二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.235 )
日時: 2019/01/26 17:34
名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「来たか……」

一際大きい爆音が鳴った頃、レミのギャラドスに'ストーンエッジ'が刺さった時と丁度同時刻の事だ。
薄暗さと整備されていない林ゆえに何人も寄り付かせない林の最奥に。
二人の男がその地に足をつけた。

たとえどんなに勇敢な者でも絶対に勝てないもの。

それは自然の力だ。

どんなに文明が発達しようとも、何千年という時間が人間を強くさせても自然の前では小さな生物に過ぎない。
たとえ小さな林だとしても、それは当てはまる。
単に暗闇だからだ。
人は光がなければ不安を覚える。どんなに歩き慣れている道でも、夜ともなれば全く違う世界のように見えてしまう時もある。
特に歩き慣れてすらもいない敵地など以ての外だ。ヒトの無意識に及ぶ恐怖に打ち勝つ強すぎる精神力、強い目的がなければ佇むことすら出来ないだろう。
そんなヒトのタブーを打ち破った老人と、それを眺める二人の男。

その老人、バルバロッサは仲間と共にこの地から離れるため、二人の男は目の前の男を、自分たちの長を助ける為に禁足地に侵入していたのだ。

「テルと別れてもう随分と時間が経ってしまった。ここまでよく来れたな。ご苦労さん」

バルバロッサが二人の仲間に優しく手を差し伸ばす。
その内の一人がそれに反応し、こちらも手を伸ばした。

「はい。ありがとうございます。我が父上……」

ふと伸ばした手が止まった。意識的でなく、本能的に。

何かがおかしかった。
バルバロッサにそれが分からない。目の前にいるのは見知った仲間だし、時間的にこの仲間が来る時でもあった。

だが。

「いや、そんな大層なモンじゃないな。なァ?バルバロッサ」

聞き慣れない声がその違和感の正体であった。
男が伸ばした手から手のひらサイズの玉のような丸いものが転がされ、地面へと落ちる。

それが爆弾のようなモノと気づくのには時間は要さなかった。
が、地に当たると同時に爆発を伴う。

後ろに下がり、顔に手を当てることで致命傷は避けた。しかし、地を抉り、大量の砂利を飛ばすことによってところどころ血が滲んでくる。

「ぐっ……お前さん……、まさか……」

「安心しろ。コレ自体に殺傷力はねぇ。ただ石っコロを破片に変えるだけの手頃な炸裂弾だ」

「従者はどうした……。私を導く仲間はどこへやった!!」

見慣れたはずの格好をした二人の仲間へとバルバロッサは叫ぶ。自分を助けるはずの人がいきなり榴弾を転がすなど普通でない。
何度も同じようなことを叫ぶも、反応はない。

そもそも、目の前の二人が本当に仲間なのかも怪しいからだ。

(待て……この声、どこかで聴いたことが……?だが私が本来知っている従者の声ではない!!)

見慣れたのはあくまで格好だけ。背景の薄暗さが判断力を鈍らせたか。

「おい老いぼれ。一つ忠告だ。お前を助けるっつー重大な任務を背負わせた人間を敵地に放つのはいい。だが作戦をペラペラと喋らせるな。俺みたいな悪い子がついて行っちゃうだろ?」

やられた。
今の言葉から察するに、ここに来る途中に倒されたのだろう。服など剥ぎ取ればどうとでもなる。
尤も今彼らが身につけているのはボロボロの見慣れたフードだが。

「貴様……」

バルバロッサは男を睨むも、フードで隠れて顔が確認できない。
もう片方の男は一切喋らないが、一人は何処かで聴いたことがあるような声だ。その何処かが思い出せない。

「なんだ?まるで俺が誰だか思い出せない、みたいな言いぶりだなァ。じゃあヒントにして俺の聞きたい事を一つ。テメェ、杉山渡とはどんな関係だ?」

袖から次々と同じ型の榴弾を取り出し、それを投げていく。まるで惑うバルバロッサを嘲笑うかのように。

爆発音が二、三度続いたあとだ。息を切らしたバルバロッサはそこで思い出したようだ。
かつて包囲網を自ら主導し、自分の所属する組織の長を殺せなどと言って協力者を募らせた。その中の一人がフェアリーテイル、その長のルーク。

「今更何のようだ。壊滅寸前の野郎が、私に……」

「返しに来たのさ。借りをな」

今度は直接その手で終わらせるとでも言いたげに、鋭利な刃物を掌から飛び出させる。

暗殺者の兵器の如く。

老人の手を払い除けて彼の胸に、一見厚そうな胸にその刃物を突き刺した。
金の刺繍が施された民族衣装から血が滲み出る。

身体中に、全身に痛みが伝わる。
バルバロッサは驚いたかのような表情を見せると、ルークに思い切り蹴飛ばされ、その大きな身体が倒れてゆく。

視界には黒煙で真っ黒で何も見えなくなった空が見えるのみだった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.236 )
日時: 2019/01/26 17:42
名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


今思えば、ルークはバルバロッサという男に利用されっぱなしの存在だった。

まずバルバロッサは深部設立当初からその手腕と財産を使って自らが長となった組織、アルマゲドンを開いた。
だが何を思ったか、ある日あらゆる道に迷っていた一人の少年と出会う。

彼こそが高野洋平だった。
最初から利用する気だったのか、それともはじめは協力する気だったのかは今となっては分からない。
だが分かることはバルバロッサが身分を偽ってジェノサイドというほぼ傀儡に近い組織に身を置いたことだ。

そのバルバロッサが、"失敗させること前提"で、ある日、他の深部組織を煽ってジェノサイド包囲網なんてものを敷いてみる。それに接触したのがフェアリーテイル、ルークだ。
当然ルークは敗れ、解散させるかどうかを迫られていた時、まさかのバルバロッサがジェノサイドに敗北した。
彼の目論見が崩れ去った瞬間だった。

戦後処理が有耶無耶になったルークは今後どうするか悩んでいた時、今度は深部の環境を破壊する刺客杉山渡が現れ、ルークの仲間のほとんどが葬られてしまった。
最終的に杉山をルークたち深部連合が撃破するものの、後に現れるゼロットの後ろに杉山が、そのゼロットと組んでいたのがアルマゲドン、即ちバルバロッサだったのでここまでの出来事すべてに間接的ではあるもののこの男が関わっていたことになる。

掌ですべてを転がされていたという事実。
それにすべて気づいた直後、ルークは何を思ったか。

破片を飛ばす榴弾を当てられ、全身が血塗れ、息が絶え絶えな煤だらけのバルバロッサを見て何を思ったか。

「あっさりと終わるもんなんだな」

「お前が連絡したせいだろ」

ルークはそれまで黙っていたもう一人の男の方向を向く。その男はフードを脱いで顔をあらわにした。

「雨宮……」

「ド素人じゃない限り近いうちに何が起こるかなんて分かりきってる。俺はただお前の住処までドライブしに来ただけさ」

深部連合の馴れ合いからジェノサイドに加わった男だ。
ドサクサに紛れて入隊したのでかつてどこの組織に加わっていたのか分からない。が、ルーク辺りと接点がある以上それに近しい者なのだろう。そもそも深部連合に加わった時点で"救われなかった"人であるのは間違いない。

「いいのか?コイツにトドメ刺さなくてさ」

雨宮は薄汚れた民族衣装のような服装を指差してみる。ルークはわざわざ振り向かずに答えた。

「老体にここまで与えておけば徐々に弱っていくさ。ここで殺しても"誰が殺ったか"で新たな争いに巻き込まれる可能性だってあるんだからな。それに俺はコイツが痛みに苦しむ所を見れただけで十分さ」

ルークはフードを脱ぎ捨てながら闇しかない道を進む。そこがどこに繋がっているのかも分からないまま。

「とりあえず俺達のこれからすることはただ一つだ。本当に倒すべき敵ってヤツを今からブッ潰しに行く」

雨宮もつられて笑ってみせた。光があるならばその歯は光っていただろう。


ーーー

十体中六体のリグレーを設置した時だった。
ジェノサイドの耳に、小規模な爆発音が微かに聴こえた。

(対戦の余波か……?どちらにせよ急がないとな。今戦っている仲間全員を何としても救うんだ)

誰も死なせたくなかった。誰も、誰かが死ぬことで悲しむ姿を見せたくもないし見たくもなかった。
その思いが彼の行動力へと結びついていく。

が、
どうしても思い出してしまう。

(やめろ……"あの時の事"はもう……思い出したくない!)

かつて深部の頂点という何物にも勝る名誉を手に入れた子供がいた。
その子供は嘗てない王座に気分が舞い上がり、たった一つの過ちを犯してしまった。

それが最悪の失敗であり、そして出発点だった。

「大体さ……人が死んで喜ぶ奴がいるかって話だよな。それにもっと早く気づくべきだった……」

過去をどんなに悔やんでもその過去が変わるわけなどなく、今も変わらない。
その子供は、今歩いている道を歩くしかなかった。

仲間を守るために動くしかないのだ。

辛く、苦しい過去に目を背けながら同時に、当時の自分を反面教師として今の自分を形作るという最大の皮肉を交えながら。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.237 )
日時: 2019/01/26 17:48
名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


合図はバシャーモが何の前触れもなく走り始めた事だった。
特性の'かそく'がまだ適応されていないにも関わらず徐々に速くなっていく錯覚に見る者は駆られただろう。

「'フレアドライブ'」

そのままレミの命令が乗っかり、炎に身を包んだバシャーモが突撃してくる。

「よけて!!」

間に合うかどうかは分からなかった。咄嗟の判断だったからだ。
エルレイドは倒れるかのように身を屈めてやり過ごす。
掠るか掠らないかギリギリのタイミングだ。エルレイド本人も痛みはないようなので無事に避けることは出来たことだろう。

しかし、問題はここからだった。

バシャーモはエルレイドを越え、ある地点で大地を滑り込むようにしてスピードを落とす。
体の向きを戻し、エルレイド目掛けて再び、

「'フレアドライブ'」

炎の突進をかますべく大地を蹴った。最早走りを通り越してほんの少し飛んでいるかのようにも見えた。

(エルレイドにあの攻撃を直接対処するための有効打がない……っ!)

ミナミは仕方なくまたも避けるよう指示を出した。

異変に気付いたのは指示を出した直後だ。

タイミングが突如にして掴めなくなった。

(なに……?これ……)

予想していた地点を遥か越えた場所にもうバシャーモが迫ってきている。
エルレイドも若干困惑したかのような表情をしたあと仕方なく横へと逸れる。
しかし今度こそエルレイドの右腕に僅かだがバシャーモの打撃が加えられ、予想もしないエネルギーを受けたエルレイドはよろけた。

(速くなってる……?これが……)

「'かそく'だよ。時が経てば経つほど、バトルが長引けば長引くほどアナタの戦略の幅は狭まる……。アタシから言わせると、もう勝負あったかもねぇ」

余裕のありそうな笑みに、ミナミは歯噛みした。

バトルが続けば続く程バシャーモは速くなってしまう。
そうなれば避けることはおろか対処そのものができなくなるだろう。一方的な展開へとシフトしてしまう。
そこでミナミは単純な行動に出た。

牽制のため、'サイコカッター'を飛ばすよう命じたのだ。
念が実体化し、さらにそれが刃物となって直接バシャーモへと当てられる。
格闘タイプの弱点にして高い威力を期待できるまさに必殺技。

それをレミは、バシャーモは。

軽々と躱してしまう。
それどころか、滑り込んだ地面に伝わる力で、さらに込み上げるものがバシャーモにあると理解した。
'かそく'である。

バシャーモはさらに速くなる。

大地を蹴った瞬間、ドン!!という列車が通過する時に感じる圧迫感のようなものを発しながらバシャーモは既に手前まで迫ってきていた。

「速い!?」

「初めに言ったよねぇ?追いつけるかって」

ポケモンは命令無しには動けない。
しかしポケモンも生き物ではあるので危機が迫ればトレーナーの意思に反して勝手に行動する事もあるといえばある。
だが今回においてはトレーナーであるミナミはおろかエルレイドですらも反応に遅れる。

それほど手のつけられない怪物を目の前にしてしまったのだ。

「'かみなりパンチ'」

バチッ!!と弾ける音を発しながらその拳をエルレイドにブン回す。
痺れを伴いながら殴られたエルレイドは、速度の乗っかったパンチにより少し吹っ飛ぶ。
ドチャッとした音を立てて地べたに尻餅をついた。

見た感じそれほどダメージは受けていないようだった。

「当然よ。これはほんのジャブ程度。でもー、そのジャブでそこまで困惑されたらぁ、これを受けた時どうなるのでしょうね?」

フフッ、と笑い声を零すとバシャーモはレミの下へとひとっ飛びで着地する。
そして、

「'ブレイブバード'」

ゾッとする恐怖感に、心より先に体が反応した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.238 )
日時: 2019/01/26 17:56
名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


全身の震えが止まらない。
まともな思考回路も構築できない。
ミナミは恐怖感に支配されてしまった。

あの技を受けた瞬間が負ける時。
どうにも出来ない速さという武器を備えたポケモンが相手だからこそ、このバトルの無謀さを知った。
この状況になって初めて'かそく'の恐ろしさを思い知った。

バシャーモの白い羽が少し大きくなると、ついに足が大地から離れ、そのまま一直線へと突っ込んでくる。
もうダメだ、本能的に察したミナミは反射的に目を瞑り、そして叫んだ。

「'サイコカッター'ぁぁっ!!」

呼応するかのようにエルレイドの肘が巨大化し、以前のように飛ばすことなくその腕で、迎え撃つ姿勢をとった。
今ミナミが目を開けていれば、レミの驚きに満ちた表情を見ることができただろう。

ドン!という強い衝撃で激突した凄まじい音が響く。
ミナミはその音が聴こえると余計に強く目を瞑り、顔を腕でガードする。

しかし、何も起こらない。

目を瞑ったままその違和感に気づく。

ポケモンの倒れる音がしない。
地面に伏せる鈍い音がしない。

目を背けて三秒くらい経った頃だろうか。
ミナミはとうとう勇気を振り絞って光を求めるためにその目を開けた。

そこには、

腕で展開した'サイコカッター'で、全身を使ってバシャーモを受け止めているエルレイドの姿があった。

「な、なにあれ!?」

「アナタが命令したんでしょうが……」

目の前の光景が信じられなかった。
エルレイドは、技を受けることなく迫り来る脅威に対して時折押し返されつつも受け止めてダメージそのものを0にしようとしていたその瞬間だったからだ。

「うそ、ウチのエルレイドに……そんなポテンシャルが……」

「アナタもしかしてメガシンカ使ったの初めて?そんなのにアタシはさっきまで負けるかもしれないなんて思いながら戦ってたわけ!?」

直接は言わなかったが、レミは恐らく「変化した力を使いこなせてから戦え」と言いたかったに違いない。
ミナミ本人もそう捉えた。

このまま跳ね返せば逆に相手にダメージを与えられるかもしれない。
そう思ったミナミはそのまま腕を振り上げるように言おうとした。
バシャーモの走る方向を無理矢理変えさせることでコントロールできなくさせてやろうと思った事だろう。

だが、それよりもそれよりも前にとうとうバシャーモがエルレイドを貫く。
弾き飛ばされたエルレイドは再びバランスを崩して転倒した。

「エルレイド!」

まさか負け……?と再び恐怖に駆られるが、その心配をよそにエルレイドが立ち上がる。
どうやら'サイコカッター'で防御したことにより、その威力を軽減させたようだ。

「……運、いいのね」

上空で旋したバシャーモはそのまま飛んだ状態でレミの所へと戻る。
エルレイドとその主との思いがけないコンビネーションで'ブレイブバード'を乗り切った事実が面白くなかった。
いつの間にか余裕が消えていた。

(まさかここに来て"真のチカラ"を魅せるとはね……アタシも最初は余裕だと思ってあの娘に対して追いつけるかなんて言ったけど……甘かった。あの娘の"偶然"とか"ミラクル"とかいう不可思議なチカラが発揮されてしまうなんて……!!)

奥歯を噛み締めたレミはここで初めて彼女が何故Aランクでいられたのかその根本的な原因を知ることとなる。
彼女を取り巻く"強運"がそのすべてだったからだ。

「いいわ……来なさい……」

ここに来て初めてレミは宣戦布告する。ミナミに対して。

「正直今まではただのか弱い女の子を叩いてるイメージでしかなかったけど、それは間違いだったわぁ……。強いのね。アナタも」

不穏な風が吹いた。
漂う緊張感がさらに空気を重苦しくする。

「いい?今からアタシは勝負に出るわ。この戦いを終わらすためにね。だからアナタも死ぬ気でかかってきなさい!!それが深部の!戦士のマナーよ!!」

レミは一方向に指を差した。
バシャーモはそれだけで主の意図を理解した。
羽がより一層白く、大きくなったかと思うと既に足を離す。
前回とは比べ物にならない速さを身に付けたバシャーモは今度こそ敵を捉える。

倒すためでなく、殺すために。

「さぁ、来なさい!!ミナミ!!」

追い詰められた状況下での整理の追いつかない人の思考はごく単純な事しか思い浮かべないものだ。
ミナミはまた'サイコカッター'を使わせ、少しでもダメージを軽減させるつもりだ。

レミはそう考えた。
しかし、'かそく'により最大限に引き上げられたその速さから繰り出される技の一つ一つは衝撃をも伴う。
要するに、

(受け止めた瞬間、それがエルレイドに勝った瞬間よ!)

かつてない迫力と熱と速さを備えたバシャーモが迫る。
ギリギリまで誘い込んで受け止めるつもりなのか。
何も指示しない。

そして、

遂に行動を起こすであろう射程圏内にバシャーモが入る。
レミはこの瞬間、エルレイドはあの行動に移ると考えた。

しかし。

エルレイドは文字通り何もしない。
だらりと腕を下げて迎え撃つ気が全く感じ取ることができない。
ミナミが命令していないせいもあるが、だとしてもポケモンの本能的に動かないのはおかしい。

(どうして……?このままじゃあアナタのエルレイドは……っ!?)

反応が理解出来ないレミをよそにそれでもバシャーモは突き進む。

もう間に合わない。そんなタイミングだった。

「今よ」

恐ろしく落ち着いた声が一瞬聴こえたと錯覚した気になった。
その直後、エルレイドが力無く真横へと倒れていった。

「ええっ!?ちょっと待っ……どういう……?」

まさか耐えきれずにたった今力尽きたのか。レミはそう思った。バシャーモにとっても驚きだったのか、エルレイドの立っていた地点を通過していくとそのまま徐々に失速していく。

今まで何をしたかったのか。今まで自分は何の為に、何を思ってきていたのかと後悔の念に駆られる。
しかし、彼女達の目はそこで光を失うことは無かった。

(エルレイドが……膝を立てている……?)

エルレイドが完全に倒れていない事に気がついた。
何故、何の為に。

それに気付き、考え、理解したそれらすべての時間は一秒にも満たない。
一瞬で頭の中を駆け巡ったからだ。

そこで気付く。

「バシャーモは今どこに……?」

見ると、遥か遠く。ミナミよりもずっと後ろの空中を漂っていた。
どうやらあまりの出来事によりバシャーモ自身も自分の力を制御できずにいるようだ。

「まさか!!まさかアナタ……これが狙いで……!?」

嫌な胸騒ぎがした。これも偶然の産物だと思いたいぐらいだ。
しかし、それは時間が許さない。

「エルレイド!!早く!今のアンタなら追いつけるはずよ!早くバシャーモのもとへ!!」

最後の力を振り絞り、エルレイドは思い切り大地を蹴った。

バシャーモが見せた隙は一瞬。それもコンマ何秒の世界なのであろうが、ミナミとエルレイドは最後まで見逃さなかった。

徐々に墜落していきそうなバシャーモ。その真後ろには獲物を追うハンターが。

ミナミは思い切り息を吸い込み、叫ぶ。

「'インファイト'!!」

二人の少女の耳には、ただ連続した打撃音が聴こえるのみだ。
耳を塞ぎたくなるような生々しい音の後に、それらの目が一つだけの立ち続ける影を捉えた。

そのシルエットでどちらが勝ち残り、どちらが地に伏せたかを明確に理解して。


最後の最後まで敵を知った気でいたこと。
今ある情報がすべてだと錯覚したこと。

それがこの戦いの敗因だった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.239 )
日時: 2019/01/26 18:02
名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「何が一番大事か……分かったようね」

レミは地に伏せた、メガシンカが解かれたバシャーモを遠く離れた位置からボールに戻そうとしたが、離れすぎたせいでボールが反応しなかった。
なのでわざわざその場まで歩いていく。
その間話が止まることは無かった。

「アナタはー、大切な人を守りたいとか、アタシに勝ちたいとか言ったけどぉ……それよりも大事なことがあるの。それに気づいたのよね?」

「……まぁね」

ミナミは最初、ずっと黙っていようと考えていたがそれだとどうしてもモヤモヤするのでそれはやめることにした。

「やっぱり一番大事なのはウチ自身だもの」

「やるじゃない」

敵ながらレミは彼女に少し感心した。
自分に勝った格下の人間がそれに気づいていなければ憤りが止むことはなかっただろう。

「アタシたち深部の人間は常に隙を見せながら戦っているの。もしかしたら予想外の攻撃を受けるかもしれない。もしかしたら戦いの最中に自分の組織のリーダーがやられているかもしれない。それらのリスクと対策を考えて戦いに臨むのに必要なのは何者よりも自分を守る力よ。……アナタはそれに気づいたようね」

「ウチのリーダーはいつもそうやって守っているから……」

ミナミの言うリーダーとはジェノサイドのことだ。

レミも一発で理解出来た。
あぁそう、とか細く呟いたレミは煙で何も見えない真っ黒な夜空を眺めるために顔を上げる。

「運も実力のうち……なんて言うけれど、それってそれほどの強運を引っ張り出す程の実力があるって事よね。……アタシの負けねぇ」


ーーー

最後のリグレーを設置したその瞬間、ジェノサイドは何か異様な雰囲気を感じ取った。
ピンとくるものが何かあったようだ。

「何かが……終わったのか……?」

当然何が終わり、本当に何か起きたのかは彼には分からない。ただそう思っただけの話だ。

「あっ、やべやべ。こうしちゃいられねぇ……。合図飛ばさねーと」

あたふたしながらジェノサイドはダークボールを取り出す。
それを投げると中からはサザンドラが出てくる。'りゅうせいぐん'を花火代わりに使おうという事のようだ。

「んじゃあ頼んだぞ。サザンドラ、'りゅうせいぐん'だ」

サザンドラが淀んだ夜空に向かって一個の星の塊を発射した。
その塊は空中で一旦静止し、下に向かって落ちて行くと爆発、飛散し塊が多数に分かれて落下する。
その'りゅうせいぐん'だけを見たらもしかしたら花火に見えたかもしれない。

少々変わった花火だが。

あとは定期的に飛ばせばいいだけだ。
それに事情を知った仲間が動けばすべての問題が一気に片付く。

「リーダーリーダー!」

どこかで聞いたことあるような元気が有り余っているいるような声がした。
後ろを振り返る。

「ハヤテ……?どうかしたのかお前。ってか、よくこんな深い所まで来たな」

「近くで例のサインが上がったので。敵を追っていたらこんな所まで来てしまいました」

「どこまで追ってるんだか……まぁ丁度いい。ここにリグレーいるから立ってみろ」

と言うのでハヤテは誘われるがままにリグレーの前に立つ。

「これ、確かテレパシー送ってその答え次第で仲間か敵か判断して仲間だったらどこかに移動させるってやつですよね?」

「あぁ。お前なら100%大丈夫だろうがちょっと試しにやってみろよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!リーダーに伝えたいことっ……、ッ!?」

ハヤテの言葉が途中で止まり、詰まらせたのはテレパシーが始まったからだ。
ジェノサイドの方向を向き、何が何でも報告したかったハヤテはリグレーの言葉と力に徐々にそちらに集中していったのか、体もそちらへと方向を変えていく。どちらかと言うと無理矢理動かされているようにしか見えないのだが。

「………」

「……?」

リグレーは脳内に話しかけている。あらかじめジェノサイドがこの為だけにセットしたので中身も人語であるし、組織としてのジェノサイドの人間ならば何かしらの答えが言えるはずの質問だ。

何分か経った頃だろうか。

「ちょっ、リーダー何ですかこの質問!分かるわけがっ!?」

言っていた途中にハヤテは文字通り飛ばされた。

テレパシーとテレポートを併用していたのでハヤテはそのまま設定された場所へと消える。
つまり、リグレーも仲間だと判断したのだ。

「その通り……分からなくて当たり前だよ。その反応で判断するためなのだから」

困惑に満ちたハヤテの顔が脳裏に焼きついている。
リグレーが佇む林の奥深くでジェノサイドは一人、くっくと声を小さく上げながら笑っていた。


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