二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.60 )
- 日時: 2013/07/24 15:25
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
夕陽らに撃退された男三人衆は、先日の女のように一目散に逃げていった。行動パターンが単純だ。
「ふぅ……なんとか片はついたな」
「ですね。大した相手ではなかったようですが」
「うん、なんかもっとこう、別次元の強さ! みたいなのかと思ってたけど、そんなんでもなかったねー」
夕陽の感覚としては、先日の女とそう変わらない。一般人と戦っているような気分で、『炎上孤軍』の時のような気迫はなく、戦争と比喩される“ゲーム”にしては拍子抜けの相手だ。
「……それはそれとして、先輩方」
くるりと、汐が踵を返し、夕陽とこのみに面と向かう。表情はないが、妙に迫力のある佇まいだ。
「な、なに、どうした、御舟?」
「汐ちゃん、なんか怖いよ……」
「先輩方のデッキ、明らかに『神話カード』を主軸に据えたものでしたね。このみ先輩はまんまスノフェアリー、先輩に至っては『神話カード』そのものを使用していたようですが、私の忠告を忘れてしまったのですか」
少なくとも夕陽は、忘れてはいない。汐は出来る限り『神話カード』を使わず、穏便にことを済ませようという提案をしていた。そして夕陽とこのみのデッキは、その提案を真っ向から否定するものだ。
「い、いや、だってさ……そんな簡単にカードを渡すのって、なんか癪じゃないか?」
「そーだよ、せっかくこんなすごいカードがあるのにさ!」
「癪でもなんでも、身の安全の方が大事です」
ズバッと切り捨てる汐。彼女は一度溜息を吐き、
「今回のことで、ことの危険性は理解できたでしょう。毎度毎度こんなことに巻き込まれていては、身が持たないです。そのカードは私たちが持っているべきではないんですよ」
汐の言うことは一理ある。確かに『神話カード』を持っていればそれだけで危険だ。だからその危険を回避するために、『神話カード』を手放すという選択は間違ってはいないのだろう。だが、
「手放せないよなぁ、なんか」
「だよねー」
夕陽とこのみは、それぞれの持つカードからそれを感じていた。
翌日。
この日は普通に平日であり、つまりは学校にいるわけだ。そこで、思いもがけない事態に直面した。
「えー……そういうわけで、担任の白石先生がいないので、代わりに私がHRを進行することになりまして……」
雀宮高校には週に一度、一限分の時間を取って長いHRを行うのだが、その進行は基本的に担任教師が行う。しかし一年四組の担任が早退だか行方不明だかでいないため、代わりに副担任の影が薄い現代社会教師が進行することとなった。
それはいい。まったくもって構わない。それだけなら夕陽にとってはデメリットなどは存在しない。
「えっと……それで、今日の案件が文化祭についてなのですが……本当は先週までに決めなくてはいけなかったことなので、すみませんが、急いでお願いします……」
そういえば先週は自習だったと思い返す夕陽。そんな大事な案件があるというのに、随分といい加減な教師だ、と自分の担任を再評価する。
それも、まあいい。問題はこの先だ。
「それじゃあ、とりあえず委員の方……えぇっと、文化委員は——」
夕陽としては、今は文化祭のことなどどうでもいい。いや、どうでもいいとまでは言わないが、それよりも今現在の夕陽にとっては、文化祭よりも“ゲーム”のことの方が重要なのである。
昨日、一昨日と連続して襲われ、しかも昨日は三人組で現れた。偶然かもしれないが、一昨日と昨日の襲撃は繋がっており、今回襲ってきた者たちは一つの集団に属しているとも考えられる。
そんなことを頭の中で考えていると、
「——空城さんと、光ヶ丘さん、お願いします……」
「……え?」
(僕って文化委員だったのか、というかいつのまにそんな委員会に入ったんだっけ……しかも光ヶ丘と同じ委員だったのかよ。よく忘れてたな)
とはいえ、雀宮高校の生徒の大半はなにかしらの委員会に所属する義務があるので、夕陽がそのうちの一人でもなんらおかしなことはない。
なので夕陽の驚きの中心は、どちらかというと姫乃と同じ委員会だったということだ。
出身中学は同じで、一年間だけだがクラスメイト、今まで活動がなかったとはいえ同じ委員会に所属している人間のプロフィールをこうまで忘れているとは、我ながら大した記憶力だ、と自分で自分を皮肉る。
「……? 光ヶ丘?」
それはそれとして、重い足取りで教壇に向かう夕陽がふと姫乃の方に目を向ける。姫乃は今しがた席を立ったところのようだが、挙動の一つ一つがやたら遅い。
それだけではない。目はどこか虚ろで、呼気は荒く、顔もやや紅潮している。足取りは若干ふらついており、見るからに体調不良そうだ。
思えば昨日の姫乃も気分悪そうにしていた。一昨日のこともあり、疲れが抜け切っていないのかと思っていたが、それだけではないのかもしれない。
周りの生徒もそんな姫乃を見て、少し不審な目を向ける。
「大丈夫か? 体調悪いなら、僕一人でもやるけど」
「う、ううん……だいじょうぶ……」
流石に見かねてそう言うも、拒否される。しかし姫乃の言葉にはまったく覇気が感じられない。
「光ヶ丘さん……?」
副担任も光ヶ丘の異常さに気付いたのか、声をかける。その時だった。
姫乃が、前のめりに倒れ込む。
「っ! 光ヶ丘!」
すぐ近くにいたので、なんとか姫乃を抱きとめる夕陽。周囲は軽くパニック状態で、心配するような目線を送る者が大半だが、その大半の生徒はどうしたらいいのか分からず、おろおろしている。副担任も同じだ。
夕陽がここで取るべき行動は一つ。いや、夕陽でなくても、学校という場所においては、一つしかない。
「先生! 光ヶ丘を保健室に連れて行くので、後は任せます!」
「え……あ、は、はい……」
そんな生気のない声を背後に聞き、姫乃を抱え上げ、野次馬のように集まった生徒をどかして走り出す。
一昨日と変わらず、姫乃の身体はとても軽かった。
「先生! 先生って……誰もいない?」
保健室に着くや否や、声を荒げる夕陽。しかし部屋の中には誰もいなかった。
「学校の保険医ってこういう時に限っていないな……! どうしよう、とりあえず寝かせた方が良いかな……」
と呟きつつ、ベッドスペースを区切るためのカーテンを開けると、
「っ、すいません……!」
先客がいた。
しかし、思い返してもう一度カーテンを開けると、
「って、先生じゃないですか! なんでこんなとこで寝てるんですか!」
そこにいたのは一年四組の担任教師、白石だった。HRにも出ずになにを呑気に寝ているのかと憤慨する夕陽。
「んー……? あっれ、空城? なんでここにいるの?」
「それはこっちの台詞……いや、もういいか。先生、ちょっと今、緊急事態で……光ヶ丘が倒れたんです」
「マジ? それはやばいな、とりあえず寝かせなよ」
グッと背伸びして、白石は場所を空ける。そこに姫乃を寝かせた。
「そういえば昨日も具合悪そうにしていたなぁ、光ヶ丘は。で、保健室の先生は?」
「いないんです。どこに行ったか知りません……よね、そう聞いたってことは」
ともかく、緊急事態と言うからにはそれなりに危機的な状況ではある。
普通に体調不良で寝込む生徒なら、まあそれなりにいる。しかし倒れるほどとなると相当だ。夕陽の一朝一夕で習得したとも言えないような技術と知識だけでは対処できない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、
「うーん、熱中症というか、普通に風邪っぽいね、これ。っていうか光ヶ丘、かなり痩せてるな、女の子なのに全然脂肪がついてない……放っておけば栄養失調になりかねないよ」
「……分かるんですか?」
「うん。実は医療系の大学を出てるからね、先生」
得意げに胸を張る白石。普段の怠惰な素行がなければ尊敬できるのだが、今現在という限定的な状況においては、その知識は大いに助かる。
「光ヶ丘の家庭の事情はちょっとだけ知ってるから推測できるんだけど、疲労が溜まってたのかな。それで体調を崩して、免疫力も低下して、風邪を引いたと……分かりやすいね。ただこの痩せ具合は気になるな……とりあえず」
体を夕陽の方に向ける白石。
「光ヶ丘は早退させよう。ここにいるのが先生でよかったな、うちの学校の教師は軒並み頭が固いから、ちゃんと担任が出した届じゃないと早退が認められないんだよね。とりあえず先生が早退届を出しておくから、空城は光ヶ丘を送って……って、空城は光ヶ丘の家がどこか知ってるの?」
「あ、はい、一応……」
「そっか、それは良かった。光ヶ丘はあんまり友達とかいないみたいだし、生徒の住所を今から漁るのも時間かかるし、こういう時は早く休ませた方がいいしね」
一昨日、やや強引に家まで送ったことがこんな形で役に立つとは思わなかった。
白石はポケットから財布を取り出し、一万円札を押しつけるように夕陽に手渡す。同時に携帯も取り出し、耳に当てていた。
「え? なんですか、これ?」
「タクシー代。先生は自転車通勤だから送れないんだよ。でも女子校生を負ぶっていくのは流石に大変だし、下手したら通報されかねないからね。最近はナントカ教とか絡みで変な事件も起きてるし」
つまり、白石はタクシーを呼んでくれているらしい。適当な教師だと思っていたが、案外面倒見が良いのかもしれない。
「そんじゃ任せたよ、空城。いくら相手が動けないからって、くれぐれも先生の評価を落とすようなことはするな」
「しませんよ!」
——と思ったが、やはり白石は白石だった。
相変わらずな担任に、夕陽は溜息を吐く。
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.61 )
- 日時: 2013/07/24 18:37
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
それから夕陽は、教室に姫乃の鞄を取りに戻り、再び保健室に行って姫乃を運ぶ。
校門から出る頃には既にタクシーが来ており、それに乗り込んで光ヶ丘宅へと向かう。
そして辿り着いた、廃屋のようなボロアパート。
「相変わらずな老朽具合だな……うぉ!?」
傾いた階段を上っていると、足が滑り姫乃を落としかける。なんとか持ちこたえたが、かなり危なかった。
「本当にボロボロだな。えっと、光ヶ丘の部屋は……ここか」
以前送った時の記憶を頼りに、光ヶ丘というプレートの下げられた部屋を見つけ出す。部屋番号も書いてあるようだが、掠れ過ぎていて全く読めない。
「鍵かかってるし……って当然か、だから僕がここにいるわけだし」
だが鍵が開かない事にはどうしようもない。気は進まないが、姫乃の鞄を引っくり返して漁るという手を考えていたところ、背中で何かが動く感触がした。姫乃だ。
「……空城くん? どうして……?」
「どうしてもこうしてもないよ。覚えてる? 君、いきなり倒れたんだよ、教室で。だからいろいろあって僕がここまで送って来たんだ」
「……ごめん」
謝罪の言葉を口にする姫乃。その声は少し掠れていて、非常に弱々しかった。それだけ体が弱っているのだろう。
「別にいいよ。それよりさ、家の鍵ってどこにある?」
「いや……もう、ここまででいいよ。送ってくれてありがとう」
と言う姫乃。その言葉からは、どこか頑なな、家に入れたくないという気持ちがあるような気がした。
だがそれでも、夕陽も後には退けない。
「悪いんだけど、こんな病人みたいなのを一人で放置しとくわけにはいかないよ。白石先生にも頼まれたし、少なくとも家の中までは上がらせてもらう」
自分でも強引かと思った。先日のことがあったとはいえ、姫乃はたかだか一クラスメイトだ。
しかし夕陽は、直感的に姫乃から何かを感じていた。多少強引でも、姫乃のことを知る必要があると、漠然と思っていた。
それでも姫乃も、頑なだ。だが、
「でも……」
「でもじゃない」
「その、悪いし……」
「なにも悪くない」
「迷惑とかかけちゃうし……」
「一人でぶっ倒れる方が迷惑だ」
「うぅ……」
聞く耳持たない夕陽に、姫乃は顔を伏せる。しばらくして観念したように顔を上げた。
「……ちょっと待ってて」
今度は背中でごそごそと蠢くような感触。すると、やがて姫乃が手を出し、
「これ」
夕陽に鍵を手渡す。
それを受け取った夕陽は迷いなく鍵穴に鍵を突っ込んで回す。簡単に言ったが、ここまでの動作が錆びついた鍵穴のせいで意外と苦労した。そのうち出入りができなくなるのではないかと心配になる。
「んじゃ、おじゃまします、っと」
ギィ、と軋む音を立てながら開く扉を押し、部屋に入る。
案の定というか、やはりというか、光ヶ丘家の内装は非常に質素だった。
アパートの外装にしては広いが、それでも狭いワンルームの部屋だ。畳は日に焼けて傷んでおり、奥の押入れも然り。窓には網戸もなく、錆びついた柵が弱々しく屹立している。まともな家具と言えば安っぽいカラーボックスと冷蔵庫、傷だらけの卓袱台くらいなもの。階段を上っている途中で見つけたので分かっていたことだが、トイレは共用で風呂もないようだ。
「六畳……いや、もっとあるか?」
畳なら枚数を数えるだけですぐ分かるもの。しかし夕陽が疑問形になったのは、部屋をぐるりと囲むように置かれた異形の数々なものが原因だった。それらは、この最低限の生活を送るためだけにあるような部屋においては、異物とも言えるようなものである。
それが何かと問われても、夕陽には答えられない。本当にそれらが何なのか分からないのだ。強いて言うのであれば、偶像のようなものが多い。何を模しているのかも分からない、奇怪な像が多数並べられている。他には民族的だがどこか粗末な装飾品の数々。
どう見ても普通に生活をする上では何の役にも立たないと思われるもの。しかもそれが、貧しい暮らしの中にあるとなればよりいっそう奇妙だ。
「……布団は、押し入れの中?」
「え……? あ、うん……」
気になることがまた一つ出来たが、今はそちらにうつつを抜かしている場合ではない。
夕陽は姫乃を適当に座らせ、卓袱台をどかし、押し入れから布団を引っ張り出して敷く。そして姫乃を寝かせた。
それから、二人の間には長い沈黙が訪れる。
「……この家は、だれにも見せたくなかったんだけどな」
ぽつりと、姫乃が小さく沈黙を破った。
だがそれは、夕陽に伝えようと思ってのことではなく、ただの独り言のようで、夕陽に届いているとも思っていないようだ。
「…………」
それに対し夕陽は、言葉が出ない。言いたいことはあるのだが、それをどう言えば良いのかが分からない。
そうして夕陽が黙りこくっていると、姫乃が、今度は夕陽に向かって言葉を発した。
「もう、いいよ」
「え?」
「もう、帰ってもいいよ。ありがとう、ごめんね、送ってもらっちゃって。わたしはもうだいじょうぶだから」
どこか冷たい言葉だった。
その言葉は、早く帰れと捲し立てているようにも、早く帰ってくれと懇願しているようにも聞こえた。
どっちにせよ、夕陽は何を言うべきかは分からない。それでも無理やり言葉を紡ぎ出す。
「全然、大丈夫じゃないだろ……教室でいきなり倒れるような奴は、一人にしておいたら危険だ」
違う、言いたいことはそんなことではない。言うべきことではあるのかもしれないが、夕陽が言いたいのはもっと違うことだ。
夕陽は部屋を見回してから、意を決し、まだ頭がまとまらないながらも声を出す。
「……なあ、光ヶ丘」
「空城くんには、関係ないよ」
だが夕陽の言葉は、姫乃に先回りされて打ち消されてしまった。
「わたしの家のこと、だよね……わたしの家族とか、この部屋とか。気になるのも分かるよ、知りたいって気持ちも、分かる。でもそれは、空城くんには関係のないことだし、わたしの家の問題だから……放っておいて」
何も言えなかった。強固な壁がずらりと並べられているかように、夕陽の言葉は姫乃まで届かない。どころか、届けようとすることすら無意味にされてしまう。
「で、でもさ……」
「だから放っておいてよ。空城くんには、関係ないもん」
取りつく島もない。ふと見れば、いつもの幼く可憐でどこか朗らかな姫乃の表情は、暗鬱を感じさせるものとなっていた。
「……分かった。今日は帰るよ。明日は学校に来るなよ」
結局、夕陽はすごすごと退散することとなる。せめてもの抵抗として、姫乃にゆっくり休むよう伝えたが、何かに憤りを感じているらしい夕陽の言葉はきついものとなっていた。
夕陽は自分の鞄を——と思って自分の鞄はまだ学校にあると気付いてから立ち上がる。その時、何気なく部屋の隅に置かれている偶像に目をやると、それに気付いた。
(……? デュエマ……?)
偶像の裏に隠すようにして積まれているのはデュエル・マスターズカード。枚数は一デッキ分くらいで、これも部屋のものと同様に随分と傷がついているが、それは傷んでいるというより、年季を感じさせるものだった。
(《調和と繁栄の罠》……古いカードだ。光ヶ丘も、昔はデュエマやってたのかな……)
級友の意外な一面を発見しつつ、しかしすぐに沈んだような気分になる夕陽。
後ろにいる姫乃に別れを告げ、老朽化したアパートを後にした。
- christian louboutin sale ( No.62 )
- 日時: 2013/07/24 20:38
- 名前: christian louboutin sale (ID: RohPBV9Z)
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デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 - 小説カキコ
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.63 )
- 日時: 2013/07/25 16:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
夕陽が姫乃を家まで送り届けた翌日、姫乃は夕陽が言ったように学校を休んだ。他の生徒も、そのことについては異論を唱えず、皆納得していた。
淡々と味気なくその日の授業を終えた夕陽とこのみが向かったのは町内にある公園。まだある程度の遊具が残っている、このご時世では珍しい公園だ。この時間帯にしては珍しく、小学生の一人もおらず閑散としている。夕陽らにとっては都合がいいが。
夕陽は後に合流した汐と並んでベンチに座り、このみはその横のブランコで豪快に立ち漕ぎをしていた。制服なのだからもっと慎みを持て、と小言を言うのは中学時代に既に諦めている。
三人がこうして集まっている理由と言えば、“ゲーム”絡みのことだが、それに加え、姫乃のことも話題に上がっていた。
「……そうですか。私はその光ヶ丘さんという人とは会ったことがないのでなんとも言えないですが、やっぱり他人の家庭に首を突っ込むのはよくないことです。いえ、よくないというより、浅はかに突っ込むべきではない、ですか」
「なんだけどねぇ……なんか気になるというか、引っかかるんだよ。それがただの好奇心なのか、それともそういうタチなのかは分からないけど」
いつまでも残る蟠り。それが単に、光ヶ丘姫乃という一人の少女のことを少しだけ深く知り、少しだけただのクラスメイト以上の関係を持ったからなのかもしれないが、夕陽自身はそうではないと感じていた。
しかしだからといって、その蟠りの正体は分からない。
「先輩、先輩が光ヶ丘さんを気に病む気持ちも分からないでもないですが、今は解決できない問題より、解決しなければならない問題を優先すべきですよ」
煮え切らない夕陽に業を煮やしたのか、汐はそう斬り込む。だが確かにその通りだ。今は触れられない他人の事情より、自分たちに迫っている脅威について考えなければならない。
具体的には、今まで襲ってきた者たちについてだ。
「最近、どうやら私たちの『神話カード』を狙う人が襲ってきますが、この前戦った時、その人たちに違和感を感じたのです」
「ああ、それは僕も思った。はっきり言ってあいつら、“弱かったね“」
はっきりと言う夕陽。汐も首肯する。
「だよねー。あれならまだデュエルロードの人たちのほうが強いよ」
そこで、今までほぼ90°になるまでブランコを漕ぎ続けていたこのみが、相当加速しているブランコから飛び降りて話に加わってきた。流石に体操選手のように宙返りしながら、というアクロバティックなことはしないが、それでもかなり身軽だった。
そしてこのみの言うことも正論、というより同意できる。彼らも彼らでそこそこの実力はあるようだったが、それでもそこまでではない。本当に弱い。違和感を感じるほどに、弱かった。
「最初に僕らが戦った奴らはなんだったんだ、って言いたくなる弱さだよ……っていうか、あの連中はどこの誰なんだ? なんか、凄い一般人っぽかったけど」
一般人と大雑把に言ってしまえば、このみと戦った少女はともかく、『炎上孤軍』や青崎記は容姿だけなら一般人と言えた。しかしここ最近、夕陽たちに襲い掛かってくる者たちは、身なりだけでなく雰囲気までもが一般人のそれと酷似している。
その雰囲気というものは、周りの環境によって変わってくるのだと夕陽は思う。つまり、極端な話、周りが異常者だらけなら自分も異常者のように思われ、周りが普通の人ばかりなら普通に見える、というような感じだ。
それにしたがって考えれば、『炎上孤軍』なんかは【神格社界】なる組織に属しているがゆえに、それ相応の異常事態にも身を投じているのだろう。そして逆に、ここ数日で夕陽たちに襲い掛かってきた者たちは、彼女らが関わっているような異常事態にあまり触れていない、ということになる。
それはつまり、彼らは本当にただの一般人で、異常な組織などに加盟していないということではないのか。
夕陽に声が掛けられたのは、彼がそんな結論を導き出したすぐ後だった。
「そうだ、突き詰めて考えてしまえば、彼らはただの一般人に過ぎない」
「っ!」
思わず身構える夕陽と汐。このみはやはり、緊張感なく突っ立っている。
声の主は、まだ若く見える男だ。ややオールバック気味の髪にカジュアルスーツと、ほどよい軽さがあるもののどこか高貴な雰囲気がある。
「え、えと……誰、ですか……?」
身構えたまま尋ねる夕陽。男は夕陽たちとの距離を変えずに口を開く。
「私は金守深という。先日は、私の部下が世話になった」
「部下……? 誰のこと?」
声自体は穏やかだが、どこか傲慢さがある口調。男——深を警戒しながら、夕陽は問い返す。
「まあ、部下というよりは、同胞と言うべきなのかもしれないな。より正確に言うのなら、私が統括する組織の構成員、だがな」
「組織? ちょっと待って。それは、なんのこと……?」
繋がりそうで、繋がらなさそうで、もうほとんど繋がっている何か。しかし夕陽は、確認するかのように、その問いをぶつける。
「なんのこと? まさかここで誤魔化せるとは思わないだろう、ならば本当に分かっていないのか? なら、はっきりと言おう」
そして深は一拍置き、
「私は、お前たちの持つ『神話カード』を奪いに来た」
単純明快な答え。それは夕陽たちが危惧し、覚悟していた事象だ。
「『神話カード』……やっぱり、そっち関連か。ってことは、この前僕らを襲ってきた奴らは」
「そうだ。言っただろう、部下が世話になったと」
肩を竦める深。その後、彼は右手を前に出す。それは何かを求めるような手だった。
「さあ、渡してもらおうか。お前たちの持つ『神話カード』……《アポロン》と《マルス》、それから《プロセルピナ》に、《ヘルメス》だったか」
「こっちのことは全部知ってるのかよ……」
どこから情報が入っているのかは定かではないが、夕陽に至っては異名まで付けられてしまっているので、さしたる驚きはない。それより、
「渡せと言われて、むざむざ渡すか。お前たちの世界っていうのは、こういう時どうするんだ?」
「え、ちょっと、先輩……」
売り言葉に買い言葉、のような感じで放たれた夕陽の言葉を聞き、汐が声をかける。だが夕陽はあえて無視した。
わりと温厚な夕陽ではあるが、普段からデュエマという、勝ち負けだけの勝負事に手を出しているがゆえに意外と負けん気が強く、喧嘩っ早い。打算でものを考えられないというわけでもないが、汐ほど合理だけで動けるわけでもないのだ。
だからこそ、見の保全のために素直に《アポロン》を渡せないのだろう。
「……ふむ、まあ予想はしていた。そうだな、私たちなら欲しいものがあれば、それ相応の手段を取るな」
と言いながら、深はポケットの中に手を突っ込んだ。夕陽もデッキケースに手を向かわせながら、前へと進み出る。
この時、夕陽は完全に深だけを見ていた。それは物理的にも心理的にもだ。その時だけなら、夕陽は汐もこのみも視界に入っておらず、意識もしていなかった。そして、金守深を、“ゲーム”の一参加者としか見ていなかった。
だからだろう、夕陽は“それ”に反応することができなかった。
二つの影が、近くの植え込みから飛び出す。
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.64 )
- 日時: 2013/07/25 18:34
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
「わわっ、な、なにっ?」
「……っ」
飛び出した影は、一直線にこのみと汐に向かい、二人を拘束する。
「! このみ! 御舟!」
「動くな、『昇天太陽』」
踵を返そうとする夕陽を、深が制す。そして深は、このみと汐を拘束する二人の男に合図し、呼び寄せた。
「流石に高校生ともなれば、これがどういう状況か分かるだろう?」
「……人質。ベタベタだろ、漫画じゃないんだぞ……」
力なく悪態をつく夕陽。しかし、そんなものは何の意味もない。
「……要求は?」
「話が早いな。子供でも、そういう者には好感が持てる……さっきも言ったが、私が欲しているのはお前たちの『神話カード』だ」
夕陽は少しだけ躊躇うも、すぐにデッキから《アポロン》のカードを抜き取り、別に持っていた《マルス》も手にした。
二枚のカードを、せめてもの抵抗と言わんばかりに投げつけるが、深はそれらを難なくキャッチする。
「物分りが良い者にも好感が持てる。しかしこうも容易く『神話カード』が手に入るのであれば、最初から私が出向けば良かったな。最近は多忙だったとはいえ、信者に重要な案件を任せきりというのも良くない」
「信者……?」
恐らくは先日襲い掛かってきた者たちのことを指しているのだろうが、その表現は妙に思えた。
「ふむ……そう言えば、まだはっきりとは言っていなかったか。『神話カード』を五枚も持てば、我々も“ゲーム”における主要組織の一つとして数えられることだろう、この際だ、組織の名を大々的に堂々と公表するのも悪くない、か」
もったいぶるように言葉を並べ立てる深。彼は少し息を吸い、間を置いて、宣言する。自らの立場と、組織を。
「私は金守深——【慈愛光神教】の教祖だ」
言われて、夕陽は思い出した。
「【慈愛光神教】……あの胡散臭い、カルトっぽい新興宗教か」
「酷い言いようだな。まあいいさ。信じる者は救われるが、信じぬ者は救いを求めていないということ、反発するものが存在していても関係ない。それが外部の者ならな」
言葉の端々で抵抗を試みる夕陽だが、その言葉はすべて受け流されてしまう。まだこのみと汐は人質に取られている、その優位性が、彼の揺るがせない。
「さて、長々とお喋りをするのは非生産的だ、成すべきことを成して、そろそろ行くとしよう。お前たち」
深が合図すると男たちは、このみと汐のベルトを抜き取った。
「っ、なにを……」
「え、ちょっ……」
だがそのベルトは、彼女たちの衣服を繋ぎ止めるものではない。ある種の装飾具であり、彼女たちの武器とも言えるものを繋ぐものだ。
男はそのベルトに引っかかっているもの——即ち、彼女らのデッキケースを掴む。
「デッキが……」
「ちょっと、それあたしの!」
ほぼ反射的に腕を伸ばす二人。しかし彼女らと男二人では体格が違いすぎる。簡単に突き飛ばされてしまう。
「うぉっ、と。大丈夫か?」
なんとか二人を抱き留める夕陽。しかし、
「ふむ、《プロセルピナ》はスノーフェアリーか。そして《ヘルメス》は……サイバーロード? デッキはデーモン・コマンドが中心のようだが、まさか『神話カード』を使っていないのか?」
深は二人のデッキケースから『神話カード』とデッキを抜き取っており、その中身をしげしげと眺めていた。その様子を見ていたら、余計に腹が立つ。
「おい! お前!」
そして叫ぶが、深はどこ吹く風で、
「なにをそんなに激昂している。我々が行っているのは“ゲーム”だが、戦争だ。戦争で敗北した敵兵は捕虜となる、残った兵器は鹵獲される、弱者は全てを搾取される。抵抗できぬ者からなにを奪ったところで、咎めるルールは存在しない」
「く、うぅ、だからって、人をデッキを……非人道的だろ!」
「そういう非生産的なことを言う子供には好感が持てないな。お前になにを言われようと、私は私の成すべき事を曲げたりはしない。それとも、力ずくで私を止めてみるか?」
挑発するような深。だが、夕陽に彼を止める力はない。夕陽のデッキにあるカードは、《アポロン》が抜けたせいで一枚足りないのだ。だから、戦うことすらできない。
「……ではな。お前たちの力は、精々有効活用させてもらうとする。行くぞ」
そして、深は信者の男二人と共に立ち去った。
後に残ったのは、デッキを失った、三人のデュエリストだけだった。
「くっそ! なんなんだあいつ! マジで腹立つ!」
深の姿が完全に見えなくなって、夕陽は力の限り、怒りに任せて地面を踏みつける。
「どーどー。ゆーくん、ゆーくん、キャラが大変なことになってるよ?」
「ですが、先輩の言うことも、分からなくもないです。というより、全面的に同意です」
汐は首肯し続ける。
「『神話カード』を失ったところで、私個人としてはどうでもいいのですが、流石にデッキを奪われたとなれば話が別です。デッキを失うなんてデュエリストとしてあるまじき事態、許せないです」
「だよねー、さっすがのあたしもちょーっとカチンときちゃったよ」
いつも通り抑揚のない汐と、いつも通り能天気なこのみ。しかしどちらも、その裏には大きな怒りが見て取れた。
「本来ならもう面倒な事態に巻き込まれないで済むと考えていたのですが、こうなってしまえば話が別です」
「そう! 取り返すよ、あたしたちのデッキを!」
「……だよね。僕も、あいつのやり口は気に喰わない。ぶっ飛ばしてやる」
まだ気性が荒くなっている夕陽。しかしとりあえず、満場一致で今後の方針は決まった。
【慈愛光神教】教祖、金守深を倒し、奪われたデッキを取り返す。それだけだ。
「あいつはきっと、その宗教団体の総本山にいるはず。となると、直接そこを叩くべき?」
「いいねそれ! 乗り込んでカチコミだぁ!」
意気込む夕陽とこのみだが、そこに汐が水を差す。
「どうでしょう、相手はそれなりに大きな組織ですし、まだ中高生である私たちが二、三人で行ったところで、さっきの私やこのみ先輩のように、武力行使されてしまえばそれまでです。それに、肝心の拠点がどこにあるかも分からないんですよ。北の大地とか南の島とかにあったら、私たちだけではとても行けないです」
「そっか……そうだよな、確かに」
「そんなぁ、せっかくいい調子だったのに」
すっかり勢いが削がれてしまった夕陽とこのみ。
「……ですが、あの人が教祖ということは、あの人ひとりをなんとかできれば、それだけで宗教団体が瓦解するかもしれません。取り巻きの二人の様子を見るからに、教祖の命令には絶対、のような感じでしたし」
「うーん、でも肝心の教祖って、普通は信者に守られるんじゃないの? 今まで襲ってきた連中が宗教団体の信者だって言うなら、僕らの状況も分かってるだろうし。それに、もう僕らの面は割れちゃってるしさ」
威勢が良かったのは最初だけで、よくよく考えればかなり問題は山積みだ。どこから手をつければいいものかと、項垂れる三人。
「……とりあえず、情報を集めようか。どうするにしたって、奴らの拠点がどこにあるのか、突き止めないと」
ひとまずの結論は、そういうことになった。
そして三人は、そこで別れる。一刻も早く、少しでも多くの情報を集めなくてはならず、そして三人とも、新たにデッキを組み直さなくてはならないからだ。
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