二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.490 )
- 日時: 2020/05/15 17:57
- 名前: ガオケレナ (ID: lEZDMB7y)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
4人はすぐに行動を始めた。
しかし、言葉通りすぐに国境を越えてシリアに向かった訳ではなかった。
『お前は一体何を考えているんだ……』
ため息をつきながらバラバは2人を見つめた。
その相手とは当然、キーシュとラケルである。
3人は今、少し広々とした立派な家にいた。
と、言うのもこれは誰の持ち主のものでもない。
バラバが暫くレバノンで滞在するために、金持ちから借りた建物だったのだ。
しかも、此処は持ち主曰く別荘とのことだ。
『だから言ったじゃねぇか。これからアレッポへ向かうと』
『見知らぬ少女を連れ回してか?なんて言い訳するつもりだよ?』
バラバはウンザリしているようだった。
その表情からも、声色からも感じ取れるほどに。
『別に。そん時はそん時だ』
『お前なぁ……』
バラバはキーシュの動かす手を眺める。
バスタオルを手に、ラケルを包むかの如く彼女の髪をわしゃわしゃと掻き乱すように拭いている。
土気色をしたその顔は既に血の巡った真っ白な顔色へと様変わりしていた。
彼女にとっても久々のお風呂だったのだろうか。
気分も良さげでとても喜ばしい笑みを振り撒いている。
『……大体よぉ、お前さっきメナヘムに話したアレ。何なんだよ?アード人の末裔って……』
『まぁ、な。本当はあまり話したくはなかったが……俺はどうやら古代アラブ民族、アードの民の子孫らしい』
『"らしい"って……。本当のところは分からないんだよな?』
『当たり前だ。小さい頃、顔も覚えていない母親にしつこく言われてただけだからな。その母親が日本人なのかそうでないのか……それすらも分からなかったがな』
さてと、と言いながらキーシュは言うとタオルを動かす手を止めて立ち上がる。
反射的にラケルも不思議そうに見上げた。
『俺にはよく分からねぇ……。本当に自分がアードの民なのか。仮に嘘ならば何故アードの民という単語を使ったのか。その為に専門家の話も聞きたかったんだ』
『俺にはその子を連れ出す名目にしか聞こえねーけどな』
バラバも背を向けた。
彼も彼で買い出しに行く途中だったのを思い出したからだ。
『頼むから変な事だけはするなよな。此処は暫くの間俺の名前で借りている家なんだからな?』
『する訳ねーだろアホか』
パタンと言う音を最後に、部屋は静まりかえった。
キーシュはタオルを片付けた後、ポケモンの育成の為にゲームの起動を始めた。
ゼロットという組織は死んだかどうかも怪しいところではあるが、戦力は多く持っておいて損は無い。
やれる時にやれる事をやるのみだ。
暫く3DSをいじっていると、部屋から完全に音が消える。
気になったキーシュは向かいのソファに目だけを動かして確認した。
広いリビングには自身が座っている1人がけの椅子と、人ひとりが寝るには十分なソファが備え付けられている。
そこに、ラケルは寝ていた。
『ったく……少し歩けば寝室だろーが……』
リビングの端には溝がある。
引き戸の仕切りのためのそれだ。
その先には2人ほどであればギリギリ寝そべる事が出来る大きめのベッドがあった。
これも持ち主のものなのだろうか。その辺はバラバしか知らない。
しかし、余計な事は考えずにキーシュはラケルを抱きかかえるとベッドまで運び、起こさないようにゆっくりと降ろした。
シーツの肌触りがとても柔らかい。どうやら絹で出来ているようだ。
布にくるまった彼女は穏やかな寝息を立てながら相も変わらず寝続ける。
妙に目に付いたキーシュはその隣で肘を立て、その手で自身の頭を支えた横向きな、まるで側臥位のような姿勢で横になりながら眺めた。
こうして見ると外国の子とはいえ、普通な、平和な世界で生きる可愛らしい子供そのものだ。
見た目的に11歳から13歳くらいのように見える。
本来であれば学校に通い、生きるのに必要な事や自分の好きな事を学び、友達や家族と同じ刻を過ごし、巡り会えたのならば、好きな異性の人と淡い青春を過ごす。
そんな事が出来たのだろう。
しかし、彼女は難民である。
その事実を再認識した時、キーシュの中にもある種の感情が渦巻いてきたのを感じる。
幸せそうな寝顔を見つめていた時、家の扉の鍵を開けようとする音がしたのでキーシュは慌てて飛び起きた。
『やぁ。遅くなってすまないね』
声の主はメナヘムだった。
数冊の書物を持って此処に来た次第のようだ。
『君の話を聞く内に調べ物が増えてしまってね。先程解散してから時間が経ってしまった。すまない』
『いや、こちらこそ。助かる』
『ところで、連れて来た女の子は?』
メナヘムはさほど重要でない事柄を思い出したかのような顔をしてそんなことを尋ねる。
キーシュは無言で寝室の方向を指した。
『君は自身をアードの子孫だと言っていたが……正直情報が足らなすぎる。だから証明のしようがないね』
『俺の出自についての話か?』
『いや、両方だ。君の家系の話とアードそのものについての記録。この2つの大部分が欠けているせいで上手く調べる事が出来ない。そこで、別のアプローチを見出そうと思ってね』
そう言ってメナヘムはコーランを取り出してはその場でページを捲り始めた。
『その昔、アードの同胞はアード族に対し警告を放ったらしい。その警告を無視したアード族は暴風によって一夜にして滅んだ』
『……それは史実じゃないだろ?開いている書物は何なんだ』
『まぁ待て。アードについて調べるとまず此処に突き当たる。そこでだ。この、警告を放ったアードの同胞とやらについて調べてみよう。彼には名前がある。その名も、預言者フードだ』
『預言者フードだと?それもコーラン限定の話か?』
『どちらかと言うと旧約聖書の登場人物エベルだな。だが、確定ではないにせよ、どうやらこのフードらしき人物が書き残した書物が存在しているらしいのさ』
『その書物は?お前が持っているものか?』
『いいや、古すぎて持っていないな。だが、ここで可能性が生まれるだろう?預言者フードを追うことで君の"それ"が真実に近付くのかもしれない』
アードの民そのものを追うのではなく、近しい人物から探りを入れる。
尚更気が遠くなるが、面白い試みではあった。
『どうやらこれから我々はアレッポに行くらしいな?』
『あぁ。コイツを……家族を会わせる為にな』
『ならば早く行くに越したことはないな。早い内に行かないと。今向こうは不謹慎な話、美術館や博物館も狙われる可能性があってな。奴らに貴重な資料が奪われる前に手に入れないといけない』
シリアに、しかもアレッポにあるとは限らないが。と最後にメナヘムは付け加える。
だとしてもキーシュにとっても無関係ではない。
その決断に、迷いは無かった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.491 )
- 日時: 2020/05/23 16:48
- 名前: ガオケレナ (ID: QXFjKdBF)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
日本の暦では3月を越えた頃であるようだ。
その証拠に、彼の持つスマホの日付は現地のイスラム教徒が使う暦と大分違う。
4人は現地人などの伝手を使って国境を越える事が出来た。
シリアの首都、ダマスカス。
そこに彼らは居た。
『この国で1番発展している地域とはいえ、油断はするなよ。いつ空爆が起きてもおかしくないからな?』
『とはいえ、政府が支配できている地域だからな』
メナヘムが語り、バラバが言い終えた直後。
遠くから砲声が響いた。
明らかに着弾した音だった。
『……なぁ、俺たちは呑気に出歩いている場合じゃないだろうよ?』
『分かっている。とにかく今は身を隠せる場所を探す』
出歩いている人はほとんど居なかった。
居たとしても物資を運んでいる救援隊か、銃を持ってうろついている物騒な兵士、そして怪我人を運ぶ現地民だ。
街はまだ全体的には綺麗ではあるが、それでも崩れた建物や瓦礫やガラス、石礫が散乱しており不穏な空気はどうしても隠し切れていない。
現に近郊地区は破壊尽くされている。
先程の爆発音もそちらに向かって放たれたものだろう。
『お前たち!!何をやっているんだ!さっさと避難しろ!!』
救護にあたっている現地人が現地の言語で怒鳴る。
このような状況では必ず言われる文言だ。
『な、なぁ。この近くで大きな図書館とかあるか?』
しかし、キーシュは危険というものを顧みず、さらりとそんなことを言ってのけてしまう。
そんな彼の言動に仲間2人はポカンと口を開けて固まるのは無理もないことだった。
『お、お前さ……何を言っているのか分かっているのか?』
『勉強熱心なのは分かるが、状況見ようぜ?』
ダマスカス市内の瓦礫を見つめたバラバとメナヘムは命の危機を悟り、救護に走る住民と同じ意見を放つ。
唯一キーシュと手を繋いでいるラケルが彼らの顔を見ようとじーっと見上げていた。
『まさかここまでとはな……』
メナヘムが歯軋りをする。
『去年あたりから戦闘が激しくなったとは聞いていたが……それでも此処は安全だと思っていた。その点に関してはキーシュ。君とは同じような考えを持っていたと思う』
名前を呼ばれたキーシュは若干足を弛めながら彼の方を向く。
よそ見をしてしまうのは、それまで平和な世界で生きていた名残のせいだろうか。
『だが駄目だ。此処では……この国での調査は出来ない』
『俺もそう思ったんだがなぁ……。第一、アードとシリアに何の関係があるんだよ?』
2人の意見に、初歩的な知識しか持ち合わせていないキーシュは唸りはするも黙ってしまう。
そもそもな話、バラバとメナヘムに関してはアードの民とは何の関係も無い。
つまり、命を張ってでも探る必要性もメリットも何も無いのだ。
『分かった。今日は避難所に潜り込む。それでいいだろ?』
バラバは、そうじゃないと言いたくなるような気持ちを抑えて足を速めた。
本音を言えないのには理由があった。
手を引っ張られたラケルがあまりにも、無垢な表情をしていたからだ。
ーーー
それから3ヶ月が経った。
彼らは自分の身を守る為に身を隠す場所を何度も変えながら無事で居続けた。
と、言うのも、度重なる轟音に徐々に恐怖を覚えたからだ。
ある時は多数の現地民と共に過ごす避難所へ、またある時は病院に、更には人気の無い廃屋、体制派の武装集団の潜伏先、逆に反体制派の基地など、状況を見ながら徐々にアレッポに向かって北進して行った。
すぐ隣の建物に爆弾が落ちた事もあった。
病院に避難していた時は別の病院が反体制派によって爆撃されたとの報せを受けた事もあった。
武装集団の世話になった時にはポケモンが重宝された事もあった。
その過程で仲間になると名乗り出た人にも出会った。
そのようにして様々な世界を、色を、地獄を見てきた"ゼロット"の面々は。
『なんだこれは……』
『見ない方がいい』
更なる地獄を、現実を突きつけられる。
武装組織の操るピックアップトラックに揺られながら、キーシュの問いに対して、既に仲間となった兵士の1人がただそれだけを言う。
路肩には長く伸びたシートが広げられている。
それも、一定の間隔を挟みながら。
何を包んでいるのか、そこに居る誰もが察していた。
『近くに……学校があったんだ。当然、体制派だとか反体制とかは関係無い』
『誰の仕業だ?』
『ダーイシュか、誤爆のどちらかだ』
『ダーイシュ……、だと?』
何もかもが消えて無くなった中を、列を為した複数の車が無情にも走り去ってゆく。
『ところで……キーシュと言ったか?』
兵士の装備をしている、テウダと名乗った青年が話題を変えようと彼の名を呼んだ。
『アンタ、不思議な力持ってんだな。ポケモン……だっけか?此処に来るまでに一体何をしてたんだい?』
『何をって言われてもな……』
キーシュははっきりと言えずにいる。
確かに自分はこれまでに血で血を洗う戦いを日本という一見平和な国で繰り広げてきた。
だが、それでも戦いと呼ぶには甘さや弱さ、優しが垣間見えていた世界に思えて仕方がない。
深部などという世界は、この国の惨状と比べてしまえば温くて優しい。
地獄と評するには奇妙なことに、居心地が良いとしか思えなくなってしまったのだ。
それを今になって言えるはずもない。
苦そうな顔で黙っているとテウダも察したようで、簡単に謝るとその会話は途切れた。
『アレッポはそろそろか?』
『あ、あぁ……。今日中には着くさ』
『そうか。ありがとな。正直助かったよ』
体制派の部隊の1人、ヒゼキヤと名乗る男性ドライバーが前方と空を注意深く見つつキーシュに対して答える。
バックミラー越しに彼が小さい女の子の頭を撫でる様子も確認出来た。
『その子は……娘か妹かい?』
『着いたら話すさ。行き先にも関係する事だからな』
先頭を走る車の窓から、新たな街の影が見えてきた。
アレッポは近い。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.492 )
- 日時: 2020/06/04 17:20
- 名前: ガオケレナ (ID: P0kgWRHd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
『なんだ……これは』
その光景に、思わず絶句した。
『これが、今のアレッポだ』
声を震わせたキーシュの隣から、ヒゼキヤが疲れ切ったような声で呟く。
そこに、最早文化の街は存在していなかった。
辺り一帯は破壊し尽くされ、瓦礫と廃墟の山へと様変わりしていた。
騒乱前のアレッポを知る者が見たら言葉を失い、悲しみに打ち拉ぐのは当然といえば当然だった。
『な、なぁ……ラケル。此処に本当にお前の家族がいるのか?』
『……うん。きっと、ここにいるよ……?』
これまでまともな会話を交わさなかったキーシュとラケルだったが、ある程度共に過したお陰でそれなりな言葉を交わすようにはなった。
キーシュはまず、きちんと言葉を話せる事に安堵したものだった。
『そうか……。じゃあ、探すしかねぇよな』
『キーシュ、ちょっといいか』
横からメナヘムが口を挟む。
『悪いが此処での調査は無理だ。ダマスカス以上に酷い有様だ……。この様子だと生き延びるのも難しそうだ』
『なんとかならないのか?脅威に対しては俺のポケモンで防げるだろ』
『そっちじゃない。"生き延びる"のが難しいんだ。見たところ飲み水すらまともに無さそうだ』
崩れた建物の脇で溜まった泥水を見つめる。
販売業者の存在も無ければ、救援物資も満足に行き渡っているとはとても言えなかった。
『クッソが……。じゃあどうしろって……』
『キーシュ、お前はパルミラへ行け。そこの考古学者を頼るんだ。アードとは必ずしも密接とは言えなさそうだが……それでも現状を考えたらマシだと思う』
『パルミラだと?ここからまた随分と離れるじゃないか?』
『だが、行かないよりはいい!今回の事は……此処での調査は止めてそこへ行くべきだ』
『じゃあコイツはどうすんだよ!!』
キーシュは少し怒鳴りなからラケルを指す。
普段見せない荒んだ勢いに、少し戸惑っている様子だ。
『それは……お前が勝手に……』
『コイツが可哀想だと思わないのか?他人の子だから放っておけってか?お前は救いの手を差し出そうって気にはならないのか?』
『だが……っ!自分の命を賭けてまでする事じゃねぇ!世界中には彼女のような子供は沢山いるんだ。彼女だけが特別扱いされる訳にはいかないんだよ』
『じゃあ見捨てろってかぁ?救われぬ存在だからここでおサラバするって事か。言ってる事がアサドと変わんねぇな』
『もうやめろ2人とも!何も今この場で話す事じゃねぇだろ!!』
耳を塞ぎたくなるようなやり取りに、とうとう我慢出来なくなったヒゼキヤが間に入って遮る。
『お前たち2人の言い分はよく分かる。だがお前らよく考えろ……。俺たちは、無力だ。だから、最低限のやれる事をやるしかない』
『無力だと分かっててお前は武器を手に取ったって事か?随分と半端なんだな』
『最初は俺自身が立ち上がるしかないと思っていたよ。だが……お前のポケモンの存在を見て、自分の実力がちっぽけに見えてしまって……』
皮肉にも、1人の戦士の気を削がせたのはキーシュ本人であった、という訳だ。
しかし、現実問題としてポケモンが居なければ今この場に生きていなかった場面は少なからずあった。
なので、キーシュはそれに対し申し訳なさそうな感情を抱く事はない。
そんな時だった。
『アム!アムハサン!!』
ラケルが突然叫んでは、通りを歩いていた男の元へ駆け寄った。
『なんだ?父親か?』
『いや、違う……。今彼女は"おじさん"と呼んだ……』
その男は、自分たちよりかは幾分か歳上に見えた。
本来であれば家庭を持っていてもおかしくない。見た目だけでの判断ではあるが。
キーシュはそれまでの口論がまるで無かったのかの如くピッタリと止めると、ゆっくりと2人の元へ近寄る。
2人は今、感動の再会のように強く抱きしめ合っていた。
『おい……お前ら、知り合いか』
口ひげを生やした愛想の良さそうな男性はその一言に肩を震わせる。
純白なトガに身を包んだというあまり見られない格好も相まって驚くのも無理はないのだろう。
『あ、あんたは……?』
『いいから質問に答えろ。お前はこの娘の何だ?親か?』
『待て、違う!……僕はそんなんじゃ、ただ……この娘の親戚みたいなものだ』
そう言っては少し考え、ハッとしたような表情を見せると、
『まさか……アンタなのか?ラケルをここまで連れて来たのは……。僕は風の噂で外国の難民キャンプに連れて行かれたと聞いていたが……』
『そうかそうか。ならば丁度いいな。少しお話をしようじゃないか?』
本名はハサン。
ゼロット所属後は自らを"アスロンゲス"と名乗った男との遭遇はこの日果たされたのだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.493 )
- 日時: 2020/06/08 19:01
- 名前: ガオケレナ (ID: 0vtjcWjJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
『この娘の父親には会えない。諦めてくれ』
アレッポにて出会ったハサンと名乗った男性からの一言は、親戚という彼の肩書きのせいで絶望するには十分すぎた。
キーシュのポケモンと共に遊ぶ彼らを横目に、彼は舌打ちを軽くする。
『……それは何故だ?まさかもうこの世には居ないとかか?』
『いや、実の所彼は生きている。だが、もう会えないんだ』
ハサンは少しばかり俯きながら答えた。
そんな雰囲気から、どうしてもラケルの父親が騒乱絡みで酷い目に遭っているというイメージが脳裏を過ぎった。
しかし、
『彼は……シモンは反政府組織の人間なんだ……。何処に居るのかも分からないし今も何処かで戦闘行為を行っている』
ハサンから語られた真実。
それは、たった1人の少女を実の父親に合わせることすらも実現できないという事実だった。
しかし、予想に反してキーシュの心は晴れた。
と、言うのも彼はラケルの父親が死亡、若しくはその間際に居るものだとばかり思っていたからだ。
『なんだ、その程度かよ?ならまだ会えんだろ?』
『な、何を言っているんだ君は!?シモンが何処に居るのかすら分からないんだ。彼は……彼らは組織丸ごとゲリラを展開してこの戦争を引っ掻き回している!彼に会うことすらも危険極まりないんだよ!?』
『俺は似たような危険な目とやらに、ここまで来るのに何度か遭ってみたが?』
言いながらハサンに対し、視線で何かを追わせる。
不思議そうにそれに応じたハサンが見たのは、彼の持つボーマンダだった。
『なぁお前……。"ポケモン"って知ってっか?』
そんなボーマンダは現地の子供たちや、これまでキーシュについて来た仲間たちとじゃれあっていた。
ーーー
『やぁキーシュ。元気そうだね?』
『ヒゼキヤか。お前こそ大丈夫か?飯は食えているんだろうな?』
アレッポに着いてから数週間。
キーシュらはこの地で半ば無理矢理に生活圏を確保していた。
彼のポケモンを利用して物資の輸送と入手を試みながら。
『そんな事気にするなよ。飯は仲間と子供に食わせてやりぁそれでいい』
『その通りだな』
相変わらず子供たちはキーシュのポケモンと共に遊んではいるが変わった景色がひとつ。
ポケモンが異様に増えた事だ。
と、言うのもキーシュはサブROMを含めた、ゲームカセットを複数所持している。
その理由は個人の厳選という目的もあるが、仲間たちに戦力を配布するという面も持ち合わせていたのだ。
『まさかコイツらにポケモンを与えて訓練するとはなぁ。これで俺たちも強くなれるな!』
『かと言ってコレだけでこの争いが終わるとは思えねぇけどな』
ヒゼキヤが動かす武装組織の面々が特に顕著だった。
彼らがこの中で一番ポケモンを駆使している。
『トラックを持っておきながら一番食料を運んでいるのがポケモンとはな……つくづく無力さを感じるよ』
『お前も運べや。街幾つか越えてけっての』
『その街を越えるのが如何に大変かって事なんだがなぁ……』
そんな会話をしている間に、格闘タイプを主としたポケモンの集団が大きな荷物を抱えながら街へと入ってくる。
中には生活に必要な物品が含まれていた。
『なぁ、ところでお前はこれからどうするんだ?話ではアレッポに着いたら俺らとはお別れだって……』
『その約束だったが忘れてくれ。俺は暫く此処に留まるしお前たちにポケモンを貸し与える。その方がお前らもやり易いだろ』
ヒゼキヤとその連中は戦力を手にした事でかなり大雑把に言うとアレッポを支配下に置いたことになる。
彼等がどう思っているかはキーシュには分からないし理解もしないつもりだが、この領域がISに奪われていないだけでもまだマシに思えたのだ。
『だが、お前は?此処に来る目的があったんだろう?その目的ってのは俺たちに訓練をさせるつもりかい?』
『それは付加価値のつもりだったんだがなぁ。ハサンからの新しい情報も無いしそれまでは此処で佇んでいる事しか』
『ところで、お前とあの女の子の関係って何なんだい?兄妹?』
『何の関係もない。たまたまレバノンの難民キャンプで出会っただけだ。ソイツがアレッポ出身だって言うから連れて来た。それだけだ』
キーシュはありのままの事実を伝えた。
つもりだったが、それを聞くとヒゼキヤは低く笑う。
『それは……彼女をそこに留まらせた方が安全だったのでは?』
『そう思ったが……いつまでも帰ってこない親を知らない土地で待つのと、知ってる街で親を探すのとどっちが良いかって話だろ』
『どっちもかなり危ないと思うが……』
ヒゼキヤは引き気味になりつつ恐れた。
見ず知らずの子供の為に勝手気ままにこんな事をしでかす彼そのものに。
同時に惹かれてもいた。
その気の強さは何処から沸くのかと。
『悪いなキーシュ。待たせた』
そして彼がこの日不用心さながらに外を歩いていたのには理由があった。
彼の仲間がまた1人、街へと入って来る。
『こちらこそ悪かったな。大した護衛も無しに御遣い頼んじまってよ』
今日はパルミラへと赴いたメナヘムが帰ってくる日でもあったのだ。
『大きな情報を持ち帰ってくる事は出来なかったが……とりあえず知り得たものをお前に伝えようと思う』
『頼むわ。是非聞かせてくれ』
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.494 )
- 日時: 2020/06/08 19:44
- 名前: ガオケレナ (ID: 0vtjcWjJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
『アードの民だと?私は忙しいんだ。帰ってくれ』
『私の仲間が必死に自身のルーツを探っているんだ!それも、命を懸けてだ。そのヒントが知りたい。その為ならば私はあなたの活動の手助けをするよ』
キーシュたち一行がアレッポに着いてすぐの事。
メナヘムが取った行動は単身パルミラに飛んでアードに関する情報を手に入れようとしていた。
話に聞いた通り、その遺跡には現地の考古学者が石像の移送を行っている。
『今の情勢を理解しているんだろうね?いつこのパルミラがダーイシュに狙われてもおかしくないんだ。私はそれこそ命を懸けているんだがな』
ーーー
『今のパルミラはまだ……大丈夫なのか?』
『正直かなり危険だ。すぐそこにISの連中が迫っている。流石に命の危機を感じた日々だったさ』
『それで……その頑固な考古学者から何を得たんだ?』
『これを』
メナヘムは端末の画面から、ひとつの写真をキーシュに見せる。
そこに写るのはショーケースに入った古い書物のようだった。
『説得と手伝いを続けたお陰で教えてもらった……。どうやら、預言者フードの生きた同時代に彼が書き上げた書物があるみたいなんだ。その名も"預言者の回顧録"』
『フードが書いた……本だと?』
その話に、キーシュの興味は大いに膨らんだ。
アードの同胞が書き上げた、それもこれまでの彼の見聞きしてきた人生をまとめた本。
どう考えてもアードに関する書物以外の何物でもない。
『それは……何処にあるんだ?』
『それが問題なんだ……。実は現存していない』
メナヘムの言葉に、キーシュは「よくもここまで期待させやがって」とでも言いたそうな恨めしそうな目で、拳を握り震わせる。
『ま、まぁ待て!これは原本の話だ。まだ写本が残ってる』
メナヘムが見せたのは写本の一部の写真だった。
と、なれば今の自分でもその中身を見る事は可能だ。
『写本はどこに?』
『実は……バラけているんだ。今見せたこの写真はその一部分。それも、書物の大部分を占めている。残りは紙片と化して分散されているようなんだ。それも、冒頭部分と結末あたりを中心にな』
『なんだそりゃ!?どんだけ保存状態悪ぃんだよ!』
『まぁ待て!考古学者が言うには、"ある時代"に意図的にバラ蒔いたらしいんだ。どんな理由でなんの為にかは彼にも分からなかったが……、とにかくこの写本を集める事が答えに繋がるんじゃないのかな?』
何が大した情報は無いんだとキーシュは心の中で突っ込んだ。
何も持ち合わせていない自分にとってはかなり大きな手がかりだ。
そもそも、自分の祖先がそのような書物を後世に残した事すらも初めて知った。
自分の親は自身の子にアードの民であることを自覚させておきながら何故この事実を教えなかったのか。多少の怒りすらも覚える。
『それじゃ、その写本の中身を知っておこう。それは何処にある?』
『アラビア半島を中心に……としか。範囲はかなり広くてな……?』
ーーー
『ありがとうございました。お陰で大変助かりました』
『こちらこそさ。君のおかげで作業も捗った。そのお礼も兼ねて、ね』
パルミラを離れる直前。
メナヘムはこの地で1人の友人を得た。
『君の友人は遠い地から遥々やって来たんだってね?歴史を大事にする、とてもいい人じゃないか』
『ありがとうございます。これを元に私たちの作業も進むこと必至です』
パルミラの考古学者は遠くを見つめると、メナヘムの肩を叩いた。
『さぁ、行きなさい。じきにダーイシュがやって来る。私が守るはずだった遺物を避難させたんだ。もう君が此処に居る必要は無い』
『ですが、それだと貴方が……』
『私の事はいい。きっと彼等と話をしてみせる。話せば分かるさ』
メナヘムには分かっていた。
この男がこの先無事で居られるはずがないと。
しかし、この遺跡を守ると言い張る彼を引きずりだしてでも助ける事はメナヘムには出来なかった。
『だが、いいかい。忘れないでおくれよ。歴史とはそれまでの人が……人類が歩んできた記録そのものだ。我々の親や祖先がどのように生き、私たちに命を繋いだのかそれを知るツールだ。だから我々はこれを大事にしなければならないんだ。特に、私が生まれ育ったこの地は尚更にね』
『どうがお元気で……えっと……』
『アサドだ。私はアサド』
『ミスターアサド。貴方の事は忘れません。本当にありがとう……』
『私の事など覚える必要は無い。さぁ、行け』
手にした情報と大きな喜び、そして悲しみを胸に、メナヘムはキーシュから借りていた空を飛べるポケモン、バルジーナに乗ると、アレッポ目掛けて飛び去っていった。
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