二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.40 )
- 日時: 2018/12/05 14:38
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
あれから三日が経った。
日曜と月曜は特に何も起きず、平穏に過ごすことが出来た。
と、言うよりジェノサイドという一組織にとってもこれが普通であり、何もない日を幾つか過ごした後に大きな戦いが起きる。
何故なら、そう言った日は単純に準備期間となるからだ。
言い換えてしまえば平穏な日、というのは新たな戦いの予告みたいなものである。
なのでジェノサイドはあまりこの日が好きではなかった。暇になるというのもあるが。
月曜に大学に行っても何も起きなかった。
友達に会わない日というのもあるが、それらしい人間が潜入しているという訳でもなかった。
そりゃそうだ。端から見ても大学構内でのジェノサイドはそこらの大学生にしか見えない。
何百、何千ものの中から一人の人間を探すなど気が遠くなる作業だ。余程暇のある人でなければ出来ない作業だろう。
「最も……そんな暇な奴も居るっちゃ居るのが何より恐ろしい事だけどな……」
昨日と、フェアリーテイルとかいう組織の人間と戦った日の事を相互に思い出しながら、友達に会える日である火曜の構内を歩く。
友達や自分が入っている何もしない自称旅行サークルは火曜と木曜と金曜に活動がある。
ジェノサイド……本名、高野洋平は時間割の都合上金曜には顔を出すことはないため、火曜と木曜を中心に考えている。
なので、今日来ることを第一に考えていたと言うことだ。
「好きっすね、リーダー」
不意に横から声がしたのでそちらに振り向くと、ケンゾウがいた。普段通り私服である。
「なんだ、お前か」
「何だとは何っすか、最近色々と物騒じゃないっすか。俺も気になったんで来ちまっただけですよ」
「ったく、余計だよ。まぁやる事が無いならいいけどよ」
「ところで、リーダー。あの時の話まだ全部聞いてないんですけど……」
唐突に話題を切り出された。あの時とはいつの事なのか分からないため、それについて尋ねるとどうもシザーハンズと戦った時の事のようだ。
「俺らはリーダーと向こうの話に着いていけてなかったじゃないっすか。あの時の話の意味が全く分からなかったんで、あの後ハヤテと色々話したんですけど、」
「それで?何か掴めたか?」
「いえ、俺はもう全然サッパリでしたけど、何かハヤテが言うに『リーダーには疑っている人がいるんじゃないか』って。あくまで想像ですけど。これってどうなんすか?黒幕とか居るんすか?」
「黒幕……ねぇ」
歩きながらジェノサイドはケンゾウの横顔を見る。ケンゾウの顔は真剣そのものだった。
この時ジェノサイドは彼に話そうかかなり悩んだ。信頼はしているものの、話だけ聞いてしっかりと理解せずに色んな人に話しそうで怖い。
それにジェノサイドの考えている事は予想の範囲である。事実とは言えないため安易に喋る事も出来ない。
つまり、彼もシザーハンズのリーダーであったヨシキの言葉のすべてを理解したとは言えないのである。
「知らねっ」
自身の頭をフル回転させて答えた結果だった。
ふと、視界に映った時計に目がいく。
「四時半。あと一時間半か……」
「ん?何がっすか?」
訳の分からない呟きにケンゾウが反応した。独り言のようなものだったが聴こえていたようだ。
「あぁ、サークルの開始時間までの事だよ。ついでに次授業だしちょっと行ってくるわ」
「俺はどうすればいいっすか!?」
「知るか。お前が勝手に来たんだろが。帰ってもいいし俺のすべての用事が終わるまで待っててもいい。とにかくそれは任せる」
そう言って、ケンゾウをその場に置いて目当ての教室へと向かっていった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.41 )
- 日時: 2018/12/05 14:47
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
一時間半の講義を終え、高野は教室から出ていく。
火曜最後の講義の時間だったため、帰る人でごった返しているのはいつもの光景だった。
「あー……やっぱ授業って退屈だな」
話相手がいないため、そんな独り言を呟いて辺りを見回す。
ケンゾウの姿は無かった。一時間半何もしていないと流石に退屈だったのか、恐らく帰ったのだろう。
人が少なくなってから移動したいため、それまで適当に時間を潰すことにした。
向かった先は構内にあるコンビニだ。
帰る人が集中しているため、それでもかなり混雑している。レジの列に入っても会計が済むのは五分くらい掛かりそうなレベルだ。
最も、急いでいる用事が無いため気にすることではないが。
適当に商品を眺めながら財布を確認し、ついでに残高も見たくなったのでATMへと向かう。
金額を見ると適当な額を引き出そうと何も考えずにパネルを操作し、出てきたお金を財布へと補充した。
そうしていると、混み具合が少々緩和されたので新商品のジュースと菓子を適当に選んでレジ待ちの列へと並ぶ。自分の前に六人ほど並んでいたが。
ここまでの行動を自分で考えてみると、そこらにいる大学生と変わらない事に気づく。
高野は高野という名前では普通の大学生だが、彼はジェノサイドと言う名へと変わると悪名高いテロリストへと変貌する。
この温度差が普通の大学生、いや、普通の人間と違うところだった。
預金残高を見てそれを痛感させられた。
何故なら、彼は大学生としてはあまりにも金持ちすぎたからだ。
彼の脳裏に、さっき見た3桁の残高が妙に焼き付いている。
3桁の数字というと、普通の貧乏学生では絶対に持てない数字だ。
あるとすれば金持ちの子か、親の援助がある人が持てるのに限る。
だが、彼は親の援助も無ければそこまで稼げるバイトもやっていない。あまりにも不自然な数字なのだ。
何故そこまで持っているかと言うと、彼がジェノサイドのリーダーだからだ。
これまで数多の組織を潰してきたが、その組織を潰すごとに財産、言い換えればお金が手に入る。
彼は組織運営費として自分の口座とは別のを用意しており、人件費や食料費、議会への税ともいえる献上費と言った諸々の理由で消費するお金など組織を維持するのに必要なお金がある。
それと別にしてジェノサイド個人が貰うお金が3桁もあるのだから驚きである。
彼はそれでも考える。これほどの金が無かったら、自分はどのような生活をしていただろうか。
常に命の危機に晒される事も無かっただろう。これほどまでに人を疑う性格になんてならなかっただろう。
世間からもテロリストなんて言われなかっただろう。
ジェノサイドなんて組織も作らなかっただろう。
そして何より、幸せで美しい平和な日々を過ごすことが出来たに違いないだろう。
はっきり言って今自分が歩んでいる道が正しいのかなど分からない。いや、間違っているからこそ認めたくないだけだ。
だが、気がつけばジェノサイドは最強の組織となり、言うなれば彼が裏の世界で最強の人間となってしまった。
世界最強。それはつまり、存在するだけで世界が動く。1つの行動で大きな争いが生まれてしまう。
いつか、誰かが「この世界はジェノサイドの独裁となる」なんて言っていたがそれはとんでもない間違いだ。
むしろ、彼がこの世界に縛られるだけなのだから。
だから彼が、ジェノサイドがたとえ高野洋平という存在でもし仮に「この世界から抜け出したい」だなんて言い出しても、ジェノサイドという存在で同じことを思っても、ただの冗談か子供の我が儘だとしか認識されない。
それを言うことすら許されない。彼はそんな環境に生きているのだ。
そんな事を思っていると、いつの間にかレジの列が消え、自分の番になっていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.42 )
- 日時: 2018/12/05 15:26
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
会計を済ませ、コンビニを出て時計を確認すると、十五分も経っていた。
そこまで居た自覚はないが実際の時の流れとは早いものだ。
人の数もかなり減っていた。
今日彼がサークルに顔を出すのには理由があった。
土曜日。
彼は遂に一般人相手に自分がジェノサイドだとバレてしまった。
そこである程度会話も交わしたが、それでも憧れである平和に対する別れにしては納得のいくものではない。
今度こそ、高野は平和に対するお別れにやってきたのだ。
目の前に例の教室の扉がある。そこから先は彼の友達が居て、先輩が居て、今日も適当に遊んだり楽しそうに会話でもしているのだろう。実際中は明るく、時折楽しそうな声が聴こえた。
自分はあれと決別する。少し寂しさにも似た感情が心の中で芽生えたが今更後には引けない。
思いきって扉を開けた。
視界に映った限りを見ると、今日はそこそこ人は来ているようだ。
このサークルは大人数のものではないが、それでも年々人数は増えてはきている。
自分と同じ2年と、1つ飛ばして4年の先輩も含めると20人程確認できた。
当然、皆知っている顔だ。
「こんちはーー。三河屋でーす。なんつって」
ジェノサイドらしくない間抜けな声を発する。それまで騒がしかった室内が静まり返った。
そこにいる全ての人間がジェノサイドを見つめている。
無言で。
その反応を見て、高野は不思議に思った。
誰も、何も反応もせずただ見つめているだけだからだ。
「(もしかして……)」
彼の本来の姿を初めて見た土曜日の人はすべて居たが、その日に居なかった人もいる。
そもそも、ジェノサイドというものを知らない人たちなのでは?とも一瞬楽観的に想像してみた。
彼もまた、何も言葉を発しようとしなかった。
だが、それは彼らの反応からして、間違いだということに気づく。
「ん?レン……君?どうしたの?入らないの?」
声の主は高野の二年先輩の佐野剛。高野にとって一番仲のいい先輩だった人だ。
彼のその言葉により苦笑いする人がチラホラ現れる。
まさか笑われるとは思ってもいなかっただろう。
だが、これがいつもの空気なのだ。
「えっ……」
予想外の反応に、彼は言葉を失う。
てっきり驚きはされど、笑われるとは思ってもいなかったからだ。
一瞬思考停止に陥るものの、本来の目的を思いだし、我に返る。
「ちっ、違う……っ!?知らないとは言わせない。土曜日……、調布で何を見たか知っている人はいるはずだ。……なのに、何で?」
「それはこっちの台詞だよ。レン君こそ何で'今日'来たの?」
「そ、それは……」
別れの為だ、と言いたかった。
だが、すぐには言えない。
彼にはその光景が、日常が眩しすぎたからだ。
「少し、お話をしに」
高野はゆっくり歩き、教室の真ん前まで来ると、本来講師が講義に使う教卓の前で立ち止まる。
今現在集まっている人達の顔が、全員がこちらを見ている。
高野は一人一人の顔を見て全員と目が合ったあと、説明を始めた。
自分が何故深部の世界に身を置いているのかを。
皆とこの大学で出会う前から自分は組織を構えていたこと。その組織を作るきっかけが、四年前に突如ポケモンが自己のゲームデータと連動する形で姿を現し実体化したこと。
それにより治安悪化を招き、それの平定を目的とした深部集団と呼ばれる団体が設立されたこと。
その組織が増えすぎてしまい、逆に組織単位での犯罪が増し、余計に治安が悪化したこと。それを防ぐ目的で組織間抗争の環境へと変化したこと。
そして、その環境の頂点に立っているのが自分だと言うこと。
自分は、常に命を狙われているアウトレイジな世界に今生きていると言うことを、
すべて話した。
果たして、こんな事を一切知らない一般人にここまで話して良かったのか恐ろしさをも生まれたが、どうせ今日で最後なのだからと腹をくくったつもりだ。
「レン君……。君が言いたいことは分かった。理由はどうであれ、レン君は必死で生きているんだね」
始めに口を開いたのは佐野だった。
相変わらずの優しい声で高野に接近する。
彼がこの先輩を慕っていた理由の一つは、この優しい声だった。
「でもね、そんな理由が理由だからかな。僕たちは、そんなレン君を認めることはできない」
「認めなくてもいいっすよ。俺は適当にやってくんで」
「そうじゃない。許せないんだ」
優しくも強い声が静寂な教室に響き渡る。
言葉も言葉であるのか、高野にはやけに強く響いた気がした。
「どういう……事ですか」
「君は……テロリストだろ?」
一瞬言うのを躊躇ったのか、その言い方には迷いがあった。その口調もこの時だけゆっくりだったのも相まって。
反射的に高野は少しだけ目を大きくする。端から見れば驚いているように見えただろう。
だが同時に高野は、彼らが幸福者だと改めて感じた。
だからこそ、彼らをこちらの世界へと誘ってはいけない。
にも関わらず彼は今深部の世界の話をしている。
彼のポリシーが矛盾した瞬間でもあった。
高野は先輩の言葉を聞き、笑う。
「よく分かってるじゃないですか。ええ、そうです。俺はテロリストっすよ。俺は俺らに対する敵を見つけ次第、攻撃する。当たり前の事じゃないっすか。じゃないと俺が殺されちゃうんで」
「だとしても、やり方の問題だろ!」
後方からの荒げた声を彼の耳がキャッチした。
見ると、同学年の吉川だ。
彼は、世間一般で伝わっているテロリスト・ジェノサイドの話をしてみせた。
無差別に市民を攻撃している事、理由も目的の一切も不明だと。
唯一分かっているのは使用する武器はポケモンだということ……。
やはり、ここでも高野は彼を平和な人と賞することができた。
何も知らないと言うのは平和である証だ。
相変わらず正義感だけは強いな、とほぼ呆れに近い感情を抱きながら高野は彼の話に少し付き合うことにした。
「何がしたい、ねぇ。俺らの世界では相手方の組織を潰せば金を貰える事はさっき言ったな?それに関わることだよ」
「金に関わるって……じゃあ何だよ。アピールのつもりかよ?」
「あぁ、そうだ」
高野は強くはっきりと言った。言い方からして、嘘偽りが無いようだ。
「金を産み出す為に、俺は自分達の敵を倒しているだけだ。一石二鳥ってこのことだろ?」
「何それ!それってただの自己の正当化じゃん!そうやって言えば何も関係の無い一般人も巻き込んで、それを最終的にお金に結びつける?最低にも程があるよ!」
吉川とは違う、高い声がした。
声の主はこれまた同学年の石井真姫。女子ではあるが、誰とでも仲良くなれる性格であるため、高野とも仲が良かった。
それでも、今では先輩や吉川同様、敵対者にしか見えなくなってしまう。
だが、彼はこれを望んでいた。皆と別れるには自分が最低な人間になるしかなかった。
だから、彼は強く反論も出来れば自己正当も気兼ねなくできる。
「何とでも言うがいいさ。俺は生きるためなら何だってするさ?それが例え無差別なテロリズムであってもな」
皮肉たっぷりに薄く笑い、挑発する。乗るかどうかはさておきではあるが。
「だったらさ、どうしても分からないんだけど1ついい?」
声色だけで怒りが爆発しそうなのが感じ取れた。
石井も石井で正義感のある人間だったはずだ。
「何だ?もう全部話したから分からないことなんて無いと思うけど」
「いや、あるよ。レンに1つ聞くけど、何でレンは今日ここに来たわけ?」
絶対に聞かれると思った。
傍から見れば日常を突如ぶっ壊した空気の読めない人だからだ。
何をしに来たのか分からない。そんな風に捉えられるのが当たり前だろう。
この世界から出たかった。それが無理でも、自分はこんな生活をしている。もっと自分を知ってほしい。
なんていう自らの心の深部に宿る本音以上の本音を言おうか迷った。
そうでなければ、自分が好きだったこのサークルに、皆に会おうなんて思うはずがない。
助けて、なんて言いたかったけどそんな勇気が出るはずもない。高野は自分と自分の大切な人を守るため、最後まで偽り続ける。
「警告さ。俺はこの先も今までと変わらない活動を続ける。だけど、今となってはこの大学も俺の命を狙う輩のせいで戦場になりつつある。いや、既になってしまった。そこで余計な行動を起こさせないための警告だよ。邪魔でもされたら殺しかねないからさ」
これでよかった。本当は望んではいなかったが、想像の一通りの結末通りに事は進んだので、それだけで彼は満足だった。
窓の外に映る群青色に染まった夜空とその景色がふと目に焼き付く。その綺麗な色合いについ惹かれたからか。
だが、その二秒後だっただろうか。
確かに高野はおろか、ここにいるすべての人間の目には群青色の夜空が見えたはずだ。
それが瞬間のうちに、鋭い光と音によって夜空が奪われていく。
気づいたときには、目を疑う光景となっていた。
時間は18時を過ぎた中秋。真っ暗になりつつあるはずだ。
それが、早朝を思わせる明るい光に変化していた。
いや、どんな季節の早朝でも絶対に見ることはない。
空が、金色に染まっていたからだ。
つまり、それは。
現実では有り得ない光景が眼前に広がっていた、と言うことだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.43 )
- 日時: 2018/12/09 12:43
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「何だよ……あれ……」
時間的に有り得ない空を窓から見つめる高野は、自身の頭の中で思い付く限りの成立するであろう現象を何度も思い浮かべる。
特性の'ひでり'、高エネルギーを放出する大技、視覚と聴覚を失わせるほどのものではないものの明らかに発生した強烈な音と光。
いくつか浮かんだものの、当てはまるものが1つも無い。
今目の前で起こっている事態の原因は、ジェノサイドの知恵を持ってしても分からなかったのだ。
当然、一般人である彼の友達や先輩と言った今この教室にいる人々も今何が起きているかなんて知っているわけがない。
その光景に対し率直な感想を述べているだけだった。
見ると、四年の女性先輩方が「すごーい」だの、「きれーい」と言っている位だ。
それとも逆に、ポケモンには全く関係のないただの自然現象なのかとも考えはじめた矢先に、自分の名を叫んでいる声が微かに聞こえた。
「レン!!レンってば!!」
考え事に集中しすぎてしまい、自分の呼ぶ声にすぐ気づかなかった。高畠がやや怖い顔をしながらこちらを見つめている。
「え、えっと……何?」
「あれが何なのかレンは知らないの?」
強く指を差した先は黄金色の空だった。彼女は早くも高野に関連している出来事なのではないかと考えていたのだろう。
だが、あれが何なのかは結局彼にも分からない。
「いや、全く分からねぇ。色々と考えてはみたけど原因がさっぱり分からない」
「とか言って、また組織絡みのやつじゃないの?あそこまでする理由って何?」
「だから俺も分からねぇって言ってんだろ!こっちが聞きたいぐらいだ!」
と、二人で熱くなっている途中だった。
ポケットに違和感を感じる。不安に思い、高野が自身の服のポケットに手を突っ込んだ。最初はポケモンがボール越しに変な動きをしていると思っていたがそれは間違いに終わる。
単に、彼のスマホが振動で揺れていただけだった。
(ハヤテから着信?)
マナーモードにしていた為、着信でもバイブレーションで振動している状態だ。
だが、発信者の名前に違和感を感じ、直後に不安に駆られる。あまりにもタイミングが悪すぎるからだ。
恐る恐る高野はスマホを近づける。
「もしもし……」
言った直後だった。正式には通話ボタンを押した直後。
「ちょ!!ヤバいっすヤバいっす!!マジヤバいっすよリーダーァァ!!」
物凄く元気だがほぼパニックに陥ってる声が耳を攻撃する。
つい反射的にスマホを遠ざけてしまう。
「お前……何でハヤテの携帯から電話してんだよ、ケンゾウ」
「今それどころじゃないっすよ!今基地が大変なんですよリーダー!」
「大丈夫だ、今こっちもヤバい」
全然大丈夫ではないのだが、基地という単語が聞き取れた以上、ケンゾウは大学から基地へと何事もなく帰れたようだ。それでまず安心した。
だが、「基地がヤバい」という言葉が聞き捨てならない。
「ん?待て。でもどういう事だ。その、ヤバいってのは」
不安になりながらも、冷静な口調でケンゾウに聞いてみるが、パニック状態のケンゾウに上手く通じたか分からない。
すると、言った後に少し雑音がした後、別の人の声へと切り替わった。
「もしもし、ハヤテです。今ケンゾウの奴パニクってるだけなんで別に問題はないですよ。ただ、今の状況を知らせるために僕の電話を奪い取られたのは迷惑でしたけど」
とりあえずケンゾウからハヤテに変わったことで安心を得た高野だったが、何事なのかさっぱり分からないままなので同じことをハヤテに聞く。
「えぇ。それなんですけど、聴こえますか?今うちの基地からサイレンが鳴り響いているんですよ」
サイレン?
そんな物基地内に取り付けただろうか?
心当たりがないので、電話越しから音を拾おうと耳を集中させる。
確かに、サイレンのような音が聴こえた。
「確かに、鳴ってるな……甲子園球場で流れるような、不気味なサイレンが」
「えぇ。急に鳴ったもんなので基地中がパニックなんですよ。一応構成員を含むメンバー全員に基地からまだ出ないよう指示をしてあります」
「そうか。ところで、そのサイレンはどこから鳴っているんだ?基地全体に鳴り響いている感じか?」
「いえ」
ハヤテが歩きながら話しているのか、所々に間が空く。
「一ヶ所から鳴っているみたいです」
その場所に近いためか、サイレンの音が徐々に大きくなっていく。電話越しでもそう感じるレベルだ。
「場所は?」
「それが……バルバロッサの研究室からなんですよ」
「研究室?何でだ」
「分かりません。あと、何かよく分からないものも写っているんです。テレビ通話にするのでそちらで確認していただけますか?」
ザザッと雑音が入った。どうやら、指で操作をしているらしい。
画面が変わった。そして映像が写し出された。
そこには、普段の暗い研究室に、大きな装置が置かれている普段の景色が写っている。
だが、おかしな点が幾つかすぐに見つかった。
研究室の真ん中に位置する場所に大きく構えられた形で置かれている装置。
普段バルバロッサが写し鏡の解析に使っていた装置だが、天辺部分に装着された回転灯が赤く光っている。それを見るに、どうやらサイレンはこの装置から鳴っているようだ。
次に、ディスプレイに何やら普段は載っていない画像が表示されていること。
何か、山のような写真だ。
そして最後。
肝心の写し鏡が無い事だった。
それに気づいてからか、変な鼓動が鳴り響く。嫌な予感がしてたまらない。
恐る恐る高野は再度ハヤテに質問をする。
「な、なぁ。バルバロッサの姿が見当たらないんだが、奴はどこに?」
「バルバロッサなんですが……先程写し鏡を持って外に行かれました。サイレンが鳴ったのもその後です」
嫌な予感が的中した。バルバロッサが関与しているに違いない事を確信する。
「リーダー!どうやったらこのサイレン止めれますか!?何かもうこれ怖いっす!うるさいっす!誰か助けてー!」
またもやうるさい声が耳に直撃する。
電話の向こうでガヤガヤ言い合ってるあたり、ハヤテの電話をケンゾウが奪い取ったのだろう。
彼らが基地の構造上地下にいると言うことに気づいた高野は空の異変について話すことにした。
「とりあえず落ち着けケンゾウ。そうだな、落ち着く為にもまず空を眺めてみてはどうだ?嫌なことがあったら空を見る。すると記憶に残りにくいって言うだろ」
当然意地悪である。こんな最悪な状況の中余裕を見つけたのかそれとも逃避したいが為なのかは分からないが何だか急にちょっかいを出したくなる。
それを聞くや否や、ダッシュで階段を昇っているのか、そんな音がうっすらと聴こえた。
「なるほど!空っすね!確かにそれはいい考えっす!待ってください今階段昇ってドア開けるところですから!ここからの眺めって最高なんすよね、……ってなんじゃこりゃー!!」
予想通りの反応が聞こえてしまい、状況を忘れて笑いそうになるが必死に堪える。
その姿を見てか、先輩や友達の自分を見る顔がなんだか変だった。よほど変な顔をしているらしい。
「えぇ!?ちょっ、何なんすかこれー!空がなんか変っすよ!!」
ケンゾウの叫び声が聞こえたためか、ハヤテもかけ上がってきたようだ。電話の声が変わった。
「リーダー……これは一体……」
「分からねぇ。さっき急に空の様子がおかしくなったんだ。教室の窓からこの目で確認した。そっちでも同様な異常が見られるようだな」
そして。
高野は一度長い深呼吸をすると、覚悟を決めたかの如くリーダーとして心を変える。
スイッチが強く押された瞬間だ。
「いいか。今すぐ俺の言う通りにしろ」
声色と場の空気が変わったことをハヤテは確信した。
両者の全神経が電話に集中していた。相変わらず頭を抱えて叫んでいるケンゾウが気にならなくなるくらいに。
「いいか。今すぐバルバロッサの研究室に戻ってディスプレイに写っている山が何なのかを調べてくれ。恐らくそこに何かが、バルバロッサがそこに居るはずだ。それが分かり次第ジェノサイドの人間全員を基地から外に出してそこへ向かうんだ」
その言葉にハヤテは耳を疑う。
「全員!?あまりにも危険すぎます!基地が無防備になってしまいますよ!」
「基地の安全よりも考えなきゃいけないことがあるんだ!そこら辺のリスクは考えてある!ひとまず俺の言った通りに動いてくれ。詳しいことは現地で直接言う。俺も今すぐ向かう」
「場所分かるんですか?何だったらまた画面を写しますけど……」
「いや、いい。思い当たるフシがある」
高野の目線は、遠い外の景色に向かっている。
その先には山が見え、山々の間に光の玉のような、光が集中している箇所が微かに見えていた。
「ただ、俺の思う節が100%当たってるとは言いきれない。その為の山の特定を頼む」
「それなら……リーダーもそちらで待っていた方がいいのでは?」
「それでも本当だったら良いんだが……」
高野はチラリと周囲を望む。
サークルメンバーによる様々な思いが篭った目が突き刺さるだけだった。
「その……気まずい」
「?」
「とにかく……今言えることは以上だ。……頼んだぞ」
それだけ言うと、高野は通話を切った。
改めて周りを見ると、教室にいる人全員が自分を見ている。電話の相手が自分の仲間であることは理解しているようだ。
「くそっ…本当に嫌な事が起きちまった……本当は認めたくねぇよ……あんなの」
聞き取りにくい小さい声でそう呟いた。隣にいた佐野先輩が辛うじて聞き取ったようだが。
「でも行くしかねぇ。何かヤバい事が起きてるのなら何が起きているのか確認しなきゃいけねぇだろ。……特に身内の人間が関わっていたら余計にな」
彼は窓へと向かって歩き出した。
ゆっくり窓を開けると、外に向かってボールを向ける。オンバーンが入っているダークボールだ。
「それに、その身内の人間が裏切ったってんなら尚更だろ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.44 )
- 日時: 2018/12/09 12:56
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ボールから勢いよくオンバーンが飛び出す。
普段通り元気に翼を羽ばたかせていた。
「いいか、お前ら」
低い声でクラス内の人全員に呼び掛け始める。
「俺は今から何が起こっているのか見てくる。あとで連絡も入れる。だからいいか、俺が戻ってくるまで絶対にこの建物から出るなよ」
と、言うと当然ばつの悪そうな顔をする人が出てきた。それもそうだ。彼らはサークルが終わったら後は帰るだけだからだ。
「何でだよレン!俺らは関係ないだろ!」
声の主は岡田だ。少年のような顔と心を持った彼も、今は怒りを滲ませている。
「いや、俺のせいで被害が及ぶかもしれない」
高野は窓に足をかけた。今にも飛び立とうとしている。
「俺が、ジェノサイドがこの大学にいるという情報を奴等はもう持っている。この異変の元凶が俺を殺したがっている裏切り者の仕業だとしたらそいつの刺客が直接ここに来てもおかしくないだろ?」
それを聞くと、岡田は血の気が引くように真っ青な顔を見せつつ静かになる。
「だからいいか。絶対にここから出るなよ」
体重を乗せ、少し前のめりになった瞬間。
高野は思い出したかのように突然振り返り、佐野の顔を見た。
「先輩……。実は俺、今日限りでこのサークルを、この世界に生きる事を辞めようと思っていました。その為に今日ここに……。でも、やっぱり諦めきれません。もう少し此処に居たい……。わがままなのは分かってます。だからもう少しだけ、この騒動が終わったら連絡という体裁でまた……」
言葉が詰まった。
これから起こりうる事とのギャップが途轍もなく大きい事を痛感させられる。
「また、その時は此処に来てもいいですよね……?
」
そう言うと窓からオンバーンへと飛び移る。
そして瞬間、姿が消えた。
その姿を見ようと窓へ駆け寄る人が何人かいたが、彼らの目には黄金に染まった空と小さい太陽のような光の塊だけが映るのみだった。
「あれ?レン君ボール忘れてない?」
佐野が床に落ちていたモンスターボールを見つけ、それを拾う。
このサークルでポケモンをやっている人間は5、6人。
だが、彼らは実体化したポケモンをこの大学内で出したことはない。
なのでここにボールが落ちているということは高野の物以外有り得なかった。
「レンの奴……手持ち五体なんかで大丈夫かなぁ」
当然彼らはポケモンボックスの存在など知る由もない。
佐野は彼の最後の言葉を思い出しながら強く握っる。
「さっきは許せないなんて言ったけど……レン君。僕は待つよ」
「えっ?」
隣に来た吉川の声だった。彼には最後の二人のやり取りが上手く聞き取れていなかったのでその真意は分かっていない。
「僕はいつでも待つから、帰ってくるんだよ。……こっちの世界へ、ね」
ーーーーー
いつもよりも増してスピードが速い。
ジェノサイドは冷たい風を浴びながら突発的にそれに気づく。
ポケモンもポケモンなりに異変に気づいているのかと思いながら目の前に少しずつ迫っている小さい太陽を睨み付けた。
今までバルバロッサは仲間だと思っていた。組織の中では最も信頼できる人間だった。
だが、包囲網の件で何もしてこなかった時点でそれまで少しに留まっていた不信感が一気に募った。
不信感は募ってしまうともう二度と元の関係には戻せない。戻れない。
一度そういった感情が芽生えてしまうと敵として認識し、それを潰すまでその感情は変わらない。
敵と言う存在を絶対に許さない。
彼はそういった感情を持ってしまった時点で、この組織に長く居すぎてしまった。
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