二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.401 )
日時: 2014/02/15 21:07
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

タクさん


 スーパーデッキMAXは選択肢が多いですからね。選ぶカードを変えればそれだけで戦術が変わってきますから、ベストの選択よりも自分の好みを追及する方がいいと思います。OMGは結構一貫してますけど。
 あぁ、成程……まあしかし、それでも価格と内容は切っても切れない関係ですからね。期待しすぎないようにして、いいカードが出たら歓喜するとします。
 新たなというか、相棒が戻って来た……いや、やっぱり受け継いだというべきですね。この展開は執筆初期の頃から考えていたのですが、やっとここまで来ました……本当に長かったです……
 アポロンの能力の代償で死んだというより、アポロンの能力の代償で生命力が削られていたところに、ジークフリートがとどめを刺した、という感じですね。上手く言えないのですが、運命の中での寿命がアポロンによって縮まった、とでも言うのでしょうか? ……わけ分かんないですね。やはり生命力が削られたという方がしっくりきます。
 ニャルラトホテプのデッキは、本来ならもっと早く《ザビ・ミラ》を呼び出すのですが、夕陽の攻撃を抑えることを優先していたので、少し時間がかかっています。しかしその甲斐あって、かなり守りが盤石な状態で《死海竜》を呼び出せています。
 ニャルラトホテプの場は鬼畜ですからね。S・トリガーを封殺する《死海竜》に加え、墓地のエイリアンを回収する《ザビ・ヒドラ》サイキックをバウンスさせない《セツダン》にシールドを追加するブロッカー《ユリア・マティーナ》。《ザビ・ガンマン》も墓地が肥えていればループ覚醒でパワーがとんでもないことになりますし、ふつうここから逆転はほぼ不可能ですね。
 とはいえ、状況が絶望的であればあるほど、この作品のデュエルでは負けフラグみたいになっていますけど。まあ、どのように逆転するかは、次回のお楽しみ、ということで。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.402 )
日時: 2014/02/16 01:07
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽とニャルラトホテプのデュエル。
 夕陽のシールドは五枚。バトルゾーンには《超天星バルガライゾウ》と、その能力で出た《王龍ショパン》《インフィニティ・ドラゴン》《不敗のダイハード・リュウセイ》の四体。
 ニャルラトホテプのシールドは二枚。バトルゾーンには《凶星王ザビ・ヒドラ》《復活の祈祷師ザビ・ミラ》《ヤミノザビグライド》《巨人の覚醒者セツダン》、《時空のジキル ザビ・ガンマン》と《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》がそれぞれ二体ずつ。そして、覚醒リンクした《死海竜ガロウズ・デビルドラゴン》。
 マナもほとんど使い切り、遂にニャルラトホテプが攻めに出る。
「まずは《ザビ・ヒドラ》でWブレイク!」
 先んじて攻撃を仕掛けてくるのは《ザビ・ヒドラ》。夕陽の二枚のシールドが粉砕される。S・トリガーはない。仮にあったとしても《死海竜》の効果で発動できないが。
「続けて行きますよ! 《死海竜ガロウズ・デビルドラゴン》で攻撃!」
 刹那、《死海竜》がおぞましいほどの咆哮を上げる。同時に、《死海竜》の無数の牙が解き放たれた。
「《死海竜》の能力発動! 攻撃時、相手クリーチャーを二体バウンスします! 《インフィニティ・ドラゴン》と《不敗のダイハード・リュウセイ》をバウンス!」
(来た……!)
 ここで、夕陽最大のギャンブルが到来する。
 バウンスの順番は《インフィニティ》《ダイハード・リュウセイ》の順。バウンスは《インフィニティ》の能力で守ことができるが、仮に呪文でも出ようものならすぐさま消し飛ばされる。
 先に《インフィニティ》が除去されれば、次の《ダイハード・リュウセイ》も確実に除去される。また《インフィニティ》が残っても、《ダイハード・リュウセイ》が手札に戻されれば自壊できない。そしてこの二体が守られても、《イニfニティ》の強制的に発動する能力で《ダイハード・リュウセイ》が自壊できなければ、このターンにダイレクトアタックを決められてしまう。
 なので最初に二回はドラゴンかファイアー・バード、最後の一回だけは呪文、というのが理想的な流れ、いやさ生き残るための流れだ。
(このデッキに残ってるドラゴンとファイアー・バード以外のカードは、あとたった一枚。その一枚を、このデッキの三枚目で引かなくちゃいけない)
 普通に考えれば絶望的な確率になるだろう。だがどれほど分の悪い賭けであっても、生き残る道がそれしかないのであれば、それに賭けるほかない。
「……《インフィニティ・ドラゴン》の能力発動!」
 《死海竜》の咆哮を受ける《インフィニティ》。まず最初の能力解決。墓地へと落ちたのは、《エコ・アイニー》。続けて二度目の能力処理。次に落ちたのは《闘龍鬼ジャック・ライドウ》。
「ふぅむ、当たってしまいましたか……まあ確率的には当然ですか、いいでしょう。ですが、問題はここからですよね?」
 あくまで夕陽が防いだのは《ダイハード・リュウセイ》の除去だ。《死海竜》の攻撃自体は止まらない。続くダイレクトアタックを止める手立てもない。
 ただ《ダイハード・リュウセイ》を破壊できれば生き残れるが、破壊しようにも《インフィニティ》の能力が邪魔で、捲ったカードがドラゴンかファイアー・バード“以外”でなければならない。
「チャンスは残ってしまいましたが、そのチャンスも結局は運任せ。確率で考えれば、あなたが生き残る道は果てしなく狭き門です。さあ《死海竜》、消えゆく希望に縋る少年に、あなたの牙を授けなさい」
 ニャルラトホテプの言葉の直後、解き放たれた《死海竜》の牙が夕陽に降り注ぐ。
「ぐ……っ!」
 降り注ぐ牙は夕陽のシールドを根こそぎにする。これで夕陽のシールドはゼロ。彼を守るものは、なにもない。
 そして、
「これでとどめです! 《ザビ・ミラ》でダイレクトアタック!」
 《ザビ・ミラ》が放つ闇の波動が、夕陽に襲い掛かる。シールドもブロッカーもシノビもない夕陽に、その攻撃を防ぐ手立てはない。
「だけど……《ダイハード・リュウセイ》の能力発動! 《ダイハード・リュウセイ》を破壊!」
 《ダイハード・リュウセイ》を破壊すれば、ダイレクトアタックを受けても負けはしない。だがそのためには、《ダイハード・リュウセイ》を破壊しなければならない。
 ドラゴンが破壊される。だがそこに横槍を入れるのは《インフィニティ・ドラゴン》。
「《インフィニティ》の能力でドラゴン以外が捲れれば、《ダイハード・リュウセイ》を破壊できる」
「あなたのその一枚が引けますかね? 【太陽一閃サンシャイン】同様、あなたも龍と火の鳥に愛されたデュエリストではありますが、その性質が仇となりましたね。あなたが引くのはドラゴンかファイアー・バードですよ?」
「……くっ」
 ニャルラトホテプの言葉には、残念ながら反論できない。
 夕陽は今まで、このような状況でいつもドラゴンやファイアー・バードを引いてきた。それは事実だ。そうでなくても、このデッキのドラゴンとファイアー・バードの割合から考えて、引けるカードはそれらだろう。
 デッキに手を添えたまま、カードを引きあぐねる夕陽。だが、
「夕陽!」
「アポロン……」
「諦めるな!」
 デッキから飛び出したアポロンに叱咤される。短い言葉ではあるが、太陽の如く力のこもった声であった。
「ドラゴンもバードも、絶対お前に応える! あいつらを信じろ!」
 信じろ、と言われても、出て来て欲しくない状況でそれもどうなのかと思うが、
「……そうだね。《インフィニティ・ドラゴン》の能力発動!」
 夕陽は意を決し、山札のカードを捲り上げる。
 なにも考える必要はない。今までそうしてきたように、このデッキを信じて、カードを引くだけだ。
 そして捲れれたカードは——

 ——《メンデルスゾーン》だった。

「捲られたのは呪文! よって《ダイハード・リュウセイ》を破壊! 《ダイハード・リュウセイ》の能力発動!」
 このターン、夕陽は負けない、不敗の存在となる。
 《ザビ・ミラ》の波動は夕陽に直撃……するが、夕陽を包む淡い炎に取り込まれ、消えてゆく。
「……まだ来るか?」
「むむっ……あまり調子に乗らないでくださいよ。たかだか一度とどめを防がれた程度では、私の優位は揺るぎませんからね」
 ニャルラトホテプの場にはブロッカーもいる。これらの防御網を突破しつつとどめまで持っていくのは難しいだろう。
「とりあえずここは安全運転です。《セツダン》で《GENJI》に攻撃、相打ちに!」
 《セツダン》が《GENJI》に攻撃を仕掛け、相打ちとなり共に破壊される。ブロッカーを削られることを恐れてのことだろう。
「ターン終了です」
「なら、僕のターンだ」
 デッキに手を置き、ゆっくりとカードを引く夕陽。引いてきたカードは、見るまでもない。
「夕陽! 来たぜ!」
「ああ、よく来てくれたよ、アポロン」
 まだデフォルメ状態で実体化するアポロン。ブロッカーは多いが、突破口が見えてくる。
「シールドブレイクで手札も増えたし、一気に行くよ! まずは《コッコ・ルピア》を召喚! 続けて《ボルシャック・NEX》を召喚! 二体目の《コッコ・ルピア》を出して、《ボルバルザーク・エクス》も召喚!」
 連続でファイアー・バードとドラゴンを並べ、《ボルバルザーク・エクス》でマナを回復。しかも《コッコ・ルピア》が二体いる状態で、だ。
「《ポップ・ルビン》を召喚! 《偽りの名 バルキリー・ラゴン》を召喚! 山札から《鬼カイザー「滅」》をサーチしてそのまま召喚!」
 大幅なコスト軽減から何体ものドラゴンが並ぶ。そしてこのドラゴンたちは、神話の神の糧となる。
「さあ、出番だよ! 《コッコ・ルピア》二体と《ボルシャック・NEX》を進化元に!」
 二体の火の鳥と、一体の龍が炎の渦に包まれた。
「天空と閃光の太陽、受け継ぎし力を今ここに! 神々よ、調和せよ! 進化MV!」
 そこに夕陽の放ったカードがその渦の中に飲み込まれ、三体のクリーチャーを取り込み、その姿を具現する。
 ——太陽の如く。

「——《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.403 )
日時: 2015/08/16 04:29
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

太陽神話 サンライズ・アポロン 火文明 (6)
進化クリーチャー:メソロギィ/ファイアー・バード/アーマード・ドラゴン 15000
進化MV—自分のファイアー・バード1体と火文明のクリーチャー2体を重ねた上に置く。
コンセンテス・ディー(このクリーチャーの下にある、このクリーチャーと同じ文明のクリーチャーのコストの合計を数える。その後、その数字以下の次のCD能力を得る)
CD6:自分のバトルゾーンにあるファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーはすべて「スピードアタッカー」を得る。
CD9:このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せてもよい。そのカードがファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーであれば、バトルゾーンに出してもよい。
CD12:このクリーチャーが攻撃する時、自分のマナゾーンにあるドラゴン、ファイアーバード、火文明のクリーチャーをそれぞれ1体ずつ選び墓地に置いてもよい。そうした場合、このクリーチャーは次の自分のターンの初めまで、パワー+15000され、「ワールド・ブレイカー」を得、相手はこのクリーチャーを選ぶ時、自分自身のマナゾーンにあるカードをすべて墓地に置く。
T・ブレイカー


 爆炎の中から顕現するのは、神話となりし太陽の神。一閃の光を放ち、空高く昇天する、《太陽神話》——《太陽神話 サンライズ・アポロン》だ。
「……《アポロン》」
『この姿でも、久し振りだな、夕陽』
 《アポロン》は、もはや小さな少年の姿ではなく、勇猛果敢な青年のような姿をしていた。その声も勇ましく、そして凛々しい。
「……やってくれるか、《アポロン》?」
『当然だ。俺はそのためにここにいるし、お前はそのために俺を呼んだんだろう?』
 《アポロン》は背中の翼を羽ばたかせ、火の粉を散らす。
『行くぞ夕陽。ここはひまりの大切な場所だ。そこに土足で踏み入るあいつをぶっ飛ばす!』
「……ああ!」
 力強く発せられる《アポロン》の言葉に、夕陽の最大限の力で応える。
 現在、夕陽のシールドはゼロ、対するニャルラトホテプのシールドは二枚。
 夕陽のバトルゾーンは《超天星バルガライゾウ》《インフィニティ・ドラゴン》《ボルバルザーク・エクス》《ポップ・ルビン》《偽りの名 バルキリー・ラゴン》《鬼カイザー「滅」》そして《太陽神話 サンライズ・アポロン》。
 ニャルラトホテプのバトルゾーンには《凶星王ザビ・ヒドラ》《復活の祈祷師ザビ・ミラ》《ヤミノザビグライド》に、《時空のジキル ザビ・ガンマン》《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》が二体ずつ、そして《死海竜ガロウズ・デビルドラゴン》がいる。
「まずは《鬼カイザー「滅」》で攻撃! その時《鬼カイザー「滅」》の能力発動で、お前のサイキック・クリーチャーを一体破壊する! 《ザビ・ガンマン》を破壊!」
「ならば《ユリア・マティーナ》でブロックです!」
 《鬼カイザー「滅」》の咆哮で《ザビ・ガンマン》は消滅し、《ユリア・マティーナ》も消し飛んだ。
「《ユリア・マティーナ》の効果で、シールドを追加……!」
 一枚シールドを追加し、シールドが三枚になるニャルラトホテプだが、
「続けて《アポロン》で攻撃! 能力発動! コンセンテス・ディー9!」
『俺が攻撃する時、山札の一番上を捲り、それがファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーいずれかであれば、そのままバトルゾーンに出せる! 来い《フレイムバーン・ドラゴン》!』
 《アポロン》の能力で捲られたのは、《フレイムバーン》。能力で《ザビ・ガンマン》が吹き飛ぶ。
「パワー負けする恐れのある《ザビ・ガンマン》を狙い撃ちとは……いくらシールドが増えても関係ないってことですか。《ユリア・マティーナ》でブロック!」
 これでシールド四枚。だが、確かにこれでは意味はなさそうだ。
「次はコンセンテス・ディー6!」
『俺たちの場の、ファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーはすべてスピードアタッカーだ!』
「というわけで《ポップ・ルビン》のタップ・トリガー! 《アポロン》をアンタップ!」
 《ポップ・ルビン》をタップし、代わりに《アポロン》が起き上がった。これで再び攻撃することができる。
「《アポロン》で攻撃! そしてコンセンテス・ディー12!」
『マナゾーンのファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーをそれぞれ一体ずつ墓地へ! そうすれば俺はパワーがプラス15000、選ばれればマナゾーンを焼き尽くす、ワールド・ブレイカーだ!』
 《アポロン》の周りで旋回する小型太陽が勢いを増す。その力を受けた《アポロン》の放つ熱線は、凄まじい破壊力でニャルラトホテプへと飛んでいく。
「《ヤミノザビグライド》でブロック……!」
「《アポロン》の能力で山札からもう一体《ポップ・ルビン》をバトルゾーンに! 《ボルバルザーク・エクス》と《バルキリー・ラゴン》でそれぞれWブレイク!」
 夕陽たちの勢いは止まらない。もうニャルラトホテプのバトルゾーンにブロッカーはおらず、二体のドラゴンが彼女のシールドを叩き割る。
「《ポップ・ルビン》のタップ・トリガーで、《アポロン》をアンタップ! 今度こそ行くぞ!」
『ああ!』
 《アポロン》が飛翔する。同時に、再び周りの小型太陽が高速旋回を始め、その生み出されるエネルギーをひたすらに《アポロン》へ注いでいく。
 ニャルラトホテプの場にはもう、ブロッカーがいない。シールドもゼロ。手札にシノビもいない。もはやどのような攻撃であっても、防ぐことができない。
 《アポロン》は頭上に浮かぶ、周囲のものよりも一回り大きな太陽から、炎を受け取る。その炎を注がれたエネルギーにより膨張させ、爆炎とする。
『うおぉぉぉぉぉ!』
 天高く飛翔した《アポロン》は、雄叫びを上げ、爆炎を巨大で絶大な波動として、凄まじい熱線を解き放つ。

「《太陽神話 サンライズ・アポロン》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じられる。中から出て来たのは、全身ズタボロの少年と、全身焼け焦げた女の二人。どちらも傷を負っているが、明らかに大きなダメージを受けているのは女の方だった。
「かふっ……マジで死ぬかと思いました、『神話カード』でとどめ刺すとか、なに考えてるんですか……それにしても、やはり《太陽神話》、侮るなかれ、ですね。この身体ではダメでしたか、というより、この身体はもうダメそうです……早く新しい人を見つけないと」
 ぶつぶつと非難がましいことも述べながら、息も絶え絶えにになって呟くニャルラトホテプ。木の幹に手を着き、本当に苦しそうだった。
「とにかく、流石にこれ以上戦うことも出来そうにないので、ここはさっさと逃げた方が良さ気……では、『昇天太陽サンセット』さん。また機会があれば、お会いしましょう」
 夕陽の言葉など待たずに、ニャルラトホテプは転げ落ちるように山を下り、あっという間に逃げ去ってしまった。とはいえ夕陽も追いかけるつもりは毛頭ないが。
「……勝った、か」
『ああ、やったな、夕陽』
 気付けば、そこにはまだ青年の姿の《アポロン》がいた。
「《アポロン》……お前、神話空間にいないでその姿のままでも実体化できるのか?」
『力の余剰分が残っていればな。もうすぐコンセンテス・ディー・ゼロに戻る。久し振りにこの姿になったから疲れた、やっぱりまだこちらの世界での実体化に慣れていないな』
 と言うや否や、《アポロン》は炎に包まれていき、小さなアポロンが現れた。
「あ、戻った」
「力が切れちまったんだ。この姿でいるのも、少し辛いぜ……」
 ふぅ、と溜息を吐くアポロン。
「……まぁ、それでも勝ってよかったな、夕陽!」
「ああ、そうだね」
 夕陽はアポロンと、先ほど使ったデッキを見遣る。
「……アポロン、これからも、よろしく頼む。僕はひまり先輩の遺志を継ぐ。そのためにはお前の力が必要だ」
「ひまりの、敵討ちをするってことか?」
「違う」
 アポロンの言葉を、夕陽は即座に否定した。
 敵を討ちたい、ジークフリートに対する恨みというのも勿論、夕陽にはある。しかしそれは、ひまりの望んでいることではない気がする。
「ジークフリートは、いつか絶対に倒す。でも、先輩の遺志はそうじゃないと思うんだ。あの人が残してくれたものは、あの人の仇を討つためだけじゃ、ない気がする」
「じゃあ、なんだ……?」
「僕にも分からない。それは、これから少しずつ理解していくしかないよ」
 だけど、と夕陽は続け、
「一つだけはっきりしていることがある。先輩がどんなことを思っても、それは僕一人じゃ成し遂げられないはず。このみや、光ヶ丘や、御舟や流、そしてお前が必要なんだ——《アポロン》」
 真摯な夕陽の言葉。アポロンは少しだけ黙ったが、答えなんて決まり切っている。
「……あぁ、だったらとことん付き合ってやる! オイラの所有者は夕陽だ! 必要とされているなら、オイラの力、いくらでも使ってくれ!」
「ありがとう……じゃあ、とりあえず山を下り——」
 夕陽が一歩踏み出したその時。

 ——夕陽の身体が、崩れ落ちた。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.404 )
日時: 2014/02/16 13:37
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

(あれ……?)
 崩れ落ちていくのは、夕陽の体だけではない。意識もだった。
 思い返してみれば、昨日、家に帰ってからすぐにベッドに入り、家を飛び出すまで昼夜泣き通しだったため、その間にも食べていないし、飲んでいもいない。寝てすらいなかった。
 さらにここに来るまでなにも考えていなかったので、冬の寒さも受けてガタガタとなった体で隣町まで全力疾走、山を登って穴掘り、さらに命懸けのデュエルを一戦交えた。
 ここまでやっておきながら、今まで倒れなかった方がおかしい。ひまりのメッセージに気を取られすぎて空腹や疲労に気づかず、気力だけでここまで来たが、しかしもはや限界だ。
 ニャルラトホテプとの戦いを終え、やっとのことで緊張の糸が切れた夕陽は、遂に自身の身体の異常を認識し、これ以上動くことができなくなってしまう。
「お、おい夕陽! 夕陽!? 大丈夫か!?」
 アポロンの叫びが聞こえるが、それも次第に遠のいていく。意識が朦朧とし、なにも考えられなくなる。
 さらに、アポロンも、
「や、やべ……もうオイラの力も切れてきた。実体を、保てない……すまねぇ、夕陽——」
 アポロンも力を使い果たし、カードの姿に戻ってしまう。夕陽はその様子を見ていたが、動かない脳ではなにが起きたのか理解できない。
(アポロン——)
 そして夕陽の意識は、闇の底に沈んだ。


「——『昇天太陽サンセット』」
 一人の女が、山を登ってくる。
 少々息は荒いが、目の前で倒れている少年のことを思えば、その程度の息切れなど気にならない。
「こんなところにあったんだね、《太陽神話》」
 女は少年の傍まで寄ると、その傍らに落ちていたカードを拾い上げ、まじまじと眺める。
「こういうのは『太陽一閃サンシャイン』らしいね……それに気づくこの子は、やっぱり《太陽神話》の、そして彼女の継承者なんだろうね」
 言って女は、そのカードを少年の持っていたデッキケースにそっと収める。
 それから腰を下ろし、背負っていたリュックサックも地面に置く。そこから一枚の毛布を取り出し、少年に掛けながら、
「君は私たちの世界で戦うことを選んだんだね……まあ、そうすると思ってたけど。それは私としても嬉しい。昨日はああ言ったけど、君にはもっと戦ってもらわないといけないんだ。君のこっち世界での戦いは、その世界に大きな影響を与える。君は、私たちの世界ではかなめとなる存在なんだよ。だから君の選択は、きっと間違ってない。でも、これだけは覚えておいて」
 ポスッ、と少年の頭に手を乗せる。特に意味はないが、少し気分が良かった。
「昨日も言ったけど、君たちは甘すぎる。その甘さを今すぐ捨てろとは言わないけど、早く捨てないと、君たちはもっと傷つくことになるよ。そしてもし捨てたとしても、君の大切なものが失われない保証はどこにもない。君は、君たちは、この過酷な世界で、傷つきながら、大切なものを失う危険を常に考えながら、戦わなくちゃいけない」
 そのためには、
「君たちには、もっと強くなってもらわないといけない。君の敵は彼だけじゃない。他にも君を狙う人が襲ってくるだろうし、君の知らない『神話カード』だって存在する。彼だって、君たちを本気で潰す機会を窺ってるはずだよ」
 最後の方は少しだけトーンを低くする。だがすぐにその声は和らいだ。
「……でも、今はお疲れ様。こんなところだけど、ゆっくり休んで……って、私が言えた義理でもないか」
 くすっ、と笑い、女は立ち上がる。ついでにリュックサックの中から懐中電灯を取り出して足元に落とした。
「まあいいや。とにかく、君の戦いはこれからなんだよ。その時が来るまで、精々小さな幸せを謳歌しててね……ばいばい」
 女はリュックサックを置いたまま、その場から立ち去って行った。
 そこに残ったのは、空城夕陽という、少年だけだった——



「ん……」
 目が覚めたら、そこは暗黒の空間だった。
 上も、下も、右も左も、真っ暗だ。
 自分は死んだのだろうか。ここは死後の世界なのだろうか。自分の身体を酷使しすぎたせいで、死んでしまったのだろうか。
 当然と言えば当然だ。今は冬も冬、十二月の真冬だ。ロクに防寒着も着ず、疲労困憊、満身創痍、全身傷だらけの状態のまま山の中で寝たりすれば、それは死んでも文句は言えない。
 ということは、やはり自分は死んだのだ。空城夕陽としてこの世に生を授かってから十六年。短い人生だった。
 だがこれで、大切な先輩と共にあれると思えば悪くない。しかし彼女の遺志を継げなかったのは心残りだ。

 ——などと思っていたが、そんなことはなかった。

 手元に棒状のなにかが落ちていたので、適当に弄ってみたら電気が付いた。懐中電灯だ。
 それで辺りを照らしてみると、どうやらここはあの山の中のようだ。もう少し照らすと、リュックサックも落ちている。
「死んでない……」
 気付けば、毛布も掛けられている。誰がやったのかは知らないが、ありがたい。
 いや、毛布を掛けて温めるくらいなら、いっそそのまま山の麓まで運んでくれと言いたい。もしくは救助隊でもなんでも呼んでほしいところだ。こんな中途半端な救命をされても困る。
「あ……アポロン!」
 ふとアポロンの存在を思い出して周りを照らすが、カードの姿すらない。だが、
「ここだ、夕陽……」
「アポロン……って、なんでデッキケースに?」
「オイラにも分からねぇ……でも、気付けばここにいた」
 アポロンは、力なく声を上げる。実際、力はほとんどないのだろう。
「少し休めたから実体化できるぞ。出て来た方がいいか?」
「いや、どうせ今から帰るし……う」
 立ち上がろうとするが、腹部に奇妙な痛みを感じる。
 痛みと言うより、疼きかもしれない。腹の内部になにも存在しない、虚無感が漂う。その虚無感が引き起こす疼き。
 要するに空腹だ。
「このままだと、また倒れかねないな……」
 言いながら、チラッとリュックサックに視線を向ける。しばし考えてから、夕陽はそのリュックサックの中身を漁り始めた。
「栄養食品にミネラルウォーター……誰のか知らないけど、頂きます」
 救命する気満々の中身だったが、こんなものを用意するくらいならやはりちゃんと救助してほしかった。しかし今は四の五の言わず、その中身を取り出す。
 一本100キロカロリーのブロック状になった固形栄養調整食品を口に放り込みつつ、ミネラルウォーターも喉に流し込む。
 そんな食事に数分。夕陽は立ち上がる。
「とりあえず、これで生きていける……このリュックサック、どうしよう……?」
 とりあえず毛布とアルミケースはその中に突っ込む。代わりに中から安物っぽいが十分な防寒性を備えたコートと、時計(なぜか目覚まし)、そして小銭入れが出て来た。
「この時間なら、まだ終電には間に合うな。小銭も……きっかり帰り道分ある。なんだ、なんかピンポイントすぎて怖いな……」
 外気とは違う寒気を感じつつ、夕陽はコートに袖を通し、リュックサックを背負う。そして、下山した。



 夜の山道で軽く遭難しかけたが、なんとか終電には間に合い、日付が変わりそうな時刻には帰宅できた。
「ただいまー」
「おかえりー、お兄ちゃん……って、どうしたの!? なんかすごいことになってるよ!? そのコート誰の!?」
「うるさいな、夜中に騒ぐなよ」
 靴を脱ぎつつ、妹を諌める。だが彼女からすればそれどころではないだろう。
「こんな時間に帰ってくるお兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。なに、どこ行ってたの? なんでそんなボロボロなの? そのコート誰の? リュックサックもどうしたの? こんな時間までなにしてたの? っていうか大丈夫なの?」
「なにが?」
 前の質問に答えるのは面倒だったので、というより夕陽にも分からないことがあるので、無視した。
 代わりに、最後の質問だけ、質問で返す。
「昨日からなんか変だったもん。帰って来るなり部屋に引きこもっちゃって。ご飯も食べないし、なんかすすり泣くような声が聞こえるし。お風呂入んないし。学校行かないし。今朝もこのみさんから電話かかってきたし、シオ先輩もなんか暗かったし。お母さんもお父さんも、私だって心配したよ。大丈夫なの?」
「あー……うん、まあなんとか。体じゃない方はとりあえず大丈夫」
 言われて思い出す。そういえば今日は月曜日だ。学校もサボってしまった。明日、このみや姫乃、汐にも謝っておかなくては。
「っていうか、お兄ちゃんなんか臭う、土臭い。早くお風呂入ってきてよ」
「地味に傷つくことを言うな。まあ、入るよ。今日は疲れた、早く寝たい。山の中で寝たから、体中も痛いしさ……」
「!? 山の中!? え、なに? お兄ちゃん山に行ってたの!?」
 妹が驚愕の表情で詰め寄って来るが、それを振り払う。
 そして、明日に待つ日常を、ふと感じた。
(明日は学校か……) 

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.405 )
日時: 2014/02/16 15:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 いつもの服装にいつもの風景。いつもの日常のまま、いつもと同じローテーションを繰り返す。
 そんな変わりないことも、一度でもそのローテーションから外れれば、またそこに戻った時、その風景はどこか新鮮に感じられるものだ。
 そんなことを思いながら、夕陽は登校していた。
「昨日なんの連絡もなしに学校休んだからなぁ……」
 このみたちはともかく、クラスメイトや、特に教師にも言及されるだろう。流石にそのまま説明するわけにはいかないので、なんとか誤魔化すしかない。
 などと思っていると、前方に見慣れた人影を視認する。
「……このみ! 光ヶ丘!」
 一瞬迷ったが、すぐにその二人に声をかける。向こうもすぐに反応した。
「ゆーくん!」
「空城くん……っ」
 だが、少々意外そうな顔をしていた。
 夕陽は小走りでその二人の元へと駆け寄る。
「おはよう」
「おはよう……えっと、だいじょうぶ、ゆーくん?」
 このみにしては珍しく、こちらを気遣ったような様子だった。正直似合わない。
「ああ、もう大丈夫だ。昨日とか一昨日とか、いろいろ悪かった。光ヶ丘もごめん」
「う、ううん、わたしたちは別に……でも、本当に大丈夫なの? ひまり先輩のこととか……」
 姫乃は控えめに、夕陽の様子を覗いながら口を開く。
「……正直、完全に吹っ切れたってわけじゃない。でもいつまでもいじけてられないよ。僕は先輩の意志を継ぐって決めたんだ——こいつとね」
 と言って、夕陽は一枚のカードを取り出す。
「《アポロン》……! 見つかったんだ」
「うん。先輩が残してくれた力だ」
 それに、と夕陽は付け加える。
「なんだかこいつ、実体化するんだよ」
「こんな風にな!」
 その瞬間。
 カードからアポロンが飛び出した。
「ってアポロン! 勝手に出て来るな! 誰かに見つかったらどうするんだ!」
「大丈夫だって。この辺には誰もいないみたいだし」
「そういう問題じゃない! ほら見ろ、このみとか光ヶ丘も驚きすぎて声も出なくなって——」
「《アポロン》も、実体化するんだ……」
 ふっ、と姫乃が声を漏らす。
「……も?」
 夕陽がその言葉の一部を復唱したその時。このみと姫乃のデッキケースがひとでに開き、一枚カードと共に、
「わー! アポロンだー!」
「アポロン様、お久し振りですの!」
 それぞれのカードからクリーチャーが飛び出す。
「!?」
 目を見開く夕陽。次の言葉を紡ぐ前に、その二体のクリーチャーのうち一体が、アポロンに飛びつく。
「おー、プロセルピナ! こうして会うのは久し振りだな! ヴィーナスも」
「あいたかったよー、アポロン。ルピナ、じったいかできるようになってから、アポロンにあえるのずっとたのしみだったんだ! だからすごくうれしい!」
「ですの。わたくしも待ち焦がれていたんですの。今のわたくし、とても幸せですの」
「そうか。オイラもお前たちに会えて嬉しいぜ」
 わいわいきゃっきゃと楽しそうにしているクリーチャー三体。その様子を見つめつつ、夕陽は乾いた声を上げる。
「……これは?」
「えっとね……昨日のこと、なんだけど……」
 おずおずと姫乃が語り始める。
 姫乃たちには原理は分からないようだが、昨日、学校から帰った辺りの時間に、二人の『神話カード』、このみは《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》、姫乃は《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》が、それぞれデフォルメした状態で実体化したらしい。
「アポロンと同じように、二人の『神話カード』も実体化したのか……」
 ひまりが力を与えたのは『十二神話』だと、アポロンは言っていた。ということは、十二枚の『神話カード』すべてのクリーチャーが実体化していると考えるべきだろう。
 夕陽は三体のクリーチャーを眺める。まるで子供のように、三体は戯れていた。その様子に、ふっと言葉を漏らす。
「これも、先輩の遺した力、なのかな……?」



 雀宮総合病院。
 ここは表向きはただの病院だが、その裏では“ゲーム”に通じる者が何人か務めている。
 そのような病院はこの世界にいくつも点在しており、“ゲーム”によるデュエルで重傷を負い、普通の病院では事情を話せないような者が搬送され、治療を受けられる。
 “ゲーム”の世界に身を投じて、無傷でいられる者はいない。あのジークフリートだって、無敗ではあっても、無傷ではいられないのだ。戦えば必ず負傷する。
 そして『炎上孤軍アーミーズ』こと火野亜実も、その中の一人であった。
「……病院に入るのは、久し振りだな」
 亜実はベッドに横たわり、天井を見上げながら呟いた。
 今まで何度も傷を受けた亜実ではあるが、入院するほど大きなダメージを負ったことはほとんどない。“ゲーム”に参加した最初の頃ならいざ知らず、今ではダメージを躱す技術も身に着けている。たとえ負けても、そう大きな傷には至らない。
 だが、今回は違った。
「【師団】、四天王、『夢海星辰ウトゥルー』……あれほどの手練れがまだいるなんてな。あたしも、まだまだだ……」
 自戒すつつ、報復心も募らせる亜実。
 その時、コンコンと病室の扉がノックされた。
「……誰だ? どうぞ」
 大学の友人ならついさっき来て帰ったばかりだ。【神格社界ソサエティ】では、亜実のことを見舞うような者はいないし、仮にいたとしても一人だ。だがその一人からも既に見舞われている。
 謎の客に疑問を覚えつつも、亜実は入室を許可する。そして、
「やあ、亜実。って個室かよ。意外と金あるなぁ……」
「空城!? お前っ、なんでこんなとこに! つーかなんであたしの入院してる病院を知ってんだ!」
 気さくに入って来たのは、夕陽だった。思わぬ来客に吃驚する亜実。
「お前に用はない! とっとと出てけ!」
「せっかくお見舞いに来たのに出てけはないよ。まあなに言われても、出て行く気はないけどね」
「こいつ……! あたしが動けないことをいいことに……!」
 歯噛みする亜実をよそに、夕陽は見舞客用の椅子の腰かける。そして、
「……ごめん」
 頭を下げた。
「……おい、どういうつもりだ?」
「その怪我って、僕の代わりにあいつ……クトゥルーだっけ? と、戦ったからだよね。だったらその傷は、本来僕が受けるはずのものだったわけで、それ代わりに亜実が受けてるってことは——」
「黙れ」
 夕陽の謝罪を、亜実は一蹴する。
「それはあたしに対する侮辱だ。あたしはあくまで、自分の意志であの場における戦闘を行った。兵士が身を挺して戦ったのを、お前が頭を下げるなどというのは、その兵に対する侮蔑に他ならない。頭を上げろ」
「いや、でも……」
「上げろ」
 渋々頭を上げる夕陽。たまに思うが、亜実の考え方にはたまについて行けなくなる。
 亜実は、続けて、
「それに、あたしはまだ生きている。死んだら元も子もないが、生きている限り、敗北は力になる。戦争で負けたのならともかく、あたしが負けたのは戦闘だ。生きている限り、いくら負けようともそれは力になるんだ。だから、お前が気にすることなんて一つもない。分かったか?」
「う、うん……分かったよ」
 ならいい、と亜実は夕陽から少し線を外す。
「……だからお前も、あまり『太陽一閃サンシャイン』について悩みすぎるなよ。あたしは奴と直接的な接触はないが、恐らく奴は、自分の意志で命を懸けてまで戦ったはず。あまり思いつめると、奴の志に反することになるんじゃないのか?」
「うん……そうだね」
 それは夕陽にも分かっている。亜実も、それ以上は言う必要がないと思ったのか、口をつぐむ。
 このみや姫乃から聞いたが、ひまりがこの世界で生きていた痕跡は、すべて跡形もなく消えていたらしい。
 存在は勿論、“ゲーム”に関わっていない学校の誰もがひまりのことを忘れており、ひまりの物品はすべて消え、彼女の家を訪問すれば両親も自分たちに娘はいないという始末だ。
 つまり、朝比奈ひまりという少女は、この世界から完全に抹消されたのだ。
 残されたのは《アポロン》とその影響を受けたカードのだけ。
 しばし沈黙の空間が流れた。だがその沈黙を破り、夕陽が口を開く。
「そうだ。今日は亜実に、渡したいものがあるんだよ」
「あたしに? 渡したいもの?」
 露骨に訝しむような視線を送る亜実だが、夕陽は特に気にせず、鞄からその渡したいものを、テーブルの上に置く。
「デッキ……?」
「そう、僕が組んだデッキだ」
「それはそうだろうが……どういうつもりだ? あたしだって自分でデッキくらいは組んでいる。お前にわざわざ渡されるまでも——」
「いいからいいから、とりあえず中身見てよ。一応、亜実のデッキに近い感じで組んだんだけど、やっぱり難しいな、お前のデッキ」
「……?」
 疑念を募らせながらデッキの中身を確認する。見たところヒューマノイド中心の速攻デッキだ。
 こんなものを渡してどういうつもりだと激怒しそうになる亜実だったが、デッキの最後に入っているカードを見るや否や、表情が激変する。
「これは……!」
 デッキの最後に投入されていたカード。それは、目にするのも懐かしいカードであった。かつて自分の力となり、自分の異名が付けられた原因の一つ。
 それは、
「《マルス》……!」

 ——《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》だった。


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