二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.380 )
日時: 2019/08/04 10:06
名前: ガオケレナ (ID: .blKIhjH)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


陽射しが頂点に達する頃。

山背恒平は苦悩していた。
自身の体の震えが止まらないのを自覚しながら。

(何しているんだ……豊川の奴……)

燦然と輝く太陽の光を浴びながら山背は今、大会会場のフィールドに立っている。
コートの向こうには、既にほとんどの学校では夏休みに入っているはずであるにも関わらず制服姿の男子の姿があった。

手にボールを持ちながら周囲をキョロキョロと確認するように何度も見ている。

「ねぇ、まだ連絡つかないの?」

観客席からこれから始まるであろう試合を眺めに来た高畠美咲が同じく観戦に来た同じサークルのメンバーにして同学年の吉川裕也に急かすも、吉川は困惑するのみだ。

「俺だってよく分からねーよ!LINE送っても返事が来ねぇんだ!」

山背恒平を含む香流慎司、そして豊川修の3人が集った438番チームは彼と香流だけしか来ていなかった。
更に運の悪い事にこれが彼らにとって予選の最終試合となっているようで余計な緊張感がこの2人には重くのしかかる。

(香流が居るから最悪の結末には……ならないと思うけど……)

暑さと緊張で大量の汗を滲ませた掌からジュカインが現れる。

そして、試合開始が告げられた。

ーーー

会場となるバトルドームからやや離れた位置からも、ブザー音が微かに聴こえた。

色とりどりの店が立ち並ぶ整った通りを歩きながら、高野洋平は懐かしい顔ぶれの面々と再会しようとしている。

「悪いな。試合の後で色々忙しい時に」

「別に問題ないっすよ!さっきのとは別にこうやってリーダーに会えたんすから!」

隣を歩くのは嘗ての組織の右腕的存在だったケンゾウ。

そして、そんな2人を待つようにして道の真ん中に待ち構えるように立っていたのが今のケンゾウたちの面倒を見ている組織、赤い龍のリーダーミナミだ。

「よう。大学で会った以来だな」

「ついほんのさっきバトルフィールドで会ったはずだけれど?」

ミナミの様子が若干おかしく感じたのは高野の錯覚ではなかった。
目付きが悪く、微妙に視線もこちらに向けようとせず、そして吐き捨てるような口調。

何がそんなに彼女の機嫌を悪くしたのかと少し考えた高野だったが、

「多分さっきの結果を……」

「あー……引きずってるのか……」

「小声で話しているんでしょうけど聴こえているわよ。一体何しに来たのよアンタは!!」

高野は気難しそうな人を相手にしているかのような顔でケンゾウと目線で「やれやれだぜ」と言うと、半歩踏み出した。

「どこから話せばいいかな?」

「だったらウチから話そうか」

つられてミナミも半歩近付く。
ここ最近で話題の種が増えてしまったのは彼だけではないようだった。

「とりあえず、アンタが組織を抜けたあの夜からそうねぇ……この大会が始まるまでかな。範囲は」

それは、言い換えれば高野洋平という男が深部と一切の接触をして来なかった期間でもある。
これまでの間に、彼ら赤い龍の中で何があって、どのようにここまで来れたのか。

それは嘗ての仲間だったとはいえ、彼の性格上知りたい事柄であった。

「月が変わるまで……要するに2014年の間には何も無かったわね。議会とアルマゲドン双方の脅威であったアンタが居なくなってからは名前を変えたウチらも平穏にやれたのは確かね。場所が変わって色々揉めはしたけど」

「……それは悪かった。外から見たら大きくて広い団地だったから貸し切り同然にしてしまえばいけるかなーとは思ってた」

「まぁ、それはいいわ。問題はこの後よ。新年早々デッドラインという名の組織が議会の持つ"名簿"に追加されてね。しかも妙な事に"組織ジェノサイドの後継者"なんて宣伝文句と共に。当然ウチらとは何の接点も無かったから調べてみたわ。でも、おかしな事に何処にも突き当たらない。情報を意図的にカットしているかのように、途中で行き詰まってしまうの。これはレイジや他のベテランの人たちから見ても明らかだったわ」

「そこで、デッドラインが何者か探るのを諦めてしまったわけか?」

「いいえ。もっと奇妙な存在とぶつかったわ」

「?」

と、言うとミナミは1枚の写真を取り出した。
高野は彼女の傍によって写真を受け取ると、それは見覚えのある顔だったせいか、怪訝な表情がより深くなるのを自身の顔の皺の動きで自覚した。

「デッドラインの鍵。そんな風に呼ばれている少女よ」

「コイツは……俺も知っている。此処で何度も会った」

「おかしいのは、これまでウチらが2,3ヶ月ジェノサイドと同質の捜査網を駆使しても何の手掛かりも無かった存在に、いきなり外部から手を加えられたように、女の子が現れた事。これで確信したわ。デッドラインには何者かの息がかかっている事。しかも複数人のね」

「そのデッドラインの鍵は議会の人間とも繋がっていたからな。その直感は正しいな」

高野はここで内心、自分しか知り得ていないだろうと少しドヤ顔で言ってみたものの、

「そんなの知っているわ」

と、一蹴される事で無駄に終わる。

「そこで、ウチらはこの写真の女の子が何者なのか、"デッドラインの鍵"という肩書きを無視して調べてみたの」

「そ……それで、何か分かったのか」

「えぇ。全部」

前日まで調べていたであろうケンゾウが、自身が背負っていたリュックサックから数枚紙をミナミに渡すと、彼女はそのまま続けた。

「本名は湯浅ちえみ。神奈川県の公立高校に通う"本当にごく普通の"女子高生よ」

「なーにがごく普通だよ。こんな子が普通な訳が……」

「だからウチも今本当の、って言ったじゃない。いい?この子はそもそも、深部とか、議会とかそんな裏の面々を一切知らないどころかポケモンさえも遊んだことの無いただの一般人なのよ」

「本気で……言ってるのかよ」

高野は手を差し出す仕草をしてミナミの持つ資料の何枚かを受け取り、掴む。
そこには確かに少し古臭いデザインの制服に身を包んだ何処か初々しい雰囲気を放つデッドラインの鍵の姿があった。

「話にはまだ続きがある」

言うと、ミナミはドームの方向へ振り向いたかと思うと視線をこちらに戻した。
だが、目は未だ合わせようとしない。

「その学校、今年に入ってから物騒な事件が起きてね……。1人の女子高校生が行方不明になっているみたいなの」

「家出か何かか?」

「いいから聞いて。この行方不明になった少女こそが湯浅ちえみ本人。行方不明になってからもう半年経つけど未だに学校には姿を現していないみたいなの。にも関わらず学校には1度きり連絡が来たみたいでね?」

「どんな連絡?」

「主は湯浅の親御さん。『今喧嘩して家出している影響で学校にも行っていないかもしれないけれど、どうか在籍したままにしてほしい』っていうものだったそうよ?」

「まぁ、何事もなく行方不明のまんまだったら警察も動くだろうしなぁ。そうした方が動きやすいのかもな」

「それで、今までの情報とデッドラインの鍵の家出騒動。おかしな点だらけだから昨日ケンゾウにある依頼をさせてたの。ケンゾウ!」

と、ミナミが彼を呼ぶ。
ケンゾウはリュックからスマホを取り出すと外部から入手したであろう動画が正に再生されるところだった。
それをケンゾウは2人に見せようとしている。

「これは?」

「或る日の地域の防犯カメラの映像。粗いからよく見ていてね」

何も映らない町の通りの一角。
それを延々と映しているに過ぎなかったものだったが、2分ほどすると変化が訪れる。

「学生の姿……?」

「そう。帰る時間のようね」

帰路につく学生たちの姿。
そこに紛れるが如く彼女の、デッドラインの鍵こと湯浅ちえみの姿が。

「奴が映っているのか……んん!?」

異変は突如発生した。
彼女の目の前で白いバンが止まったかと思うと果たして本当にそんな短時間で可能なのかと思うくらいに、車から伸びた腕が彼女を掴むと一瞬で闇の中へと吸い込んでしまったのだ。

「おい……これって……」

「誘拐のひと場面よ」

その瞬間。高野の頭の中ですべてが繋がった。気がした。

行方不明になった女子高生。突如現れたデッドラインの鍵という存在。何故か一緒に居る議員。
そして、今目の前で繰り広げられている大会。

「この時、この瞬間……目撃者は!?」

「いない。早すぎて誰にも気付かれなかったわ。若しくは、何者かの圧力で"なかった事にされている"」

高野は信じられないといった表情で、2、3度動画を再生する。しかし、それだけで何かしらの変化が起こるはずもない。

「湯浅ちえみは、突然それまでの生活を奪われただけでなく、無理矢理拉致されて無理矢理深部や議会の世界に入れられて、無理矢理デッドラインの鍵としての存在で行動している……。結局彼女がデッドラインとどんな関係なのかは分からないのは相変わらずだけれど……、いくら何でも横暴が過ぎるとは思わない?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.381 )
日時: 2019/08/11 13:43
名前: ガオケレナ (ID: jwGMIFov)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「何故……こいつなんだ?」

高野洋平は動画をなんでもないところで止めると、薄く小さい声で呟くように言った。
2人には聴こえなかったようで、彼は同じセリフを2度言う。

「それに関してはまだ分からないわ。それまでポケモンという"メディア"に一切関わりの無かった1人の女子高生が何故連れられたのか……。そして何故未だにこの子が議員と……片平光曜と一緒にいるのか。片平は何故この子を選んだのか……。本当に分からない事だらけね」

「それだけならまだ良かったのにな」

高野は見飽きた動画のスマホをケンゾウに返し、彼がそれを仕舞うのを確認する。

「まだ?他にもあるんすか?リーダーを悩ませる何かが」

「あるさ。昨日起きたじゃねぇか」

「あぁ……香流君の」

「予選は今日までだ。俺達はあと1戦残っているがそんな事はどうでもいい。ほとんど勝てる試合だ。んで、俺は明日から香流を襲った連中を調べ上げる。苦労はするだろうが何も手が無い訳じゃない。アプローチの仕方は幾つかある」

「それで……もし犯人を見つけられたらアンタはどうするの?」

「全部吐かせる」

高野は立ち上がる。
椅子でもなんでもない石の上に座っていたがために尻のあたりの埃と土汚れを払いながら。

「誰の命令でそんな事したのか、何故あいつを狙ったのか、全部。思い当たるフシが幾つかあるからそれと照らし合わせながらな」

ところで、と言いながら高野は振り返る。
そこにはミナミとケンゾウの2人が立っている。
高野はミナミの、風で翻るワンピースをしばし見つめた。

「お前たちはどうするんだ?赤い龍には赤い龍としての今後の目的とかあるのか?」

「特には……無いかもしれないわ。それを考えようとするとアンタたちに会う以前の赤い龍にまで遡らないと。だからアンタが言ってくれればいつでも動かすわよ。デッドラインでも香流君の問題にも。どうする?」

「……そうだな」

会場で何かしらが起きたようだ。
そう思わせる空気の変化を仄かに高野は感じ取る。

「今は何とも言えないから"その時"でいいか?正直言って人手が足りないから助けて欲しい」

「分かった」

ミナミは優しく一瞬微笑むとケンゾウに瞬きをして合図を送る。

「レイジにも相談して今後の動きをある程度立てておくわ。アンタは……そうね。ハヤテと戯れてればー?」

「ちょっ、俺はその程度としか見てないってか!?」

「……頑張ってね」

適当に振られたケンゾウが吠えているものの、ミナミは無視して高野に語り掛ける。

彼には優しく、しかし寂しそうなミナミと、その後ろで何かしらの意味があるのか、やや大袈裟なボディーランゲージを送りながらケンゾウが叫んでいる。

その光景がどこかシュールでどこか懐かしくて、高野は思わず小さく笑い声を漏らす。

「残りの大会と……今ある問題。難しいし危険だけど、気をつけてね。それで……またいつか皆で会おう?……って、どうしたの?笑ってるの?」

「何でもねぇよ。ほら、行けよ。仲間が待ってるんじゃねぇのか?」

「はいはい、敗者はさっさと去りますよーだ」

ーーー

最初相手のポケモンを見た時は選出を失敗した、と思った。

だが、それは情報の1つの捉え方によって思っただけであり、別の捉え方をすれば状況は別の姿に変化する。

「カエンジシ、'だいもんじ'」

対戦相手の男子高生が元気良く叫び、カエンジシは炎を吐く。

山背は避けるように命令した後に、高野から譲り受けたメガワンドを取り出すとジュカインの姿にも変化が表れる。

「これは驚いたァ!ジュカインのトレーナーはメガシンカの使い手だー!!」

大会実況兼地元のラジオ番組のDJのリッキーは山背をあえて"ジュカインのトレーナー"と呼ぶ。
何もこのような表現は彼に限った事ではない。
プライバシーの保護のためと、それだけでも十分ここに居る人たちには伝わるからだ。

ジュカインは飛んで相手の技を回避する。
そして、上空から'りゅうのはどう'をカエンジシ目掛けて放つ。
だが、命中はしない。
カエンジシの佇む四方の地面に当たるだけでダメージは無かった。

「しかし残念!軽々と避けたジュカインだったがその技は外れてしまったぁぁ!カエンジシにダメージは無いッ!」

乾いた土のフィールドに直撃したせいでカエンジシの周囲に視界を覆うには十分すぎる程の土埃が立つと案の定、カエンジシとそのトレーナーはどう動けばいいのか分からずにいる。

つまり、無防備。

ジュカインが着地する。
動きが一切無ければ直線上にカエンジシがいるはずだ。

「カエンジシの位置は覚えているよな?さぁ、撃て。'きあいだま'!!」

ジュカインの掌から、気を込めた弾丸が発射される。
頻繁に外れる技故に少し回りくどいものの掛けた補正。
山背の作戦は完璧だった。

(レンがよく言っていたよな……)

山背は、大会が始まる前と予選真っ只中の時期に高野からよく言われていた言葉を思い出す。

(ゲームは平面。この世界は立体だって。だから僕たちは立体的に動かなければならないと。そしてそれは戦いでも同じ……)

「この大会、この戦いで勝つ人間はゲームに慣れすぎて平面的な動きしか出来ない人間じゃない!立体的にポケモンを動かせる人間が勝つんだ!」

視界が晴れてゆく。
直撃したらしき音も聞こえて少し経つ。

だが、そろそろ見えてくるはずのカエンジシの倒れた影がいつまで経っても見えてこない。

「……?おかしい。カエンジシは確かにそこに居たはず……だよな?」

山背の作戦は、"カエンジシがある地点に立っている事が"前提にある。

だが、山背は作戦通りに動くには敵の情報が足りなさ過ぎたのだ。

「山背君、上だっ!!」

観戦している香流の叫びは観客のどよめきによって隠され、彼には届かない。

奇しくもその時気が付いた。

ジュカインの真上にカエンジシが居た事を。
'みがわり'によって技を回避していた事を。

「'ハイパーボイス'だっ!」

そして、最早避ける事は不可能だと言う事を。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.382 )
日時: 2019/10/12 17:41
名前: ガオケレナ (ID: nj0cflBm)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「これで満足か?」

「えぇ。もういいわ。出して」

ミナミは駐車場に停まっている群青色のスポーツカー、つまり、雨宮の車に乗るとそう告げた。

「これで俺もお前を乗せてここまで来るという作業が無くなるわけだが、いい加減感謝の言葉くらい欲しいモンだがな、リーダー様よぉ?」

「うん。ありがとー」

「……てめぇ、まぁいい」

雨宮はミナミとハヤテ、ケンゾウの3人を乗せると車を走らせる。
窓から見える高い塔、バトルタワーとバトルドームが段々と、小さくなってゆく。

視界から離れていく。

それは、彼らの夏の終わりを意味していた。

「まさか最終戦1歩手前でリーダーと当たるなんて……運が悪いとしかいいようがなかったですね」

「仕方ないわよ。予選のうちはランダムで当たる仕組みだもの。予想はしていたわ」

「俺はお前が無様に負ける瞬間を見る事は出来なかったが……実際はどうだったよ?」

「無様なモンかよ!!」

助手席に座っているケンゾウが思わずと言った調子で大声を発する。

「"あの"リーダー相手に互角に戦ってたんだぞ!?ゾロアークに勝てなかったけど……」

「俺だったら特殊技で攻めるけどな?要はアイツの'カウンター'が怖いんだろ?」

「違うわ。いつ'イリュージョン'が来てもおかしくないバトルをするのが上手いの。アンタの場合ハピナスとナットレイで止められるのがオチよ」

「あぁそうかよ」

勝てなくてもいいとか、参加しただけでも良かった。
そう言えば嘘になってしまうが、ミナミに心残りは無かった。
今の自分の本気というものが最大限に引き出せた。しかも、それをジェノサイドに見せつけることが出来た。

それで満足だった。

彼女達の大会はここで終わってしまうが、やるべき事が残っている。

「それよりも、この後基地に戻ってからが本番よ!今のウチらがやるべき事!勿論忘れた訳じゃないわよね?」

「えぇ。引き続きデッドラインを探っていきますよ」

「えーーっと……俺は何すればいい?」

「アンタもハヤテと一緒に追うこと!いいね?」

「やれやれ……組織のボスが真面目すぎるのも難ってやつだな。疲れる」

レースで聴くと言われても違和感の無さそうなエキゾーストを響かせて、1台のスポーツカーは街を駆け抜けていく。

ーーー

香流慎司は全身から汗が吹き出るのを自覚しながら、一点を見つめて立ち尽くす。

そして、暫しの沈黙の後。

思い切り溜めて溜めて遂に吐き出たと言わんばかりのブザーが鳴ったのだ。

「勝った……?」

今自分が見ているものが本物なのか、現実なのか。
五感を総動員して確認しようとしている自分がいた。

肌に当たる風、はしゃぐDJ、歓喜している人々の声、巻き上がった土の香り、緊張と興奮で何度も飲み込んだ唾。

あまりにもリアルすぎるその様は、とても夢とは思えなかった。

「勝った……勝ったぞ……っっ!」

「やったなぁー、香流!!」

喜びのあまり、彼の元に駆け寄ってきた山背と抱き合う。

自分でも不思議だった。
普段感情は表に出ないはずなのに、零れるように表れていく。

香流は確かに今、予選を突破した事に感動していた。

「やった……遂にやった……。勝ったんだよね!?山背くん!」

「あぁ、僕達やっと予選突破したよ……。長かった、本当にここまでっっ!!」

香流は友人たちが座っている方角の席を眺める。
結果を見てハイタッチし合っている高畠と石井、緩んだ表情を見せている吉川と岡田、そして北川の姿も見えた。

「さぁ、早くすっぽかしやがった豊川に連絡だな!」

「あぁ!……それにしても……」

山背はバトルフィールドの向こう側を見つめると突然へたりこんだ。

「僕が負けたからどうなるかとは思ったけれど……本当に香流って強いよな。つくづく強さのレベルが違う世界にいるんだと思えてしまうよ」

「何言ってるんだよ。山背くんだって1戦目は勝ったじゃないか。カエンジシの'ハイパーボイス'を耐えた後に'みがわり'で疲弊したところを'りゅうのはどう'で倒した時は観てるこっちもスカッとしたよ」

鳴り止まない歓声と拍手。そして、勝利を称える学生たちの演奏。
フォローのつもりの彼の優しい言葉は時折それらに掻き消されていく。

「それはありがとう。あとは……アレだけだな」

「うん。レンが最後の試合に勝つのを見守ろう」

ガッツポーズをしながら、山背はフィールドを背に歩く。
夏は、まだまだこれからである。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.383 )
日時: 2019/08/18 18:37
名前: ガオケレナ (ID: Zxn9v51j)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「わるーい、寝てたわ」

香流たちの予選が終わってから1時間半後。
激戦の元凶が遂に姿を現した。

「寝てたぁー。じゃねぇよお前気楽すぎんだろ!」

あまりにもボケている豊川修の発言に吉川は笑いを堪えきれずに笑い声を含ませながらそう返す。

「どうなった?まさか負けたのか?」

「負ける訳ねぇだろ。香流と山背が頑張ったよ」

「そうか、よかった……」

「んで、今俺らはアレを観てるわけだよ」

吉川は、観客席にぐるりと囲まれた中心点を、ポケモンバトルのフィールドを指す。

そこに居るのは高野洋平とその仲間である。


「どうする?」

「どうする、って何が」

「まず誰が出る?」

「誰でもいいだろ、どうでもいい。予選最後と言っても俺やお前が苦戦する程の相手ではないんだろ?ここでコソコソと話すことじゃねェ」

「じゃあいいわ。私が出る。私1人で最後の戦いを済ませてくるわ」

メイがそう名乗ると高野とルークの2人を押し退けてフィールドまで歩くと、決められた白線の前で立ち止まる。

「大丈夫なのか?」

高野が不安そうにメイの背中に声をかける。

「少なくとも、あなたが心配する程じゃない。私だってAランクそこそこの力はあると自覚しているところよ」

「どんな基準だ……」

高野とルークが離れる。
遥か後方の、観客席の真下にある参加者用のベンチへと2人は腰掛けた。

同時に、試合開始を告げる熱い実況が始まった。

「すげぇよな、あいつ」

「?」

「実況やってるアイツだよ。1日に何十って試合やってきて始まりから終わりまであのノリ崩さないって普通に凄くないか?単なるコミュ力の問題じゃない気がしてくる」

「それを凄いって思うテメェのコミュ力もたかが知れてるがな」

メイは颯爽とボールを放り投げ、マニューラが宙を舞う。

「さぁ、私の相手になるのは誰?あなた?それともあなた?」

と、メイは一直線上で佇んでいる男を指したあと、隣に立つ日傘を差した少女へと視線を向ける。

すると、男の方が「俺が行く!」と叫んでボールを投げた。

出てきたのはデンリュウだ。
外見に反して器用に動く事の出来るそのポケモンは、決して楽な相手と言うわけではない。

「なぁ、ルーク」

「あん?」

「メイってメガシンカ使えんのかな?相手がもし使ってきたら……って思うと少し不安じゃね?」

「知るかよ。あの女に対して持つ情報なんてお前と程度は同じだ。そして気にしたこともねぇ。あの女が負けたらお前が出る。それで問題ねぇだろ」

1、2歩歩いた相手のデンリュウは、すぐに止まるとそのままの姿勢で'10まんボルト'を放つ。

しかし、フィジカルがウリのメイのマニューラはそれを簡単に避けてしまう。
その際、動きが速すぎて姿が分身したような残像が見えたのは観ていた人々全員に共通していた。

「マニューラ、'つじぎり'よ」

軽く飛んで距離を一気に詰めたマニューラは、トン、と片足で右に飛ぶようにデンリュウの視界から消えてみせる。

そして、背後に回ったと見せかけて、目に鋭い爪から繰り出す一閃を見舞う。

限られた時間ではあるが視界を奪われたデンリュウは屈み、手で顔を覆う。

それが絶好の機会となる。
まだ技は繰り出していないからだ。

マニューラの魔の爪が迫る。
それは果たして、すれ違いざまに薙ぎ払うかのように振るうと、ゆっくりとデンリュウは倒れた。

1匹目の戦闘不能。
ここに来てもまだ余裕そうなメイだが、それを改めて周囲に見せつける。

「あ、こりゃ心配する必要ねーかもな」

と、言って高野は胸を撫で下ろした。

「何がヤバいってこれまでの戦いアイツマニューラ1匹でここまで勝ち上がってきた事だ。仲間である俺らにも頑なに教えようとしないから俺も奴がどんなポケモンを持っているのか分からねぇ。そこはお前も同じなはずだ」

「あ、あぁ……。初対面の時からメイはマニューラしか使ってこなかった」

間髪を容れず相手は次のポケモン、パチリスを出してくる。

「終わったな」

そう言うとルークは立ち上がる。

「この勝負、あの女の勝ちだ。即ち俺らのグループが予選突破だ。それが分かれば俺がこれ以上此処に居る意味は無い。帰る」

「ちょっ、ちょっと待てよ!これから色々あるだろ!?」

「それ含めて俺は帰るって言ってんだ。こっちにも帰る場所だとか、都合ってモンがあるんだよ。無駄に馴れ合う為に俺は此処に居る訳じゃねぇ」

何か言いたそうな高野を通り過ぎ、控え室へと続く扉を開けるとその先へと迷いなく突き進む。
試合の最中であるにも関わらず彼は嘘偽りなく本当に姿を消してしまった。

「え、マジで帰った?そんな事ある??」

高野はそのような戸惑いを隠せずにいる中、メイはWCSの真似事で固めたようなパチリスを涼しい顔で倒すと、1戦目を終えたがためにこちらに戻ってきた。

だが、ルークが居ない事を確認すると再び戦場に自ら身を投じていく。

ーーー

「試合の途中じゃなかったか?いいのか?」

「構うもんかよ。ああいうのはお祭り事が好きな2人に任せりゃいい。とにかく俺には俺のやるべき事があるってもんだ」

「特に変わったわけじゃないけど、報せならあるぞ?」

ルークはバトルドームから出ると、あらかじめ約束でもしていたのだろう。
そこに、かつての仲間モルトが待っていた。
そんな風に一言二言会話を交わし、2人は飛行可能な地点まで歩くと目的の場所目掛けて空へと飛び立っていった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.384 )
日時: 2019/08/21 20:43
名前: ガオケレナ (ID: 13XN7dsw)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


次にメイの前に立ったのは先ほど日傘を差していた少女だ。

試合やボールの投擲の妨げになることが容易に想像できるのに片付けようとしない。
よほど自信の肌の方が大事のようだ。

「私は引き続きこの子よ。あなたはどうする?」

メイは一旦はボールに戻して体力やPPが回復されたのを確認してからマニューラを呼び出す。
対して、対戦相手の少女は中々ポケモンを出そうとしない。

DJの姿をチラッと見て合図が出るのを待っているようだが、彼の試合開始宣言より先に少女の掌からポケモンが躍り出た。

「相手のポケモンは……エンペルトか」

楽に勝てるポケモンではないのは高野の目から見ても明らかだった。
これはそろそろ自分の出番かと手持ちポケモンのモンスターボールと睨めっこし始める。

が、

「'ねこだまし'。からのー、'けたぐり'」

相性の悪さなど知ったもんかとでも言いたげに、メイのマニューラは定番の先制技でエンペルトを転ばして怯ませると、足元を狙った軽い蹴りを放ったあと、再び転ばす。

最早弄ばれているかのようだった。
エンペルトと、そのトレーナーはまともに動く事も指示することも出来ない。

ひとたび動けばマニューラの格好の餌食になるのみだ。

「んじゃー、最後に'はたきおとす'で!」

やっとこさ起き上がったエンペルトを、マニューラは両手で叩き落としてまた更に地に伏せさせる。

その際、エンペルトの持っていたきのみが零れ落ちた。

そして鳴り響く戦闘不能の合図。
彼女とマニューラの顔に苦戦だとか苦痛だとかを思わせる表情は一切持ち合わせていない。むしろ、これで予選の最終試合なんだぞと周りに逆の意味で見せつけてゆく。

「よーし、予選の終わりまであと1匹ね!さぁ、次はどのポケモンなのかな!?」

ーーー

「おや?倉敷か?仕事は済んでいるのかい?」

「合間の視察ってところさ。俺も君が作りたかった大会というものを見ておきたくてね」

大会会場から少し離れた、"選手村"と参加者たちの間で呼ばれている住宅密集地。

その中に埋もれている片平光耀の借り家に1人の男が立ち寄って来た。

倉敷くらしき 敦也あつや

片平とは同期の議員であり、大会運営に関する資料作りを主に行っていたはずの男。

横に長いその体に低い身長。
片平はこの男を見る度に「だらしのない人だ」と心の中で呟いていた。
それは、今日も同様に。

「どうせ今日で終わりやしないんだ。だったら少しくらいやりたい事をやらせてもらうさ」

「その開き直り具合……じゃないね。判断能力は参考になるよ、本当に」

「ところで光耀。君相変わらずその煙草かい?」

退屈そうな表情で口に咥えた煙草に今まさに火を点けるところだった。
彼は場所を弁えるものの、煙草は普段から吸っている。故に自分が喫煙所である事は同じ事務所の人間ならばほとんどが知っている事柄である。

「私は昔から吸っているが?今更聞くことかい?」

「いや、前とは香りが違うから銘柄変えたのかなと」

「私は気分屋なんだ」

そう言うと片平は遠くを見つめた。
丘陵地帯のこの場所は眺めも良く街の姿が見える。

その内の1箇所。大会会場となるバトルドーム。と、その後ろに控えているバトルタワー。

その2つの巨大な建物を見つめていた。
当然ながら会場内のバトルの様子や喧騒の類までは確認できない。

だが、ある程度までしか栄えていなかった街に突然大きな施設とタイムリーな事柄を扱ったイベントを引っ下げるとなるとそれ迄には有り得なかった盛り上がりを見せてゆく。いや、実際に見せてきた。

そんな姿が片平の脳裏には浮かんでいた。

「ところで、視察に来たんだろう?」

彼は、隣に立つ倉敷に声をかける。

「いつまでもこんな所でサボっていていいのかい?それよりも会場に行ってみたらどうなんだ?」

「冷たいこと言うなよ〜。此処は参加者の為に建てられた住居があるって言うじゃんか。そしたら、ここも立派な大会会場だろう?」

「全く……好きに見ればいいさ。その代わり、余計な仕事は増やすなよ?色々と危ない要素を抱えたままなんだよ、アレは」


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