二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.521 )
- 日時: 2014/04/29 14:03
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
『平和が保たれていたはずの世界。しかし今、この世界のマナが枯れている。すべての命も源たるマナの枯渇により、すべての文明は徐々に衰退していくのだ。マナに溢れていたこの森も、いつまでもつか…… ---緑神龍ガラギャガス』
『徐々にだが、確実に世界を衰退へと導くマナの枯渇。その原因究明と問題解決のために、十二神話たちは急遽集会を開いた。 ---会談記録係 アクア・マスター』
『十二神話と呼ばれる者たちは、ゼロを含むそれぞれの文明に二名ずつ存在している。彼らはそれぞれの領を統治し、その文明を代表する存在であった。』
「《緑神龍ガラギャガス》《アクア・マスター》そして《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》か……」
さり気無くフレーバーテキストにめ目を落とすが、やはりそこに書かれている文章は通常のものとは違っていた。
それはさておくとして、汐に手渡された三枚のカード。これらが実体化していたようだが、見ての通りもうカードに戻っている。
なら、汐はなにに頭を悩ませているのだろうか。
「先輩は気付かないですか、その三枚のカード——いや、先輩のものも含めれば四枚のカードについて」
「え? このカードについて……?」
《スミス》も合わせて四枚のカードをもう一度見る夕陽。だが、それでなにかが変わるわけでも、汐の言いたいことが分かるわけでもなかった。
「うーん、気付かないとか言われてもな……そもそも、こいつらなんの共通性もないし——」
「それです」
またしても夕陽の言葉を遮って、しかし今度は肯定するように指を指す汐。
「《緑神龍ガラギャガス》《アクア・マスター》《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》そして先輩の《破界の右手 スミス》……これらのカードの間には、なんの共通点も存在していないのです」
「ん、まあ、確かに言われてみればそうだね」
再録も含めれば収録エキスパンションが近いが、すべて同じパックに収録されているわけではない。文明、種族、パワー、コスト、能力、サイクル——どれを取っても、この四枚に共通点は存在していなかった。
「でも、だからなんなのさ? 共通点がないからって、それがなんになるっていうんだ?」
「思い出してください、先輩。これらの実体化するクリーチャーをばら撒くのは【師団】、そしてその【師団】が、私たちに対して最初にクリーチャーを使って襲ってきた時、どのようなクリーチャーを遣わせてきたか」
「え? えっと……」
少々唐突だったので、夕陽も考え込む。夕陽自身が【師団】の送り込んできたクリーチャーと初めて戦ったのは、去年の秋、文化祭の時だ。
あの時は、イザナイと呼ばれるクリーチャーを呼び出すクリーチャーが何体が実体化しており、そのイザナイたちがまた新しいクリーチャーを呼び出すという連鎖で、数多くのクリーチャーを殲滅していた。
「そうですね、私も《天草》と戦ったですよ。では先輩、その時【師団】が放ったクリーチャーは、なんですか」
「いやだからイザナイだろ? あ、でも、僕は《神誕の大地ヘラクレス》とも戦ったか」
「ならば続けて聞くですよ。その後に【師団】が送り込んできたクリーチャーはなんですか」
汐にしては珍しく、一つの話を先送りにして次の話に移る。恐らく意図的にやっているのだろう、なにか意味があるのだろうと思いつつ、夕陽はまた記憶を辿っていく。
「えーっと……僕が戦ったわけじゃないけど《神託の王 ゴスペル》だったかな」
呪文を操るオラクルで、ひまりが苦戦していたのを覚えている。
加えて言うと、同時期に汐、このみ、姫乃もそれぞれ《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》《呪紋のカルマ インカ》《閃光の神官 ヴェルベット》と戦っている。
「さらに言えば、一番最初に【師団】のクリーチャーに襲われたのがこのみ先輩で、相手は《妖精のイザナイ オーロラ》だったそうです。そしてあの十二月の戦争の時も《戦攻のイザナイ アカダシ》《封魔のイザナイ ガラムマサラ》《爆裂のイザナイ ダイダラ》《絆のイザナイ デカブル》の四体が現れたと聞いているです。具体的なクリーチャー名を出せばもっと多くなるのですが、これらの実体化したクリーチャーたちを見て、なにか気づかないですか」
「……ほとんどオラクルだな」
言われて初めて気づいた。夕陽が神話空間以外で実体化するクリーチャーを見たのは、黒村がけしかけて来た二体のクリーチャーだけだが、あれは観察者である黒村の思惑だ。【師団】は関係ない。
そして【師団】が今まで送り込んできたクリーチャーは、そのすべてがオラクル、とりわけイザナイに属する者が多い。
「先輩の《ヘラクレス》や私の《ヴァーズ・ロマノフ》のような例外こそあるようですが、それがルールなのかなんなのか【師団】はオラクルのクリーチャーを主に遣わせているんです」
「成程、それは新発見だけど……だからなに?」
多少はその発見に驚き、感心する夕陽だが、結局はふりだしに戻る。それが分かったからなんだというのだ。
「つまり、【師団】が送り込んでくるクリーチャーのほとんどはオラクルである、という事実があるのです。ですが、今ここにあるクリーチャーたちを見てください」
再び夕陽の手にあるクリーチャー四体を指差す汐。
夕陽もその四体を見るが、見るまでもない。その四体は、すべてオラクルではないクリーチャーだ。
「四枚が四枚とも、オラクルではないのです」
「確かに……」
たまたま例外がこの四枚だったとも考えられるが、しかしその可能性は、今までのパターンから鑑みて除外するべきだ。重要なのは、オラクルとは無関係なカードばかりが実体化していることである。
「ってことは、今回の件は【師団】とは無関係ってこと?」
「それはまだなんとも……しかし、その可能性は考えられるのです。仮に【師団】だとしても、今回は今までとどこか違うような、そんな気がするんですよ」
成程、確かにその見解は興味深い。
だがしかし、今はそれ以上に考えなければいけないことがあるのだ。
「とりあえず、今はクリーチャーによる被害を食い止めないと……このみ、お前ラトリさんの連絡先知ってたよな」
「え? うん。トリッピー呼ぶの? でも、すぐに来てくれるとは限らないんじゃ……」
「いやあの人、今この神社に来てるんだよ。事情を話して呼べば、すぐに来てくれると思う」
いい加減な性格をしているものの、今の状況を説明すれば突っ撥ねられることはないだろう。このみは頷くと、携帯を取り出してラトリへと電話をかける。
五分ほど待つと、ラトリと希野の姿が見えた。はてミーシャはどこへ行ったのかと思ったが、後から聞くと研究所に戻ったらしい。なにやら、彼女が所属する部署の方で呼び出しがかかったようだ。
それはともかく、ラトリに軽く事情を説明すると、ラトリはなにやら含みのある笑みを浮かべながら、頷いていた。
「成程ねー。やっぱジー君だなぁ、相も変わらずロートルというか、拘りがあるねぇ」
「なに言ってんのかよく分かんないんですけど、それより今は……」
「うんうん、言わずともアンダスタンド、だよ。私の《アテナ》の力で、神話空間をオープンすればいいんだよね?」
言ってラトリは、一枚のカードを取り出した。
ここでふと、夕陽は思い出す。『神話カード』と呼ばれる十二体のクリーチャーは、《アポロン》とひまりの力を糧に、神話空間外でも実体化できるようになっている。
夕陽の《アポロン》も、このみの《プロセルピナ》も、姫乃の《ヴィーナス》や流の《ネプトゥーヌス》亜実の《マルス》、つい最近出会ったばかりの《アルテミス》も、例外なく実体化している。
記が汐から奪い取った《ヘルメス》は実体化しなかったそうだが、ラトリの持つ《守護神話》は、彼女の手元に長い時間あった。あまりデュエルはしないと言っていた彼女だが、しかしその力とは長い時間共にあったはず。ならばそれだけ、『神話カード』の方にも影響が出ていて然るべきだ。
つまり、
「コール、《アテナ》」
ラトリの手元のカードから、一体のクリーチャーが飛び出した。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.522 )
- 日時: 2014/03/12 17:24
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「お呼びですか、マスター」
ラトリの持つカードから飛び出した一体のクリーチャー。上下に分かれた民族的な衣装とミスマッチな近代的なアーマー。装甲の一部なのかサンバイザーのようなもので目元が隠れている。
夕陽たちは初めて見たが、これがラトリの持つ『神話カード』、《守護神話 エンパイアス・アテナ》なのだろう。ただ、アポロンたちの例に漏れずデフォルメ化されているが。
「そうそう、マスターからのリクエスト。実はね——」
「おぉ! アテナじゃねえか!」
ラトリの言葉を遮って、夕陽のデッキからアポロンが飛び出す。
「ワーォ、私のボイスをカットするなんて、なかなか見上げた根性——」
「アテナだ! アテナー!」
「アテナ様ですの! お久し振りなんですの!」
それにつられて、プロセルピナとヴィーナスも出て来た。なにか言おうとしていたラトリだったが、最後に出て来たアルテミスを見ると、口を噤んだ。
「今まで何度か存在は感じていたけど、こうして会うのは初めてだな!」
「会いたかったよー、アテナー!」
「また会えて、わたくしも嬉しいんですの!」
「うん、まあ、同じ十二神話だし、あなたには別段恨みもなにもないし、アタシとしてもこのまま会わずじまいより、一度でも会っといたほうがいいような気はしてたんだけど……とにかく、またよろしくお願いするわね」
「はい。お久し振りです、皆さん。今後ともよろしくお願いします」
子供のように騒がしいアポロンたちだったが、対してアテナの態度は非常にクールで、ともすれば冷淡とも思われてしまいそうなものだった。
だが、それでも同じ『神話カード』の一体だ。アポロンたちがお互いにそうであったように、彼女もまた仲間意識というものが存在している。同胞と出会えたというだけで、どこか嬉しそうではあった。
「うんうん、ビューティフルなフレンドシップだね。そこにウォーターを差すようでバッドなんだけど」
「すみません、マスター」
淡々と頭を下げるアテナ。あまりに抑揚のない声のため、謝る気があるのかと言いたくなるが、ラトリの性格では気にしないだろう。
それより今、重要なことは別にある。
「じゃあプリーズね、アテナ。レンジはこの神社のインサイドでいいかな」
「了解です。守護式広域神話空間、展開します」
刹那、アテナを中心とした空間の空気が一変する。今まで幾度となく感じてきた気配、空気感。
間違いない。アテナの力による神話空間が、展開されたのだ。
「これで良いでしょうか、マスター」
「うん、オッケーだよ。ね? 空城君」
「はい……とりあえず、これで一般人を巻き込むことはないですね」
ひとまず最優先事項である、無関係な一般人を巻き込まないようにする、というタスクは達成した。ならば次に考えることは、どうやってこの事態を防ぐかだ。
「今回は今までと違って、イザナイによるクリーチャーの光臨ではないと私は思うのです。私が思うに、どこかにクリーチャーが実体化するカードをばら撒いている主犯が存在するはずです」
「その人を止めればいい、ってことなのかな? やっぱり」
「同時に、実体化したクリーチャーたちもすべて倒さなくてはならないわね。この神話空間が解除されてから、それらのクリーチャーが野放しになるのはまずい」
とりあえず目的と方針は決定した。なに、いつもとそう変わることではない。ある種、いつも通りと言えるような展開だ。ただ少し、謎が残っているだけ。
「この神社、結構ラージだし、固まってムーヴするよりもシングルプレイの方がベターな感じだね。私はともかくとして、みんなストロングだし、ここで分かれようか」
珍しく自分を卑下しながらのラトリの提案。ラトリ自身それほど弱いわけでもなく、また他の面々もデュエマの腕には自信がある。
彼女の提案を拒否するものはおらず、夕陽たち六人は、そこで分かれるのだった。
「……おいリュウ」
「ナガレだ。なんだ?」
「春永からメールが来たぞ。俺にはよく分からんが」
「……この文面は俺も理解に苦しむ。だが、分かる言葉だけを抜粋し、そしてこの状況から推察するに、実体化しているクリーチャーを倒す、またはその実体化するクリーチャーを放っている者を倒す、ないしはその両方、といったところか」
「なんだ、じゃあ今やってることと変わんねえじゃん」
「そうだな」
流と零佑、それぞれの正面にいるのは、どちらもクリーチャー。《蛇魂王ナーガ》と《味頭領ドン・グリル》だった。
「なんか急に変な感じがしたと思ったら、クリーチャーが出るんだもんな。流石にもう慣れたぜ」
「これで四体目か……まあ、ほとんど雑魚なのが幸いか。こいつらが雑魚かどうかは分からないが」
一息つきながら、流と零佑は背中合わせに、それぞれの正面にいるクリーチャーを見遣る。そしてまた、デッキを手にした。
「あと何戦あるのか知らないが、もう1ラウンド行くとするか」
「だな。ただデュエマしてるだけならどうってことねえ。やるだけやってやる」
そして二人は、再び二重の神話空間へと溶け込んでいく。
「…………」
「どうします、黒村さん? 所長たち、行っちゃいましたけど」
夕陽たちが集まっていた林の、木の上に上っていた黒村と九頭龍。当然ながら二人は、彼らのやり取り、その一部始終を見ていた。
なので今がどういう状況なのか、そして自分たちがなにをすべきなのかも、理解している。
「……とんだ面倒事に巻き込まれたものだ。まあいい、これもむしろ好都合だ」
「どういう意味です?」
九頭龍が問う。彼の疑問に答えるのも癪だったが、黒村はその問いには答えた。
「あのままだと、あの人はただ神社の参拝と観光だけで終わっていたが、“ゲーム”と関わる事象が発生し、なおかつ全員が単独行動を取っている、つまり所長も今は一人ということだ」
「そこを僕らで襲っちゃおうってことですか? うーわー、よく変人とかクズとか言われる僕ですが、いくら僕でもそんなことはしませんよ。そんな欲望的かつ変態的な性犯罪に僕を巻き込まないで欲しい——」
「死ね」
背中を蹴り飛ばされた。
今一度言うが、二人がいるのは木の上、言い換えれば不安定な足場だ。そんな場所で後方からの強い衝撃を受ければ、その後は当然の帰結に辿り着く。
つまり、九頭龍は木の上から突き落とされた。とはいえ高さが上れる程度の高さなので、若い成人男性なら落とされたとしても、上手く着地できれば死にはしない。上手く着地できれば、だが。
「っ……おおぅ、下手したら本当に死んでたな……」
そして運よく着地に成功した九頭龍だが、危ないところだった。足がじんじんと痛む、もしかしたら捻挫くらいはしているかもしれないと思いつつ、黒村を見上げる。
「しかし随分と直球に言われたなぁ」
それほど黒村は怒り心頭ということだろう。そもそもの相手が九頭龍なのだから、遠慮も躊躇も微塵も見られない。
「あの人が一人だということは、あのふざけた口調もないだろう。つまり、素の所長を垣間見ることができる」
さっきの話の続きだろう、何事もなかったかのように黒村は続ける。と、同時に黒村も木から降りてきた。
「人間は誰しも、場所や相手によって顔を使い分ける。そして所長にも【ラボ】におけるラトリ・ホワイトロックと、それ以外のラトリ・ホワイトロックがあるとすれば、今は後者の所長を見ることのできる絶好の機会だ」
そしてそのラトリは、黒村の知りたい謎を抱えるラトリだ。この好機を逃すわけにはいかない。
「さしあたっては、まず所長がどこにいるのか探さなくてはならないな。さっきは空城たちもいたから出なかったが、どの方向へ行ったかくらいは見ておくべきだったな。クリーチャーと戦うために神話空間にでも入られたら、探すのは困難だ。さて、どうするか——」
と、その時。
近くの空間が歪むのが見えた。その様子を黙って見ていた黒村と九頭龍。
やがて空間の歪みは、一つの生命体の姿へと変わっていく。いや、膨大な生命の集合体、と言うべきか。
そのクリーチャーは《神聖奇 トランス》、トライストーンのオラクリオンだった。
強力なクリーチャーとは言えないが、仮にもオラクリオン。その存在感と威圧感は凄まじい。初見の者なら腰を抜かしてしまいそうな気迫がそこにはあるが、
「……失せろ」
短く、黒村はトランスへと言い放った。
「お前に構っている暇はない。消えろ」
どこか怒気を含んだ声で、さらに畳みかける。
「なんか黒村さんお怒りだし、本当に消えた方がいいよ? と言っても、クリーチャーに、しかもトランス状態のトライストーンに通じるはずもないか」
九頭龍の言う通り、トランスは徐々に周りの空間を歪ませ、黒村を飲み込もうとする。
対する黒村は、鋭い視線でトランスを睨みつける。そして、デッキケースからデッキを一つ取り出し、
「……速攻で終わらせてやる」
その歪んだ空間の中へと、飲み込まれるのだった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.523 )
- 日時: 2014/03/14 23:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
各人が散会したと言っても、一度に六方向へと散らばれることもなく、とりあえず夕陽は少しの間だけこのみと同じ道を辿っていた。
「なあ、このみ」
「なに? ゆーくん——じゃなかった、ゆーちゃん」
「もうその呼び方やめろよ。それと、もう着替えていいか? 正直、こんな格好でクリーチャー退治とか、なんか気が乗らないんだけど」
忘れてはならないのが、夕陽はいまだに巫女服のままだということだ。この神話空間内ではひづきもいないので、夕陽としてはいい加減に着替えたいところなのだが、
「またまたー、文化祭の時だってメイド服で学校中駆け回ってたくせにー」
「着替えても良かったんなら着替えてたっつーの」
なにも夕陽は好きでこんな格好をしているのではない。むしろ、着替えられるのなら今すぐにでも着替えたいくらいだ。
だが、このみがそれを許すはずもなく、
「あの時と同じで、そんなの気にしてる場合じゃないよ。それに……今日一日はゆーちゃんのままでいるっていうのが、ゆーくんに課せられた使命だからね」
「使命というか罰ゲームだろ。なにも悪いことしてないのに」
強いて言うなら、このみやひづきの我が儘に付き合わされている、といったところか。
「こうなったら、今から本殿に戻って着替えてこようかな……」
「無駄だと思うけどねー、ふっふっふ」
「変な笑い方してんじゃねえよ、驚くほど似合わない」
しかし今から戻ろうというのは、半ば本気だった。夕陽はふと本殿の方に目を遣ると、あるものを発見する。
ある意味では、夕陽たちの目的とも言えるものが。
「……出やがった」
「え? うわぉ、こっちにも」
本殿の方から一体、そしてその逆方向からもう一体、計二体のクリーチャーが姿を現す。
「《聖皇エール・ソニアス》と《大昆虫ギガマンティス》……随分と時代錯誤なクリーチャーだな」
そして汐が言っていた通り、今までのクリーチャーと合わせて、本格的に関連性が薄くなってきた。こちらは古いカードで、しかも進化クリーチャーだ。
「はぁ……仕方ない、着替えるのは先送りにするか」
「そうそう、もう諦めてがんばろーよ」
「お前は黙ってろ」
しかし、このみの言う通り夕陽は諦める必要があるかもしれなかった。そして口では言うものの、夕陽自身も半ば諦めかけているのだ。
そんな会話の後、二人はそれぞれのデッキを手に、神話空間へと突入する。
夕陽、このみと同じように、ラトリと希野同じ方向へと向かっていき、適当なところで分かれる予定だった。その道中。
「……そろそろカムしないかなぁ」
「どうしました、所長?」
「ううん、なんでもナッシング。ちょっとフレンドをウェイトしてる感じなだけ」
「はぁ……」
曖昧に頷く希野。よく言われることだが、ラトリのエセアメリカ人被れのような口調は、耳で聞くとなにを言っているのか理解が追いつかないことがある。そのうえ、ラトリの気楽なテンションとテンポで発せられるため、いまいち追求しづらい。黒村も毎度のこと同じようなことを思っている。
「まあそれはサイドにプットしておくとして、今日はサンキューね、希野ちゃん。黒村君がフォローしてくれればグッドだったんだけど、断られちゃったからね。でもシングルで行くのはドントライクだし、希野ちゃんがいてくれてグッドだったよ」
「い、いえ、これくらいなら別に……私も、仕事が終わって暇でしたし……」
ストレートなラトリの言葉に、控えめに返す希野。
ラトリと対面したことのある者、とりわけ【ラボ】の研究員やラトリが「マイフレンド」と呼ぶ彼女に気に入られた人物が抱くラトリの評価は、馴れ馴れしすぎて辟易するか、ある意味素直で、研究者としては有能、人間としても友好的な彼女に惹かれるかのどちらかである場合が多い。希野はどちらかと言えば後者だった。
多くの者は前者に位置するのだが、こんないい加減な性格でも一組織の長、なんだかんだでカリスマ性はあったりするのだ。もっとも、嫌われようが鬱陶しがられようが、それを気にしてブルーになるような彼女ではない。それが逆に、辟易を増進させているのだが。
「いやー、九頭龍君も含めて君らが【ラボ】に入ってきてくれて本当にグッド、いやさベストだったよ。うちはバトルメンバーが不足気味だったし、そういうのをオール黒村君に任せてたから、彼も大助かりだと思うよ?」
「あ、やっぱりそこに戻るんですね……」
九頭龍(希道)はよく黒村をラトリとの関係についておちょくっているが、しかし口には出さないだけで【ラボ】の研究員のほぼすべては、二人の一際親密な関係を理解している。
ラトリは重要な案件は黒村に任せることが多く、プライベートでも黒村と一緒にいることが多い。なにかにつけ黒村の名を出すことも多く、「ベストパートナー」を自称しているほどだ。
対する黒村は、そんなラトリに辟易している素振りを見せているが、最後には彼女の言う通りに行動しており、傍から見ても所長に尽くしているだろうことは分かる。人によっては唯々諾々と従っている操り人形のようだと称する者もいるが。
聞くところによると、黒村は【ラボ】が設立してからかなり早い段階で【ラボ】に所属していたようで、ラトリとの付き合いも他の研究員より比較的長い。さらに非常に有能なので、ラトリが頼るのも理解できる。
加えてラトリが黒村のことを気に入ったということもあるだろう。そういった諸々の要因が積み重なり、ラトリと黒村はもはやセットとして扱われている。他の組織からも、ラトリ・ホワイトロックと言えば側近に『傀儡劇団』がいる、と認知されているほどだ。
「……およ、ロックオンされた、かな?」
「はい?」
唐突に意味不明なことを言い出すラトリ。とはいえいつものことなので、驚くほどでもなく、希野はほぼ条件反射で問い返す。
「あれだよ、ルック」
ラトリはやや斜め前方を指差す。するとその空間が歪み、一体のクリーチャーが現れた。
「っ、《真姫ヴィクトリア》……!」
「あっちにもいるね、《エンペラー・マルコ》か」
出現したクリーチャーに、希野はデッキケースに手をかけて身構える。対してラトリは、まじまじとそのクリーチャーたちを眺めていた。
「アテナ、行ける?」
「厳しいです」
ずっ黙ったまま浮いていたアテナに、ラトリは呼びかける。だがアテナは首を振った。
「実体化してから初めてこの空間を開いたので、まだ感覚を取り戻せていません。デュエル中、アテナの開いた神話空間が解除される可能性を承知した上であれば、ご随意に」
「そっかー、なら仕方ないね。こっちでプレイしよう」
いくらラトリでも、一般人を巻き込みたいとは思わない。無関係な者を関与させないアテナの神話空間が解かれてはラトリだって困るのだ。
なのでラトリはアテナを組み込んでいない、別のデッキを取り出した。
「そっちは任せたよ、希野ちゃん」
「はい。この程度の相手なら、すぐに片付けます」
そんな希野言葉を皮切りに、二人はそれぞれの相対するクリーチャーと共に、もう一つの神話空間へと入っていく。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.524 )
- 日時: 2014/03/13 00:55
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
流とナーガのデュエルは、まだシールド五枚とお互いに動きを見せていない。
流の場にはなにもないが、《霞み妖精ジャスミン》と《フェアリー・シャワー》でマナを伸ばしている。
しかしそのマナ加速も、ナーガの繰り出した《穿神兵ジェットドリル》に阻まれてしまう。さらにブロッカーの《フィスト・ブレーダー》もいた。
穿神兵ジェットドリル 火文明 (3)
クリーチャー:アーマロイド 2000
相手の山札または墓地から、カードがマナゾーンに置かれた時、相手は自身のマナゾーンからカードを1枚選んで山札の一番下に置く。
「マナ加速封じか……厄介だな」
このターンで6マナとなる流だが、しかし彼の使うデッキは10マナ前後までマナを伸ばしてこそ真価を発揮するため、動きがかなり鈍ってしまう。
「ならば、呪文《ドンドン吸い込むナウ》」
山札の上から五枚のカードが捲られ、そのうちの一枚を掴み取った。
「《グローバル・ナビゲーション》を手札に加える。自然のカードを手に入れたので、《ジェットドリル》をバウンスだ」
時間稼ぎにしかならないが、ひとまず《ジェットドリル》を場から話す流。そして、
「呪文《フェアリー・ライフ》、マナを追加してターン終了」
その隙にマナを追加する。しかも、返しのターンに《ジェットドリル》をまた出されても、手札に入れた《グローバル・ナビゲーション》で除去できるため、これ以上のマナ加速は妨害されないはずだ。
しかし、
『私のターン《ギガバルザ》を召喚。効果で相手の手札を一枚墓地へ』
「っ」
《ギガバルザ》から伸びる無数の魔手が流の手札へと襲い掛かり、先ほど手に入れたばかりの《グローバル・ナビゲーション》を叩き落としてしまう。
「マナを増やそうとすれば、今度は手札か……」
デュエル・マスターズにおいて、マナと手札は切っても切り離せない存在。マナがあっても手札がなければカードは使えず、同じように手札がいくら多くても使うためのマナがなければ意味がない。
「だが、これで8マナ溜まった。《サイバー・G・ホーガン》を召喚、激流連鎖!」
流の山札の上から二枚が捲られる。そしてその二枚が《ホーガン》よりコストの低いクリーチャーであれば、そのまま場に出せる。
「捲れたのは《青銅の鎧》と《シンカイ・サーチャー》だ。《シンカイ・サーチャー》の登場時能力で、山札から好きなカードを手札に加え、ターン終了」
『ならば私は、《穿神兵ジェットドリル》を召喚。さらに呪文《スパイラル・ゲート》、《シンカイ・サーチャー》を手札に』
マナ加速を止められ、《シンカイ・サーチャー》もバウンスされる。《ホーガン》にしなかったのは、激流連鎖を使い回されないようにするためだろう。
「クリーチャーにしては意外と考えているな」
『あまり私たちを舐めないで。私たちは、選ばれし神々から生と力を授かったクリーチャー。影響を受けて実体化できるようになっただけのクリーチャーと一緒にしないで』
どうやらクリーチャーの間でも、差別意識のようなものは存在しているらしい。半ばどうでもよいことだったので、気にせず流はターンを始める。
「……俺のターン。再び《シンカイ・サーチャー》を召喚。山札から好きなカードを手札に加え、《青銅の鎧》を召喚。マナを追加だ」
『無駄ね《ジェットドリル》の能力発動。相手が山札や墓地からマナゾーンにカードを置いた時、マナゾーンのカードを山札下に戻さなければならない』
そんなことは分かっている。だが《青銅の鎧》の効果は強制なので、嫌でもマナは増やさなければならない。流はマナゾーンにあった《フェアリー・シャワー》を山札の底へと戻す。
「ターン終了だ」
そしてターンを終える。その直後、ナーガは不敵な笑みを見せた。
『遂にこの時が来た……私のターン。《フェスト・ブレーダー》と《ギガバルザ》を、進化V!』
「来るか……!」
マーフォークとキマイラ、それぞれの種族の、二体のクリーチャーが、一つの姿を成す。
『この私を! 《蛇魂王ナーガ》を召喚!』
蛇魂王ナーガ 水/闇文明 (6)
進化クリーチャー:ナーガ 9000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化V—自分のマーフォーク1体とキマイラ1体を重ねた上に置く。
このクリーチャーはブロックされない。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンを離れた時、クリーチャーをすべて破壊する。
下半身が蛇、上半身が女体という、異形の姿をしたクリーチャー《ナーガ》。かつて五体の王うち一体として崇められたこともある、蛇神だ。
「くっ……俺のターン」
カードをドローする流は、鋭い視線で《ナーガ》を睨みつける。
「《ナーガ》が邪魔だな……」
マナに目を落とす流。そこには、《シンカイ・サーチャー》で呼び込み、マナへと置いた《ネプトゥーヌス》が眠っている。手札には《母なる星域》もあった。
流に限ったことではないが、『神話カード』を呼び出すためにはクリーチャーを展開することが必要だ。しかし《ナーガ》を場から離してしまえば、進化元にするために展開したクリーチャーは一掃される。
かといって《ナーガ》を無視して《ネプトゥーヌス》を出すと、今度は《ネプトゥーヌス》自身の能力で《ナーガ》を場から離してしまい、《ネプトゥーヌス》諸共クリーチャーが一掃される。しかも相手は山札に残るため、また召喚される恐れもある。
(実質的に《ネプトゥーヌス》は封じられたか……デッキの水文明クリーチャーのコストを高くしたことが、裏目に出たな)
流のデッキには、コストの低い水のクリーチャーはほとんどいない。というのも、流のデッキは《ネプトゥーヌス》を呼び出し、相手を一掃して逆転の芽も潰してからとどめを刺すデッキなので、CD12まで発動させられるようにデッキ内の水クリーチャーのコストを高くしているのだ。
だが今は、それが裏目になってしまっている。コストが高いせいで、《ネプトゥーヌス》を召喚しようとしたらどうしてもCD12まで発動してしまい、《ナーガ》が場を離れてしまう。
「……なら、こうするか。まずは《キング・ケーレ》を召喚し、《ジェットドリル》をバウンス。そして《ホーガン》でシールドを攻撃! Wブレイク!」
しばらく考えた流の出した結論。それは、《ナーガ》を無視することだった。
《ネプトゥーヌス》は出さず、《ナーガ》も無視して、数に物を言わせ攻める戦術に切り替える。《ナーガ》は、いわば不発弾のようなもの。全体除去を放たれるのは厄介だが、なにもしなければその除去放たれない。《ネプトゥーヌス》を出すために展開したクリーチャーを、そのままアタッカーとして利用するのだ。
途中からビートダウンのような戦術に切り替えて来た流。《ホーガン》の投げる砲丸が、《ナーガ》のシールドを二枚粉砕する。
「さらに《シンカイ・サーチャー》でシールドをブレイク! 《青銅の鎧》でもシールドをブレイクだ!」
次々と割られていく《ナーガ》のシールド。もう残り一枚だ。
「最後に二体目の《青銅の鎧》でシールドを——」
『Sトリガー発動!』
最後のシールドを割ろうとしたところで、四枚目のシールドが光の束となって収束する。そしてその光は、一体のクリーチャーとなってバトルゾーンに現れた。
『《空神兵ウィングライオス》を召喚! 互いのクリーチャーを一体破壊! 私は《ナーガ》を破壊』
「なに……っ」
《ウィングライオス》の機銃を受け、《ナーガ》が破壊される。流もタップ状態の《青銅の鎧》を破壊するが、どれを選んでも同じことだ。
『私の能力発動! 私がバトルゾーンを離れた時、バトルゾーンのクリーチャーをすべて破壊する!』
刹那、《ナーガ》が破裂し、その内側からドス黒い水が噴出する。その水は雨の如くバトルゾーンに降り注ぎ——クリーチャーをすべて、衰弱させてしまう。
『そして私のターン! 《ジェットドリル》と、《砕神兵ガッツンダー》そして《ギガザンダ》を召喚!』
返しのターン、《ナーガ》はシールドブレイクで増えた手札から、一気にクリーチャーを並べて来る。
「俺のターン……!」
カードを引く流。しかしドローしたのは、《母なる星域》。クリーチャーがいないこの状況では、意味がない。
「……終了だ」
『打つ手なし、ならばこのターンで終わりに! 二体目の《ガッツンダー》を召喚、そして進化! 《超機動幻獣ギガランデス》!』
超機動魔獣ギガランデス 闇/火文明 (5)
進化クリーチャー:キマイラ/アーマロイド 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化—自分のキマイラまたはアーマロイド1体の上に置く。
バトルゾーンにある自分の他のキマイラとアーマロイドすべてのパワーは+2000される。
バトルゾーンにある自分のキマイラとアーマロイドはすべて「W・ブレイカー」を得る。
「進化Vに続きデュアル進化か……随分と古いカードを持ち出したものだ」
とはいえ、この状況はまずい。
『《ギガランデス》の能力で、私のバトルゾーンにいるキマイラとアーマロイドはパワー+2000、そしてWブレイカーに! 《ジェットドリル》と《ガッツンダー》で、シールドをそれぞれWブレイク!』
「ぐぅ……!」
一気に四枚のシールドが削り取られる流。S・トリガーが出なければ、残り一体のクリーチャーで最後のシールドを割られ、とどめを刺されてしまう。
『《ギガザンダ》で最後のシールドをブレイク! そして《ギガランデス》で——』
「少し待て、S・トリガー発動《アクア・サーファー》を召喚!《ギガランデス》をバウンス」
最後のシールドから出て来た《アクア・サーファー》で難を逃れる流。しかし、
『1ターン生き延びたか。だが、次のターンで本当に終わりだ』
《ナーガ》の場には三体のクリーチャーがおり、シールドも一枚残っている。対して流の場にはなにもなく、クリーチャーも《アクア・サーファー》一体のみ。
かなり苦しい状況。流はぽつりと呟く。
「……俺は流行とか、俗っぽいことには疎いんだがな。しかし零佑が言うには、巷ではそれを死亡フラグと言うらしい」
『はぁ?』
「俺はこの言葉の意味がいまいち分からなかったが、なるほど、こういうことか。理解した」
だがナーガは、流の言葉が理解できないでいる。流はそんなナーガのことなど気にも留めず、
「その発言は、明らかにお前の敗北を悟らせる言葉だな。俺のターン、《飛散する斧 プロメテウス》を召喚し、山札から二枚をマナへ。マナゾーンから《ネプトゥーヌス》を回収だ。そして呪文《母なる星域》、《プロメテウス》をマナゾーンへ」
わざわざ進化クリーチャーを手札に戻してから《母なる星域》を使う流。普通なら考えられないプレイングだが、どの道この状況では《ネプトゥーヌス》は出せない。ならば、別の使い方を《ネプトゥーヌス》を活用するまでだ。
「流、我を進化元とするがいい」
「分かっている、そのつもりでお前を回収したからな」
流は“手札の”《ネプトゥーヌス》を種として、《母なる星域》でマナゾーンに存在する進化クリーチャーを呼び出す。
「《ネプトゥーヌス》を進化元に、マナゾーンから手札進化! 《レジェンダリー・デスペラード》!」
マナゾーンから手札進化というのもおかしな言い方だが、流はマナゾーンに埋まっていたもう一体の進化クリーチャー《レジェンダリー・デスペラード》を《母なる星域》で引っ張り出す。進化元となるのは《プロメテウス》で回収した《ネプトゥーヌス》だ。
これで流の場には、ナーガを倒せるだけのアタッカーが揃った。
「《アクア・サーファー》で最後のシールドをブレイク!」
『ぐ、まさか、この私が、そんな——』
ナーガの最期の言葉は最後まで紡がれず、
「《レジェンダリー・デスペラード》で、ダイレクトアタック!」
——巨大な海の怪物に、飲み込まれるのだった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.525 )
- 日時: 2014/03/13 23:17
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
零佑とドン・グリルのデュエル、零佑は少々焦りを感じていた。
零佑のシールドは五枚あり、場には《トロン》が二体、と《サイバー・B・バック》が一体の計三体。
一方ドン・グリルのシールドは四枚。場には《ダンディ・ナスオ》《ジオ・ナスオ》《ジオ・ナスディーノ》《クリクリ・イガラーズ》《ケットウ・チューリップ》《聖騎士ミルキーウェイ》と、マナや手札を操作しつつ、かなりの数のクリーチャーを並べている。
『ワシのターン! 《セイント・キャッスル》を要塞化! さらに《ミルキーウェイ》を進化! 《超剛勇幻風ジャガスター》!』
超剛勇幻風ジャガスター 光/自然文明 (4)
進化クリーチャー:ワイルド・ベジーズ/レインボー・ファントム 5500
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化—自分のワイルド・ベジーズまたはレインボー・ファントム1体の上に置く。
バトルゾーンにある自分の他のワイルド・ベジーズとレインボー・ファントムすべてのパワーは+2000される。
自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のワイルド・ベジーズとレインボー・ファントムを、好きな数アンタップしてもよい。
「うわ、やっべ……」
ドン・グリルの展開するクリーチャーは軒並みパワーが低いので、《トロン》を並べておけば攻撃を躊躇わせることができると思っていた零佑だが、《セイント・キャッスル》に加えて《ジャガスター》まで出て来てしまったため、ドン・グリルのワイルド・ベジーズたちのパワーが3000も上がってしまった。
『さあ、一斉攻撃だ!』
そしてパワーの上がったワイルド・ベージズたちが、一斉に襲い掛かってくる。
「くっ、せめて一体くらいは……ニンジャ・ストライク! 《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚して、《ジオ・ナスディーノ》を手札に戻す!」
S・トリガーも出ず、五枚のシールドをすべて持って行かれた零佑。正直言って、かなりやばい状況だ。
『ターン終了、その時《ジャガスター》の能力でワシのワイルド・ベジーズをすべてアンタップ!』
ドン・グリルのターンが終わると、《ジャガスター》の能力でワイルド・ベジーズがすべて起き上がる。《セイント・キャッスル》でドン・グリルのクリーチャーはすべてブロッカーになっているので、殴り返せないどころか、アタッカーを無視して攻撃を通すこともできない。
「やべぇ……こうなったら、こいつに賭ける! 《ヒラメキ・プログラム》で《サイバー・B・バック》を破壊! だが《サイバー・B・バック》は破壊される時、代わりに墓地のサイバーを三体山札に戻せば破壊されない!」
墓地の《トロン》二体と《スーパーハッカー サイバー・クーン》を山札に戻し、破壊を免れる。
「《サイバー・B・バック》はコスト7、山札を捲り、コスト8のクリーチャーをバトルゾーンに! 出て来い《サイバー・G・ホーガン》! 激流連鎖!」
零佑は山札の上二枚を捲る。二枚ともクリーチャー、そしてコストは8未満だった。
「うっし、《サイバー・J・シン》と《サイバー・N・ワールド》をバトルゾーンに!」
しかも両方とも大型サイバー・コマンド。二体の登場時の能力が発動する。
「まずは《サイバー・J・シン》の能力で、山札の上から二枚を捲るぜ。捲れたのは《コーライル》と……《サイバー・W・スパイラル》か。《コーライル》をバトルゾーンに出し、《ジャガスター》を山札の上へ! 続けて《サイバー・N・ワールド》の能力で、互いの墓地と手札をリセット!」
零佑とドン・グリルの手札、墓地がすべて山札へと戻り、その後お互い五枚ドロー。だが、手札が切れかかっていたドン・グリルは手札補充となり、元々手札の多かった零佑は手札の枚数で言えば損をしてしまっている。
「だが、クリーチャーを増やすためだ、仕方ねぇ。さらに《クゥリャン》《マリン・フラワー》も召喚! 《サイバー・B・バック》で攻撃!」
『《クリクリ・イガラーズ》でブロック!』
クリーチャーの数も減らし、これだけクリーチャーが並べば、次のターンは凌げるはず。そして次のターンを凌げれば、返しのターンでとどめが刺せるはずだ。
しかし、
『《ケットウ・チューリップ》を召喚! 続けて《ジオ・ナスディーノ》を召喚! マナゾーンの《湧水の光陣》を墓地に置き、1枚ドロー! さらに《ナスディーノ》を進化! 《ジャガスター》!』
山札に戻したがまた戻って来た《ジャガスター》。さらに、それに続き、
『さらにさらに、ワシの場には四体以上のワイルド・ベジーズがいる! G・ゼロ! 《ケットウ・チューリップ》を進化! 《味頭領ドン・グリル》!』
味頭領ドン・グリル 自然文明 (5)
進化クリーチャー:ワイルド・ベジーズ 9000
進化—自分のワイルド・ベジーズ1体の上に置く。
G・ゼロ—バトルゾーンに自分のワイルド・ベジーズが4体以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
W・ブレイカー
「アタッカーが五体!? やばい……!」
このターン召喚した《ナスディーノ》と《ケットウ・チューリップ》が、それぞれ《ジャガスター》と《ドン・グリル》に進化し、このターンに攻撃できるクリーチャーは合計五体。
零佑の場にブロッカーは三体、シールドはゼロ。どう見ても零佑はこの攻撃を防ぎ切れない。
「くっ、どうする……!?」
零佑は自身の手札を見つめながら思考を働かせるが、《ドン・グリル》は待ってはくれない。
攻撃準備が整うと、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
『《ダンディ・ナスオ》《ジオ・ナスオ》《ジャガスター》で攻撃!』
「っ、《トロン》! 《マリン・フラワー》!」
襲い来る三体のワイルド・ベジーズは、なんとかブロッカーで防ぐ。しかし、
『ならばワシでダイレクトアタック! これで終わりだ!』
《ドン・グリル》が巨大な包丁を手に、襲い掛かる。もはや悩む時間すら、零佑には残されていない。
だがよく考えれば、考える必要なんてなかったのだ。
「……選択肢は、これしかねぇよな。やるっきゃねぇ!」
零佑は手札のカードを一枚抜き取り、投げつけるようにバトルゾーンへ解き放つ。
「ニンジャ・ストライク! 《斬隠オロチ》をバトルゾーンに! そして《オロチ》の能力で俺の《クゥリャン》を山札下へ!」
《ドン・グリル》のクリーチャーを山札に戻しても、アタッカーは二体いるため無意味。なので零佑は、自身のクリーチャーに賭けた。
《クゥリャン》が山札底に送られ、山札が捲られていき、転生する。そして現れたのは——
「——こいつだ! 《サイバー・W・スパイラル》! 《ドン・グリル》と《ケットウ・チューリップ》を山札に戻すぜ!」
現れたのは、零助が最も必要としていたサイバー・コマンド《サイバー・W・スパイラル》。その能力で、《ドン・グリル》の残りのアタッカーがすべて山札に戻される。
「そして俺のターンだ! 《コーライル》を進化! 《超電磁マクスウェルZ》!」
続けざまにサイバー・コマンドを呼び出す零佑。これで反撃準備は整った。
「いくぜ! 《サイバー・W・スパイラル》でシールドをWブレイクだ!」
『ぬぅ、《ジオ・ナスオ》でブロック!』
「そいつは無理だぜ。《サイバー・W・スパイラル》はブロックされない! そのまま《セイント・キャッスル》が要塞化されたシールドをブレイク!」
ドン・グリルのシールドが二枚吹き飛ばされた。同時に《セイント・キャッスル》が剥がされ、ドン・グリルのクリーチャーはブロッカー能力を失う。
「さらに《サイバー・G・ホーガン》でWブレイク!」
続けて《ホーガン》の砲丸が放たれ、残る二枚のシールドも砕け散る。
『ぐぬぅ、S・トリガー発動! 《DNA・スパーク》——』
「それも無理だ」
ドン・グリルの最後のシールドはS・トリガーの《DNA・スパーク》。しかしその発動は《マクスウェルZ》の発生させる磁場により、封じられてしまった。
「《マクスウェルZ》がいる時、お互い墓地に存在する呪文と同じ文明の呪文は唱えられない!」
『なに……? だが、ワシは光の呪文など……』
「唱えてねえよなぁ。だが、お前の墓地をよく見てみろよ」
ドン・グリルは自身の墓地を見遣る。《サイバー・N・ワールド》で一度リセットされているため、枚数こそ少ないが、そこには確かにあった。
前のターン《ジオ・ナスディーノ》でマナゾーンから墓地の落とした、光文明の呪文《湧水の光陣》が。
『これは……!』
「墓地に落とすカードを間違えたな。これで終わりだ! 《マクスウェルZ》でダイレクトアタック!」
『ぬっ、ぐ、ぐあぁぁぁぁ!』
とどめの一撃が繰り出される。
《マクスウェルZ》の放つ光線に射抜かれたドン・グリルは、そのまま消滅していくのだった。
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