二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.75 )
- 日時: 2013/07/29 03:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
光ヶ丘姫乃の場には《緑神龍ジオグラバニス》と《緑神龍グレガリゴン》が一体ずつ。シールドは五枚。
一見すればそこまで悪い状況ではないが、しかしデュエマは片方のプレイヤーを見ることより、相手と比較することが重要なのだ。
相手——金守深はシールドが三枚。だが場には、二体の《光器パーフェクト・マドンナ》に《雷鳴の守護者ミスト・リエス》《邪脚護聖ブレイガー》《魔光王機デ・バウラ伯》《墓守の鐘ベルリン》《破滅の女神ジャンヌ・ダルク》そして——『神話カード』、《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》。
圧倒的なまでのフィールドアドバンテージの差、そして《ミスト・リエス》の存在から手札の枚数すらも大きく突き放されている。姫乃が勝っているのは、なけなしのシールド枚数と、マナぐらいだ。
そして、姫乃が死刑宣告を受け、訪れた深のターン。ここが、処刑の時間だ。
「呪文《ヘブンズ・ゲート》で《魔光王機械デ・バウラ伯》と《天国の女帝 テレジア》を召喚。《デ・バウラ》の効果で《ヘブンズ・ゲート》を再び回収」
さらなるブロッカーが立ち並ぶ。しかも《テレジア》はターンの初めに光のブロッカーを場に出す能力があり、《ミスト・リエス》もいるので手札は枯渇しない。仮にこのターンや次のターンを生き延びても、深のブロッカーはどんどん増え続ける。
「そして、これで終わりだ——崇めよ、神格化されし太陽。照りつける陽光と輝く祈り、あらゆる闇を浄化せよ! 召喚、《光器アマテラス・セラフィナ》!」
光器アマテラス・セラフィナ 光文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札を見る。その中から、コストの合計が4以下になるよう、好きな数の光または闇の呪文を選び、自分の墓地に置いてもよい。その後、山札をシャッフルする。選んだ呪文を、コストを支払わずに唱える。
W・ブレイカー
「《アマテラス・セラフィナ》……!」
分かる、先ほどの《テレジア》もそうだったが、これも姫乃のかつての仲間。そして、かつてその力を顕現させていたがゆえに、姫乃には深の次の一手が読める。
「《アマテラス・セラフィナ》の効果で、デッキから呪文を唱える。さあ、堅牢なる光の壁たちよ、その身を研ぎ澄まし、目覚めよ! 《ダイヤモンド・ソード》!」
《ダイヤモンド・ソード》、ブロッカー特有の攻撃不可能力をや召喚酔いを打ち消し、あらゆるクリーチャーの攻撃を1ターンのみ可能とさせる呪文。
そして言うまでもないが、深の場には大量のクリーチャーが並んでいる。そのほとんどはブロッカーか、召喚酔いのあるクリーチャーだ。しかしその縛りも、このターン内では無意味。
「終わりにするぞ、姫乃。寄せ集めのデッキでよくここでま戦った、そのプレイングには好感が持てる。だが、これまでだ」
言われるまでもない、十体ものいるクリーチャー軍団を止めることなど、姫乃にはできない。タップ系の呪文は《ヴィーナス》の効果で無力となり、除去系のカードを使うにしても、深のクリーチャーを一体や二体減らしたところで戦況に大きな変動はないだろう。
「……行け、お前たち。《パーフェクト・マドンナ》でシールドをブレイク!」
《パーフェクト・マドンナ》の放つ熱戦が、姫乃のシールドを破壊する。その余波が飛散し、姫乃はシールドの破片を被った上から傷口を焼くかのような熱風に晒された。
「っ、あ、くぅ……!」
「《テレジア》! W・ブレイク!」
次は《テレジア》。紫色の光弾が無数に放たれ、一気に二枚のシールドが粉砕される。同時に残る光弾が、姫乃の小さな体躯を掠めた。
「っ、う……!」
「《アマテラス・セラフィナ》、W・ブレイクだ!」
最後は《アマテラス・セラフィナ》。容赦を知らない彼女は、最高出力の砲撃を行うべく、力を最大限に凝縮し、濃縮する。その様子を眺めている深の表情は、勝利を確信し、無意識的に緩んでいた。
一方、姫乃は二度の攻撃で意識が朦朧としかけている。劣悪な生活環境もあってあまり体が丈夫でない姫乃は、三枚のシールドを失うだけでもうボロボロだった。
(ダメ、だったのかな……やっぱりわたしじゃ、この人には勝てないのか……)
ふらつく足を辛うじて立たせ、不明瞭になりつつある眼で前を見つめる。そこにあるのは、今正に砲撃を行おうとしている《アマテラス・セラフィナ》と勝利を確信した教祖。
(なんか、いろいろ言ってた気がするけど、やっぱり意地の悪い人だよ……最後の最後で、わたしのカードでシールドを割るなんて……ちょっと小物っぽいところは、全然変わんないな……)
姫乃は力なく、乾いた笑みを浮かべる。酷く自嘲的で、自虐的な笑みだ。
(……笑ってる場合じゃないや。どうしよう……じゃなくて、ごめんね、空城くん……負けちゃった。もう、逆転なんて無理だよ……)
そもそも、姫乃には深の攻撃を止める術がない。初撃で来たS・トリガー《DNA・スパーク》でも、次の攻撃で来た《ナチュラル・トラップ》でも、深の攻撃は止められない。
(やっぱりわたしじゃ、ダメだよね……ブランクもあるし、デッキだってありあわせ……勝てるはず、ないよ)
それに、
(あの人に勝てたことなんて、一度もない……いつも負けてた。それでも楽しかったな……)
次々と胸の内で言葉が溢れてくるが、気付けば姫乃は既に攻撃を受けていた。
《アマテラス・セラフィナ》の二本の光線が、姫乃の最後のシールドを貫く。
(最後は《ヴィーナス》で来るのかな……なんでもいいか。どっちみち、わたしは負け、もう終わりなんだから、なにでとどめを刺されても、関係ない——)
と、ゆっくりと瞼を下ろす姫乃。最後に見たのは、こちらに手をかざしている《ヴィーナス》の姿——
「光ヶ丘!」
——ではない。
「っ!?」
一瞬のうちに覚醒する姫乃。反射的に、音源を辿る。
その先にいたのは、まだ信者の誰かと戦っている、一人の少年だ。
「ここまで来といて諦めるなよ! 諦めなかったから、お前は今、ここにいるんだろ!? それに、なんのためにあの“カード”を入れたと思ってるんだ! 諦めずに、デッキを信じて戦うからじゃなかったのか!?」
一気に、捲し立てるように言葉を乱打する少年。彼は軽く酸素不足で息も絶え絶えにしていた。
「……なにを今更。デュエマはそんな根性論でなんとかなるものではない、好感が持てん言い分だ。どの道お前の負けだ、姫乃」
だが深のその言葉は、姫乃には届いていない。姫乃の視界広がっているのは、ほんの一時間前のことだった——
姫乃のデッキをある程度実戦に耐えうるものにするための改造を施すにあたって、まずはデッキカラーを決めることにした。
そしてそれはすぐに決まる。姫乃の所持カードには光と自然に有用なものが比較的多くあったので、その色を中心に組むという方針で固まっていた。
汐や夕陽のアドバイスを元に、基本戦術とマナカーブを考慮しながら、メインとなる戦術を支柱にした構築を行う姫乃だったが、最後に一枚だけ、デッキスペースが余った。
最後の一枚を選ぶ時が、デッキビルティングでの悩みどころなのだが、しかし姫乃はその一枚をあっさりと決めた。というより、最初から決めていたかのような手つきだった。
「ん? それ、入れるの?」
「うん。色も合うし、このデッキは守りが薄いから、ピッタリだと思うの」
「いやまあ、そうかもしれないけど……使いにくくない、それ?」
「そうだね。確かにちょっと使いどころは選ぶけど……でも、これはいつもわたしを守ってくれた、大切なカードだから」
「大切な?」
「そう、大切なカード。わたしが最初に手に入れたカードなんだ。色が合わなくても、このカードは絶対に入れてた。おとうさんたちにデッキを取られちゃった時も、このカードだけはすぐに抜き取ったんだ」
「……そっか。思い入れが強いカードなんだね。そこまで言うんなら止めないよ。もしもの時、そのカードが来るといいね」
「……うん!」
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.76 )
- 日時: 2013/07/29 20:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
光が収束する。貫かれた最後のシールドが、光を束ねて顕現する。
「S・トリガー、発動! 《調和と繁栄の罠》!」
調和と繁栄の罠 光/自然文明 (5)
呪文
S・トリガー
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
文明をひとつ選ぶ。次の自分のターンのはじめまで、その文明のクリーチャーは自分を攻撃することができない。(この呪文を唱えた後にバトルゾーンに出たクリーチャーも含まれる)
「な……っ! 《調和と繁栄の罠》だと……!?」
姫乃の最後の切り札。その発動を目の当たりにし、深の表情が一瞬にして崩れる。
タップしても、除去しても無意味なのなら、攻撃そのものを止めればいい。簡単にできることではないが、このカード——《調和と繁栄の罠》なら、それができる。
深のデッキは、光が中心のコントロール系デッキ。闇の呪文はあるが、闇単色のクリーチャーは存在しない。ゆえに、彼の場のクリーチャーは、たった一つの言葉で全てを止めてしまう。
「……光」
小さく、呟いた。
刹那、神々しき閃光が放たれ、深のクリーチャーはすべて停止する。攻撃を止め、鋭く研がれた身も丸くなっていく。
姫乃を倒す刃となった光の壁たちは、その閃光でただの壁と成り果ててしまった。
「馬鹿か、まだそんなカードを入れていたのか……! 幼い時なら、まだファンデッキ気分で、レアリティが高いという理由だけで入れていて不思議はなかったが、まだ入れているのか……そんな、大した力もない、弱小なカードを!」
「その弱小なカードに止められたのはあなただよ、“深さん”」
懐かしい彼の名を呼びつつ、デッキからカードをドローする姫乃。どうせ彼はなにもできない、ターンを終える宣言をするのを待ってはいられない。
「くっ、だが! たかだか1ターン止められただけだ! 次の私のターンには、ダイレクトアタックが決まる!」
「じゃあなんで、そんなに狼狽えてるの? なんで、そんな慌ててるの?」
少しだけ、悪戯っぽい笑みを零す姫乃。
「それって、直感的に分かっているからだよね、深さん。このターンで、わたしがあなたを倒すだけの戦力を揃えられることを」
そして、手札からカードを抜き取っていく。
「まずは呪文《DNA・スパーク》」
「無駄だ! 《ヴィーナス》の能力で、私のクリーチャーはタップされない!」
知っている。だがこのカードの意味は、クリーチャーのタップではない。
「《DNA・スパーク》の効果で、シールドが二枚以下だからシールドを追加。さらに、マナ進化《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》」
密林の総督ハックル・キリンソーヤ 自然文明 (3)
進化クリーチャー:ドリームメイト 5000
マナ進化—自然のクリーチャーを1体自分のマナゾーンから選び、このクリーチャーをその上に重ねつつバトルゾーンに出す。
シールド・フォース(このクリーチャーをバトルゾーンに出す時、自分のシールドを1枚選んでもよい。そのシールドがシールドゾーンにある間、このクリーチャーは次のSF能力を得る)
SF—自分のクリーチャーは、それよりパワーの小さいクリーチャーにブロックされない。
「なんだ……私のブロッカーを掻い潜って攻撃するつもりか? だが、お前のクリーチャーのパワーでは不可能だ!」
「まだ終わってない。次は呪文《母なる星域》。《緑神龍グレガリゴン》をマナに戻して——」
マナから、進化クリーチャーが飛び出す。
「——マナ進化GV《超天星バルガライゾウ》!」
超天星バルガライゾウ 自然文明 (9)
進化クリーチャー:アース・ドラゴン/フェニックス/サムライ 15000
マナ進化GV—ドラゴンを3体自分のマナゾーンから選び、このクリーチャーをその上に重ねつつバトルゾーンに出す。
メテオバーン—このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるカードを3枚選び墓地に置いてもよい。そうした場合、自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中から進化ではないドラゴンを好きな数、バトルゾーンに出してもよい。残りを墓地に置く。
T・ブレイカー
「……っ!」
遂に言葉を失った深。パワー15000など、深のクリーチャーで止められるパワーではない。そもそも、こちらの方がパワーが低いのなら《ハックル・キリンソーヤ》の能力ですり抜けられてしまう。
だがそれでも、深は落ち着きを取り戻そうとしていた。確かに《バルガライゾウ》の攻撃で深のシールドはすべて吹き飛ぶ。だが深のデッキにはそれなりに多くのS・トリガー呪文が搭載されているのだ、一枚でも出てくれば、このターンを凌げる。
だがそんな深の考えも、儚く散ることとなる。
「これで最後、呪文《魂の呼び声》でキング・コマンド・ドラゴンを山札の上にセット」
姫乃が山札の上に積み込んだ、たった一枚のカードを見て、まだ勝機を見出していた深の顔が絶望に沈む。
「行くよ……《超天星バルガライゾウ》で攻撃! そしてメテオバーン発動!」
《バルガライゾウ》メテオバーンで、進化元となった三体のドラゴンが墓地へと行く。それと同時に、山札の上から、三枚のカードが舞い降りた。
二枚は外れ、墓地へと着地する。しかし、残る一枚だけは——
「——出て来て、《偽りの王 ナンバーナイン》!」
偽りの王(コードキング) ナンバーナイン 光文明 (9)
クリーチャー:キング・コマンド・ドラゴン/アンノウン 9000
相手は呪文を唱えることができない。
W・ブレイカー
呪文を封じる、たった一つのシンプルな能力。それだけで、深の逆転の芽は完全に摘み取られた。
《バルガライゾウ》の息吹が深のシールドをすべて吹き飛ばす。皮肉なことに、三枚ともS・トリガー。しかし呪文だ。《ナンバーナイン》に封殺されてしまう。
「そして、これで終わり。《ジオグラバニス》は自分の他のタップされているクリーチャーのパワーを吸収する!」
緑神龍ジオグラバニス 自然文明 (7)
クリーチャー:アース・ドラゴン 6000+
攻撃中、バトルゾーンにあるタップされている自分の他のクリーチャーすべてのパワーを、このクリーチャーのパワーに加える。
W・ブレイカー
「くっ、ぐぅ……お前も、やはりお前も、結局は利己を追及するただの人間だ! 実利を求める現実と、救いを求める理想が我々の理念だ! 私の意志だ! それを、私の救いは——昔の天使のように純真で無垢なお前はどこへ消えた!?」
遂に気が狂ってしまったのか、当たり散らすように叫ぶ深。だが姫乃は、静かだった。
静かに、言葉を返す。
「だから変わったんだよ。それに、わたしは普通の人間だよ? ちょっと貧乏で、体弱いだけの、ね」
そして《ジオグラバニス》が動き出す。
攻撃中に限り、《ジオグラバニス》は《バルガライゾウ》のパワーを吸収する。深のブロッカーでは、止められない。
「《緑神龍ジオグラバニス》で、ダイレクトアタック——!」
初めて彼に勝てた。友人との約束を果たしたことよりも、姫乃としては、そちらの方が少しだけ嬉しかった。
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.77 )
- 日時: 2013/07/30 06:57
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
【慈愛光神教】が拠点とする聖堂は、見た目以上に広い。中で一人二人の人間が暴れたところで、そうと知らない限りなかなか分からない。
それが何を意味するかというと、たとえば夕陽たちが真正面から聖堂に突っ込んでいった。それとは逆に、聖堂の裏手から忍び込む者がいても、夕陽たちがその存在に気付くことはないだろう、ということだ。
さらにもう一歩進めると、仮に聖堂に裏から侵入した者が戦闘要員の信者を倒せば、それだけ真正面から突入する者の負担が減る、ということにもなる。
「《死神術士デスマーチ》でダイレクトアタック」
それはさておき、信者の一人と思われる男が吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。同時に頭も打って気絶した。
「……終わったか」
そこは礼拝堂ではなく、聖堂内の長い廊下だった。床には何人もの信者が転がっている。
そんな者たちには見向きもせず、若い風貌の男が呟いた。前髪が長く顔は伺えないが、どこか陰気な雰囲気のある男だ。
男の呟きの意味は二重にあった。一つは、男自身の状況。周りを見渡しても、立っているのは男一人。新たな信者が出て来る気配もない。
もう一つは、礼拝堂で行われていたであろう、大規模な戦い。大規模と言っても、デュエマなのだから二人で行うものだが、しかし強大な気配は感じられない。つまり、そこでの戦いは終わった、ということだ。
その二つの事柄を認識し、男はポケットの中にある物体が震えていることに気付く。その物体——携帯電話をを手に取ると、普通に耳に当てる。そこから聞こえてくるのは、聞き慣れた女の声。
『やほー、もうフィニッシュした?』
見透かしたような発言。相手はもう女性と呼べる年齢に達しているのだが、若干舌足らずな幼げのある声と朗らかな口調のミスマッチに顔をしかめる。
「……ええ、まあ。今さっき終わったとこです」
『さっすが、グレイトな手腕だね! だったらもうリターンしてもいいよ』
「元よりそのつもりです」
真面目に取り合うのも面倒なので、適当に返す。すると、ケタケタと笑う声が聞こえてきた。
『クールだねぇ、相変わらず。一応確認だけど、『昇天太陽』君たちはウィナーなんだよね?』
「そのはずですよ……そうだ、一つ聞いてもいいですか?」
『ん? へー、珍しいね、君のクエスチョンなんて。いいよいいよ、ホワット?』
「俺がわざわざこんな雑魚共を狩りに来る必要、あったんですか?」
自分の仕事にケチをつけるつもりはないが、しかし理由ははっきりさせたかった。今回の仕事は急に言いつけられたため今まで聞く余裕がなかったが、向こうからかけて来たのだからついでに聞くのも良いだろう。
『必要はあるよ、ありまくりだよ、ベリーニード! ほら、私って宗教とかドントライクだから!』
「……本気ですか?」
『いや? 嘘だよ? ジョークだよ?』
サラッと言う彼女。この辺の適当に腹立つが、いちいち気にしていたら身が持たないのでスルー。
『本当のところは、観察対象を分散させるため。私たちからしたら、『神話カード』はいろんな人にばらけて持ってもらった方が効率がグッドだからね。それに観察者である君の負担も減るし』
「あなたが俺の負担を真面目に考えているとは思えないですけど。まあ、概ね同意です」
『それにあのカルト宗教、情報がサーチしづらいんだよね。表社会と裏社会の狭間にいるっていうか、いろいろ悪いことやってるくせにそれがフロートしないんだ。そーいうのは邪魔、いらない子』
「理屈としては、分からなくもないですね」
自分にとって都合の良い相手と都合の悪い相手、味方をするならどちらか。そんなのは誰に聞いたって同じ答えを返すだろう。つまりはそういうことだった。
『ま、なんにせよリーダーである『崇拝教団』がやられちゃったら、カルトもジ・エンドでしょ。《ヴィーナス》は……えっと、光ヶ丘姫乃ちゃん? だっけ? のハンドに渡って、そのガールもこれからの“ゲーム”に巻き込まれる、と』
何もおかしなことはない、自分たちの界隈ではよくある話だ。ただ、高校生がそのような事態になるは、少々珍しいが。
『それじゃそろそろ通話もフィニッシュ! ……の前に、二個ほど』
「一個ではなのですか」
『うん、二個。まず一個目』
声のトーンを変えずに、彼女は言った。
『【帝国師団】の連中、動きがスタートしたっぽい。まだ前段階だけど』
「【神聖帝国師団】……また厄介な奴らですね、予想はしていましたが……で、二つ目は?」
『こっちも動きをスタートしだす。つっても【師団】に対してじゃなくて、『昇天太陽』、空城夕陽君らに対して、だけどね』
またも、声のトーンを変えずに言った。
しばしの沈黙。やがて、電話の奥の彼女が最後の言葉を発する。
『では、引き続き頑張ってくれたまえ“『傀儡劇団』“君』
「了解です……“所長”」
そして、通話は切れた。
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.78 )
- 日時: 2013/08/04 08:19
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
教祖、金守深を倒し、夕陽たちはめでたくデッキと『神話カード』を取り返すことに成功した。
……と、それだけで終わらないのが、現実だ。
とはいえ、その代償にまた何かを失ったと言えば、そういうわけではない。ただ、まだすべてが解決していないということだ。
まずは教祖、金守深の処遇。彼は姫乃に敗北した後、警察に捕まったらしい。夕陽たちが山を下りた直後に駆け付けたようだが、誰が通報したのだろうか。甚だ疑問である。
ちなみに逮捕された際の罪状は、窃盗、傷害、詐欺、そのた軽犯罪多数とのこと。どうも『神話カード』を探すにあたって、いろいろと悪さもしていたようだ。
そして教祖が逮捕されたと同時に、【慈愛光神教】は事実上の解体。信者たちも散り散りになっていった。《ヴィーナス》の信仰心をより強めていた力も消え、根っからの信者がほとんどいなくなったのも大きな要因だろう。
とまあ、そんなことがあった後日、夕陽たちは、いつものように『御舟屋』に来ていた。ただし今日は、いつもより一人増えている。
「——で、気になってたんだけど、光ヶ丘とあの教祖って、その……どういう関係なの?」
増えているのは、言わずもがな、光ヶ丘姫乃。半ば無理やりこのみが引っ張ってきたのだが、本人もまんざらではないようだ。
今日は、先日の清算というか、気になっていたことを解消するための日だった。
「うーん、どんな関係って言われても、なかなか答えられないんだけど……師弟関係、みたいな感じだったかな? 少なくとも、小さい頃のわたしはあの人に憧れてたし、あの人みたいになりたいって思ってた。向こうがわたしのことをどう見てたのかは知らないけど」
夕陽は思い返す、最後に教祖が放っていた言葉。声を荒げ、支離滅裂で正直その言葉の意味はよく分からなかったが。
ただ、後から知ったことだが、金守深は精神的な疾病があったらしい。どういうものか、詳細は分からないが、精神的な障害があり、人と考え方がずれているところもあったようだ。
そんな人物だからこそ、宗教団体の教祖となり得、『神話カード』の力に魅せられたのかもしれないが。
なんにせよ、それは誰にも分からないことだ。これ以上の追及は無意味だろう。だから次は、よりリアルで突っ込みにくいことだが、しかし聞いておかなければならないことを尋ねる。
「じゃあ、その……光ヶ丘の家は、どうなったの……?」
「まだちょっとぎくしゃくしてるとこはあるけど、わたしがお説教して分からせたよ」
しどろもどろになる夕陽と対照的に、姫乃は即答した。しかも胸を張っている。姫乃の説教に如何ほどの説得力があるのかは知らないが、しかし胸を張るほどの成果が得られたのか疑問ではある。
「ただ、おとうさんやおかあさんは、あの宗教団体で情報収集? みたいな仕事をしてたみたいで、わたしの家の収入は全部それだったんだよね……」
「え……ってことは、光ヶ丘の家って、今……」
収入がない家庭がどうなるのか、経験したことのない夕陽には分からないが、想像することは難しくなかった。
しかし、姫乃は首を横に振る。
「日本は生活保護の制度とかがあるから、今は大丈夫。おとうさんもすぐに仕事が見つかりそうって言ってたし。でも……」
「でも?」
そこで、姫乃は少し悲しげな、憂いのある表情を見せる。
「最悪、本当に最悪の場合、授業料が払えなくなって、学校をやめることになるかもしれないんだって」
「えぇ!? それはダメ、絶対!」
真っ先に反応したのはこのみ。だが、高校は義務教育ではないため、そのような事情があるのなら仕方ないとも言える。
だがそれでも、夕陽とて姫乃に学校をやめてほしいわけではない。
「つまり、生活費を稼ぐのに精一杯だから、授業料まで払えない、ってことだよね……」
「うん。でも、本当に最悪の場合で、今はまだそういう心配はないよ」
口ではそう言うが、その辺は姫乃の両親もぼかしているのだろう。いまいちはっきりしない物言いだ。
金銭の問題では夕陽たちもそう安々と手が出せない。かと言って姫乃に自主退学をしてほしくもない。どうすることもできず、その場の全員が沈んでいると、ふと汐が口を開いた。
「……ならば、光ヶ丘さんの父親の収入の他にも、生活費の足しになるような収入があれば、その可能性は回避できるかもしれない、ということですね」
「それは、そうか……」
とはいえ、姫乃はまだ高校生だ。できてアルバイトが精々だが、このご時世ではそう簡単にバイト先は見つからない。体が弱い姫乃となればなおさらだ。
しかし、
「だったらあたしに名案があるよ! タイミングもバッチリだ!」
そこで、このみが目を輝かせて勢いよく立ち上がる。もっと大人しくしてろと言いたいが、とりあえず話は聞く。
「名案ってなに?」
「バイトだよ、バイト! アルバイト!」
「そこからかよ……勤め先はどうするんだ、この辺じゃあ求人募集してるとこはあんまりない——」
「うちに来ればいいじゃん」
あっさりとのたまうこのみ。だがその一言で、姫乃以外の全員が納得した。
「ちょうどこの前一人やめちゃったし、新しい子を補充しなきゃっておねーちゃん言ってた。姫ちゃんなら可愛いし、絶対採用だよ!」
「補充て……でもまあ、そうか、その手があったな」
「身内贔屓のようで心苦しいかもしれないですが、実利を求めるのなら有益になる点が多いですね」
どんどん進んでいく話に、姫乃一人だけが取り残される。
「え? え? 春永さんの家って、一体……?」
「喫茶店だよ、『popple』っていう。うちの学校の子もけっこー来てるんだ」
「あそこなら店長も気が利いてるし、大事になることはないと思うよ。ただ、あそこの制服を着る勇気があればの話だけど」
「だいじょーぶだよ! 特注品はあたしのだけだから!」
「いや、そんな話はしてない……ただあのデザインはどうなんだと個人的に疑問を覚えるんだが……」
と、こんな感じで。
なし崩し的に姫乃のバイト先が決まってしまったその時、店の奥の扉から一人の男が現れる。
「お? なんだお前ら、来てたのか」
それは澪だった。両腕に段ボール箱を抱え、適当に床に積み上げている。
「ただいまです、兄さん」
「やっほー、澪にーさん」
「お、おじゃましてます……」
「おう……んん? 今日はなんか一人多いな」
そこで初めて姫乃の存在に気付いたらしい澪は、真っ先に夕陽のところに向かう。
「なんだ主人公、また女が一人増えたのか」
「嫌な言い方しないでください! 友達ですよ!」
澪の発言に猛反発する夕陽。当然の反応ではあるが。
「そういやさっき、バイトがどうのこうの聞こえてきたが、それで一つ思い出した」
唐突に話題が変わる。というか、澪はさっきまでの会話を聞いていたようだ。「来てたのか」などとよくも白々しいことを言えたものである。
「お前らもうすぐ夏休みだよな。実は俺の昔のダチから連絡があってな、海の家でバイトしないかって誘いが来てんだ」
「海の家でバイト? また急ですね。っていうかここ内陸県ですよ?」
「ああ、だから隣の県だな……で、どうせお前ら暇だろうし、俺の代わりに行ってこい」
「命令形ですね……ですが兄さん、わざわざ私たちを頼らなくても、普通に求人募集すればいいのでは?」
「それで集まらないから、こうして頼んでんだろ。毎年バイトを雇ってるらしいが、今年は集まりが悪いらしくてな。とりあえず夏休みの数日間だけでいいから来てほしいそうだ。ま、お前らには適任の仕事内容らしいしな?」
「なんか怪しいな……」
常時ポーカーフェイスの澪は、何を考えているのか表情からは読み取れない。
正直に言えば、夕陽としてはこんなわけの分からない怪しげな誘いに乗せられたくはない。澪には世話になっていることも多少なりともあるが、逆に乗せられたことも何度かある。迂闊に信用はできない。ふと隣を見遣れば、汐も同じことを思っているようだった。
しかし、世の中は多数決がものをいう社会。そしてこの場には、不幸なことに奇数で数えられるだけの人間がいる。
「いいね海! 行きたい行きたい! 澪にーさん、海に連れっててくれるの!?」
「海かぁ、幼稚園の頃に一回だけ行ったっけ……懐かしいなぁ」
超乗り気が一名、やや乗り気が一名、乗せる気が一名と、二対三で夏の海のアルバイトは可決された。
「結局こうなるのか……」
「仕方ないですね、S・トリガーを踏んだと思って諦めるしかないです」
嘆息する夕陽と汐。このみは姫乃の手を掴んではしゃいでいる。
今この時から、その光景が彼らの日常になったのは、言うまでもないことだ——
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.79 )
- 日時: 2013/08/05 04:27
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
六月の下旬から七月の上旬にかけて、一般的な高校ならば期末考査なるイベントが発生することだろう。それは無論、雀宮高校も例外ではなく、多くの生徒がその結果に一喜一憂していたのだった——
「……なにが一喜一憂なのさ、喜ぶ要素なんてなにもないよ、憂いしかないよぅ……うぅ……」
「おぉ、珍しくこのみが難しい言葉使ってるな。このみにしては」
「あ、あはは……」
テストの答案用紙がすべて返却された次の休み時間。一年四組の教室の一角では、いつものように夕陽とこのみによる陶犬瓦鶏なトークが繰り広げられているのだが、ここ最近はその不可侵領域に一人の女子生徒が加わった。
言わずもがな、光ヶ丘姫乃である。
「ま、お前の気持ちも分からなくもない。僕も今回は、かなり悪かったし……」
「それでも赤点ないじゃんかぁ。ゆーくんには自分の点数とあたしの点数を足して二で割るくらいの甲斐性はないのっ?」
「どんな甲斐性だ。つーかお前の点数と二分することは、自分の点数をほぼ半分にすることと同義だぞ。せめてもう少し普段の授業をちゃんと聞いてろよ」
「ううぅ……だってぇ、先週はあんなこととかあったし……」
そんなこのみの一言に、姫乃の顔がほんの少しだけ暗くなる。
「ご、ごめん……」
「あっ、いやっ、姫ちゃんのせいじゃないよっ?」
「そうだな。なにも勉強してないこのみが悪い」
先週、夕陽らと姫乃がこうして親しくするきっかけとなった出来事があった。
端的に言えば、宗教団体と戦った。そしてその戦いに助力してくれたのが姫乃である。
本来はもっと細かい点、微に入り細にわたり、詳細部分があるのだが、それは割愛し、ざっくりと大きく言ってしまうとそんな感じである。
そんなことがあり、夕陽もこのみもテスト勉強をほとんどできず、その結果がテストの点数に克明に表れたというわけである。それを姫乃は、少なからず責任を感じているようだ。
「それより、姫ちゃんはどうだったの?」
「そう言えば聞いてないね。こいつはまさかの5欠を果たしたわけだけど、光ヶ丘はどうだった?」
「あ、えっと……」
何気なく尋ねる二人だが、姫乃は逆に、しどろもどろになっていた。その様子を見てこのみが身を乗り出し、
「なになに? 悪かったの? 赤点あったの?」
「嬉しそうに言うな。いくら悪くても平均点数から既に赤点のお前以下ってことはまずないからな」
「……えぇっと」
まだどこか焦ったような風の姫乃。その挙動はどこか申し訳なさのようなものが感じ取れる。
しばらく言いあぐんでいた姫乃は、やがて諦めたように鞄からテストの答案を取り出し、
「……え、嘘!? 現代文が89点!? なにこれ! あたしなんて20点だよ!?」
「現代社会90、英語93、化学が96、数学に至っては99って。しかも微妙なケアレスミスだ……なにこの点?」
その他の教科も80後半から90点台ばかり。実技科目も落としていない。
「あ、ははは……えっと、ごめんなさい……」
項垂れる姫乃。確かにここまで高得点だったら、散々な結果の夕陽と(特に)このみには見せづらかっただろう。
「姫ちゃんすごいね、こんなに頭よかったんだ……びっくり」
「僕も驚いた。こんなに勉強できるなら、雀宮なんて基準偏差値ギリギリの高校より、もっと上を目指せたんじゃないのか?」
「う、うん、でも……ほら、わたしの家、お金とかないし、通学とかもここが便利だから……」
言われて、姫乃の家庭事情を思い出す夕陽。失言だったと口を塞ぐが、
「あー、そっか、そうだよね。うん、家から近いって重要だよね。うんうん」
「お前、僕と同じ高校行くって言って、誰が勉強の面倒見てやったと思ってるんだ。しかも結局、偏差値が上がらなかったお前に合わせて志望校のランクを下げたのはどこの誰だと思ってるんだ」
今でも密かに根に持っている夕陽。当のこのみは聞かぬ存ぜぬと言わんばかりに姫乃の答案をしげしげと眺めている。
「でもほんと、すっごい点数。保健とか家庭科とかもあたしより高いや……」
「まあ確かに、正直なこと言うと光ヶ丘がこんなに勉強できる奴だとは思わなかったな……ていうかこの点数、ざっと見た感じだと平均点数90以上あるぞ。それって学年トップじゃないか?」
「いや、それはないよ」
はっきりと、そしてきっぱりと、このみが否定する。
彼女のしては珍しく確定的な否定で、そうでなくとも夕陽の言うことはおかしなことでもない。筆記試験だけで成績が決まるわけではないが、姫乃ほどの点数を取っていれば学年でトップの成績であるかもしれないと思っても不思議はない。
なので夕陽は困惑した。便乗してくると思ったので、その戸惑いはかなり大きかった。
「それはないって……なんでそう言い切れるんだよ?」
「だって、学年の一位はクロさんだもん」
そう言ってこのみは視線を逸らす。その先には、休み時間にも関わらずどのグループの輪にも入らずに、寡黙に椅子に座り続けている一人の女子生徒の姿があった。
「クロさん? 霊崎のことか?」
霊崎クロ。その名前と容姿は、一目見ただけで夕陽もすぐに記憶したほどだ。
長い銀髪、深紅の瞳、それとモデル染みた細身でスレンダーな体型。どこを取っても純正な日本人とは思えない容貌をしている。というか、絶対に異国の血が混じっていると夕陽は思っている。
そんな目立つ容姿をしているものだから、逆ベクトルで目立つこのみと、最初はクラスの人気を二分していた。しかしこのみと正反対なのはなにも体型だけではなく、社交的でフレンドリーなこのみに対し寡黙で無口なクロと、性格面でも正反対。この場合、高校生ならどちらに近付くか、答えは小学生でも分かる。最終的には気さくなこのみがクラスの人気を獲得した。
逆にクロはクラスで孤立している。その振る舞いからすればむしろ孤高というべきかもしれないが。
「で、なんで霊崎がトップだって断定でき……ってああ、どっかから聞いてきたのか。お前のことだし」
と疑問を投げかけようとして一人納得する夕陽。しかしこのみはぶんぶんと大仰に手を横に振って否定する。
「いやいや。だってクロさん、中間テストも学年トップだったんだよ」
「いやいや、はこっちの台詞だ。それだけじゃなんの証明にもならないだろ。中間が良くても、期末で点を落とす奴はいくらでもいる。僕だってそうだ」
「だからそうじゃなくって、クロさんは中学校でも三年間成績一番だったんだって。で、その学校が……えーっと、鷺谷中学だったはず」
鷺谷中学、その名前に、驚愕とまでは行かないまでも、明確な驚きを覚える夕陽と姫乃。
「鷺谷って、市内じゃ相当頭良い中学だったよな、ここからじゃ少し遠いけど。んで、そこで三年間トップを維持してたと」
「すごいね、霊崎さん。わたしも頑張らないと」
「いや、光ヶ丘はせめて今の状態をキープしておいてくれ……僕らの精神のために」
ともあれ、その話が本当なら姫乃を押し退けてトップだと言ってもなんらおかしくはないだろう。全教科オール100点などという幻想も、もしかしたら実在するのかもしれない可能性を感じ、戦慄を覚える夕陽だった。
「ちなみにこのみ、ソースは?」
「同じ出身中学の子から聞いた。三年間一緒のクラスだったんだって」
噂とかではないようだ。となれば信憑性はそれなりだろう。
「そにれにしても、世の中にはいるんだな、そういう奴も」
「中学から今までずっとデュエマやってたゆーくんには縁のないことだね」
「お前が言うな、お前が。言っとくけど、成績不振者は明日補習だからな。お前は確実に引っかかる」
「えぇ!? 聞いてないよ、そんなの! ギリギリセーフにならない?」
「それだとちょっと、難しいんじゃないかな……?」
そんなこんなで、三人の休み時間は終了した。そして言わずもがな、五科目も赤点を取っているこのみは翌日、補習に駆り出されることとなった。
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