二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.530 )
日時: 2020/08/16 20:45
名前: ガオケレナ (ID: 1UTcnBcC)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


南浦和駅に到着した。
雨宮の自動車は東口のロータリーへと停止すると四人全員が降りる。

「これと言って地味で何も無さそうな駅だが……ここで一体何の用があるってんだ?」

「いえ、此処でいいんです」

保科の、ルークへの答えになっていない答えを述べながら座席を押しのけるようにして狭い車から出ていく。

駅自体に強烈な特徴がある訳ではなかった。
京浜東北線が通る事で、乗り換える為に利用されるのが大半な駅だ。

「ここまで来たんだ。新都心まで行ってもいいんだがなぁ?」

「あっ!大丈夫です。そっちまで行く用事はありませんので……」

イマイチ彼女のチョイスが分からない。
利用者も多く規模も大きいことを考えれば、さいたま新都心駅まで行ってもいいはずである。
ここからならば遠くはない。

「えっとー……何だっけ?中古ROMの持ち主探し……だったよね?もえちゃん」

リョウが手持ちの端末を操作しつつ、それらしい店舗を探そうと首を捻る。

「でも……そんなお店あるのかぁー?中古用品の専門店なんかさぁー……」

「あるじゃねぇかよ。ほら、こっち」

ルークは端末に表示されている、今ある東口とは正反対の西口。
そちら付近に、名前が"たつや"の人はもれなくイジられるレンタル屋がそこにはあった。

「此処って……中古ROM取り扱ってんのかなぁ?」

「有るだろ。俺だって買いに行ったことぐらいある。とりあえず行ってみるのがいいだろ」

と、二人の間で行き先を勝手に決めたことにはなるものの、

「おーいもえちゃーん?場所分かったし行かねー?」

と、三人からやや離れた位置に突っ立っている保科にリョウが叫ぶ。

少し遅れたタイミングで彼女は走ってこちらにやって来た。

「ごめんなさいっ!ちょっとボーッとしてて……」

「なぁにやってんだよっ!ほら、もえちゃん向こうにその店あるからちょっと行ってみよーぜぃ」

リョウは西口へと繋がる通路を指し、誘導する。

雨宮が怪訝な表情で彼女を追いながら。

ーーー

「ちょっと流石に分かりませんね……」

店員からのその一言で四人全員は硬直した。

詰んだ、と。

ゲームソフトを売る際に身分証や個人情報の提示などをする事はあっても、それを「元の持ち主の物かもしれない」という怪しすぎる理由だけで教えてくれる程甘い話ではない。

結局どうする事も出来ない四人は黙って店を出た。

「な、なぁ……。これって何処行ってもダメじゃね?」

「そうですねぇ……。ちょっと探し方を変えなきゃですね」

保科が苦笑いしつつ車の置いてある東口へと先導するように歩く。
出来ないと分かれば次の行動に即移る、そんな性格なのだろうか。

誰よりも早く車に到着し、助手席のドアを開ける。

「いや、この方法でも割と……上手くいくかもしれないぜ?」

雨宮が薄ら笑いを浮かべながら車のロックを解除する。
我先にと保科が引っ込むように車内へと入り込んだ。

「どういう事だ?今みたいなやり方でもいいってか?」

ルークはややウンザリするように言うと、

「あぁ……いずれ……尻尾を表す時が来るさ」

雨宮はロータリーに設置されていた標識の方をチラリと目をやるとそそくさと自分も運転席へ座った。

「さて、と。今度は何処へ行けばいいかな?お嬢さん」

「え、えっと……」

「待て雨宮。これってどうするんだ?解決するまで道の旅を続けるのか、日毎に改めるのか……どうするんだ?」

「と、言うと?」

雨宮は隣で誰よりも早くシートベルトを閉めているルークに問いかける。

「この駅に着いたのは午後の一時だが、今はもう二時だ。ここから基地へ帰ろうとすると二時間はかかる。……お前、リーダーには何も言っていないよな?帰りが遅くなる事も、外で夜を過ごす事も」

「だから何だってんだよめんどくせぇな?外にいてもアイツの事考えなきゃいけねぇってのか!?」

「違ぇよ。帰った時が面倒じゃねぇかって話だ。奴のことだし変なペナルティ掛けられてこの行動に支障が出たら嫌だろ?」

ルークの言葉に。
雨宮は暫く黙ってトントンとハンドルを指で叩く。
そして、

「他にどこか行く所はあるのか?無いのか?」

「えっ!?……えっと……時間が難しいようでしたら、今日はもういいですよ……?」

本人からの許可を得た。
ならば行先はひとつ。

「帰るぞ」

これまで来た道を逆走するかのように、一台のスポーツカーは爆走するかのように駆けて行く。

ーーー

基地に到着したのは夕方の五時を過ぎていたようであった。
日が暮れがかる黄昏時だ。

「あれっ」

ルークはそこで二度見する。
今日確かに見た顔がそこにあったからだ。

男子の部屋が連なる男子棟のエントランス。
そこに、昼に見た三人の学生が居た。

「あいつら……?何があった?」

「あの子たちはレンのお客さんだよ」

後ろから聞こえたのは最早振り向かずとも分かる声だ。

「通したのはお前か……リーダーさんよ?」

「いいじゃないのよ?彼らからレンに会わせてくれってお願いがあったのだから!」

冷めた目でルークはミナミへと振り向く。
つくづく彼女は苦手な人間だ。

「今日は何処まで行ってきたの?」

「奴の学校と……南浦和。それだけだ」

「えっ!?……ちょっと、学校で問題起こしてないわよね!?」

「なぁーんでオメーまでそう言うかなぁ!?俺がそんな人間に見えんのかぁ??あァ!?」

と、声を荒らげるルークではあったが、一応という気持ちで今日あった事をミナミに話す。

そうしていると、車を停めてきた雨宮がやって来た。

「ルーク。ちょっといいか?話がある」

呼ばれたルークは彼について行くように駐車場の方向へと歩き出した。

「おい……お前来た道戻ってねぇか?どうした?車の相談か?」

「違う。……ったく、お前も変わっちまったな?悪い方へ」

「どういう意味だよ」

「保科……萌花だったよな?アイツ、スパイかもしれねぇぞ」

「なんだと?」

感情につられて足も止まった。
ルークは周りに誰も居ないことをその目と勘とオーラで確認する。

「……何処で気付いた」

「アイツは駅で何もしていないように見えたか?しっかりとその証拠を残していたぞ」

と、言って雨宮はスマホの画面を見せた。
他愛もない学生のSNSでの呟きだったが、

「気付くといいけどな?あのガキスパイにも俺の言った言葉の意味が」

その呟きは誰かが意味不明なステッカーを学校の校門に貼り付けていた。それに対する愚痴だった。

「C.R.C.参上……、だとぉ?何だそりゃ」

まるで一時期都市伝説扱いされていたBNEに酷似していた。
特定の地域に「BNE参上」と書かれたステッカーを公共の場で貼り付けていたそれに。

ステッカーのデザインもかなり似ていた。
白地に黒のゴシック体で書かれている。最早違うのは文字だけだ。同じように黒文字で「C.R.C.参上」とある。

そしてその呟きに添付されていた写真にも見覚えがあった。

稜爛高校の正門だ。

「な、なぁ雨宮。これは一体……」

「恐らくだが保科とかいうガキはこのC.R.C.という組織のスパイだろうな。どうする?明日あたりにでも問い詰めてみるか?」

「任せる……が、やりすぎるなよ」

平和に見えた観光は、突如として闇の香りに包まれた。その瞬間でもあった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.531 )
日時: 2020/08/30 20:14
名前: ガオケレナ (ID: vLvQIl5U)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


翌日。八日の朝。

珍しく早起きしてしまった雨宮は、練習ついでに一走りしようと、部屋を抜けては地上に立ち、芝生の生い茂る敷地を抜けて駐車場へと向かおうとノロノロ歩く。

どうせ今日も市街地を走り回ることになるのだ。
そのドライブは味気なく、ひどくつまらない。
スピードは出せないし渋滞にも嵌る。

その上でメンバーがやかましい。

それらすべてを嫌悪する訳ではないのだが、ストレスになる事に変わりはない。

ならば、折角山の上に住処を構えているのだから本格的な峠と比べると生温く物足りないが、この辺りで走り回ってあらかじめ自己満足に浸ってしまえばいい。

今は早朝の五時だ。
暗がりは既に去り、空は青白い。
平日といえども、この時間の人通りは街道に出ない限り皆無だ。

芝生の柔らかい草を踏んだその時。
雨宮は見た。

白いベンチに座り、無機質な様を呈している、保科萌花のその姿を。

その様子は、不気味でしかなかった。
十月の早朝ともなればどこか肌寒さを感じるものである。
特に、細身の彼女ならば尚更のはずだ。

荒々しくも静かな雨宮でも、この時ばかりは恐ろしさに駆られた。
目は丸くなり足が一旦はピタリと止むも、その外見以上にひどくビビった。

敵組織のスパイの疑いのある人が、こんな時間に姿を見せていたことに。

「……あっ、おはようございます!早起きなんですね?」

「テメェ……何していやがる?」

「嫌な夢を見てしまって〜……、目が覚めちゃったんです。雨宮さんは?」

「奇遇だな。俺もだ」

そう言うと雨宮はスペースの空いている、彼女の隣にどんと座る。

「どうせつまらねぇドライブになるんだ。今の内にかっ飛ばしておこうと思ってな」

「雨宮さんは、スピードを出すのが好きなんですね」

「あぁ。速くなければ価値はねぇ。一秒はおろかコンマ数秒でも違えば負けは負けだ。時計は絶対だからな……。モータースポーツってのはそういうもんだ」

「わ、わたしにはよく分からないなぁ〜」

作り笑いにも似た甘い笑みを浮かべて、保科は彼の美学に耳を傾ける。

雨宮は、モータースポーツに詳しい女子高生など物好きでしかないだろと心で突っ込みつつ、冷たく彼女を睨んだ。

その瞬間まで、悩んだからだ。

「なぁ……?C.R.C.って何なんだろうな、保科ちゃん?」

雨宮は見た。
優しい顔をした彼女が忽ち顔を強ばらせたのを。

「い、……今、何て?」

「知らねぇとは言わせねぇ。俺はこの目で確かに見たぞ。お前が南浦和の標識に確かに黒いステッカーを貼ったのをな?見られてないとでも思ったか?」

「……」

分かりやすいほどに顔を青ざめる。
それは、寒さに震えているようにも見えた。

「答えろ。テメェは何処の組織の人間だ。何を目的にこの敷地に入った?……このC.R.C.ってのは何だ。テメェの所属する組織の名前か?」

「やめて……下さい」

雨宮という男は容赦しない。
どこぞの最強だった男と違い、奪い去る事にも迷いはしない。

雨宮は立ち上がると彼女の顎を掴み、それまで自身が座っていた方向へと押し倒した。

あたりに騒音と怒号が響いた。

「テメェが今此処にいる事に深い意味があんだよ!!敵が縄張りに入り込む事の恐ろしさが……どれ程のものかスパイのテメェには十分承知のはずだろうがよォ!?今すぐ吐け!どちらにせよ今ここでテメェを殺してやる!!」

顎を掴む手に力が意思に関係なく強まっていく。
見た目に相応しく骨も柔らかそうだ。このまま力を加えてしまえば変形でもしてしまうのではないかと思えてしまうほどに。

「やめろ雨宮ァ!」

そこに、相棒の声が邪魔をする。

「来るなルーク。コイツにすべて吐かせた上で死なせる。安心しろ。手を汚すのは俺でいい」

「何をしている……。その手を離せ」

その声に、雨宮は期待を裏切られた。反射的に手の力が弱まった。

「ルーク?オメェ今なんつった?」

「いいからその手を退けろ。保科に怪我させるんじゃない」

「オイオイ!お前いつからそんな弱気になったんだ?お前もつい去年までは恐れも知らぬフェアリーテイルのルーク様だったじゃねぇかよ!?それが何だ?在り処を暴かれた上に『怪我させるな』だァ?随分と甘いじゃねぇかよ……」

「お前はそいつの正体を知らないからこそ疑っているだけだ。俺は……その正体を知っている」

「ほぉ?ならばC.R.C.もご存知と?」

「いや……」

ルークは目を逸らした。
ベンチに横たわり、顎を押さえつけられている保科は恐ろしい目に遭っている訳でも、死を悟った顔をしている訳でもなかった。とにかく無表情なのだ。そこに違和感を覚えるのにはあることにはあるのだが、少なくとも目には良くない光景だ。

「だとしたらお前がわざわざ止めにくるのも変だよなぁ?どちらにせよ疑惑がコイツにはついている訳だ。そんな時、去年のお前ならどうしたよ?殺しても構わねぇツラしてた筈だが何だ?今のこのザマは。甘々なジェノサイドに感化でもされたか?それともコイツに特別な欲でも湧いちまったか?前の女と重ねたとか」

「雨宮やめろ。尚更保科は関係ないだろ」

何年も居るとすべて見抜かれてしまうのだろうか。
それに比べて自分は、仲間の心の内を見透かせる程立派ではない。

「じゃあ言え。お前知ってんだろ?コイツの正体。ならここで言えよ」

騒ぎを聞きつけてやって来たのはルークだけでは無かった。
すやすやと寝ていた所をルークに叩き起されたリョウと、血相変えたミナミがやって来る。
リョウに至っては何故かハットまで被るという謎の徹底ぶりだった。

「チッ、」

増えてくる足音に具合を悪くしたような顔をした雨宮は、彼女が顎を動かそうとしているようなので更に力を弱めた。

「わ、わたしが……話し、ます……から。……」

「その手を放して。雨宮」

口うるさいリーダー様がそう言っては彼を睨み付ける。
全方位から視線を向けられた雨宮は、

「まるで俺が悪者じゃねぇかよ?本当にコイツが敵だったら功労者だってのに」

そう言っては顎から手を離し、しかし不満な彼はその顔を小突く。

「わ、わた、わたしは……。もう、何処にも友達も家族も居ません」

ルークは内心やめろと何度も呟いた。
しかし、本当に発してしまえば納得しない者も居るのも事実だ。

「深部のスパイ、とか……そういうのじゃないんです……。でも、ごめんなさい。嘘、つきました。本当は深部のこと、前から知って、いたん……です」

その声は徐々に涙も混じり、時折詰まらせる。
当然ルークはその理由を知っていた。

「私の父が……唯一残った家族であるわたしを捨てて……深部に、身を墜したんです……。その、組織の名前が、」

「バラ十字……だろ」

そこにルークが口を挟む。
彼女がただの被害者である事を唯一知る彼が、すべてを語らせるには可哀想だと判断したためだ。

「雨宮……。コイツは違う。深部の存在を知ってはいてもスパイでも何でもない。突然日常を壊された、ただの不憫な高校生でしかないんだ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.532 )
日時: 2020/09/02 16:13
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


『これは〜……。僕が直接見たのではなく聞いた話だという事を念頭に置いてもらいたいのですが〜……』

まず初めは、リーダー格にも見えそうな少女ではなくその隣に座っていた男子からだった。その名を吉岡桔梗というらしい。

『てっきり最初は飛び降りの騒ぎかと思ったんです。……実際、人が落ちたので〜……』

『いやだから、まず何が起きたのかを話してくれ』

ルークはただでさえ声の小さい男子生徒が、恐怖のあまり俯きながら話すので更に聞き取りにくかった。それに対し段々と物騒な感情が湧き上がってくる。時間は限られているからだ。

夏の大会も忘れ去られ、十月に入りだした頃。
騒動は起きた。

『三年生のある生徒が、それまでの虐めを苦に暴れ出したんです』

雰囲気を察した相沢優梨香が彼の代わりに答えた。
その様は、それまで仲間が見せていた気弱さと打って変わってスラスラとして落ち着いている。

『その生徒はいじめの加害者に対し、隠し持った小さなナイフで刺して回ったんです。その際に刺された一人の生徒が恐怖のあまり窓から落ちたとか……』

『つまり、その生徒が虐められていた側で、刺された何人かの生徒は虐めていた側って事か』

ルークの確認に、相沢は静かに頷く。

まず最初に、彼女の言った"三年"というワードに引っかかる。
高校の三年ともなれば進路を本格的に意識し始める時期である。
それに、十月ともなれば種類によれば受験もぼちぼち始まる頃だ。
そんな状況において弱者をいたぶる者達がいる事にため息を吐きたくなる。
自分には関係の無い話なので話を聞いているだけのルークがいちいちリアクションする必要は無いのだが。

『それで?』

『その生徒はそれまで自分を虐めていたクラスメイト達を刺したあと、他の人たち……先生や他の生徒に詰め寄られて……その、自殺したんです。その場で』

恐らく。
傍から見れば精神をきたした一人の男子生徒が暴れ出したのでひどく恐れたのだろう。
周りの者たちは彼を責め立てたのか、それとも強く糾弾したのか、はたまた逃げ出した彼を大人数で追い掛けたのか。

何があったのかは分からないが結果的に犯人を追い詰めてしまい、はっきりとした理由も聴けずに死なせてしまった、という事なのだろう。

『その犯人というのが……保科の兄だったんです』

『なるほど、自分の兄が事件を起こしたせいでとばっちりを受けた訳か。その実、被害者だったのにな』

『問題はその後で……。聞いた話なのですが、保科の両親にも動きがあったみたいで……。父親が行方不明になった上に、母親も事件を苦に自殺したみたいなんです』

『……』

少しずつ見えてきた気がした。
家庭にも学校にも居場所を無くした彼女が、何を見出したのかを。

『噂によると、保科の父親は深部のある組織に身を隠したなんて話もあります。本当に、何が起きたのか……サッパリで……』

『さっきから聞いた話だの噂だの……。本当に深部の人間かぁ?アンテナ低すぎだろ、まぁいい』

ルークは立ち上がった。
彼女の話が分かった以上、テラス内という狭い空間で余計な騒ぎをこれ以上起こす気はない。
下手をすれば彼らにも追及という目が向けられかねない。

『こうなってしまえば何処にも奴の安全の保障が無いわけだな……。そこは"赤い龍"に任せてもらうとして、』

ルークは最後に相沢の目を一瞬だけ見、合わせた。彼女は途端にそらす。

『お前らは保科とはどんな関係だ?』

『何もありませんよ?学年が同じだけで、クラスも授業も違いますからね……。同じクラスの人だったら何か知ってはいるかもしれませんが』

『あっそ。じゃあいいや』

そう言うとルークは手すりを飛び越えてその身そのままに地上へと落下していった。
その姿を見ては、テラス内でちょっとした騒ぎになる。中には例の飛び降り騒動を思い起こす者も居たのだろう。
落下地点に彼の姿が無かったのも拍車がかかった。

一人の男の勝手で都合が悪くなった三人は混乱に乗じてそそくさとその場を立ち去った。
そんな彼等がこの日の午後の授業終わりに、確認のために高野洋平を求めて赤い龍の基地にやって来たのはまた別の話である。

ーーー

ルークは全く同じ話を聴いてしまった。
それも、この手の話をするのが誰よりも嫌なはずの本人からである。

「その兄とやらも憐れだな?やられたからやり返した話なだけじゃねぇか。そいつが深部の人間で、この出来事も深部での話だったら許されたのにな?つくづく表の世界ってのはやりにくくてつまんねぇ」

「雨宮……少し黙ってろ」

ルークは余計に疑っていた事を謝ることもせずに無責任で無関係な言葉を投げた彼にそう言った。

保科萌花と言うと時折涙を流しながら、自分は決して他の組織の人間では無いことを訴えている。
ミナミは案じて隣に寄り添い、肩を叩く。すると、彼女は今度こそ思い切り泣き出した。

「な、なぁ……ルーク?」

「何だ。今更聞く事でもあんのかよ」

とりあえずその場は流れた。
保科はミナミに連れられ、ルークとリョウは部屋での待機を命じられ、しかし雨宮は予定通り車を走らせて何処かへと行ってしまった。

そんな中、今更寝る事も出来なくなった二人は朝食の時間になるまで一つの部屋に集まり、ただ時が過ぎるのを待っていた。その時での会話である。

「ルークは知ってたのか?もえちゃんの話」

「昨日知った。学校で俺も降りたろ?」

「あぁ……、あの時に」

「ま、どォでもいいだろ。これで奴がスパイの可能性は消えた」

「いや、でもまだ完全に消えた訳じゃない……よな?」

どういう訳か部屋の中でもハットを被っているリョウ。そんなに坊主頭が気になるのだろうか、しかしこれまでに特別気にしている様子も無かったのでその理由が更に分からない。単に帽子を脱ぐ事を忘れているだけかもしれない。

「確かにその背後に怪しい名が見える……。C.R.C.別名薔薇十字団。これまでの深部生活でまともに聞いた覚えは無いが、そこに何かがあるはずだ。それを追えば……」

保科萌花という人間のすべてが分かる。
そんな気がルークの中で廻る。

「奴の父親も行方不明だと聞いている。噂によると深部組織に隠れてしまったとか、な」

「もえちゃんの父親が深部の人間、てわけか……。あと、もえちゃんの持っていた黒いステッカー、あれも気になるよな。C.R.C."参上"って何なんだ?」

「それについては保科本人にも考えがあるんだろう。暫く奴の作戦に乗ってみてもいいんじゃねぇか。その過程でC.R.C.の正体も分かれば万々歳だろ」

そう言ってルークは時計を見るが、時間は経っていない。すると今度は3DSを取り出した。

「今俺たちがやる事はただ一つだ。ポケモン育てとけ」

朝食が出来るまでの一時間が、これのせいで二人の中でとても短く感じられた。要するに、何も進まなかったのだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.533 )
日時: 2020/10/29 20:17
名前: ガオケレナ (ID: YrPoXloI)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「よう。さっきはすまなかったな」

朝食の時間を少し過ぎた頃、ルークは食堂でたまたま見かけた保科萌花にそう声を掛けた。
泣き疲れたのだろうか、どこか疲弊している顔色をしている。
食も進んでいないようで、パンをひとかじりしたっきり何も減ってはいないようだ。


「奴を許してやってくれ……とまでは言わないが、ああいう奴なんだ。奴も俺も元に居た組織を壊滅させられて仲間も……」

「いいんです。大丈夫です、何も……悪くはありませんから……」

保科は彼の言葉を遮った。その後に発せられるであろう物騒なイメージを抱いたのもそうだが、ずっと素性を隠していた自分にも非はあると逆に謝ってきたのだ。

居心地も気分も更に悪くなったルークは、

「なぁ、お前は……何も悪い事をしちゃいないだろう?癖かもしれないがお前はすぐに謝る癖をやめろ。少なくともここではするな。弱い者と見なされるぞ」

尤も、彼女はポケモンのゲームプレイヤーではない。深部の基地に居ながらポケモンを所持していない所謂"表の世界の人間"だ。それでいて、この世界を知る歪な形をした人間なのだ。

「えっと……わたしは……」

「待て。話さなくていい。事情はある程度察したしお前がやりたい事も分かっている」

彼女の話とこれまでの行動で、何をしたいのか。何を求めて自分たちと接触して来たのか。
気まずさも相まって中々その手の話に踏み込めないが、容易に想像が付く。

「お前は本来やりたかった事をすればいい。俺は協力するぜ。次は何処に行けばいい?」

「……え?」

「だから、次は何処に行って何をすればいいんだと聞いているんだ。雨宮の奴がまた何か言うかもしれねぇがその時はぶん殴ってでも黙らせてついて行かせるからよ」

「あ……ありがとうございますっ!そうしたら、次は……」

ーーー

「……と、言う訳だ」

「どういう訳だよ分かんねーよ」

その後の行動は早かった。
ルークは雨宮とリョウを呼ぶと即座に基地を出ては近くの駅で電車に乗り、保科の行きたがっていた場所へと移ったのだった。

その間、ルークは「黙ってついて行け。着いたら話す」としか言わなかったのでどれほど長く電車に揺られようと誰一人として言葉を発することは無かった。

「気のせいかもしれねぇがよぉ……俺恐らくだが二時間近く電車に乗っていたと思うんだがよぉ……。なぁ、リョウ。今顔上げたら駅の名前見えんだろ。言ってみろ」

「え、えっと……千葉駅……」

リョウの正直な言葉に、雨宮はため息を吐きながら"してやったぞ"とでも言いそうな目をルークに向ける。

「分かった分かった。今から説明する……。今からお前たちは保科からステッカーを貰って適当でいい。全部貼り付けてくれ。それから〜……」

「じゃなくて、なんで電車でここまで来たかを説明しろよ。俺に金払いたくなくなってきたのかぁ?ルークちゃん?」

昔からだ。
昔からルークは雨宮という男が少し苦手だった。
これまで嫌々ながら車を出しておきながら今となっては何故か不満げであるし、それに一々一言多い。
言っていることとやっている事が一致せずにどこかで必ず文句が出るのだから対応に困るのだ。

なので、どこか吹っ切れたルークは思い切ってすべて話すことにした。

「これから、保科の持つ中古ROMの持ち主を探すなんてマネはしねぇ」

「分かってるわそんなん」

「分かってるならまず静かにしてくれ!いいか、俺たちはとにかく、このC.R.C.とかいう団体の尻尾を掴む。少なくとも此処に保科の父親が居ることは確定しているからな……。それで、」

「今日電車で来た理由は?」

「それは今話す!今後を見越しての事だ……。様々な場所で奴等にとってはある種の妨害工作をしている俺たちだ。何処かでかち合う可能性も出てくる。そういう時の逃げる手段をだな……」

「オイ待てやルーク……。この俺様の運転が下手だって言いてぇのか?」

「そうじゃねぇ!仮にお前の車に四人全員乗っていたとして、その状態で追われてみろ!仮に奴等が手段を問わない連中だとしたらかなり危険だと思わないか?……そこで、電車なんかに慣れてもらって一人だけでも逃げ切れるようにする。それが狙いだ」

「予測だけですべてを語ってもねぇ……?」

雨宮の正論の後に沈黙が訪れ、誰もが口を閉ざす。

しばらくした後にそれを破ったのはこの空気を作り出した張本人の雨宮だ。

「まぁいいや。とりあえずお前の案に"妥協"してやろう。俺も自慢の車破壊されたりでもしたらどうしようもねぇからな?」

そう言っては保科の前に立って手を振った。
催促のつもりである。

「幾つ貼ればいい?」

「あ、あの……。ありがとうございますっ!それじゃあ三十枚ほど……」

「アンタエッグい事言うねぇ?」

彼女の鞄から取り出された黒いステッカーの束を受け取ると、雨宮は軽やかに去って行った。

「まだ説明終わってねぇんだけどなぁ……。まぁいいや、それじゃあ保科。範囲は駅周辺でいいんだな?」

「はい!出来るだけ目につきそうな所を……」

「適当でいいよな?じゃあ俺も貼ってくるわ。奴からして、俺が邪魔していると知るとある意味動きやすいだろうしなぁ……」

ルークも彼同様の束を受け取ると、雨宮とは反対方向の、東の方角へと進んで行った。

「あの……さっきルークさん変な事言ってましたけど……大丈夫でしょうか?」

「ん?今のか?オレはよく分かんねーけど……まぁヤツのことなら大丈夫でしょ!ヤツにはヤツの考えがある事だし!」

残ったリョウは忘れ物が無いか入念にリュックを覗いたあと、彼女からステッカーを手にして暫くウロウロした後に行動を始めた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.534 )
日時: 2020/11/20 00:13
名前: ガオケレナ (ID: VnmAEQod)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


怪しいステッカーを手当り次第に貼るという地味な行動を初めてそろそろ一時間が経つ頃になって来た。

間隔を空けての同じ作業のため、スタートした位置からは大幅にズレている。
気付けば駅を大きく離れ、市民館のようなやや大きめな建物の前にまで辿り着いていた。

そんな建物の門の脇に並んでいるタイルで出来た壁にペタリと黒いステッカーを一枚貼ったルークは、

(怪しい者は居ません……ねぇ。少なくともそう感じ取れる)

敵を探しているオーラを醸し出しつつそう念じていた。

すれ違う人々は多い訳では無い。
だが、敵意が存在しない。ざっくり言うと一般人である。

深部の人間とはそんな一般人に上手く紛れて日常生活に潜んでいる。
どうしても経験値によるのだが、中にはそんな悪意や敵意を隠し切れていない者も居ることには居る。
加えて自分は言わば、「この世界にはヤバい奴等が居ますよ」と、わかる人にはわかる警告を発しているのだ。つまり、危険な行為をしている割には隙を見せている。

そんな、格好の的であるにも関わらず手応えが得られていない。
それはつまり、ここで工作をする意味があるのかと邪推してしまう。

まだステッカーは手元に残っている。
適当にアスファルトの地面や標識、ガードレールの裏にペタペタと貼っては保科が居るであろう駅へと戻りに、それまで進んでいた道に背を向けた。

駅に戻ると、自分以外の仲間が揃っていた。
どうやらこの作業に熱中していたのは自分だけのようで、保科を除く男二人は退屈で仕方ない風な顔をこちらに見せつけている。

「そんな早くに終わったのか?」

「お前と違って適当に貼ってきただけだからな。お前だけだぜ?駅から離れてまで熱心にシール貼ってたの」

「お前らと違って探りを入れながらだったからよぉ……」

どうやら真面目に取り組んでいたのは自分と保科だけのようだ。

ここでルークは思い出す。
雨宮とリョウは所謂"真面目系クズ"だと。
真面目な風を装ってしかし心の奥底には不真面目と無責任が渦巻いている。

故に彼等を引っ張る事が出来るのは自分しか居ない。

「それで?今日此処を選んだのは何か理由があったのか?」

ルークは帰る為にまだ発車前の電車に乗り込み、ガラガラに空いた席へと腰掛ける。
その隣に保科萌花が座ると彼の返事に臆すること無く答えた。

「はい!元々この駅はお父さんの職場の最寄り駅だったんです。もしもお父さんが仕事先で何か忘れ物があったとして、この駅に降りていたら……」

「例のステッカーを見掛けた訳か」

ここで、ルークも一定の理解を得られた。
保科萌花という女は決まったパターンの元に地点を定めては行動している。
それは、不特定多数の街ゆく人に見られるためだけでは無い。
特定の人間に対して発せられたメッセージ。

つまりそれは。

「なぁ保科。お前は俺らと会う前にも一人でこんな事していたんだよな?」

「はい。まずはわたしの通っていた学校に……。それから人の多い街に……。渋谷と新宿でも同じ事をしていました。幸いにも誰かに見られたり咎められたりなどはありませんでしたけどね」

「運のいいガキめ……」

「車じゃないだけでそんなに機嫌悪くなるのか雨宮ぁ……?長い電車旅なんだ。少し落ち着けよ」

ーそれはつまり。

非力な己の姿を晒すのと同じ。

ルークは、見た。
走る気配のない、車窓から駅のホームを。
ぽっかりと空いた車内へ滑るように忍び込んできた小さなポケモンの姿を。

「来やがったな!?……クソ野郎!!」

そのポケモンとはエレキッドだった。
両腕をブンブンと振り回しながらこちらを、ルークを睨み付けている。

小柄故に細く小さな電撃が走った。
それは、それまでルークが座っていた座席を丁寧にピンポイントに狙い撃つ。

だが、その体を貫く事は出来なかった。
事前に"嫌な予感"を察知したルークは叫びと同時に飛び跳ね、車外へと躍り出る。
その隣に座っていた保科はリョウに抱き締められ、その身を包まれる事で無傷で済んだ。

「コイツの持ち主はテメェか?困るなぁー……。躾がなってねェぞ」

ルークの背後。
不器用ゆえに世間に溶け込む事がイマイチ上手くいっていないようで、経験則とそれにより導き出され、纏わりついているオーラがその存在感を発している。

およそ十mといったところだろうか。

目の前のエレキッドを見つめつつ、背後に敵意を放ち、その手にはボールをポケットの中で握り締める。

「案ずるな。ボクの思い通りにこの子は育ってくれたさ」

細身にして平均的な身長の男からはそぐわない男児のような声。
無邪気と裏返しの狂気を併せ持つような、恐れを知らない子供のような声だ。それが背後から響き渡った。

「……それで何だ?世界のことなどまるで知らない子供が、同じく無知な俺に何の用だ」

「ふざけた事を言うなよ……。『フェアリーテイル』のルーク。いや、今は『赤い龍』のルークかな?」

この瞬間にしてルークは居心地がとても悪くなった。
市井しせいの中で互いの事情を知り得た者同士がぶつかり合ったためだ。

にわかには信じられないが、深部という世界は表の世界の人々にとっては未だに知られている存在ではなく、人によっては都市伝説クラスらしい。
そんな噂レベルな自分たちが、そんな噂を信じている人々の前で戦いを始めようとしている。
そしてそれは、自分たちだけでなく、恐らくだがより多くの、より強大な者にとっても都合が悪くなる事だろう。

そうなれば、更なる苦難は必至だ。

「……目的は何だ」

「キミについて。キミ、さっきまでこの辺りで何か変なことしてたでしょ?」

喜ぶべきか怒るべきか。
この時ルークは複雑な気に駆られる。
ターゲットが現れたためだ。

「……お前、素人だな?」

ルークは一つの答えを導く。
ニヤリと笑ったまま、ゆっくりと背後の少年へと振り向くことを決めた。

「今のお前のソレは、自ら正体をバラしたのと同じだ」

「正体ってなに?ボクの何を知っているの?」

「オイオイ……バレバレの嘘吐くんじゃねぇよ。俺がさっきまで何してたか知ってん…………」

「嘘ってさ、バレる前提で吐くもんでしょ」

エレキッドが動く。
電車内に取り残された、他の仲間を狙う。

のではなく、無防備と化したルークの後頭部目掛けて電気を纏いつつ腕を振るいながら。

「真実を知っちゃった人は消される!お決まりでしょ!?」

少年は叫んだ。
仮に非力なポケモンであっても、生身の人間に、しかも弱点でもある頭部に打撃と電撃を打ち込んでしまえばその命は取れる。

だが、果たしてそれのどこまでが演技だったのだろうか。

何処からか突然、直線上に伸びた光線がエレキッドを撃ち抜くように放たれた。

それと同時期。
発車を告げるアラームと共に、仲間たちを乗せた電車は動き出した。

ルーク自らが囮となる事で。
一番に守るはずの仲間を無事に送り届ける為に。

その時点でルークの作戦は成功した。
後は自然に流してしまえばいいだけだ。

流れの速い河に呑まれていくように、電車は消え去ってゆく。それを横目で流しつつルークは、

「一つ教えてやるよ小僧。嘘にはまだ別の使い方がある」

技は急所に当たったようだ。
撃たれたエレキッドは攻める力を残すこと無く倒れている。ゲーム風に言うならば戦闘不能か。

「バレる前提で発するか、決してバレない嘘をつくか、事実を半分混ぜ込むか、だ。暗号と一緒だ。折角だから覚えとけ」

「偉そうだねぇ〜。そんなにキミは凄い人なのかなぁ?」

「オマエの見方次第だろ」

少年はエレキッドをボールに戻さない。
何かの意図があるのか、妙に勘繰ってしまう。

「ボクに気付いたって事はさぁ……"知っている"んだね?その存在に」

「そりゃそうだろ。むしろ俺はいつか尻尾を現すだろうと念頭に置いてわざとやってたんだからよぉ……」

ルークは確信した。
目の前の少年はC.R.C.だと。

「C.R.C.またの名をバラ十字団。噂によると長が存在しない組織らしいな?ここで刻まれたくなければ話しな」

「ふっ……ふふふ……」

不気味だ。
目の前の少年は口元を押さえて笑っている。
どう見ても少年には見えない外見だ。
ひとつひとつの仕草、口調が見合っていないせいで吐き気を催す。
彼の身に何があったかまでは知らないし知りたくもないが、まともな環境では生きていないのだろう。

「キミもそんな噂を信じるんだね……」

「何がおかしい?少なくともお前を笑わせられる程のギャグを俺が言ってみせた訳か。センスあるんだなぁ?俺って」

「仕方ないよね。キミレベルであっても手に出来るのは信憑性ゼロのその程度の情報でしかないって事だよね。ふふふっ……」

ルークは頭上の時刻表を見る。
次の電車まで十五分はかかりそうだった。

「でもね、その情報は半分合ってて半分間違い。ボクたちにリーダーなんて存在しない」

「つまりアレだな。バラ十字団は非正規の組織って訳だ。議会うえにチクれば一発だな。サヨウナラ」

「"組織"前提だったらね?」

少年が笑い終えた。
その両手には新品に見えるモンスターボールが見えている。

「いいかい?これは警告だよ。本当は此処で殺さなきゃいけないんだけど、ボクは弱いんだ。殺せないからそこは運に感謝しなきゃね」

「おい待てよ……逃がさねぇぞ?此処にはまだ俺の仲間が潜んでいて…………」

「過去にキミは悲劇を見ている。仲間を……愛する人を失っているね」

反射的にルークは声を詰まらせた。
ハッタリでしかないその嘘が似合わない。そんな気がしたからだ。

「もう一度見たいかい?……ならばそれ以上触れない事だね。キミが貼ったステッカーは剥がしておくよ。あっ、でもキミにはもう仲間なんて居なかったね!」

「テメェ……黙れっっ!!」

胸倉を掴もうと一歩踏み込んだその時。

少年の体が突如爆発した。

「テッ…………めぇぇっっ!!!」

ある程度距離があったお陰で助かった。
彼の持っていた二つのボールからゴローンが放たれ、突如として'じばく'したのだった。

だが、それだけで目眩しをするのは困難だと分かっていたのだろう。
間隔を空けて別地点から爆発が起きる。
駅のホームから離れて、線路の上から。
立て続けに道に沿うようにゴローンが'じばく'していく。
その都度少年が用意しては命じているのだろう。

追えば捕らえる事は出来たが、ルークはそうしなかった。

保科の顔が過ぎったからだ。
それだけではない。
ハッキリとは見えなかったが、エレキッドの技を受けてリョウも負傷しているはずだ。

遂に掴んだ敵と、味方の安否。
昔からルークの選択は変わらない。

念の為にと一旦改札に戻り、千葉駅を出ると隣駅まで歩いてから、そこに到着した電車へと乗り帰路に着く。

(ヤツらがどうであれ……、俺の過去を知っている……?)

ルークは深く席に座ると、考える事はと言うとそれに限られていった。

昨年に起きた悲劇。
一人の暴走した議員によって命を奪われた当時の仲間たち。そして、

和泉いずみ 玲奈れな……。お前の事を知っている人間が、まだ居たなんてな」

脳裏に響くはヴァイオリン、コレッリの『ラ・フォリア』。そして、共に過ごした中学、高校時代の生活。その日々。

それらを思い出さずには、いられなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。