二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.631 )
日時: 2015/08/03 23:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

「春休みだよ、ゆーくん!」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「四月からはあたしたちも高校生! 宿題もないから、遊びまくれるよ!」
「……まあ、お前にしては随分と勉強してたし、今更それをやり直せと言うのも酷かもな」
「そうだよ! だから汐ちゃんと、キラちゃんとかゆずちゃんも呼んで、みんなで遊びまくろう! なにする? デュエマ?」
「だが断る」
「えー!」
「思えば、そうやって甘やかしてたのが木葉さんだった……その二の舞を踏むわけにはいかない。高校生になって留年しないように、お前はもう一度、基礎からやり直せ」
「そんなぁー! あんまりだよ!」



「このみーになにすんのっ!」

パシッ

 と、乾いた音が鳴った。
 なにかがこのみと男の間に割って入り、男の手が弾かれる。
 このみは、その姿を、しっかりと捉えていた。そして、ふっと漏らすように言葉を零す。
「プロセルピナ……」
 一週間ほど前に、自分の元から離れてしまった、小さな妖精。
 その表情は、どこか怒っているようで、しかし清々しいようにも感じられた。
 だがそんな感傷に浸る間もなく、今度は扉から轟音が響く。
「このみ!」
 続けて、今度は荒い声とその主が、扉を蹴破るようにして突入してくる。
 それも、よく知る少年の姿。
 自分の幼馴染み。空城夕陽という、少年。
 夕陽は一直線に男へと突っ込んで行く。拳も固く握って、勢いに任せて、腕を振り抜く——
「……餓鬼が」
 ガシッ、と。
 夕陽の拳は男には届かず、どころか逆に、その腕を掴まれる。
 そして、
「殴り方も知らない素人が、粋がるな」 
「っ!?」
 ぐんっ、と夕陽は自分の体がなにかに引っ張られるのを感じた。
 次になにかを感じたときには、なぜか店の床に顔面を押しつけており、腕が動かせなかった。
「が……!」
 そして自分の状況——床に突っ伏して関節を極められている状況——を理解すると、今度は肩から鋭い激痛が迸る。
「う、ぐうぅ……!」
「さて、こいつの乱入は予想外だが、どうするべきか……」
 夕陽の関節を極めた男は、少し考え込むような仕草を見せたが、すぐに結論を出したようで、
「……こいつを野放しにするのは厄介だ。一本くらいならさして問題もないだろう。お前ももう16か? それに男だろう、少しは荒事にも慣れておけ」
 と、言って。男はレバーでも倒すように、夕陽の腕を前に倒した。すると、

ゴキン

 小気味よく、それでいて気分の悪くなるような音が、夕陽の肩から鳴った。
 本来、肩の関節が動くべきではない方向に、力が加わった結末。
 一瞬、夕陽にも自分のみになにが起こったのか分からなかった。しかし、直後に訪れる、今まで感じたことのない、乱舞するような痛覚への刺激によって初めて、彼は自分の身に起こった事実を知覚した。
 同時に、彼の口から、知覚によってもたらされる痛みがそのまま、吐き出された。
「あ、が、ああぁぁぁ……っ!」
「ゆーくん……!」
「夕陽! 大丈夫か!?」
 アポロンが、夕陽のデッキケースから飛び出し、実体化する。
 だが、肩を外されるなどと、今まで経験したことのない激痛に苛まれる夕陽は、そんなことまで頭が回らない。ひたすら呻き声が漏れるだけだ。
 このみと男の二人きりであったこの場所に、プロセルピナとアポロン、二つの『神話カード』を引き連れた夕陽が乱入してきた。
 男は、溜息のような息を吐く。
「……少し、煩雑になってきたな。悪くない状況だが、俺の計画が狂ったぞ」
 ぼやくように呟きながら、男はポケットから一枚のカードを抜き取った。
 そして、そのカードに問いかけるように、口を開く。
「さて、ここから俺はどうすればいい——ケレス」
 と、男が呼ぶと、カードが光る。
 その光は小さく、一瞬。その一瞬で、カードはカードでなくなっていた。
 そこにあるのは、二等ほどしかない、人型をした生き物のようななにか。
 小さな体躯だが、その顔や腕には皺が寄っており、老いた様子が見て取れる。しかしだからといって老衰したようではなく、老いてはいるものの、その内にはなにか大きな秘めたような力強さ、生命感があった。
 このみも夕陽も、その生き物を初めて見た。しかしカードから出てきたことと、二等身の姿、そして雰囲気——これらの要素から、目の前の小さな老人の正体は、概ね掴んでいた。
 だが、その存在を口にする前に、プロセルピナが声を上げる。
「ちょーろー!」
「え? ちょーろー?」
 とはいえ、それは少々意外な形ではあった。
 あまりの激痛で、逆に痛みを感じなくなってきた夕陽は、だらんと右腕を垂らしたまま、なんとか上半身だけを起こし、近くの椅子のに寄りかかる。
「……アポロン、あいつ、何者なんだ……?」
 夕陽は、まともな答えが期待できないプロセルピナと、まともな質問を期待できないこのみに代わり、アポロンに問う。
 アポロンは利き腕の機能を失った夕陽を心配そうに見ながら、神妙な面持ちで語り始めた。
「……あの人は、俺たちが長老と呼んでる、十二神話の最年長者——ケレスだ」
「ケレス……やっぱり、『神話カード』か」
 初めて見る姿、初めて聞く名だったが、雰囲気からしてそうだとは思っていた。
 しかし、となると、この男は『神話カード』を持つ“ゲーム”参加者。
 【師団】か【神格社界】はたまた【ラボ】か……所属は分からないが、相手が“ゲーム”参加者で、しかも『神話カード』の所持者であるというのであれば、相手の目的は一つしかない。
「ケレス、やはりこうなると、正攻法になるか」
「……で、あろうな。純粋であるがゆえに策を弄しやすい相手は、それゆえにこちらの策も単調となる。これは相手も策を弄すると予見できなかった我々の不手際。失策の果てには、正当な手段を用いるしかあるまい」
 重苦しい声で老人——ケレスは発する。
 二等身のライトな容姿に似合わず、嗄れたような声だったが、そこには老年の落ち着きや重厚さがこもっていた。
「……まあ、そうなるか。こんな場になるとは思っていなかったが、最後にはこうなることも予想していなかったわけではない」
 そう言って男は、スーツのポケットに手を突っ込み、一束掴んで引っ張り出す。
 それは当然、デッキであった。
「ちょーろー……たたかうの……?」
「……プロセルピナ。お主のことは、儂がよく知っている。お主が儂との衝突を嫌がるのも、可能な理解だ。元より自然の民は、仲間で手を取り合う文明。自然の同胞同士で争うなど、本来はあってはならぬこと」
 しかし、とケレスは力強く、また諭すように、プロセルピナに語りかける。
「我々は追放の身。そして、マナも微弱で、同胞も同志も存在しないこの地にて、我々が為すべきことは、これまでの我々の業には囚われない。儂は、儂の意志によって、お主を求めるのだ、プロセルピナ」
 二頭身の、コンセンテス・ディー・ゼロと呼ばれる、力の非常に弱い姿でありながら、ケレスは全身から覇気のようなものを発しており、その威厳たるや、同じ『神話カード』であるはずのアポロンたち以上だった。
 そしてなにより、完全に戦う気を感じ取れる。
 ゆえに衝突は、避けようのないことだと思われたが、
「……だが、もしもお主が、儂と争いたくないと強く主張するのであれば、儂も譲歩しよう」
 と、ケレスは言う。
 そして、全身から放たれる覇気を収め、スッと手を差し伸べた。

「儂と一緒に来るのだ、プロセルピナ。儂には——否、我々には、お主が必要なのだ」

「……わからないよ。ちょーろーのいうことは、いつもむずかしい。ルピナには、ぜんぜんわかんない……でも」
 いくらケレスが言葉を並べても、プロセルピナはまだ幼い。その言葉のすべてを理解することなど、できはしない。
 だが、ケレスが自分になにを求めているのか、その目的は、感覚として伝わってくる。
 そしてそれが、自分にとってどれほど嫌なことであるのかも、感じ取れる。
「ちょーろーが、このみーやゆーひーにひどいことするなら、ルピナもたたかう。ルピナはまだ、このみーたちといっしょにいるんだ!」
 それが、彼女の意志だった。
 そしてその意志の強さは、彼によって称賛される。
「……その心意気やよし。餓鬼とはいえ、そのまっすぐな姿勢、強き意思……なかなか見どころのある奴だ」
 男は、どこか感心したように、そんなことを言う。
 しかしそれとこれとは別だ。
 ケレスの申し出を、プロセルピナは断った。その事実は揺るがず、そして、それによって引き起こされる現象もまた、不変である。
 ケレスには再び覇気が迸り、男も鋭い眼光でこのみとプロセルピナを射抜くように見つめている。彼らは、いつでも戦える。いやさ、今にも襲い掛かってきそうなほどの、獰猛さが感じられた。
 それに対抗するかのように、プロセルピナも声を張り上げる。
「このみー!」
「う、うん……あ」
 プロセルピナに促されて、自分もデッキに手を伸ばそうとするが、そこではたと気づく。
(デッキ、部屋に置いたままだった……)
 こんな事態になるとは思いもしなかったので、うっかり置いてきてしまったようだ。
 まさかここで、デッキを取りに部屋に戻るなどというわけにも行かないだろう。そこまで相手も寛容であるようにも見えない。
 では、どうすればいいのだろうか。と、このみは困ってしまった。
(あいつ……デッキ忘れてやがるな……)
 そんなこのみを見て、夕陽はすぐさま彼女の心中を理解する。
 思っていることが表情に出やすいこのみだが、それ以前に、彼女の考えていることくらい、夕陽には分かる。
 夕陽は、肩の鈍い痛みを堪えつつ、身をよじった。
「……アポロン、これを、あいつに……」
 利き手ではない左手で、不器用にデッキケースを外すと、それをアポロンに手渡す。
「このデッキは……大丈夫なのか、夕陽?」
「僕には過ぎた代物だけど、あいつなら使えるかもしれない……あいつほどジャンクデッキを使ってた奴を、僕は知らない」
 今でこそ汐や姫乃のアドバイスをよく受けるようになり、デッキメイキングの腕も上がったこのみだが、思い返せば、彼女は昔から構築が滅茶苦茶なジャンクデッキをよく使用していた。それにもかかわらず、通常デッキを扱う夕陽と互角に渡りあっていたのだ。
 そのような過去を懐かしみそうになるが、今は回想にふけっている場合ではない。
「このみ! それを使え!」
「っ、ゆーくん……」
 このみが振り向くと、シュッと、アポロンから一つのデッキケースが投げ渡され、このみの手に収まった。
 そして、男とケレスも業を煮やしたのか、それを皮切りとして、周囲の空間の変化を感じ取った。
 正直、今の状況には混乱している。
 姉に近寄る男になにか言ってやろうと仕掛けたこの場であって、本当にそれだけだった。
 それなのに、男は『神話カード』を持っており、彼が所有する『神話カード』のケレスは、プロセルピナを欲している。さらに夕陽がアポロンと共にそのプロセルピナを連れて来て、自分は今、彼のデッキを握っている。
 なにがなんだか、しっちゃかめっちゃかだ。状況が二転三転しすぎていて、状況がすべて把握しきれない。
 だが、しかし。
 今この時、自分がすべきことだけは、理解しているつもりである。
「……プロセルピナ」
「なに、このみー?」
 このみは彼から渡されたデッキを握り締める。
 自分がこの場ですべきことはただ一つ。戦うこと。ただそれだけだ。
 それはなにがために。そのことを考える余裕は、残念ながらなかったが。
 それよりも先に、このみは、確認するかのように彼女に呼びかける。
 ここしばらく、彼女と触れ合ってこなかった。ゆえに、彼女との繋がりは生きているのか。それを確かめたい。
 しかし、思えば確かめるまでもないことだったかもしれない。
 なぜなら、自分の顔は既に、綻んでいた。彼女との信頼によって。
 だからこそ、自分の笑みも、彼女の笑みも、分かっていたことだった。
「……よろしくね」
「……うんっ!」

 そうして彼女らは、神話空間へと導かれる——

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.632 )
日時: 2015/06/10 03:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 このみと男のデュエル。
 序盤は互いにマナブーストから始まり、シールドは五枚ずつ。クリーチャーもまだいない。
 とりあえずこのみは、最初に《霞み妖精ジャスミン》でマナを伸ばしたが、
「でもこのデッキ、どうやって使うんだろう……」
 中身を確認する暇なんてなかったため、まったくデッキ内容が分からない。見た感じ、火、自然の連ドラっぽいが。
「とりあえず、今出せるカードは……《エコ・アイニー》を召喚。マナをさらに増やして、ターン終了だよ」
 これでこのみはさらに2マナブーストし、後攻でありながらマナ数では男を上回った。
 だが男は、今度は別のアプローチでアドバンテージの差を広げる。
「呪文《ストリーミング・チューター》。山札の上から五枚を捲るぞ」
 捲られたのは、《ガイアール・ベイビー》《セブンス・タワー》《ドンドン吸い込むナウ》《節食類怪集目 アラクネザウラ》《爆砕面 ジョニーウォーカー》の五枚。
「水単色の《ドンドン吸い込むナウ》以外の四枚を手札に加える」
「わ……手札一気に増やされちゃった……」
 男のデッキは、水、火、自然の三色の様子。かといって、ここまでの動きやカードを見るに、ビートダウンのように、積極的に序盤から攻めていくようなデッキではないようだ。この三色はビートダウンに秀でた組み合わせで、その手のデッキが有名なので、そうでない場合の動きが、このみにはよく分からない。
「なにをしてくるデッキなんだろう……あたしのターン。《母なる緑鬼龍ダイチノカイザー》を召喚!」


母なる緑鬼龍(りょっきりゅう)ダイチノカイザー 自然文明 (7)
クリーチャー:グリーン・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 7000
このクリーチャーが攻撃する時、相手とガチンコ・ジャッジする。自分が勝ったら、自分のマナゾーンにあるカードの枚数以下のコストを持つ、進化ではないドラゴンを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー


 攻撃と同時にガチンコ・ジャッジを仕掛け、それに勝つことでマナゾーンからドラゴンを呼び出せるドラゴン、《ダイチノカイザー》。やや不安定で変則的だが、マナブーストを多用したり、デッキ全体の平均コストが高い連ドラでは、攻撃までのタイムラグに目を瞑れば有用なカードだと言えるだろう。
「《セブンス・タワー》、メタモーフで3マナ加速。そして《節食類怪集目 アラクネザウラ》を召喚だ」
「除去されなかった……やった」
 返しのターンに除去されてなにもできない可能性があるのがアタックトリガーの欠点だが、《ダイチノカイザー》は運よく生き残ることができた。これはチャンスだ。
「《養卵類 エッグザウラー》と《霞み妖精ジャスミン》を召喚! 《ジャスミン》は破壊してマナを増やすよ! そして《ダイチノカイザー》で攻撃!」
 その時、《ダイチノカイザー》が吠える。
「ガチンコ・ジャッジ!」
 このみが捲ったのは、コスト8《永遠のリュウセイ・カイザー》。かなり高コストのカードを捲ることができた。
「これなら行ける……!」
「……ふんっ」
 男は勝利を確信したようなこのみを見て、どこか呆れたように鼻を鳴らす。
 そして、男が捲ったカードは——《帝王類増殖目 トリプレックス》。
「っ……!? コスト9のカード!?」
「俺の勝ちだな。《ダイチノカイザー》の能力は不発だ」
「うぅ、で、でも! 攻撃は通るよ! 《ダイチノカイザー》でWブレイク!」
 《ダイチノカイザー》は男のシールドを粉砕する。その破片が飛び散り、男を切り裂くが、男は意に介さない。
 まるで、この程度の痛みは慣れている、とでも言わんばかりに不動であった。
「それで終わりか?」
「…………」
 このみからの返答はなかった。即ち、彼女のターンはこれで終わりだ。
「……《爆速 ココッチ》を召喚」
 今までつとめて静かに振舞っていた男だが、次の瞬間、溜め込んでいた力を解き放つかのように、すべてを爆発させる。

「仁義も大儀も必要ない。最後にすべてをねじ伏せるのは、は力だ。さぁ、あらゆる敵を古代の力でねじ伏せろ! 《仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ》!」

 大地が鳴動し、砕け、割れ裂ける。そこから這い出るようにして現れたのは、鉤爪にも似た刃を剥き出しにした、凶暴な古代の龍。身体にはその怒りを抑えるかのような鎖が巻かれているが、それでもない、龍は怒るように吠えている。
「これなら、『神話カード』を出すまでもないかもな……《ココッチ》の能力で俺のコマンド・ドラゴンはすべてスピードアタッカーとなる。《ブラキオヤイバ》で《ダイチノカイザー》を攻撃だ!」
 その時《ブラキオヤイバ》が再び吠える。さらにそれに呼応するかのように、《アラクネザウラ》も甲高い声で叫び始めた。
「な、なに……!?」
 あまりの声量に思わず耳を塞ぐこのみ。一体なにが起こるのか、二体の古代龍がなにをしてくるのか。その答えは、すぐに明らかとなる。
「《ブラキオヤイバ》が攻撃する時、俺は手札から好きな自然クリーチャーを呼び出すことができる」



仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ 自然文明 (8)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーが攻撃する時、進化ではない自然のクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
相手のクリーチャーが攻撃する時、そのクリーチャーは可能であればこのクリーチャーを攻撃する。
T・ブレイカー



 コスト踏み倒しがどれだけ強力であるかは、今までの殿堂カードが物語っている。それだけでも強力な《ブラキオヤイバ》の能力であるが、しかし男は、さらにその上を行っていた。
「だが、俺はその能力を使う前に、《アラクネザウラ》の能力を発動させる」
「《アラクネザウラ》の能力……?」
「自分のドラゴンが攻撃するとき、マナからクリーチャーを手札に戻せるドラゴンだよ、このみー」
 このみが首をかしげていると、プロセルピナから解説が入った。幼いが、流石は自然のドラゴンと関わりの深い『神話カード』なだけあって、自然のクリーチャーには詳しいようだ。



節食類怪集目 アラクネザウラ 自然文明 (6)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 6000
自分のドラゴンが攻撃する時、クリーチャーを1体、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。そうした場合、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
W・ブレイカー



「……あれ? っていうことは……」
 このみはそこで気付いた。
 手札からクリーチャーを呼び出せる《ブラキオヤイバ》。その能力を使う前に、《アラクネザウラ》の能力によってマナゾーンからクリーチャーを回収するということは、
「マナゾーンからも、好きなクリーチャーを出せるってこと……!?」
「その通りだ。マナゾーンの《ガイアール・ベイビー》を回収し、そのままバトルゾーンへ!」
 二体の古代龍によるコンボ、しかもそれが《ココッチ》のサポートを受けて、少ないラグで行っている。相手依存で不安定なこのみとはまったく違う。
 《ブラキオヤイバ》の一撃が《ダイチノカイザー》を引き裂き、破壊した。
「《ダイチノカイザー》が……」
「おい、これで終わりだと思うなよ。《ガイアール・ベイビー》で攻撃! その時にも《アラクネザウラ》の能力が発動する!」
 また《アラクネザウラ》が叫びを上げると、男のマナゾーンに眠っていたクリーチャーが目覚め、驚き逃げるように男の手札へと向かっていく。
「マナゾーンの《青銅の鎧》を回収だ。そして、そのままシールドをブレイク!」
 《ガイアール・ベイビー》がこのみのシールドを突き破る——前に、そのシールドは透明化する。
「な、今度はなに……!?」
「《ガイアール・ベイビー》がシールドをブレイクするとき、そのシールドを見れるんだよ」
 また、プロセルピナからの解説が入った。
「そしてそのシールドのカードよりコストの小さなクリーチャーを、手札から出せるの」


ガイアール・ベイビー 水/火/自然文明 (5)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター 5000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スピードアタッカー
このクリーチャーが相手のシールドをブレイクする時、相手はかわりにそのシールドをすべてのプレイヤーに見せる。そのシールドの中のカード1枚よりコストが小さい、進化ではないクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。その後、このクリーチャーはそのシールドをブレイクする。


「ってことは、また《アラクネザウラ》回収したクリーチャーが出て来るの……!?」
 《ブラキオヤイバ》と違い、相手依存で比較的不安定ではあるものの、《アラクネザウラ》はどんなクリーチャーでも回収できるため、その不安定さをある程度は解消できる。
「どうした。早くシールドを見せろ」
「う……」
 このみは仕方なく、ブレイクされたシールドを公開する。見せたのは、《エコ・アイニー》。
「コスト4か。なら、さっき回収した《青銅の鎧》をバトルゾーンへ」
 《青銅の鎧》程度ならそこまで強力なクリーチャーではないが、クリーチャーを並べられてしまったことは多少なりとも痛手だ。確実にアドバンテージを稼がれてしまっている。
「続けて、《アラクネザウラ》でWブレイク!」
「っ、S・トリガー発動だよ!」
 《アラクネザウラ》が食い破るようにこのみのシールドを砕くが、その二つはすぐさま光の束となり収束した。
「《熱血龍 バトクロス・バトル》と《王龍ショパン》!」
 現れたのは、どちらもS・トリガー能力を持つドラゴン。そして、登場時に相手クリーチャーとバトルする能力を持っている。
「《バトクロス・バトル》で《アラクネザウラ》とバトル! 《ショパン》は《ココッチ》とバトルだよ!」
 二体の龍は、それぞれ男のクリーチャーへと向かって行く。《バトクロス・バトル》は熱血の拳で《アラクネザウラ》を殴り倒し、《ショパン》はその巨体で《ココッチ》を踏み潰した。さらに、
「《バトクロス・バトル》も《ショパン》もパワー5000以上だから、《エッグザウラー》の能力でカードをドロー!」
 手札を補充し、反撃の手を掴んでいくこのみ。運頼りではあったが、まだ立て直せる。
 しかし、S・トリガーで二体のクリーチャーを除去でき、展開していく男の勢いを削ぐことができたとはいえ、状況が不利であることに変わりはない。
 まだ男の場には、《ブラキオヤイバ》が存在するのだ。
「……あたしのターン」
 今のこのみの手札に、この状況を打破するカードは存在しない。
 なので、このドローにすべてがかかっているのだが、
「! これ……《偽りの王 ヴィルヘルム》を召喚!」
 果たして正解に近いカードを、引き当てることができた。
 すべてのマナを使い、このみは巨大なキング・コマンド・ドラゴンを呼び出す。
「《ヴィルヘルム》の能力で、《ブラキオヤイバ》を破壊!」
「っ、ちぃ……!」
「さらに《ショパン》で《ガイアール・ベイビー》を攻撃だよ!」
 立て続けにクリーチャーを破壊され、男の場は瞬く間に壊滅されてしまった。
 残っているのは、《青銅の鎧》一体のみ。
 しかしそんな危機的状況下にあっても、男は揺るがなかった。それは、まだ彼に見せていない力があるがゆえのこと。
 そして男は、この重要な局面にて、決断を下した。
「物量で押し切れると思った瞬間にこれか……やはり、ここはお前に頼らざるを得ないようだ、ケレス」
「お主が望むなら、儂はいつでも構わん」
「そうか、なら……《青銅の鎧》を召喚」
 男は、ここに来て小型クリーチャーを並べ、マナを増やす。
 ランデスされたとはいえ、たかが一枚。豊富なマナを持つ男には微々たる被害。今更マナをさらに伸ばしても、過剰なだけだ。
 しかし男がここでマナを増やし、《青銅の鎧》というクリーチャーを並べることには、大きな意味を持つ。
 それが分かるのは、そう遠い未来ではない。
「続けて、《ボルバルザーク・エクス》を召喚」
 禁じられた龍の一体、《無双竜機ボルバルザーク》が狩人の姿となって転生したクリーチャー、《ボルバルザーク・エクス》。
 その咆哮はマナに新たな活力を呼び戻す。再び自分の時間が訪れるかのように、マナが起き上がった。
「そして6マナをタップ、《サイバー・N・ワールド》を召喚」
 マナが起き上がると、今度は手札。
 世界が一度、新しく作り直される。世界が再構築され、男も、このみも、手札と墓地が初期状態にリセットされた。
(っていうかこれ、確かゆーくんや汐ちゃんが言ってた……Nエクス、だっけ……?)
 Nエクスとは、要するに《ボルバルザーク・エクス》と《サイバー・N・ワールド》の組み合わせだ。
 コンボと言えるようなコンボではなく、《ボルバルザーク・エクス》による豊富なマナの再復活と、《サイバー・N・ワールド》による手札補充で、大量のアドバンテージを叩き出そうという、かなり強引な荒業だ。
 しかし、そこから発生するアドバンテージは膨大なもの。
 そしてその膨大なアドバンテージによって現れる存在は、強大である。
 あらゆる生命の源を支配し、大いなる自然の力の象徴とも言える、恵みの化身。
 それは、すべての命に必要な活力を与える——神話の力だ。
「豊穣の女神よ! 世界の命の源泉たる者よ! 大いなる恵みを、生の活力を、我らが大地に流し込め!」
 大地が鳴動する。
 二体の《青銅の鎧》と、《ボルバルザーク・エクス》がその中に飲み込まれた。
 再び、大地が鳴動する。
 一度目の地響きは、儀式。
 二度目の地響きは、誕生。
 大地を讃頌する獣人と、偉大なる自然の力を大地に取り込み、その神話は顕現する。
「神々よ、調和せよ! 進化MV!」
 大自然に生を受けた命に、大地の力を注ぐべく——

「——《豊穣神話 グランズ・ケレス》!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.633 )
日時: 2015/06/10 03:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

豊穣神話 グランズ・ケレス 自然文明 (7)
進化クリーチャー:メソロギィ/ビーストフォーク/ジャイアント 17000+
進化MV—自分のビーストフォーク1体と自然のクリーチャー2体を重ねた上に置く。
コンセンテス・ディー(このクリーチャーの下にある、このクリーチャーと同じ文明のすべてのクリーチャーのコストの合計を数える。その後、その数字以下の次のCD能力を得る)
CD4:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーの種族を数える。その後、山札またはマナゾーンから、その数以下のコストの自然クリーチャーを1体、バトルゾーンに出してもよい。山札から出した場合、山札をシャッフルする。
CD9:自分の自然クリーチャーをバトルゾーンに出した時、山札の上から2枚までマナゾーンに置く。その後、マナゾーンからカードを2枚まで手札に加える。
CD11:自分のクリーチャーはすべてパワー+3000される。それが自然クリーチャーであればシールドをさらに1枚ブレイクし、相手を攻撃しブロックされた時、相手のシールドを1枚ブレイクする。
T・ブレイカー



 大地の中から姿を現したのは、老人のような姿のクリーチャー。
 全身を走るように皺だらけの身体をしているが、老衰したような気配は微塵も見られず、むしろ生命感、活力に満ち溢れている。ここからでも、凄まじい覇気を感じる。
 彼女は襤褸のような古びた外套を、大木のような腕、足、胴体を隠すようにして纏い、杖の代わりとして、身の丈以上はあるだろう巨大な槌を握っていた。
「ちょーろー……」
『……プロセルピナ』
 ケレス——《豊穣神話 グランズ・ケレス》は、重苦しい静かな声で、言った。
『こうなった以上、儂は力ずくでお主を奪い取る。お主がいくら我儘を垂れようと、儂はもう——聞かぬぞ』
 覚悟を決めい、と《ケレス》はどこか窘めるような口調で、プロセルピナに宣告する。
 そしてかの神話は、大いなる大地の力を解き放つ。
「……《ケレス》の能力発動、CD4」
 すると、《ケレス》の身体が淡く発光し始めた。
「俺の場にある種族は、メソロギィ、ビーストフォーク、ジャイアントの三つ……よって、マナからコスト3以下のクリーチャーを場に出す。出て来い《青銅の鎧》」
 《ケレス》の力によって、マナゾーンから《青銅の鎧》が現れる。『神話カード』の力によって呼び出されたにしては貧弱なクリーチャーだが、《ケレス》の真価はここから発揮される。
「続けて、CD9を発動する」
 刹那。
 《ケレス》は大槌を振りかぶり、それを大地へと振り下ろした。
 まるで、土壌を耕すように。
 いや、事実、その一振りによって、男のマナはさらに肥えた。
「《ケレス》のCD9によって、俺の自然クリーチャーが場に出るたびに、山札の上から二枚をマナへ送る。《ケレス》自身と《青銅の鎧》がバトルゾーンに出たことで4マナ、《青銅の鎧》の能力と合わせ、合計五枚のマナを追加する」
 過剰とも言えるマナブースト。既に男のマナは十分すぎるほどにある。これ以上マナを増やしてどうするというのだろうか。
 普通なら、そんな疑問が浮かぶだろう。
 ただし、本当にマナを増やすだけなら、だが。
 耕された土壌は十分に肥えた。肥沃の大地には、新たな命が芽吹く。
 そして、実った作物を収穫するのだ。
「さらに呼び出した自然クリーチャー一体につき、マナゾーンからカードを二枚回収する。二体呼び出したから、四枚回収だ」
「う……マナ回収……」
 マナと手札の関係性は、切っても切れない関係だ。
 よく言われることだが、マナがあっても手札が枯れていれば意味がない、手札が多くてもマナが肥えていなければカードは使えない。
 ゆえにマナを増やすことと手札を増やすことは、同じくらい大事で、両方一緒に行使することで初めて、幅広いプレイングが可能となる。
 《ケレス》の能力は、それを如実に体現していた。クリーチャーを出すことがマナの増強に繋がり、同時に後続を呼び出すための手札を、マナ回収という形で補充する。
 これが《豊穣神話》の名を与えられた、《ケレス》の力。大地に恵みをもたらすことで土壌を肥やし、新たな生命を解き放つことで作物を収穫する。マナという肥やしで、命を生み出す豊穣の力。
 ゆえにかの神話は、《豊穣神話》と呼ばれるのだ。
「回収するカードは、《フェアリー・ギフト》《牙英雄 オトマ=クット》《光牙忍ハヤブサマル》《永遠のリュウセイ・カイザー》だ」
 男はマナを増やしつつ、手札を手に入れる。既になくなっていたマナも《ケレス》で新しく生み出しつつ、その増えたマナを使い、さらなるクリーチャーを呼び出す。
「呪文《フェアリー・ギフト》。次に召喚するクリーチャーのコストを3軽減し、4マナをタップ。《牙英雄 オトマ=クット》を召喚! マナ武装7、発動!」



牙英雄 オトマ=クット 自然文明 (7)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 8000
マナ武装 7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに自然のカードが7枚以上あれば、マナゾーンのカードを7枚までアンタップする。
W・ブレイカー



 原生林を生み出す英雄《オトマ=クット》。
 その能力は、自然のマナを身に纏うことで発動するマナ武装。本来ならば単色構築にしなければ発動の難しい能力だが、男のマナは大量にあり、7枚くらいなら多色絡みで十分足りている。条件はクリアされているのだ。
 それにより、男のマナが三度起き上がった
「マナを7枚アンタップだ」
「また、マナがアンタップ……!?」
 《ボルバルザーク・エクス》よりも制約がきついが、しかし男が再びマナを使えるようになった事実に変わりはない。
 《ケレス》の能力は後続を呼び出すことを支援すること。当然ながら、マナの再復活は、その支援をさらに後押しする。
「《オトマ=クット》が出たことで、《ケレス》の能力が再び発動する! マナを増やし、マナゾーンから《超次元フェアリー・ホール》《威牙の幻ハンゾウ》を回収だ。そして呪文《超次元フェアリー・ホール》! 《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに!」
 超次元の門が開かれ、今度はサイキック・クリーチャーが呼び出された。
「《プリンプリン》の能力で《ヴェルヘルム》を指定。そいつの攻撃とブロックを禁じる。そして《プリンプリン》は自然文明も持つサイキック・クリーチャーだ」
「っ、てことは……」
「《ケレス》の能力によりマナを追加し、マナゾーンから《霞み妖精ジャスミン》《光牙王機ゼロカゲ》を回収する」
 当然ながら《ケレス》の能力はサイキック・クリーチャーにも適用される。
 《プリンプリン》を呼び出した男は、このみの《ヴィルヘルム》をロックしつつ、《ケレス》の能力を誘発させ、まだマナと手札を増やしていく。
「《ジャスミン》を召喚。即破壊し、マナを追加! 《ケレス》の能力発動! マナを二枚追加し、マナゾーンからカードを回収!」
 《ケレス》と組み合わせることで、マナ数を実質的に一枚増やせる《ジャスミン》によって、男のマナは残り8マナ。
 男は最後にそのマナをすべて支払い、このみを討つ準備を完了させる。
「これで締めだ。《永遠のリュウセイ・カイザー》を召喚!」
 最後に現れたのは、自軍をすべてスピードアタッカーにする、《永遠のリュウセイ・カイザー》。
 自然のクリーチャーではないので、マナが増えることも、マナ回収されることもないが、今まで展開してきたクリーチャーが、これでこのターンに攻撃可能となった。
 このみのシールドは残り二枚。手札に《ハヤブサマル》を握ってはいるものの、《ヴィルヘルム》がロックされてしまい、《リュウセイ・カイザー》を返り討ちにすることすらできない。
「さあ行け……! 《グランズ・ケレス》で攻撃!」
 刹那、《ケレス》の筋肉が膨張する。
 ボロボロの外套は破け、丸太どころか巨木のような身体が剥き出しになる。そして筋骨隆々な巨神の姿が、そこにはあった。
 そして《ケレス》は、杖の代わりにしていた大槌を、振りかぶる。
 老木の如く大地を肥やし、知識を与えていた姿はそこにはなく、そこにあるのは、大いなる恵みによって偉大なる活力を注がれた、力漲る武神の姿であった。
『覚悟せよ、萌芽の娘。そして——プロセルピナ!』
 叱咤のような怒号が轟き、《ケレス》の大槌が、このみへと振り下ろされた。
「まずい……っ! ニンジャ・ストライク! 《ハヤブサマル》を召喚! ブロックだよ!」
「無駄だ! 《ケレス》のCD11によって、俺の自然クリーチャーは相手のブロックを貫通する!」
 《ハヤブサマル》が《ケレス》の大槌を受け止めようとするが、その槌に触れた瞬間、跡形もなくバラバラに砕け散ってしまった。
 どころか、砕かれたパーツの一部がこのみへと飛んでいき、そのシールドを突き抜ける。
「いた……っ」
 飛ばされたパーツが頬を切る。それだけではない。粉砕されたシールドの破片までもが、このみに襲い掛かる。
「う……っ……!」
 服を貫き、皮が破れ、肉が切れ、血が飛沫く。
 髪が舞う。見れば、髪紐も千切れてしまっていた。
 豊穣神の一撃は、人ひとりにはとても大きい、大きすぎる一撃だった。《ハヤブサマル》を盾にしても、砕かれたのが一枚であったとしても、偉大なる大地から恩恵を受けた豊穣神の鉄槌は、たった一撃で、このみの小さくも実った身体を蹂躙する。
 しなやかな枝を剪定するように、腕を。
 大地を掴んだ根を千切るように、脚を。
 身を支える幹を切り倒すように、胴を。
 熟れた果実に刃を入れるように、胸を。
 萌える花々を散らすかのように、頭を。
 自らの土地にない異端の植物を抹消するかの如く、《豊穣神話》の鉄槌は、抉るように彼女の身体に傷を入れる。
「い、痛い……っ」
「まだ終わりじゃねぇよ。《オトマ=クット》で、最後のシールドをブレイクだ!」
 このみのシールドは、まだ残っている。《オトマ=クット》がその牙を剥き、彼女の盾を食い千切った。
 とても、荒々しく。暴君のような、凶暴な龍として、彼女の最後のシールドを、破壊する。
 ——しかし、
「……っ! S・トリガー、発動! 《グローバル・ナビゲーション》!」
「ちぃ……っ」
 砕かれた最後のシールドは、このみの身体に届く前に、光の束となり、収束した。
 その光は、獣の遠吠えのような鼓笛の音となり、突風を巻き起こす。
 その突風に飲み込まれた《リュウセイ・カイザー》は土へと還り、逆にこのみのマナゾーンからは、遠吠えに呼応した仲間が呼び寄せられる。
「アンタップ状態の《リュウセイ・カイザー》をマナゾーンへ! そして、あたしのマナゾーンから、《レヴィヤ・ターン》を手札に!」
 《リュウセイ・カイザー》がいなくなったことで、男のクリーチャーはスピードアタッカーを失い、このターンの攻撃ができなくなった。
「……ターン終了だ」
 男は静かにターンを追える。
 とりあえずこのターンは凌げた。だが、それだけだ。
 このみの場にいるのは、《エコ・アイニー》《エッグザウラー》、攻撃できない《ショパン》と、《プリンプリン》にロックされた《ヴィルヘルム》。
 男のシールドは三枚。加えて、手札には《ハヤブサマル》《ハンゾウ》《ゼロカゲ》と、多数のシノビを握っている。
 《ケレス》の能力はクリーチャーを展開し、強化するだけではない。
 シノビを回収するという形で、防御も固めている。攻防一体、とまでは行かないまでも、その力は防御にも応用できるものではあった。
「ど、どうしよう……」
 いくら考えても突破方が分からない。夕陽や、汐や、姫乃、流や——他の仲間なら、こういう状況からでも、逆転の一手を考え抜くことができるのかもしれない。
 しかし自分は、彼らほど頭がよくない。いつもいつも直感でプレイしているだけに、直感が働かなくなると、途端にどうすればいいのか分からなくなる。
 なにが正解なのか。考えても分からない。
 やがてこのみは、思考することを、なにかを思うことを止めそうになる。
 彼女が本当に、なにも感じなくなる——その時だ。
 花開くかのように、一筋の陽光のような希望が差した。

「——このみー!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.634 )
日時: 2015/06/20 13:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

「このみー!」
 声が聞こえる。
 幼くて、明るくて、和やかな、木々の揺らぎのように、落ち着く声。
 それは、自分の相棒——プロセルピナの、声だった。
「だいじょーぶだよ、このみー!」
「プロセルピナ……」
 彼女の眼を見る。
 いつも明るく朗らかで、弾けたように漲る彼女だが、今は違う。
 その眼は、いつものように笑ってはいない。しかし、かといって絶望に満ちているわけでもない。
 彼女の眼は、むしろ未来への希望に満ちた眼差しだ。
 それだけで、このみはすべてを理解した。
「……あたしのターン」
 しかし実際には、理解した、だなんて理屈的なことではない。
 感じたのだ。彼女から。今、自分の手中にあるデッキから感じる、生命の鼓動を。
 クリーチャーたちの、産声を。
 このみは、プロセルピナを通して、感じ取ったのだ。
 感じたならば、あとは簡単だ。
 あとは感じたままに、カードを操るだけ。
「《守護炎龍 レヴィヤ・ターン》を召喚! その能力で、マナゾーンから《地掘類蛇蝎目 ディグルピオン》をバトルゾーンへ! さらに《天真妖精オチャッピィ》も召喚!」
 まずは、前のターンに回収した《レヴィヤ・ターン》を呼び出す。無意識的に回収したカードだが、それはすなわち、彼女の感覚は、既にその時から始まっていたことの証明だ。
 《レヴィヤ・ターン》の能力で《ディグルピオン》が現れ、マナを肥やす。
 続けざまに表れた《オチャッピィ》も、死した仲間を土へと還す。
「さらに《ボルバルザーク・エクス》も召喚だよ! マナをすべてアンタップ!」
 そして、続く《ボルバルザーク・エクス》の咆哮によって、マナがすべて起き上がる。
 再び肥えたマナを再利用し、このみは、彼を——彼から受け取ったその力を、解き放つ。
「《神々の地 ディオニソス》を召喚! そして、行くよ——アポロン!」
「おう、任せろ!」
 このみが切った手札は、アポロン——夕陽が託した、彼の『神話カード』。
 大地が鳴動し、恐ろしき龍が咆哮し、豊穣が君臨するこの空間にて、一つの太陽が昇る。

「《エコ・アイニー》《ヴィルヘルム》《ボルバルザーク・エクス》の三体に重ねて——進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

 太陽の如き輝きと炎を放ち、一つの神話が、ここに爆誕する。
 その姿を見てこのみは、ふっ、と呟く。
「ゆーくん——力を、借りるよ」
 ——勝手にしろ。
 そんな、彼の声が聞こえた気がした。
 大親友の、声が。
「……《アポロン》で攻撃! その時、《アポロン》のCD9が発動! 山札を捲って、ドラゴンならバトルゾーンへ!」
 炎が晴れると、すぐさま《アポロン》は特攻する。
 しかしただ突っ込むだけではない。彼の翼の羽ばたきが爆風を生み——新たな命の芽吹きを、与える。
 アポロンは爆風によって飛ばされたカードへ向けて、呼びかけるように優しく、それでいて、出陣するかのように勇ましく、力の限り叫ぶ。
『さぁ、起きろ! プロセルピナ!』
「とっくにおきてるもん!」
『そうか、悪かった。なら——行ってこい』
「……うんっ! わかったよ!」
 そう言うと、彼女は迷いなく、一直線に相棒たる彼女の元へと向かう。
「……《レヴィヤ・ターン》《ディグルピオン》《オチャッピィ》を進化元に——」
 雪の妖精や古代の龍たちが、猛烈な吹雪と、桜色の花弁に包み込まれる。
「——芽吹く草花を、萌える木々を、ぜんぶを受け入れて、春の命を咲かせて——」
 その中で、神話が形成されていく。雪解けの中、新たな生命が芽吹く、萌芽の時の如く。
「——神々よ、調和せよ。進化MV——」
 その神話は、春を告げる。
 命の萌芽という、春を。
 そして、姿を現す。

「——《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》!」

 そこにいたのは、幼き少女。
 まだ発育しきっていない、初々しく、瑞々しい肢体。
 流れるような、桜色の結った髪。
 妖精のような、可憐な羽。
 そして彼女の陰に潜む、古木の龍。
 《プロセ》をただ一人手懐けることのできる神話《ルピナ》。彼女たちは、二人が揃うことで初めて、《プロセルピナ》の名が与えられている。
 そして《プロセルピナ》には、あらゆる生に命を吹き込む、萌芽の力が宿っていた。
「《プロセルピナ》のCD6発動! バトルゾーンのクリーチャーを一体、マナゾーンに送るよ! 送るのは——《王龍ショパン》!」
「なに……?」
 怪訝そうな表情を見せる男。確かに《プロセルピナ》のCD6は、味方クリーチャーもマナ送りにできる。だが、プレイヤーを攻撃できないとはいえ、ここでわざわざ味方クリーチャーを減らす意味はあるのだろうか。
 そんな疑問がよぎるが、意味は大いにある。男がそれに気づくのも、間もなくであった。
「私のマナゾーンにクリーチャーが置かれたから、続けてCD12が発動だよ! マナに置かれた《ショパン》以下のコストのクリーチャーをバトルゾーンへ!」
 《ショパン》のコストは8。なので、マナゾーンから出て来るのはコスト8以下のクリーチャー。
「さぁ、出て来て——《黒神龍エンド・オブ・ザ・ワールド》!」
 大地から現れたのは、世界を終わらせる無の龍、《エンド・オブ・ザ・ワールド》。
 この龍が姿を見せた時、あらゆる自然という資産が破壊しつくされ、なにもかもが終わってしまう寸前の世界になる。
「《エンド・オブ・ザ・ワールド》の能力で、あたしの山札からカードを三枚残して、残りを墓地へ——」
 刹那、終焉の世界が訪れる。
 このみの山札が、一気に墓地へと送り込まれた——
「——置く代わりに、《ディオニソス》の能力で、すべてマナゾーンへ——」



神々の地(ジ・アース) ディオニソス 自然文明 (6)
クリーチャー:アウトレイジMAX 7000
自分の他のクリーチャーが、どこからでも自分の墓地に置かれる時、墓地に置くかわりにタップしてマナゾーンに置く。
W・ブレイカー



 と、思った刹那、死に向かうはずの命がすべて、土へと還っていく。《ディオニソス》の力によって、神々によって支えられた大地へと、戻っていく。
 世界を終わらせるために破壊しつくされた資産は、すべて大いなる大地へと、偉大なる自然の中へと還元される——だけでは、終わらない。
「——置かれた時! 《プロセルピナ》の能力発動!」
 その力は、萌芽の力。
 命の根源たるマナから、新たな命を芽吹かせる、彼女だけに与えられた、神話の力だった。

「CD12! あたしのクリーチャーがマナゾーンに置かれた時、そのクリーチャー以下のコストのクリーチャーを——マナゾーンから呼び出す!」

 そして、彼女たちは祈る。
 大地に、味方に、祈るように願う。
「お願い、来て——!」
 大地が動く。
 カタカタと、ピクピクと、生命の鼓動を感じさせながら、小さく鳴動する。
 このみの声で、彼らの意志が、彼らを大地から呼び覚まそうとしている。
 そして、彼らを目覚めさせる、最後の呼び声は——彼女だった。
『……みんな、私の友達が呼んでるよ』
 誘いかけるように、自然体で、彼女は語りかける。
 自分の、大切な——仲間に。
 呼びかける。
『——起きて』
 刹那。
 大地が砕け散った。
 そして、怒涛の如く、《萌芽神話》の手によって。
 彼女に、彼女たちに味方するクリーチャーが——一斉に目覚めた。
「《プロセルピナ》の能力で、《エンド・オブ・ザ・ワールド》が墓地に送る代わりに、《ディオニソス》がマナに置いたクリーチャーはぜんぶ——ぜんぶ! そのままバトルゾーンへ!」
「……!」
 男は、声も出ない。
 愕然としていて、口をパクパクと動かすだけで、なにも言葉を発せずにいる。墓地へ行くはずの、墓地へ行く代わりにマナゾーンへ行くはずの、山札に眠っていたクリーチャーがすべて、バトルゾーンへと飛び出したのだ。
 しばらく神秘的な静寂が辺りを包んだが、輝くような怒号によって、その静寂が打ち破られる。
 そしてそれが、戦いが再開する合図だった。
『てめえら! ボサッとすんなよ! 俺に続け!』
『私にもねっ!』
 《アポロン》が先陣も切り、その後に《プロセルピナ》が続く。
 そして、萌芽の力で目覚めた数多のクリーチャーたちは、彼——彼女らへと、導かれるようについていく。
『行くぞ! お前も、いつまでも呆けてるなよ!』
「っ……ニンジャ・ストライク、《ハヤブサマル》を召喚し、ブロック……!」
 《アポロン》の燃える鉄拳が、《ハヤブサマル》のボディを粉々に粉砕し、灰燼と化す。もはや、灰すらも残らない。
「まだだよ! 《リュウセイ・カイザー》の能力であたしのクリーチャーはぜんぶスピードアタッカーになってる! 《ディオニソス》《バトクロス・バトル》で攻撃!」
「く、ぐぅ……!」
 男は《ハンゾウ》や《ゼロカゲ》、S・トリガーも用いてこのみの攻撃を防いでいくが、数が多すぎる。
 《リュウセイ・カイザー》と《アポロン》の二体によって、このみの陣形は高速化している。たとえ片方を除去しても、もう片方がその速度を維持するため、彼らに失速という言葉はなくなっている。
「っ……S・トリガー《スパイラル・ゲート》! 《リュウセイ・カイザー》をバウンス!」
「でも、まだ《アポロン》の能力が残ってる! 《エンド・オブ・ザ・ワールド》で攻撃!」
 いよいよ、男のシールドがなくなる。S・トリガーもなく、まだこのみには大量のクリーチャーの軍勢。
 このみと《プロセルピナ》の声を聴き、彼女たちに加勢する、彼女たちに惹かれ、集うクリーチャーたちがいる。
 そのクリーチャーの群れから、妖精のような小さな神話が、飛び出す。
『——長老っ!』
 《プロセルピナ》だった。
 彼女は子供らしい笑顔の代わりに、大きな壁を乗り越えるような、敬愛する偉人を追い越そうとしているかのような、真摯な面持ちで、《ケレス》へと向かう。
 対する《ケレス》は、大槌を地面に突き立て、彼女の前に仁王立ちで、待ち構えるように立ち塞がる。
『……《プロセルピナ》。お主の声を、お主が考え、感じ、導き出した答えを——聞こうか』
『みんなと一緒にいたい!』
 即座に。
 《プロセルピナ》は、答えた。
『私は、みんなが好き。このみーも、ゆーひーも、ひめのんも、シオンもリューも……勿論、アポロンやヴィーナス、アルテミスやネプトゥーヌス、十二神話たちも好き。私は、みんなが大好き』
 いつもの朗らかな表情で、しかしいつもとは違う、静かな優しさを持って、彼女は続ける。
『このみーたちと一緒にいたから、私は今の私があるの。一緒にいたいって思える人がたくさんできたの。それはみんなのおかげで、みんながいたからこそ、そう思えるようになった』
 そして、彼女は弾けるように、言葉を紡いでいく。
『だから私は、今の私を形作ってくれたみんなと一緒にいたい! 長老がなんで私を求めるのかは知らないけど、私はいつまでも子供じゃない! 長老の言うことでも、聞けないよ。だって、このみーたちは、みんな——』
 一瞬の間があった。その瞬く間にも、彼女や——このみの脳裏には、数多くの顔が浮かぶ。
 幼馴染の彼、ただ一人の物静かな後輩、恋い焦がれる彼女、夏に出会った寡黙な先輩——とても、多くの人間が、想起される。
 そして、それらに対する、彼女たちの思いは、ただ一つだった。

『——みんな、私の大切な仲間だから!』

『……そうか』
 《ケレス》はただ一言、どこか得心いったように、呟くだけだった。
 大槌を振り上げることもなく、それを地面に突き刺したまま、眼を閉じる。
 《プロセルピナ》が《ケレス》の脇をすり抜ける。その間際。
 彼女は、彼女たちだけに聞こえる小さな、囁くような声で、彼女に伝えた。
『——わがままでごめん、おかあさん——』
 それは一瞬の出来事。
 その一瞬が過ぎ去ると、《ケレス》も、ふっと漏らすように呟いた。
『……行け、《ルピナ》よ』
 そんな《ケレス》の姿は、我が子の成長を見守る、母親のようであった。
 《プロセルピナ》が飛翔する。古木の龍を引き連れ、神話の妖精が可憐に舞う。
 勝利という名の春を、告げるために——

「《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》で、ダイレクトアタック——!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.635 )
日時: 2015/08/03 23:58
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

「これであたしたちも、もう高校生かー」
「なんだ、お前にしてはえらく控えめだな。もっとはしゃぐかと思ってた」
「なーんか高校生になった、って感じがしなくてさー……」
「まあ、お前の身長は小学校から変化ないしな。僕もお前が高校生には見えないな」
「すっごい面白いこととかないかなー? あたしの人生を変えちゃくらい」
「そんな壮大なことに巻き込まれるのだけはごめんだな。やるならお前一人にしろ」
「いやいや、もしかしたらゆーくんからかもよ、そーゆーことに巻き込まれるのは」
「んなこと、早々あってたまるかよ。というかお前の妄想はアバウトすぎる。なんだよ、すっごい面白いことって」
「え? うーん……見たこともないカードを手に入れて、真の敵を倒す旅に出る、とか?」
「阿呆らしい上に適当だなおい」
「でもさ」
「ん?」
「せっかくの高校生だし、楽しいことがいっぱいできるといいよね、ゆーくん!」
「……まあな」



 神話空間が閉じる。
 同時に、猛烈な突風が吹き付けた。
「うぉ……!」
 対戦が終わり、神話空間は閉じたが、空間内で発生した攻撃の余波が、閉じた後に残った今の空間に流れ込んできたのだ。
 よほど大きな力で攻撃したのだろう。このようなことは、以前からもたまにあったので、夕陽はそこまで驚かない。
 だから問題なのは、この突風がどちらの攻撃によるものかだ。
 風の勢いが強すぎて目が開けられない夕陽だが、だんだんとその勢いも弱まっていく。そして目を開く——
「っ、このみ!」
 するとそこには、突風に吹き飛ばされたらしいこのみが、宙を舞っていた。当人は自分の身になにが起こっているのかも理解できていないようで、目をしばたかせていた。
 だが、すぐにそれも認識する。自分が、今まさに、我が家の天井から床へと、自由落下するという事実を。
「え——」
 気がついた時にはもう遅い。
 このみの身体は、重力の法則に従い、落下する——
「よっと」
 ——と、思われた刹那。
 このみの身体を、誰かが支えていた。
「大丈夫? このみー」
 聞こえてくるのは、あどけない少女の声。
 まだ幼さの残る声だが、だからこそ、それは優しく、安心できる声だった。
 このみは、ゆっくりと顔を上げる。
「プロセルピナ……あ、ありがとう……」
「ううん、いいよ。それより、私もそろそろ小さい姿に戻っちゃう。おろすよ」
「う、うん。よろしく」
 コンセンテス・ディーが発動した状態のまま、このみの小さな身体を抱えたプロセルピナが、ゆっくりと、まるで妖精のように、舞うように降りてくる。
 そしてこのみの足が地面に着いたのとほぼ同時に、彼女の姿も瞬く間に小さくなり、いつものデフォルメされたような二等身の姿へと戻ってしまった。
 と、その時だ。
 カランカラン、と来店を知らせる音が鳴り響く。
「……見たところ、事が終わった後のようだな」
「到着が遅れてしまいましたね……」
 来店してきたのは、二人の男女。カップルとも思えないような二人は、明らかに閉店していることを知らずに来た客ではなかった。
 そもそも、夕陽たちはこの二人のことを知っている。
「黒村先生……! それと、えーっと……」
「……希野よ、九頭龍希野。癪なことに、あなたもよく知る九頭龍希道の妹よ」
「あ、あぁ……」
「……霞家『古龍仁義(ガングランド)』か……」
 突如現れた黒村と希野に驚く夕陽たちだが、そんな彼らのことなど意にも介さずに、黒村は壁にもたれ、がくりとうなだれている男へと近づいていく。
 男は動かない。死んだわけではないだろう。恐らく、先ほどの余波の暴風に吹っ飛ばされた時に頭を打ち、その打ち所が悪かったのかもしれない。
 黒村は男に近づいていく途中、ふと夕陽の方を見遣る。
「九頭龍妹」
「……その呼び方、できればやめてほしいのですが……」
「お前は確か、柔道整復師の資格を持っていたな。奴の肩をはめてやれ」
 希野はちらりと夕陽に視線を向けると、少し嘆息のような息を吐き、まともに動けない夕陽の側に屈む。
 そして夕陽の腕を掴みながら、
「あたしも専門というわけじゃないから、安全性は保証しかねるわよ。後でちゃんと病院に行きなさい」
 そう言って。
 ゴキッ、という鈍い音が、夕陽の肩から鳴った。
「が、あぁ……かは……っ」
 再び猛烈な痛みが襲いかかる。しかし、先ほどまでの肩にあった違和感は消え失せ、肩に残るのは痛みだけだった。
 それでも痛いことには変わりない。夕陽は目尻に涙を浮かべながら、黒村に問う。
「黒村先生……どうして、ここに……?」
「《豊穣神話》の動きを察知してな。まさかこの男が所持しているとは思わなかったが……【ラボ】を欺くとは、思った以上のキレ者だったな」
「……その男って、一体誰なんですか……」
「お前たちも知る人間のはずだ」
 そう言って、黒村は強引に男の首を上げる。
 そして顔から、はぎ取るように眼鏡とガーゼを取り払う。
 最初は夕陽も分からなかった。しかし、男の顔をまじまじと見ているうちに、自分の中で、その男の顔が、とある人物と繋がっていく。
 想像と観察が完全に接続された時、夕陽の口から、その人物の名が漏れるようにこぼれ落ちた。

「橙さん……!」



 翌日のことだった。
 夕陽とこのみは、とある邸宅に呼び出される。
 日本屋敷そのものと言うべき建造物。そこに豪奢な装飾などはなく、質実剛健さ漂う立派な造りの屋敷だ。家、などという一般人的感覚で表現することはできない。
 そして、人はこの屋敷を、屋敷に住まう人々と併せて、こう呼ぶ。
 『霞家』と。
「久々に来たけど、やっぱでかいな……」
「ほんとにねー」
 夕陽とこのみは、その屋敷の門扉の前に立ち、屋敷を見上げる。
 だがこのみは、ちらりと視線を夕陽の腕に移した。
「それよりも、ゆーくん。腕、だいじょうぶ?」
「ん? あー、まあ、しばらく動かさないで、安静にしてろとは言われたけど、大事はないみたいだ。希野さんがすぐにはめてくれたお陰かな」
 夕陽は腕を吊っていた。先日の一件で左肩を脱臼したので、その処置だ。
 まったく動かせないわけではないのではないが、それでも動かそうとすると痛みが走るので、生活は色々と不便ではあった。目下一番の懸念は、試験までに治るかどうかだが、まず無理だろう。脱臼なんてさせた奴に、恨み言でも言いたくなる。
 まあもっとも、そもそもこうなった原因と、これから会いに行くわけだが。
「……行くか。閂は、今は外してるらしいし」
「うん。そだね」
 そして夕陽は、重厚な門扉を押し開ける。
 まず目に飛び込んできたのは、日本庭園の如き庭。夕陽は日本庭園と聞いても枯山水くらいしか知らないが、しかしそれでも、相当手入れされていることは、なんとなくわかった。
 そして次に、竹箒を持って庭の掃除をしているらしい少女が目に入った。えらく似合う若草色の着物を着た、小柄な少女。
 夕陽は何気なく、その少女に声をかけた。
「や、柚ちゃん。こんにちは」
「あ、お客さんですか……こんにちは……って」
 少女——霞柚はパッと顔を上げて一礼して、それからまた顔を上げると、今度は驚いたような表情を見せる。
 そして、カランと竹箒を落としてしまいながら自分の身体を隠すようにつかむと、上ずった声をあげた。
「ゆ、ゆーひさん……っ!? このみさんも……な、なんでうちに……」
「なんでって言われると、呼ばれたから、と言うしかないかな」
「よ、呼ばれた……? だれに、ですか……?」
「俺だ」
 と、直後。
 柚の背後に、男が立っていた。黒と灰色の紋付羽織袴を着込んだ黒髪の男。
 服装もそうだが、しかしなにより目につくのは、彼の右頬を走る大きな傷。
 男は柚の背後に立ったまま、重苦しいほどの厳かな声を発する。
「こいつらは俺の客だ」
「おにいさん……」
「柚、お前も連中の来訪には思うところがあるかもしれないが、今回は悪いが席を外せ。どうしても大事な話があるのでな。そして、お前たち。とりあえずついてこい」
「は、はい……」
 有無を言わさず口調で、そう夕陽は頷くことしかできなかった
 そして、こうして夕陽たちは、霞家の屋敷へと案内された。
 霞家次期頭首、霞橙の客人として。


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