二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.205 )
日時: 2013/11/10 07:37
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 返信が遅れて大変申し訳ありません。ここ最近、忙しさが増した上にPCがウイルス感染してデータが吹き飛んだりしていたので、復元やら傷心から立ち直ったりやらしていました。


パーセンターさん


 あ、そうなんですか。実は自分ももう一つの作品の原案をちまちまと書いたり、先のストーリー練っていたのですが、パソコンがウイルスに感染したときに全部消えたので、執筆意欲が消え失せています。でも、このまま放り出すわけにもいかないしな……

 《ヘラクレス》は確かに扱いにくいですよね。強いカードではあるんですけど、そもそもゴッドがいないと使い物になりませんし、それが複数体いないと有効じゃないですしね。カード資産的に使いにくいです。

 そうですね、ラトリはあくまでも研究者です。実験担当の研究員とかはわりと強いのもいますが、【ラボ】の連中は基本的に弱いです。黒村とかは例外ですが。


 《ヘラクレス》のデッキはどう組むか結構悩みましたが、最終的に自然単色のコントロール系デッキになりました。たぶん普通に動かしてもこいつみたいにはならないと思いますが、今回は夕陽相手に上手くはまったということで。

 一応、《ヘラクレス》みたいな、クリーチャーはカードが浮いているという設定はあります。ドローするときは自動的にドローされ、カードをプレイする時は念力で動かしているような感じですかね。
 神話空間でのデュエルは大体そんな感じです、実は立ってやってますし。ちなみに夕陽たちも自動でドローできますが、普段の癖で基本的に手で持って動かしています。



Orfevreさん

 了解です。こんなに遅れて了解も何もない気もしますが。
 ともあれ、初回時は他のカードを使わないようにしますね。変更も自由に受け付けます。
 とりあえず、モノクロは彼女をどうストーリーにねじ込むか猛烈に考えておりますので、その時まで気長にお待ちください。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.206 )
日時: 2013/11/10 08:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 神話空間で夕陽とヘラクレスが戦っている様子を、ラトリはじっと眺めていた。
「残り時間は五分を切ったか……」
 《アテナ》のカードを見つめながら、ぼそりと呟く。その何気ない呟き一つも、彼女らしからぬ落ち着きと、そして焦りがあった。
「たぶん今回の騒動は【師団】が元凶、そして狙いはきっと《アポロン》。それと、『昇天太陽サンセット』」
 視線を夕陽に戻すと、今まさにシールドを割られた所だった。見たところ劣勢だ。
「頑張ってよ、空城夕陽君……君にはこの“ゲーム”から降りてもらったら困るんだ」
 そして、
「君がいないと、この“ゲーム”は変わりそうにないんだから……」



神誕の大地ヘラクレス 自然文明 (12)
クリーチャー:ガイア・コマンド 12000
このクリーチャーを召喚する時、自分のマナゾーンにあるゴッドのマナの数字は1のかわりに2となる。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、好きな数のゴッドを、自分のマナゾーンから手札に戻す。
自分のゴッドを召喚するコストを3まで少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
T・ブレイカー


 遂に《ヘラクレス》自身が出てしまった。実体化するクリーチャーは、自身を核としたデッキを生成するらしいので、もう切り札を召喚されたようなものである。
『我が召喚時の効果により、マナゾーンから《ディーヴォ》《クラフト・ヴェルク》《イズモ》のゴッド三体を回収』
 ——《ヘラクレス》の能力は、大型クリーチャーとしては複雑で、システムクリーチャーというには強大だ。
 《ヘラクレス》の能力は、全部で三つ。大雑把に言えば、自身のコスト軽減と、ゴッドのマナ回収、そしてゴッドのコスト軽減。この三つの能力は非常に噛み合っており、莫大なコストに見合った、一枚で完結した能力を持つ高い完成度のカードである。
 一つずつ能力を見ていくと、まず一つ目。マナゾーンにあるゴッドからは2マナ生み出せる能力。言い換えれば、マナゾーンのゴッドの数だけコストを軽減できる能力だ。下限が半数の6マナなので、厳密には違うが。
 つまり《ヘラクレス》を普通に出そうとすれば、マナゾーンにはそれなりの数のゴッドがいるわけで、ここで二つ目の能力が生きてくる。それが、マナゾーンのゴッドを好きな枚数回収できる能力だ。
 さらにこうして手札に加えられたゴッドは三つ目の能力、ゴッドの召喚コストを3下げる能力で一気に展開できる。上手くはまれば1ターンでゴッド・リンクを完成させることすらできる。
「《ヘラクレス》で回収したゴッドは三体、奴のマナゾーンにあるゴッドも、その三体だった」
 つまりこの《ヘラクレス》は9マナで呼び出されたことになる。このターンのマナチャージも含め、残るマナは10マナ。
 この時、夕陽は理解してしまった。それと同時に、戦慄を覚えた。
(10マナ……確か、こいつが回収したゴッドって——)
 そこまで思考が到達したところで、大地に続き今度は空——天文学的な空ではなく、ここでは上方の空間という意味での空——が不穏に蠢き、不吉な音を響かせる。
 そして、神々しき光とともに、三体の神が、降臨する。
『出でよ、我らが神々よ!《双魔左神ディーヴォ》! 《双天右神クラフト・ヴェルク》! 《イズモ》!』


双魔左神ディーヴォ 無色 (7)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァ 7000
このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーがリンクしている場合、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、相手はそれを自身の山札の一番下に置く。このクリーチャーがリンクしていない場合、相手のクリーチャーを1体破壊する。
W・ブレイカー
左G・リンク
このクリーチャーがリンクしていれば、シールドをさらに1枚ブレイクする。


双天右神クラフト・ヴェルク 無色 (7)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァ 7000
このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーがリンクしている場合、カードを1枚引き、その後、自分の手札を1枚、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに裏向きにして加える。このクリーチャーがリンクしていない場合、自分の山札の上から1枚目を裏向きにして、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加える。
W・ブレイカー
右G・リンク


イズモ 無色 (5)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァ/オラクル 5000+
中央G・リンク(このクリーチャーまたは他のゴッドをバトルゾーンに出す時、自分の好きな数のゴッドからカードを1枚ずつリンクを外してもよい。その後、このクリーチャーを「右G・リンク」または「左G・リンク」とあるゴッドにリンクしてもよい)


 空より降り立ったのは、漆黒の翼に黒き弓を構える神と、純白の翼に白き弓を番える神。そして、奇怪な片腕の少年のような神。三体のゴッド・ノヴァが、莫大なマナの力を得て召喚された。
『さらに、《ディーヴォ》よ、《クラフト・ヴェルク》よ! 神人類の後継者たる神の両腕となれ! 三神合体!』
 《ディーヴォ》は左に、《クラフト・ヴェルク》は右に、それぞれ控え、《イズモ》の両腕となる。そして——
 
『三体神《イズモ》!』

 ——三体の神は、一体となった。
「くそっ、過剰なマナブーストから強引に三体のゴッドを召喚するなんて……盲点だった」
 《ババン・バン・バン》で18マナまでマナを溜めれば次のターンで19マナ。そこから9マナで《ヘラクレス》を出し、マナゾーンから回収したゴッド——コスト7の《ディーヴォ》と《クラフト・ヴェルク》、コスト5の《イズモ》——のコストをそれぞれ3下げて一気に召喚。とんでもない方法で三体によるゴッド・リンクを完成されてしまった。
『さあ行くぞ、リンクしたゴッドはそのターン召喚酔いしない。三体神《イズモ》で攻撃!』
 両腕の神が持つ弓を向ける《イズモ》。そこから、第一射が放たれた。
『《ディーヴォ》の能力発動! 《ミツルギブースト》をマナゾーンへ!』
「くっ」
 《ディーヴォ》が放つ黒き矢に射抜かれた《ミツルギブースト》は、為す術もなく山札の下に封じ込められてしまう。しかもこれだけでは終わらない。
 続けて、第二射目が放たれる。
『《クラフト・ヴェルク》の能力発動! 一枚ドローし、手札を一枚シールドへ!』
 《クラフト・ヴェルク》が放つ白き矢は《ヘラクレス》の手札を巻き込んで飛び、シールドゾーンを通過する直前で停止。そのままシールドとなった。
 そして、第三射目——一際巨大な矢が、放たれた。
『Tブレイク!』
「ぐぁ……!」
 弓矢によって夕陽のシールドは射抜かれ、その衝撃で周囲のシールドも吹き飛び、一気に三枚ブレイクされた。
『さらに《ババン・バン・バン》でWブレイク!』
 蹄で大地を蹴り、地響きを起こしながらシールドに突貫。残った夕陽のシールドをすべて破壊してしまった。
「やばい、もうシールドがゼロ……」
 対する《ヘラクレス》のシールドは四枚、うち一枚は《クラフト・ヴェルク》の能力で仕込んでいるため、S・トリガーの可能性が高い。
「でも、シールドブレイクで手札が増えた。なんとか逆転につながるカードを引ければ……」
 願うようにしてカードを引く夕陽。少なくとも今の手札だけでは、《ヘラクレス》のクリーチャーを除去することも、このターンにダイレクトアタックを決めることもできない。このドローにかけるしかないのだ。
「……《ジャック・ライドウ》か」
 手札とマナを交互に見て、歯軋りする夕陽。
(ダメだ、《アポロン》を呼びたいけど、手札の《コッコ・ルピア》でコストを下げてもマナが足らない……!)
 今の夕陽のマナは14マナ。ここで《コッコ・ルピア》《ジャック・ライドウ》と出せば8マナ残り、《アポロン》召喚のために4マナ必要なので6マナのドラゴンがいれば進化できるのだが、
(こんな時に限って《NEX》も《GENJI》もいない、これじゃあ《アポロン》を呼べても進化できない)
 生憎なことに、今の夕陽の手札には、6マナのドラゴンはいない。《ジャック・ライドウ》を除き、すべて7マナ以上だ。
(あそこで《ミツルギブースト》をマナに送っていれば、なんとかなったんだけどな)
 だが、今更後悔しても遅い。そもそもあの局面で《ミツルギブースト》をマナに送る意義は限りなく薄いため、この展開は仕方ないと言える。
(どうする? 今の手札じゃとどめまで行けない。この状況を打開するには《アポロン》しかいないけど、そうするとマナが足りなくなる)
(くそっ、本当に腹立つな。あれだけクリーチャーをマナに送られておきながら、こんな時に限ってマナが足りなくなるなんて……!)
 その時、ふと気が付いた。
「ん……? マナ……?」
 再びマナゾーンに視線を落とす夕陽。刹那、頭の中でなにかが繋がった。
「そうだ、これだ……これなら、行ける!」
 活路を見出した夕陽。その視線は、今度は《ヘラクレス》に向いた。
「さあ見てろよ《ヘラクレス》! ここから一気に逆転してやる!」
 そして猛々しく豪語する。
 太陽のように、輝かしく。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.207 )
日時: 2013/11/10 08:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽と《ヘラクレス》のデュエルは、夕陽の絶望的かつ危機的な状況となっていた。
 夕陽のシールドとクリーチャーは共にゼロ。マナは14マナもあり、シールドブレイクで手札も増えたが、このターンで決めようとするとマナがあと一つ足りないように見える。
 対する《ヘラクレス》の場には《神誕の大地ヘラクレス》《恵みの大地ババン・バン・バン》そして《双魔左神ディーヴォ》《双天右神クラフト・ヴェルク》とリンクした《イズモ》の三体。シールドは四枚もあり、うち一枚は《クラフト・ヴェルク》の能力で増やしたため、S・トリガーの可能性が高い。
 そんな絶体絶命、敗北までもう一歩という状態の夕陽だが、しかしこの状況から逆転すると豪語してみせた。
 その逆転劇の第一歩が、踏み出される。
「まずは《コッコ・ルピア》を召喚! これでドラゴン召喚のコストが2下がる」
 まさか夕陽もこの局面で出すことになるとは思わなかったが、構わず続ける。
「さらにこいつがキーカードだ。《無双竜機ボルグレス・バーズ》を召喚!」


無双竜機ボルグレス・バーズ 火/自然文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アース・ドラゴン 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、ドラゴンを好きな数、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。
W・ブレイカー


「その能力でマナゾーンからドラゴンを回収。そして、回収したこいつを即召喚だ!」
 ここまで8マナ消費し、最後に残った5マナを払い、さらなるドラゴンを呼び出す。

「殿堂の力、狩人の姿となって蘇れ! 《ボルバルザーク・エクス》!」


ボルバルザーク・エクス 火/自然文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アース・ドラゴン/ハンター 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンにあるカードをすべてアンタップする。
スピードアタッカー
W・ブレイカー


 現れたのは、かの凶悪なドラゴン《無双竜機ボルバルザーク》に酷似したクリーチャー。しかし、胸に刻まれた狩人の傷が相違点だ。
 《無双竜機ボルバルザーク》が凶悪たる理由は、概ねエクストラターンを得られるところにある。《ボルバルザーク・エクス》はその力の一部を再現しているのだが、使い方によっては《無双竜機ボルバルザーク》よりも強力な力を発揮できる。
「《ボルバルザーク・エクス》の能力発動! マナをすべてアンタップ!」
 すべてタップされていた13枚ものマナが、《ボルバルザーク・エクス》の咆哮で再び起き上がる。つまり、このターン夕陽はまた13マナ使うことができる。
「進化元もマナも十分、続けて《闘龍鬼ジャック・ライドウ》召喚! 効果で山札からこいつと同種族の進化クリーチャーを呼べる。来い、《アポロン》!」
 山札から切り札を引っ張り出し、なおかつ場数も揃える。残るは10マナ。
「さらにスピードアタッカーの《無双竜機フォーエバー・メテオ》召喚!」
 これで残り4マナ。夕陽の場には《コッコ・ルピア》《ボルグレス・バーズ》《ボルバルザーク・エクス》《ジャック・ライドウ》《フォーエバー・メテオ》と、1ターンで五体ものクリーチャーを展開して見せた。
 そして、最後に《ジャック・ライドウ》で手札に加えたカードを抜き取る。

「《コッコ・ルピア》《ジャック・ライドウ》《ボルグレス・バーズ》の三体を、進化MV! 出て来い《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

 ファイアー・バードを核とした、三体の火文明のクリーチャーの力を取り込み現れた『神話カード』、《太陽神話 サンライズ・アポロン》。
 進化元のコスト合計は15、そのためCD能力もすべて発動する。
「一気に行くぞ! 《アポロン》で攻撃、その時CD12発動!」
 《アポロン》は燃える翼を羽ばたかせ、空を翔ける。周囲に浮かんだ小型太陽は高速旋回しながら《アポロン》の両手に集まり、凝縮される。
「マナゾーンの《ギルピア》《トルネードシヴァ》《バルキリー・ラゴン》を墓地に送り、《アポロン》のパワーはプラス15000、さらにワールド・ブレイカーだ! 行け《アポロン》!」
 一気に巨大化した太陽を両手で包み込み、《アポロン》は膨大な数の熱線を解き放つ。その破壊力、熱量は、正に太陽そのものだった。
『グオォォォ……!』
 次々と割られていく《ヘラクレス》のシールド。ワールド・ブレイカーなのですべて吹き飛ばされる。しかし、最後の一枚だけはただ割られるだけではなかった。
『S・トリガー発動! 《ナチュラル・トラップ》で《フォーエバー・メテオ》をマナゾーンに!』
 案の定、《クラフト・ヴェルク》でS・トリガーを仕込んでいたようだが、しかし一枚では足りない。
「残念だったな。《フォーエバー・メテオ》だけじゃなくて、《ボルバルザーク・エクス》もスピードアタッカーだ!」
 もう守るものが何もない《ヘラクレス》へと、《ボルバルザーク・エクス》は翔ける。両手に燃え盛る剣を携えて。

「《ボルバルザーク・エクス》で、ダイレクトアタック!」

 炎が尾を引く一閃が煌めく。
 狩人の龍が振るった剣は、大地の化身を切り裂き、そして——消滅させたのだった。



「お?」
 ヘラクレスと戦っていた神話空間が閉じると、夕陽の目に飛び込んできたのはラトリだった。最初はどういうわけか疑問符を浮かべていたが、すぐさま理解したようで、
「オゥ、ユーアーウィナー! イッツアビクトリー!」
「いや、言いたいことは分かりますが、日本語でお願いします」
 発音が日本人っぽいので、外人被れ、似非英語に聞こえてしまう。
「オッケー。ま、なにはともあれサンキューだよ。空城夕陽君」
「はぁ……」
 存外素直に礼を言われ、返答に困っていると、後方から聞き覚えのある声が届く。
「ゆーくーん!」
「所長!」
 わざわざ目で確認するほどのことでもない。こちらに駆け寄ってきたのは、このみと黒村だった。
「あれ? なんかさっきまでいた黒くておっきいのがいなくなってる?」
「そいつなら僕が倒したよ。しかし、かなり危なかったな……」
「黒村君、もうクリーチャーはゼロ?」
「恐らく。校舎を見て回っていましたが、それらしいものは影も形もありませんでしたよ」
 どうやら、もうクリーチャーはいないようだ。夕陽が倒したヘラクレスが本当に最後だったようで、これで万事解決だ。
「これで、終わったのか……平和な文化祭が戻ってくるんだな」
「メイド服じゃなければ格好良いセリフだったね」
「言わなきゃ誰も気づかないようなこと言うな、お前は!」
 しかし問題が解決したのならばそれは確実に良いことだ。良いことなのだが——
「いやー、良かった良かった、グッドだよ。もう《アテナ》の残りタイムも1ミニッツカットしてるからさ、実はちょっとデンジャーなフィールだったんだよね」
「……は? 一分切った?」
 その言葉を聞いて、思わず復唱してしまう夕陽。
 ——新たな問題が発生した場合、そうも言っていられない。
 気づけば今まで展開されていた神話空間は少しずつ消えていき、元々文化祭が行われていた、活気ある校庭の様子が広がっていく。
「お、おい、これまずいんじゃないのか。確か僕ら、後半もシフト入ってたよな……」
「あー……そうだね。今からうちのクラス行っても、間に合わないかも」
「急がないとやばくないか」
「急がなくてもやばいよ。あれ? っていうかゆーくん、あんなに接客嫌がってたのに?」
「……そうだった、戻っても地獄なんだ。くそっ、どうすればいい……!?」
 ヘラクレスに追い込まれた時以上に思考を巡らせる夕陽だが、その時以上に良い案が浮かばない。
「はぁ……生徒のことは放っておいて、俺は事後処理を済ませてきます。《アテナ》の能力があっても、一部では少々の問題があるかもしれませんし」
「オッケー、じゃ、そっちは頼んだよ」
「よーし、じゃあゆーくん! もうこうなったらできる分だけやっちゃうよ!」
「ああくそっ! とりあえずどこかに逃げ——ああでもどこに逃げれば!」
 すたすたとどこかへ行ってしまう黒村、頭を抱える夕陽と、その腕を引っ張るこのみ。そしてその三人を、笑みと共に見つめるラトリ。
 雀宮高校の文化祭も、もうすぐ終わりを告げようとしている——



 その人物は、二年校舎の窓からグランドを見下ろしていた。
 巨大な大地の化身と、小さな太陽の少年の戦いを、ジッと眺めていた。
「あの子が、今の《アポロン》の所有者……」
 小さく呟く。そして、目を閉じる。

「私も、いつまでも引っこんではいられないかな……」

 次に目を開いた時。そこには、今日という文化祭の景色が広がっていた。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.208 )
日時: 2013/11/10 10:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 雀宮高校の文化祭が終わって、一週間経とうとする頃。
 高校生というものは熱しやすく冷めやすいもので、あれだけ騒いでいた文化祭も、一週間も経ってしまえばすっかりその勢いはなく、今ではたまに話題に出る程度だ。
「んーじゃあたぶんもう連絡事項ないし、適当に終わっといて。解散解散」
 そしてこちらは、文化祭など関係なく適当かつ大雑把な勤務態度でホームルームを終える一年四組担任の白石。
 半年も通っていれば学校のことは大体分かってくるものだが、なぜこの教師が担任などという重要な役職に着いているのかは永遠の謎である。
 ともあれ、いくら怠惰であろうともホームルームが終わったことに違いはない。謎は解決しないが、この態度には慣れた一年四組の生徒は皆、放課後の活動に入る。部活に向かう者、すぐさま帰る者、教室に残る者、各々好き自由に放課後を謳歌する。
 そして、その中の1グループでは——
「おーわったー! あっそべー!」
「なんで命令形なんだよ」
「でも、帰るじゃなくて、遊ぶって言うところが、このみちゃんらしいよね」
 ——いつもの日常を謳歌していた。
 空城夕陽、春永このみ、光ヶ丘姫乃。一年四組では、もはやこの三人はセットになっていた。
 文化祭でかなりの大事に巻き込まれてしまった夕陽たちだが、しかし文化祭が終わってから一週間は、なにも起こらなかった。またいつ“ゲーム”にかかわることになるかは分からないが、今この時は、平和な時間を過ごしていられる。
 他二人は分からないが、少なくとも夕陽はそう思っている。良くも悪くも、一般的な範囲で平和主義者なのだ。
 しかし、その日常にはすぐに亀裂が入る。いや、亀裂が入るというのは些か大げさで、悪い方向に事態が転んだのかと言えば、そうでもない。
 ただ単純に、いつもの日常が、少しずれただけだ。
「空城」
 声をかけられる。ほぼ反射的にその方向を向くと、夕陽は焦るように顔をしかめた。
「む、武者小路……」
 武者小路仄、夕陽たちのクラスメイトだ。そして、夕陽が一方的に苦手意識を抱いている人物でもある。
(どうも取っつき難いんだよな、勝気だし、気ぃ強いし……)
 夕陽自身は気弱というわけでもないが、どうにも強く出られない相手だ。向こうはそれほど気にしているようにも見えないが。
「あ、仄っちだ。どしたの?」
「仄ちゃんから来るなんて珍しいね」
 対して、女子二人は気さくだった。このみは分かるが、姫乃も仄に対してはなかなか友好的で、特に文化祭が明けてからは妙に仲が良い。聞くところによると、夏休みからなにかあったらしいが、詳しくは聞いていない。
 話を本題に移すが、如何に姫乃と仲が好かろうと、仄はあまり夕陽らのグループには入ってこない。なので、向こうからこちらに近づいてくることは確かに珍しいことだ。なんの用なのか。
「別に私は用はないけど」
 と言って、親指を教室の入口へと向ける。そちらに視線を向けると、人影らしきものが見える。扉と柱で、姿までは確認できないが。
「二年の先輩が呼んでる」
「二年の先輩? 誰だろ、流か潮原先輩くらいしか思いつかないけど……」
 というより、他学年の知り合いなんてそのくらいしかいない。
「とにかく伝えたから。それじゃ、私はこれで」
「ばいばーい」
「またね、仄ちゃん」
 言うことだけ言うと、後は素っ気なく手を振って帰ってしまった仄。もしかしたら自分は嫌われているのではないかと思った夕陽だが、その場合は自分に非があるような気がしてならない。杞憂な気もするが。
「うーん、先輩か。でも、あの二人だったら普通に教室覗いて名指しくらいのことはするよな。わざわざクラスメイトに言伝を頼むような人たちじゃなさそうだけど」
 しかしそんなことを言ってもなんにもならない。とりあえず夕陽は、このみと姫乃を置いて、教室から出る。
 すると、誰もいなかった。いや、廊下を行き交う生徒はいるので正確には誰もいないということはないが、自分に用がありそうな人物は、視界に入って来なかった。
「あれ? 誰もいない……?」
「あ、こっち。です」
「へ?」
 声がした方を見遣る。するとそこには、確かに二年生の生徒がいた。だが、流でも零祐でもない。というか、女子生徒だった。
 夕陽がその生徒から受けた第一印象は、“普通”だった。
 まず体格。身長はこのみたちのように極端に低いわけではなく、亜実のように長身というわけでもない。夕陽より頭一つ小さいくらいで、女子高校生の平均身長くらいの背丈。体つきも、細すぎず太すぎず、特徴を捉えられないくらい普通の日本人体型だ。
 次に出で立ち。学校なので制服を着ているのは当然だが、改造がなければ着崩している様子もない。かといって完全完璧にきっちりしているわけでもなく、一般生徒が普通の着こなしをしている感じだ。髪型もちょっと外に出ればいくらでも見つかるような少し長めのセミショートの黒髪。それも真っ黒というわけではなく、ほんの少しだけ茶味がかった黒髪で、そこがさらに普遍性を助長している。
 その容姿は、総合的に見て印象に残りにくいものだ。夕陽がぼんやりと抱く“普通の女子高生”のイメージと酷似しており、背景と同化するかのように、記憶しにくい。特に夕陽は、極端に小柄で非現実的な容姿のこのみなどと長く一緒にいるため、よりいっそうその普遍さを見つけにくい。さっき教室を出た時に見落としたのも、その普通の容姿ゆえかもしれない。
「えっと、君が空城君?」
「あ、はい、そうですけど……えーっと」
「私は朝比奈ひまり。あ、学年は二年だよ、一組」
 少々たどたどしいが、お互いが初対面であることを考えれば、その挙動は普通に感じられる。
「えー、朝比奈先輩? 僕に、なんの用でしょうか? 僕は記憶力に絶対の自信があるわけじゃないんですが、たぶん今までに会ったことないと思うんですけど……」
う、うん。初対面のはずだよ」
 じゃあなんで僕のことを知ってるんだ、と反射的に言いそうなったのを堪え、その言葉をどうオブラートに包もうかと考えているうちに、相手——ひまりの方から本題に入った。
「ちょっと、君とお話したいことがあって……でも、ここで話すのもあれだし、したいこともあるから、向こうの校舎に行こう」
 ひまりが指差したのは、実験室などの特別教室の他、いまいち用途の分からない講義室なる、端的に言えばこの時間は空いている教室がある校舎だ。
 知らない人物の登場から、この話の流れに戸惑っていると、ひまりが少し不安げにこちらの顔を覗き込む。
「もしかして、今日用事とかあったりしたかな……?」
「あ、いえ、特になにもないですよ。大丈夫です」
「そっか、良かった。下校時間になる前に終わらせないといけないし、早く行こうか。良かったら、そっちの子たちも一緒に来る?」
「は?」
 ひまりの不可解な発言に、素っ頓狂な声を上げて振り向くと、そこにはこのみと姫乃がいた。しかもしっかりと聞き耳立てている。
「お前ら……」
「だってゆーくんがいつまでたっても戻ってこないんだもん。あたしたち待ちくたびれちゃったよ」
「ご、ごめんね、空城くん。でも、ちょっとだけ気になっちゃって……」
 どちらもそれらしい言い訳を盾にする二人だったが、しかし別段聞かれて困る会話をしていたわけでもないので(そもそも戸惑いすぎてまともな会話だったとも思えない)この件は不問にした。
「じゃ、行こっか」
 そして夕陽、このみ、姫乃の三人は、ひまりに連れられて、別の校舎へと向かっていく。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.209 )
日時: 2013/11/10 10:39
名前: Orfevre ◆qg.Pdh2GVU (ID: 0K/ebJFU)

作者様

了解です
葵の活躍を心待ちにしてますので
それまでもそれ以降もがんばってください


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