二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.495 )
- 日時: 2020/06/13 19:46
- 名前: ガオケレナ (ID: 0zrQTctf)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
また、さらなる月日が経ったようだ。
キーシュは仲間と共に、時折砲撃を受ける街の中で、それでも変わらず生活を続けていた。
何処からか噂を聞いたのか、その力を欲して別の街から他の武装勢力がやって来る始末だった。
『キーシュ、大分強まってきたんじゃないか?俺たち』
『そのようだな……。次の一手を考えておかなきゃな』
絶望的な状況下とは裏腹に、彼等の中に活気が溢れていた中、キーシュはバラバにぼそっと呟いた。
『新たに入った奴らの中にはシリアを治めるなんて勘違いしている奴が居るが俺の本来の目的はそんなんじゃない。拠点を移さなければな……』
『ジャポンは?皆でジャポンに行くのはどうだ?』
『それも案の1つさ』
捨て台詞のようにそう言っては歩き出す。
その先にはタツベイと遊んでいるラケルの姿がある。
『よう。初めの頃と比べると元気になったんじゃないか?』
そこらに生えていた細長い植物を手に触れ合っていたラケルは聞き慣れた声に振り向く。
『うん!とっても楽しいんだもん!』
『それはよかった』
キーシュは瓦礫として飛んできた大きな破片の上に腰を下ろす。
途中、タツベイとも目が合った。
このポケモンは、彼が孵化余りとしてボックスの中で放置していたポケモンだ。
このような形ではあるものの、地上に出られたのだから内心嬉しい思いではあるのだろう。
ポケモンに感情があるのか、まだはっきりと分かっていないとはいえ。
『なぁ、ラケル。少し話があるんだがー……』
『うん?いいよ』
当初と比べて性格も本来持ち合わせていたのだろうか。明朗快活な姿がそこにはあった。
言葉遣いや会話にもその影響が表れている。
『お前を家族と合わせる約束だが……果たせられないかもしれねぇ』
『……』
眩しい陽射しが体を焦がす。
そう言えば暦の上では夏のはずだ。
『勿論今もこの街に居るという仮定で探してはいる。……だが、』
仲間が増えすぎてしまった。
彼らを守るためには、もっと快適で安全な場所に身を移さねばならない。
だが、彼女を見捨てる事も出来ない。
『もう、……大丈夫だよ?』
残酷な世界、過酷な真実。
それを突き付けてなお、彼女の声色には絶望が無かった。
『もうおじさんには会えたもん。おじさんも言ってた。お父さんを探しに此処に来ているんだって。それに、私たちは家族でしょ?違うの?』
思わず息が詰まった。
暑いという感情が渦巻く中、背筋が凍りそうにもなった。
子供とは、予想だにしないタイミングで驚くような事を発するものだとキーシュはこの時身を持って知ったのだった。
『誰よりも優しくしてくれた。美味しいご飯や楽しいお話をして、私を守ってくれた。皆は仲間だって言っていたけど、仲間ってなに?友達とは違うの?家族とも違うの?』
その言葉に、ついキーシュは呆然としてしまう。
あまりにも考えさせる言葉のせいで、答えが見つからない。
可愛らしい顔からは想像を絶する、大人びた発言だったからだ。
もう家族は此処に居るから大丈夫。
彼女は案にそう伝えたのだが果たしてそれは彼に伝わったのかどうか。
それは、誰にも分からない。
『あっ、そうだ』
ラケルは立ち上がった。
キーシュの手を握った状態で。
『ここに、私が小さい頃から遊んでいた大事な場所があるの。来て』
唐突すぎるタイミングに、キーシュは驚きを隠せない。
どうして今なのか。
今の会話でこの街を離れると彼女なりに察したのだろうか。
ラケルに手を引かれ、走ること数分。
それは、姿を現した。
『なぁーんだぁ?これは……』
大きく広がった広場の中に、一際大きな丘がある。
それは、昔の古いお城のようだった。
『ここ。ここでいつも遊んでいたの』
『遊んでたって……え、逆に遊べるのか?ここで?何をして?』
『えーっと、かくれんぼとか、かけっことか』
無邪気すぎるその答えにキーシュは思わずクスリと笑ってしまう。
反面、子供らしさに安堵した。
『おいおい……何処に行くのかと思ったら……アレッポ城じゃないか、ここは……』
2人の後ろから声が掛かる。
『メナヘム?居たのか!?』
『突然2人がどこかへ走り出したのを見掛けてな。何事かと思ってついて来ていたのだが……まさか中世の時代に立った歴史ある要塞が遊び場だとはなぁ……』
『勝手について回った挙句に盗み聞きまでしてたのか!?お前は……』
『まぁいいじゃないか。私もこの子がどのように生活していたのか……少し興味があったもので』
などと話して目を離していた隙に、ラケルは広場を走り回り始めた。
彼女本人からしてもどこか懐かしさがあるのだろう。
ーーー
『懐かしいなぁ……そう言えばそんな事もあったな』
その日の夜、キーシュはラケルと共にアレッポ城を眺めたことをハサンに話すと昔の事を思い出すような反応を示した。
『ラケルは……小さい頃から元気な娘でなぁ。よく友達と一緒にはしゃいでたよ。アレッポ城を走り回ったりしていたっけなぁ』
『……な、なぁ。あの城って確か世界遺産だったよなぁ?大丈夫なのか?そんな事してて』
『問題は特に起きなかったよ。城内でふざけ合っていたとはいえ、何かを壊すって事もしなかったし。そもそも観光客も多かったからな。むしろそんな人達からもにこやかな目で見られていたよ。それでついたあだ名が"古城の天使"』
『なんとも平和な光景だな』
特に意識もせずに放った本音。
そう言いながらキーシュはパンをちぎっては頬張る。
しかし、突然にハサンが静かになったのを怪しんでそちらを見ると、
『あ、あぁ……平和だったさ。本当に……』
拳と声を震わせていた。
『あの騒乱が起きるまでは……平和だったよ。まさかこんな事になるなんて……誰が思ったか』
『俺もだ。こんなハズでは……と何度思ったことか』
『な、なぁ!!』
ガシッと、キーシュは目に涙を浮かべているハサンに服を掴まれた。
『お願いだ!お前のあの力で……クソ共を全員殺し回ってさぁ……またこの街を……、俺たちの国を平和に戻してくれないか?頼むよぉ!!なぁ!』
感情に任せで布を掴んだ手をばたつかせるその様は、小さな子供の駄々のようだった。
朝に見たラケルと、どちらが子供っぽいのだろうか。その光景が脳裏にぼんやりと浮かんでくる。
自分たちの知らない世界で、彼らの日常が確かにあった。
だが、それを知るという事は今繰り広げられている世にも恐ろしい事実に胸を締め付けられる覚悟が無ければ、到底理解には追い付けないのだった。
ーーー
翌日。
まだ空が完全に白んでいない時間の事。
導かれるかのようにキーシュはそこに来ていた。
昨日訪れたアレッポ城だ。
騒乱で少なからず影響を受けていると聴いてはいたため中に入る事はしなかったが、嘗てはどのような姿でどのような光景だったか、頭の中で想像してみる。
すると、装備品で身を固めていた男が小走りにやって来ると、辺りを少しキョロキョロと見回した後に建物の中へと入っていった。
明らかにそれは、武装して戦闘に加わっている人間以外の何者でもない。
もしかしたら何か手掛かりを掴めるかもしれない。
その一心で、キーシュは男の後をついて行くようにして寂れた要塞へと足を踏み入れていった。
『これは……。おいおい、世界遺産のハズだろ?』
城内も瓦礫の山だった。
それまで煌びやかな装飾の類はすべてくすんで朽ちているようだ。
ゆっくりと歩いていると、先程の男の背中と出くわした。
彼はこちらに気付いてはいないようだ。
『オイ、お前』
男は体をビクつかせるとその場に固まった。
『そこのお前、何者だ。少し話を聞こ……』
話の途中。
にも関わらず男は持っていた小銃を向けると発砲する。
遂に拠点が敵にバレた。
男は男なりの身を守る理由をもっての行動だった。
発砲音を聞きつけて続々と彼の仲間がやって来る。
自分たちの秘密基地の中で不穏な物音がすればやって来るのは仕方のない事だ。
キーシュはと言うと、持っていたコモルーをその瞬間に自身を守らせる事で脅威を取り払った。
『これは……どういう事だ?』
自分を取り囲むように数人の男が各々恐ろしい形相で銃を手に握っている。
その銃口は当然ながらもキーシュに向いていた。
『こんな所で……武装勢力が隠れていたって事か?』
『そんな事はどうでもいい!貴様は誰だ!』
囲んでいる内の1人が叫ぶ。
男にしては長い髪と真っ白の1枚布の着物という格好のせいで益々不審さに磨きが掛かる。
最早言い訳を放てる余裕も無さそうだ。
『俺は別に……お前たちの敵ではない』
『黙れ、ならば何故此処に潜入した!?貴様も政府の手下なんだろう!?』
『違ぇよ!』
キーシュも同様に叫ぶ。
敵意が無いことを両手を上げてアピールしながら。
『俺は人を探している!此処を拠点にしていた"古城の天使"その父親だ。この中で知っている奴が居れば名乗り出ろ』
小銃の類など、今の手持ちを軽く振るえば怖くも何ともない。
現にコモルー1匹で防げるのだから。
『古城の……天使……?もしかして……、ラケルの事か?』
予想に反して小さな声が響いた。
先程後を追っていた男だ。
『そいつは……俺の娘だ。娘は……居るのか?生きているのか!?』
『それを知りたくば今すぐ此処から出ろ。見せてやるからよ』
『い、いや……』
だが、男から銃を下ろす姿勢が見られない。
『それは……出来ない。俺は……自由を勝ち取らなければ……いけないんだ』
『実の娘よりも自由を選ぶのか?とんだ毒親だな?』
『俺がっ!俺たちが戦わなければ決して争いは終わらないんだっ!!戦いが終わってから迎えに行く!』
『その娘が今お前に会いたがっているんだよ!!このすぐ外でな!そんなクッソくだらねぇモン今すぐ捨てて会いに行けって言ってんだよ!!』
立場も状況も捨ててキーシュは必死な思いを叫ぶも、返ってきたのは彼が求めていた純粋な親としての返事ではなく、弾丸の雨だった。
1人の男が発したのを契機に、続いて連中が放つ。
全方位から撃たれ、硝煙に巻かれる。
だが、1度撃たれて無傷であったように、彼の前では粗末な銃など怖くも何ともない。
ポケモンバトルではあまり役割を持てないコモルーがこの場においては大いに役に立った。
'まもる'。
この一言だけで彼は命を保つことが出来るのだから。
最早説得が叶わないと判明した瞬間、キーシュはその場から逃げる様に走り去る。
タイミングを測って輪から抜け出し、壁を挟んで身を隠すとコモルーをボールへ戻す。
あとは容易かった。
背後を気にしつつ城から抜け出せばあとは何の問題もなかった。
父親を連れ戻す。
それが出来なかった事を除けば。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.496 )
- 日時: 2020/06/18 00:34
- 名前: ガオケレナ (ID: FpkpxrNh)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
その日すぐにハサンに伝えた。
ラケルの父親が生きていること。彼の所属する反政府組織がアレッポ城の地下に穴を掘って通路を作っていること。そして、こちらに来るには微塵も無い事を。
『なんてことだ……そうなってしまえば、もう……会ってはくれないのだろうな』
『アンタはこれまで知らなかったのか?』
『あぁ。知らなかった……。いいや、』
確かに否定したつもりだったが、すぐさま無かった事のように更なる否定を重ねる。
首を横に振りながら。
『実は……少しは知っていたんだ。アイツが……ここに居る事は』
『だから俺が初めてこの街に来た時にアンタと会えた訳だ』
ハサンは知っていた。
ラケルの父親が頻繁にアレッポを訪れていた事を。
もし出来るならば、娘に会いに行け。
そんな風に説得したかった。
だが、それが不可能なのは目の前の男によって証明された。
自分よりも力のある人間が出来なかったのだから。
『この事を……ラケルに伝えるのか?』
『いいや、言わねーよ。誰の為にもならねぇ』
キーシュは家の扉の前に造られた、腰掛けていた石作りの階段から立ち上がる。
向こうから無垢なる少女が走りながら笑顔でやって来たからだ。
『だがこれからの道は決めたぞ。アイツも連れて行く。ここに居る仲間全員でもっと安全な場所に移る。何ならお前も来るか?"ゼロット"は歓迎するぜ?』
そう言ってはラケルと手を繋ぐと彼女に引っ張られて何処かへと去っていった。
行先は方向からある程度の予想は出来た。
『どうしたんだ?ラケル。昨日も歩いたよな?この道』
『うん。どうしても見せたいものがあって……。昨日の場所』
『アレッポ城か?』
『うん。そこにね、実は宝物を埋めて隠してたの。それを見てほしいんだ!』
なんて可愛らしいんだとキーシュは心をほぐされる。
こんなにも絶望を持っても可笑しくない環境で、彼女は彼女なりの希望を持って生きている。
その逞しさが不覚にも眩しい。
通りを少し歩くとそこには辿り着く。
昨日も、つい先程も見てきた景色だ。
古の文化を示す建物が見える。
『着いた』
もしかしたら、まだ地下には彼等が居るかもしれない。
だが、少女はそんな事を知らずに握っていた手から離れていく。
大きな広場に残されたキーシュは、
『待ってて。すぐに戻るからね』
『いや、待て』
止めたい。
何も知らないという事は幸せでもあり不幸だ。
そんな目に彼女を遭わせる訳にはいかない。
だが。
(言えねぇ……。すぐそこに、お前の父親が居るんだぞ、なんて……)
呼び止められたラケルが不思議そうに見つめる。
それもそのはず、止めたっきりキーシュは何も言おうとしないからだ。
『あ、……危ないからな。すぐに来るんだぞ』
結局真実を告げる事は出来なかった。
その瞬間ラケルはとびきり笑顔で頷くと、要塞の大きな扉へと呑み込まれていった。
これでいい。
なにもあんな小さな歳ですべてを知り、教える必要は無い。
どうせこれからも皆で行動し、生きていくのだから。今言う必要は更々無いのだ。
その内にすべて話そう。
どこか心が晴れやかになった。
そんな時だった。
ーーー
耳が、聴力がバグった感覚に襲われた。
飛行機がやけに飛ぶ日だったのを覚えている。
だからと言って、そんな事想像出来るはずも無かった。
気が付けば石畳の上に横たわっていた。
何処かから生じた強い衝撃で倒れたようだった。
『……ーシュ、!!……おい、キーシュッッ!!』
バラバが必死な形相でこちらに駆けて来た。
『おい、お前大丈夫か!?無事だったら返事を……』
『黙れうるせぇ、俺は平気だ』
バラバがやってきた方向。
そちらを見れば、幾人かの仲間が異変に気付いてやって来ていた。
その誰もが、力無く立ち尽くしては目を見開いてただただ見つめている。
『一体何だってんだ?近くで爆発が起きたと思ったんだがー……』
そちらへ首を傾けた瞬間、思考が止まった。
今見ているものが、起きている事がどうしても信じられない。
あまりにもリアルな映画を観ているのか、それとも夢なのか。
そうであって欲しかった。
『お、おい……待て……』
キーシュはゆっくりと立ち上がる。
もくもくと上がる煙が自身の冷静さを奪ってゆく。
『アレは……。あの建物は……歴史的価値があるんだろう?……世界遺産なんだろう?』
どうしても認められない。
何が起きているのか、理解したくない。
『なのに何で……煙が上がってる!?何でアイツらは此処を狙えているんだ!?』
爆撃を受けた。
後にその出来事は世界に向かって一報が放たれる。
"シリア政府軍が反政府勢力一掃の為にアレッポ城の外壁を吹き飛ばした"と。
後になれば分かることであった。
だが、今となっては状況が違う。
『ラ、ラケルが……入って行きやがった』
『何だとぉ!?』
迷いは無かった。
キーシュは一目散に飛び出した。
建物の中に彼女が居る。
まだ間に合う。
いや、間に合わせる。
間に合うかもしれない。
余計な考えはすべて失せていた。
Sランクだと言うことも、自分がアードの子孫であることも、ジェノサイドに負けたことも、今この場においては全てがどうでもよく、要らない情報だ。
今欲しいのはラケルの安否。
その居場所だ。
『ラケルッッ……!ラケルーーーーッッッ!!!』
瓦礫と砂埃と煙のせいで大声を出してはいけないのは分かってはいたが叫ばずには居られなかった。
城中を走り回り、躓き、声を上げるが見知った女の子の姿は見えない。
朝に潜入したのがここで役に立った。
地形がミサイルのせいで変形しているとはいえ、少しは知っている風景ではあったからだ。
武装組織に囲まれた地点にまでやって来た。
それでもラケルは居ない。
もしかしたら異変を察知して早々と外に出たのかもしれない。
次々と降ってくる轟音と衝撃によろめきつつも、そんな淡い期待を持って来た道を戻るべく振り向く。
少し遠くの方で呻き声のようなものが聞こえた。
だが、それは男のもので尚且つ、朝に聞いたものと同じだったので無視することにした。
どうせ押し潰されているのだろう。そんな事は知ったこっちゃない。
『ラケル……頼む、返事を……どこに居るんだ!!!』
いつの間にか背中がズキズキと痛みを発していた。
今すぐに倒れたかったがすぐそこに彼女が居ると思うと諦めずにはいられなかった。
ついさっき上った階段を駆け下りる。
1階の広間の奥。
来た時は目もくれなかった空間に、
『オイ……オマエ……』
鼓動が早まる。
あまりにも鳴動するのでそれだけで胸部から圧迫感に近い痛みが発しているようだった。
ーーー
ゾクゾクとする胸騒ぎを覚えた。
ハサンがそちらへ向かうと、丁度黒煙の奥から1人の男が姿を現したその時だった。
『キーシュ!!お前何やってんだよ!?』
ハサンは思わず叫んだ。
自ら危険な大地を踏むとはこれ如何に。
そう思ったのだが、
『キー……シュ……?』
何やら大きな荷物を抱えているようにも見えた。
横長の、重たそうなそれは、
『嘘だ……嘘だと言ってくれ……』
すべてを知った時。
突然ハサンの目から涙が溢れた。
城から抜け出し、仲間の待つ広場に戻ってはある程度の安全が確保されたと理解したキーシュは。
どっと倒れた。
両腕に抱えた、亡骸をゆっくりと下ろしながら。
『やめろぉぉぉーーー!!嘘だ嘘だっ……嘘だと言ってくれよキーシュゥゥゥ!!!!』
『うる……せぇな……いい歳した大人が……喚いてんじゃ、ねぇ……』
息が苦しい。
喉の焼けた感覚とは裏腹に比較的マシだと思える街の空気を吸いながらガックリと全身の力が抜けていく中、それを見た。
『ラケルが……死んじまった』
今にも城から出ようと思った矢先に彼が見たのは、飛んできた破片を眉間に受けたラケルが倒れたその現場だった。
何度か揺さぶった。
何度も声を呼んだ。
だが、その閉じた目が開く事は無かった。
まだ外に出て運べば起きるかもしれない。
勝手に願望を抱いてはその通りにしたものの、見えるのは綺麗な寝顔とハサンの慟哭だけだった。
『コイツが……何をしたってんだよ……』
『キーシュ、一体何が?』
『まだ俺が……俺が最後まで一緒に居ればコイツは……。いや、そもそも引き止めておけばこんな事には……』
すべて終わってから蘇る記憶。そして後悔。
どんなにほんの少し前の事を思い出しても何も変わらない。何も起きない。
『ラケル……すまない。本当に……すまない……』
これまで作り上げたプライドとか、Sランクの立場など、全てがどうでもよかった。
胸に顔を埋ませて静かに肩を震わせる。
どんなに自分が強いと言われようがこんな事しか出来ない。
1人の女の子の命すらも救えない、ただ涙を流す事しか出来ない、無力な人間なのだから。
ーーー
仲間の啜り泣きを聞きながら自身も涙を微かに流した時。
胸の辺りに違和感を覚えた。
ゾッとする感情が覚えるほどに硬かったのだ。
それは、皮膚の上に見てはいけないレベルの異常があるのかと思うくらいに。
もしかしたら彼女の身に自分の知らない異変があったのかもしれない。
状況をそっちのけで上着を裂いた。
女の子である事も今だけは忘れていた。
そこで、また1つ真実を知った。
ラケルの宝物が、そこにはあったのだ。
ーーー
つまらない過去を思い出したようだった。
今となっては過ぎ去った記憶。
追い求めたところで彼女は帰って来ない。
「シリアの騒乱を止める……ですって?あなたが?」
それでも、果たすべき使命が彼にはあるのだ。
「そうだ。俺様とギラティナで、な。ほら伝えたぞ?俺様の……ゼロットの目的を。約束だ。そいつを寄越せ」
真っ暗な世界の中、キーシュはルラ=アルバスの持つ巻物に強い眼差しを向ける。
ルラ=アルバスも戸惑いを隠せない。
それまで自身や他のNSAの職員たちが集めた数多の報告には無いその告白に。
故に悩んだ。
果たして、この書物を彼に渡してよいものかと。
ーーー
神がこの世に存在するならば、それは非情だ。
決して人の気持ちなど分かりはしない。
仮にそうでなければ、罪の無い子供たちをいたずらに殺す事などしないからだ。
神がこの世に居るとするならば、それは邪神でしかない。
そうでなければ、こんな目に遭わせる必要が無いからだ。
二度と目覚めない古城の天使。
その体を強く抱き締め、その死を嘆くその時。
仲間達が次々に空を指しているのを見た。
ラケルが死んでいると言うのに、何故他に目を逸らせるのか。
そんなにも政府軍用機が目に付くのかと不信感が芽生えつつ、つられている自分が居た。
神というのはつくづく非情な存在だ。
困難を与えておいて更なる悲劇と苦痛を与えるのだから。
"それ"の存在を知る者は、彼以外に存在しなかった。
キーシュは今眼前に君臨している"それ"を見た。
何故この地に、
何があって、
何のために、
何の仕組みで、
現れたと言うのか。
古城に竜が現れた。
まるで、地上の怒りが体現されたような禍々しい姿形をした竜が。
キーシュ・ベン=シャッダードは知っている。
その竜の正体を。
その、性質を。
ラケルが見せたかった宝物を片手に、王は、今、立ち上がった。
ーーー
「くそっ、テメェ……邪魔だぁぁ!!」
ゴウカザルの前に、砂嵐を生み出したギガイアスが鎮座する。
'インファイト'を難なく耐えたアスロンゲスのギガイアスが、大地を揺らしつつ砂粒を投げつけてくる。
高野洋平は完全に足止めを食らっていた。
「いかせるかよ……僕とキーシュは決めたんだ……誓ったんだよ?悲劇を無くそうって」
「その、お前らの行動が別の誰かの悲劇だって気が付かないのかよ!?」
黒い世界の中で高野は叫ぶ。
だからと言って何かが変わるわけではないのだが。
『そこまでにしろ、アスロンゲス』
高野とアスロンゲス、ギガイアスとゴウカザルの間のぽっかりと空いた空間にそれは突如響いた。
大地の裂け目からキーシュがその姿を見せる。
片手に巻物を抱えながら。
「目的は果たした。それ以上戦う必要は無くなった」
「アメリカ帝国の連中はどうした!?」
「今は見逃してやったさ。何の価値も無い人間だしな」
「おい、キーシュっっ!!」
高野は怒りの矛先をバトルの相手からキーシュへ変更する。
彼の目的が果たされても高野の目的は一向に終える気配すらも無いからだ。
「丁度いい、ジェノサイド……。貴様に1つ約束を守ってもらおうか?」
「はぁ!?お前、何を……」
「明日の早朝、シスルという小さい集落にあるウバールの遺跡に来い。貴様1人でな」
「勝手に話を進めんじゃねぇよ!!」
高野はゴウカザルに指示を出す。
邪魔をしたキーシュに'フレアドライブ'をぶつけてしまえ、と。
「いいか?言ったからな?俺様は」
しかし、その命令は果たされない。
突如、キーシュとアスロンゲスが眩い光に包まれた。
その姿は段々とぼやけながら消えてゆく。
「ウバールで待つ」
姿が完全に消え、直後として世界全体が大きな爆発でも起きたような強い光を発する。
思わず腕で顔を覆った高野だったが、しばらくの間隔を経て、目を開けるとそれまで自分たちが居た現実世界、即ちサラーラ中央スークへと戻っていることに頭が遅れて追い付いてきた。
「ジェノサイドさん!?ルラ=アルバスさん!?ご無事ですか!?」
慌ててレイジが駆け寄る。
無理もない。
脈絡無しに忽然と姿を消せば誰だってふためきはするだろう。
「何があったのですか!?お怪我は?」
「大丈夫よ。私も……彼も」
ルラ=アルバスが重く悩んでいそうな暗い表情を見せつつ静かに呟くが、周りがうるさいせいで2人にはよく聞こえなかった。
「キーシュだ……。奴に会って来た」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.497 )
- 日時: 2020/07/21 00:40
- 名前: ガオケレナ (ID: InHnLhpT)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
予言者の回顧録
愛する友が、何度も私の名を呼んだ。
疲れ切っていた私はぐったりしながら馬車から顔を出す。
『着いたぞ。着いたぞ!!』
ムフタールは叫ぶ。
『何処に?』
『ウバールだ!お前が行きたがっていたウバールだぞ!』
その言葉のせいで私は飛び起きた。
見れば、寂れた荒野の中にそれはあった。
『お前が見たかったものが、そこにあるぞ!』
私の心は突然晴れやかになった。
これまで本当に辛い毎日だった。
手掛かりのすべてを持ち合わせていない中、"アアド"なる伝承の民に会う事が出来る。
天国をその地表に再現した、夢の空間がそこに広がっている。
私は走ってその地へ足を踏み入れた。
『こ、これは……?』
私は疑った。
彼曰く、場所は此方で合っているとの事だった。
『わ、私は今……何を見ているんだ?』
『これで分かったかい?此処が……アアドの生きた"証"さ』
『な、なんてことだ!!』
私は叫んだ。
とても不思議な夢を見ている気分にさせられて堪らなかった。
そこには、何も無かった。
アアドの民も、伝説のシャッダード王も、聖なる円柱も、彼等が住んでいた建物も、すべて。
『アアドはもう居ない。あるのは、この廃墟だけだ』
『嘘だと言ってくれ!私は……私は確かに聞いたのだ!遥かなる大地にアアドの民があると!彼等を仲間とせんとやって来たと言っても過言ではないのに!!』
『アアドは滅んだ。……もう、諦めるんだ』
私は絶望した。
認め難い世界を前に、私はただ天を仰いだ。
そこにあるのは、絶え間なく続く熱風と、大地を2つに裂いた、巨大な穴のみ。
どうか、これを手にした同胞よ。聞いてくれ。
アアドの民は既に在らず。
これは、私が観た記録なのだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.498 )
- 日時: 2020/06/21 02:00
- 名前: ガオケレナ (ID: J3GkpWEk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第六の道、真との遭遇
「おい、待て……」
キーシュ・ベン=シャッダードはNSAの人間から奪い取った巻物を読んでいる中で、絶対に翻訳ミスだろうと思いたくなるようなその内容に言葉を失った。
「俺様は……何を見ている?何を読んでいる……?これは、偽物か?」
「さっきから1人で何をブツブツと……」
後ろの建物から1人の男が寄って来る。
嘗ての名はハサン。今の名はアスロンゲスと言う口髭を生やした男だ。
「アスロンゲスか……。丁度いい。お前、サラーラで例の女と会ったんだよな?奴が持っていたのはコレと同じか?」
そう言ってキーシュは手に持った書物をヒラヒラと風になびかせて見せつける。
ルラ=アルバスと会話を交わしていたアスロンゲスだからこそ分かる話だ。
彼はその、ややふざけた調子の言動に不満があるからか、見せてくるそれにはまともに見もせずに「同じだ」とだけ言った。
「そうか……」
そう言ってはキーシュは紙を丸めつつ後ろの建物を見つめる。
ウバールの遺跡。
即ち、アードの民が太古の時代に生きていた大地だ。
「コレを書いたのは写本とはいえ予言者フードその人だ。奴は"聖典"の記述に沿っていけば、アードの民だけでなく時の王シャッダードに会い、警告を発し、最後にはアードが滅んだ様をその目で見ている。だが、コレはどうだ?直に見ようとウバールまでやって来たものの、そこに映っていたのは今と変わらない廃れた街と化した遺跡だけ。何で2つの書物で記述が違うんだ?……一体どちらが正しいんだろうな?」
「そんなもの……僕には分からないね」
熱が入り、つい早口になってしまったキーシュだが、感情の籠っていない声で軽くアスロンゲスはあしらう。
最早、そこに一片の興味も無いようだ。
それをキーシュは十分に察している。
「……なぁ?アスロンゲス。不満か?」
「……」
アスロンゲスは無言で顔を見上げる。
力の抜けた、間抜けそうな表情なのだが、いつもの口髭が妙にアンバランスに感じて笑いが混み上がりそうだ。
「ここまでの流れに……なにか不満を抱いているよな?」
「不満……か。人生なんて上手くいく事ばかりじゃないだろう?」
「お前は、あの戦争の原因はアメリカにあると考えているよな?それは正しいかもしれないし間違っているかもしれない。それは俺様が判断することじゃねぇ。何故なら明確な答えがあるからだ。俺が殺した。それだけだ」
「それは……僕はそこまでは……」
「なぁ、アスロンゲス。教えてくれないか?」
キーシュは無言で遮る。
無駄なやり取りを好まないことと、当時の事をあまり思い出したくない思いが重なった。
「ラケルがこの本を持っていた……。それは何故だ?」
キーシュはもう片方の手で持っていた『予言者の回顧録』をアスロンゲスに見せびらかす。
キーシュが今探している失われた断片を除いた、それ以外のページが予め揃っている写本。
「お前とアイツの家系にも関わる事か?そうなると、お前はアードの民の可能性が……」
「それはアレッポ城から持ち出したものだ。血筋は関係ない」
「?」
曰く、小さい頃から縄張りだったアレッポ城はラケルにとっては知らないものなど無い程にすべてを熟知していたそうだ。
何処に階段があり、どの部屋に繋がっているのかを目を瞑っていても分かるレベルな程に。
それこそ部屋を彩る装飾品の類までも、すべて。
「天井で塞いだように偽装された物置と化した空間で見つけたみたいなんだ。明らかに今の物とは思えない古い壺を……それも、分厚い本が1冊入る程の歪な形のものを」
「つまり、ただの偶然と?」
「そういう事だ」
あまりにも都合の良すぎる話にしか聞こえない。
それならば、一体何だったのか。
レバノンの難民キャンプで見かけた少女と勝手に行動を共にし、アレッポに着いたと思ったら今自分が1番求めていた情報、書物を知っていた。それも、偶然に。
あまりにも重なりすぎて必然的にも思えてしまう。
ならば、何故彼女は死んだのか。
これは逆に考えたくなくなってしまう。
「この本をラケルが持っていた以上、そして俺様がアードの子孫である以上、必ず明らかにしなくてはならない……そう思ったのは俺だけなのだろうか?」
「それは……。さぁ、どうだろうな」
「どちらにせよ、答えはすぐそこまでに来ている。もう少しだけ待っててくれないか」
「果たして僕に肯定も否定も出来るのかな?」
「さぁな」
キーシュは遺跡を見つめたまま歩き始めた。
辺りは暗くなり始めたと言うのに、まだ発掘調査をするらしいようだ。
「それ位、自分で決めろ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.499 )
- 日時: 2020/06/22 21:03
- 名前: ガオケレナ (ID: 8rukhG7e)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
どうしても、忘れられなかった。
あの日見た姿が目に焼き付いて離れられない。
寝ていれば夢に現れるし、起きていても頭の中では嬉しそうにはしゃぐ姿が蘇る。
1人で勝手に苦しみ、悶えるのが我慢ならなくなった。
なので、
「どうしたの?話って」
「ホントにごめんなー。特に用も無かったよな?」
「いや、そんな事は無いわよ?」
吉川裕也は相も変わらずドギマギしていた。
そこらの街中で見ても違和感の無い普段着な姿であるにも関わらず、3日前の水着姿のせいで変なバイアスが掛かってしまっている。
とはいえ、それでも露出度は高いのだが。
「このまま出掛けようと思っていたし。だから此処を指定したのよ」
「そうなのか……」
そう言って吉川はそこから景色を眺めた。
夏の大会が行われた会場。
小山の上からだと、聖蹟桜ヶ丘の街が一望できる。
「な、なぁ……」
「メイ、でいいわよ」
「あのさー、メイ……」
突然胸の鼓動が速まる。
あの日にときめいてから、想っていない日など無い。
忘れた事など、一刻として無かったのだ。
「旅行、延期になっちまった」
海に行った翌日に入った連絡。
主導していた石井が"向こうに"いるせいで。
「それは残念ね。何処に行く予定だったの?」
「富士五湖。あんま遠くには行けねーからな」
吉川はいつもの癖でポケットから煙草を取り出す。
口に咥えようとしたところで我に返り、ハッとしたような顔でメイを見たが嫌な顔をされる事は無かったのでそのまま火を付けた。
「メイ、お願いだ。付き合ってくれ」
まさに唐突な告白。
これまでもそうだったが、彼はこのような言い方しか出来ない。
自分の心が先に押し潰されそうになるからだ。
「ごめんね。今はそういうことをやってる場合じゃないの」
だが、メイの返事も意外にもあっさりとしたものだった。
顔色変えることなくさらりと言い返してしまう。
「あの日から君の事が忘れられないんだ!君が居なきゃ俺は……ダメ、なんだよ……」
「ごめんなさい、それでも無理なの」
「どうして!?俺がデブだからか?眼鏡掛けてるからか!?」
「レンだって眼鏡掛けてるわよ。……それに体型の問題じゃない。太ってようがガリガリだろうが魅力的な人は魅力的だし好きな人に対しては好きだと思えてしまうわ」
「それじゃあ……」
「あのね、今はそんな事をしていられる程私"たち"は呑気でいられないの。明日死ぬかもしれないのよ?」
それならば。
吉川にも当然とも言えるべき疑問が沸いてくる。沸かないはずがないのだ。
「じゃあ何でそんな環境に居られるんだよ?嫌なら辞めちゃえばいいじゃないかよ!?」
深部から離れてくれ。
吉川が伝えたい言葉はそれだけだった。
幸せな事にメイにもそれは伝わっている。
「辞める、と思いたくて辞められるのならば簡単よ。それを考えると"あの人"も軽はずみよねぇ。唯一の悪いところだわ」
「辞められない?それはどうして?」
「機密事項に触れているから」
深部とは言ってもその力の根源は得体の知れない実体化したポケモンである。
その正体が暴かれるのも、その世界の裏側を知る人間を俗人と戻す事を良しとしない人間、勢力が居るのが事実である。
つまるところ、許されないのだ。
「それじゃあ……石井や山背は……」
「戻れないかもしれないわね。私は戻る前に死んじゃうと思っているけれど」
2人は帰ってこない。
それは、高野の行動も全て無駄になると言う事だ。
恐らく高野もそれを知ってはいるのだろう。
だが、諦めきれない。
それがこの騒動の一因でもあるのだ。
「そんな……」
「半端な気持ちで深部なんかに首突っ込むからこうなるのよ。自業自得ね」
私も似たようなものだけど、と最後に付け足す。
案の定「どういう事か」と尋ねられる。
「私の組織ね、レンに潰されているの。基地を燃やされたオマケ付き」
「はぁ!?なんだそりゃ!?」
今の吉川ならば憤る事必至だった。
好きな人は守りたい。そんな正義感を持つ人間だからだ。
「しかも向こうから一方的に喧嘩を売られてね。……あれは悲しかったなぁ。結構楽しくていい環境だったのに」
「ぶ、無事だったよな?」
吉川は突然不安に駆られる。
もう3年も前の話であるにも関わらずだ。
「死人は出なかったわ。そこは中途半端に優しい彼らしいわね。被害は基地が無くなっただけ」
「それなら……どうしてそんな奴と仲良く出来るんだ?恨みとか無いのかよ?」
似たような場面に本人と出くわしたようなデジャヴを感じつつメイは、
「完全に無いと言えば嘘になるけど……深部なんて普通そんなモノよ?負けたら死んだと思った方がいい。私も死ぬかと思った。でも、レンはそこまでしなかった。もう少し前なら基地を燃やすこともしなかったんだけどね」
本人曰く「当時は気を病んでいた」らしく、自身の力を誇示するためにやっていたのだとか。
大会が終わってからそんな話をしていた記憶があった。
「でも……そんな奴と一緒だなんて……」
「もう、いいかしら?何の為に呼ばれたのか分からなくなってきちゃった」
吉川の声が途切れる。
ここまで辛うじて続いて来た細い線が今切れた、そんな気分だ。
「これから私、レンの仲間たちの所に行かないといけないの。何人かが勝手に向こうに行っちゃったのよねぇ。とりあえず状況の確認と門番の代わりしないと」
「ど、……っ、どうしてそこまでするんだよ!!お前の仲間を引き離した人間だろ!?」
吉川は叫ぶ。
だが、威勢に反してその声は震えていた。
メイは残念そうな目を彼に向ける。
「あのね……3年前と今とでは状況が違うの。嘗ての敵が〜とか言ってられないのよ?」
「それじゃあ、一体何が?」
「……ポケモンの正体がなんなのか……あなたはもう分かるのよね?」
悩んだ。
そこらの一般人でしかない彼に、議会の人間から伝えられた情報を言うか否か。
だが、彼は大会時に"事実"と出会ってしまった人間だ。
その時その一瞬だけすべてをバラした高野を恨んだ。
「あ、あぁ……知ってる……。完全にではないが」
なにが完全なのか言っている意味が分からないが聞かなかった振りをするメイ。
ここまで来ては引き下がれない。
「自然発生したポケモンがいるわ。誰の意にも介さずに、勝手に……。それは突然産まれたの。そんなポケモンが……よりにもよって危険な人物の手に渡ってしまった」
「おい、その人物ってまさか……」
「もう2人は帰って来れないわ。本当に残念だけど……もう諦めて」
もしも。
もしもギラティナなんてポケモンが現れなければまだ"それ"も可能だったかもしれない。
だが、渡った敵とその背後、そして関わり出した勢力に問題があった。あり過ぎる。
直視するには、あまりにも悲しい事実だった。
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