二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.280 )
日時: 2019/02/02 16:00
名前: ガオケレナ (ID: mkDNkcIb)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


Ep.1 戦いの果てに


1人の、孤独な男がいた。

あの戦いから半年が過ぎようとしている。

男は、その日までは最強の名を振りかざして生きてきた。
生きる為、目的の為、愛する者の為、男は最強を名乗って戦い、傷付け、生きてきた。

しかし、生きていけば生きていくほど、時間が経てば経つほど、現実という名の表の世界と、自分が生きる深部という名の裏の世界との隔たりから、徐々に蝕まれていく感覚が生まれた。

本来は、初めはこの世界に足を踏み入れた時はそれを望んだはずだった。

それなのに。

彼は垣間見てしまった。

幸せそうに生き、"今"という名の時代を楽しむ人達の生活、その空間を。

最強という名が崩れた瞬間でもあった。
その男は強かったはずなのに、心が砕けた。

憧れを抱いてしまった。
平和と、幸福に対して。

思いを思うほど、抱けば抱くほど今の生活と本来生きていけたはずの生き方にズレが生まれていく。

それが何よりも彼は嫌であり、耐え難いものだった。

その想いが頂点に達した時、想いが現実となってしまった時、彼は最強ではなくなった。
本気で戦い、本気で勝ちを狙った戦いで本気で負けた。

彼にとっても初めての体験であった。

その後、望み通りの最強ではない人間になれた。

彼は、普通の人間になれ、普通の生活を手にし、普通の学生という身分を手に入れたのである。

その男のかつての名は"ジェノサイド"。
今の名を"高野洋平"といった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.281 )
日時: 2019/02/14 07:42
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「え?大会?やんの?」

昼前の授業が終わり、これからお昼ご飯、という所で一人大学の食堂にいた所を高野洋平はサークルの後輩に声をかけられた。

食券を手に取り、今から実物と取り替えようと受付に並ぶ列にとにかく待ちながら二人で交わした会話である。

後輩の名は宮寺みやでら正彦まさひこといったはずだ。人の名前を覚えにくい高野だが、彼とは今年で二年目の付き合いとなる。ここまで来ると流石に憶えてくる。

「そうなんですよ!今年の夏、正式には6月からですけど、ポケモンを対象とした全国大会をやるんですって!」

やけに宮寺が目を耀かせてハイテンションでいられるのは、彼が慕う先輩である高野がポケモンを使う人間の1人であるからだろう。
自分の身の回り且つ仲の良い人がいれば、例え自分がポケモントレーナーでなくとも教えたくなるものだ。

と言うのも今は2015年の5月中旬。その全国大会までそろそろ開催1ヶ月前になる頃だ。
自分の後輩の言葉を興味深そうに聞いていたあたり、この時期になっても大会の存在を高野は知らなかったのだろう。
実際に目を丸くして「マジ?そんなん知らなかった」と普通に言ってきている。

実際こうなったのも仕方がなかった。

高野洋平は、12月までは今とは正反対の生活をしていた、深部の世界では最強の人間だった。
そんな彼が自身の友に破れ、自身の名を冠する組織"ジェノサイド"は解散し消滅、そこで深部とは別れを告げた。

それからもう5ヶ月が経った。

ジェノサイド解散の手続きを行い、深部の人間達との永遠の別れをし、普通の人間として生き始め、その途中の3月には組織を解散させたと言う意味でお世話になった佐野剛や松本幸宏、船越淳二、常磐将大といったサークルの先輩たちが卒業し、ここでもまた別れがあった。

そんな彼だからこそ、深部の事情はおろか今こうして自分が生きている世界で実体化しているポケモンに関する出来事やニュースを全くと言っていいほど知らなかったのだ。知ろうともしなかったのかもしれない。

元々ジェノサイドでいる時も敵対勢力の事情もあまり詳しくなかった事もあったので単に情報収集が苦手なだけなのだろう。

だからこそ、自分に色々な情報を与えてくれる人がいるこの世界が好きだった。

「先輩、出ましょうよ。今の感じだと香流先輩も出るって言っていますよ?」

「あいつが出るのなら、俺も出てみてぇな。リベンジしたいかも」

話につい熱くなるあまりに、自分の前に列がもう無い事にも気付かないでいた。
食堂のおばちゃんに呼ばれるまではずっと渋滞の原因であったことだろう。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.282 )
日時: 2019/02/02 16:19
名前: ガオケレナ (ID: mkDNkcIb)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「おっすー」

「あっ、レンだー」

扉を開けるなり、優しそうな声が聴こえる。
その声の主は高畠美咲。教室のド真ん中に座り、誰かが用意したであろう皆へのお菓子をひたすら食べている、彼とは同学年の友人である。

今日は、サークルの日であった。まだ5人程度しかいないという事は、全員は集まっていないようだ。
だが、あの一件以降このサークルの雰囲気が変わった気がする。勿論いい意味でだ。

「今日の昼、宮寺君と一緒だった?」

3年生となった高野の中では2人しか居ない女子のうちの1人の高畠はもう1人の女子、石井を待っているまでただお菓子を食べているようだった。後輩達がトランプを出して遊び始めようとしても一向に動こうとしない。彼女が来るまでに菓子が残っているかどうかが不安なところだ。

「あぁ、たまたま一緒になったからな。ってかよく見てたなお前」

「レン何だかんだで目立つからね」

"レン"、とは高野につけられたあだ名である。

彼が中学生の頃にやってしまったテストの珍回答以来、周りの人間から呼ばれた名であった。
あまりにも呼ばれすぎたので吹っ切れたのか、高校に進んでも、大学生となってもこの名で呼ぶよう"自分から"呼びかけた結果、本来の苗字よりも高い頻度で無事に呼ばれるに至ったのだ。

適当に高野も座ると、即座にゲーム"アルファサファイア"を開く。既に殿堂入りも済まし、シナリオはすべてクリアしたので思う存分ポケモンの育成を行っているところだ。

ポケモンの大会をやるとなると、実体化しているポケモンたちを戦わせるのだろう。
その元となるデータがゲームの中に入っている。要するにゲームと現実世界がリンクしているのだ。

ゲームのポケモンを強くしない限り現実の世界でもそのポケモンは強くなれない。
それを逆手に取って少し変わった育成を高野は行ってきた事もあったが。

暫くしていると香流がやって来た。このサークルにおいて恐らくポケモンの実力が最強の男が教室に入るやいなや高野へと近付いていく。
これからやる事など既に決まっていた。香流も、自分の鞄から携帯ゲーム機を取り出した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.283 )
日時: 2019/02/14 07:47
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「……。いや、いい試合だった」

勝負を終えると高野はそっと3DSを閉じた。誰も言及しなかったのでどちらが勝ったかなどはお互いに言う事はない。
だが、二人の反応を見れば丸わかりであった。

「な、なぁところで香流お前さ、お前は大会?あれについて知ってたりするか?」

「大会?もしかして6月にやるあれの事を言ってるの?出るもなにも……」

香流は言いながら窓を開ける。3階なので景色を見ようとすれば見れるのだが、目当てのものが見れなかったのか、すぐに窓を閉めた。

「ここからすごく近いから知ってる知らない以前の問題だけどね?」

「えっ、なにそれ。初耳なんだけど」

「こっちがここに入学する前から会場の工事してたの、知らない?」

「いや、知らねぇ」

「うっそでしょ!?本当にレンってジェノサイドだったの!?」

偶然立ち聞きしていたのか、たった今教室に到着した石井真姫が今にも笑い出しそうに、調子よく尋ねる。
だが、話が話のせいか、"ジェノサイド"という単語が出た瞬間、トランプに励んでいた他の部員達が固まる。一瞬気まずい雰囲気へと変貌した。
自分の発した言葉に今気付いた石井はハッとしたかと思うと、何故か高野に向かって頭を下げる。

「ごめん」

「いや、何で俺に」

「黒歴史掘り出しちゃったね」

「てめっ……、何が黒歴史だコラぁ!!」

実際には深部という世界があり、そこで築かれた地位であるので決して黒歴史などではないのだが、仮にジェノサイドを滅ぼした一因となった彼女たちでも、その世界のすべてを知っているわけではない。認識のズレとでも言うべきか、とにかく彼女らが「黒歴史」と思ってしまうのもそれが限界なので仕方の無いことではあった。

「ホントにレン知らないの?聖蹟で工事してたこと」

「いや、知らねぇな。聖蹟って聖蹟桜ヶ丘の事だろ?確かにここからは近いが、今まで通ってた方向とは逆だったしまともに来たこともあまり無かったから知らないよな、やっぱ」

「ホントにレンってジェノサイド……」

「あーうるさいうるさい。深部の人間すべてがポケモンに関わるすべての事柄に詳しいとか勝手に思ってんじゃねぇ」

机の上にドカッと座った高野は、それまで高畠が食べていたスナック菓子を頬張る。懸念通りもうほとんど無かった。

「聖蹟の駅の近くに森があるのは知ってる?」

「石井、それを言うなら緑地だよ……」

途中に香流がツッコミを入れるも、どちらにしても分かるわけがない。高野はただ「知らん」とだけ返す。

「その緑地と周辺の土地を使って、大きいドームを作るんだってさ」

「つまり、そこが開催地と言う事か?」

「そう!ここからすごく近いんだよ!」

聖蹟桜ヶ丘となると今いる神東大学からはバスが出ているほど近い距離にある。この大学は神奈川と東京の堺、厳密に言えば八王子市にある。歩いても1時間かからない程度だ。
身近な存在であるからか、高畠と石井が2人で、

「いつか見に行きたいなー」

「ねー」

などと言い合っている。

高野は、香流から差し出されたスマートフォンの画面を見つめながら何度か頷くとスクロールしていく。
どうやら例の大会の詳細が書かれているサイトのようだ。

「"全国学生選手権大会"と書いて"Pokémon Students Grand Prix"……。ねぇ。長ったらしい名前だな。へぇー、聖蹟にこんなにデカいドームを……金掛けてんなぁ」

画面に写し出された競技場とも言うべきドームの上空から見た完成予想図を見ている。頷いているのはこの為だった。
見た感じ周辺の土地も含めると自分たちの大学の敷地よりも少し広い程である。

他にも興味深い事が書いてあった。
バトル内容はゲームではなく、実際に手に持っているポケモンを呼び出して戦うやり方のようだ。まるで深部での戦いに似ている。その時の光景を思わず高野は思い出した。

「戦闘形式は予選では2VS2、本戦以降は3VS3のシングルバトル……。予選で2体の理由はスムーズに進行を進めるため。ってあるけどさ、この大会ってそんなに大人数の参加者になるのか?」

一度画面から目を話す。瞳を向けた先には前の座席に座っている香流がいた。

「すごいらしいね。その大会、近年の中高生に見られるポケモン離れを解消するため、なんて言っているから特に学生が中心のものみたいだな。全国から中高生が一箇所に集まるみたいだし、まぁ相当数になるだろうね」

「へぇ。コアな内容だから万人にはウケなさそうな代物だと思ってたが、本格的に人集めるみたいだな。開催時期も6月から8月としているのもその為か。まぁ実際は思ったよりもショボくて思ったよりも早く終わるのが目に見えてるがな……」

再び画面に目を戻して今度はまともに見ずにひたすら画面をスクロールしていく。何となく内容は頭に入ってくるしゆっくり見ていると時間が勿体ない。
すると、画面が指の動きに反応しなくなった。どうやら一番下まで来たようだ。思ったよりも早かった。
そこにはよく見ると、この大会の主催にしてこれまでの準備を主導してきた者達の名前があった。

「どれどれ、こんな面白そうな大会を企画したのは……携帯獣保全協会だとっ!?」

ここにそんな名前が載っていると自分でも思わなかったのだろう。思い切り机から立ち上がろうとしたせいでバランスを崩し、尻餅をついて床へと転んだ。
何とかお菓子を押さえていた高畠がいたのでそちらは無事だったが、耳障りな音に「あーっ!」なんて言って彼を見ている。

しかし少しも痛がる様子を見せずに、高野は立ち上がって画面を香流に押し付けた。

「お前、こんな大会に出ようとすんのかよ!やめとけ!」

「えっ、何でだよ……。折角の大会なんだしいいじゃん」

香流は、何故高野が顔を真っ赤にしているのか、その理由が分からなかった。だがそれは、香流が普通の人間であるが故の結果だ。

「この携帯獣保全協会ってのは、議会の別の名前だ!深部の奴等はコイツらを議会議会言ってはいるが、その議会がお前らの世界ではこんな呼び方をされている……。ようやく分かったよ。何で深部での争いみてぇな大会内容なのかなーと思ったがなるほど、そういう訳か」

「ちょっ、ちょっと待ってレン、要するにこれは深部絡みの行事って事?」

「深部絡みも何も、コイツらはその深部を運営しているヤツらだ。ここまで大々的に、しかも学生中心とアピールするだなんて裏しか感じねぇよ」

高野はスマホを持ち主である香流に手渡して背を向ける。荷物を持っている辺り教室から出ようとしているのだろうか。

「待ってよ、レン。何処行くの?」

このサークルの会長である高畠の声だ。責任者らしくこの集団での生活に変化がある事には敏感になっているようで、普段は気にしていない高野の動きにもやや過剰に反応している。

「時計見ろよ。もうサークルの活動時間終わりだろ」

時計は20時を回っていた。活動開始してから2時間経っていたことになる。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.284 )
日時: 2019/02/02 18:18
名前: ガオケレナ (ID: mkDNkcIb)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


一旦サークルは解散となった。
この後は希望者たちの間で外食となる運びである。
普段通りの光景だ。

と、言う訳で高野たちは今大学を出て近くのファミレスへと向おうとしていた。
メンバーの大体が去年以前からの付き合いである3年と自分たちの後輩の2年だけと言うのが少し気になるところではあるが。

「話戻るけどさ、レン」

「なんだ?香流」

大会責任者が議会と知って以来少し気分が落ち込んでいるようだ。と、なると彼もそれなりに参加したかったのかもしれない。

「その議会がどんなのかは知らないけどさ、自分たちに馴染みのありそうな方の名前で売りにしている以上、あまり裏はないんじゃないのか?」

平和に慣れている、彼らしい言葉だった。何が何でも悪なる部分はない。裏なんて存在しない。そんな風に自分を思い込ませている希望的観測が表れているのを高野はすぐに理解した。ふざけた言葉過ぎて反論したい点がいくつか生まれたが、可哀想だとまず先に判断したのか、黙っておく。

「参加したいならすりゃいいじゃん。俺は出ねぇけどな」

「……深部が絡んでるから?」

「あぁ。俺はジェノサイド'だった'人間だ。今の深部最強が誰かは知らねぇが俺が深部の世界に片足突っ込んだらどうなるか……。お前でも何となく想像はできるだろ」

「観戦にも来ないのか……?」

「来る気はねぇな。もう深部とは一切関わりたくねぇからな。つーかそうでもしなけりゃジェノサイド解散なんてする訳ねぇだろ」

ファミレスへの近道である向かいの細い道へ行こうと一旦車道へと歩いた時だ。
初めは真っ暗で何も見えなかった。

だが、近づくにつれ、自分の真ん前に、車道のど真ん中に誰かが突っ立っているのが分かる。

「?」

「……やっと、見つけた」

「あ?」

女のような、高い声だ。そもそもな話、辛うじて見えたシルエットから長い髪があったので最早性別は断定できたが。

「今度の大会……。あなたは出ないのね。それじゃあ困るの」

「はぁ?いきなり出てきて何言ってんだテメェは。まず名前から名乗れよ気持ち悪い」

「あら、もう忘れちゃったのね」

「あ?」

ガチャッ、と金属が擦れる音がする。不審そうに目を細めると、その瞬間には自分の目に何か鋭いものが向けられていた。

速すぎる動きに、目が追いつかなかったようだ。

「どういうつもりだ……」

「やっぱり忘れてしまったのね。名乗る前に対象を倒すのが私たちのやり方だと言うのに」

「まさかお前っっ……」

「その、まさかよ」

目の前には鋭い爪をしたマニューラがいた。その手は自分の顔に向けられている。

「ばいばい、'ジェノサイド'」

女が小さくニヤリと笑った。それを合図にマニューラも爪で目の前のものを引き裂こうとほんの少し更に顔に近づけるよう爪を動かす。

「そーかい。生憎俺は"Pacifist"。平和主義者なものでな。平和的に動くことにするわ」

なにを……と女に言わせる隙すらも与えなかった。

何故なら、高野の声が女の後ろから聴こえたからだ。

振り向こうとした時、女は両腕を押さえられた。
細い手首が一気にまとめられ、高野の右手のみに押さえつけられる。
それに留まることはしなかった。

躊躇なく高野は、その女のポケットに手を突っ込み、固い感触が伝わるとそれを持って引っこ抜く。

手に持っていたのはモンスターボールだ。

「ちょっと、何を……っ!」

女が振り向く前までにやってのける。そして、その顔がこちらに向いた瞬間、ボールがマニューラに向けられ、スイッチが押された。
本来のトレーナーの意思を無視してマニューラがボールに吸い込まれていく。

「ふんっ!!」

ドンっと、本気で蹴りを入れられた。その足は腹を目掛けて振るわれる。

「う、ぐあっ……」

鋭い痛みが腹を中心として全身を駆け巡り、力が抜けていく。ボールがするり、と手から離れていった。

「普通逆でしょ」

腹を抑えてうずくまる高野を呆れるように見ながら、マニューラの前に立っていたそれに指を差した。

「'イリュージョン'。あなたにゾロアークを変身させるなら、もっと自分を安全な場所へと置いておかないと。蹴りで済んだから良かったものの、もし私がナイフとか持ってたらどうしてた気?」

車道に立っていた方の高野は周りの空間を歪ませながらゾロアークへと姿を戻した。だが、痛そうにしている主人を見るとそちらへと走って行く。

「ま、まぁこんな風にしたら呆気に取られるだろうなと思ってな」

「そりゃ最初は確かに驚いたけど、そんなやり方じゃあ甘すぎる。暫く居ない内に平和ボケしたようね」

もう痛みは引いたのか、立ち上がってゾロアークを自身のボールに戻した。ずっと二人でやり取りしているせいで忘れていたが、ファミレスへと向かっていたサークルのメンバーは全員が怯えた目でこちらを見ている。

「まるで俺が深部の人間であることが前提のような言い方だな。お前らなら分かるだろ。俺はもうとっくにそっちの世界からは退いた。もう俺は関係ねぇよ。何かあるんなら勝手にやってろ」

手招きをして自分の友達を集めようとする。だが隣に深部の人間がいるせいか、中々彼らも動こうとしない。一応もう大丈夫だというサインでもあるのだが。

「……"デッドライン"」

女がボソッと呟くのを、高野は決して聞き逃さなかった。

「なに?」

振っていた手がふいに止まる。ガードレールをまたごうとしていた後輩である宮寺の動きもそこで止まった。

「深部から手を引いたあなたでも、流石にこれは知っているんじゃないのかしら?」

「いつまでも面倒くせェ女だな。何かしでかすんなら勝手にやってろと言ったろ。勿論俺の知らない所でな」

「いいえ。この謎を明かそうとすると、どうしても突き当たる壁があるの。それを破るにはあなたが……5ヶ月前までは深部最強だったあなたの力が必ず必要になるの」

「なるほどそういう事か。だったら協力してやろう。そんなモン知らん。以上だ」

「あなたが何処かで関わっているとしか思えないの。いや、関わっていなくともきっと何かを知っている」

何度否定しても、何度興味を見せないでいても、どこまでもこの女は引っ付いて回る。
その不気味さに高野は引きつつも、どこかではしっかりとその女の話を聞いている姿勢があった。

「ジェノサイド解散直後に現れた名前以外謎の組織、その名もデッドライン……。巷では次期ジェノサイド候補なんて呼ばれ方もしているけれど……。あなた、本当に知らないのかしら?」


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