二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.616 )
- 日時: 2014/11/04 12:58
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「うわー、きみ、とってもつよいね!」
「……おまえもつよかったよ」
「おまえじゃなくてこのみだよ。きみは……なまえ、なんだっけ?」
「……ゆうひ。そらしろ、ゆうひ」
「ゆー……? ゆーき、ゆーり?」
「ゆうひだよ。ゆうがたの“ゆう”に、おひさまの“ひ”」
「ゆ、ゆー……? ゆーとくん?」
「ぜんぜんちがうとこにいっちゃってるぞ。ゆーひだってば」
「う、うーん……ゆーま、ゆーた……はっ! ゆーくんっていうのはどうかな!?」
「はっ! じゃないよ。ひとのなまえくらいちゃんとおぼえろよ」
「ゆーくん、ゆーくん……うん、これできまり!」
「かってにきめるな!」
「——進級できない!?」
二月二十五日、学校にて。
机に突っ伏したこのみの口から放たれたのは、そんな言葉。
「そうなんだよー……助けてよー……」
昨日、夕陽の下へプロセルピナが来たり、このみが「助けて……!」と切実で変な電話を掛けた来たが、どちらもまともに会話ができる状態ではなかったので、こうして日を改めて聞いてみたのだ。
そして彼女の口から出てきたのは、進級できない、という言葉。
なんでも昨日、担任の白石から呼び出されて言われたのはそのことだそうだ。ただあの教師はストレートに言わず「とりあえずこれ持って帰って、ちゃんと自分の点数と、進級に必要な単位の数字を見比べてみ」などと変に遠回しなことをしたせいで、その作業を後回しにしていたこのみが気づいたのが夜だった、ということらしい。
このみの点数が悪いことなど、夕陽でなくとも知っている周知の事実。どころかこの世の理とさえ言えるが、そこまでだったとは。
学生なら自らの進級の如何は非常に重要なはずだ。単位を落とすのは生徒に問題があるのは確かだが、誰だって普通に進級したいと思っているはずである。少なくとももう一回、同じ学年を繰り返したいと思う人間はそういないだろう。それは本人の面子や沽券にかかわることだし、それを理由に転校する生徒だっている。
ともかく、このみは次の学年末考査で、進級に必要な単位を揃えられるだけの点数を取らなくては、二年生にはなれない。
それは彼女の素の学力や、学年末考査までの時間を考えると、非常に危機的な状況と言えるだろう。
しかし、
「……くっっっっっっだらねぇ」
夕陽は溜めに溜めてバッサリと斬り捨てた。
「くだらないとはなにさ! あたしだって本気で悩んでるんだよ!」
「自業自得だろうが馬鹿。本来お前は高一じゃなくて中学……いや小学校からやり直すべきなんだよ」
それに、と夕陽は踵を返し、
「お前なんかに構ってる暇はない。僕だって忙しいんだよ」
「そんなこと言わないで助けてくれたっていいじゃん! ゆーくんはあたしと二年生になりたくないの!?」
「学校は同じなんだし家も近い、いつでも会えるだろ」
とにかくこのみには冷たい夕陽。このみがなにを言おうと、夕陽は頑として彼女に手を差し伸べようとはしない。
だが、このみでなければ、どうか。
「……夕陽くん」
「っ!」
柔らかい声が聞こえる。しかしそれは一般的な見解だ。
夕陽の耳は、その声によってなにかが貫いてくるような感覚すら覚える。
夕陽はゆっくりと、今まで直視しないようにしていた、その声の主へと目を向ける。
「そんな意地悪なこと言わないで、一緒に手伝ってあげようよ。わたしは、このみちゃんと一緒に進級できないのは嫌だよ。みんなで一緒に二年生になりたいな」
「光ヶ丘……」
穢れのない純粋な声、瞳、言葉。裏も邪気も全くない、澄み切ったそれらに、夕陽は気圧されるように言葉に詰まった。
そして、
「……僕は帰る」
夕陽は速足で教室から出て行ってしまった。
「あ、ちょっ、ゆーくーん!」
このみの制止などで止まるはずもなく、彼女の声がただこだまするだけ。
「うぅ、はくじょーな……!」
「わたし、変なこと言っちゃったかな……」
さっきは純粋と表現された姫乃だったが、少しその表情に陰りを見せる。
「このみちゃんに言われて、思い切って名前で呼んでみたけど……前みたいに、空城くんって呼んだ方がいいのかな……」
「そんなことないよ。ゆーくんはちょっと照れてるだけだって」
不安な面を見せる姫乃だが、このみはいつもの陽気な調子で笑っていた。
だが、ふっと、その表情が柔らかくなる。
「ただ、今までとちょっと違う関係になりそうだから、ゆーくんにも考える時間が欲しいんだと思うよ。それまで待ってあげれば、だいじょーぶ」
最後にはまたお気楽になっていたが、姫乃は、
「……このみちゃんは、夕陽くんのこと、本当によく知ってるんだね」
「小学校がからのつきあいだからね。そういえばゆーくん、あの頃からあたしに厳しかったような……」
むむむ、と唸り始めるこのみだが、正直なところ、いまはそんな思い出に浸っている場合ではない。もう時間はあまり残されていないのだ。
「そうだった! 進級! 成績! なんとかしないと!」
「夕陽くんは行っちゃったけど……わたしも手伝うから、一緒にがんばろ?」
「姫ちゃん……ありがとう姫ちゃん、やっぱり姫ちゃんは最高だよ!」
帰る、と言っていた夕陽だが、実際は帰っていなかった。なんとなくそんな気分にはなれなかったのだ。
そんなわけで、屋上で寝そべっていた。二月は最も寒い季節と言われているが、しかし今日は陽光が差し、風もない、気温も比較的高めだ。寝るつもりはないが、日差しを浴びて寝転がるくらいにはちょうどいい。
というか、少し冷静に考えたかった。色々なことを。
「つっても、纏まらないんだよなぁ……」
分かってはいたが、姫乃と面と向かえない。いつも通り接していこうと思っていたが、実際に対面するとそんなことは無理だった。
「なあ、どう思う? アポロン」
「夕陽は冷たいと思うぞ。このみが困ってるなら助けてやれよ」
「そっちじゃなくて……」
やはりアポロンに聞いても意味はないようだ。デュエル中では頼りになるが、こういうことには疎いらしい。夕陽も他人のことは言えないが。
昨日から心の中で蟠っている悶々としたものを持て余していると、スッと人影が差した。
「珍しい客がいるな」
「……流?」
見上げると、そこに立っていたのは、水瀬流。夕陽たちからすれば、一応先輩にあたる人物だった。
一応というのは、夕陽自体、彼のことを流と呼び捨てているからだ。本人は気にしていないらしいが。それ以上に名前を間違われる方が嫌らしい。
「なにをしている、こんなところで」
「……別に。お前こそどうしたのさ」
「俺も、別に、だ。特に目的があって来たわけではない」
ただなんとなく来ただけらしい。
夕陽は身体を起こし、流は少し離れて腰を下ろす。
「……なにか思い悩んでいるのか?」
「なんでそんなことを聞くんだよ」
「そう思ったからだ」
意外と鋭かった。いや、今の夕陽を見れば、いつもと違うということは誰にでも分かるだろう。
流は少し間をおいて、口を開いた。
「俺でも、話くらいは聞ける。月並みな言葉だが、話せば少しは楽になるものだ」
「…………」
少し黙り込む。このことはあまり他人に言いたくないが、しかし流れならあるいは……そう思って、まずは、
「……なあ。流って、口堅い?」
「俺が他人の内面事情を軽々しく吹聴する奴に見えるか?」
「…………」
また黙り込んだ。そうは思わないが、しかし、夕陽は流のことについては知らないことが多い。零佑とは仲が良いようだが。
そんな夕陽を察してか、流は、
「安心しろ。俺とまともに会話できるのは零佑くらいだ」
「でもお前、文化祭の時は結構クラスメイトと仲良くやってたよな……?」
文化祭の中心になっていて、わりとクラスの人気者のような感じになっていた気がする。
「……まあ、流ならいいか。実はさ——」
そして夕陽は、語り出す。
昨日の出来事。姫乃に打ち明けられたこと、すべてを——
「——事情は理解した」
かなり私情込みで話していた気がするが、五分ほど経つと、流はそう言った。
そして、スクッと立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「家だ」
帰るつもりらしい。
「ちょ、ちょっと待てよ! 話だけ聞いてそれはないだろ!」
「なにがだ」
「なにがだ、じゃなくて! 聞くだけ聞いて帰るとかあんまり——」
「お前も俺の家に来い」
「……は?」
あまりに唐突で、その言葉を理解するのには時間を要した。
流はたまに、こうやって突拍子もないことを言い出す。そのことを理解するための時間を使い切り、理解した。
「僕が、流の家に……?」
「ああ」
この時から、およそ三十分後。
夕陽は、流宅へと訪れるのであった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.617 )
- 日時: 2014/11/04 19:53
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「ここがこのみのいえ?」
「うん、そうだよ。きっさてんなの」
「きっさてん……って、なに?」
「おちゃとかだすおみせ」
「あぁ」
「ただいまー……あれ?」
「どうした?」
「おねーちゃんのこてがしない……おでかけしてるのかな?」
「きょうだいがいるのか」
「そうだよ。おねーちゃんがいるんだ。あと、れいにーさんも、ほんとーのおにーちゃんみたいにしてくれるの」
「れいにーさんって、だれ……?」
「ゆーくんは、きょうだいいないの?」
「いるよ、いもうとが。あきらっていうんだ。いまはようちえんだけど」
「へー、あってみたいな」
「じゃあこんどは、ぼくのいえにこいよ」
「うん!」
学校から徒歩で約三十分。
住宅街から少し離れたところに、水瀬家はあった。
「うわ……凄ぇ……」
思わず感嘆の言葉を漏らす夕陽。
目の前に建つのは、古めかしいが立派な木造の日本家屋。普通の家よりもよっぽど大きく、門扉からして既に荘厳だ。
(まるで柚ちゃんの家みたいだな……流石にあそこほど大きくはないっぽいけど……)
妹の友人を思い浮かべながら、夕陽はただただ、その家を見上げていた。
「とりあえず入れ」
「あ、うん」
流に案内されるままに門を潜り、玄関を通り、母屋に入る。
「……?」
そこで少し違和感を感じた。
静寂が包む、くすんだ板張りの廊下を歩くうちにも、その違和感は募っていく。
「……なあ、流。今この家、人いないのか?」
「俺は一人暮らしだ」
にべもなく言い放つ流。その言葉に、多少なりとも夕陽は怯んでしまう。
「一人って……この広い家で?」
「ああ」
「家族は?」
「両親はどっちも死んだ。兄弟も親戚もいない」
「それって……」
いわゆる、天涯孤独の身。
親族がまったくいない、少しでも血の繋がった人間がいない、たった一人。
夕陽はほんの少しだけ、流の闇を、垣間見たような気がした。
「……まあ、気にするほどのことじゃない。両親は俺が物心つく前に既にいなかった。この家は、俺の母親が生前に財産として持っていた家らしいが」
少しだけ昔話だ、と流は語り始める。
遠くもなく近くもない。いつものように、どこかを見ている目で。
「俺の両親は、漁師だか船乗りだか知らないが、その手の仕事をしていたらしい。だから海難事故で死んだ」
「死んだって、そんななんでもないみたいに言うなよ……」
「遺影で顔は知っているが、俺の記憶にはぼんやりとしか映っていないのでな。で、そんな俺の面倒を見ていたのは、海の家のあの店長だ」
「あの人が?」
去年の夏休み。流と初めて出会った夏だ。夕陽たちが海の家でバイトしていた時に、世話になった女性の顔を思い浮かべる。
(そう言えばあの人、木葉さんや澪さんの同級生って、澪さんが言ってたような……)
世間は狭い。妙なところで人間関係が繋がっているものだ。
「俺の住んでいたところは過疎地域でな。小中高一貫の学校に通っていたが、生徒数の減少で廃校になって、この街に来たんだ」
この街を選んだ理由は、母親の生まれ故郷だから。そして母親の家があるから、という理由らしい。
「店長の世話になり続けるのも嫌だったしな。まあ、相変わらず大量の海産物を送りつけて来るが。もしも食いたくなったら言え、やる」
「あ、うん。ありがとう」
ではなく。
「……色々と、大変なんだな。お前も」
「全部昔の話だ。今のお前たちの方が、よっぽど大変だろう」
過去には執着しないたちなのか、それとももう吹っ切れているのか。流はあっけらかんとしているというか、いつもと変わらぬ調子で、逆にこちらが調子狂う。
(御舟の家庭事情を聞いた時も思ったけど、自分が普通の生活しているだけに、こういうの聞くと気が滅入るよな……)
本人が気にしていなくとも、聞き手の方が逆に気にしてしまう。
(でも……聞けて良かったかもな)
流とは、夏休みが終わってから出会い、もう半年の付き合いになる。そう何度も会う仲ではないとはいえ、夕陽は流のことについて、知らないことばかりだった。
だが、そんな思い過去でも、少しだけでも知ることができた。それは、なんだか嬉しいように思う。
(……って、光ヶ丘じゃないんだから。そんなくさいことは心の中でだって——)
ふと、姫乃の顔を思い出す。すると途端に、顔が熱くなった。
「……? どうした?」
「いや……なんでもない」
手で顔面を押さえながら、顔を背ける夕陽。
やはり思い出してしまうと、どうしても冷静になれなくなる。頭がカァッと、燃え滾るように熱くなる。そのまま沸騰してしまいそうだ。
「……まあ、とりあえずここだ」
そう言って招き入れられたのは、和室。いや日本家屋なので和室なのは当然だが、そうとしか形容しようがない。樫の木で作られた年代物の机が一つ、部屋の中央に鎮座しているだけだ。いわゆるリビングか、夕陽を招き入れたところから応接室のようなところだろうか。
「……ここは?」
「部屋だ」
そんなことは分かっている。
「えっと、じゃあ、ここでなにを?」
「これだ」
流の思考というか、なにがしたいのかがまったく分からず困惑していると、流はスッと、それを出した。
そして、また脳がフリーズする。
「えっと……それは?」
「デッキだ。対戦するぞ」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.618 )
- 日時: 2014/11/09 13:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「あうぅ、まけちゃった……」
「今日はぼくの勝ちだな」
「でも、きのうはあたしがかったよ!」
「あれはおまえが三枚もシールド・トリガーだしたからだろ! うんがよかっただけじゃないか!」
「うんもじつりょくのうちだよ! 一枚もシールド・トリガーだせないゆーくんがわるい!」
「なんだと! ならもういっかいだ! つぎも勝ってやる!」
「じょーとー! うけてたつよ!」
どういうわけか始まった、夕陽と流のデュエル。当然ながら神話空間内ではないので、クリーチャーが実体化するわけもない。
(久し振りだな、流とのデュエル……最後に対戦したのは夏休み以来だっけ)
流と初めて出会った時以来だ。考えてみれば、それ以降はまったく対戦していなかった。
「俺のターン。《フェアリー・シャワー》を使い、山札の上二枚のうち、一枚を手札、一枚をマナに置き、ターン終了だ」
「じゃあ僕のターン。《エコ・アイニー》を召喚してターン終了」
夕陽のデッキも流のデッキも、メインとなるクリーチャーが軒並み重く、序盤はマナ加速に努める。
「呪文《ドンドン吸い込むナウ》。山札から《再誕の社》を手札に加え、《エコ・アイニー》をバウンス」
「なら《エコ・アイニー》を再び召喚。さらに《コッコ・ルピア》も召喚だ」
着実にマナを溜め、ドラゴンの召喚コストを下げていく夕陽。一方流は、そんな夕陽の動きを妨害する。
「俺のターン……《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を召喚。能力で墓地の《ドンドン吸い込むナウ》を発動。《母なる星域》を手札に加え、《コッコ・ルピア》をバウンス」
「う……でも、これだけマナが溜まれば《コッコ・ルピア》がいなくても、手出しで召喚できる」
夕陽のマナは全部で9マナ。そのすべてを使い切り、
「《暴龍事変 ガイグレン》を召喚!」
暴龍事変 ガイグレン ≡V≡ 火文明 (9)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン/ヒューマノイド爆/ドラグナー 11000+
スピードアタッカー
マナ武装 9:このクリーチャーが攻撃する時、自分のマナゾーンに火のカードが9枚以上あれば、そのターン、このクリーチャーをアンタップしてパワー+3000する。
W・ブレイカー
相手がこのクリーチャーを選んだ時、このクリーチャーのパワー以下のパワーを持つ相手のクリーチャーをすべて破壊する。
「《ガイグレン》で攻撃! その時、マナ武装9発動!」
「マナ武装、9……?」
《暴龍事変 ガイグレン》のマナ武装は、現時点で最も高いマナ武装9だ。しかも攻撃時に発動する。
夕陽は火文明メインではあるが自然や闇も組み込んでいるため、マナゾーンのカード九枚全てが火文明ということは早々ない。しかし現在、夕陽のマナは多色を絡めてすべて火文明。マナ武装9を満たしている。
「攻撃する時にアンタップ、そしてパワー+3000! シールドをWブレイク!」
「……S・トリガーはない」
「ならもう一度、《ガイグレン》でシールドをWブレイク!」
《ガイグレン》が立て続けにシールドをブレイクする。
これが《ガイグレン》の最も強い能力だ。条件が厳しいマナ武装さえ満たしてしまえば、止まることのない無限の攻撃が可能となる。流はS・トリガーを引かなければ、このまま殴り切られてしまう。
「……S・トリガーだ。《ナチュラル・トラップ》と《スパイラル・ゲート》。《ナチュラル・トラップ》で《ガイグレン》をマナへ、《スパイラル・ゲート》で《エコ・アイニー》をバウンス」
「止められたけど……《ガイグレン》は選ばれた時、《ガイグレン》以下のパワーの相手クリーチャーをすべて破壊する!」
「《スペルサイクリカ》は山札の下へ行くぞ。俺のターン」
なんとか《ガイグレン》の猛攻は止めたものの、流のシールドは一枚。クリーチャーも全滅。ここから巻き返すのは厳しいか。
「呪文《再誕の社》、墓地のカード二枚をマナゾーンへ。さらに《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚。超次元ゾーンから《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンへ。ターン終了だ」
「今度はドラグハートか。でも、もう一押しだし、大丈夫だな。《コッコ・ルピア》を二体召喚、さらに《爆竜勝利 バトライオウ》も召喚!」
流のシールドが残り少ないということを考え、クリーチャーを展開して手数で攻めかかる夕陽。
対して、流は、
「《エビデゴラス》の能力で一枚ドロー、そして通常ドロー。《飛散する斧 プロメテウス》を召喚し、2マナ追加、マナゾーンの《母なる星域》を回収。さらに《キング・ケーレ》を召喚、《バトライオウ》をバウンスだ」
クリーチャーを並べ始める流に、どこか嫌な予感を覚える。残りシールドも少ないので、早く決めてしまいたいが、
「スピードアタッカーが引ければいいんだけど……《バトライオウ》を二体召喚」
引けたのは二体目の《バトライオウ》。仕方ないのでそのまま場に出す。
「ターン終了」
「俺のターンだ」
流はスッと、流れるようにカードを引く。
「まずは《エビデゴラス》の能力で追加ドロー、そして通常ドローだ」
一枚、二枚とカードを引き、スッと静かにマナゾーンへカードを置く。さらに、流は、
「《電脳決壊の魔女 アリス》を召喚」
「《アリス》……ってことは」
「そうだ。《アリス》の能力で三枚ドロー、手札二枚を山札に下へ」
《電脳決壊の魔女 アリス》は召喚時に、手札を入れ替えることができる。その際には山札からカードをドローする。
「このドローで俺はこのターン、《エビデゴラス》の追加ドローで一枚、通常ドローで一枚、《アリス》の能力で三枚、合計五枚のカードを引いた」
つまり、
「《エビデゴラス》の龍解条件を満たした……!」
《龍波動空母 エビデゴラス》の龍解条件は、同一ターン内に五枚以上のカードを引くこと。流は今しがた、その条件を達成した。
それにより、《エビデゴラス》が龍解する。
「《龍波動空母 エビデゴラス》龍解……《最終龍理 Q.E.D.+》」
最終龍理 Q.E.D.+ ≡V≡ 水文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 11000
自分のターンのはじめに自分の山札の上から5枚を見る。そのうちの1枚を山札の上に戻し、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。その後、カードを1枚引いてもよい。
自分の水のドラゴンはブロックされない。
W・ブレイカー
龍回避—このクリーチャーがバトルゾーンを離れるとき、バトルゾーンを離れるかわりに、フォートレス側に裏返す。
「龍解された……でも、手数で攻めれば、まだ——」
「そんな隙を与えるつもりはないがな。呪文《母なる星域》、《アリス》をマナへ」
龍解に続き、《母なる星域》を唱える流。このタイミングでその呪文は、嫌な予感がする。
と、いうよりも。以前にも感じたことのある、言い様もない巨大な気配が伝わってくる。荒れ狂う大波のように押し寄せる、強い力が感じられる。
「まさか……」
目線を落とし、流のマナゾーンに目を向ける夕陽。今までもマナゾーンはチェックしていたが、この時点で初めて見るカードがあった。それはこのターン置かれたばかりのカード、そして——流の切り札であるカードだ。
「《キング・ケーレ》《メタルアベンジャー》《プロメテウス》の三体に重ね——」
三体の水のクリーチャーが重ねられていく。その頂上にあるのはリヴァイアサン、そしてその上に、最後の一枚が置かれる。
「海神の怒り、三叉の槍と荒れ狂う嵐をもって、すべての大海を支配する! 神々よ、調和せよ! 進化MV!」
そして、神話の海神が、降臨した——
「——《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》!」
「っ……!」
ただ普通にカードが出ただけだが、尋常ではない威圧感を感じる。神話空間内でなくとも、実際の対戦でこれほどの圧力を感じさせる『神話カード』の力を、改めて思い知る。
「《ネプトゥーヌス》のCD能力発動。まずは三枚ドロー」
『次に、貴様の盾と手札を拝見する』
「喋った……」
デュエルの進行を気遣ってかカードのままだが、《ネプトゥーヌス》が声をあげる。
よく考えてみれば、夕陽は流以上に《ネプトゥーヌス》のことを知らなかった。なにやら尊大な口調だが、一体どういう性格なのか。
『流、奴の盾に罠を見つけた』
「ああ。そのカードと、お前の手札を入れ替えてくれ」
「くっ、《バトクロス・バトル》が……」
「最後にCD12発動、お前のクリーチャーをすべて山札に戻す」
《ネプトゥーヌス》の最後の力で、夕陽の場は一掃。S・トリガーを消され、デッキトップも固定。勝ち筋をほとんど潰された。
「さらに手札進化、《レジェンダリー・デスペラード》を召喚。《デスペラード》でWブレイク!」
「S・トリガーは……ない、よな……」
《ネプトゥーヌス》ですべてピーピングされているので、この状況をひっくり返すようなカードが来るはずもなく、
「《ネプトゥーヌス》でTブレイク!」
すべてのシールドを割られてしまった。
そして、最後の一撃が放たれる。
「《Q.E.D.+》で、ダイレクトアタックだ!」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.619 )
- 日時: 2014/11/10 13:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「うーん……」
「どうした?」
「なんであたしたちのカードって、クリーチャーが出てこないのかな?」
「あたりまえだろ、カードなんだから」
「でもアニメではクリーチャーが出るよ? あんなふうに出てきたら、ぜったいかっこいいのに」
「そんなことあるわけないだろ……でも、もしも出てきたらかっこいいな」
「だよねだよね! いつか出てきたりしないかな!?」
「ないな」
「うー、ゆーくんのいじわる。そーゆーの、ユメがないってゆーんだよ!」
「ありえないものはありえないんだよ。そんなこと、いっしょうあるもんか」
「——で、結局なんだったんだ?」
「なにがだ」
「さっきの対戦だよ。なんの意味があったの?」
対戦を終えてカードを片付け終えたところで、夕陽は流に尋ねた。
いきなり対戦が始まり、それに流されて対戦を進めたが、結局その対戦はなんのためにしていたのか。
「意味、というほど大袈裟なものではない。少しは気が楽になるかと思ってな」
「……は?」
「悩んでいるのなら気を晴らせばいいと思った。どうだ?」
「……はぁ」
そういうことか、と夕陽は肩を落とした。
「そんなことで悩まなくなるなら、最初からそうしてるよ……」
「ダメか?」
「ダメっていうか……」
解決になっていない、と言うべきか。確かに対戦中はデュエルに熱中していたが、対戦中だけだ。それでどうにかなるわけでもない。
「……すまない」
「いや、いいよ別に。やっぱ、僕一人でどうにかすべき問題なのかもしれないし」
今日はもう帰るよ、と言って、夕陽は立つ。流も玄関口まで見送ってくれた。
「結局なんにもならなかったけど、ありがとう、流。話を聞いてくれただけでも、多少は楽になった気がするよ」
「それなら良かったがな。やはり、俺はその手のことには不得手なようだ」
元からあまり期待してなかったけどね、と心中だけで呟きつつ、夕陽は背を向ける。が、その時、流に声をかけられた。
「……『昇天太陽』」
「? なに?」
「お前は随分と思い悩んでいるようだが……お前の悩みは、それほど難しく考えることなのか?」
「……どういうこと?」
なにか、根本から覆されるような流の言葉に、夕陽は踏み出した足を止める。
「光ヶ丘姫乃の告白に、お前の答えを導き出すだけのことに、悩む要素があるのか?」
「そりゃあ……悩むよ。簡単に答えを出せることじゃないし、今までの関係だって——」
「確かに、軽々に答えを出せることではないだろう。だが、今までの関係を問う前に、今出すべき答えを出せ。一つ聞くが、お前は光ヶ丘姫乃のことが嫌いか?」
「そんなことはないけど、それとこれとは違う——」
「違わないだろう。お前が思っている以上に、お前たちの関係は強固で、単純で、不変なものだと俺は思っている。絶対的に不変とまでは言わないが、お前が、今のお前が純粋に思っていることが、お前たちの関係を悪化させることに繋がるとは、俺には思えない」
「いや、でも——」
急に、捲し立てるような流の言葉に、戸惑う夕陽。言葉が出ない。なんと言えばいいのか分からない。流の言葉を否定するのも、肯定するのも躊躇われる。
「最後に一つ、俺から言えるのはこれで終わりだ。“悩みすぎるな”。悩むことがいい結果をもたらすとは限らない、もっと素直になれ。あまり深く考えてばかりいると、いつか逃げるだけになるぞ」
「…………」
まるで警告だった。その言葉をそのまま受け取ることはできないが、悩しかし無下に突っ撥ねることもできず、
「あ、あぁ……」
夕陽は、曖昧に答えるだけだった。
「……帰り際に悪かったな。今後も、こんな俺で良ければ、話くらいは聞く。じゃあな、『昇天太陽』——」
「——流!」
今度は流が背を向ける。その瞬間に、夕陽は彼を呼びかける。
「……なんだ?」
「僕のこと、夕陽って呼んでくれ」
唐突な要求だった。
「いつまでも『昇天太陽』なんて呼ばれ方をされるのは気分が悪い。僕も流って呼んでるし、流も僕のこと、普通に名前で呼んでくれよ」
「……いいのか? 仮にも、夏には敵対していた俺だぞ」
「そんな昔のことを引きずるなよ。それに敵対してたんなら、僕の悩み相談に乗ってはくれないだろ」
それだけではない。文化祭やクリスマスに正月、そしてひまりの最期のあの時まで——流は夕陽たちと、共に戦った。
「だから流はもう……僕らの仲間だ」
「…………」
ほんの少し。流は驚いたような顔をしていた。夕陽も自分の口からこんな言葉が出るとは思っていなかったので、内心では自分に驚いている。
しばらくの沈黙があり、やがて流が口を開く。
「……そうか」
短い言葉だった。しかし、そこには流の、言葉にしない分の思いも詰まっているように感じられた。
「——じゃあな、夕陽」
「ああ。今日はありがとう、流」
そう言って、二人は背を向けて、別れた。
夕陽が帰り、背を向けたまま戸を閉める流は、ふっと呟いた。
「……これで良かったのだろうか」
「なにがだ?」
流の呟きに、ネプトゥーヌスがカードから出て来る。
「純粋に、夕陽のあの言葉は嬉しかった……だから、今なら俺は、仲間として夕陽にああ言ったと言える。だが、俺のあの言葉は、正しい判断だったのだろうか」
自分が思うことを言っただけだが、もしかしたらあの言葉は、むしろ夕陽を追い詰めてしまうのでは、と今更ながらも後悔が滲む。
「なあ、ネプトゥーヌス……俺は、正しかったのか?」
「……分からん」
流の問いに、ネプトゥーヌスは静かに答えた。
「我は審判ではない。なにが正しいかを、公平の目で見て判断できるだけの力はない。ただ我の口から言えるのは一つだけ……義に従うのみ」
「義、か……」
それはネプトゥーヌスの口癖だった。義、即ち正義。
「流よ、汝の言葉が、汝の義に反しないと思うのであれば、汝の選択は正しい。己の義に反していると思うのであれば、それは間違い。我から言えるのはこれだけだ」
「そうか……」
ならば、流の言葉は、流の正義に沿っているのか。それを考える。
(正義などという大仰な言葉を使う気はないが……これは、俺の意志なのか)
流は思い出す。夕陽の相談に乗ろうと思った契機。少しでも、彼らの力になろうと思った、あの日のことを——
半年ほど前。ある日、学校の屋上で寝ていた時のことだ。
ギィ、と屋上の扉が開く音が聞こえた。
「あ、ここにいた」
聞き覚えのある女子生徒の声。流はそれを無視して、目を閉じている。
「なーがーれーくんっ。零佑君が呼んでたよ。ねぇ、聞いてる? 流君!」
「…………」
「リュウ君」
「ナガレだ」
起きた。流石にそれは譲れない。
声でほとんど分かっていたが、流はその人物の顔を見て、口を開く。
「……朝比奈か」
「ひまりだよ。それより、零佑君が流君のこと探してたよ」
「そうか」
それを聞き、また寝る。
「行かないの?」
「どうせ後でクラスで一緒になる。もしくは、そのうちここを嗅ぎ付けて来るだろう……それに、たまには一人でいたい時もある」
「あー、分かるかも、それ」
と言いながら、ひまりはそれとなく流の隣に座った。
しばらく無言の時間が続いたが、やがてひまりが、どこか独り言のよう、流に呼びかける。
「……夕陽君たち、大変そうだね」
「【師団】が迫っているんだったか……俺たちの所にも、その刺客らしきクリーチャーは来たがな」
それに、と流は付け足す。
「大変なのは、この世界に身を投じている時点で当然のことだ。今更だろう」
「そう、だね……確かにね。夕陽君たちなら、大丈夫だよね」
言葉足らずな流の言葉を、かなりポジティブに解釈したらしいひまりは、そんなことを言う。
本当はもっと厳しいことを言ったつもりだったが、訂正するのも面倒だったので、そのまま放っておく。
「確かに、大変なのは最初から。夕陽君たちも分かってるし、それはみんな一緒……だけどさ、流君」
「……なんだ」
「私たち、二年生だよね。夕陽君たちより、先輩……なんだよね」
「学年上はそうだな。それこそ今更だ」
「だからさ」
スクッと、ひまりは立ち上がった。そして、くるりと半々回転し、流に向き直る。
「私たちで、夕陽君たちをサポートしなきゃね! だって私たちは、あの子たちの先輩なんだから。それが仲間ってことだよね」
「…………」
「勿論、流君も私たちの仲間だよ」
流は、なにも答えなかった。
この時は、特になにも思わなかった。見知らぬ仲ではないので、助け合うくらいはしてもいいだろうと、どこか他人事っぽく考えていた。
だが、この約一ヶ月後、彼女がこの世界から消えた時
流は初めて、彼女の言う仲間を意識した。
そしてそれは、今もなお、続く——
「……やはり、分からないな。とても、難しい……」
あの時のことを思い出し、改めて今の自分の仲間というものを考えてみるが、答えは出ない。
しかし、同時にそれが仲間というものなのかもしれないと思う。そう思えば、悪くはない気分だ。
流は閉めた戸をまた少しだけ開き、夕陽が去っていった、道の向こうを見遣り、そっと口を開いた。
「夕陽……あいつの意志を継ぎたいのは、お前だけではないんだ——」
そして、ぴしゃりと戸を閉めた。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.620 )
- 日時: 2014/11/11 07:53
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「えーっと、三角形の面積はてーへんかける高さ割る2……? てーへんってなに?」
「お前そんなこともわからないのかよ……底辺っていうのは、この図形の一番下のこれだよ」
「じゃあ、こっちの三角は? どれがてーへんなの?」
「え? えっと……」
「ほらゆーくんもわかってないじゃん!」
「お前よりかはわかってるっつーの!」
「音楽はあたしのほうがとくいだもんね!」
「今それ関係ねーし! ああもう、いいからやるぞ! じゃないと先生におこられるから! あと夏休み三日しかねーんだぞ!」
「えー、もうつかれたよー……ちょっときゅうけいに、デュエマしない?」
「しない!」
「ただいまー」
と言って帰宅する夕陽だが、家族が誰もいないことは分かっている。家の鍵は閉まっていた。両親は共働きで帰りも遅い、妹は部活だろう。
それでもわざわざ帰りを告げる言葉を口にするのは、それを言う相手がいるからだ。夕陽は階段を上って自室に入ると、机の上で裏向けになっているカードを捲る。
「いつまで拗ねてんだよ、お前」
「むー……」
捲ったカードのイラスト部分には、ふくれっ面の妖精の姿。プロセルピナだ。
このみは進級できないと言って騒いでいる間に、いつの間にかいなくなっていたと言っていたが、プロセルピナはなぜ夕陽のところへ来たのか。
大体、見当はつくが。
「どうせ、このみが成績云々で遊んでくれないー、とか言って飛び出してきたんだろ」
「っ! そ、そそそ、そんなことないもふっ!」
「あからさまに動揺しすぎだろ。いいよ隠さなくて、別に怒ってないし」
というか、呆れている。進級できないほどに悪成績を放置していたこのみもそうだが、このみが構ってくれない程度で家出するプロセルピナもプロセルピナである。
ある意味、主人共々似ているものだ。
「というか、このみのところには行かなくて良かったのか? 僕について来れば、今日学校で会えただろうに」
「このみーなんて知らないもん。ルピナがなんども話しかけたのに、むしするんだもん」
「あいつが他人を無視っていうのも珍しいが、そのくらい必死だったんだろ。学生にとって進級できないってのは、社会的な死活問題みたいなもんだ。少しは大目に見てやれ」
このみの成績不振に関してくださらないと一蹴した夕陽だが、実際呆れてくだらないと思っているが、それは自業自得で進級できない状態にあるこのみにわざわざ付き合って勉強を教えてやることに対してであり、進級できないという問題自体は大事だと捉えている。
もっとも、仮にこのみが進級できなかったとしても、一生会えなくなるわけでもないので、わりとどうでもいいことなのだが。
(まあ、あいつ、高校受験で落ちたら家で働くとか言ってたしな……もしも学校にいられなくなって自主退学したら、たぶんそうなるだろ)
このみがプライドを持って自主退学をするとも思えないので、そうなることはないと思うが、もしもそうなったら週一くらいで通ってやろう、と思う夕陽であった。
「明日は土曜で休みか……そういえば最近『popple』には行ってないな」
“ゲーム”に身を投じるようになってから、あの喫茶店に足を運ぶこともめっきり減ってしまった。それまでは何度も訪れているので、特別行きたいというわけでもないが、
「……プロセルピナ、お前も少しはこのみの様子とか見ておきたいだろ。明日『popple』に一緒に行くか」
プロセルピナのこともあるので、久し振りに足を運ぼうと思った。一応は世話になっている店だ。このままずっと行かなかったら、いずれ足を運びづらくなってしまう。
そんんわけで、プロセルピナも誘ったが、
「いいもん。よけーなお世話だもん」
「まだ拗ねてやがる……」
彼女はまだ頬を膨らませて、そっぽを向いていた。相変わらず子供っぽい拗ね方だ。いや、子供なのだが。
「ったく、主人と似て世話の焼ける……」
飼い犬は主人に似るということか、とまたも呆れる。
その後、プロセルピナはずっと拗ねたままでいるのだった。
「男の六人、女の子六人の中から五人選んで、最低でも男の子と女の子が一人ずついる組み合わせは……えーっと、確か全部男の子と女の子の組み合わせだけをなくすから……なくすから……」
と、そこで遂にこのみがシャーペンを放り投げた。
「うぁーっ! 分かんないよー! こんなの計算してなんになるのさー、もー!」
「あぁ! このみちゃんがまたショートしちゃった! 落ち着いてこのみちゃん、ちゃんと教えるから!」
早速帰ってから、このみは姫乃とマンツーマンで勉強会を開始した。手始めに、テスト勉強も兼ねて、救済措置として配布された大量の課題プリントをこなしていた。これを提出する義務はないが、提出すれば多少なりとも確実に点数が貰えるため、一点でも多く欲しいこのみはやらざるを得ない。
しかし勉強会開始から約二時間。ここまでにこのみの頭がショートした回数は十二回。実に十分に一度のペースである。二、三問解いたらすぐにこうなるため、なかなか先に進まない。
「ここはね、このみちゃんが言ったように、男の子しかいない組み合わせと、女の子しかいない組み合わせを取り除いて計算するんだけど——」
しかし姫乃はめげなかった。こんな生徒と一対一なんて、教えることで飯を食っている教師でも嫌がりそうだが、姫乃は投げ出さなかった。
このみが進級できないというのも嫌だが、それだけではない。姫乃は、このみへの恩義もあった。このみが今のバイト先——『popple』を紹介し、取り計らってくれたからこそ、姫乃の生活もかなり安定してきている。なにかコネを作ったみたいで後ろめたくもあったが、それでも純粋に感謝していた。
だからこそ、そんな自分に恩返しができるのであれば、姫乃は積極的にこのみを助けるつもりでいた。そのチャンスが、今ここにあるのだ。
……とはいえ、
「分かんないよー……Cってなに? Pってなに? 3Pってなんなの? コントローラー? ひびきがひわいだよー……」
「…………」
流石に黙った。二時間の勉強で遂に泣き声混じりの言葉が漏れて来た。もしかしたら、今まで耐えられた方がこのみとしては凄いのだろうか。
「ど、どうしよう……」
「もう勉強会の続行は難しそうですの。一旦、息をつくといいと思うんですの」
「! それだよヴィーナス! 二時間も通して勉強するからいけなかったんだよ。このみちゃん」
「うりゅ……?」
半泣きで机に突っ伏すこのみを揺さぶり、体を起こさせる。
「ちょっと休憩しよ? 一度下に行って、なにか飲み物取って来よう」
「……うん」
ゴシゴシと涙を拭うこのみ。もし仮に、ここに夕陽がいたならば、勉強した程度で泣くなよ、とあの呆れた面持ちで口にしていただろう。
そう思っていると、このみの携帯が鳴った。着信は、夕陽からだ。
「ゆーくーんからメール……? なんだろう?」
メールを開いてみると、
『明日ポップルにプロセルピナを連れていく。お前が構ってくれなくて拗ねてるけど大丈夫だ。光ヶ丘に迷惑かけるなよ』
淡泊で面白味のまったくない文章だった。とにかく用件だけを手短に伝えた、というような文面。如何にも夕陽らしい文面だが。
「夕陽くん、なんて?」
「明日うちに来るんだって、プロセルピナ連れて」
「そういえば、プロセルピナ様がいないんですの。わたくし、ずっと気になっていたんですの」
このみも急にプロセルピナがいなくなったことは気にしていたが、昨日の電話で泣き入りながら夕陽に電話した時、プロセルピナはうちにいる、という言葉は聞き取っていたので、とりあえず無事なようで安心していた。
しかし家出の理由が、まさか自分が構ってくれないから拗ねている、とは流石のこのみも分かるはずが、
「そっかー、やっぱり成績の計算に夢中で、プロセルピナほっぽっちゃったからだったのかー……悪いことしたなぁ」
分かっていたようだ。この辺りは似たもの通し、考えが似ているのか。
「っていうか最後の文、姫ちゃんに迷惑かけるなって……わざわざメールでそんなこと言わなくても」
「夕陽くんらしいね」
ともかく、密かに気にしていたプロセルピナについては、夕陽に任せるとしよう。これは恐らく、「プロセルピナのことは僕が請け負うから、それを言い訳にして勉強サボらず、しっかりやれ」ということの暗示だろう。なんとなくこのみには分かった。
だが、
「……とりあえず休憩! おねーちゃんのところにゴー!」
分かったとしても、それを行動に直結させるとは限らないのである。
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