二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.406 )
- 日時: 2014/02/16 20:26
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「……これはどういうことだ?」
静かに、しかし怒気を含む声で、亜実は夕陽を睨みつける。
手元には夕陽に渡されたデッキ。その中に眠っているのは、かつて亜実から鹵獲した《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》がある。
「んーと……なんて言うか、その《マルス》は、亜実の方が上手く使いこなせると思うんだ。実際、僕は今までそいつを使ってこなかったし、そのデッキも軽く動かしてみたんだけど、いまいちしっくりこなくてさ。だから《マルス》は、亜実が持っていた方がいいと思う。僕には《アポロン》がいるしさ」
「返す」
亜実は手にしたデッキを、叩きつけるようにテーブルに戻した。
「え、返すって……」
「こんな敵から情けを受けたみたいに『神話カード』を渡されて、なんの意味がある。あたしは強くなるために“ゲーム”の世界に身を投じている。ただ強いカードがあればいいというものではない。それに、あたしだって自分のデッキがあるし、そのデッキの強さにはそれなりの自信がある」
言いながら、亜実は自分のデッキを、夕陽が持ってきたデッキの隣に置く。
亜実としても《マルス》というカードの力は魅力的だが、なにもせずそれを受け取っても無意味だ。自分の力で勝ち取ってこそ意味がある。勝ち取るに至る過程、その力が亜実には必要なのだ。
「いや、でもさ……それに、別に僕らは敵じゃないだろ」
「今は停戦協定を結んでいるようなものだ。あたしは、その時が来れば戦うことも辞さない。いずれお前の《太陽神話》を狙い、また襲い掛かるかもしれないぞ」
「…………」
亜実の言葉に、口をつぐんだ夕陽だが、やがてゆっくりと閉じた口を開く。
「わざわざそれを今ここで言うって、やっぱり戦う気なんてないんじゃないのか?」
「っ……今は、確かに戦う気がない。だが、いずれそうなる可能性も考慮しろということだ」
少々焦ったように言葉を付け足す亜実。さらに、
「とにかく、あたしはこんな情けなんていらない。これは持って帰れ。お前も帰れ」
「そう言うなよ。それに、僕が持ってたら《マルス》もいつまで経っても実体化しなさそうだしさ」
「実体化?」
夕陽の発言を復唱する亜実。まだそのことは知らないらしい。
「そっか、実体化が始まったのは昨日のことだから、亜実はまだ知らないのか。ここは人いないし、見せた方が早いよね。アポロン」
夕陽はデッキケースから一枚のカードを抜き取る。そして呼びかけると、
「おう! なんの用だ、夕陽?」
「っ!?」
アポロンが実体化する。その様子に、亜実も言葉を失って驚愕していた。
「…………」
「実体化っていうのは、こういうこと。ひまり先輩がアポロンの力で、『神話カード』に力を注いだから、こうしてデフォルメした状態でだけど、実体化できるようになったんだ」
「そんなことが……」
この詳しい経緯については、このみや姫乃には学校で話した。次遭った時には、汐や流にも伝えるつもりだ。
ひまりのお陰で実体化するようになった『十二神話』たち。しかし、現時点で不明なこともある。
「……そのアポロンが実体化するのは分かったが、そこのデッキに入っている《マルス》は実体化していない。これはどういうことだ?」
「僕にもよく分かんないけど、しばらく実体化してなかったから、デュエルする中でなにか切っ掛けがないと実体化できないんじゃないかな」
「こんなこまい姿でも、オイラたちが実体化するのはすげぇパワーが必要だし、結構コツもいるからな。たびたび実体化してねぇと、どうやってこの姿になればいいのか分からなくなるんだ。たぶん、そいつはいまそんな状態にあると思う。だから何度も戦っているうちに、慣れてきて実体化するはずだぜ」
夕陽の見解に、アポロンがそう付け加える。
このまま《マルス》をただのカードにしておくのは、些か残酷に思える。しかし夕陽には《マルス》を使いこなすことができない。そして夕陽が知る人物の中で、最もこのカードの扱いにたけていそうなのが、亜実だ。なので亜実に《マルス》を譲渡しようと考えたのだった。
「……成程な。事情は理解したが、どの道いらん。お前たちの事情なんて知ったことではない、早く帰れ」
「そう言うなよ。頼むからさ、僕を助けると思って」
「オイラからも頼むよ。オイラもそいつをカードのままにしておきたくはないんだ」
「断る。帰れ」
「そう言わずに——」
亜実との押し問答が続く中、不意に病室の扉が開いた。
「貴様の言うことも一理あるが、『神話カード』が手に入る絶好の機会を自ら放棄するとは……やはり愚かだな、『炎上孤軍』」
「和登……!」
身を乗り出し、あからさまな敵意を剥き出しにする亜実。
入室してきたのは、『深謀探偵』の異名を持つ男、和登栗須。亜実と同じ【神格社界】に属するが、亜実とは絶望的に反りが合わない。
「なにしに来やがったてめぇ……!」
「そう噛みつくな。貴様に用などない」
「ならなんであたしの病室にいやがる」
「僕の目的の人物が、たまたまお前の病室にいたというだけの話だ。そのくらい推理しろ」
栗須の目的の人物が、偶然亜実の病室にいる。つまり、
「僕が用があるのは、『昇天太陽』、貴様だ」
「……僕?」
一瞬、なぜ自分なんだと疑問を感じたが、しかし夏に栗須が現れた時も、よくよく考えれば夕陽を狙っていた。
「貴様が再び《太陽神話》を手に入れたのは知っている。それを蒐集しに来た」
栗須の狙いは『神話カード』。よって彼の矛先も、夕陽に向く。
夕陽はアポロンを傍に引き寄せ、デッキに手を伸ばすが、
「待てよ」
そこに、亜実の声が割り込む。
「あたし抜きで話を進めるな」
「なにを言っている。貴様が入り込む余地のない話だ。貴様はそこの『神話カード』を手にしないのだろう? ならば下がっていろ」
「確かに『神話カード』は使わねぇ。だが、お前には用があるんだよ、和登」
手元のデッキを一つ掴みながら、亜実は地に足を着ける。
「お、おい、無理するなよ……」
「無理なんてしてない。こんなもの、医者が大げさなだけだ。本来なら入院の必要なんてなかったくらいだ」
夕陽の制止を振り払い、亜実は立ち上がった。
「夏はお前に負けたが、次はそうはいかない。今度こそお前を討つ」
「……僕は貴様に用がない。貴様と戦う理由もない。貴様は病人だろう、どうせ互いに得るものない無意味な戦いだ。大人しく寝ていろ」
「言ったろうが、こんなの医者が大げさなだけだ、心配には及ばねぇよ。それに、お前には無意味でも、この戦いは、あたしにとっては意味のある戦いだ」
亜実はまっすぐに栗須を見据え、相対する。
「これはお前を討つために組んだデッキだ。ここで会ったが百年目、などとは言わないが、今日の日を待ち侘びた。今日この日に、リベンジを果たす」
「……僕にとっては無意味なのだがな。一方的に戦いを押し付けるとは、これだから貴様は好かない。しかし、少しでも前向きに考えるのであれば、『昇天太陽』と戦うにあたっての肩慣らしくらいにはなるだろう」
栗須もデッキを取り出し、戦う意思を見せた。
「……あ。亜実——」
ふとあることに気づいた夕陽は、慌てて亜実に声をかけようとするが。
二人は神話空間へと飲み込まれてしまった。
亜実と栗須のデュエルが始まった瞬間、亜実は自身のデッキの異常に気付いた。
(この手札……)
手札には見たことのないカードばかり。いや、見たことはあるのだが、デッキに入れた覚えはない。
というか、これは、
(空城の作ったデッキじゃないか……!)
自分のデッキも夕陽のデッキも、どちらのデッキも裏向けでテーブルに置いていたので、間違えて夕陽が作った方を取ってしまったようだ。
「くそっ、あたしとしたことが、こんなところでしくじるとは……!」
「なにをぶつぶつ言っている、『炎上孤軍』。貴様のターンだ」
「くっ、仕方ない、このまま行くか……あたしのターン!」
とんだ失敗を踏んでしまった亜実は、このままこのデュエルに臨むことにした。
そして彼の作ったデッキから、カードをドローする。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.407 )
- 日時: 2014/02/23 22:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「《地獄のケンカボーグ》でシールドをブレイク!」
亜実と栗須のデュエル、真っ先に攻撃を仕掛けて来たのは亜実だった。
亜実の場には《地獄のケンカボーグ》と《心機一転!云鬼バケル》。栗須の場にはなにもない。
「単調な攻撃だな」
ブレイクされたシールドを手札に加えつつ、栗須は非難するように言う。
「貴様が“ゲーム”の世界において評価されている点は、貴様の類まれなる状況判断力だ。的確に状況の流れを理解し、どの道が正しいかを高い精度で導き出す。こちらは守っても貴様の手により潰され、攻めても芽を摘まれる……貴様のストロングポイントは、その対応力の高さにあった。貴様は、その変幻自在な攻め方こそが強みだ」
だが、と栗須は続ける。
「貴様の場と、マナゾーンを見る限り、そのデッキは火と闇の速攻。単調にただ攻撃するだけでは、僕は倒せない」
「そういうのはあたしに勝ってから言うんだな。ターン終了だ」
強気に言い返す亜実だが、しかし内心では彼女が一番焦っている。
ざっと見ただけで、このデッキの細かい部分まで亜実は知らない。とりあえずデッキの方向性だけは分かるので、その通りに動いているが、そんなあやふやな戦術で栗須に勝てるとも思えない。
「僕のターン。《氷牙フランツⅠ世》を召喚してターンエンド」
栗須もやっと動き始めた。それだけで亜実に緊張が走るが、
「いや、まだ大丈夫だ……あたしのターン! 《友情の炎獄ゲット》を召喚!」
《炎獄ゲット》は召喚時、自分のハンターの数以下のコストのクリーチャーを破壊する。
「あたしの場にハンターは三体、コスト3以下の《フランツ》を破壊だ! そして《ケンカボーグ》と《バケル》でシールドをブレイク!」
《ケンカボーグ》と《バケル》による攻撃が、栗須のシールドを叩き割る。これで栗須のシールドは残り二枚だ。
案外、このまま攻めて行けば勝てそうに見えるが、栗須もそんなに甘くはない。
「S・トリガー発動《ミステリー・キューブ》」
「《キューブ》か……見たところ、前より踏み倒しに特化させているようだな」
「ああ、まさか以前と同じ手を使うと思っていたのか?」
「まさか」
“ゲーム”の世界で戦う以上、ある程度名が知られれば、デッキの中身を研究されることはよくある。
なのでポリシーを持ってデッキを構築している者でも、定期的にデッキの中身を改変するものだ。一枚二枚、カードを入れ替えるだけでも、それなりに効果はある。中には一時間おきでデッキを入れ替えるような輩も存在するほどだ。
その例に従い、栗須はデッキの中身を以前戦った時と変えている。以前も重量級クリーチャーが多く投入されていたため、踏み倒し手段はいくつかあったが、今回はその点をさらに特化させているようだ。
「山札をシャッフルし、一番上を公開。《偽りの羅刹 ゼキア・エクス・マキア》をバトルゾーンへ」
「《ゼキア・エクス・マキナ》か……」
偽りの羅刹(コードファイト) ゼキア・エクス・マキナ 無色 (8)
クリーチャー:デーモン・コマンド/アンノウン 8000
このクリーチャーが攻撃する時、相手は自身のクリーチャーを1体選び、破壊する。
相手の、無色ではないクリーチャーが破壊された時、自分の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
W・ブレイカー
攻撃するたびにクリーチャーを一体破壊され、しかもそれが無色でなければシールドまで追加される。
「そして僕のターン。《セブ・コアクマン》を召喚」
捲れた三枚は《超次元シャイニー・ホール》《偽りの名 スネーク》《真実の名 バウライオン》の三枚。
「三枚とも光か闇のカードなので手札へ。《ゼキア・エクス・マキナ》でシールドをWブレイク!」
《ゼキア・エクス・マキナ》の斬撃が繰り出される。同時にその切っ先から衝撃波も放たれた。
「さあ、クリーチャーを一体破壊しろ」
「……なら、ここは《バケル》を破壊!」
そしてこの時《バケル》の能力が発動する。
「山札からハンターをサーチ! 《鬼神!ヴァルボーグなう》を手札に! あたしのターンだ!」
《ゼキア・エクス・マキナ》で破壊するクリーチャーは、相手プレイヤーが選ぶ。なので攻撃対象を破壊されて攻撃が無駄にならないようにシールドを狙ったのだろう。
だがシールドがブレイクされたお陰で、亜実の手札が増えた。亜実のデッキは速攻で、手札が枯渇しやすい。数枚程度のシールドブレイクなら、むしろありがたい。
「まずは二体目の《ケンカボーグ》を召喚! そして進化! 《鬼神! ヴァルボーグなう》!」
召喚した《ケンカボーグ》をそのまま《ヴァルボーグ》なうへと進化させる。
これで亜実の場にはWブレイカーが一体、他のアタッカーが二体で、合計四打点。栗須の残りシールド三枚を割り、そのままとどめまで持って行ける。
「喰らえ! 《ヴァルボーグなう》でWブレイク!」
《ヴァルボーグなう》の攻撃が栗須のシールドを粉砕する。さらに、
「《炎獄ゲット》でシールドブレイク! これでお前のシールドはゼロだ!」
「ふん……だが、S・トリガー発動だ。《ミステリー・キューブ》」
栗須がトリガーしたのは、またも《ミステリー・キューブ》。山札がシャッフルされ、その一番上のカードが公開される。
「……《恵みの大地ババン・バン・バン》をバトルゾーンへ! マナを四枚追加だ!」
「だからどうした。今更マナを増やそうとも、あたしの攻撃は止まらない。《ケンカボーグ》でダイレクトアタック——」
と、その時。
《ケンカボーグ》の首が吹き飛んだ。
「……なに?」
「マナが増えた意味を、もう少し考えるべきだったな。ニンジャ・ストライク発動《威牙の幻ハンゾウ》を召喚、《ケンカボーグ》のパワーを6000下げ破壊だ」
手札から飛び出したのは《ハンゾウ》。その能力で、パワーがゼロとなった《ケンカボーグ》は破壊される。
栗須は手札に《ハンゾウ》を握っていたが、マナが足りずニンジャ・ストライクできない状態だった。
だが《ミステリー・キューブ》で《ババン・バン・バン》が出て来たことでマナが増え、ニンジャ・ストライクできるようになったのだ。
「さらに、無色以外のクリーチャーが破壊されたので《ゼキア・エクス・マキナ》の能力でシールドを追加」
「くっ……!」
このターンにとどめを刺せなかったのは痛い。どころか、栗須の反撃の手筈が整ってしまった。
「残念だったな、貴様の負けだ。《偽りの名 スネーク》を召喚」
偽りの名(コードネーム) スネーク 水/闇/自然文明 (8)
クリーチャー:アンノウン 11000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを1枚引き、その後、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の墓地のカードを裏向きにしてシャッフルし、山札の一番下に置く。
W・ブレイカー
ダメ押しとでも言うように《偽りの名 スネーク》が召喚される。能力で栗須は手札とマナを増やし、
「《ゼキア・エクス・マキナ》で攻撃、貴様のクリーチャーを破壊し、シールドをWブレイク!」
「《炎獄ゲット》を破壊だ……!」
亜実のクリーチャーは破壊され、栗須のシールドは増える。
さらに《ゼキア・エクス・マキナ》の攻撃で亜実のシールドが二枚、ブレイクされた。
「……! S・トリガー発動! 《待ち伏せオニゾウ》と《デッドリー・ラブ》!」
亜実はブレイクされたシールド二枚から、決死のS・トリガーを発動させた。
「まずは《オニゾウ》を召喚し、効果で《セブ・コアクマン》のパワーをマイナス2000、破壊だ! さらに《デッドリー・ラブ》で《オニゾウ》を破壊し、《ババン・バン・バン》を破壊!」
「……だが、《オニゾウ》が破壊されたのでシールド追加だ」
なんとか栗須の攻撃を凌ぐ亜実。だが栗須の場にはまだ《ゼキア・エクス・マキナ》と《スネーク》がいる。
「やはり《ゼキア・エクス・マキナ》は厳しいな……なら」
カードを引きつつ、亜実は手札のカードを抜き取る。
「まずは《守り屋ジョーオニー》を召喚! 続けて呪文《スーパー獄門スマッシュ》! 《ゼキア・エクス・マキナ》を破壊!」
なんとか《ゼキア・エクス・マキナ》は破壊する。これでこちらのクリーチャーが破壊されることも、シールドが追加されることももうない。
「そして《ヴァルボーグなう》でシールドをWブレイク!」
「そうはさせない。ニンジャ・ストライク《光牙忍ハヤブサマル》を召喚し、《スネーク》をブロッカーに。《スネーク》でブロック」
《ヴァルボーグなう》の攻撃はブロッカーと化した《スネーク》に防がれ、破壊された。
「くそっ、また防がれたか……!」
しかも、こちらの攻撃手まで削られた。
「まずいな……」
眼前に立ち塞がるのは、巨大な未知なる存在。その圧倒的な存在感に戦慄を覚える。
そんな彼女の剣となる力はまだ、デッキの底へと、沈んでいた——
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.408 )
- 日時: 2014/02/18 04:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
亜実と栗須のデュエルは、接戦になりながらも、亜実が押されていた。
間違えて夕陽の作ったデッキでデュエルすることとなった亜実の場には《守り屋ジョーオニー》が一体。シールドも一枚。
対する栗須の場には《偽りの名 スネーク》が一体。シールドは二枚。
亜実は手札が切れかかっており、クリーチャーも小型ブロッカーが一体。栗須は、シールドこそ二枚だが、手札もマナも豊富にあり、場のクリーチャーは大型ときた。
亜実にとってかなり厳しい展開のまま、栗須のターンが訪れる。
「僕のターン。呪文《ホーガン・ブラスター》」
栗須が最初に放った呪文は《ホーガン・ブラスター》。その効果で、山札がシャッフルされる。
「そして山札の一番上のカードを使用する。さあ、なにが出る……?」
シャッフルされたデックトップが表向きになった。
「《ミラクルとミステリーの扉》を発動。さらに山札の上四枚を表向きにする」
捲られたのは呪文の《ミラクルとミステリーの扉》。《ホーガン・ブラスター》の能力で唱え、四枚のカードが公開される。
ここからさらに栗須のクリーチャーが増えるわけだが、栗須はそれらのカードを見るや否や、少しだけ目を細める。
「…………」
捲られたのは《超次元ジャイニー・ホール》《神託の王 ゴスペル》《ポジトロン・サイン》《サイバー・N・ワールド》の四枚。亜実はここからクリーチャーを一体選ぶのだが、
「《サイバー・N・ワールド》だ」
即決即断だった。迷いなく《サイバー・N・ワールド》を選択する。
「《サイバー・N・ワールド》……ついていたな」
バトルゾーンに出て来るのは、《サイバー・N・ワールド》。栗須にとっては、あまりありがたくないクリーチャーだ。
《サイバー・N・ワールド》は、手札補充として考えれば、互いに五枚のカードを引かせるので、アドバンテージを得ずらい。なので相手の手札が多く、逆に自分の手札が少ない時に出すのがベターだ。
だが今は、栗須は手札が多く、亜実は手札が少ない。亜実の枯渇している手札に、恵みの雨をもたらしているようなものだ。
「……まあ、呪文濃厚化だ、出て来てしまったものは仕方ない。互いの墓地と手札をすべて山札に戻しシャッフル、その後五枚ドロー」
亜実と栗須は、互いに墓地と手札をすべてリセットし、新たに五枚のカードを補充する。
「《裏切りのペッパーシウバ》を召喚。《スネーク》で最後のシールドをブレイクだ」
「《ジョーオニー》でブロック!」
亜実のシールドは残り一枚。流石にその一枚を簡単に割らせるわけにはいかないので、《ジョーオニー》で守る。
だがこれで、ブロッカーもいなくなってしまった。
「……あたしのターン」
《サイバー・N・ワールド》で手札は増えたが、この状況を打破するカードは来ない。
「マナも多くないし、進化して追撃かけるのもままならない……とりあえず《鬼斗マッスグ》を二体召喚して、ターン終了だ……」
亜実は《マッスグ》を二体召喚するだけで、ターンを終える。
そして、栗須のターン。栗須の場には《スネーク》と《サイバー・N・ワールド》《ペッパーシウバ》……三体のアタッカーがいる。そして亜実のシールドは一枚。
「最後はS・トリガー頼みか、惨めだな。だが、決死のS・トリガーはそう珍しいことでもない。念のためだ、呪文《ミステリー・キューブ》」
栗須の山札が掻き混ぜられ、その頂点が捲られる。
「……《偽りの名 シャーロック》をバトルゾーンに!」
「っ、《シャーロック》……!」
現れたのは、よりにもよって《シャーロック》、栗須の切り札だった。
選ばれないので並みの除去カードでは太刀打ちできない《シャーロック》。このターン生き延びても、次のターンには確実にとどめを刺しに来る。
「さらに《アクア・スペルブルー》と、《スペルブルー》の能力で手札に入った《エメラル》も召喚。そして、これで終わりだ。《偽りの名 スネーク》で、最後のシールドをブレイク!」
《スネーク》の触手が、亜実の最後のシールドを粉砕する。
「っ……S・トリガー発動! 《地獄門デス・ゲート》で《サイバー・N・ワールド》を破壊! そして戻って来い《守り屋ジョーオニー》!」
割られたシールドは光の束となって収束し、地獄の門が開かれる。
《デス・ゲート》で《サイバー・N・ワールド》は破壊され、代わりに亜実の墓地から《ジョーオニー》が蘇る。続く《ペッパーシウバ》の攻撃は、《ジョーオニー》が防いだ。
「運がいいな。だが、このターンは凌げても、貴様に次はない。ターンエンドだ」
栗須の言う通り、このターンは凌げたが、次のターンはどうしたって防ぎ切れないだろう。今の手札、バトルゾーンから鑑みれば、それは明白だった。
(あたしの場には《マッスグ》が二体。このターンで進化クリーチャーを引ければ、手札のヒューマノイドを出して即進化させれば、勝機はある)
だが、栗須は《エメラル》で手札とシールドを入れ替えている。入れ替えたカードは、S・トリガーと見るべきだろう。それも、亜実の攻撃を止められるような。
(くっ、間違ってあいつのデッキを使ったとはいえ、また負けるのか、あたしは……!)
悔しさが滲む。夏に負けてから約半年。亜実はその間、ほとんど成長していないことになる。
自分の半年という時間は無為だったのか。そんな風に考えてしまう。
この絶望的な状況に、亜実は思わず手を下す。その時だ。
「もう、終わりか……」
——なにを諦めている
「っ!? 誰だ?」
どこからか声が聞こえてくる。武人のような、低く静かな声。しかしその裏では、燃えるような熱を感じる。
——お前は、この程度の逆境で諦めるような戦士ではないはずだ
「誰だ……どこにいる!」
「……『炎上孤軍』?」
突然叫び始めた亜実を、栗須は訝しげに見るが、亜実はそれどころではなかった。
謎の声の正体がつかめない。だが、その声の主は、彼女から最も近いところにいた。
——早くカードを引け。そこで俺の力を、解き放つんだ
「カードを引く……?」
言われるがままに、亜実はデッキからカードを引いた。
刹那、そのカードから、クリーチャーの影が飛び出す。
「久しいな、アミ。俺が来たぞ」
そのクリーチャーは、気取った風に口を開く。
「! お前……マルス、か……?」
デフォルメされ、全身の重火器も小型化してしまっているが、間違いない。見間違えようもない。
それは、亜実のかつての力の象徴《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》だった。
「いかにも。さあアミ、俺の力を使え。さすれば道は切り開かれん」
言うだけ言って、マルスはまたカードの姿へと戻ってしまう。
「……《マルス》」
少しだけ手元にそのカードがある懐かしさを感じ、亜実はすぐさま思考を切り替える。
(さて……)
亜実は場と手札を確認する。栗須のシールドは二枚あり、ブロッカーはいない。代わりにシールドの一枚に、《エメラル》でカードを仕込んでいる。
「……いいだろう。《マルス》、お前の力、使わせてもらうぞ!」
亜実はマナゾーンのカードをタップする。そして呼び出されるのは、
「《地獄のケンカボーグ》と《鬼ウッカリ 爆丸》を召喚!」
二体のヒューマノイドだ。
「《爆丸》はマナゾーンのクリーチャーの数だけコストが軽減される。あたしのマナゾーンのクリーチャーは六体、だからコスト2で召喚だ」
亜実のマナは7マナ、このターン使ったのは4マナ。なので残るマナは3マナ。
たった3マナでは、《マルス》は召喚できない……普通なら。
「あたしの場には《マッスグ》が二体いる! 《鬼斗マッスグ》の能力発動! あたしの進化ヒューマノイドの召喚コストを2軽減する!」
二体いれば、合計軽減コストは4。つまり、7マナの進化ヒューマノイドを、3マナで出せてしまうのだ。
「さあ、出撃だ! 《地獄のケンカボーグ》《鬼斗マッスグ》《鬼ウッカリ 爆丸》を進化元に!」
三体の戦士が、それぞれ炎に包まれる。三つの炎は一つとなり、巨大な爆炎となった。
「硝煙より出でよ、焦土の神! 右手に剣を、左手に槍を! 大地を割り、天を衝け! 我が戦友ここに進軍す! 神々よ、調和せよ! 進化MV!」
次の瞬間、爆炎が吹き飛ぶ。同時に、三体の戦士の力を得た焦土の神が、爆誕する。
「——《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》!」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.409 )
- 日時: 2014/02/18 08:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「《焦土神話》だと……!?」
爆炎より顕現した神話の神に、栗須は目を見開く。
「貴様、受け取らないなどと言っておきながら《焦土神話》をデッキに入れていたのか! 僕を嵌めるとは……!」
「そんなものじゃない、ただの偶然か事故だ」
栗須の言葉をいなしながら、亜実は自ら召喚した神を見上げる。
「《マルス》……」
『心配するな、亜実。俺が来たからには、お前に最高の勝利を授ける。俺に任せておけ』
ふっ、とキザっぽく微笑む《マルス》。その挙動はともかく、この《マルス》という存在そのものは、非常に心強い。
「……まあいい。任せたぞ《マルス》」
『ああ、任された!』
亜実の命令と同時に、《マルス》は疾駆する。
「《マルス》で攻撃! 残りのシールドをすべてブレイクだ!」
疾駆する最中《マルス》は全身に備え付けられている火器の砲門をすべて開く。
『全砲門開放! 一斉掃射! 撃ち方、始め!』
《マルス》の号令に伴い、もはや彼の身体の一部となっている火器から砲煙と爆炎が噴き出す。
「ぐっ……!」
絶え間なく撃ち込まれる砲弾で、栗須のシールドがまとめて吹き飛ばされる。さらに、
「シールドが……!」
吹き飛ばされたシールドの破片は、集合せず、そのまま焼け落ちてしまう。
栗須が《エメラル》で仕込んでいたのは《DNA・スパーク》。亜実がいくらクリーチャーを展開しようとも、まとめて動きを封じるS・トリガー呪文。だがそれも、墓地へと送られてしまえば意味がない。
「《マルス》のCD11、お前のシールドは墓地送りだ」
さらに直後、栗須の場の《エメラル》《アクア・スペルブルー》そしてマナゾーンのカード二枚が炎上する。
「っ……!」
「続けてブレイク・ボーナスでパワー4000以下のクリーチャーと、マナを二枚ずつ破壊させてもらうぞ。まあ、特に意味はないがな」
栗須の場にブロッカーはいない。シールドもゼロ。もはや、彼を守るものは消え去った。
『さあ、お前の邪魔をするものはすべて焼き払った。お膳立ては整ったぞ』
「ああ、上出来だ! これで終わらせる!」
亜実は最後に残ったクリーチャーに手をかけ、横向きに倒す。
「《鬼斗マッスグ》で、ダイレクトアタック!」
最後の残った戦士は、得物を構え、突貫する。
栗須は炎を纏った剣の一閃を受ける。その一撃によりこの戦は、終戦を迎えたのだった——
「……まさか、この僕が負けるとはな」
栗須は目を細め、睨みつけるように亜実を見据える。
「それも、『神話カード』入りとはいえ、他人の借り物のようなデッキに敗れるとは……」
「気付いていたのか」
「当然だ、僕の推理力を甘く見るな……とはいえ、気付いたのは貴様が《焦土神話》を召喚してからだが」
栗須はそう言うと、亜実に背を向けた。
「今日のところは引き上げる。だが、僕の目的は『神話カード』だ。また次の機会に、貴様の『神話カード』も蒐集する」
「やれるものならな。あたしはいつでも相手になる」
「……ではな」
そして、栗須は足早に病室から去ってしまった。
それから少しの沈黙が流れる。亜実は少々危なっかしい足取りでベッドまで戻り、腰かけた。
「ふぅ……」
「お、おい亜実、大丈夫か?」
「問題ない。だが、少しばかりハードなリハビリテーションだったな」
強気を見せる亜実だが、しかし実際は心身ともにかなり疲弊している。やはり傷が完治しないままに戦うのはまずかったようだ。体が軋んでいる。無理をしすぎたようだ。
だが、そんな亜実を称賛するものも、存在していた。
「アミ」
「マルス……」
デフォルメ状態のマルスが、亜実の元へとやって来る。
「お前と共に戦うのは久し振りだったが、いい作戦指揮だった。流石だ。自身を省みず、無理をしてでも戦おうとするその勇ましい姿勢、俺は評価する」
「やめろよ、そういうの……あたしは別に、評価されたいがために戦っているんじゃない」
まっすぐなマルスの言葉を、まっすぐに受け止められない亜実。だが、その言葉が届いていないわけではなかった。
「……空城」
「え? なに?」
「気が変わった。このデッキ、貰っておくぞ」
亜実は夕陽に渡されたデッキを手に取った。
「どうやら、あたしにはこいつが必要らしい。今まで『神話カード』なしでも戦えると思っていた、実際それなりに戦えていた。だが、今日この日、またマルスと戦い、気付いた」
失って初めて気づくことがあるように、失ったものを取り戻して気付くことも、この世には存在する。
亜実はこの日、それを強く感じた。
「あたしの力は、こいつと共にある時が、最大限に発揮できる。あたしには、マルスが必要だ」
「俺も、アミがいると嬉しい。今まで数々の軍師と共に戦ったが、その中でもお前が一番だ。お前と共に戦わせてくれ。俺にはお前の作戦指揮が必要だ」
亜実の言葉の直後、マルスも同じように亜実を求める。
求め合う二人。どちらもが、どちらをも必要としている。
ならば、その二人が行き着く果ては、一つしかない。
「今日からお前はあたしの兵だ、マルス」
「了解。今日から俺はお前の兵だ、亜実」
亜実とマルスは、それぞれ拳をぶつけ合う。
その様子を傍らで見つめる夕陽は、《アポロン》のカードを取り出し、問いかけるように口を開く。
「……ま、良かったかな。アポロン?」
「ああ、あいつもいいパートナーを見つけられたみたいだ。よかったじゃねぇか、マルス!」
「アポロン! ふっ、お前も久しいな」
飛び出したアポロンとマルスも、腕を交差させる。プロセルピナやヴィーナスと出会った時とは違う感じだ。あちらは仲間という感覚が強かったが、こちらは友情のようなものが感じられる。
「それより、空城。お前に言いたいことがある」
「え……? なに?」
「このデッキについてだ」
亜実は夕陽の組んだデッキを持ち上げながら言う。
「これは本当にあたしに合わせたデッキか? ビートダウン性能とコントロール性能が中途半端だ。こんなもの使い難くて仕方ない。これなら速攻一本に絞った方がマシだ」
「えぇ? でも、亜実の使ってたデッキって、大体そんな感じじゃん……」
「まったく違う。あたしは攻撃クリーチャーと除去カードを適切な割合で分配しているが、これは適当に突っ込んだだけだろう。S・トリガーも少ない、除去カードも足りない。なにより手札が補充できない。こんなことでは、すぐに手札が枯渇する」
「で、でも赤黒だし、それはしょうがないんじゃ……」
「アウトレイジや墓地回収を使えばいいだろ。《マルス》を出すことが目的なら、もっとコントロール色を濃くしてもいい。一定量のヒューマノイドがいれば、あとは色を合わせるだけでいいんだ。お前は種族にとらわれすぎだ、ったく。手札補充なら《禍々しき取引 パルサー》や《新世界 シューマッハ》がいいな。墓地回収は、マナを伸ばすことも考えて《リバース・チャージャー》か……いや、サイキックも利用して《超次元リバイヴ・ホール》という手もあるな——」
途中から、夕陽に対する不満ではなく、自身のデッキについて思考に没頭し始める亜実。
なんにせよ。
この日、《太陽神話》の少年から、《焦土神話》の女へと、『十二神話』が譲渡されたのだった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.410 )
- 日時: 2014/02/18 18:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
カードショップ『御舟屋』。
澪が用事で店を開けている間、汐が店を任されることも多くなってきた。
だが、それで汐が困るかと言えばそうでもない。汐も学校では友達と言えなくもない人物はいるが、共に遊びに出かけるほど親しい者はいない。精々先輩の妹くらいなものだろうが、彼女の場合は友人というより後輩だ。
なので日曜日であっても特に不満なく、汐は小さな店内のカウンター席に着いていた。
(……そういえばもうすぐクリスマスですね。兄さんはこの手のイベントが嫌いですが、うちの店でもなにかそういった期間限定のサービスのようなものを……いや、どうせお客さんは少ないのですし、コストのわりにリターンが少なさそうなので、やらないのが得策ですか)
ふと思いついた案を速攻で叩き落とし、店内を見回す。当然のように客はいない。
(先輩はもう大丈夫だとこのみ先輩が言っていたですが、うちには来ないですか……まあ、仕方ないですね。人間、そうそう吹っ切れるものでもないわけですし)
かくゆう自分も、ひまりのことについてはまだ蟠りが残っている。それが原因で塞ぎ込んだりはしないが、思い出すたびに暗い気分になるのはどうしようもなかった。
またそのことを思い出しそうで、どうにかして気を紛らわせようとする汐は、一度自室へと向かった。そこで厳重なロックをかけて隠している二枚のカードのうち、デッキに組み込まれている方のカードと、そのデッキを手に取り、また店内へと戻る。
「先輩たちの言うことが真実であるのなら……このカードを腐らせるのも、もったいないですよね……」
その時だ。
カランカラン
と、来店を知らせる鈴が響く。
「……いらっしゃいです」
まさか客が来るとは思っていなかったので、少し慌ててそのデッキをポケットに突っ込む。人に見られてはまずいものだ。
だが、その意味はなかった。なぜなら、
「ん? お前は……春永たちの後輩? だったか?」
「御舟汐……」
店に入って来たのは、どちらも長身の男だった。それも、汐はどちらも面識がある。特に、自分の名を呼んだ方には。
「……潮原さん、でしたか。それに水瀬さん……いらっしゃい、です」
その二人とは、汐とは学校での関わりが薄いが、夕陽たちの一つ上の先輩。潮原零佑と、水瀬流。
「珍しいですね、お二方がうちの店に来るなんて」
「ああ、リュウに誘われたんだ。なんか、デッキを変えたいとかなんとか。俺もどうせ今日は暇だしな」
「ナガレだ。もうじき殿堂レギュレーションが変わり、新しく殿堂、プレミアム殿堂カードが追加される」
「あぁ……」
成程、と納得した。
つまりそのレギュレーションの変更に伴い、自分のデッキを調整しようというのだ。
「俺のデッキは《ガチンコ・ルーレット》にマナ加速を頼っている。だがそれも殿堂入りし、デッキに一枚しか入れられない。そうなると俺のデッキはほとんど回らなくなる。そうなれば“ゲーム”の世界でも生き残れない」
殿堂もプレミアム殿堂も、あくまで公式大会で制限化されているだけなので“ゲーム”世界に置いてそのレギュレーションを守る理由はないのだが、そこは“ゲーム”のルールなのか暗黙の了解なのか、誰しもがその制限を厳守している。
「だからデッキの方向性を変えようと思い、どのカードがいいか選びに来た。前に春永このみが、お前の店を教えてくれた」
「……そうですか。では、どうぞ。好きに見て回ってください」
汐の記憶では、新しく追加される殿堂カードには、コスト踏み倒しのものが多かったように感じる。だが汐のデッキには投入されないようなカードばかりだったので、あまりデッキを弄っていない。だが流のように、一枚のカードが殿堂入りになるだけで、大幅にデッキの戦力がガタ落ちすることもあるだろう。
「うおっ!? このカードがこの値段かよ、安いな……これ、大丈夫なのか? この値段で儲かってるのか?」
「私の兄の意向なので、私にはなんとも。ただ、毎月のように赤字になっているですが」
品揃えは良好なのだが、如何せん立地条件が悪すぎるせいで客が来ないことが悩みである。もう少し人通りのあるところに店を構えれば、もっと儲かっているはずなのだが。
「…………」
「どうだ、リュウ。なんかいいのあったか?」
「ナガレだ。まだ決まらない……」
流はデッキの方向性を変えると言っていた。つまり、デッキの中身を丸ごと変えるつもりでいる。
ならば今選んでいるのは、切り札となるカードだろう。自分の使いたい切り札を選んで、その切り札をサポートするようにデッキを組むのは、デッキの構築方法の一つだ。シンプルで分かりやすいが、それ故に最初の切り札選びが重要となる。
なので流が決めあぐねているのも頷けるだろう。
「…………」
そこでふと、汐は思った。ちょうど流がここにいるのだ。ならば、ここであれを出さない手はない。
汐はポケットから先ほど自室より持ってきたデッキを取り出す。
「水瀬さん、ちょっといいですか」
「……なんだ?」
汐に呼ばれカウンターまで来る流。汐が椅子に座っているということもあるが、こうして近くで向かい合うと物凄い身長差だ。夕陽は華奢なのであまり威圧的には感じないが、流はそれなりに体格もいいので、かなり威圧感がある。
「……これを、あなたに返すですよ」
「返す……?」
差し出されたのは、一つのデッキ。デッキを渡した覚えのない流は、軽くそのデッキの中身を見て、最後の一枚に目を細めた。
「これは……!」
それは、かつて自分の手から離れた力。彼を象徴するような、神話の神。
「《ネプトゥーヌス》……!」
《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》だった。
「これを、なぜ俺に……?」
以前、流は汐と戦い、敗北した。その代償として失ったのが、この《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》だ。
その敗北には、流も非難がましいことはない。あの時の戦いは自分の力が足りなかったから負けた。それは流も重々承知しており、このカードを失うことも納得している。
なのでここで汐に『神話カード』を返すと言われても、流は戸惑うだけだ。
「……このみ先輩から少しだけ聞いたのです。この『神話カード』が、神話空間の開いていない私たちの世界でも実体化すると」
「……なんだと?」
その言葉を聞き、流も驚いた風だった。汐もこの話を聞いた時には同じ反応を示したものだ。
「ですが、長くそのカードを使用していないと、実体化は難しいそうです。実体を持つようにするためには、何度もこのカードを使用し、実体化に慣れさせる必要があるとか……私にも詳しいことは分からないですが、一つだけ思うことがあるのです」
汐はまっすぐに流を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「そのカードは、私より、あなたが持っていた方がいい……と、私は思うのです。なので、お返しするですよ。デッキは利息のようなものです。取っておいてください」
「…………」
流は渡されたデッキを見つめ、次に汐を見つめた。
「……いいのか?」
「はいです」
流の言葉に、汐は即答した。
「……分かった。すまないな」
「いえ、礼には及ばないですよ」
かくして《海洋神話》を汐から譲渡された流は、もう一度デッキの中身を確認する。前に汐と戦った自分のデッキと酷似している。
「……いいデッキだ。流石だな」
「それほどでもないですよ」
「んー? どれどれ」
流の称賛に謙遜する汐。そして零佑も流のデッキを覗き込む。
「これが『神話カード』か、直接見るのはこれが初めてだな……ってか強いなこの能力。でも、進化元が重いなぁ……リヴァイアサンと水のクリーチャーを二体揃えなきゃいけないのか。しかも9マナって、重っ!」
素直な感想だった。汐も流も、このカードを見た時にはそう思ったものだ。
「重さはマナ加速やコスト踏み倒しで補う構成になっているから問題ない。進化元については……マナや手札を整理する過程で、それなりに数が並ぶはずだから、なんとかなるだろう」
はっきり言って、進化元の確保はないがしろになっている。
流が言うように、手札やマナを整理するシステムクリーチャーや相手の攻撃を止めるブロッカーがその進化元となるので、《海洋神話》を出す準備を整えながら並べていくしかない。
「はぁん……だったら、これ使えよ」
そう言って、零佑は一枚のカードを取り出し、流に手渡した。
「こいつなら、進化元の確保にも役立つんじゃねえか?」
「零佑……だが、これはお前のカードだろう。いいのか?」
「ああ。お前のためだからな、持ってけ」
流は、そのカードと零佑を交互に見遣る。そして、
「……悪いな」
「なに、いいってことよ」
ありがたく、そのカードを受け取った。
「では、少しそのデッキも調整した方がいいかもですね。私の感性で作ったデッキなので、水瀬さんが扱いやすいようにチューンしなおすべきかもしれないです」
「そうか……そうだな」
「俺も手伝うぜ。どんなデッキに仕上げる?」
こうして、《海洋神話》は流の手元へと戻った。
だがその力はまだ、神話の海の底に、眠っているのだ。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129