二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.416 )
- 日時: 2014/02/19 22:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
大光さん
モノクロは今、その神々と戦う準備期間(学年末考査一週間前)です。ちなみに高校入試の関係で、明日から月曜日まで休みです。休み明け直後に運命を分ける学年末試験なので、純粋に喜べませんが。
そんなモノクロ事情はさておくとして、ハスターはコンボ好きで、コンボを中心としたデッキを使用する、という設定です。作中ではデッキ内にコンボを組み込んでいるキャラこそいくらでもいましたが、コンボそのものを核に置いているキャラはほとんどいなかったので。
ラララオプティマスは、ちょうど光のエイリアンでコンボ向きのカードが核となっているコンボだったので、ハスターに使用させました。しかし使ってみて改めて感じましたが、このコンボはえげつないですね。まったく相手のターンが回らないまま長時間経過するって、実際のデュエルだとかなり鬱陶しいように思われます。
《サイバー・N・ワールド》は便利ですけど、どちらも同じ枚数引くので手札にアドバンテージが付きにくいですからね。相手の手札が多いときに使うのが効果的と言えば効果的です。
あ、ちなみに【師団】の四天王が本気だとか自称しているデッキはすべてエイリアンがメインです。元ネタの邪神が既にエイリアンみたいなものですからね。それぞれにメインカラーもあり、ハスターは光です。
ハスターのコンボは某「わあい、コンボー!」よりもロマンを重視しています。ロマンというか、下克上や弱者救済に近い気もしますが。
実用性よりロマン、使いにくいクリーチャーを使ってコンボを成功させることこそが彼のコンボを決める喜びです。なのであえて使いにくいクリーチャーを使っている節がありますね、ハスターは。ループしてエクストラウィンなどを狙わず、《魅惑のダンシング・エイリアン》で攻撃してシールドを一掃、そのままダイレクトアタック、という流れを決めようとしているのもそのためです。
そういえばあった気がしますね……正直、思い出せませんが。
コスト踏み倒し系のデッキに《オロチ》ですか……悪くはないと思いますけど、言うほど必要でもない気もします。
あの手のデッキは、デッキの中身がほぼすべて大型クリーチャーなので、《ミステリー・キューブ》のように踏み倒して直接出すのならともかく、《オロチ》のような小型を転生させて大型を出すタイプだと、そもそも転生させる小型クリーチャーを用意しづらいんですよね。かといって小型を入れれば今度は《ミステリー・キューブ》などで外れる場合も出て来てしまいますし。
恐らく、想像通りのクリーチャーが出ると思います。それは次回の……って言っても、コメントと投稿にずれが生じたせいで、もう上がってますけど。
分かりました。では、その時を楽しみにしておきます。
ついでに、希野を出す場合は最速で十一章になると思います。まだ確定ではないのですが。
……またしてもフィーバーして、文字数が1200超えになってしまった……
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.417 )
- 日時: 2014/02/19 23:34
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
カフェ『popple』店内で、二人の少女が向かい合っていた。
二人ともエプロンドレスのような制服に身を包んでいることから、この店の店員であることが窺い知れる。だがそれなら、接客はしなくていいのかと思うが、店内に客と思しき人影はない。というより、店内にいるのはその少女たち二人だけであった。
その二人の少女とは、言わずもがな。春永このみと、光ヶ丘姫乃である。
「こーゆーことがあるたんびに思うけどさー、姫ちゃんってけっこーおっちょこちょいだよね」
「あぅ……」
「今日は休みだって言ったのに、制服にまで着替えちゃってさ」
「うぅ……」
このみに指摘され、赤面する姫乃。
そう、彼女が言うように、今日は『popple』の定休日。だから客がいないし、従業員である二人はこうして談笑していられるのだ。
とはいえ、姫乃はその休日だという日に店に来てしまったわけだが。
「でも、このみちゃんだって制服着てるよ……」
「あたしは趣味で着てるだけだから。おねーちゃんに留守番頼まれたし、やっぱお店にいる時はこの格好が落ち着くよねー」
ギィ、と椅子の背もたれに体重をかけるこのみ。その様を見ながら、姫乃はテーブルに置かれた紅茶に口をつける。
「これで何回目だっけ、姫ちゃんが定休日とシフトを間違えてうちに来たのって? 六月から数えて、いち、に、さん……」
「か、数えなくていいよっ。やめてよそういうの、恥ずかしいから……そんなことより別の話しようよ」
「あははっ、ごめんごめん」
顔を赤くしながら講義する姫乃。基本的に仲睦まじく談笑している二人だが、たまにこういうこともある。姫乃は純粋で純朴なので、からかいやすいのだ。
「別の話かー、そうだなー……あ」
思い出したように、このみは口を開く。
「前から聞きたかったんだけど、姫ちゃんってゆーくんのことどう思ってるの?」
「ふぇっ!?」
あまりに唐突だったためか、それとも質問の内容からか、はたまたその両方か。姫乃は驚きのあまり、幼げな吃驚の声を漏らすと共に、手元のティーカップを取り落しそうになる。
「……姫ちゃんってさ、けっこーナチュラルにそういう声出すよね」
このみが珍しく、じっとりとした目つきで姫乃を見つめる。だが、当の姫乃はそれどころではないようで、
「え? ど、どういうこと? なにが、なにで、どうで、どうなの? 空城くんが、なに? え、え?」
かなりパニックに陥っていた。漫画なら、目が渦巻きになっていてもおかしくないような状態だ。
「姫ちゃーん、落ち着いて。どーどー、あたしから振っといてなんだけどさ。ほら、お茶飲んで。クッキー食べる?」
このみは姫乃に自分の紅茶を飲ませ、受け皿からクッキーを一つつまんで咥えさせる。パリパリとクッキーを咀嚼した姫乃は、とりあえずパニック状態が解除されたようだった。
「で、えっと、その、このみちゃん、今、なんて……?」
「だから、姫ちゃんは、ゆーくんのことどう思ってるのかなーって。で、どうなの? 好きなの?」
ストレートな問いだった。ストレートすぎて、言葉の上では軽いのに、妙な重みを感じてしまう。
「そ、それは……」
「それは?」
「それはー?」
「ですの?」
「あ、プロセルピナとヴィーナス、戻って来たんだ」
客がいないことをいいことに、店内を駆けまわっていたプロセルピナとヴィーナスが、なにを嗅ぎつけてか戻ってくる。
「ひめのん、ゆーひーが好きなの? なの?」
「ですの。わたくしはそうだと思っていたんですの、姫乃様」
「は、話を広げないでよっ」
「でもゆーくんのこと気になってるんじゃないの? あたしは姫ちゃんの仕草とか見てて、そうかなーと思ってたんだけど?」
「いや、それは……」
このみの言葉を受けて、言葉に詰まる姫乃。顔を真っ赤に染め上げ、俯いてしまう。
「ひめのん、ひめのん、どしたの?」
「姫乃様、お気を確かに、ですの」
プロセルピナのヴィーナスが姫乃の頭上を旋回する。それにも意を介さず、俯いたままの姫乃だったが、やがてか細く声を出す。
「……よく分かんない」
姫乃の言葉から出た答えは、それだった。
「確かに、空城くんには感謝してるし、空城くんがいたから今のわたしがいるんだと思う。勿論、このみちゃんや御舟さんのお陰でもあるけど……きっかけをくれたのは、空城くん。だから、嫌いなわけはないよ」
でも、と姫乃は視線だけをこのみに向ける。
「男の子として好きなのかって聞かれると、よく分かんない……もしかしたら、今のわたしの思いも、勘違いかもしれないし——」
「勘違いでもいいんですの」
姫乃の言葉を半ば遮って、ヴィーナスは姫乃に語りかける。
「勘違いから生まれる恋もあるんですの。勘違いがいけないなんてことはないんですの。姫乃様は、もっと弾けてもいいと思うんですの」
「そ、そうかな……」
「そうだねー、姫ちゃんはもっとアクティブになった方がいいかもね。ゆーくんはああ見えてけっこーにぶちんだし、仕草とかだけじゃあ、たぶん気付いてくれないよ?」
頬杖を着くようにして、このみは姫乃に顔を近づける。
「もっとこっちからアピールしてみないと。とりあえず、ゆーくんの注目でも引いてみる?」
「引いてみる、って、そんな軽々しく……でも、アピールなんてどうするの?」
姫乃がそう問い返すと、このみは少し考え込み、
「んー、そうだねー……髪型を変えるとか? 女の子は髪型一つ変えるだけで印象がガラッと変わるし、ゆーくんでも意識はすると思うよ」
「髪型かぁ……そういえば、あんまり考えたことってないなぁ。体育の時とかも、邪魔にならないようまとめてるだけだし」
中学までの姫乃はあまり容姿に気を遣っていられる時期でもなかった。今でこそ生活にそれなりの余裕が生まれたが、それでもまだ裕福とは言い難い。さらに“ゲーム”の世界に身を投じているということもあり、髪型を意識したことはあまりない。
「ゆーくんはねー、ポニーテールが好きだよ」
「え? そうなの?」
「うん、そだよ。ゆーくんはデュエマにしか興味ないように見えるけど、あれでも一応男の子だからね」
友人の知らない嗜好を知ってしまった。少し嬉しく思うが、同時に少し申し訳なくも思う。
「よくそんなこと知ってるね、このみちゃん……空城くん、自分からじゃそういうこと絶対に言わなさそうなのに」
「見てれば大体分かるよ? それに、あたしとゆーくんの仲だしね」
ふふん、となぜか偉そうに胸を張っているこのみ。
「そっかぁ、ポニーテールかぁ……」
「姫ちゃん、体育の時とか、デュエマする時とかもたまに括ってるよね。明日から毎日そうしたら?」
「う、うん……考えてみる」
真面目な顔でまだ少し赤面しつつ、紅茶を啜る姫乃。
まさか定休日を間違えて出勤してしまっただけなのに、ここまで大事になるとは思わなかった。いや、単なる恋バナ染みた会話だが、姫乃にとってはかなりの大事だ。
しかしまだこの話が終わるとは思えない。次はどんな方向から探られるのかと、姫乃が身構えた、その時だ。
カランカラン
来店を告げる鈴の音が、鳴り響いた。
「ありゃ? 定休日のプレートかけ忘れてたっけ……」
「また!? このみちゃん、よくかけ忘れるよね……」
そのため、定休日だと知らずに来店する客が絶えないのだが、今回ばかりはそういうことではなかった。
「……お邪魔します」
その客は、客らしからぬ客であった。いや、客と言えなくもないが、それはカフェに来た客と言うよりは、他人の家を訪ねて来た客、という風であった。
さらに言えば、二人はその人物を、知っていた。
「あおいん……?」
「向田さん……?」
十二月も半ばというこの時期には少々寒そうな白いワンピース、その上からケープとコートを重ねて羽織っている少女。華奢な体躯に、このみほどではないが姫乃よりも低い背丈。全体的に小柄な印象を与える矮躯。
その人物は確認するまでもなく、彼女たちのクラスメイト、向田葵であった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.418 )
- 日時: 2014/02/20 01:33
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
葵が入店した直後、このみと姫乃はハッと気が付いた。そして、その気付いた対象へと目を向けるが、時既に遅し。
「このみー? どうしたの?」
「姫乃様? どうかなされたんですの?」
彼女たちの視線の先にいるのは、疑問符を浮かべながら自身もふわふわと浮いている、プロセルピナとヴィーナス。
このみと姫乃からすれば、葵はただのクラスメイト。自分たちとは何の関係もない一般人だ。その一般人に『神話カード』を、それも実体化した姿で、さらに喋っている様子まで見られてしまった。
「あっちゃー……どうしよ、姫ちゃん」
「わたしに言われても……と、とりあえず、ヴィーナスもプロセルピナも、一旦カードに戻って——」
「プロセルピナ?」
葵は驚いたような表情をしていたが、その驚きもそこまで大きくないように見える。そして、姫乃の言葉に、もっと言えばプロセルピナと言う名に、反応した。
「今、プロセルピナって、言いましたか……? それは、《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》ですか?」
「そうだけど……」
このみはカードに戻った《プロセルピナ》を見せる。葵の反応は驚き。だが未知の存在に対してではない。むしろ、既知の、そしてなにかを懐かしむような驚きだった。
「なぜ、そのカードがここに……」
「え? いや、なぜって、あたしのカードだから……?」
「っ……!」
いまだに状況が飲み込めていないこのみ。姫乃も同じだ、この状況が理解できない。
葵はというと、このみの発言に、衝撃を受けたような表情を見せている。どこか絶望的で、後悔するような。その直後、彼女は決意したように、このみへと鋭い視線を向ける。
そして、
「……そのカード、返してください」
某所に存在する【ミス・ラボラトリ】の研究所、日本支部。
【ラボ】は【師団】のように、全世界に拠点を構えているが、その中でも日本に構える研究所は一際規模が大きい。さらに小さな研究所が多く点在するのも日本だ。
そんな研究所の一角、その休憩室で、二人の男が向かい合っていた。どちらも若い男だ。そしてどちらも【ラボ】の研究員。
黒村形人と九頭龍希道だった。
黒村は、休日なので久し振りに本部へと顔を出し、部署移動になったらしい研究員と顔を合わせてから軽く業務をこなしてから休憩室で軽く休もうと思ったのだが、その直後に目の前にいるこの九頭龍希道という男と遭遇してしまったのだ。
十一月の下旬、黒村と九頭龍は争ったことがある。理由自体は大したこともない、結果を辿れば私闘で黒村が勝利した、程度のことでしかないが、この二人の人間関係はいろいろとややこしいことになった。そう思っているのは、恐らく黒村だけだが。いや、黒村もそこまでややこしいとは思っていないが。
ともかく、端的に言って黒村は九頭龍が苦手である。嫌い、とはっきり言ってもいいだろう。できれば顔も合わせたくない。
だが九頭龍の方ではそうでもないようで、妙に気さくに接してくる。正直、不愉快だった。
「——で、そいつらは僕が適当に処理しておいたんですけど、まだ残党が残ってたみたいで、どうやってこっちも処理すればいいのかなーと黒村さんの意見を聞きたいと思うのですがどう思いますか?」
「……九頭龍」
黙れ、と口を開きかけたが、ふと止まった。
彼の語りは、いやさ九頭龍希道という存在は不愉快なものだが、しかし彼に一任していた案件があったのを思い出す。ついこの不愉快さで忘れていたが。
「お前に聞きたいことがある」
「おおぅ、まさか質問を無視して質問してくるとは。まあいいですけどね、どうでもいいことですし。で、なんですか?」
「向田葵についてだ。あいつは何者だ?」
黒村は、単刀直入に問う。
向田葵、教師としての黒村が受け持っているクラスの生徒。本来ならそれだけの存在でしかないが、先日の【師団】との戦争に偶然巻き込まれ、“ゲーム”との関わりを持ってしまった少女。
その時、黒村はラトリから託された《守護神話》の制御でそれどころではなかったので、葵については遺憾ながらも九頭龍に任せていたのだ。
「あー、そのことですか……一応、所長には報告しましたが、黒村さんにも言っといたほうがいいんですかねぇ」
「御託はいい、言え」
命令形だった。
その命令に従ったのではないだろうが、九頭龍は簡単に口を割った。
「分かりましたよ。でも、どこから話しましょうか……まず、あの子、向田葵さん? が“ゲーム”の戦いに巻き込まれた件ですけど、たぶんあれ、偶然とかじゃないです」
「……どういうことだ?」
黒村が問い返すと、九頭龍は少し困ったように頭を掻く。
「いや、実際のところ偶然だったんでしょうけど、運命的には必然と言えるって言うんですかね……ちょっと説明が難しいんで、因果関係をつけながら説明しますけど、彼女は“ゲーム”に関わりがあったわけではないみたいです」
「だろうな。雀宮の生徒で“ゲーム”に関わりがある人物がいるのだとすれば、とっくにリストアップされているはずだ。なにか裏工作でもされない限りな」
「ですよね。でも、彼女は“ゲーム”に関係はなくても、『神話カード』とは関係があったようなんです」
「……どういうことだ?」
同じ聞き方で問い返す黒村。向田葵という人物に対して、ますます疑問が募っていくのを感じる。
「僕も詳細まで聞きだせなかったんですけど、どうやら彼女、『神話カード』を所有していた時期があったみたいです」
「本当か? 『神話カード』の所有者の変移は厳格にチェックされるが、そんな記録はどこにもないぞ」
「そうなんですけど、でもそれが細かく記録されるようになったのは、“ゲーム”が本格化しだす頃……十年、十二年? そのくらい前の話ですよね」
“ゲーム”の起こりを知る者は、実はいない。いつの間にか発生し、いつの間にか参加者たちが争っていたのが“ゲーム”だ。【ラボ】はそんな“ゲーム”の起源についても調べている。
そんな“ゲーム”だが、つい最近まではかなり多くの少数組織が散り散りとなって戦っており、『神話カード』の移動も激しかった。大きな軍隊を持たず、雑兵戦が各地で繰り広げられているような状態だったのだ。
だが約十年ほど前になって、巨大な組織が三つ生まれた。その一つが【ラボ】であり、【師団】であり、【神格社界】である。ラトリが重鎮よ呼ばれる一人であったり、ジークフリートが歴代“ゲーム”最強と謳われるのも、その辺が理由だ。
今のゲームの根幹は彼らが作ったと言っても過言ではない。もはや“ゲーム”の支配権はその三つの組織に分配されているようなものだ。
そういったことから、約十年前から“ゲーム”は本格化された、というのが参加者たちの一般認識なのだ。
「でも逆に言えば、それより以前のことは、結構曖昧なんですよね」
「そうだな。“ゲーム”が本格化しだす以前の所有者がはっきりしているのは、《支配神話》《生誕神話》《太陽神話》くらいなものだ。あの所長ですら《守護神話》は偶然手に入れたものだと言っている」
「その言葉がどこまで真実かは疑問ですけどね。まあつまり、十年以上前ののことは、十年以上前の『神話カード』の所在は、僕らでも把握できていないってことです」
だから、向田葵が『神話カード』を所有していたことがあっても、不思議ではない。それはただ、自分たちの未知の時期だった、というだけだ。
「彼女だけじゃなくて、彼女の幼馴染だったか親友だったかも深く関わってるみたいなんですけど、そこまでは教えてくれませんでした。やっぱり僕って、女の子に警戒されるんですかね?」
「正直、胡散臭い男には見える。まあしかし、向田についてはまだ保留だ。聞き出す必要がある時に聞きだせばいい。それより今は、《太陽神話》と【師団】についてだ。とりあえず実戦部隊の何人かが【神格社界】と協力して【師団】の小隊を食い止めているようだが」
「それと、《月影神話》と《豊穣神話》の所在も探らないとですね。【師団】の手から離れた二枚ですけど、どこに行っちゃったんですかね」
最近【師団】が失った二枚の『神話カード』。その在処についても、【ラボ】は把握しようとしている。
「それについては、お前の妹とやらが調べている」
「ああ、そういえば最近黒村さんのところに配属されたって言ってたっけ。どうです、僕の妹は?」
「お前の数億倍まともだ。血縁関係にあるのが信じられないほどだ。同情するな、お前の妹には」
「……流石にちょっと言い過ぎな気もしますけど、まあいいです。じゃあ僕はそろそろ休憩終わりにしますので」
九頭龍は立ち上がり、休憩室の扉に手をかける。
「……九頭龍」
彼が出て行く前に、黒村が呼びとめた。
「最後に聞いておきたいことがある」
「なんですか?」
「向田が所有していたという『神話カード』はなんだ?」
ほとんど興味で聞いた。こんなことを聞いても、今更意味はないと思っていた。そもそも九頭龍がそこまで聞き出しているかも分からない。
だが、九頭龍は答えた。素っ気なく、淡々と、事務的に、その神話を口にする。
「《萌芽神話》です」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.419 )
- 日時: 2014/02/20 13:46
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
聞くところによると。
葵は以前【師団】が戦争を仕掛けて来た時に、クリーチャーに襲われ、【師団】の隊長クラスの人物とも交戦していたらしい。
その時、“ゲーム”の概要と共に九頭龍希道から雀宮高校で特に深く“ゲーム”に関わっている五人、空城夕陽、春永このみ、光ヶ丘姫乃、御舟汐、水瀬流の存在を教えられた。
そして葵は、“ゲーム”についてより知ろうと、自分からその五人を訪ねようとしたらしい。
その最初の一人、もとい二人が、このみと姫乃だ。
なので葵は、定休日だと知って、むしろ定休日だからこそ『popple』を訪ねたらしい。
だが今は、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもいいとまでは言わずとも、優先すべきことが他にある。
「《プロセルピナ》を返してほしいって、どういうこと……?」
このみが問うと、葵は力強く言葉を返す。
「それは私と、私の親友の大事なカードです。一度はこの手を離れましたが……それでも、大切なものであることは変わりません。返してください」
いつも教室で見る彼女とはまるで違う迫力だ。それほど、彼女にとってこのカードが大事ということなのだろうか。
「返してって言われてもなぁ……プロセルピナ、どうする?」
「ルピナはいやだ!」
カードから飛び出したプロセルピナは、首を激しく振る。
「ルピナはこのみーと一緒がいい! アポロンもヴィーナスも、ゆーひーもひめのんも一緒! おかしとお茶もおいしいもん!」
「最後の理由はいらないよね……」
姫乃が突っ込むが、そこは流され、
「ルピナは、ルピナはこのみーから離れたくない!」
「……って、言ってるけど」
「関係ありません」
一蹴された。取り合う気はないようだ。
「どうしよう、姫ちゃん」
「困ったね……まさか、向田さんが『神話カード』と関係があるだなんて思ってもみなかったし……」
さらに言うなら、ここまで思い入れが強いとも思っていなかった。まあ、思っていたとしてもどうしようもないだろうが。
「このみ様はどうなんですの? プロセルピナ様を手放したくないんですの?」
「うーん……そりゃあ、あたしにとってもプロセルピナは大事な相棒だし、簡単には渡せないけど、あおいんの大切なカードだっていうのなら、仕方ないような気もするなぁ……」
「このみー!」
このみはプロセルピナを手放すことも考え始めたためか、プロセルピナが非難するように声を上げる。
プロセルピナを巡る対立関係は、プロセルピナ自身と葵の二つに割れた。プロセルピナ自身はこのみから離れたくない。葵はプロセルピナの返還を求めている。残る姫乃、ヴィーナス、そして所有者のこのみはほぼ中立。
対立しているのだから、当然プロセルピナも葵も引く気はない、妥協するつもりもないようだ。
駄々をこねるようにこのみを引っ張っているプロセルピナと、敵意剥き出しな視線をこのみにぶつけている葵。そんな二人に囲まれて弱った表情を見せるこのみ。
一触即発の緊迫した空気。姫乃もその様子をハラハラしながら見守る。
その時、
「ですの!」
緊迫した空気を打ち破る声が、響き渡る。
「ヴィーナス? ど、どうしたの?」
「こういう時こそ、デュエリストはデュエマで決着をつけるべきですの! わたくしたち『十二神話』も、そうやって人の手を渡って来たんですの」
それは確かに正論で、最も手っ取り早く解決しそうなことだった。
《プロセルピナ》というカードを巡ってデュエルする、“ゲーム”の世界においても、この上なく分かりやすい基本のルールだ。
「でも、プロセルピナはデュエルできないんじゃ……」
クリーチャーも実体化してデュエルすることはあるが、力が足りないとかでプロセルピナやヴィーナスは、デフォルメ状態ではデュエルができないらしい。
だが、ヴィーナスには考えがあった。
「そこは、今のプロセルピナ様の所有者であるこのみ様が、代わりに戦えばいいんですの。お三方、異論はないんですの?」
「あたしはいいよ。プロセルピナとあおいんは?」
「ルピナもオッケー! このみーが負けるわけないし!」
「……構いません」
このみ、プロセルピナ、葵、三人共承諾する。
この戦いに勝った方が、プロセルピナの所有権を得る。分かりやすい、シンプルだ。
「じゃあ早速はじめようか。行くよ、プロセ——」
「あっ、でもこのみちゃんがプロセルピナを使うのって、いいのかな?」
対戦が決まるや否や、デッキを取り出して戦う気満々のこのみ。だがそこに、姫乃の一言が飛び込む。
「そういえばそうですの。このような言い方はプロセルピナ様に申し訳ないですが、プロセルピナ様はこの対戦の勝者に与えられる賞品ですの。“ゲーム”のルールで戦うわけでもないのですし、このみ様だけ『神話カード』を使用するのは、些か不公平な気がするんですの」
「えー!? じゃあ、どうするの、このみー!」
プロセルピナが喚く。このみは手にしたデッキを一旦戻し、
「じゃあ、あたしが別に組んだデッキを使うよ」
「え? このみちゃん、デッキを組んだの?」
「うん、一ヶ月くらい前に、まりりんせんぱいと一緒にね……ちょっと待ってて」
「あ、このみー! 待ってー!」
言って、このみはパタパタと走って行ってしまう。プロセルピナも、その後を追う。
「……ねぇ、プロセルピナ」
「なにー?」
「プロセルピナはさ、あおいんのこと、どう思ってるの?」
自室に戻り、このみはひまりのアドバイスを受けながら作ったデッキを探す。その最中、ふとプロセルピナに問うた。
プロセルピナが葵のもとにいた時期があったというのであれば、プロセルピナ自身にもなにか葵に対して思い出があるはずだとこのみは思ったのだが、
「どう思ってるって言われても……よくわかんない」
「よく分かんないって、なんで? あおいんのところにいた時もあったんじゃないの?」
「おぼえてないの、昔のことは。ルピナがおぼえてるのは、このみーやゆーひー、ひめのん、しおん、りゅーたちと一緒にいた時だけ。あとはアポロンとか、ヴィーナスとかもおぼえてる」
でも、昔のことは覚えてない。
このみの元を離れたくない、逆に言えば、葵の手に渡りたくないというのは、プロセルピナの記憶に葵が存在していない、ということも関係しているのかもしれない。
プロセルピナは、見た目通り子供っぽい。というか、完全に子供だ。ゆえに相棒であるこのみの元を離れたがらない、子供ならではの意識があるのも、理解できる。
だからと言って、そのわがままを通して言いのかどうかは、このみには分からない。
「……あおいんのことも気になるけど、今はとにかく、こっちかな」
このみは探し出したデッキを、今デッキケースに入っているデッキと入れ替える。
「じゃ、行くよ、プロセルピナ。みんなが待ってる」
「うん! このみー、負けないでね!」
「もちろん、あたしはいつだって全力だよ! 負けるつもりでは戦わないって」
プロセルピナに明るく言葉を返してから、このみは自室を後にした。
「じゃあ……はじめようか」
「はい」
緊迫した空気の中、向かい合うこのみと葵。
このデュエルで勝った者が、プロセルピナの所有権を得る。
「このみちゃん、大丈夫かな……」
「姫乃様は、このみ様に勝ってほしいんですの?」
二人の様子をハラハラとしながら見つめる姫乃。ヴィーナスはそんな様子を微塵も感じさせないが。
「わたしにも分からないよ。このみちゃんには勝ってほしいけど、プロセルピナが向田さんの大切なカードだっていうのなら、それを無下にはできないし……でも、このみちゃんはちょっと心配」
「なぜですの?」
「このみちゃん、デッキを作るのは苦手だから……ひまり先輩が手伝ってるなら大丈夫かもしれないけど」
だがその後で、このみが自分で中身を弄った可能性もある。そう考えると、心配でならない。
「それに、どっちが勝っても禍根が残りそうなデュエルだし……正直、怖いよ。ヴィーナスはそう思わないの?」
「思わないんですの」
即答だった。
まるで、デュエルの結果など分かり切っているかのように、いや、デュエルの結果すら関係なく、誰に元にかの神話があるべきか、理解しているかのように、彼女は言う。
「わたくしも、姫乃様とこうして一緒にいることで気付いたんですの。この勝負の結果は見えないですが、プロセルピナ様が誰の元へと行くのか。誰が彼女の所有者となるべきかは、分かり切っているんですの。見ていれば分かるんですの」
「そうかなぁ……」
ヴィーナスの優しい声で少しだけ安心したが、まだ姫乃の不安は拭い切れていない。
そして今、このみと葵のデュエルが、始まる。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.420 )
- 日時: 2014/02/20 15:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「行くよっ! あたしのターン!」
このみと葵のデュエル。
「《ヤッタレ・ピッピー》でコストを1下げて、《斬込の哲》召喚! 効果で1マナ加速させるよ!」
まだターンもあまり進んでいない。このみは2マナ溜まった時点で《ヤッタレ・ピッピー》を召喚し、続くこのターンで《斬込の鉄》も召喚する。ここまでで、葵はまだマナチャージしかしていない。
「攻めるよ! 《ヤッタレ・ピッピー》でシールドをブレイク!」
すぐさま攻撃。シールドをブレイクし、先手を取った。
「……私のターン。呪文《ガチンコ・ルーレット》!」
葵が使用するのは、流もよく使っていたマナ加速呪文《ガチンコ・ルーレット》。
「マナを追加し、ガチンコ・ジャッジです!」
葵が捲ったのはコスト6《無敵城シルヴァー・グローリー》、このみはコスト2《無頼勇騎タイガ》。
「ガチンコ・ジャッジに勝利したので《ガチンコ・ルーレット》を手札に戻し、G・ゼロで《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》を召喚します。ターンエンド」
速攻気味のこのみに対し、葵のデッキは起動が遅いのか、マナ加速しつつブロッカーを並べるだけでターンを終えた。
「このみちゃんのデッキは、ハンター軸のステロイド? 見た感じ、速攻寄りのビートダウンに見えるけど……」
意外と普通というか、このみらしいデッキで安心した。序盤の動きも悪くないので、このまま攻められればこのみが勝つかもしれない。
「ならあたしは、《俊足の政》を召喚! 山札の上から五枚を見て……《ザーク嵐》を手札に加えるよ」
クリーチャーを並べつつ、手札を補充して後続へと繋げようとするこのみ。
勿論、攻撃も忘れていない。
「《斬込の哲》で攻撃、シールドブレイク!」
「《ブラッディ・シャドウ》でブロックです」
「え?」
真っ先に攻撃してきた《斬込の哲》を、《ブラッディ・シャドウ》で相打ちに取る葵。
そのプレイングに、姫乃は声を上げる。
「じゃあ《斬込の哲》は破壊される代わりにマナゾーンに行くよ。さらに《ヤッタレ・ピッピー》でシールドをブレイク!」
破壊される《斬込の哲》は効果でマナゾーンへ。続けて《ヤッタレ・ピッピー》が二枚目のシールドを突き破る。
「なんで向田さんは《斬込の哲》をブロックしたんだろう……」
破壊されても《斬込の哲》はマナに行ってしまう。しかも場にブロッカーがいなくなるので、次の《ヤッタレ・ピッピー》の攻撃を牽制することもできない。葵の場にはもうクリーチャーがいないので、殴り返しもできない。
このみは特に気にしていないようだが、姫乃はそのプレイングに疑問を覚える。だがその答えは、次の葵のターンで明らかになった。
「私のターン、呪文《超次元リバイヴ・ホール》で墓地の《ブラッディ・シャドウ》を回収します。そして開け、超次元の門。《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》をバトルゾーンに!」
時空の凶兵ブラック・ガンヴィート 闇文明 (7)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド 5000
B・ソウル
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手のタップされているクリーチャーを1体破壊する。
覚醒—相手のターンの終わりに、相手の手札が1枚もなければ、このクリーチャーをコストの大きいほうに裏返す。
現れたのは、超次元の力を得た《ガンヴィート》。時空を超えることで、新たな力に目覚めている。
「《ブラック・ガンヴィート》の能力発動、あなたのタップされているクリーチャー、《ヤッタレ・ピッピー》を破壊します!」
「っ……!」
《ブラック・ガンヴィート》の斬撃から放たれる衝撃波で、《ヤッタレ・ピッピー》が両断され、破壊される。
「さらにG・ゼロで《ブラッディ・シャドウ》を召喚し、ターンエンドです」
前のターン、葵が《斬込の哲》をブロックしたのは、このターン《ブラック・ガンヴィート》で《ヤッタレ・ピッピー》を破壊するためだった。しかも《リバイヴ・ホール》で《ブラッディ・シャドウ》も回収できたので、無駄がない。
先まで読んだプレイング。なんとなく空気で分かっていたが、向田葵というクラスメイトは、思っていた以上に強い。傍から見ているだけの姫乃でも、それはひしひしと感じられた。
一方、当の対戦相手であるこのみは、そんなことなど関係ないとでもいうような表情をしている。
「《ヤッタレ・ピッピー》が破壊されたのは痛いけど……あたしにはこの子がいるんだ!」
このみは今しがた引いてきたばかりのカードを掲げ、叫ぶ。さらにそのまま、そのカードを《俊足の政》の上に重ねて置いた。
「これがあたしの新エースだよ! 《俊足の政》進化! 《スーパー大番長「四つ牙」》!」
スーパー大番長「四つ牙」(クワトロ・ファング) 自然文明 (6)
進化クリーチャー:ビーストフォーク/ハンター 9000
進化—自分のビーストフォーク1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を自分のマナゾーンに置いてもよい。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を自分のマナゾーンに置いてもよい。
W・ブレイカー
《俊足の政》が進化したのは、純白の毛皮に覆われた獣の狩人。かの《大勇者「ふたつ牙」》がハンターとしての力を得た姿《スーパー大番長「四つ牙」》だ。
「まず《「四つ牙」》が場に出た能力で2マナ追加! 続けて《「四つ牙」》で攻撃、さらに1マナ追加!」
たった一体のクリーチャーで、3マナも加速してしまったこのみ。このターンのマナチャージも含めると4マナだ。
「Wブレイク!」
「その攻撃は《ブラッディ・シャドウ》でブロックします」
流石にWブレイクは受けられない。葵は《ブラッディ・シャドウ》で《「四つ牙」》の攻撃を防ぐ。
「じゃあこれでターン終了っ」
「手札は……一枚残っていますね」
《ブラック・ガンヴィート》を意識してなのかは分からないが、手札が残っていては覚醒できない。
「……では、私のターンですね。《ガチンコ・ルーレット》を唱えます」
マナを追加し、ガチンコ・ジャッジ。
葵はコスト4《邪魂創生》、このみはコスト2《ヤッタレ・ピッピー》。
ガチンコ・ジャッジに勝ったので《ガチンコ・ルーレット》を手札に戻しつつ、葵はさらに手札から二体のクリーチャーを召喚。
「《死神獣ヤミノストライク》を召喚、さらにG・ゼロで《ブラッディ・シャドウ》も召喚し、ターンエンド」
見ればわかるだろうが、葵のデッキは超次元も絡めたコントロールデッキ。殴れるからといって不用意に攻撃したりはせず、ターンを終える。
「あたしのターン! 《隻眼の鬼カイザー ザーク嵐》を召喚!」
隻眼の鬼カイザー ザーク嵐 火文明 (7)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター 6000
相手の呪文の効果またはクリーチャーの能力によって、このクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりにバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中からハンターをすべて手札に加え、その後、残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。
W・ブレイカー
《ザーク嵐》の能力で、旋風が巻き起こり、このみのデッキの上三枚が捲られる。捲られたのは《若頭 鬼流院 刃》《堀師の銀》《アパッチ・ヒャッホー》の三枚。
「やった! 三枚ともハンターだから、全部手札に加えるよ! そんでもって《「四つ牙」》で攻撃! マナを追加してWブレイク!」
「っ……《ブラッディ・シャドウ》でブロック!」
止まらないこのみの勢い。なんとかブロッカーで粘っているが、それもそろそろ限界だろう。
マナは大量にあり、《ザーク嵐》で手札補充までしている。勢いに乗ったこのみを止めるのは至難の業だ。あの汐ですら手が付けられなくなる。
「このままだと、このみちゃんが勝ちそうだね」
「まだ分からないんですの。葵様も、マナと手札が多いんですの。逆転の可能性もあるんですの」
「このみー、がんばれー!」
観客三名は思い思いのことを口にしながら、デュエルの行く末を見守る。
「私のターン」
葵のターン。彼女は引いてきたそのカードを見て、少しだけ反応を示す。
そして、そのカードを使用した。
「……呪文《邪魂創生》。《ヤミノストライク》を破壊して三枚ドローします」
クリーチャー一体と引き換えに、三枚の手札を補充する葵。だが破壊したのは《ヤミノストライク》だ。タダでは死なない。いやさ、ただ死ぬだけではない。
「《ヤミノストライク》の破壊時能力発動! 手札からコスト7以下のデーモン・コマンドをバトルゾーンに!」
葵は先ほど《邪魂創生》で三枚もの手札を補充している。もしその中に、コスト7以下のデーモン・コマンドがいるとしたら——
そんな想像の通り、葵は最後に引いた三枚目のカードを、《ブラック・ガンヴィート》に重ねた。
「《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》進化! 《偽りの悪魔神 バロム・ミステリー》!」
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