二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Mythology
日時: 2015/08/16 04:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。

 本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。

 投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。

目次


一章『神話戦争』

一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33


二章『慈愛なき崇拝』

一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78


三章『裏に生まれる世界』

一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101


四章『summer vacation 〜夏休〜』

一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148


五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』

一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207


六章『旧・太陽神話』

一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292


七章『続・太陽神話』

一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404


八章『十二神話・召還』

一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424


九章『聖夜の賢愚クリスマス・ヘルメス

一話『祝祭の前夜ビフォア・イヴ
>>425
二話『双子の門番ツインズ・ゲートキーパー
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争パーティー・バトル
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲ノウレッジ・リベンジ
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447


第十章『月の下の約束です』

一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508


第十一章『新年』

一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573


十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』

一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610


十三章『友愛「親友だから——」』

一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637



コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』

一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482



デッキ調査室
№1『空城夕陽1』  >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137

人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.576 )
日時: 2014/04/30 00:20
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

パーセンターさん


 モノクロも一月ほど前とは比べ物にならないほど更新速度が落ちています。まあ、高三なんで当然なんですけど……

 ですね。しかもこれが、ロッテの我儘と悪戯から始まったわけですし、随分な大惨事に発展したものです。
 モノクロとしてはクトゥルーは、地味だけども強い、感じのキャラを目指しています。なので、たぶん他の四天王と比べて登場回数は少なくなると思います。

 姫乃に関しては、八章から少しずつ夕陽との関係を描くというサブテーマが存在しています。一章ごとに一回は必ず彼女の描写が入っているはずです。
 このみの思いついた“あれ”というのは……次章で明らかになりますが、答えは既に出ていたりします(作中にとは限りません)。中高生が敏感になる、正月の次に重要であろうイベントです。
 幼馴染にこのみがいて、後輩に汐がいて、姫乃に片思いされているという主人公っぷりを如何なく発揮しています。何気に黒一点ですし……流? 知らない子ですね。

 細かい設定はわりと力を入れているので、そう言って頂けると嬉しいです。ただ、細部に力を入れ過ぎて本筋が半ば蔑ろになっていたりもしますが……
 フレーバーに関しては、大筋の背景ストーリーは大雑把に考えていましたが、ちゃんと文章に書き起こしたのは投稿する直前です。こういう形式で『神話カード』について明かそうと思ったのも、半年くらい前のことですし。
 そして実物のカードにこれだけのテキストが入るわけないんですよね……その辺りは仕様ということにして、見逃してください。
 モノクロもあったはずの設定を忘れたり、途中から付け足すことはよくあります。一番多いのは、その時にはいい設定が思いつかないから後回しにした結果、出す直前になって急いで考える、とかですかね。そのうちふと閃くこともありますけど。
 まあ、それはそれとして、よい出汁が取れそうです。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.577 )
日時: 2014/05/02 19:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「誕生日プレゼント、ですか」
 汐は隣に座る自分の先輩——空城夕陽に、そう言葉を返した。
 学生にしろ社会人にしろ、日曜日という日はほとんどの人間にとっては、学校や仕事など、あらゆる物事から解放される至福の日である。だからこそ、翌日には辛い学校や仕事が再び襲い掛かってくるため、ブルーになる者も多いのだが。
 それはともかくとして、二月頭の日曜日。夕陽は汐を買い物に誘った。汐としては断る理由も特になかったので、普通に承諾したのだが、夕陽が買い物に誘う——それも電車に乗って街中に出るような買い物——だなんて珍しい。なのでどんな理由があって自分を誘ったのかと問うたところの答えが、最初に彼女の発した言葉だ。
「そう、誕生日プレゼント。光ヶ丘のね」
 夕陽は改めて確認するように言う。
「なんだかんだで、去年から光ヶ丘には世話になってるし、誕生日プレゼントを渡すのもいいかなって思ったんだ。だけど、ほら、僕ってあんまり人にものをあげたことがないし、相手は異性だし、どんなものを買えばいいか分かんなくてさ……だから君に来てもらったんだよ」
「成程です。納得です」
 頷く汐。確かにその通りだ。今まで夕陽たちが“ゲーム”の世界を生き延びられたのは、姫乃の存在があってこそと言っても過言ではない。そんな彼女の誕生日プレゼントを渡すのは、当然のこととも言える。そしてその選択のために、汐を買い物に差そうというのも理解できる。
「しかし、なんだか急というか、唐突な感は否めないですね。別段、私でなくともこのい先輩でも良かったのではないですか。あの人の方が、光ヶ丘さんとは仲が良いと思うのですが」
「まあ、そうなんだけど、あんまこのみと買い物したくないしな……」
 特に大型ショッピングモールのある街中では、と付け足す夕陽。汐も成程、と再び納得するが、夕陽がこのみを選ばなかったのには他にも理由があった。
「実を言うと、嫌々ながらも最初にこのみを買い物に誘ったんだよ。というか、光ヶ丘の誕生日を教えてくれたのがこのみだったんだ」
「そうなのですか」
「うん——」

『来月は姫ちゃんの誕生日だよ、ゆーくん! いつも一緒にいる友達なんだから、プレゼントの一つや二つくらいはないと! ゆーくんだってそのくらいの甲斐性はあるよね! ね!』

「——って」
「……なにか裏があるようにしか思えないですね」
「だよねぇ……」
 とはいえこのみの言うことも間違っていない。
「それで、だったら一緒に選んでくれって頼んだら、用事があるから無理! って速攻で断られたよ」
「成程です。そこで次に私を指名したということですか」
「そういうこと。受験勉強とかで忙しい中、こんなことで呼び出して悪いね」
「いえ、このくらいなら構わないですよ。ちょうど私も買いたいものがあったですし……それに私の今の学力なら、余裕で志望校に入れるのです」
 サラッとそんなことを言う汐。去年のこのみにその台詞を聞かせたかったと思いつつ、そういえば彼女はどこの高校を目指しているのだろうと尋ねようとするが、それよりも早く彼女が次の言葉を紡いでいた。
「ですが、あまりアテにされても困るですよ。頼まれたからには私も最善を尽くすつもりですが、私の感性は一般的な女子中学生のそれとはかけ離れているですからね。ある程度は分かるですけど……」
 それに、と彼女は続ける。
「こんなことを言っては身も蓋もないですが、光ヶ丘さんの性格を考えれば、先輩がどのようなプレゼントを選んだとしても、常識を逸したような奇怪なものでなければ、普通に喜ぶのではないですか」
「いやまあ、確かに、少なくとも表面上は嫌な顔はしないだろうけど……」
 本当に身も蓋もない。決して間違っているとも言い切れないが、そういう問題ではないだろう。
「それと、ふと思ったのですが、先輩には妹さんがいるはずです。彼女の方が、この手のことには詳しいでしょう」
「んー……まあ、柚ちゃんの誕生にプレゼントを買った時はあいつを頼ったりもしたんだけど……」
 夕陽は少し照れくさそうに、言った。
「……たまには、君と出かけるのもいいかなって、思ってさ」
「先輩……」
 十二月、夕陽は汐と仲違いした。その原因についても既にはっきりしており、二人の溝は完全に埋まった。だが、夕陽はあの時の自分の失態を忘れてはならないのだ。もう二度と、同じ轍を踏んではいけない。
 だからこれは、姫乃の誕生日プレゼントを買うだけでなく、汐との親交を深める意味合いも持つ買い物なのだ。
 しかし、それを快く思わない者もいる。
「あまり人の主人を変な目で見ないで欲しいわね、人間」
「ア、アルテミス……!」
 ちょうど電車が止まり、夕陽たち以外の乗客がすべて降りた直後、汐のデッキケースから一枚のカードが飛び出し、実体を持って現れた。
「お兄様と出かけられるシチュエーションを作り出したという一点においては褒めてあげるわ。無能な人間にしてはよくやったわね。だけど、それはそれ、これはこれよ。あまり調子に乗らないで。あなたが私の弓で脳漿をぶちまけたいと思う変態的自殺志願者ならともかく、いやそうであってもなくてもさっさと死ぬか消えるか殺されるかしてくれないかしら?」
「何様だよ君は」
 半ば呆れたように息を吐く夕陽。アルテミスの毒舌は相変わらずというか、なにかにつけ夕陽に突っかかってくるのだ。汐との親交を深める前に、アルテミスからの強い敵対心を解くことが先のような気がする。
「まあまあアルテミス、そうカッカするなよ。夕陽はいい奴だぞ」
「お兄様……!」
 アルテミスの実体化に伴い、アポロンも実体化して出て来る。その瞬間、アルテミスの脳内から夕陽が消し飛んだ。
「人間の世界でとはいえ、アルテミスはまたお兄様と共に行動できて嬉しいです!」
「……相変わらずだなぁ」
「ですね」
 アポロンのことになると、アルテミスは周囲が見えなくなる。というか、周囲の存在を完全に遮断する。それで夕陽へ向けた弓が下ろされるのならば、悪くはないのだが。
「アルテミス、次の駅では人が多く乗るはずですから、カードに戻ってください」
「君もだアポロン。その状態を人に見られたら困る」
「おう、分かったぜ」
「むぅ……仕方ないわね。お兄様、また後程」
 カードに戻った二体は、それぞれの持ち主のデッキケースへと入っていく。
 ほどなくして電車が止まる。あと二駅ほどで目的地に辿り着くのだが、やはり日曜日というだけあって一気に人が流れ込んできた。一駅間だけとはいえ、二人っきりになったのは奇跡だろう。
「人多いなぁ……これは買い物するのも大変そうだ」
「ですね……」
 満員ですし詰め状態、とまではいかないが、それでも結構な人数だ。
「ところで先輩」
「なに?」
「一つ聞きたいのですが」
 汐が問うてくる。それはなんの変哲もない、興味本位から来る純粋な問いだった。
「光ヶ丘さんの誕生日はいつなのですか。あのこのみ先輩がわざわざそのようなことを言うということは、もしかしたら誕生日パーティーでも開くのではと思ったのですが」
「あー成程。確かにそうかもしれないな」
「ならば私もなにかプレゼントを用意した方が良いかもしれないです。生物を渡すつもりなんてないですが、食品を扱うのなら、日にちは正確に覚えておきたいです」
「そんなに気を遣うこともないと思うけどなぁ……まあいいや。えーっと、光ヶ丘の誕生日は……」
 少しだけ考え込む夕陽。このみに姫乃の誕生日を教えられたのは、一月の上旬頃。
(確かあの時、あと一ヶ月ぐらいって覚えてたっけ。ってことはあと二週間くらいで……確か——)
 少し時間がかかったが、思い出した。彼女の誕生日は、

「二月の十四日、だったかな」

「……え」
 汐が硬直する。まるでその日は、他にも重要なことがあるとでも言うかのように。
 夕陽はそんな汐の硬直に、疑問符を浮かべている。
「? どうしたの?」
「いえ、あの先輩、それって——」
 思わず汐が立ち上がる。その瞬間、彼女はハッと気づいたように振り返った。
「……御舟?」
「先輩……」
「どうしたの? なんか変だよ」
「確かに変です。先輩、周りを見てください」
 汐に言われて、夕陽も気付いた。
 この異常事態に。
「これは……!」
 夕陽は目を見開く。そこには、ありえない風景が広がっていた。

 夕陽と汐を除くすべての乗客が——車内から消えていた。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.578 )
日時: 2014/05/31 02:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 いつの間にか車内から乗客が消えた。
 そんな事態に困惑する夕陽と汐だが、よく見れば自分たち以外にも一人だけ、残っている者がいた。
 だがそれは、できることなら見たくもないような顔であったが。
「急にお客さんが消えて混乱してるかい? 空城夕陽くん、御舟汐さん」
「お前は……青崎、記……!」
 夕陽と汐の向かいに座っていたのは、青崎記だった。夕陽たち——特に汐にとっては、因縁の相手と言っても過言ではない男だ。
「なんの用だ……乗客を消したのはお前の仕業か?」
「まあそうと言えばそうなんだけど、正確には乗客を消したんじゃない。一時的に他の乗客という“概念”を無効化させてもらっただけさ」
 なにを言っているのかさっぱりな発言だった。だが、後輩を傷つけられた恨みのある夕陽は頭に血が上っており、そんな些細なことなどどうでもよかった。
「なんのことか分からないけど、よくものこのこ僕らの前に顔を出せたものだな。お前、僕の後輩になにしたか忘れたのか?」
「そうだねぇ、いっぱい色んなことしたね。攻めたり弄ったり虐めたり嬲ったり。思ったより初々しい反応で可愛かった——」
「っ!」
 普段は温和で温厚に振舞っている夕陽だが、その外面ほど夕陽は温和でも温厚でもない。根っこの部分はもっと荒々しく粗雑だ。
 それ以上の言葉を交わすことなく、夕陽は賭け出し、拳を振り上げていた。デッキを取り出す暇すら与えない。
「っ!?」
 しかし、記はデッキを取り出す必要なんてなかったのだ。なぜなら、夕陽の動きは、記の目の前に来ると同時に止まっていたのだから。
「先輩……っ」
「な、なんだ、体が、動かない……?」
 動かないというより、どう動かせばいいのか分からないというような感覚だ。ただこの振り上げた拳を、目の前のムカつく顔面に振り下ろせばいいだけなのに、どうやって腕を動かせばいいのかが分からない。筋肉を伸縮する術を、体が忘れてしまったようだった。
「思ったよりも暴力的だね、君。どおりでアミさんと気が合うわけだよ」
 記はへらへらと嘲笑的な笑みを浮かべながら、一枚のカードを取り出した。
「今の君は、体を動かすという“概念”が無効化されている状態だ。と言っても、心臓やら血流やらの生命に直結するものとかは機能するようにしてるけどね」
「っ、そのカード……!」
 眼球も動かせるようで、夕陽は目だけをそのカードに向ける。
 直接見るのは初めてだったが、感覚で分かった。そのカードは《アポロン》と同じ——
「出て来て、ヘルメス」
 記の言葉で、カードが光る。すると、そのカードに描かれたクリーチャーが、実体化した。
「……呼んだかい、記。ボクになんの用?」
「用はないけど、せっかくだから彼らに君の姿を見せてあげようと思ってね」
「へぇ……? そうか、彼らが前に言っていた、アポロンとアルテミスの所有者か……視覚的な新しい知識を得たよ」
「『神話カード』……!」
「ヘルメス、ですか……」
 現れたのは、アポロンたち同様に二頭身の体躯のクリーチャー——実体化した《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》だった。
「お前はヘルメス!」
「また嫌な顔を見たわね……!」
「やぁ、久し振り。アポロン、アルテミス」
 ヘルメスの実体化を受けて、アポロンとアルテミスも飛び出す。二人ともヘルメスに嫌悪を抱いているような表情だが、当のヘルメスは飄々としていた。
「ボクも記のお陰で、君ら同様、実体化できるようになったんだ」
「元々それが目的だったからね。そして君の力は素晴らしいよ、ヘルメス」
 ヘルメスを見てから、記はずっと静止したままの夕陽に視線を向ける。
「彼の力は、ある概念の持つ機能を凍結させ、無力化すること。君がその滑稽な姿で止まっているのは、君の“体を動かす”という概念を無効化しているからだ」
 乗客が消えているのも同様の理由で、車内の“夕陽、汐、記以外の乗客”という概念を無効化しているからだという。
 正直なにを言っているのかよく分からなかったが、とりあえず乗客が消えたのは記の仕業だということだけは理解できた。
「と言っても、一時的なものだけどね。というか記、あんまりボクの力を乱用しないでくれるかな。これ、結構疲れるんだ」
「悪いね。まあ用が済んだら解除してもいいよ」
「用……そうです。あなたは私たちになんの用があるのですか」
 汐がそう言ったことで、やっと本題に入る。
 記は確かに悪趣味で性格の悪い男だが、なんの用もなく、ヘルメスが実体化したことを伝え、その力を自慢するためだけにわざわざ夕陽たちの前に現れるようなしょうもない人間ではない。
 彼がここに現れたのは、れっきとした理由がある。
「そうだね……僕は君らに忠告しに来たんだ」
「忠告?」
「うん。忠告っていうか、情報提供って言うか……」
 いまいちはっきりしない物言いだった。だがそれは、彼が意地悪くしているのではなく、単にはっきり言えない事情があるだけのようだ。
「これは僕も完全に把握しきっている情報じゃないんだけど、僕のヘルメスの力を自慢するついでに教えてあげようと思ってね」
「…………」
 前言撤回。青崎記はしょうもない男だった。
 それはともかく、情報屋たる彼でも把握しきっていない情報というのは、かなり気になるところだ。
「まあ、これはこの前やりすぎちゃったお詫び……という体面で君たちにささやかな恩を売っておこうという魂胆もあるんだけど」
「そういうことを言っていいのか……?」
 素なのか考えあってのことなのか分からないが、口に出してはいけないようなことを言う記に、夕陽も汐も呆れていた。
「話がずれてきたね、本題に戻すよ。実は最近、『神話カード』以外の大きな力が確認されているんだ」
「大きな力?」
「そうだ。まだそれがなんなのかよく分かっていないんだけど、一説ではその力の影響を受けると、カードが違う性質に変化したり、クリーチャーが大量発生したりするらしい」
「カードの変質、クリーチャーの大量発生……」
 思い当たる節がないでもなかった。いつかの元旦の出来事でも似たようなことがあったが、しかしあの時のクリーチャー大量発生は【師団】によるものらしいので、関係はなさそうだ。
「もしかしたら【師団】がなにかをやらかしたって可能性もあるけどね。まあそんなわけで、この“ゲーム”にもなにか大きな変革が起きそうだなってことを伝えに来たのさ」
 今回の情報料は特別にアミさんのツケにしといてあげる、と思い出したように付け加えて、記は立ち上がった。もうすぐ次の駅に着くようだ。
「君たちも気をつけてね。まだ君たちには、この“ゲーム”にいて欲しいから」
「……待つです」
「ん?」
 扉の前に立つ記を、汐が引き止める。
「一つ、教えてください」
「なにかな?」
「あなた、なにがしたいのですか」
 漠然とした問いだった。だが、夕陽も気になっていたことではある。
 いつか汐を襲った時は、亜実の仇討と称して恩を売っておこうという魂胆だったらしい。クリスマスに襲撃した時は、『神話カード』を奪い返すためだったらしい。
 だが、一回目はともかく、クリスマスの時まで記は『神話カード』を奪い返そうと行動を起こさなかった。その気になれば、彼ならどのタイミングでも汐を嵌められるだろう。しかも今までさしたる興味がなかったかのように『神話カード』を持たなかったのが、クリスマスになって急に求めるようになったのも妙だ。
 青崎記という男が、なにをしたいのか。それが、彼らには理解できなかった。
「……そうだね。今の僕は軽くハイだ。せっかくだから口を滑らせてあげるよ」
 記は、その問いを受けて邪悪な笑みを浮かべる。嫌悪感を覚えるような、嫌な微笑みだ。
 そしてその笑みのまま、彼は告げた。
 自らの本性を。

「知りたいんだよ」

「……は?」
 思わず聞き返してしまう。記はそれに答えたわけではないだろうが、続けた。
「僕は知りたいんだ。この“ゲーム”というものがなんなのか。なんのためにこんなふざけたイベントがあって、『神話カード』なんてぶっ飛んだカードが存在しているのか。“ゲーム”の目的、本質、『神話カード』の意味、十二神話の謎……この世界には、未知が溢れている」
「…………」
「君らはもう当然のように受け入れてるみたいだけどさ、最初は考えただろう? そもそもこの“ゲーム”とはなんなのか、ということを。他人の説明を受けて納得したみたいだけど、よく考えてみれば分からないことだらけじゃないのかい?」
 確かに、その通りだった。
 もう一年近く“ゲーム”に関わってきた夕陽たちは、かなり“ゲーム”という危険で異質なものに慣れてしまった。最初こそ戸惑って疑問を多く感じたが、今ではその疑問もかなり解消されている。
 それでも、よく考えてみれば謎だらけなのだ。記の言うように“ゲーム”というものはそもそもなんなのかという疑問もある。『神話カード』も同様だ。そして『神話カード』はどこから来たのか、どのように生み出されたのか。十二神話については、彼らの影響を受けたカードのフレーバーテキストからある程度は読み取れるが、それでも謎は多い。
「僕はそれらの謎を解き明かしたい。いや、解き明かすなんて気取った言い方は適切じゃないな。とにかく僕は知りたいんだ、その謎に包まれた世界を。あらゆる未知を、既知にしたい」
 要するに、記が抱いているのは知識欲だ。
 知りたい欲求というのは誰しもが持つもので、それは純粋な好奇心であったり、はたまた自分の身の保全であったり、精神衛生上の問題や策略のためであったりもする。
 かの孫子も、情報は最大の武器である、と言った。極端な話、なにかを知るということは生きるということだ。なにも知らなければ、人は死ぬだけである。
 とはいえ、知りたくても知れないことはあるし、ある程度物事を知れば、それ以上の知識を欲さなくなることもある。
 しかし記はそうではない。彼はとにかく、なにもかもを知りたがっている。そのためになら、手段を選ばない。
「だからこそ、僕はヘルメスと組んでいるんだけどね」
「え?」
「え、じゃないわよ、無能な人間。ヘルメスが《賢愚神話》と呼ばれている理由も、あいつが知識に貪欲だからなの」
「そうだ。ヘルメスは十二神話の中では最も多くの知識を持っている賢者だったが、その知識を増やすためならどんな禁忌でも犯す愚者となる……あいつは、そんな奴だ」
 ゆえに、《賢愚神話》。それがヘルメスだった。
 そう考えれば、知識に欲求不満な記にとって、ヘルメスはおあつらえ向きな『神話カード』かもしれない。
「クリスマスに御舟さんを襲ったのは『神話カード』を手に入れるためだったけど、なんで手に入れたかったのかというと、『神話カード』を実体化させてみたかったんだ。だってそうすれば、『神話カード』本人から色々聞けて、新たな知識が得られるからね」
 もっとも、彼らも結構色んなことを忘れてるみたいだけど、と記は付け足した。
「……これで満足かい? 僕としては、その知りたいという純粋な好奇心から来る質問は好感が持てるから、このまま延々と喋り続けられるんだけど?」
「もう満足したので、さっさと消えてください」
「辛辣だねぇ……まあいいよ、お望み通り消えてあげる。ばいばい、二人とも」
 記はヘルメスをカードに戻すと、ちょうど開いた扉を通り、電車から降りて行った。
 同時に、夕陽の体が動くようになり、消えた乗客も元に戻る。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.579 )
日時: 2014/07/03 21:51
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 夕陽と汐が記と一悶着している同時刻、所変わって、カフェ『popple』。
 今日この日は定休日であり、店員の姿は見えない。
 ただ、店員でないものの姿ならあるが。
「二月十四日! さあ、なんの日だ!」
「えっと、このみちゃん? どうしたの……?」
「二月十四日はバレンタインデー! 女の子なら忘れるべからず! そして今日この日のために、姫ちゃんとあたしは日々チョコレート作りに励んでいたんだよ!」
「バレンタイン、今日じゃないけど……」
「でも、いつまでも練習じゃダメ! そろそろ本番の気持ちで、本腰入れたチョコレートを作らないと!」
「それも習作という練習ではないのですか……?」
「というわけで、みんなには姫ちゃん特製チョコの試食をしてもらいます!」
「それを最初に言えば……まあいいか。とりあえず、私たちがどういう理由で呼び集められたのかは分かった」
 と、いうわけで。
 このみと姫乃に加え、『popple』に呼び集められた三人のクラスメイト、クロ、仄、葵の計五名が、店内の台所に立っていた。
「えっと、みんな来てくれてありがとう。せっかくの休日なのに……」
「別に……暇だったし……」
「ここに来るくらいなら構いませんけど……」
 三人の中には、共通の疑問が浮かんでいた。
 聞くべきかどうか、かなり悩ましいものではあるが、しかし気にならずにはいられないことだ。
「……誰に渡すの、そのチョコは」
「はぅっ!」
「なんで驚くんですか……」
 わざわざ休日にクラスメイトに召集をかけて、前々から練習をしていたというチョコレートが、義理や友達として渡すようなものだとは誰も思わない。その点でも、この疑問はあたりまえだ。される側も予想できる。
「……でも、少し意外」
「え?」
「確かにそうですね。光ヶ丘さんに、そういった人がいるとは思いませんでした」
「そういう意味では、誰に渡すのか俄然気になるね」
「あぅあぅ……な、なんか怖いよみんな……」
 どことなく威圧感が感じられる三人に、後ずさる姫乃。
「まーまー、姫ちゃん。みんなこうして来てくれてるんだし、言わないわけにはいかないよ?」
「う、うん……そうだね」
 このみに相談を持ちかけてから数ヶ月。新年直後に自分の気持ちを告白してから一ヶ月。ずっと、彼の事だけを考えていた。
 その、相手は、
「……空城くん」

『……え』

 三人の声がはもった。
「ど、どうしたの……? なにか、変……?」
「そんなことは……ない、けど……」
「こういったことに否定的な意見を述べるのは良いことではないですし、その気持ち自体はとても尊いものなのですが……」
「まさかとは思ったけど、本当に空城なのか……」
 かなり言い難そうに、微妙な表情で淀む三人。
「みんなはゆーくんのことどう思ってるの?」
「……悪い人じゃない」
「温厚で優しくて、気も利いてますし、とてもいい人だと思います」
「ただ、ねぇ……」
「男としてどうかと言われると……微妙」
「友達としてなら、とても良い友人になれそうなのですが」
「異性としてはない、かな……」
(空城くん、みんなからそういう認識されてるんだ……)
 夕陽の意外な評価を知った姫乃であった。
「まーねー、ゆーくんはそーだよねー。男の子としてはちょっと頼りないよねー」
「夕陽様がいたら、『お前が言うな!』って言っていそうですの」
「あ……ヴィーナス」
「それと、このみ様と一緒にいるのも、その一因だと思うんですの」
「ああ、それはあるかも」
 なにかと暴走しがちなこのみのストッパーとなるのが夕陽なので、学校でも大体そんな認識を受けている。
「……でも、文化祭の時の格好は良かった」
「あ、それは私も思いました。凄く似合ってましたよね」
「最初は誰か本当に分からなかったもんね」
(ゆーちゃんのことだ……)
 夕陽にとっては二度と掘り起こしたくない(正月に掘り返されたが)黒歴史。しかしその他の者からすれば、いい話のネタだ。三人はそのまま、夕陽ではなくゆーちゃんとしての評価を続ける。
「あの姿なら、ありかもしれない……」
「そうですね、同感です。また着る機会はあるんでしょうか?」
「男子からも、嫁に欲しいとか言われてなかったっけ?」
(空城くんが聞いたら卒倒しそうだよ……)
 心中ではそう思う姫乃だが、彼女たちの意見そのものには賛同できる。確かにあの時の夕陽も、正月の時の夕陽も、女としては良かった。
「ふっふっふ、大丈夫だよみんな、安心して」
「このみちゃん……?」
「今年は難しいけど、来年もこのあたしがゆーくんをプロデュースしてドレスアップしてみせるから! ひーちゃんと秘密裏に押し進めてる『ゆーちゃんプロジェクト』は、着々と進んでいるんだよ!」



「はくしょんっ!」
「先輩、風邪ですか」
「いや……なんか、寒気というか悪寒が……」
 どこかで噂をされているような気がする。しかも、自分ではない自分について、そして自分にとって途轍もなく都合の悪い事柄について。
「風邪には気を付けてください。中学校でも、インフルエンザが流行っていて、私のクラスも学級閉鎖になりかけたんです」
「うちの妹は病気とか風邪とかとは無縁な奴だから、あんまり気にしないなぁ……ああでも、柚ちゃんは少し心配かも。あいつ、あの子を振り回してなければいいけど。それで風邪ひかせたとかあったら困る」
「それは考えすぎでしょう。彼女も最近は、随分と落ち着いているように感じられるですよ」
「どうだか」
 記と別れ、電車を降り、ショッピングモールへと続く商店街を歩く夕陽と汐。大型ショッピングセンターのすぐ傍に商店街なんて儲かるのかと思うが、こちらもこちらでそれなりに賑わっており、経営不振に陥っているということはなさそうだった。
「とりあえず、この辺でもなにか探してみようか」
「光ヶ丘さんの誕生日プレゼントですよね」
「どんなものがいいだろう」
「やはり、実用的なものがいいかもしれないです」
「実用的なものかぁ……どんなものがあるかな?」
「そうですね。例えば、ああいうのはどうでしょう」
 そう言って汐が指差すのは、食器の並べられた店だった。ウィンドウに並べられているのは、カラフルなカップ。
「ベタですけど、マグカップとかならわりとよく使うと思うのですが」
「うーん、でも『popple』では使わなくなったカップをバイトに配ったりしてるし、カップには困ってないんじゃないかな……」
「そうなんですか……」
 ならば、とキョロキョロ周囲を見渡す汐。次に見つけたのは書店だった。
「書籍……本はどうでしょう。実用性という面では微妙ですが、内容によっては味のあるチョイスだと思うのですが」
「光ヶ丘は理系だからなぁ……だから本を読まないなんてことはないんだけど、光ヶ丘自身は教科書ぐらいでしか物語は読んだことないって言ってたな」
「言われてみれば、中学の頃に色々あったそうですし、当たり前かもしれないですね」
 さらに視線を巡らせる汐は、またなにかを発見したようだった。
「カードショップ……」
「待て待て待て、そんな敵情視察みたいに身を隠しながら向かっていくな! こんな遠くの店じゃ競争相手にはならないって!」
「確かにうちの店はほとんどお客さんが来ないですし、このような人通りの多い商店街のお店とは比べるべくもないですね」
「そんな卑屈にならないでよ。あの店も常連になればかなりいい店だよ」
「ですが立地はどうしようもないです——」
 と、その時、汐はハッとなにかに気付いたように振り返る。
「先輩っ」
「え、なに。どうしたの?」
「周りを見てください」
「周り……?」
 こんなやり取りさっきもあったな、などと思いつつ夕陽も周囲に視線を巡らすと、再び目を見開く。
 また、同じ事態が起こっていた。
「なんだ今日は、一日に二度も起こっていいことじゃないぞ、こんなの……!」
 周りを見渡す。そこかしこに、様々な店が立ち並んでいる。
 しかし、人は一人もいなかった。賑わっていたはずの商店街から、夕陽と汐を除くすべての人間が消え失せていた。
「またあいつの仕業か……!?」
「いや、違うぞ夕陽! これは神話空間だ!」
「神話空間……いつの間に……」
「お兄様と一緒で油断していたことは認めるけど、まったく気づかなかったわ……!」
 また記がヘルメスの力を使ったのかと思ったが、そうではないようだ。言われてみれば、確かに神話空間の中にいる感覚を感じる。
「また【師団】のクリーチャーか、それとも“ゲーム”参加者か……?」
「どちらでも構わないですが、先輩」
「そろそろ来るわよ」
 刹那。
 空から、なにかが降って来た。
「っ、クリーチャーの方か……!」
「《桜舞う師匠》に《サイレンス トパーズ》ですね」
 二体のクリーチャーは、夕陽と汐を挟み込むようにして落下し、二人の退路を塞いでいる。
「逃げることはできない、か」
「構わないですよ。どの道、迎撃するだけです」
 夕陽と汐は、互いにデッキを取り出し、背中合わせになってそれぞれクリーチャーと相対する。
「だよね。アポロン」
「おう! いつでも行けるぜ!」
「アルテミス、準備はいいですか」
「当然。お兄様の前で恥はかけないわ」
 そして。
 二人はそれぞれ、戦いの場へと誘われる。

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.580 )
日時: 2014/07/06 13:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 夕陽と桜舞う師匠とのデュエル。
 夕陽の場には《エコ・アイニー》が一体。一方、桜舞う師匠の場も《正々堂々 ホルモン》一体だけ。
「私のターン。《進軍する巨砲 クロムウェル》を召喚」
「《クロムウェル》……?」
 訝しむような視線を向ける夕陽。桜舞う師匠そのものはビーストフォークだが、呼び出すクリーチャーはアウトレイジばかりだ。
「なんか引っかかるけど……まあ、とりあえず置いておくか。僕のターン《ボルシャック・NEX》召喚。その能力で、山札から《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに」
 夕陽は着々と準備を整える。マナも溜まり、ファイアー・バードやドラゴンも並び始めた。
 そろそろ攻め時だが、攻勢に出るのは相手の方が早かった。
 そして、唐突だった。
「私のターン、呪文《ヒラメキ・プログラム》。《クロムウェル》を破壊」
「《クロムウェル》に《ヒラメキ・プログラム》って……」
 嫌な予感がする。
 桜舞う師匠の山札が捲られていき、《クロムウェル》よりコストの1高い、コスト6のクリーチャーが現れる。
「山札より《桜舞う師匠》をバトルゾーンへ。さらに《クロムウェル》のシールド・ゴー発動です」


桜舞う師匠(デイリノジカン) 自然文明 (6)
クリーチャー:ビーストフォーク/ハンター 6000
このクリーチャーが攻撃する時、「ガードマン」を持つクリーチャーを1体、自分の手札またはマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー


進軍する巨砲(アイアンキャノン) クロムウェル 火文明 (5)
クリーチャー:アウトレイジ 4000
このクリーチャーが、各ターンはじめて攻撃する時、アンタップする。
シールド・ゴー
このクリーチャーが自分のシールドゾーンに表向きであれば、バトルゾーンにある自分のクリーチャーはすべて「スピードアタッカー」を得る。


「っ、そう来るか……!」
 歯噛みする夕陽。綺麗にコンボを決められてしまった。
 コスト5の《クロムウェル》を《ヒラメキ・プログラム》でコスト6の《桜舞う師匠》に変化させる。この時、破壊された《クロムウェル》はシールド・ゴーでシールドになり、味方をすべてスピードアタッカーにする。そして《クロムウェル》をヒラメいて呼び出した《桜舞う師匠》は、攻撃時に手札かマナゾーンからガードマンを踏み倒す。
 つまり、
『私で攻撃。その時、手札より《真実の名 ニドギリ・ラゴン》をバトルゾーンに!』
「やば……!」
 このターンで勝負を決めるつもりなのだ。
『私でWブレイク! 続けて《ニドギリ・ラゴン》で攻撃!』
「くぅ……っ!」
 まず、《桜舞う師匠》が夕陽のシールドを二枚切り裂く。続けて《ニドギリ・ラゴン》も突撃して来るが、
『その時、《ニドギリ・ラゴン》の能力発動。各ターン初めてタップした《ニドギリ・ラゴン》は、アンタップされます! Wブレイク!』


真実の名(トゥルーネーム) ニドギリ・ラゴン 火文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アンノウン 7000
ガードマン
各ターン、このクリーチャーがはじめてタップした時、アンタップする。
W・ブレイカー


「が……っ!」
 《ニドギリ・ラゴン》の斬撃により生じた衝撃波が、鋭い痛みとなって突き抜ける。
 この時点で夕陽のシールドは残り一枚。だが《桜舞う師匠》の場には、今しがた起き上がった《ニドギリ・ラゴン》と《ホルモン》が残っている。
『《ホルモン》で最後のシールドをブレイク! そして《ニドギリ・ラゴン》! とどめです!』
 夕陽の残り一枚のシールドを、《ホルモン》が切り捨てる。そしてシールドを失った夕陽に、《ニドギリ・ラゴン》が二度目の特攻をかけて来るが、
「っ……させるか! S・トリガー発動《熱血龍 バトクロス・バトル》を召喚!」


熱血龍 バトクロス・バトル 火文明 (8)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン 7000
S・トリガー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでもよい。このクリーチャーとそのクリーチャーをバトルさせる。
W・ブレイカー
相手のターン中にこのクリーチャーをバトルゾーンに出した時、そのターンの終わりにこのクリーチャーを自分の山札の一番下に置く。


 夕陽の最後のシールドから、ドラゴンが飛び出す。数少ないドラゴンを種族に持つS・トリガー獣、《バトクロス・バトル》。
 その能力は、登場時に相手クリーチャー一体とバトルすること。つまり、疑似的な7000の火力として働くS・トリガー獣だ。連ドラのような構成を取る夕陽のデッキにおける、守りの要を担うクリーチャーである。
「《バトクロス・バトル》の能力で、《ニドギリ・ラゴン》と強制バトル! 相打ちだ!」
『むぅ……致し方ないですね。ターン終了』
 S・トリガーで九死に一生を得た夕陽。しかし盤面は、夕陽がシールドゼロに対し、《桜舞う師匠》のシールドは《クロムウェル》と合わせて六枚。クリーチャーの数は大差ないが、あと一撃でも喰らえば夕陽の負けだ。
「……まあ、このくらいならなんとかなるだろ。《ジャックポット・バトライザー》を召喚! スピードアタッカーの《ジャックポット》で《桜舞う師匠》を攻撃!」
『むっ、ぬぅ……!』
 《ジャックポット》の刃と《桜舞う師匠》の刃が切り結び、鎬を削る。しかし、すぐに《ジャックポット》が押し切り、《桜舞う師匠》が真っ二つになった。
「このバトルは《ジャックポット》の勝利! よって《ジャックポット》の能力発動!」


ジャックポット・バトライザー 火文明 (8)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン 8000
スピードアタッカー
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルに勝った時、自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せてもよい。その中から進化ではないドラゴンを1体、バトルゾーンに出し、その後、残りを墓地に置く。


 《ジャックポット・バトライザー》がバトルに勝った時、山札からドラゴンを踏み倒すことができる。単純に考えれば《竜星バルガライザー》に近い能力だが、条件がバトルに勝つことと厳しい代わりに、山札の上から三枚を捲れるので不発が少ない。その上、狙ったクリーチャーを呼び出しやすい。
 この能力で捲れたカードは《爆竜 GENJI・XX》《セルリアン・ダガー・ドラゴン》《永遠のリュウセイ・カイザー》の三枚。
「《永遠のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに! さらに自分の火のクリーチャーがバトルに勝ったことで、《爆竜勝利 バトライオウ》をバトルゾーンに!」
 一度のバトルで二体のドラゴンが並ぶ。これで夕陽の攻勢は整った。
「まずは《エコ・アイニー》で《ホルモン》を破壊! 続けて《リュウセイ・カイザー》でWブレイク!」
 桜舞う師匠のクリーチャーはすべて破壊され、シールドの《クロムウェル》もいなくなったので、スピードアタッカーで奇襲されることはなくなった。
 さらに夕陽の攻撃は続く。
「《リュウセイ・カイザー》の能力で、僕のクリーチャーはすべてスピードアタッカーだ! 《バトライオウ》でWブレイク! さらに《ボルシャック・NEX》でもWブレイクだ!」
 《バトライオウ》の剣と、《ボルシャック・NEX》の爪が、桜舞う師匠のシールドをすべてブレイクする。S・トリガーも出ない。
 怒涛の攻めの最後に、小さき火の鳥が突貫する。

「《コッコ・ルピア》で、ダイレクトアタックだ!」


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