二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.460 )
日時: 2020/02/21 16:00
名前: ガオケレナ (ID: XpbUQDzA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「おい起きろ。聞いているのか?」

高野洋平は本日2度目となる最悪な目覚めを経験してしまった。
思い切り体を揺さぶられて強制的にその目が開かれる。

「んだよ……やめろやめろ……」

「いいから起きろ。きっかり5時間経ったんだぞ?ベドウィンの中継地だ。ほら降りろ」

寝惚けて老人のような顔をした高野は若干フラフラしつつ車から降りる。
その間イクナートンはミナミとレイジを起こすために車の中を回っていた。

時計を見ると確かに5時間ほど経過していたようだ。
だが、高野本人からすると全くその感覚がない。
長旅と時差のせいで普段以上に疲労が激しいからか、1、2時間程度の感覚しか無かったのだ。

降り立った場所はベドウィンの地らしく、露店が幾つか並び、駱駝や馬の類が大人しく留められている。
だが、それよりも先に生まれた思いは"暑い"に尽きた。
この国に来た時からずっと思っていたことだったが、日本と比べて暑さの質が違う。

直接肌に熱が痛みを帯びて突き刺さるかのようだった。
湿気を伴ったべっとりとした暑さとは違う"暑い"なのだ。

「こんな所で休憩出来るのか?俺には耐えられん」

「此処は街と街の間だ。それに、この地下には湧き水もある。彼らからすれば決して悪くない場所さ」

「そしたらさ……」

高野はとりあえず近くに立てられていた出店の内2つほどを見つめる。その上で続けた。

「走り始めてすぐに買い出ししていたが、別に此処でも良かったんじゃないか?途中で荷物を積んだのと此処で降りた理由がイマイチ分からんのだが?」

「至極単純な理由さ。最初に降りた所の方が安い。それからここに来た理由も分かりやすいぞ?車のドライバーも万能にして無敵とはいえない。休ませてやらないとな」

「あっ、そーですか……」

結果がどうでもよかった不満と、思うようにいかない現状と喉の渇きに飢えた高野にはもはやどうでもよかった。
とりあえず、与えられたペットボトルの水を飲もうとした時。

「ひゃっ!!」

突然、ミナミが叫んだ。
しかし、高野は彼女に連鎖して驚くことはしない。
彼女が叫んだ理由が何なのか、知っているからだ。

「これは……」

高野は思わず見上げた。
人の声で紡がれた、歌のような不思議なリズムがスピーカーから流れたからだ。

「びっくりした〜。いきなりなんだもん……。何これ、歌?」

「いや、これは歌じゃねぇ……」

スピーカーから流れる"それ"に耳を澄ませる。
どう考えても歌にしか聴こえない、まさにThe Arabianを思わせる異国の旋律は、慣れない海の向こうの人々を魅了する、ある種の美しさがあった。

「これは……アザーンだ」

「アザーン?なにそれ?」

偶然だった。
テレビや書籍でのその分かりやすい解説を行うジャーナリストの番組をたまたまその時見ていた高野だったからこそ、それを知っていたのだ。
だが、改めて本物を聴くのは初めてでもあった。

「イスラム教ってのは1日に何度もお祈りするだろ?そのお祈りを始めるための合図みたいなもんだ。これからお祈りするから集まれ〜的な?」

「へぇ〜。歌で時間を伝えるなんてお洒落なのね」

「いやだから歌じゃねぇって」

暫く聴いている内に、それまでキャンプ内でばらけていた人々が1箇所に集まる。
そして、全員が同じ方向を向いてお祈りをし始めた。

「ね、ねぇ……」

ミナミが喋ろうとした所をイクナートンに遮られる。

お祈り中は喋るな。

そんなジェスチャーをされながら。

決して待たされていた訳ではなかった高野たちだったが、幾らか見つめていると人々はお祈りを終え、それぞれの生活へと戻ってゆく。

この時、陽は頂点に達していた。
1日の中での2回目のお祈りの時間という訳である。

ジープのドライバーも、飲み物を片手に戻って来た。
どうやら、もう出発するようだ。
休憩はして来たのか尋ねたかったが、現地の言葉が分からない高野たちはもどかしさを覚えながら車へと近付いてゆく。

「いっっ……てぇ……」

車のある方へ向こうと首を動かした時だった。
高野は、巻き起こった砂嵐に思わず目を瞑り、手で押さえる。

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、平気平気……ちょっとビビっただけだ」

レイジの返事に対しても普段の調子で答える。
本人の言った通りオーバーリアクションだったようだ。

しかし、途端にレイジの視線がおかしくなる。
高野の立つ後方、ベドウィンのキャンプの敷地の真ん中に意図的に作ったかのような揺らめくように、歪んでいるようなウネウネとした動きをした砂の竜巻が巻き上がっているのだ。

人々はそこから離れ、竜巻周辺はぽっかりと穴が空く。
決して人に対しては脅威とはならない小さい竜巻。
本来ならば無視していればよいものを、

「ジェノサイドさん!ジェノサイドさんっ!!」

「なんだよ……俺はもうデッドラインであってジェノサイドでは……」

「あれです!あれをっ!!」

レイジは目を擦る高野に対し、必死に叫ぶ。
不可思議な竜巻を指しながら。

高野も応じるが如くそれを見つめる。

瞬間、駆け出した。

その竜巻の中から人が、"キーシュ・ベン=シャッダードが現れた"からだ。

「キイィィィ……シュゥゥゥゥ!!!」

「久しいなぁ!ジェノサイド……。だが今は貴様と戯れている時では無いのだよ!?」

突如姿を現したキーシュ。
その手には砂の大地を掘り起こしたのか、それともお祈りの時間を見計らって露店から盗んだものなのか、それは分からないが1枚の紙片を掴んでいる。

「これで俺様の此処での用事は済ませた……次を急ぐぞ」

「テメェェェ……!!石井と山背を……何処にやったぁぁぁぁ!?!?」

走りながら、高野はボールを構え、投げる。
出てきたリザードンがキーシュに向かって灼熱の炎を吐く。

しかし、キーシュは顔色ひとつ変えない。
その身を纏っていた砂嵐を炎にぶつけると、共にそれは消え去る。

「貴様の相手をしている暇は無いと言っただろ?」

「だったら尚更だ……俺にはあるんだからよぉ?ムカつく奴の嫌がらせも出来れば俺としては満足だ」

嘗て、それぞれの思惑を抱いた2人は国内で戦いを繰り広げ、そして今。

遠い異国の地で奇妙な再会を果たす。

これもまた、ひとつの運命なのだった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.461 )
日時: 2020/02/21 19:39
名前: ガオケレナ (ID: XpbUQDzA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「待て、デッドラインッッ!人目のつく所でポケモンを使うな!」

「うるっせぇ!!俺の知り合いの命が掛かってんだよ!手段なんて選んでらんねぇよ!」

イクナートンの必死の静止も振り切り、高野はメガシンカのデバイスと化したメガネを光らせる。
その光に呼応し、リザードンも全身を光と外気から取り込んだ膨大なエネルギーに包まれた。

その力が生命と融合したその瞬間。
エネルギーの爆散する音が響き渡る。

純粋なまでの黒いボディと禍々しさを感じさせる深い蒼の翼。

「メガリザードンXか……」

キーシュはそれを見てニヤリと微笑む。

「ここまでされたんだ……俺様も応えなければ無礼ってものだろう?」

そう言ってキーシュは両腕を広げる。
しかし、その手には紙片以外何も見当たらない。
モンスターボールがそこには無かった。

「見せてやろうか?この、高貴で逞しいこの俺様と……いつしか落ちぶれて只の雑魚に成り果てた……貴様との差をなぁ?」

「……!?」

空気が震えている。
しかし、風は今は止んでいる。

空間が、キーシュの周囲の空間が丸ごと震えていたのだ。

「俺様は今!!新たな力を手に入れたっ!だからこそこうして行動しているのさ!?貴様なぞ相手にならんその意味を……しっかりと脳に刻め!!」

震えた空間から突如、漆黒の大きな穴が空いた。
そしてそこから、大きな影が蠢き出す。

高野は一瞬、見てしまった。

その、"あまりにも見慣れた、妙なまでに刺々しく禍々しい翼"の一部を。

「なっ、まさか……お前!?」

「さぁ神よ!!この俺様に力を与えし神よ!!もう一度躍り出て……目の前のちっぽけな塵を払ってしまえ!!!」

その場にいた、ポケモンへの造詣が深い者たち……即ち、高野洋平、ミナミ、レイジは戦慄した。

確かにキーシュは呼び出したのだ。

裏の世界に棲むと云われ、封印されし抹消された神と呼ばれしポケモン。

ギラティナを。

ーーー

「みんな!早く!僕に呼ばれた者は素早く準備して!!」

組織、赤い龍の基地と化した団地ではそろそろ日が沈む時刻に差し掛かっても大騒ぎであった。

「リーダーから連絡が来てもう6時間になろうとしている!!早く、準備を済ませないと……」

ハヤテは焦っていた。
高野洋平直々に増援の連絡が来てしまったからだ。
部屋中が走り回る音と何か物を落としたような音が響き渡る。

「どうしよう……どうやって外国まで行けばいいんだ……」

「落ち着け!とりあえずまずは人数と荷物の確認だろ!?」

頭を抱えてウロウロしているハヤテを見かねてケンゾウがそう言って平静を促す。

「そ、そうだね……。とりあえずリーダーのように犯罪に走るのはよくない!……と言うか予定人数が100人だろ?そんな大人数で世界を誤魔化すのは不可能だと思うんだ……。かと言ってこちらで飛行機を準備するのも遅すぎる!と言うか出来ないっ!」

「ど、どうするんだ?そんな状態で」

財布とスマホとボールを改めて確認したケンゾウが1つのアイディアを出さず、すべてを投げる。
しかし、ハヤテはその点を気にする素振りを見せない。そんな事など頭に入らないのだろう。

暫く唸りながら考えて、

「他の一般客と紛れよう。これから行く人はパスポートを持っている人のみ!……これだけで100人から一気に人数は下がるだろうけど……仕方ない!リーダーもそこは承知のはず。時間と手間はどうしても掛かるよ。でも仕方ない」

「でも、そんなハヤテきゅんはパスポート持ってんの?」

「持ってないよ!だから持っているけどあまり実力の無い人から借りるしかない。あとは乗り切るから!」

「えぇー……」

準備が出来次第、それぞれ勝手に空港に向かえという指示のもと、既に何台かの車が走り始めた。

窓から確認しただけでも4台は出ている。

「よし!」

準備と連絡を済ませたハヤテが部屋から外へ出る。

「行こう。少しでも早く、リーダーの元へ行くんだ!」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.462 )
日時: 2020/02/23 21:21
名前: ガオケレナ (ID: ejGyAO8t)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ギラティナ。
4.5mあるその巨体を、高野は思わず息を飲んで見上げた。

無理に創られたとはいえ、ディアルガやパルキアに似た"なにか"や、"おそれ"を感じつつも、ギラティナの放つ"おそれ"は明らかに"恐れ"であった。

「ど、どうして……?」

何故キーシュが。
よりによってギラティナと共に在るのか。

何故ギラティナが。
よりによってキーシュを選んだのか。

「分からねぇな……何故お前がギラティナというチョイスなのかを。もしかして自分とギラティナを重ねたとかか?だとしたら相当気持ち悪……」

「黙れ、殺すぞ」

キーシュの静かな言葉と共にギラティナが翼を振るう。
大きく、広いそれはひとりの人間にとっては凶器へと変わる。

猛烈な風が生まれた。
強い横からの衝撃に、高野は、リザードンは意図せずに砂に着けた足を離してしまう。

「ジェノサイドさんっ!!」

2回か3回砂利の上を転がった高野であったが、その目に、心に乱れは無かった。

無言で起き上がっても尚強い眼差しを向ける。

「?……貴様、まさか怖くないのか?」

キーシュはそれまで見てきた反応とは違う事に早速気付く。
このポケモンを前にして、逃げ出さなかったのはこの男が初めてだったからだ。

「このポケモンが……。神が、恐ろしくないのか?」

しかし、高野にも思うところはある。
それは、自身に対する強い自信へと変わった。

「怖いか、だと?ハハッ、怖いわけねぇだろ!俺は……この俺は……神と呼ばれしポケモンを2体相手取った男だぞ?今更1体だけ出されたところで怖気付くわけがねぇだろ!」

口だけなのは分かっていた。
例え自身がそうでなくとも、ギラティナに対する有効な手立てが無い。
手元にオラシオンは無い。

そもそもギラティナにオラシオンを聴かせたところで何が変わると言うのだろうか。

「2体の神……なるほどなぁ……。あの騒ぎ、その渦中に居たのはやはり貴様か」

「……知っているのか?」

「知っているに決まっているだろう?あの騒動があったからこそ、今の俺様が……この神が舞い降りてくれたんだからなぁ?」

高野は聖蹟桜ヶ丘の大会会場でキーシュを見たことはなかった。あれだけ派手な髪と格好をしていればすぐに分かるのだが、期間中に見ていないということはイベントそのものに参加していなかったのだろう。

「どういう事だ?」

「……なぁ?俺様は言ったはずなんだがなぁ?貴様に構っている暇は無いと。それともどうする?ここで死んでみるか?お前が幾ら丈夫な人間であっても……爆弾が目の前で炸裂されりゃ無意味だろ?」

キーシュが呟いた直後。

「逃げろおおおぉぉぉーーーー!!」

イクナートンが突然叫び出した。
言いながら、少しでも距離を取ろうと離れるようにして。

戸惑っている高野だったが、確かに変化があるようであった。
ギラティナが唸る中、その体を小さな粒がキラキラと輝いている。
なにかを操っているのだろうか。

しかし、ただ事では無いことだけは理解した高野もイクナートンに続いて走ろうとする。

そこを、

キーシュとギラティナを中心に白い蒸気が立ち上ると爆発、霧散する。

大きなエネルギーのバーストに忽ちのどかな中継地はパニックに包まれる。
叫び声とどよめきと爆発音で耳が使い物にならない。
逃げ回る人々の隙間に、イクナートンがチラリと見える。

「大丈夫か!お前ら!?」

彼の不安とは裏腹に高野もミナミ、レイジも無事だった。
発生したのは爆発に見せかけた陽動だったようで、はじめに発生した砂嵐以外にその体を痛めつけたものは何も無かったからだ。

とりあえず混乱に巻き込まれないために車の停めてある方へ走る。
高野がまず乗り込むと続けてレイジとミナミが乗り、最後にドライバーとイクナートンが必死な形相で飛び込んだ。

「おい、大丈夫か?……全く、余計な事をしてくれたな?」

「余計なことだと?身内の命が絡んでいるのにか?」

「あそこに居ない事なんてすぐに分かるだろうが!何故お前は分析しながら戦わなかった!?そのせいで奴が何をしていたのか、何処へ逃げたのかまともに知る事さえ出来なかったんだぞ!?」

見ると、キーシュとギラティナの姿は消えていた。
白い蒸気で目くらましをした瞬間にギラティナの力で空間転移したのだろう。

「……だがもう過ぎた事だ。急いで空軍基地に向かい、合流するぞ」

「……」

高野はしばし考えた。
キーシュの興味が自分ではなく、別の事に注がれていた事がどうしても気になったからだ。

(キーシュの目的が……何なんだ?それが分からねぇ……)

自分が下手に動けば山背と石井の命に関わる可能性も否定出来ない。
もう少し話をすればよかったのか、無理をしてでも戦い続ければよかったのか、最善策が見えなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.463 )
日時: 2020/03/01 14:27
名前: ガオケレナ (ID: At2gp0lK)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


息が苦しい。
喉を絞められている感覚を覚えて高野洋平は目を覚ました。
そこで、気が付いた。

自分は移動用のジープに乗っていたこと、ミナミもレイジも寝ていること、自分が疲れのあまり寝てしまい、深い眠りに陥ってしまったせいで無呼吸になってしまったこと。
ジリジリする喉の痛みの感覚を覚えながら高野は深く座っていた体を起こす。

「起きたようだな」

前の助手席に座るイクナートンの声だ。

「よほどさっきの騒ぎに疲れたようだな。3時間ぐっすり寝た気分はどうだ?楽しい夢でも見れたかい?」

「楽しい……もんかよ……」

高野が起きれた理由はもう1つあった。
見ていた夢だ。

「さっきのキーシュのポケモンを見たせいで……最悪な気分だ」

「ギラティナ、か」

夢と言うのは、その人の寝る前の精神状態に強く左右される。
強い願望だったり、ストレスだったり、それが頭の片隅にあるだけでそれらに関連する夢を見れてしまう。
例えば、今欲しい物や食べたい物の場合もあるし、何かから逃げる夢は避け難い困難がある時など。

今彼が見た夢も、寝る前の状況が反映されていた。

「キーシュが……ギラティナか」

「お前のさっきからの反応を見る限り……知っているようだな?」

「何をだ」

「奴が何故ギラティナを扱えているのかを」

高野はギクリとしつつ黙った。
素直に認めずにいる自分がいるのを分かっていたからだ。
それに、この男の言う通りにするのが個人的に負けた気がする。

高野はそれまで見ていた夢を、嘗ての記憶を思い出す。

それは、3年前に遡る。

ーーー

2012年、夏の終わり。

まだ高校3年前の高野洋平は、自身が犯した罪に苦しみながら組織ジェノサイドとしての活動を、高校生としての生活を行っていた。

『……あれ?リーダー。今日は登校日のはずでは?』

『行きたいとも思わねェ』

8月も残すところ3日か2日と経った頃、高野は組織の仲間のハヤテにそう問われた。

夏休み中の登校日。
連絡事項だとか、課題の提出などそれなりに用事のある日なのだが、彼の精神状態が"それ"なのでとても行く気分にはなれなかった。

と、言うかそもそも他人であるハヤテが自分のスケジュールを知っている事にも気持ち悪さに似た感情を覚えて仕方がない。
何故、知っているのだろうか。

『お前さん、今日は何処かへ出掛けるのかね?』

広間にて、朝食を食べ終えたバルバロッサが彼に声をかける。
この時はまだ、彼が仲間だった頃だ。

『別に、何も用なんてねぇよ』

『……そろそろ向き合うべきではないのかね?』

『?』

『いつまでも過去に拘っては何も変わらないさ。それよりもこれからだ。お前さんは……何がしたい?何をするか?変えられない過去を思い続けているだけでは何も……変わらないぞ?』

重みのある声だった。

高野にとって唯一、例の事件について泣きついた人でもあった彼は、彼だけがそれについて勘づいたのでアドバイスのつもりだった。

しかし、高野は彼に対しては何も言わずに広間を、基地を飛び出して行く。

時間はとうに過ぎている。ちょっとの遅刻の範囲を超えた時間だったが、それでも行かないよりはマシだ。

ケンホロウを呼び出すと'そらをとぶ'で広い空を駆け回った。

ーーー

『けーっきょくこのザマじゃねぇか……』

高野は心底ウンザリした。
教室に入り、教師にやんわりと注意されたものの、席に着いてまず友達が来ていない事に気が付く。
むしろ、クラスの半数近くの席が空いていた。

『ほとんど来てねぇじゃん……来なきゃよかった……』

『何を言ってるんだ。2時間近く遅刻したお前は中途半端に真面目、という事じゃないか』

教卓の前に立っている教師に珍しく冗談を言われる。
それに釣られて何人かのクラスメイトが笑った。

『ところで高野、お前榎と松井はどうした?いつも一緒だろう?』

えのき帯刀たてわき松井まつい紅華こうか

高野の数少ない高校の友人にして、同じ組織に属する仲間。
高校1年の頃に出会わなければ、少なくとも2人が深部の人間として生きることはなかっただろう。

教師は、そんな簡素なイメージを浮かべるも高野から帰ってきた返事は『知らねぇ』だった。

2人は基地で生活していない。
それぞれ家族も居れば、お互い恋人関係だからだ。
だからと言って高野も強要はしない。
それぞれが好きなようにすればいいというのがこの時から抱いていた持論なのだ。

ーーー

すべて終わった。
高野は、校門に向かって歩きながら、何枚か受け取ったプリントの束を肩から提げた鞄にしまい込む。
そろそろ境界に差し掛かる。

『探したぜ?……お前が、ジェノサイドだな?』

真隣から乾いた男の声がする。
しかし、高野はまるで何も起きていないかの如く無視して通り過ぎた。

『オイオイ釣れねぇなぁー……。お前がジェノサイドなの分かってんだっての』

白衣を来た茶髪の男。
高野と比べて3,4歳年上だろうか。
そんな男はわざとだと分かるようなため息を吐いたあと、右手にスナップを掛けたように何かを投げるように振るう。

その直後、女子の叫び声が上がった。

高野は思わず足を止める。
声の上がった先はテニスコート。
夏期登校が終わった今、そこに居るという事は部活の練習か何かだろう。

『あらあらぁー。お前が無反応のせいで何の関係もない子が傷付いちゃったぞー?』

高野は駆けた。
すぐさまテニスコートに入る。
そこには、

キリキザンに刺された、バドミントン部に所属していた女子が2名ほど血を撒き散らせて倒れていたのだ。

『お前……何を……?』

『最初から大人しく会話していればよかったのになぁー?お前が可愛くないからちょっと悪戯したくなって……』

最後まで言わせない。
高野は無言でゾロアークを放ち、その鋭利な爪で引き裂くよう念じる。

ゾロアークは高野の考えている事が分かっている。
性格が驚く程に"同じ"だからだ。

だから、一々口に出して命令せずとも動く事が出来る。
敵からすれば情報のない中ポケモンが自分に迫る。
つまり、不意打ちに近い。

『おおっ?』

しかし、その中にキリキザンが割って入り、ゾロアークの攻撃を受け止める。

『珍しいな。命令無しに動けるのか』

『テメェは……誰だ』

『まずはこっちの質問に答えようぜーぃ。お前はジェノ……』

『いいからテメェは誰だって聞いてんだよクソ野郎!』

ゾロアークは'かえんほうしゃ'を吐く。
効果抜群であってもキリキザンはその一撃だけでは倒れない。
しかし、目の前の壁を除ける事は出来る。

敵が無防備になる。

ゾロアークは再び爪を尖らせる。

『いいぜ。自己紹介してやろう……。俺の名は横谷よこや絶影ぜつえい。Aランク"白隠はくいん"のボスだ』

その宣言と共に彼の背後から黒い龍が起き上がるようにして現れた。

ーーー

「急に昔話をされてもな」

「そういう気分なんだ。少し話をさせろ。聴いてなくていいから」

幾ら進んでも景色は変わらない。
岩と砂の山しかないつまらない外を時折眺めながら高野は見ていた夢の話を続ける。

いつの間にか、レイジが起きていた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.464 )
日時: 2020/03/03 17:07
名前: ガオケレナ (ID: 1UTcnBcC)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


昔話は続く。
レイジは、ミナミの肩をつんつんと叩いて起こそうとしていたが、そちらに高野の意識は向かなかった。

ーーー

今自分は有り得ないものを見ている。気がする。
思考停止した使い物にならない頭がそれだけのシグナルを鳴らすとそこから考えることをやめてしまう。

『な、なん……で……だ?』

『んんーー?きっこえねぇぞぉ?ジェノサイドぉ……。俺のポケモンがそんなに珍しいか?』

横谷の背中から浮き出ているかのようだった。
だが、それは徐々に実体を伴っていく。

『俺のポケモンが……俺の力が……凄いと思わないか?』

『凄いなんてモンじゃねぇ……。テメェは一体、何処で何をしやがった!!』

それは、この世であってはならない光景。
起きてはいけない場面。
そして、存在してはいけないポケモン。

この世界において、その力を振り回すのはおろか、呼び出す事の一切が出来ない……誰をもってしても不可能と言われている伝説のポケモンの実体化。

黒き龍……ゼクロムの嘘偽りのない姿がそこにあったのだ。

『さぁゼクロムぅぅ……。目の前のガキ諸共殲滅だ』

ーーー

「存在も行使も不可能、ね。じゃあ何でソイツは扱えていたんだろうな?」

「それは後々話す。ってかお前、見たところポケモンはやっていなさそうだが……どれが伝説のポケモンとか分かるのか?」

ジープに揺られながらイクナートンと高野の互いに多少の悪意を込めた合戦は続く。
イクナートンは少し考えながら、

「確かに俺はポケモンは子供の時以来遊んでいないな。だから今のポケモンはサッパリ分からないしそのゼクロムとやらも分かるわけがない。だが、ギラティナとキーシュは別だ」

「別?何でだ」

「こちらで独自にこれまで捜査していたからだ。奴がアラビアに居る事も、不可思議な力を操っていることも、その力がポケモンであり、世界でありふれた分類のものではないこと……とにかく調べ尽くして最後に行き着いたのが"ギラティナと思しきポケモンを使っているであろう"って事だ」

「そこまで出来たんなら俺らの力は必要無かったんじゃねーの!?」

「いいから続けろ。ま、お前が今此処に居るという事はゼクロムに殺されるなんて事は無かったんだろうが」

イクナートンに無理矢理抑えられた挙句、続きを催促された。
高野は仕方なしに、不満げにそれを紡いでいく。

ーーー

初めてだった。
この世界には、ポケモンの中にはそれほどまでの力を誇るポケモンが居た事に衝撃が走った。

ゼクロムの周囲に青い電撃が発生すると四方八方に飛散、辺りを歩いていた生徒たちを次々に昏倒させる。

『やめろ、テメェ……何が目的だ!?』

『お前だけは特別だ。直接ゼクロムの技をブチ当ててその身体を粉微塵にさせてやろう……。''クロスサンダー'っっ!!』

直後にゼクロムの体は雷光に包まれる。
宙に浮くとそのまま斜め下に落下するようにして高野へと迫る。
一直線へと落下し。

接触の瞬間。

ズン、という重々しい音が横谷の耳に響いた。
これでジェノサイドは死んだ。
その体をバラバラにしたうえで。惨たらしい最期で。

だが、彼の元へ飛んできたのは高野の体の一部ではなかった。

"ゼクロムそのものが、巨大な砲弾となって跳ね返ってきた"のだ。

『なん……だと……?』

油断を取られた横谷は間に合わず、首を僅かに傾ける事しか出来ない。
その空間を含めて、真横をゼクロムがすっ飛んでいく。

その体は校舎に激突した。
途轍もない轟音と埃と破片を散らせ、一先ずの脅威を払い除ける。

『お前……何を……?』

『効くみてぇだな?伝説のポケモンにも'カウンター'は……』

ゼクロムの技は物理寄りである。
ならば気にせずにゾロアークを放てる。
その莫大なエネルギーを前に、押し潰される不安もあったが、それは問題無かったようだ。

いける。
ゼクロムが相手でも勝てる。

真っ暗闇の中から見出した小さな光の筋を見つけたかの如く活路が見えてくる。

『おい!!お前ら!何やってんだ!!』

異変と騒ぎを聞きつけて2人の元へ高野にとっても見知った男性教師が出てきた。
騒動を止めようとやって来たのだろうが、あまりにも無謀にもみえる。
だが、高野にとっては効果は抜群だった。

(な……何でよりによって今なんだよ!?)

破裂でもするんじゃないかと思わせる鼓動を心臓が発している。
暑いせいか汗も止まらない。

高野洋平という男は、一定の知人以外にジェノサイドという裏の顔を知られていなかったのだ。
つまり、ここで騒ぎを起こしているのがバレたら1発で退学決定だ。

高野の選んだ道はひとつ。

ケンホロウに乗ってその場から逃げる事のみだった。

空へと羽ばたいた瞬間、教師の絶叫が響いた。

ーーー

「……死んだのか?そいつは」

「その場にいた俺以外の生徒も、止めに入った教師も皆死んだ。地元のニュースにも取り上げられたしその日に家……と言うか基地に連絡来たし学校の始まった9月早々に全校集会があったよ。……本当に大変な騒ぎだった」

「それで?お前はこの話を通して何が言いたかったんだ?夢の話か?」

「確かにこれは俺がさっき見た夢の内容でもあるし実際に見てきた記憶でもある。……その後はお察しの通りだ。横谷を倒して今の俺がいる」

イクナートンはそっちじゃない、と唸る。
知りたいのはそれだけではなかったからだ。

「お前は伝説のポケモンに遭遇した。それに今回の件と関係あるのか?」

「大ありだ。俺はこの件をきっかけに目覚めたんだからな……。"それ"に気付いたのは大山でバルバロッサと戦った時……かな」

これまで誰にも話して来なかったが、高野洋平はその時気が付いてしまったのだ。

それは去年の9月バルバロッサの操る3体の伝説のポケモンと対峙した時。

"あらゆる手を持ってしても使えないはずの伝説のポケモンが手持ちに反映されていた"ことに。

それがすぐにゲームの進行の都合で手持ちに入れていたポケモンだと思い出し、それが現実世界に反映されたものだと分かったが、高野は恐ろしくなりすぐにスマホアプリのポケモンボックスを起動して手持ちを入れ替えた。

「伝説のポケモンと戦った人間は例外なく種類を問わず伝説のポケモンを使えるようになる……。実戦に使ったのはその後。ゼロットとの……戦いの時だ」

高野洋平は仲間を人質に取られた焦りからか、手持ちにラティアスを入れて戦いに臨んだ。

つまり。

「俺が……。俺が今回の騒動を引き起こしたってことかよ!?」

あの時。
取り返しのつかないミスを犯していた。

もしもあの戦いでラティアスを使うことが無ければ、きっとキーシュがギラティナを使う未来が来なかったはずなのだから。

それを考えると、責任を追うという意味で彼が出向いた意義はあるのかもしれない。


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