦スペースだ。空いているテーブルがなくては、相手がいても対戦できない。
しかし、
「おーい! レン、コトハ! なんでお前ら同じ鎧竜の生徒同士で対戦してんだよ!」
「うるさい黙れ! 元はと言えばヒナタ、貴様の責任だ! 貴様が真面目に試験勉強をしないから僕たちまで巻き添えを食ったんだ! あの時の成績不振がまだ尾を引いているんだぞ! お陰で自由参加のこのD・リーグでS・ポイントを稼がなけれならなくなった! どうしてくれる!」
「いやあれは俺だけのせいじゃないだろ!? お前だって試験中に居眠りしてたくせに!」
「あたしは赤点もないし成績も大丈夫なんだけど……なんで付き合わされてるの? ねえ、おかしくない?」
わいのわいのと、傍から見ればいがみ合いながらも仲の良さそうな三人組だ。友人だろうか。
その後も数分ほど押し問答といがみ合いがあり、最終的にヒナタと呼ばれていた少年が、友人らしき少年少女二人をテーブルから押し退けた。
「よし、これでテーブルは空いたぜ!」
「いいのかなぁ、これ……」
「構うかよ。元よりオープンスクール参加者優先だしな」
それはそうかもしれないが、背後のレンと呼ばれていた少年の、殺気に満ちた視線が気になって仕方ない。
それはともかく。
夕陽とヒナタのデュエルが、これで決定した。
「よーし、じゃあ始めようぜ!」
「うん、よろしく」
二人はそれぞれシールドを展開、手札を持ち、対戦準備を整える。
そして、二人の掛け声と共に、デュエルが開始された。
『デュエマ・スタート!』
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