二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.210 )
日時: 2013/11/10 12:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

Orfevreさん


 はい、ありがとうございます。
 第七章は完全に固まっていますので、多分登場は第八章になると思います。一応、第六章に登場できるかどうか考えているのですが、やっぱり元が一般人だと、ストーリーに組み込むのは難しいです。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.211 )
日時: 2013/11/10 13:04
名前: Orfevre ◆qg.Pdh2GVU (ID: VmHanJJs)

第八章…心待ちにしております

六章に出していただけるなら嬉しいですけど
無理しなくてよろしいですよ

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.212 )
日時: 2013/11/16 02:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「ここでいいかな」
 と言ってひまりが入ったのは、名もなき空き教室。いや、実際は名前があるはずなのだが、教室の入口にぶら下がっているプレートの文字が掠れて読めないため、なんの教室なのかわからない。少なくとも、名前が不明でも困らないくらい必要性の薄い教室なのだろう。
「……で、朝比奈先輩。その、話って——」
「その前に」
 鞄をがさごそと漁りながら、ひまりは夕陽の声を遮る。
「これは二組の、えーっと……潮原君と水瀬君、だったかな? に聞いたんだけど、空城君ってデュエマ強いらしいね」
「え? まあ、その、強いかどうかはともかく、よくやりますけど……」
 あまりに唐突に言われたので、また戸惑ってしまう夕陽。なぜそこでそのワードが出てくるのかと疑問を覚える。そもそもこの先輩の目的はなんなのだろうか。
 そう思っても相手が親しい相手でないとなかなか口に出せないのが、夕陽の短所だった。対するひまりは、最初からそれを想定していたかのように、はきはき続ける。
「実は私もやるんだ、デュエマ。でもあんまり相手とかいなくて……だからさ、ちょっとだけ、一回だけでいいから、相手してくれないかな? お願い」
 デッキケースを取り出し、両手を合わせて懇願するひまり。やはり困惑する夕陽だが、しかしそこまで要望されれば、突っぱねるわけにもいかない。
「……分かりました。じゃあ、一回だけ」
「本当? ありがとう!」
 嬉しそうに笑うひまり。その笑みも、普通の女子高生らしい。
 夕陽は片時も肌身離さずポケットに仕舞い込んでいるデッキケースを取り出す。そして適当に机を並べ、即席デュエマ・テーブルの完成。
「よし、それじゃあ始めようか」
「はい、お願いします」
 両者シールドを並べ、手札を五枚引き、準備を整える。
 そして、デュエルがスタートした。



 現在、先攻夕陽の7ターン目。
 お互いにシールドは五枚。夕陽の場には《コッコ・ルピア》が一体いるだけ。そしてひまりの場には、こちらも《コッコ・ルピア》が一体。
「見たところ、あの……朝比奈先輩? のデッキは、空城君と同じ感じっぽいね」
 マナゾーンを見るからに、ひまりのデッキは夕陽と同じような連ドラっぽい。デッキカラーも同じ、マナゾーンには重いドラゴンが置かれている。
「僕のターン。《ボルシャック・NEX》を召喚です」
 《コッコ・ルピア》から6マナのドラゴンに繋げるのは、火を含むドラゴンメインのデッキでは王道中の王道パターン。そして夕陽が最も好む6マナドラゴンは、この《ボルシャック・NEX》だ。
(《コッコ・ルピア》から繋げれば、一気にクリーチャーが三体になる。当然今は入れてないけど、《アポロン》の進化元を一気に揃えられるしね)
 勿論、用途は進化元だけではない。夕陽はデッキから追加の《ルピア》を呼び出し、サポート体制を整える。
「デッキから呼ぶのは二体目の《コッコ・ルピア》です。これで僕のドラゴン召喚コストは4下がる。ターンエンド」
「じゃあ、私のターン。私も《ボルシャック・NEX》を召喚」
 ここでひまりが呼び出したのは、夕陽と同じ《ボルシャック・NEX》だった。
 ひまりのデッキは夕陽とほぼ同じ。しかし先攻を夕陽に取られてしまっているので、同じ動きをしてもひまりが不利だ。しかし、
「私がデッキから呼び出すのは、このクリーチャーだよ。《マッハ・ルピア》!」


マッハ・ルピア 火文明 (4)
クリーチャー:ファイアー・バード 2000
自分の、名前に《NEX》とあるクリーチャーを召喚するコストを1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
バトルゾーンにある自分のアーマード・ドラゴンはすべて「スピードアタッカー」を得る。
自分のターンの終わりに、このターンにバトルゾーンに出した自分の進化ではないアーマード・ドラゴンをすべて手札に戻す。


 ひまりが呼び出したのは《コッコ・ルピア》ではなく、《マッハ・ルピア》だった。
「ゆーくんはいつも《コッコ・ルピア》を出してるけど、あの人は違うの?」
「みたいだね……」
 ここに来てやっと夕陽と違う動きを見せ始めたひまり。そして、違うのは動きだけでなく、スピードも変わっていく。
「じゃあ、《マッハ・ルピア》の効果でスピードアタッカーになった《ボルシャック・NEX》でWブレイクだよ」
「うっ、S・トリガーは……ありません」
「ならターンエンド。そして、《マッハ・ルピア》の効果で《NEX》を手札に戻すね」
 早速二枚のシールドを割られてしまった夕陽。先手は取られたが、しかし代わりに手札が増えた。
「これなら……悪いですけど、このターンに決めさせてもらいますよ。僕のターン、まずは《偽りの名 バルキリー・ラゴン》を召喚」
 二体の《コッコ・ルピア》でコストが4も軽減されているので、7マナのドラゴンは僅か3マナで召喚できてしまう。
「能力でデッキから《爆竜GENJI・XX》をサーチ。そして残った2マナで、そのまま《GENJI》を召喚!」
「わ……これって」
 コスト軽減から一気にドラゴンを展開する夕陽。しかも《GENJI》はスピードアタッカー。つまりこの時点で夕陽は、ダイレクトアタックまで行くほどの打点を揃えている。
「まずは《NEX》でシールドをWブレイク! 続けて《GENJI》でもWブレイク!」
「うぅ、S・トリガー、出ない……」
 手札に加わったシールドを見て、少し焦ったような素振りを見せるひまり。残るシールドは一枚だけとなり、敗北の未来が見えてきている。
「よし、なら《コッコ・ルピア》で最後のシールドをブレイクだ!」
 残ったシールドを突き破る《コッコ・ルピア》。これでひまりのシールドはゼロ、後はもう一体の《コッコ・ルピア》でとどめを刺すだけだ。
 1ターンで相手のシールドをすべて割り、とどめまで行く、いわゆるワンショットキルは、上手くはまれば夕陽のデッキでもよくあることだ。
 しかし上手くはまったからと言って、それが必ず勝利に繋がるとは限らない。
「っ、き、来たっ! S・トリガー発動! 《スーパー炎獄スクラッパー》!」
「な……っ」
「《コッコ・ルピア》二体を破壊だよ!」
 残ったアタッカーを潰され、とどめを刺せない夕陽。そしてひまりはデュエマにおける最大の逆転要素、S・トリガーによって九死に一生を得た。
「私のターン。このターンで決めるよ、《コッコ・ルピア》と《マッハ・ルピア》でコストを3下げた《ボルシャック・NEX》を召喚!」
 この時点でひまりは四打点、つまり夕陽の三枚のシールドを割り、とどめまで行けるが、
「念のためにもっとクリーチャーを並べておこうかな。《ボルシャック・NEX》の効果でデッキから《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに。そしてコストを4下げて、2マナで《爆竜GENJI・XX》を召喚!」
 夕陽と同じように、コスト軽減からドラゴンを並べるひまり。だが夕陽のシールドは三枚まで減らされている。S・トリガーの期待値は前のターンのひまりより低い。
「行くよ。《マッハ・ルピア》でシールドをブレイク!」
 まず《マッハ・ルピア》が特攻し、シールドを一枚割られる。S・トリガーは出ない。
「次に《NEX》でWブレイク!」
 これで夕陽のシールドもゼロ。しかし、ひまりがそうであったように、夕陽にもまた、奇跡の要素が味方する。
「っ、S・トリガー! 《スーパー炎獄スクラッパー》で、二体の《コッコ・ルピア》と《マッハ・ルピア》を破壊!」
 ひまりの場に残っている小型アタッカーを殲滅する夕陽。これでひまりのドラゴンはスピードアタッカー失い、攻撃可能な《コッコ・ルピア》を消えた。
 が、しかし、ひよりの場に残っているドラゴンは、元々スピードアタッカーを持つ《GENJI》だ。
 シールドゼロの夕陽には、最後の攻撃を防ぐ術がない。

「《GENJI・XX》で、ダイレクトアタック!」

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.213 )
日時: 2013/11/16 08:22
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽の負けで終わったひまりとのデュエルだが、しかし話はこれで終わったりしない。そもそもまだ始まってすらいない。
「……で、先輩。話ってなんですか? まさか僕とデュエマするためだけに呼び出した、なんてことはないですよね?」
「ん、うーん……本当はデュエマをして話しやすい空気を作ろうと思ったんだけど、逆に言いづらくなっちゃったな……」
 カードを片付けながら、弱ったように言うひまり。しかしやがて、決心したように、
「……じゃあ、単刀直入に言うね。私は“ゲーム”の参加者でした」
「はい……はい!?」
 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。しかし次の一瞬で理解する。見れば、姫乃と流石にこのみも驚愕していた。
「え、え、それって、どういう……」
「どうもこうもないよ、そのまんまの意味」
 ひまりが“ゲーム”参加者。ありえないという話ではないが、いきなり言われると驚く。その言葉を理解し、自身の中に落ち着けるまでは、それなりの時間を要した。
「って、ことは、僕の《アポロン》を狙って……?」
「うーん、ある意味ではそうなんだけど、そうでなくてもいいというか……言うのが後になっちゃったけど、私はどこかの組織に属しているわけじゃないし、君たちと敵対するつもりもないよ。ただ、そろそろ戻らなきゃいけないかな、って思ったの」
「戻る?」
 それこそ意味が分からなかったが、ひまりは続けて説明する。
「うん、さっき言ったけど、私は“ゲーム”の参加者“だった”の。過去形だね」
「ということは、今は参加していない……?」
「より正確に言うなら、今の今まで参加していなかった、今からまた舞い戻るつもりだけど。そこで、私はきっかけを求めに来たんだ」
「きっかけ?」
 夕陽が復唱すると、ひまりが頷き、
「そう、きっかけ。私が“ゲーム”に参加したきっかけ、一時的とはいえ“ゲーム”から降りたきっかけ、そしてまた復帰するためのきっかけ。それが君だよ、『昇天太陽サンセット』——空城夕陽君」
 異名も含め名指しで言われ、指差される夕陽。彼女の普通だが真剣な面持ちに、思わず気圧されそうになる。
「君の持っている《アポロン》が、私のきっかけなんだ」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり、というかまさか、この、《アポロン》のカードって——」
 いつか、黒村が言っていた。《アポロン》はまだ、真に夕陽のものではないと。権利自体はまだ、元の持ち主にあると。
 つまり、それが、

「——うん。私が、《アポロン》の所有者だよ」

 この事実も、夕陽にとっては衝撃だった。このみも姫乃も驚いているが、それ以上に驚愕しているのは夕陽だ。
 今まで幾度と危機を乗り越えてきた《アポロン》の、元の所有者、そして真の所有者が、ここにいる。
「一時は舞台から降りた私だけど、このままじゃいけない。正式な『神話カード』の所有者として、また“ゲーム”の舞台に上がらなきゃいけない、はず。だから空城君、お願い」
 それは強い懇願だった。彼女が言葉を発した一瞬、途方もないほどの強き意志のようなものが、夕陽の身体を突き抜ける。

「《アポロン》を、返して欲しいの」

 その時、教室は静寂に包まれる。驚愕の連続で、夕陽は声を上げることもできない。
 その沈黙をどう受け取ったのか、ひまりは続ける。
「勿論、君がそれを拒むのなら強制はしないよ。むしろ、今すぐにでも権利を委譲してもいい。でも、私だって良心とプライドはある。そのカードを手放したせいで、君を、君たちを“ゲーム”に巻き込んじゃった。それを許してもらえるとは思ってないけど、せめて償わせて欲しいの。私の自己満足でも、それが私の責任だから……」
 確かな意志が感じられる言葉。しかし最後の方は、弱々しい声だった。
 夕陽は考える。目の前の少女がなにを思っていたか。《アポロン》を手放したことや、“ゲーム”の世界で戦ってきたこと、自分たちとこうして相対していること。
 本音を言うと、夕陽は《アポロン》を手放したくない。『神話カード』としての価値などはどうでもいいが、《アポロン》は何度も窮地を乗り越えてきた仲だ、今や夕陽のデッキにとっては欠かせないカードと言ってもいいだろう。だから、渡したくはない。権利を委譲してくれるというのなら、喜んで受け取る。
 しかし、それは夕陽の考えであり、夕陽の思い入れ、夕陽の思い出だ。逆に、ひまりと《アポロン》について考える。
 ひまりがいつから“ゲーム”に関わっているのかは知らないが、ブランクがあることを差し引いても恐らく夕陽たちよりも長いだろう。ならばそれだけ、夕陽よりも長い間、《アポロン》と共にあったに違いない。
 《アポロン》と積み上げた記憶は、夕陽よりもひまりの方が長く、濃密なものであることは、想像に難くない。ひまりの《アポロン》に対する真摯で誠実な思いも、彼女の眼を見れば伝わってくる。
 だからなのか、夕陽はデッキケースに残した一枚のカードをスッと引き抜く。
「分かりました」
 そして、ゆっくりと、彼女に差し出す。

「——返します、《アポロン》を」

「——ありがとう」
 彼女は、それを優しく受け取る。

 こうして、《太陽神話 サンライズ・アポロン》は、正式な所有者へと還ったのだった。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.214 )
日時: 2013/11/20 21:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 それは、ひまりに《アポロン》を返還した翌日だった。このみが小テストの追試に引っ掛かり、姫乃が『popple』のバイトのため、一人で下校している時、十字路を曲がると反対側の歩道から急に声をかけられた。
「おい、空城」
「? お、亜実。久しぶり」
「馴れ馴れしく人を名前で呼ぶな」
 声の方へと目を向けると、そこにいたのは腕組みしてブロック塀に背中を預けている長身の女、『炎上孤軍アーミーズ』こと火野亜実だった。
「前々から思ってたんだけど、亜実っていつも女っ気ない恰好してるよな。経済的に厳しい光ヶ丘だってファッションには気遣ってるっていうのに」
「うるさい黙れ! お前にファッションセンスを指摘される覚えなんざねぇよ!」
 無地のTシャツに黒いジャケット、ジーンズという男物かと間違えそうになる服装を指摘したら、案の定亜実は物凄い剣幕で怒鳴る。予想通りというか、この反応を期待していた夕陽としては、恐ろしくもなんともない。むしろ楽しい。
「好きで選んでるんだ、外野がぐちぐち言うな。んなことより、お前に言うことがある」
「言うこと? なに?」
「【師団】が動き出した」
 単刀直入に言い放つ亜実。その言葉に、夕陽も気を引き締める。
 【神聖帝国師団】。『神話カード』の力を利用し、政界制服を企んでいるらしい組織だ。夕陽は直接的に【師団】と接触したことはないが、このみは既に二回、【師団】のデュエリストと戦っており、ラトリや黒村の見立てでは、文化祭の騒動は【師団】が絡んでいるらしい。
「正確には、近々【師団】のトップが日本に渡ってくるらしい、だな」
「え? 日本に渡るって、【師団】の本部って、海外にあるの?」
「当たり前だろ。お前たちが暴れるせいで、最近は日本でのいざこざが多くなっているが、元来“ゲーム”はグローバルな戦争だ。大抵の組織は、海外に根城を構えている。こんな東の辺境地に来る奴も、そう多くないしな」
「へぇ……にしても、【師団】のトップって、つまりはボスか? それが日本に来るって、やばいんじゃないのか? どうしてわざわざ」
 夕陽がそう言うと、亜実は呆れたようにため息をついた。
「馬鹿かお前、文化祭の一件とこの情報を繋いでみろ。和登の野郎じゃねぇが、少しは推理しろ。どう考えてもお前と《アポロン》、もしくは奪い返し損ねた『萌芽繚乱ブラッサム』の《プロセルピナ》が目的だろ」
「あ、そうか……でも、その情報は本当なのか? 来るんなら、もっと早く来てそうなものだけど」
「確かにタイミングは気になるが、情報は確かだ。あたしの知り合いの情報屋が言ってたことだからな。あいつの人間性は信用ならないが、情報自体は正確だ。ここであたしに嘘をつく理由もないしな。情報は、信用できる」
 情報は、という言葉を強調する亜実。その情報屋自体は信用できないと言っているようだが、そこはあえてスルー。真偽を確かめる術のない夕陽は、とりあえずその情報を信じることにした。
「……あ、でも僕はもう《アポロン》を持ってないから、狙われるのは僕自身じゃないのか」
「なんだと?」
 亜実の目が一気に鋭くなる。そして彼女の声には、確実に怒気が含まれていた。
「お前、まさか負けたのか? ここ最近、腕の立つデュエリストが動いたという情報はない。その辺の無名参加者に負けて、みすみす《アポロン》を手放したのか? あぁ?」
「い、いや違うって。そうじゃなくて、元の持ち主に返したんだよ」
 夕陽が焦って言い返すと、今度は驚いたように目を見開き、
「元の持ち主……? お前『太陽一閃サンシャイン』と接触したのか?」
「う、うん? 『太陽一閃サンシャイン』? それって、朝比奈先輩のこと?」
「そうだ」
 神妙な面持ちで頷く亜実。すると彼女は、今度はその『太陽一閃サンシャイン』について語り始める。
「お前と初めて接触したとき、あたしは《アポロン》のカードを狙っていた。だがそのために追っていた相手はお前ではなく、『太陽一閃サンシャイン』だ。奴が隙を見せるのを窺っていたが、その途中で奴はお前に《アポロン》を託したようだな」
「託したっていうが、郵便受けに入ってたんだけどな……」
 今思えば、『神話カード』が郵便受けに入っているなど相当な不自然だ。
「話を戻すが、つまりお前は『太陽一閃サンシャイン』に《アポロン》を返還したってことだな?」
「まあそういうことだな。あ、でもそのことについてとやかく言われるいわれはないからな」
「その点に関してはなにも言わねぇよ。ともかく、そろそろ【師団】が来るはずだ。いくらもう『神話カード』を持ってないと言っても、狙われる可能性が皆無ということはない。精々死なないように気をつけろ」
 ぶっきらぼうに言い放つ亜実。
「死って……大袈裟だなぁ。ま、でも、心配してくれてありがとうな」
「っ、そんなつもりはない。ただ、【師団】の連中が来たらあたしにも連絡しろと言ってんだ。【師団】は【神格社界ソサエティ】に次ぐ規模の組織、強さでいえば“ゲーム”でもトップクラスだ。そこにあたしが入らない理由はないからな」
 ぐちぐちとなにか言っているが、とりあえず夕陽はそれらを無視し、自分の都合のいいように解釈する。
 その後も亜実との押し問答が続き、やがて亜実から逃げるように去って行った。



 ひまりに《アポロン》を返還してから、夕陽たちとひまりの親交は深まっていった。
 元々気さくな性格なのか、まず馴れ馴れしいほどフレンドリーなこのみと意気投合し、続けて姫乃とも早くに打ち解けた。
 そしてこの日、日曜日。夕陽とこのみ、姫乃は、ひまりを連れて『御舟屋』を訪れていた。
「《ボルシャック・NEX》でWブレイク! そして《マッハ・ルピア》でダイレクトアタックだよ!」
「うー……また負けたぁー……」
 ひまりに連敗し、涙目のこのみ。その傍らで、夕陽は汐と話していた。
「と、いうわけだ」
「……成程、です」
 会話の内容は、ひまりのことだ。まだ夕陽たちにも分からないことは多いが、ひまりは“ゲーム”の参加者で、しばらく“ゲーム”離れていたが、夕陽の《アポロン》返還を契機に復帰した、ということははっきりしている。
 大まかなことは以前から話していたが、休日なので時間があるこの日、ひまりと汐の顔合わせも兼ねて、夕陽はちゃんと状況を説明しに来た、というわけだ。
「大体理解はできたです。けれど、少し気になるとこもあるですけど」
「気になるとこ?」
「はいです」
 いつものように表情を変えず、汐は語る。
「まず、なぜ朝比奈先輩は“ゲーム”を降りたのか。そして、なぜ今になって、また戻ってこようとしたのか。この二点が、特に気になるところですね」
「うーん……言われてみれば。でも、どうだろう、一つ目は、“ゲーム”が嫌になったとかで、二つ目は責任感とか、そんな感じの理由は付けられそうだけど」
「しかし、この二つを繋げると、そうもいかないのです。“ゲーム”に嫌気が差したのなら戻らなければいいですし、“ゲーム”なんて危険な世界に戻ろうとする責任感があるのなら、そもそも“ゲーム”から降りたりはしないはずです」
「そんなもんかなぁ……」
 意外と人間そんなものじゃないかと思うが、汐がそう言うのならそうなのかもしれない。
 などとひまり本人に聞こえないよう小声で話していると、当の本人が呼びかけてくる。
「ねぇ、えっと……汐ちゃん、だっけ?」
「はい、なんでしょう。朝比奈さん」
「ひまりでいいよ。このみちゃんから聞いたんだけど、汐ちゃんデュエマ強いんだってね。私とデュエルしない?」
「……いいですよ」
 しかし汐としても、謎こそあれどひまりに敵対心があるわけではないようだ。心なし弾む手つきでデッキを取り出し、シャッフルを始める。
 その時だ。
「よぅ主人公」
「うわっ!? 澪さん?」
 いつの間にか背後に、澪が立っていた。
「いつもいつも思うが、今日も女に囲まれてるな。しかも今日は新しい女連れか。俺は、お前は年下にしか興味のない奴だと思っていたが、ちゃんと年上趣味もあったんだな。なら次は同年代か、頑張れよ」
「変な言い方しないでください、人をロリコンみたいに言わないでください、人の嗜好を語らないでください、変なチャレンジを促さないでくさい!」
「随分一気に言ったな」
 肺の中の空気をすべて吐き出す勢いで言い放つが、澪は気圧されもしなければ眉すら動かさない。
「というか、このみと光ヶ丘は同学年ですよ」
「ちび助もちびっ子も、とてもお前と同年代には見えん。俺の妹ならともかくな」
 確かに、このみと姫乃は見た目通りの幼さがあるが、逆に汐は見た目と反する落ち着きがある。その点だけは同意できる。
「まあしかし、汐も見た目以上に大人びている、ってわけでもないが……まあこの話は今は止めておくか」
「そんなことより澪さん、なにしに来たんですか? 僕らがいる時は、カウンターは御舟に任せるんじゃなかったんですか?」
「ん? そうだ、忘れてた。おい汐」
 カウンターから汐を呼ぶ澪。汐は手にしたカードを横に倒してから、振り向く。
「《悪魔神ドルバロム》でダイレクトアタックです……なんですか、兄さん」
「うわぁ、本当に強い……まさか自然を絡めないで、チャージャー呪文連打から《ドルバロム》を出すとは思わなかった……」
 どうやらこのデュエルは汐が勝ったらしい。汐は手早くカードを片付けてデッキケースに収め、ケースをテーブルに置くと、澪の元へと来る。
「なんですか、兄さん」
「ちょうど今、お前が発注したのが届いたんだ。俺じゃ分からないから、お前が整理しといてくれ」
「了解です。すみません先輩方、少し席を外すですよ」
 と言い残して、汐は店の奥の扉から出て行ってしまった。
「……御舟って、商品の発注とかしてたんですか?」
「普通なら俺がするんだがな。最近は消費者のニーズの移り変わりも激しいし、この店に並べる商品の一割くらいはあいつに任せてる。あいつは一番消費者から近い位置にいるからな、ニーズとかもよく分かってる」
 要するに、店の売り上げを伸ばすため、現役でデュエマをやっていて今流行のカードに敏感な汐に商品発注の一部を任せている、ということらしかった。
「それにあいつ、この店継ぐつもりでいるみたいだしな。妙に俺の仕事を手伝いたがる」
「え? そうなんですか?」
「ああ。こんな店継いでもどうにもならないってのにな。ま、やりたければ止めはしないが」
「へぇ……あれ? 先輩、どこ行くんですか?」
 このみと姫乃がデュエルしている傍ら、店から出て行こうとするひまり。鞄は店内に置いてあるので、帰るというわけではなさそうだが。
「うん、ちょっとね。すぐ戻るよ」
 と言って、ひまりはそそくさと店から出て行ってしまった。
「? なんだろ……」
「……なんか、妙な奴だな」
「まあ、僕らもあの人に関しては、分からないことも多いですしね」


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