二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.350 )
日時: 2019/04/07 20:53
名前: ガオケレナ (ID: bh4a8POv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「強くなるにはどうしたらいいかって?」

吉岡から言われたばかりの言葉をそのままオウム返しすると暫く唸る。

「はい!ジェノサイドさんみたいに常に強くあり続ける為の秘訣が知りたいんですよ〜!」

「と、言われてもな……」

確かに自分はつい最近まで最強だった。
いつから最強だったか、それは個々の解釈によって変わってくるが、強者であり続けていたのは事実だ。
彼らが少ない情報を頼りに接触し、こんな事を聞いてくるとなると何を求めているのかが段々と分かってきた。

強くありたい。もしくは、その実力が欲しい。
これに尽きてしまう。

「俺は……組織を結成した当初から狙われ続けて来たからなぁ。迎え撃つのを繰り返していたら自然とランクが上がってきちゃったよ。最も、こちらから攻めた事もあったけど」

「でも……普通に考えると奇跡みたいなものですよね?組織を結成したのはいつですか?」

「そーだなぁ。俺がバルバロッサと出会ったのが高校入って暫くした時だから……5年前の2010年かな」

懐かしさも相まって過去を思い出す高野だったが、東堂の「ごねんまえ……?」という驚きしか読み取れない呟きが聞こえていないようだった。

彼らからすると5年も同一の組織を構え続けることに加え頂点に位置することなど有り得ないことらしい。

「で、でも〜……普通だったら5年も、しかもSランクで有り続けるなんて……」

「まぁ無理だろうな。だから俺は俺だけの強み……言い換えれば他の組織との差別化を図るための力を身に付けた」

「それは何ですか?」

「ゾロアークだよ」

相沢の質問に対し高野は抵抗力皆無で言い放った。
ジェノサイドという存在がもう無いからこそ言えることなのだろう。

「俺のゾロアークは幻影を魅せる事が強みだけど、普通のものとは少し違う。ポケモンの力を最大限引き出すにはトレーナーの力が必要みたいでな」

「どういう……ことっすか?」

声色と言葉のチョイスで、高野は相手の顔を見ずに誰が言ったのか分かった。東堂である。
運動部に所属していそうな筋肉質な体格から発せられる野太い声だ。

「まずタイミング。ゾロアークがその場に居ると分かった時点で相手に幻影を使っているとバレてしまう。その為にゾロアークを出していないかのように徹底的に隠す事と、仮にバレても、いつ使っていてもおかしくない風を装う。つまり自然すぎる幻を見せるのさ」

「確かに〜、派手過ぎるとその時点で幻影だってバレそうですもんね」

「それもあるし、それを俺は控えていた。だけど重要なのは単に自然な幻影を魅せる事じゃない。相手に思わせることさ」

早くも理解がついて行かなくなったようで、東堂と相沢が苦い顔をしながら頭を抱え始めた。
涼しい顔をしているのは吉岡だけとなる。

「相手に、"もしかしたら今幻影が始まっているのかもしれない"と言う思い込みをさせる。その為に俺がジェノサイドである事のハッキリとした証拠と、俺がゾロアークを使っているという事前情報が必要になるのさ」

その為の派手なローブ。
街中で着れば目立つ事間違いなしのそれにも、意味はあった。

「話を戻そう。事前情報を持った敵が相手ならば相手からして、突き当たる戦略はふたつ。"今幻影が始まっている"か、"これから幻影が来る。もしくは使ってこない"のどちらか。つまり相手は心理的なロックを強いられる事となる」

「じゃあ……あなたがゾロアークというポケモンを選択したのもそれらが理由ですか?」

「まぁそうだな。心理的ロックが掛かった人間は大体が単純な動きしかしなくなるから対処しやすいって理由なのと、後は単に好みだな。結局愛着が沸かないと強みを引き出す事は出来ないからね」

最後にと高野は結論付けた。
強くなるにはポケモンを知ることと自分自身の戦闘に対する経験を積むことだと。

偉そうに語ったクチだったが、言ったことでそっくりそのまま自分にも跳ね返る。
たとえ最強でなくなっても、それらは最早永遠のテーマだ。
高野洋平という人間として強くなるには今後も必要なものである。

「最後に、いいですか?」

と、静かに相沢がゆっくりと手を上げながら聞いてきた。
最後、という事はこれまでのものは満足のいくアドバイスとなったのだろうか。

「あなたのゾロアークが魅せているのは、本当に幻影なんですよね?」

「ちょっ、何が言いたいんだ?」

「話で聞いた事があるんです。幻で出たはずの炎が本当に熱かったり、幻影の風が本当に冷たかったり風の感触があったりって……五感が感じることがあったと主張してくる人や話を何度も耳にしました」

高野は、なるほどなと何度か首を軽く縦に振りながら話を聞くとまたもや抵抗0で答える。

「俺はゾロアークを使うにあたって強く意識している事があった。暗示……即ちプラシーボ効果だ」

聞いた事はあるけれど意味は詳しく知らない。
3人の思っている事がまさにそれだと言いたげな顔だった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.351 )
日時: 2019/04/10 10:10
名前: ガオケレナ (ID: ol9itQdY)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「相手に強く思い込ませる事であたかも本当に物事の測定の変化を現すことさ。まさに例えるならばさっき言ってた熱い炎とか強い風とかだな。でも俺が魅せていたのはあくまでも幻影だ。すべてがすべて暗示が作用し成功していた訳ではないがな」

「それが上手くいった1番の要因は何ですか?」

ここに来て高野は若干の違和感を覚えた。
そもそも相沢含む彼らは何を求めて自分に会い、話を聞きたがっていたのだろうか?と。

「1番の……か。まずはプラシーボ効果がどんなものか、と言うのを調べたね。組織ジェノサイドがSランクになるまでの間に」

自分がまだ最強と呼ばれる前の、戦いに明け暮れた日々の頃を思い出す。
朧げで最早その記憶は鮮明ではないためか、確実にあったはずの事実も思い出せずにいた。
それでも、自分が暗示について深く調べていたことと、命令を必要としないゾロアークの育成をひたすら行っていた事を。

「もしも君たちが、強くなりたいと思っている上でこれらを参考にしようと考えているのならオススメはしない」

「えっ?どうしてですか?」

「多分絶望する」

高野は、嘗て彼らと同じ年齢で行っていたが故に身を持って体験した事をそのまま伝える。

それは、強さと引き換えに垣間見てしまったこの世への絶望。

「まず、幻影ばかり魅せられるもんだから俺自身現実との区別がつかなくなった。何が現実かどこからが現実なのかが分からない。暫く身の回りのあらゆる物を疑い、不信感を向けていたね」

高野は口元を緩めながら腕を組む。
傍から見れば大分リラックスしているようだ。

「慣れてくると"それ"もなくなって改善されるけど、今度は幻影に対する強い憧れ、現実に対する嫌悪と絶望に飲まれちまう。……もう二度と体験したくはないね。生きる意味を失う思いをするのはもう散々だ」

「そこまで思ったらなら、死のうとか思わなかったんすか?」

「何度も思ったさ。でも出来なかった。……死ぬ事すら出来ない臆病者だったからさ」

どよんとした空気に包まれる。
高野が喋り終えて数10秒の沈黙が訪れてから、原因となった自分もやっとこの事に気づく。

「お、おい待てよ!別にお前らが落ち込む事じゃないだろ!……もしかして、俺と同じ方法で強くなりたかったとかか?だったら尚更オススメしない。上位ランクを目指すならもっと別の方法で高みを目指していくのがいいさ」

「別の方法とは?」

「ひたすら任務を行うのと、あと今有効なのは議会に近づく事かな。議会若しくは1人の議員直属の組織になるってのも悪くないと思うぞ」

間隔なくスラスラと喋ったように見えたがこの時高野の頭の中では知識と単語の無間地獄のような空間で、苦しみながら答えになるような考えを持っていく。

「実際増えているらしいけどな?議会側も俺みたいな制御の効かない人間が現れ始めて苦労しているのに直接の戦力を持ち合わせていない。誰もが杉山渡のように強くはない。でも力は欲しい。その結果、深部組織自ら議員に擦り寄る直属部隊ってのが出来上がって来ているらしい。お前らもどうよ?見た所同じ学校内で集まって出来た組織だろ?って事は人数も少ないだろうし少数精鋭を求めている議会とも合ってる」

ーーー

小雨ながらも止む気配を見せない灰色の空の下、高野はバトルタワーへと戻ろうとそちらへと向かおうとしていた3人の姿を再び記憶に留めようとじっと見た。

やはり、深部の人間には見えないどころか、そう思いたくもないような複雑な気持ちが芽生えてくる。

(俺も……かつてはそう思われていたのかな……)

自分が高校生の頃、周りから似たような感情を振り撒くような言動をしていたのだろうか。
自分が抱いた思いはそのまま自分に跳ね返る。

「悪いな、力になれなくて」

「いえいえ!話が聞けただけでも嬉しかったです!」

相沢は少しにやけながら答えた。

「僕も、いつか会って話がしたかったと思っていたので〜……」

「まぁ参考になった話になったかどうかは分からんが……強くなれるよう頑張れよ」

「ハイっす!!」

それじゃあそろそろお別れかと高野も背を向けようとした時、

「戻るのにいつまで掛かるのかな〜?なんて思ってたらあなた、放ったらかしにしてお茶でもしてた訳!?」

「あー……やべぇ忘れてた」

時間にして1時間以上待合室で待たされていたメイが、退屈しのぎにお菓子と飲み物を買おうと外に出た時だった。

待っているはずの高野が、3人の高校生と仲良さそうに話をしている光景が目に止まったのだ。

「忘れてた!?1時間以上待たせられた私の身にもなってよ!」

突然呼び出したのはそっちで、結果的に待っていたのもそっちの勝手だろと言いたくもなった高野だったが、何やら吉岡たちの様子がおかしい。

不思議そうで、且つやや怯えていそうにメイを見ている。

「まさか……彼女?」

「ストーカーと言った方が正しい」

「本人の前で好き勝手言ってんじゃないわよ、とにかくこっち来なさい!!」

と、メイは半ば無理矢理に高野の手を引くとドームへと連れて行き、ついには姿も消えてしまう。

置いて行かれた相沢ら3人はポカンとしながら2人を吸い込んだドームの自動扉をひたすら眺めるも、変化はない。

「何だったんだ〜?今の」

「よく分からないけど……やっぱりジェノサイドって大変なのね……」

「それよりもどうするんだ?ジェノサイドから話を聞いて、奴と同じ方法で最強を目指すって作戦。結局やんの?やらないの?」

東堂の言う本来の作戦。
それを思い出した2人はこれまでの高野の言葉を振り返りつつ答えをまとめていく。

「もちろんやるわ。まずはジェノサイドのゾロアークと同じ技構成のゾロアを用意すること。これはキー君に任せるわ。次にプラシーボだとか暗示については吉岡、あなたが調べて」

「相沢は何するんだ〜?」

作戦に名前が上がったのは2人のみ。肝心の作戦立案者の名が無いということは楽をしたいという事だろうか。

「あたし?あたしはまず最初に議会と接触出来るか試してみるわ。ポケモン自体が強くても実績が無ければこれから先やっていけないわ。それから、ゾロアークに対する育成を行う。命令無しに動かすにはゾロアークそのものの、現実に対する性格を矯正しないといけないもの」

最強を目指す彼らの意志に揺るぎはなかった。
高野が散々言っていた警告に一切の興味を向けることなく。

ーーー

「おい、痛いって!いい加減離してくれよもう屋内だろ?」

高野はメイに連れられてバトルドームに入り待合室まで歩かされると、バッ、と手を思い切り離される。

「お願いだから勝手な行動は控えて」

「はぁ?俺がこっちに帰る途中に向こうから絡んで来たんだが?むしろ被害者みたいなもんだろ?」

「そうじゃなくて!!あいつらは深部の人間よ!無害で純粋な高校生たちだとか思っていたわけ?」

「お前が俺に何を言いたいのか分からないがそれは流石に分かったさ。だって俺に対してこう言ってきたんだぜ?"あんたはジェノサイドだろ?"って」

メイはその言葉を聞くと表情が固まった。
そして、再度尋ねる。

「ねぇ……それ本当?」

「本当だよ。怪しいから何で俺がジェノサイドだと分かったのか理由を聞いてみた」

それから、高野はこの1時間の間どんな話をしていたのかをメイに伝えた。
このまま変な疑惑や不信感を抱かれっぱなしなのも気分が悪いからだ。

「少なくとも……あなたの命を狙う輩ではなかったようね」

「とりあえずはな。俺を殺して最強になるってパターンの奴はゴロゴロ居たが、まさか俺から話を聞いて最強になるってパターンも生まれるとは……深部も平和的になったもんだ」

呑気な高野を見てメイは無駄に蓄積された疲労を吐き出すかのごとくため息をつく。

「今回は良かったけれど……今後もこういう人達が現れるわ。あなたは簡単について行こうとしないで。あなたがジェノサイドだとバレた以上服装を変えても意味がないって事も分かったでしょう?あなたはそれ程有名人なの。だから……」

高野は未だ知りえていないメイの目的。
彼女はただ純粋にまでにそれに沿った行動をしただけの事であった。
高野がその事に気付くことは無かったが。

「分かった分かった。今回は俺も甘かった。色々話しちまったしな。確かにこのチームから1人死人が出れば大会もやりにくくなるしな。気ぃつけるわ」

「ちょ、……私はそれを言いたくて言ったわけじゃ……っ」

「だとしても、俺にも俺自身の身の守り方ってモンがある。引き続き警戒していく」

と言うと、高野は観客席へと続く通路を歩いていった。折角シャワーを浴びたのにまた雨に濡れるような事はしないだろう。恐らく様子を見に行くためだ。

「まったく……何も分かってないわね」

メイは1人呟くと彼の後ろをついて行った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.352 )
日時: 2019/04/10 17:32
名前: ガオケレナ (ID: 3lsZJd9S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「それじゃあ、いってきま〜す」

普段通りの光景すぎて心が篭っていない声を発しながら大学3年生の香流慎司は家を出ると自転車で最寄り駅まで走り始めた。

今日は7月27日。
予報とは少しズレて今日に梅雨明けとの発表があり、朝のニュースもそれを何度も報道していた。

ここ暫く雨のせいでアスファルトに染み込んだ雨の匂いを錯覚しながら香流は晴天の下、自転車を漕ぐ。

彼が住むのは東京スカイツリーが家からでも見える両国だ。
自転車で隅田川を沿っていけば駅はすぐそこにある。

月曜に組んだ講義は2つ。
昼前と昼休みを挟んですぐの時間にある"それ"を終えたら、あとは大会会場に向かって観戦とトレーニングルームでの練習をひたすら行い、最後は聖蹟桜ヶ丘近くに一人暮らししている山背の家に何人かで泊まって火曜に臨む。

そんな予定であった。

(これまでに予選ではこっちのグループは負け無しで続けて来れたけど……今日はどうなるかな?楽しみだな〜)

最近眼鏡からコンタクトに替えたからか視界がやや広く感じる。
暑い夏の陽射しを浴びながら風を受け、見えてきた川を沿ってひたすら直線を走る。

両国駅に着けば乗り換えを繰り返して神東大学に到着する。
いつもの光景、いつものパターンだった。

それは、他人の目から見ても同様に。

突然、不自然な風の流れを頬を伝った。
それは、車道を挟んだ左頬に流れた。

つまり、香流は今反対車線を自転車で走っている事になるのだが、それもあってか、異変に気付くことが出来た。

自転車のスピードを緩めながら左方向を少し覗いてみる。

そこで、香流は戦慄した。

自分の真隣に、何処からか飛んできたであろうエイパムが、ニンマリとした顔でその大きな尻尾を振り回していたからだ。

「えっ……?」

思考が巡る余裕も許さない。
エイパムはその尾をターゲットである男に振り下ろす。

スピードの乗った高エネルギー物質が人体に当たる鈍い音が響いた。

ガッシャーン!
という、自転車がアスファルトに叩きつけられた音が街の静寂を乱し、香流は自身の体が吹っ飛ぶ感覚を覚え、宙に浮いた。

落ちる。

下は見慣れたはずの隅田川。
危険に晒されたその頭は、そんな単純な事実だけを自身に突きつける。
しかし、彼が川に落ちることはなかった。

香流が走っていたのは反対車線上の歩道であった。
川の敷地内にある遊歩道を挟んだ先に川があるのであって、道の隣や真下にそれがある訳ではなかった。

香流は歩道から川を見渡すために作られた手すりに体を、全身を打つことでその体は静止した。
右足と腰、そして右肩を酷くぶつける状態でその場にへたり込む。

自分の身に何が起きたのか、果たして自分は何者かに狙われたのか。

それすらもよく分からないまま、彼は真っ暗になった視界を確認すると意識が途切れた。

幸いだったのは怪我した場所が駅の近くゆえに人通りが多かったことと、攻撃したであろうエイパムがそれ以上の追撃をしなかった事であった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.353 )
日時: 2019/04/10 18:27
名前: ガオケレナ (ID: 3lsZJd9S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


胸ポケットの中のスマホが振動する。
それが分かっていても、それに出る事はなかった。

何故なら、本日分の大会スケジュール開始早々にメールと、同じグループのメンバーからお呼び出しがあったが為に現在ドーム内の広すぎるコートにてバトルを繰り広げていたからだった。

「くそっ!今日の敵は中々やるな……やっぱりここまで来ると向こうのレベルも上がってくるか!!」

「呑気に喋ってる暇あったら戦略の1つ2つくらい立てとけー!」

味方の座っているベンチから心配している声が聴こえる。
大きな歓声の中それが拾えたのは距離のお陰かそれとも奇跡か。

とにかく、高野洋平という男は今目の前の学生が繰り出ているポケモン、アイアントに苦戦していた。

(くそっ……この期に及んで炎タイプのポケモンを連れて来ていなかった……。しかも奴の特性が'なまけ'だとは……これはやられたな)

高野の使ったポケモンのヤミラミが'おにび'を外し、特性を'なまけ'に変えられたせいで上手く攻撃出来ず、ジワジワとダメージを与えられていたところだった。

「クソっ……このままじゃやられちまう」

高野は手持ちのポケモンのモンスターボールを見つめながら打開策をひたすら考える。

アイアントの'シザークロス'がヤミラミに命中した。
あと一撃で倒れるだろう。
それを察した高野は悔しさを噛み締めつつヤミラミをボールに戻す。

「アイツ駄目だな……このバトルは負けたろ。次俺の番な」

ルークが隣に座るメイにそう言った。
既にこのチームはメイが1勝している状態なのであとは高野が勝てば良かったのだが、それが見られない。
ルークが彼に失望しつつ準備がてら手持ちを眺めていた時だった。

観客が大きくどよめいた。

メイも驚き、ルークも周りから一足遅れて何があったのかバトルフィールドを見つめる。

こだわりスカーフを巻いたガブリアスの'じしん'が急所に当たり、アイアントを倒した瞬間だった。

「はあぁぁ??アイツ最初から用意してたんならやられる前に出しとけよ!!」

ルークはその戦い方に納得が行かなかったのか、彼に向かって怒鳴る。
高野も高野で、「今気付いたんだよ!アイアントより速いポケモンがいた事に!」と、逆ギレする始末だ。

その後に相手が繰り出したポケモンはガメノデスであり、こだわりスカーフのせいで'じしん'しか出せなくなったガブリアスの攻撃をきあいのタスキで耐え、'からをやぶる'で攻撃と素早さを上げるも、ガブリアスの速さには追いつかなかったようで反撃が出来ず、2度目の攻撃で沈んだ。

これにより高野は何とか勝利を手に入れる事が出来たが……。

「お前嘗めすぎだろ?」

「なんでもう少し早く気付かなかったかな!?もっと早い段階でガブリアス出せたよね!?」

と、終了早々仲間から総ツッコミを受ける始末であった。

「いやぁ悪い悪い。'なまけ'アイアントなんか初めて戦ったからさぁ……」

「まぁいいわ。勝ちには勝ちだし、そろそろで予選も終わる頃よ。いい加減今までの緩いバトルは忘れて本気で臨んでほしいところね」

言いながらメイはちらっと高野を見つめる。
そこには、彼女の話を全く聞かずに自分のスマホを見つめている高野の姿がそこにあった。

「って、あんた私の話聞いてるの!?」

「ちょっと待てって。試合中にスマホが鳴ったんだから確認したっていいだろ」

「もういいだろ……コイツに何言っても無駄だ」

ルークは呆れながらメイに対し呟く。

だが、高野の様子がおかしかった。
画面を見ては硬直している。

「……ん?何か様子が変ね?何かあったの?」

高野は、相手側が無視されたと感じたのだろう。何度か来た通話の後に来たLINEのメッセージを眺めてはフリーズしていたのだった。

「ねぇ、どうしたのよ?」

「香流が……。俺の友達がポケモンで襲撃された」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.354 )
日時: 2019/04/17 13:01
名前: ガオケレナ (ID: uqFYpi30)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「カナレ?誰だそいつは」

ただ事では無いことを察知したのか、ルークが関心を寄せながらそんな事を聞いてくる。

「俺の大学の友達だ。当然深部なんかとは関係ないがお前が知らないとは言わせない。以前戦ったはずだ」

「あーーー……」

ルークはもう既に過去の出来事となった、南平の工場跡地で戦った香流とその友人達の姿を記憶の底から引っ張り出す。
初心者ながら十分な腕前だったことが印象的だった。

「何で……しかも今に……。クソっ、あいつが何かしたわけじゃないだろ……」

突然の報せに狼狽える高野。
だが、ルークとメイは他人事ながら何故このような事が起きたのかが何となくだが分かる。

「そりゃお前、あれだろ。ソイツお前に勝ったんだろ?」

「ジェノサイドに勝ったなんて深部の中ではかなり大きなニュースになり得るものねぇ。すべてを知っている人が居たとしたら彼を狙うのも不思議ではないかもよ?」

「だとしてもおかしいだろ!俺は逃げている最中に利益を狙う奴らから闇討ちされた。それで負けたから解散……確かそんな事に"なっているはず"だろ。香流の事とかあの日に起きた事が知られるなんてこと自体がおかしいんじゃないか!?」

「議会を信用しなかったり怪しんだりしている人達なら捜査なり何なりして真実を知る、って事は案外少なくはない事例よ。よほど彼らも暇なのでしょうね」

自分のせいで狙われた。
それが直接的であれ間接的であれ、自分が存在していた事で起きた事ならばそれは許せないことだった。

高野は己の弱さと限界を噛み締めると急ぐようにしてバスターミナルへと向かい始める。

「ちょっと、これから何処に行くつもりなのよ?」

「もしもし?香流か?お前無事か?生きてるよな!?」

高野はメイの言葉を無視して前へ進みながら電話を始めた。
相手は香流で、しかも難なく繋がっているようだ。

『……し、もし。ごめんね、心配したよな……?』

いつもの彼の声だった。最低でも生存確認は出来た。
だが、やはり不安は拭えない。
痛みに耐えるための呻き声が時折聞こえるからだ。

『ぃま……学校にいる……』

「はぁ!?」

その声に高野は予想を大きく裏切られた。
彼が両国から大学に来ている事はかなり前から知っていたので、通学途中で怪我を受けたとなると居場所はかなり絞られる。
高野の予想では彼の地元の病院か、駅で救急車を待っている途中、若しくは大学に行くのを諦めて家で伸びているかのどれかだと思っていたのだ。

だが、大学に居るということは、

「お前、怪我は?歩けるのか?」

『……あぁ。歩ける。痛いけどね……』

思った通りだった。
深部の人間から狙われたとなると1番最悪なビジョンをまず最初に思い浮かべてしまう高野は、本当にこれが深部の人間の仕業なのか、だとすると甘すぎるのではないかと余計な事も同時に考えてしまう。

だが、彼が大学にいる以上まずはこの目で見なくてはならない。

高野はメイとルークに振り向き、大学に行ってくるとだけ告げるとターミナルに止まっていたバスに乗り始めた。

はずだった。

「……なぁ。これは俺の問題だって言ったはずだよなぁ……なのに何でついて来てんだ?」

高野は聖蹟桜ヶ丘駅行きのバスの座席に座りながら隣に座る女と通路でつり革を持ちながら立っている男に言う。
当然相手はメイとルークだ。

高野としては適当に捨て台詞吐いて2人の前から去ったはずなのだが、珍しくもメイとルークが大会以外で行動を共にしている。
果たしてどんな意味があるというのだろうか。

「少し確認したくて。本当に深部の人間の犯行なのかという事とあなたに勝った人がどんな人か見たくて」

「いやお前は何度か見たことあるから……」

「俺にもお前にも勝ったアイツが今更やられたなんて不自然だしな。まぁ何かあんだろ」

「だからってお前らが来る事はないだろ……。一応無事である事は分かったんだからよ」

「だったら良いじゃない。私達は"仲間"なんだから」

都合のいい言葉に聴こえて仕方がない。
だが、これほどにも、この時ほど頼りになる存在は他には居ないだろう。高野という人間の環境を見る限り。

それに嬉しさと困惑が混ざり合った不快な感情を抱きながらバスに揺れ続けていく。


ーーー

香流は大学に着くとまず敷地内で1番初めに目についたベンチに腰掛けた。
足腰を主として下半身がひどく痛むからだ。

香流はスマホの時計を確認する。
講義開始まではまだまだ余裕があった。

(此処に来れるほど元気という事だから大丈夫だろうけど……一体アレは何だったんだ?)

香流は深部の世界を垣間見たとはいえ、それに関しては何も知らない素人だ。
だから自分の身に起きた事が何だったのか、果たして深部絡みなのかすらも分からなかった。

それでも1つだけわかる事。

(あの時……あの場所で襲って来たって事は……こっちがいつも通っている道だと知っていることだろうな……タイミング的に考えても事故とは考えにくい……やっぱり故意か……)

などと考えすぎて深刻そうな顔つきになった頃。
バス停から自分の名を叫ぶ声が聞こえた。
その声で誰の声なのかもすぐに分かる。

「おーい、香流ぇぇ!!」

「レン……?わざわざこっちに来たのか!?」

香流が見た姿。
それは、大会会場でしか見たことないメンバーを引き連れた、彼の友達の姿。

即ち高野洋平だった。

「お前大丈夫か!?一体何があったんだ?」

「大丈夫……大丈夫だから落ち着いて」

右頬辺りに小さな痣があったがそれ以外に目立った外傷は無いように見えた。
高野はそれでまず安心したが、それでも平静を取り戻すことは出来ない。

「病院とか、ここに着いてから医務室とかには行ったか?」

「いや、まだ行ってないよ」

高野は松葉杖を香流本人が持っていない事を確認すると周囲をキョロキョロし始める。

何かを察したのか、メイとルークも彼の傍へと早足で駆けてきた。

「なぁ、ルーク」

高野は珍しく彼を名指しで呼んだ。
彼はそれには無反応だったが続きの言葉を待った。

「チルタリスとか持っていないか?」

「は?何でチルタリス?」

「こいつを医務室まで運ぶ。無理に歩かせる訳にはいかないからその為のポケモンを……」

「なるほどな。ちょっと待ってろ」

と言いながらルークはスマホを操作し始める。
画面の先はアプリ『ポケモンボックス』だろう。
ゲーム本編とリンクしているそのアプリを使えば、わざわざゲーム機を用意せずともポケモンを呼び出す事が出来るからだ。

ボックスの奥底に眠っていたであろうチルタリスが彼らの目の前に出現する。

「さぁ、コイツに乗れ」

「いいよ大丈夫だよ、歩ける……」

相変わらず遠慮しがちな香流だったが高野はその言葉を無視するとルークと共に彼の体を持ち上げ、柔らかそうなチルタリスの体へと放り投げた。

「よし、このまま医務室まで行くぞ」

「全く……なんて強引な奴だ」

高野を先頭に医務室がある建物へと向かう。
確かそこは最近まで工事をやっていて春から開かれた新しい建物だったはずであった。
当然そこは医務室だけでなく教授たちの研究室も含めた10階建ての建物だが。

「香流、お前講義は?」

「あるよ……あと3〜40分くらい後だけど」

「じゃあ間に合うな。診てもらって松葉杖辺りでも借りるだけなら10分もかからない」

「それよりも、どうしてレンの仲間まで来てるんだ?大会とは関係ないはずじゃ……」

香流のその言葉にまず反応したのはメイだった。
初対面ではなかったものの、今日まで名前を知らなかった彼女はこのタイミングで名前と顔とこれまでの記憶を一致させる。
そして、口を開いた。

「あなたを襲った人間が深部の人間かもしれないからよ」

「えっ……?」

当然と言うか予想の範疇すぎる反応だった。

「どうして……こっちが?」

「お前まさか本気で自分は深部とは一切関わりがありません、なんて思ってんじゃないだろうな?」

次に喋り始めたのはルークだ。
彼も初対面ではなかったが、これまで名前を知らずにいたという点ではメイと同じだった。

「お前はこれまでにも、ゼロットと協力したり、アルマゲドンとジェノサイドとの戦いにも首を突っ込んだり、俺と戦ったり、それに……コイツに勝ちやがった」

ルークは忌々しそうに高野を指した。
それでも、香流はピンとは来ていなさそうだ。

「まだ分からない?深部最強の人間と戦って勝った男が平然と街を歩いている……これはチャンス以外の何物でもない……。そう考える過激な人もこっちの世界では当たり前のように存在しているのよ?」

「ちょっ、ちょっと待って!?レンが言うにはこっちじゃなくて別の人に倒された事になったって聞いてたから安心はしていたのに……」

「何事にも陰謀論は付き物よ。あなたはたまたま真実に気付いた人に襲われた。そうやって考えるしかないわね」

理由がよく分からない以上、メイのその言葉をそのまま受け取るしかなかった。
香流は小さく「うっわー……」と呟くと、それがたまたま聴こえたのか、高野が申し訳なさそうに謝る。

「レンは悪くないよ。だってあの時のあの行動はすべてこっちが選んだものなんだし。その結果レンも救われたでしょ?」

救い。
確かにあの日を境にして高野の生活は一変したが、そのせいで現に香流は怪我を負っている。

その時の戦いが無ければ負わなかった傷だ。

「それでも……俺は許せねぇよ。お前とお前達を守れなかった自分と……敵に」


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