二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.425 )
- 日時: 2019/11/27 12:57
- 名前: ガオケレナ (ID: UQpTapvN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
グレイシアは倒れた。
ヤミラミは'おにび'と'イカサマ'を連発し、こちらが受けた攻撃の分は'じこさいせい'で回復することでジワジワと攻撃を与えた。
だが、嬉しい結果ではない。
相手の望み通りの、時間を要したバトルとなっていたからだ。
「時間とはなんだ?空間とはなんだ?お前はそれを説明出来るか?存在を証明出来るか?」
手持ちのポケモンが1体倒れたというのに、テルは役目を全うしているが為に満足気に叫ぶ。
と、同時にハッサムを繰り出した。
「1つ目の答えは、"時間とは記録であり記憶"であるという事。"空間とは隔たりの認識"であるという事。2つ目の答えは不可だ。これらに実体は無い。故に構造が説明出来ない。そんな構造の変化をお前は説明出来るか?出来ないだろう?」
けどな、と一旦間を置いてテルは空を見る。
そこには、2柱の神がいる。
「時間を司るポケモンと空間を司るポケモン。この2体のポケモンが姿かたちを伴って現れた事でこの世界……この次元はより高度になる。そうする事で……」
「特異点に行き着く……と、言う事ね?加速させるだけで良かったって訳?」
「その通り。それは第2段階。今の状態だな。あとは時間まで……あと4時間待てばいい」
ハッサムは登場と同時に拳を固め、殴る。
'バレットパンチ'だ。
だが、ヤミラミは倒れない。
上昇した防御の前では気にも留めないダメージだ。
高野は'おにび'を指示する。
しかし。
ぽすっ、と。
妖しい炎の揺らめきはハッサムの真隣で落ちて消えた。
「何処を狙っているんだ!?ジェノサイド」
「クソっ……黙ってろ!!」
高野はヤミラミをボールに戻し、ゾロアークを出す。
「馬鹿がっ!」
テルは見逃さなかった。
本来ゾロアークが持っているはずの道具、"きあいのタスキ"は既にゴウカザルが所持していた事を。
即ち、今のゾロアークの手持ちはタスキでは無いことを。
「タスキの無いゾロアークに怖いモンなんてねぇ!さっさと倒れなぁ!!ハッサム、'バレットパンチ'っ!」
ハッサムは再び鋼の拳をもってゾロアークを殴り飛ばす。
"テクニシャン"も相まった威力がゾロアークに乗っかる。
耐久が無に等しいゾロアークは。
「まだだ!'カウンター'!!」
ギリギリ耐えたゾロアークは裏拳を放つ。
確定2発の技を倍加して打てばどうなるか。
「なっ……耐えた、だとっ!?」
殴り飛ばされたハッサムは。
逆に地に伏せられてしまう。
「もうお前に時間を割くつもりはねぇ……さっさと退け」
「仮に俺が消えたとして……お前に何ができる?物理的にあのポケモンらを倒す気か?無理だろうな!」
テルは思い出す。
時間稼ぎはまだ出来ると。
残ったポケモン、ニャオニクスで再び壁を造ればまだまだ足止めは出来ると。
この戦いに勝ち負けは無意味だ。
この時点で作戦は上手くいっているのだから。
薄く笑みを浮かべながらテルは最後のポケモン、ニャオニクスを放つ。
遠慮はいらない。
テルは即座に'ひかりのかべ'を拡げた。
「チッ……クッソうぜぇ……」
高野は無意識に舌打ちをする。
突然、何処からか別の人間の叫び声が上がった。
そちらへ反射的に振り向く。
「テメェェェ!!何やってんだジェノサイドォォ!!!」
見ると、ルークがニンフィアの'ハイパーボイス'とクチートの'じゃれつく'でテルの仲間を1度に数人まとめて吹き飛ばしていた所だった。
その後ろには彼の仲間、モルトや雨宮といった面々や、組織ジェノサイドの頃から居た構成員の何人かが見受けられる。
「お前……ルーク?さっきまで何処に?」
「それはこっちの台詞だクソジェノサイド!この状況を説明しやがれ……っ!そんな雑魚相手に何手間取ってやがんだ」
「しょうがねぇだろ……奴の作戦に引っ掛かっちまったよ……」
「ありゃりゃー……仲間が来ちゃったか。ってか仲間なんて居たのか?ジェノサイド」
テルは軽くため息を吐く。
ダメ押しにとニャオニクスは'あくび'をした。
「もうお前には付き合ってられるか……」
高野とシンクロするが如く、ゾロアークは湧き出る感情を1点に集中しながら両腕からオーラが立ち始めた。
「ゾロアーク……一気に吹きとばせっ!フルパワーで'ナイトバースト'!!」
ゾロアークも獣の遠吠えを上げながら腕を、オーラを纏ったそれを大地に叩きつける。
それは、暴走する列車のように。
視たが最後。
避ける暇も与えること無く。
周囲に、周りにあるモノすべてを、無にせんと吹き飛ばす。
有り余ったその力を、ゾロアークは天へと掲げた。
赤と黒の破壊光線は空へと、広大な光に向かって放たれる。
まるで天に、大いなる力に反抗するかのように。
ーーー
「おい!香流、あれ見ろ!」
一瞬ボーッとしていた香流は吉川のその声によって意識が戻った。
彼の指し示す方向には。
「あれは……レン!?」
見慣れた赤黒い'ナイトバースト'の光が天へと伸びていたその光景だった。
「まだレンとは決まった訳じゃねぇが……可能性としては有り得るよな?」
「そう言えばレンは……自分の居場所を教えてくれなかった。こっちの場所を伝えた途端通話が切れたから……」
「急いでいるか、戦いに巻き込まれたかのどちらかだろうよ?後者だとしたら尚更可能性が高い!」
吉川は先に動く。
目の前に集う人混みなど構うもんかと邪魔な人間に対して突進をかます。
直後に怒号や困惑の声が広がるが、それの相手をいちいちすること無く彼は突き進んでいった。
香流も彼の後ろをついて走る。
と、自分より後ろを歩いていた高畠らが、
「ちょ……吉川っ!香流ぇー。何処に行くのよ?」
「ごめん高畠。ちょっとレンに会ってくる!!」
と、言って香流も手当り次第に体当たりして道を作りながら高野が居るであろう目的地まで突っ走る。
「ごめん、オレも行くわ」
そう言って岡田も後をついて行った。
ーーー
技は急所に当たった。
目の前の障壁となっていたニャオニクスは倒れ、戦いは決した。
「お前の不毛なバトルには付き合ってらんねぇ……首謀者は何処だ。言え」
「言ったところで止まらねぇよ……」
テルを含め、アルマゲドンの面々は全員が'ナイトバースト'に巻き込まれ散り散りとなる。
それは彼の仲間も同様にであるが。
「言ったろ……?これは、次元の高度化だと。ディアルガと、パルキアが現れた時点でもう……俺たちには止める事が出来ねぇんだよ……」
どうにも出来ない腹いせに高野は立ち上がったばかりのテルを突き飛ばす。
そんな彼のもとに、文句や愚痴を言いながら仲間が集まって来た。
「俺たちを巻き込むか?普通」
「あー痛てぇわぁー。コレ頭打ったなー。後で治療費請求するしかねぇわぁー」
「あー……その、悪かった……お前ら」
言って、高野は転んでいたメイを立たせる為に手を貸した。
メイはその手を握ってよろよろと立ち上がる。
「どうするの?手はあるの?」
「ある訳ねぇだろ……俺たちにどうしろってんだよ?」
高野は改めて空を、2体のポケモンを眺めた。
ディアルガとパルキアが吠える。
テレパシーで地上からの悪意や敵意を感じたのか、時折そちらに向かって攻撃も始めてきた。
パルキアは腕から刃のような光を、
ディアルガは翼を膨張させて力を漲らせ、口から光線を放つ。
それぞれ、'あくうせつだん'と'ときのほうこう'だ。
飛行機が墜落したような、爆弾が着火したかのような爆音が響き渡る。
それを、彼らは呆然と眺める事しか出来ずにいた。
「……アレをどうやって止めろと?」
「何処までふざけてやがんだ……コイツら……」
どうにも出来ない脅威。
どうすればいいのかと今更考える余裕も暇も与えずに、大いなる存在は天からの裁きを地上へと堕とす。
そんな最悪のタイミングで。
「おーーい!!レンっっ!!」
「ジェノサイドさぁぁ〜ん。やっと見つけましたぁ〜〜!!」
香流慎司と吉岡桔梗。
2人の場違いな人間が、戦地の中心へとやって来てしまったのだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.426 )
- 日時: 2019/11/27 17:42
- 名前: ガオケレナ (ID: UQpTapvN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ウッソだろお前ら……」
高野は背筋が凍る思いだった。
砂埃の向こうから、絶対に今は聞いてはいけない声を聞いてしまったからだ。
「どうして……ここに?」
「どうしてってこっちは大会参加者なんだから……会場に居てもおかしくないだろ?」
香流の当然すぎる言葉に、高野は我に戻る。
その目は、あとからやってくる東堂煌と相沢優梨香、そして吉川裕也と岡田翔の姿を確認していた。
「あっ、そっかぁ……」
「とにかくジェノサイドさん!!いや……高野さん。今何が起きているんですか〜!?」
「あれ?そう言えばこの前に……」
香流は隣に居る、どこかで見たような背格好を見て思い出した。
自分の家に来ていた高校生だ。
「この前レンと一緒にいた……」
「あっ、高野さんの友人さんの〜……」
吉岡は軽く頭を下げる。
対する香流はそんな事しなくていいと逆に緊張する思いでそう言う。
「久しぶりだね。元気にしていた?大会では勝ち進んでいるのかな?」
「はい!お陰様で〜……。なんとか!ご無事に残っています!」
「お前らこんな時に何呑気に会話してんだ!!とにかく避難するぞ……場所は、何処か屋内がいいな」
「この状況見て呑気だなァジェノサイド!!」
物理的に、自らの拳でアルマゲドンの人間を倒しながらルークが叫ぶ。
改めて見ると、あらかじめ潜んでいたのだろう、林の中から彼らの仲間が邪魔をさせまいと道を塞ぎつつこちらへポケモンや武器になりそうな道具を持ちながら迫って来ていた。
「もう既に此処はアルマゲドンのヤツらに包囲されていると見てもいいな……。テメェは此処でおトモダチと共にくたばるか、あのポケモンを引き摺り降ろすか、逃げるか今すぐ考えな!!」
最早組織間抗争の"それ"だった。
それぞれの組織の人間が、それぞれの思惑を持って互いが互いを傷付け合っている。
自分の周りで、血で血を洗う戦闘が既に始まっていたのだ。
「お……俺は……」
高野は迷った。
今自分が何をすべきか、最善手が何なのか、候補があり過ぎて上手く答えが出せないでいる。
周りを見回しながら、高野は口を震わせるしか出来ない。
「早く答えろ!!テメェの仲間は……テメェの指示を待ってんだよぉ!!」
見ればルークの他にも、ケンゾウやハヤテ、ミナミにレイジ、リョウやショウヤといったジェノサイド時代の仲間が大勢駆け付けては戦いを始めていた。
抗えない巨大な力と、混乱を極め混沌と化す地上。
そんな、どうしようもない状況で。
高野は。
確実に心を蝕まれていき……。
「大丈夫。安心して」
その腕を、ぐっと握る温もりがあった。
高野はおそるおそるゆっくりとそちらへ顔を向ける。
片方の耳が、大砲でも放たれたかのような轟音を掴みながら。
「メイ……」
「まずは落ち着こう。解決策は……必ずあるはずよ」
ーーー
「これは……っっ!!」
大貫銀次は慌てて工房から飛び出した。
外で大きな物音が、それも物騒な類のものが聴こえたからだ。
大貫の目には確かに映っていた。
決してポケモンに詳しくはない彼であるがゆえに、そのポケモンがどんな存在なのか。なんて名前なのかは分からずとも。
禍々しくも神々しい、絶対的なオーラを放つ2体のポケモンが。
「クソッタレめ!!やけに最近おかしい事ばかり起きていると思ったが……」
彼の工房から人の声が微かに聞こえる。
それは、ラジオから流れていた。
『皆さ〜〜ん!!見て下さい!!桜ヶ丘ドームシティに……物凄いポケモンが出現しています!!この綺麗な空と相まって……素晴らしい演出ですね!』
女性アナウンサーの声は、その災厄とは裏腹に、はしゃいでいるような、元気な、まるで明るいニュースを告げているかのようなテンションであった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.427 )
- 日時: 2019/11/27 18:36
- 名前: ガオケレナ (ID: UQpTapvN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野洋平は動き出した。
逃げるように走りながら、その際彼の存在を見つけてやって来た面々の名前を叫んだり、肩を叩きながらすぐ近くの店の裏側に回って隠れた。
彼の後ろをついて回ってきたのは香流と吉川と岡田、稜爛高校の3人とメイだ。
「なんだよ……レン……急に走らせるなよ……」
タバコのせいで最近運動をしだすと息切れが酷くなってきた吉川が苦しそうに呟く。
「お前さっきまで走ってただろが」
「あの〜……高野さん?急にどうしたんですか?」
店の表方面からはルークの、「ジェノサイドォォ!!テメェ何処消えやがった!!」と怒鳴っているのが聞こえたがそんなものは無視しながら高野は、全員の目を見ながら意を決した。
「みんな。俺だけじゃどうしようも無いんだ。こんなザコの為に……力を貸してくれ」
ーーー
バトルドームにて変化があった。
逃げ惑うように、大量の人々がわっと押し寄せて来たからだ。
「えっ?……えっ!?」
やはり、ただ事ではないのを見て取ったリッキーはこれから予定していた試合を運営の答えが来るよりも前に独断で中止させる事を決め、近くのスタッフにそれを伝え、その様を眺めた。
誰も彼もが、怯えたような、強い恐れを抱いているようだった。
中には怪我をしている人までいる。
「一体……何が起きているんだ……?」
何度同じような言葉を呟いたか自分でも分からなくなっていたリッキーは、避難してきた人とたまたま目が合った。
その人は、女性で、助けを求めているような目をしていた。
「リッキーさん!助けて下さい……っ!外でポケモンが……。ディアルガとパルキアが暴れています!どうかこれを……ラジオで……」
「な、なんだって!?」
ーーー
一通りの説明を終えた。
主に、テルから、敵から与えてもらった情報をそのまま彼らに伝えただけの簡単なお仕事だったが。
それぞれが異なる目をしていた。
困惑している者。すべてを受け入れた者。逆に諦めた者。認めなかった者。そもそも理解出来なかった者など。
「分からねぇよ……何が何だか……」
頭を抱えていたのは吉川だ。
「レンの仲間だった人が……育てた奴がコレを引き起こしていて世界を滅ぼす?意味が分かんねーよ……」
「深部の話は理解できないかもしれないけれど……恐らく今の話は本当だ。アイツは良くも悪くも正直だから」
「そうじゃなくて!!いっぺんに大量の情報が入ってこられたらキツいんだよ!!何だよ!?世界が終わるって!?何だよ!?ポケモンの正体が人工知能って!!」
「吉川……気持ちは分かるんだが今は……」
「レン……つまりそれは……前にも似たような事が起きたってこと?」
香流は鋭かった。
彼はこの景色を見るのは2度目になるからだ。
半ばパニックに陥り、頭を抱えてしゃがんでいる吉川を、岡田が肩を叩きながら慰めのような言葉をかけていた。
そちらは彼に任せて、香流の言葉に応える。
「あぁ。前の時も……バルバロッサの仕業だった。奴の思想は丸ごと今のアイツらに引き継がれているんだろうな……」
「レン!何か手はあるのか?このままじゃあ本当に……」
「あぁ分かっている。まずは1つ頼みたい。豊川と山背を呼んで欲しいんだ。もし、出来れば石井も。もしも此処に居るのなら……先輩にも。みんなポケモンが使える。もしもの時にと戦いに備えるように伝えて欲しい」
高野の提案に、吉川は顔を上げる。
「この戦いに石井を巻き込むのかよ!」
その実直すぎる叫びは高野の心を突き刺した。
たとえ大学の仲間であったとしても、ポケモンが使えるのならば、自分の代わりに敵と戦って欲しいという彼の本音を揺さぶったのだ。
「そう……だよな。そう、なるな……」
「レン。とにかく連絡だけはするよ。あとは……こっちたちはどうしたらいい?」
ディアルガの'はかいこうせん'がすぐ近くに墜ちた。
本来聞こえたはずの悲鳴は爆発音に掻き消される。
舞散った土埃が顔に付く。
高野はそれを手で軽く払った。
「本当だったら……共に戦ってほしい。敵の数が多すぎる……。俺は今から此処に必ずいる首謀者の元へ行ってコレを止めに行く。その足止めに来る敵を倒して欲しいんだ」
「でも、アレはもう止められないってさっきの人は言っていたわよね?」
メイの放った事実に、苦し紛れの解決策が崩れてゆく。
「じゃあどうしたらいいんだ……」
再び高野の思考は止まった。
そんな緊迫した状況をよそに、そもそも何が起きているのかよく分かっていない東堂は空を、ディアルガとパルキアを見つめていた。
「あー……やっぱカッコいいなぁあのポケモン」
「ちょっとキー君何処を見ているの?」
「いやあのさー。あのポケモン見てたらアレ思い出してさ。いやぁー。あの映画そっくりの姿してるよなぁー」
「あの映画って……?」
相沢は東堂の馬鹿さ加減に呆れながらも、話に付き合う。それは現実逃避に似ていた。
「ほら、ダークライの映画だよ。小学生の頃吉岡と観たっけなぁ。最後のあの曲がカッコよかったんだよ!!ほらーえっと……"オラが春"って名前の……」
「とーうどーう……それを言うなら"オラシオン"だろ〜……」
吉岡が重いため息を吐いた。
こんな状況でも東堂は東堂だと己の仲間の図太さにはただ驚くのみだ。
「オラシオン……?それだっ!!」
高野はたまたま盗み聞きしていた彼らの会話をキッカケとし、俯いていた顔を十分なまでに上げさせた。
人の思考回路とは不思議なものである。
どんな困難な状況でも、少しでもヒントとなるワードが飛び込めば突然加速するドラッグマシンの如く脳が活性化し、留まることなく回り続けるのだから。
今この瞬間がスローモーションしているのではないかと思うぐらい、数多の単語や言葉、発想、そして記憶が生まれては消えを繰り返し、遂にそれは突破口を見出す。
「みんな、1つ……思い付いたんだ。やってみないか!?」
覚悟を持ち直した瞬間。
守るべきものを見つめ直したその男は。
絶対に諦めてはならない事を思い出させた彼は。
高野洋平は、抗う事の出来ない存在へと、戦いを挑む事を決意する。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.428 )
- 日時: 2019/11/30 18:26
- 名前: ガオケレナ (ID: UQpTapvN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
彼らは駆け出した。
それまで建物の裏で隠れるように息を潜めていた彼らだったが、高野の「走れ!」という合図で各々動いてゆく。
高野とメイは仲間達が繰り広げている戦いの中へ、香流と岡田と吉川はそれぞれ友人やサークルの先輩へ連絡をするためその場に留まりながら命を守り、高野について行かんと吉岡と相沢と東堂も混乱の渦へと自ら突っ込んで行った。
突然舞い戻った高野の姿を見てルークは吠える。
「テメェ何処に居やがったっ!!」
そんな事を言っている間にルークのポケモンはアルマゲドンと思しき人間たちを5人いっぺんに技を使って弾く。
「あぁ!?ちょっとした作戦会議だ!そういうお前こそ何でこんな状況って分かったんだよっっ。あまりにも動きにキレがあるんじゃねぇの!?」
もっともこれは、ルークに限った話ではない。
高野は、「どうして事情も知った訳でも無いのにまるで想定していたが如く戦えているのか」と言いたかったのだ。
ルークは鼻で笑ったあと軽快に答えた。
「リーダー気取りのアホ娘の指示だ。あいつ……何も出来ない雑魚だと思っていたが事前に不穏な動きを察知するとはなぁ!!良いリーダーを持って幸せモンだぜ俺はっ!」
恐らくミナミの事を言っているのだろう。
大混戦の群れの中から彼女の声で「うるさいっ!」と聞こえたのでその通りだ。
高野はモンスターボールを2つ取り出し、空へ向かって投げた。
それぞれゾロアークとリザードンだ。
「っつかテメェこそ今更どうした?作戦会議とか抜かしやがってよ。何か突破口でも開いたってのかよ?」
突如としてメガシンカしたメガリザードンYと、それの放った'だいもんじ'を眺めながらルークが高野に尋ねる。
「一応な。今どうなっているのかの説明は後でするから……とにかく今俺は会わなきゃならねぇ人がいる……」
高野はドームへ続く道を真っ直ぐ見つめた。
敵味方入り乱れて思うように進めそうには見えない。
距離は目測でおよそ500メートル。
直線とはいえ一気に駆け抜けるのは不可能だろう。
足を踏み入れれば別の戦いに巻き込まれるか敵に捕まるかのどちらかだからだ。
「だからァ……。そこを……、どけえええぇぇぇぇぇ!!!!」
叫ぶ。
高野が走ったのを合図に、ゾロアークも技を放つ。
実体のある'ナイトバースト'と、実体の無い地割れだ。
それまで目の前の障壁となる人間全員が目で見た訳では無いが、ある者は闇の光線に飲み込まれ、またある者は地響きに恐れて逃げ出した。
一瞬にしてモーセの海割りの如くドームへと通ずる道が完成した。
リザードンとゾロアークが敵を薙ぎ払っている間に高野はとにかく走り続ける。
体力の無さを憂う暇はない。
とにかく、波が戻るまでに走り切る。
それが今彼に課せられた使命だからだ。
「う……うおおおああああああっっっっ!!!」
無意識に心の内からの叫びを放っていた。
それは、昂りすぎている精神を落ち着かせる応急処置でもあり、本来迎えるはずの限界を一時的に超える為の本能的な反応であった。
徐々にドームの扉が近づいてくる。
あと少し。
あと2、3歩踏み出して手を伸ばせば届くという位置で。
上空からの裁きの刃が振り下ろされた。
ーーー
「だーいじょうぶですかーぁ?我が愛しのリィィダァァァ!!!」
「うっさいわバカっ!いいから戦いに集中しなさい!」
おフザケが一切許されない生と死のラインを歩いているミナミは仲間のレイジから毎日必ず言われるであろう言葉を聞いて、つい本気になってしまった。
と、言うのも普段は彼のこの言葉を聞いた時は軽くあしらうか無視していたかのどちらかだったからだ。
「ホンットにアンタってばアホよねぇ?こんな時に戦い以外に集中する事ってあるのかしら?」
ミナミのエルレイドが相手のナットレイを殴り飛ばす。
少しづつだがこちらが押しているかに見えるようだった。
「当っったり前じゃないですか〜〜。私にとって1番大事なのはズバリ!!大会でも戦いでも明日のご飯よりもアナタですよリーダーァァっっ!!」
などと言って興奮のあまりその場でグルグル回っていた白装束の男レイジは敵のチャーレムの'れいとうパンチ'を直に受けて「ぶべら!!」などという間抜けな声を発しつつ余計に回転しながら宙を舞った。
「ほら言わんこっちゃない……」
ついレイジの居る方へ余所見していたミナミはその時、真上の光に気付くことはなかった。
悪寒が走り、見上げた時は遅かった。
ディアルガが今まさに'はかいこうせん'を自分に向かって発射したその時だったからだ。
呼吸が止まり、体も固まる。
死を覚悟した瞬間。
ぐいっ、と胸の辺りに手を回されて思い切り体が引っ張られる。
「……えっ?」
何が起きたのか分からなかったミナミは、自分の声がブレて聴こえたような錯覚を覚えながら、すぐに地べたに放り投げられて痛みを感じながらすべて理解した。
「あっ……雨宮……?」
「しっかりしろよテメェ……。こんな所で死なれたら俺ら全員も生きていけなくなるって事を自覚しやがれ……」
彼女は助かった。
衝突の寸前、真後ろにいた雨宮が自身の腕力ひとつで彼女を引っ張り、救ったのだ。
「助けて……くれたの?ありがとう……。でも、」
今まで喧嘩腰だった彼からすると有り得ない行動。
何か裏があるのではと読めてしまうものの、それよりも気になった事が彼女にはあった。
「幼気な女の子の体を放り投げるってのはどうなの!?足が痛いんですけどー……」
「テメェ助けて貰ってふざけた事抜かすなっっ!!テメェ俺が助けなかったら死んでたんだぞ!?っつーか自分で幼気とか言うな俺はいつまでもテメェの胸に手が当たってたのが嫌だったんだよ!!」
「ちょっ……アンタ、ウチの……」
どすっ、と2人の間に割って入るようにドラピオンが地面に向かって'クロスポイズン'をぶち当てる。
それが功を奏してか(?)2人ともピシャリと口を閉じた。
「ちょっと黙ってよーぜ。おふたりさん♪︎今どんな状況だい?」
ドラピオンの主はモルトであった。
戦いそっちのけで隙だらけの2人に対し怒りの鉄槌を振るう。
ーーー
「ハァ……ハァ……。クソっ、たれが……ッッ」
高野はよろめきながら立ち上がるとゆっくり歩き出した。
頭を打ったせいでほんのちょっと前の記憶が遅れて戻ってくる。
パルキアの'あくうせつだん'に呑まれるその瞬間、自身のゾロアークに蹴飛ばされて射程圏内ギリギリを抜け出したかと思ったのも束の間、大地に穴を開ける程のその技の衝撃波は避けられず、そのまま前へ前へと吹っ飛んだ彼はバトルドームのガラスを生身で突き破ってしまったのだ。
衝撃で吹っ飛んだ際に体が若干丸まったお陰で大した傷にはならなかったが、それでも皮膚の至る所は切れて血が流れ、ワイシャツも所々赤いシミで染まっていた。
「……まぁ、結果オーライっちゃそうなるけどさ……」
高野は目当てのドームの中へ突き進み、人混みを押し退けて前へ前へと歩く。
バトルフィールドに恐らく目当ての人物が居るはずだからだ。
見れば、建物内は人で埋まっていた。
怪我をして医務室に運ばれた者や単に避難している者など、人によって様々だ。
何故かコートに通ずる扉が閉められていた。
高野は立ち塞がっている係員を突き飛ばして勝手に開く。
そこで繰り広げられていた光景は、
バトルの最中でもなければ昼休憩の途中でもなく。
ただひたすらに自分の命を守る為に逃げてきた人々で埋め尽くされていた。
「な……。こんなにも人が居たのかよ……っ!?」
最早そこは輝かしい戦いの舞台の面影はなく、まるで大災害が起きた時のような、地域の避難所の様相を思い起こすかのようだった。
観客席は先着順で既にすべて埋まり、確保出来なかった者たちがその場で怯えたり休みながら本来はバトルフィールドであった敷地に腰を下ろしている。
「おいっ!!君何をやっているんだ!勝手な真似は止めなさい!」
先程突き飛ばした男性係員に肩を掴まれ、動きを止められる。
だが、高野は事情を知らない人間に1からすべて話す暇も余裕も優しさも今は無い。
「うるせぇ!今それ所じゃねぇんだよ!」
「避難したい気持ちは分かるがそれは皆一緒だ!とにかく整理するまでは扉の向こうで待っていなさい!」
高野を避難してきた人と勘違いしている係員は注意しながら肩を掴んだ指の力を強めながら退出を促す。
そんなおかしな光景を見たせいだろうか。
「ん?」
高野のもとに、見知った人が近寄ってくる。
「君は……一体どうしたんだい?怪我をしているじゃないか!?」
避難所と化したドームを見つめながら、今後どうしようか考えていたリッキーが高野を見つけ出したのだ。
高野も長い間探していた落し物を見つけた時のような顔をしてこう言った。
「やっと……やっと会えた……。少しお話したいんですが、よろしいですか?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.429 )
- 日時: 2019/12/04 19:58
- 名前: ガオケレナ (ID: /p7kMAYY)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
リッキーはひたすらに困惑した。
1度か2度くらいしか顔を合わせたことの無い知り合いから、突然「世界を救って欲しい」と言われて素直に引き受ける事など出来るわけがないからだ。
高野洋平は今起きている事のすべてを話した。
深部に一応は通じている彼なら香流や吉川あたりとは違って理解の質にも違いが見られる。
いちいち遮って固有名詞に対する質問が一切無かった点からそう思った。
だが、リッキーはその話のすべてを信用する事は出来なかった。
あまりにも突飛で、非現実的だからだ。
「リッキーさん……お願いがあるんです。今すぐラジオを使って……」
「高野くん……で合ってたっけ?出来れば協力したいんだがー……その、申し訳ないが本当の話とは思えなくて、ね」
「ちょっ……この状況見てまだそんな事言ってんのかよ!?」
高野は驚き目を丸くした。
「今外で仲間達が戦っているんだ……。確かにアルマゲドンがどうとか、宗教観とかそういうのが理解できないってのなら分かるが、」
「そうじゃないんだ。いいかい?高野くん。シンギュラリティとか、技術的特異点だとかっていうのは近年騒がれ出しただけであって、本当に予想通りの結果になるとはほとんど思われていないんだ。それに……」
「あらゆるポケモンを再現した量子コンピュータがあるんだぞ!?」
「その量子コンピュータを個人が持っているのも普通におかしい!そのコンピュータは実在するのか!?」
その問いに、高野は怒涛の言葉の連鎖が止まり、口を閉ざす。
「それだけじゃない。君はその話を、敵の人間から聞いた。特に尋問した訳でも、無理矢理喋らせた訳でもない。そこに罠が無いと思う方がおかしい。何らかの意図を持って全く違う事実を抱えていると思った方がいいだろうね」
「それじゃあ……どうしたらいいんだ!」
「とにかく今の僕は君たちに協力出来ないっ!此処の対応で手一杯なんだ。君は……真実を見出した方がいいと思う。その上でまた僕の所に来てくれ」
「そんな……」
どん底に突き落とされた気分だった。
死に物狂いでやって来たはいいものの、返事はNoときた。
これまでの苦労とか、これからの策もすべて潰えた。
リッキーの言い分にも一理あるものの、バルバロッサやアルマゲドンの面々の思想を1番理解しているのは高野洋平。彼自身だ。
わざわざ聞こえるようにわざとらしく大きく舌打ちをして高野はコートを、ドームを出た。
建物から外へ出ると、仲間達が、3人の高校生とメイが出迎えてくれた。
「どうだった?」
「どうもこうもねぇよ……。話を信じてくれなかった……。どうしようもねぇよ」
1歩外へ出て状況を見ようと高野は少しせのびをする。
ドームへ繋がる直線上……つまり、今彼らが立っている周りには敵は既に居なかった。
全員倒れているか離脱している。
「今ルークたちは追撃の為にこのドームシティからは離れていっているわ。この緑地周辺に敵はまだいるみたい」
「だからお前たちはここで待つことが出来たんだな……」
こうなると脅威は上に鎮座するディアルガとパルキアのみだがそれぞれ空を優雅に飛びながら時折何処でもない方向へ技を放っている。
「あなたはどうするの?」
メイの声だ。
「俺はこれから……もう1人のアルマゲドンの人間に会いに行く。そいつは、俺の事も知っているし何より誰よりもバルバロッサに近かった奴だ。と、なるとこの騒ぎについてもよく知っているか、そもそもの発端であるかのどちらかだ。……そいつと話す。んで、事実を携えてもう一度リッキーに伝える。"オラシオンをラジオで流せ"とな」
周辺が静まった事を受けて出歩いても無事だと思ったのだろう。
それまで隠れていた香流たちが姿を現すとこちらへ向かって来た。
「オラシオン?どうしてですか?」
相沢がよく分かっていない風な表情をして聞いてくる。
もしかしたら、ポケモンの映画を観ていないのかもしれない。
「なんて事は無い。ただ単にポケモンの感情を歌で刺激するだけさ」
香流たちが到着した。
手にはスマホを握っている。
「レン……。先輩たちは今は此処には居ないようなんだ。それで、石井と豊川それから、山背にも連絡はしておいたよ。皆ドームの中に居るって」
「よし分かった!それじゃあ皆はドームの中に居て避難している人たちを守っててくれ。いつ上空からディアパルが攻撃してくるかも分からないし、中に敵が紛れているかもしれない。俺の注意を引くために一般人を惨劇に巻き込む……というのは十分考えられるからなぁ……。だから香流と吉川と岡田。お前たちはここの守備を任せたい。まぁ本当は戦わないのが一番なんだけどな……」
「ほんとだよ……深部の戦いに……巻き込みやがって……」
と、いう吉川の小声が聴こえた。
高野はそれを無視しようと思ったがたまたまその耳が捉えてしまったので言わざるを得なかった。
「すまない、吉川……。だが、今回は世界を、この世全てを巻き込んだ戦いである事には変わりないんだ。世界を救うため、守る為に共に戦って欲しい」
しかしここは男の吉川裕也である。
英雄になりたいと男なら誰もが1度は願ったその想いを未だに持ち続けている彼は、その言葉につい心が揺らいでしまう。
すると、今度は一通りの戦いを終えたためか、ミナミとレイジがこちらに駆け寄ってきた。
「レンっっ!」
「ジェノサイドさんっ!お元気でしたかぁー?」
「お前ら!?こっちに来て大丈夫なのかよ!?」
「もうウチらが撃退したからねー。とりあえずは」
「いやぁ〜吹っ飛ばされた時はあっ、死んだなって思いましたけど何とか生き延びれましたよ〜。これもリーダーを思っての奇跡ですね!」
こうして言葉を交わしたのも久しぶりだというのにレイジは相変わらずのリーダー愛に溢れているようだ。
逆に高野はそれを見て安心した。
「そうか。じゃあついでだ。お前ら2人もコイツらと一緒について行ってくれ。知り合いの助っ人とか頼もしい以外の何物でもないだろ」
「高野さん〜。僕たちはどうすれば?」
吉岡が手を上げる。
そちらには、きょとんとしている表情をした3人が彼を見つめては言葉を待っているようだった。
「そっか……お前らか……」
高野は悩んだ。
深部の人間とはいえ、まだ高校生だ。
自分と共に首謀者を探すのも、ルークたち赤い龍のメンバーに混ざって戦うのも危険に思えてならないのだ。
「任せる」
「えぇっ?」
「3つの選択肢があるから、お前らで話し合って決めてくれ。1つ、俺と共に首謀者の元へ行くか。その際ディアルガとパルキアに最も近付くから1番危険だ。2つ、赤い龍の構成員と共にアルマゲドンと戦うか。今は追いやっている途中だからこちら側が有利といえば有利だが。3つ、コイツらと共にバトルドームで待機するか。選べ」
その言葉の後に3人で円陣を組むように顔を見合わせながら話し合う中、高野は最後に残された人影へと視線を向けた。
「メイは俺と来てくれ」
「えっ?私が?」
「この中で俺の次に実力があるのは香流だが……だからと言って死なせる訳にもいかねぇからな。その次に実力があって尚且つ死んでも良さそうなのがお前だしな」
「ちょっ、私に死ねと!?」
状況も忘れて高野洋平は笑い出した。
迫り来る危機と、それによって押し潰されそうな精神が、周りで繰り広げられている彼の日常を思わせるかのような面白おかしい交わし合いとのギャップが彼をおかしくさせたのだ。
自分が放った冗談に対するメイのガチトーンが面白かったというのもあったのだが。
「ちょ……レン?大丈夫……?」
「ははっ……大丈夫だよ。ちょっと……笑いたくなっただけで……くくくっ……」
笑いすぎて涙が出たようだ。
彼は手で拭うと気を改めて「よし!」と言った。
「決めたようだな」
「はい!僕たちは〜……。ドームに行きます」
言うと思った。
そこが1番安全だからである。
「それでいいと思うよ。俺としては本当は戦いに混ざって欲しかったが、だったら最初からそう言うからな。俺としても迷ってたんだ。だから自分たちで決めた事に対して俺からも感謝するよ」
言い終えて、さっさと行けと示すように手をドームの方向に向けて手をはらう仕草をする。
それを合図と読み取った彼らはそちらへ向け走り出した。
「さて、と……」
高野は空を見る。
相変わらずの金色の空に2体の伝説のポケモン。
そして、何処かにいるであろう首謀者ことレミ。
「この戦いは……恐らく誰かが死ぬだろうな」
ため息を軽く吐く。
思えば、誰かが死ぬ程の大きな戦いをするのも、自身の死を予感するのも共に久しぶりだった。
「それは、此処に居る誰かかもしれないし、俺かもしれないし、今戦っている奴の誰かかもしれない。だが、俺たちは死んではならない。死ぬ訳にはいかないんだ。誰かが犠牲になって平和になる世界なんて間違っている。そいつの死を悲しむ奴がいる時点で平和な訳がないからだ」
高野はこの場に残っているミナミ、レイジ、メイの顔をそれぞれ見た。
各々強い覚悟を持ったり、不安を抱いていたり、そもそも、愛しき人を常に見つめているなど全員が違う目をしていた。
「俺はデッドラインであり赤い龍ともジェノサイドとも関係が無いが、たった今宣言するぞ。デッドラインと赤い龍を合併させる。その上で命令する。死ぬな。いいな?」
その言葉を合図に、全員が頷き、走り出さんと1歩踏み出した。
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