二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.505 )
日時: 2020/06/30 23:21
名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


高野洋平の両隣にハヤテとケンゾウが守るようにして立つ。

一体どれだけの仲間が来たのだろうか。
高野はきょろきょろと辺りを見た。

「とりあえずは20人くらい集めました。この後に遅れて2,30人ほどが来ます。間に合えば全体で100人ほどが……」

「そんなに集めたのか!?どうやって此処まで来たんだ?」

「そ、それは……」

と、ハヤテが吃る。
隣のケンゾウも若干ニヤける。

「いやねリーダー……。流石に全員分の座席を取る事は出来なかったんすよ。だから、その……パスポートとか、座席をすり替えたりとか……ちょーっと、ね?」

「だと思ったよ……」

よろしくない方法だと言うのは薄々ながら分かってはいた。
でないと間に合わない可能性が出てくるからだ。

こんな事なら塩谷辺りに協力を求めても良かったと過去の行いを若干ながら後悔しつつため息を吐いた。

「ところでハヤテ……お前メガシンカは使えるのか?」

「この通りですっ!」

高野をそのまま15cmほど小さくした男は歯を見せて笑うとメガバングルと1つのボールを取り出す。

中から出てきたのはアブソルだ。
と、忽ちにメガシンカが始まる。

ポケモンから発せられた衝撃と突風、そして遺伝子を模したような模様が空に一瞬浮かび上がった。

故にその力は本物。

「敵はギラティナ及びキーシュと有象無象共だ……。お前ら、いけるか?」

「当たり前っす!」

「行けますよ」

果たして2人は神と呼ばれたポケモンを相手取った事があっただろうか。
その経験があった上で絶対的な自信を持ち合わせているとするならば相当な物である。

「よし……行け!!」

深くは考えない。
相手が化かしで怯んでいる今、突き進むしかないのだ。

まずは3人。
高野とハヤテとケンゾウが先陣を切る。
後に続く仲間を鼓舞する為と、大きな戦力を持つ3人がより多くの敵を一掃するためだ。

「大した自信だ。掬われなければいいのだがな」

どういう訳か背後から男の声がした。
誰のものでもない、聞いた事のない低い声だ。

高野は直後に振り向く。

「誰だ……」

やはり、見た事のない顔だ。

銀色の髪、色白の肌。
そして目の下の隈に黒のペイントを施したのだろうか、不気味さがより際立つ雰囲気を放つ見知らぬ青年だった。

「お前は誰だ」

仲間やイクナートン達で出来た群れの中に紛れていたのだろう。

その男は高野目掛けてモンスターボールを放つ。

「キーシュのポケモンがそんなに珍しいか?かと言って後ろがガラ空きだぞ。ジェノサイド」

「知っているのか……その名前」

ボールの中身はゲッコウガ。
そのポケモンが鋭く尖った手裏剣を手に、今にも投げようとしている。

「ッッ!?……っざけんなぁ!!」

既に顕現していた高野のポケモンの内の1匹、ヤミラミが小走りで戻って来ては身を呈して主を護らんと飛び出す。

高野からすれば予想外の動きではあったが、悪くは無い運びだ。

(相手のゲッコウガが物理型ならば'おにび'で、特殊型なら'バークアウト'でジリジリ削ってやろうか……?)

早期に決着を付けてはキーシュを叩く。

だが、そのような甘い想定は脆くも崩れ去る。

ヤミラミが手を伸ばしたせいでゲッコウガの水手裏剣が逸れた。
そのせいでゲッコウガはトレーナーの元へ翔び、距離を取られてしまう。

「邪魔だな、そのポケモン。それさえ無ければお前の首は私の手の中にあると言うのに」

「そんなに俺を殺したいか?やれるモンならやってみろよ……。お前に神と戦える程の度胸があれば相手にしてやる」

自分の二柱の神と呼ばれしポケモンと戦ったという滅多に無い経験から、驕りが生まれてしまう。
だが、高野洋平という男はジェノサイドの頃から挑発を繰り返してきた男だ。今更という訳でもない。

「嘗められたものだな。私も……ゲッコウガも」

「オイオイ、この俺だぞ?第六世代になってからどれだけのゲッコウガを相手したと思ってんだよ?今更'げきりゅう'だろうが'へんげんじざい'だろうが怖くはねぇんだよ!!」

今ともなれば'ダストシュート'を使う物理型も増えたが、'カウンター'を主とするゾロアークの前では脅威にも満たない。

「そうか……。お前にとっては鎧袖一触という訳か?私のゲッコウガも」

異変は、突如として起きた。

男のゲッコウガに、水がまとわりついた。
その水は波を伴い、全身を包む程の大きな渦となる。

そして見た。

メガシンカが発せられた時に瞬く、"遺伝子を模した模様"が。

「ちょっ、お前……」

信じられないものを見ているようだった。
高野は、あの時のように幻を魅せられては化かされている。
そんな予測を立ててみる。

渦から現れたゲッコウガは、全体的に尖ったビジュアルをしていた。
背中の水で出来た手裏剣はより巨大になり、その頭部は赤く鋭い。
まるで、帽子でも被っているようだ。

「何を驚く?お前のポケモンにも有り得る事象だぞ?」

「違う!!お前は……お前は自分のポケモンに何をした!?改造か?解析か?そんなポケモン……見た事も聞いた事もねぇんだよ!!」

高野の脳裏には過去の惨劇が蘇っていた。
組織ぐるみで改造データを操り、ふざけたポケモンを使用してきた悪人たちの姿が走馬灯のように流れてゆく。

彼にとっては"それ"と同じにしか見えなかったのだ。

「少し考えてみることだ。これは、お前にも可能性があるのだからな?」

「はぁ?……どういう事だよ」

「こういう事だ」

そのポケモンは速かった。
瞬きする暇もなく、変身したゲッコウガはヤミラミの前に踊り、背中に備えた手裏剣を握ると、まるで棍棒のように振るい、跳ね飛ばしてしまう。

「か、堅いポケモンだよなぁ……?ヤミラミって」

呆けたケンゾウが無気力そうに呟く。
だが、真の問題はそんな事ではなかった。

「お前のゲッコウガ……勝手に動いたのか?」

銀髪の男は現に、その間何も言葉を発していなかった。
手で何かしらの合図を送った訳でもなかった。

それはつまり、

「俺のゾロアークと同じ……。勝手に状況を判断して……動けるのか?」

「そうだ。奇しくも私が理想だと思った動きをな。すべて再現してくれる」

恐ろしい。

そんな感情を抱いたのは久々だった。

今まで自分が強力だと思っていた力を、相手も使用している。
日頃使い慣れているからこそ、その強さが分かるのだ。

それに、ただでさえ速いゲッコウガである。
たった今まさに、剣が放たれた。

「……?」

しかし、高野洋平は倒れない。貫かれない。

「確かに未知なポケモンは怖ぇよ?でも、ゲッコウガはゲッコウガだろ?」

'みずしゅりけん'を多用する。
それさえ分かれば良かったのだ。そんな意味ではヤミラミの犠牲は無駄では無かった。

投げられた鎌は、空中で静止していた。

男の放ったゲッコウガと同等の力によって。

「'カウンター'」

化かしを解いた狐が拳をはらう。
'みずしゅりけん'の速度は倍となり、持ち主の元へと返っていく。

「やはり……お前のポケモンも面白い」

「未知のデータ気取るなら……もっと別次元のポケモンを引っ提げる事だな?……失せろ、卑怯者」

高野は躊躇しない。

避ける間もなく跳ね返った手裏剣を受けたゲッコウガに対し、'ナイトバースト'を命令する。

ゾロアークの全身から放たれた赤と黒の閃光はゲッコウガを、その直線上にいた銀髪の男をも巻き込んでは吹き飛ばす。

一時的な戦闘を離脱させるには十分だ。
足らない時間を無駄に割く訳にはいかない。

高野は再び、キーシュと神を見る。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.506 )
日時: 2020/07/01 13:57
名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


余計な戦闘に時間を費やしてしまった。
見れば、自分たちは最前線からは外れ、また別の仲間達がそれを担っている。

「なんか……敵の動きが鈍くないですか?そうでない方もいますが……」

「俺がさっきイリュージョンを放った。目が見えなくなるものをな。だから突破は容易いと思うんだが」

基本的にゾロアークの放つ幻影に時間の縛りは無い。
自ら解く場合と、対象者が"欺かれている"と気付き、打ち勝った場合によって解かれる。

問題は、その判別を自分たちが出来ない点だ。

(対象が1人の人間と1匹のポケモンならば経験則で分かる。だが、ウン10人ともなれば話は別だ……。演技している人間が1人でも居れば……突破は止められちまう!!)

かと言って止まる理由にはならない。

キーシュを叩く。
そうすれば、この戦いは終わる。

足の震えを無視して突き進み始めたその直後。

ウバールの遺跡全体を巻き込む程度の衝撃が突如として発生した。

戦闘の起きる中心地。
そこが爆心地でもあったかのような、近くで起きたかと思えてしまうようだった。

最早敵も味方も関係なかった。
戦っている人間のすべてがその大きな爆発に巻き込まれては吹き飛ばされる。

高野洋平もその1人だった。
銀髪の男と戦っていたのが幸いして、その中心地から離れていたお陰で飛んでくる砂利を全身に受けたのと、5回ほど体を回転させるほどで済んだのだ。

「な、何が……?」

後方で控えていた仲間とNSAの連中も同様で皆が倒れている。
イクナートンに至っては短機関銃を手にしていた。

前を見ても同様であった。
彼にとっては仲間であるはずのゼロットの面々が地に伸びている。

「なぁ、ジェノサイド……」

土煙が舞う中、それまで戦闘を傍観していたキーシュが地上に舞い降りたのだろうか。
その声は煙の先から、つまり、倒れた仲間たちの山から聞こえてきた。

「貴様……シャルリー・エブドの襲撃事件って知っているよなぁ?」

「なん……、何を、言っているんだ……?」

全身から鋭い痛みが発せられる。
立ち上がるだけでも苦痛を感じる。
このままずっと寝ていたかったのだが、大親分が目の前に居るとなれば弱音を吐いてはいられない。

「フランスで起きたテロだ。貴様が日本でぬくぬくしている時であったとしても耳にしたことくらいはあるだろう?」

相手の意図が読めない。
自らの戦力を削いだ上で悠長に長話など愚の骨頂だ。
その一方で、彼を護るかのように背後にギラティナが鎮座する。

「クソ下らねぇ低俗な風刺画を得意とした新聞社を襲撃した事件だ。貴様はコイツらの絵を見た事があるか?」

「お前、今何をしたんだよ?今どんな状況か分かってんのか!?俺がお前に'ナイトバースト'を放ってみろ。誰かがお前に銃を撃ってみろ。最悪お前は死ぬぞ?」

「……話を聞けよ?ンなモン理解した上での行動だ……。貴様の幻影とNSAの連中が放たんとしたサブマシンガン。それらから俺様含め仲間を護るための行動だ」

「だからって……自分自身を危険に晒すのは誤りだな?お前は……」

「いいから答えろ!!貴様は……あの事件で何を知った?何を学んだ?」

果たしてキーシュ・ベン=シャッダードという男は話の通じない人種であっただろうか。
ほんの数10分前までは共同作業を行い、雑談を交わしていた男とは別人にも思えてしまう。

「知らねぇよ!!日本とは関係無いテロだろうが……やり合いたいのなら勝手にやり合ってろよお互いに!!」

物事の進み具合に苛立ちが募る。
山城と石井が見つからない。
キーシュに打ち勝つ事が出来ない。

そんな背景から、問答についても粗暴になってくる。

「本気で言っているのか?……だとしたら残念だ。現役大学生の声が"それ"ともなると憐れに思うよ」

戦地の真ん中であると言うのに。

キーシュはのんびりと散歩しているような足取りでゆっくりと周りを眺めつつ歩く。

「風刺自体はフランス人お得意の芸だからな……それを言ったら日本人を対象にしたふざけた落書きもある。確かにその風刺に対して本気でキレた俺様の仲間も居る事には居る。流石にイスラームを馬鹿にするのはマズイよなぁ?」

「結局何が言いたいんだお前は」

「おぉ、そうだ。本題に入らなければだな?俺様は酷く絶望したよ……。事件後の世界の動きについてな?」

事件のあと。
世界では様々な動きを見せていた。
流石の高野もそれ位は知っている。

「過激な風刺を批判する者、表現の自由を叫ぶ者、テロを非難する者……。その姿はそれぞれだった。だが、俺様が1番気に入らなかったもの、それは"私はシャルリー"というスローガンだ。あろう事か、奴等はクソふざけた人間に同情して、その死を悲しんでいた……」

高野洋平は掴めずにいた。
彼が何を伝えたいのかを。一体何を訴えているのかを。

「テロは確かに卑劣な行いだ。それを行う者も、それを助長する存在もすべてが悪だ。だから、本来はこんな事で比べたくはないのだが……12人だ。このテロの犠牲者数だ。つまり、世界はフランスで起きたがために、たった12人の死を悼んだのさ。……では、一方で紛争地では?シリアではどうだ?」

それは、嘗て自分自身の目で見てきた真実。
決して海の向こうで平和に過ごしている人間には絶対に理解出来ない理不尽そのもの。

「シリアでは……罪の有無に関わらず大勢の人間が死んでいたよ。貴様らがテロの死を悼んでいる最中、ミサイルの誤爆を受けた現地の子供たちが一遍に何百人と死んだのさ。この違いが……貴様には分かるか?」

「それは……今、話すことなのかよ?」

「人間の命は平等では無いのさ。アメリカで9.11が起こった際はこの世の終わりを叫ぶ有様でありながら、それ以上の罪無き人々が死んでも貴様らは無関心。貴様らが悲劇に祈ってはいても、アレッポの子供たちが何千何百と死のうが決して祈りはしないっっ!!…………、なぁ、祈れよ?」

感情を上乗せした、怒りにまかせた口調から一転、キーシュの声色は穏やかとなる。
そのギャップから、彼の本気度というものが伺える。

「本気で平和を……。本気でテロを憎むのならっっ!本気で世界を愛するのならば祈れよっっ!!バグダッドに、トリポリに、アレッポに!!!貴様らの勝手な偽善で勝手に人の命の価値を変えてんじゃねぇよっっ!!」

1人の男の心の叫びがあったからだろうか。
呼応するように続々と彼の仲間が立ち上がる。

「俺様は……そんな腐った世界の根本の原因たるシリアの戦争を終わらせる為に此処に在る。その為の力を手に入れた……。そして振るう!!貴様が今ここで邪魔をすると言うのなら、貴様の思う平和を今ここで訴えてみせろよ……。俺様の考えを否定してみせろよ!!」

「じゃあ何でこんな所で油売ってんだよ!?本気でギラティナ使って戦争を終わらせるって言うのなら、今すぐそっちに行くべきだろうが!!何がアードだよ?何が先祖だよ!?何でお前はこんな所に居るんだよっ!!」

本当に彼の主張が本心に基づいているのならば。
"普通の"人間ならば当然に抱く感想だ。
現にキーシュは言っていた。"同じような事を仲間からも言われた"と。
仲間内からでも唱えられているのならば、その声とは真剣に向き合うべきである。

だが、高野が知る術は無かった。

キーシュという男の背後には騒乱で亡くなった少女の姿がある事を。
その少女の持つ唯一の形見が『預言者の回顧録』である事を。

「貴様には……絶対に分からないだろうな……」

「あぁ。分からないだろうね。偽善者を叩く偽善者の考えなんてな」

決して分かり合えない。
世界には必ずそう言った人間が存在する。
故に争いが生まれる。

キーシュの眼差しは、冷ややかながらも寂しそうで悲しげだった。

しかし、だからと言ってギラティナそのものを攻略する術の一切を持ち合わせていない。
如何にして立ち向かおうか攻めあぐねていたその矢先。

1発の乾いた銃声が、辺りに響いた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.507 )
日時: 2020/07/01 19:55
名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


読まれなかった回顧録の1ページ

私はすべてを諦めた。
アアドの民が存在しないとなれば、夢の都がそこに無いとなれば、私は何の為に命を懸けたというのか。

ムフタールとはその後に別れた。
彼は一人でアル・ムカッラーまで戻る事を事を告げ、最後に私に別れの言葉を紡いでくれた。

『とても素晴らしい旅だった。もしも、また私の力を欲したければ来てくれ。私は引き続きアル・ムカッラーで宿を営んでいるよ』

『ありがとう、友よ』

私はサラーラに残った。

アアドが存在していなかった事を認めない訳では無かったが、もしかしたら別の形となって残っているかもしれない。
そんな妄想染みた期待を背負いつつ、今更カリフの元へ戻るのも一族の恥だと感じた私は一人、探し物をしては収穫の無い日々を送っていた。

旅を終えてから3年ほどが経った頃だろうか。

アル=マディーナ・アル=ムナウワラから、使者がやって来た。

『予言者フードその人であるか?』

『私に名乗るほどの名前などない』

『あなたは、予言者フードでありますか?』

三日三晩に渡ってその使者は私から離れることはなかった。
遂に折れた私は、名を名乗り、何故使命を捨てたか、そして何を見たのか。

全てをありのままに告白した。

『そんな事があったとは……』

『私もとても残念だった。天国を再現した"イラム"をこの目で見たかった』

『我がカリフは、クルアーンの統一を望んでいます。今こうしている間にも、捻じ曲げられた文章を手にした憐れな信者の間で争いが起きています』

『だが、クルアーンに書かれたアアドは存在しなかった』

『ですが……』

『使命を果たせなかった。そんな私に価値など、ない』

『この事は……我がカリフにお伝えしますか?』

『好きにしてくれ。だが、私は戻らない』

そのように伝えると、使者は帰っていった。

それから10年後。
私は、我がカリフが天に召されたと伝え聞いた。
聖典の統一を成し遂げた、理想の君主であった。

私はある時、改まった内容の聖典を見た。
アアドとサムードは、我らの強さを誇示する為に、敗れた事になっていた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.508 )
日時: 2020/07/01 22:27
名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第七ハフトハーン、真実と偽り

銃弾は後ろから放たれた。
高野洋平は、おそるおそるそちらを見てみると、頭から血を流したイクナートンが小銃を手に佇んでいる。

全身から嫌な汗を流しながら、目で軌跡を辿ってゆく。
それは、真っ直ぐに進み、遂にはキーシュの右腹部へと繋がっていた。

「イクナー……トン……?」

「ったくよぉ……。クソふざけた妄言垂らしやがって……。戦争を終わらせる?子供たちに祈れだぁ?"命令無しに動けない"置物だけ持って大層なことを抜かしやがる」

彼の右腕は今使えていない。
慣れない左手で当たるかどうかも分からない1発を放ったに過ぎなかった。

だからだろうか。

胸を狙ったはずの銃弾は少し外して腹部へと命中した。

流石のSランクのリーダーであっても、ギラティナを扱える人間であっても、人である以上銃には勝てない。

キーシュは、静かに膝をついた。

「おい!?キーシュ?キーシュッッ!!返事をしろっ!!」

バラバが駆け寄っては彼の体を支える。
その時点で既に呼吸は乱れていた。

「やかま……しいな。少し、黙ってろ……」

「死ぬなキーシュ!!お前……お前にはまだやる事があるんだろ!?あのポケモンの力を使えば……勝てるんだろ!?今此処で使っていいからよぉ!まずはアイツらを纏めて殺しちまえよ!!」

仲間が撃たれて動転するバラバ。
その腕に抱かれたキーシュの体はガクガクと不規則に揺れている。

「もしかして反物質爆弾の事か?それなら無理だ。奴は絶対に使えない」

バラバの声を捉えたイクナートンが吠える。

「理由は簡単だ。自分たちも巻き込まれるからだ。"反物質を扱える"とあるが、どこまで、そしてどのように扱うのか本人ですらも知る由もない。使った事がないからだ。そうだろう?アードの生き残りさんよぉ?」

そして、ギラティナはキーシュの命令が無ければ動くことは無い。
自然発生した存在故にその中身は不安定なのだ。

高野のゾロアークや銀髪の男の変身の出来るゲッコウガのようにはいかない。

「それからー……戦争を終わらせるだとか言っていたよなぁ?その理由が本当で、更にもっと早くから知っていたとしても、俺は今以上に本気でお前を狙い、確実にその胸に拳銃を突き付けていたよ」

高野は一瞬、耳を疑った。

そして、イクナートンが何を言ったのかその頭で深く意味を探る。

「オイ……どういう……意味だ?それは」

「なぁデッドライン。お前にもちゃーんと説明しなきゃ駄目か?今俺が言った通りの言葉をひとつひとつ理解してみろ」

「俺はっっ!奴等がテロリストだから……絶対的な悪だから追えとお前は言ったよな?俺はその言葉を信じていたぞ?だが、今のはどういう意味だ?それはつまり、シリアの戦争を終わらせるのがゼロットの目的だと早くから知っていたとしても、同様に追うって意味になるのは俺の間違いか?」

その言葉を聞き、イクナートンは低く笑う。

熱風が吹き荒ぶせいで意識が無駄に削がれていく。
戦いが終わるのならば早く終わってほしかった。

「デッドライン……その考えは間違いじゃあない。……困るんだよ」

「あぁ?なんだって?」

「困るんだよ!!今ここでシリアの騒乱が終わってしまうのがね!合衆国の為にも、あの国ではあと少なくとも5年は戦いを続けて欲しい位だ」

状況を無視して一人高笑いをするイクナートン。

仮に今の告白が真実だとするならば。

(それはつまり……俺達は騙されていたって事か?)

高野の中で疑念が膨らむ。
初めから募り始めていた不信感が溜まりに溜まり、今にも溢れ出さんとしている。

キーシュの叫び。
やぶれたせかいで聞いた"ラケル"という名。
そして、イクナートン含めNSAの目論見。

それらすべての事象が、点と点が線で繋がり、すべてが交わった瞬間。

高野洋平は、真の敵を見出した。

ーーー

「来た」

組織赤い龍の基地と化した集合団地の一角で。

メイはハヤテからのLINEを見て準備に取り掛かった。
赤い龍の構成員のほとんどが基地から離れ、アラビアへと向かっている。
ほんの少しの居残り組たちを守るため、彼女はこの組織へと赴いていた。

『今すぐGTSを開いて下さい!リーダーからの指令です』

一見何を表しているのか理解に苦しんだが、今回の騒動にNSAが絡んでいる事は塩谷議長からの事前情報で掴んでいた。

それはつまり、ネットを介した連絡はすべて読まれてしまう事だ。
重要なやり取りが別の勢力にバレてしまう。

それを念頭に置けば、ハヤテからのLINEの意味も少しは理解出来る。

ゲームを開き、ネットに繋いだ上でGTSを開く。
直後に、ある人物から交換の申し込みが届いた。
当然、誰かは分かっている。

交換画面へと変わり、相手が提示したポケモン。

そのニックネームを確認すると、

「把握したわ。議長に連絡した上で準備に移ってあげる」

メイは次なる手段を打つ。
すべては事態の収束のため。そして、"彼等"の安全のために。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.509 )
日時: 2020/07/02 16:50
名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


高野洋平はラティアスを除く4匹のポケモンをボールに戻すと、くるりと振り向いた。
その中には大活躍をしたゾロアークや、それまで倒れていたヤミラミが含まれている。

「どうした?デッドライン?まだ作戦は終わっていないぞ?」

じっと見られている気がするイクナートンが暗に"戦え"と命令する。

だが、どうも彼の様子がおかしい。

その目はイクナートンを見つめ、鋭く怒りに満ちているようだった。
そして、今にもボールを構え直している。

「デッドライン?」

「お前は……騙したな?俺を」

「少し大人になれ。それくらい許せる人間になろうぜ?悪意があった訳じゃない」

「お前は……平和を否定して戦争を望んでいるな?」

「いい加減にしてくれ。それは俺の意志じゃない。合衆国の意志だ」

「黙れ」

高野は静かに吠えた。
明らかに殺意を伴っている視線に、イクナートンも少しばかり応じる羽目になる。

「……なぁ、デッドライン。分かってくれ。これも平和の為だ。ご存知の通り合衆国は世界で一番借金を背負って……」

「だからってシリアでやり合う事はねぇだろォがよォォォ!!!」

高野はスライダー気味に投げる。
中から現れたガチゴラスが、今にも噛み砕こうと大口を開けて。

「分かってねェな!!合衆国にとって脅威だから巡り巡ってこうなってんだろうが!!シリアもリビアも反米国家であるが故だ……大人しく歩み寄っていれば良かったものを!!そこは現地の政治家を恨む事であって俺に怒りを向けるのは筋違いだ」

「じゃあギラティナとキーシュが脅威だってんなら、アイツからギラティナを取り上げちまえばいい話じゃねぇか……今すぐそうしろ!!でなければ俺は今からお前らに牙を向けるっっ!」

「銃で死なない自信があるのならば……やってみるがいい」

イクナートンはギリギリのタイミングで屈んでその猛攻を避けた。
もしかしたら、本当にやる気の可能性が彼の中で浮上してくる。

何やら騒がしい。
力の抜けていくキーシュは、目の前で何が起こっているのかの説明をバラバに求めた。

「どうやら……仲間割れをしているようだ。ジェノサイドが……NSAと喧嘩している」

「そうか……お互い……馬鹿なことだ……」

弱り果てているキーシュの対処を巡り、ゼロットの仲間たちでも意見が割れ始めてきた。
今にも逃げ出して病院に行くべきだと主張しているヒゼキヤと、この場で銃弾を取り出すべきだと叫んでいるアスロンゲスが無駄に声を張り上げている。

「苦しそうだな、キーシュ」

そんな彼の元へ、また別の人影が増えた。
銀色の髪、隈を生やした物静かそうな青年。
その服は土埃で汚れていた。

「ユダか……。久しいな、その顔……」

今にも死にそうなほどに苦しいと言うのに、目の前の男は涼しい顔を保っている。
1つの組織にとっては非常事態であると言うのに、どこか他人事のようだ。

「向こうに手強い奴が居てな。命令が必要ないポケモンなど私のゲッコウガ以外にも居るものなのだな」

「ソイツは……ジェノサイドだ……。奴の、ゾロアークと……ラティアスは……危険、だな」

キーシュは反射的に呻く。
だが、事態に何ら変化は起きない。
後ろでガヤガヤ叫び合っていても、何も変わろうとしなかった。

「苦しいだろう?ならば私が助けてやろうか」

ユダはそう言って、ゲッコウガを召喚するとそのポケモンはゆっくりと巨大な手裏剣に手を触れる。

「すまんな。これも世界の為だ」

変身を済ませたゲッコウガとユダの凍てつく視線でキーシュも悟った。

自分を殺りに来ている、と。

(結局……この、ザマかよ……)

キーシュは残念そうに目を瞑った。
ここで夢も目標も絶えてはしまう。

が、心のどこかで望んでいた"死"が今にもやって来るようで若干喜ばしかった。

アードの結末を知る事が出来た。

戦争は止められなかったが、これからラケルに会うことができる。

もう、悩む必要もなくなる。

その事実を受け入れる準備の整ったキーシュは今、完全に目を閉ざす。

そして、それを見届けたユダは、ゲッコウガは、静かに手裏剣を放った。

"遥か後方の、高野洋平の元"へ。

ーーー

高野はその瞬間を見た。

キーシュと銀髪の男が一言二言交わした後にゲッコウガが手裏剣を放ったその時を。

次に意識がハッキリした時。
自分は砂利の上に横たわっていた。

その直前に、"誰かに突き放されたような"痛みを帯びながら。

そして、見てしまった。

「ハヤ……テ?」

仲間が鋭利な刃物で貫かれたところを。
右肩が斬り裂かれ、大量の血を吐き出している。その姿を。

嫌な予感が的中してしまった。
敵のゲッコウガが高野を狙わんと殺意を潜めつつその期を狙っていた事を。

危ない、と思った時既にハヤテは自身のリーダーを、仲間を突き飛ばしていた。
だが、自身は逃げられなかった。
庇うような形となり、その刃に倒れる。

尻餅を着く形となって、ただ呆然と見つめた後に。
高野の中の止まった時計の針は再び廻り始めた。


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