二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.440 )
日時: 2020/01/04 16:36
名前: ガオケレナ (ID: aOtFj/Nx)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ガルットモンスター。
かつて、そのように呼ばれた時代があった。

6世代で初めて実用されたメガシンカにて、それまで陽の当たらなかったマイナーなポケモンにスポットが当てられた画期的なシステム。
しかし、蓋を開けてみればそれはガルーラの暴走の他ならなかった。
公式大会においてはメガガルーラが跋扈し、ランキング上位者は全員がガルーラを使用するというゲーム環境が地獄と化したその様。
その様子を皮肉った言葉がそれだ。

では、高野洋平らが在籍する深部ではどうだったか。
メガシンカはゲームとは違い、現実世界で使おうものなら相応の手間が掛かる。
元々限られた人間しか使えないシステムとなった今、ゲームのように全員が全員気軽にメガガルーラを使うような環境ではなかった。
そんな意味では深部では、現実世界では各々が好きなポケモン、強いと思えるポケモンを使える、ある意味では理想的でバランスの保たれた世界が維持されていた。

しかし、とは言え。
ゲーム環境に準じた世界にバランスブレイカーが放たれればどうなるか。

高野洋平の前には、その元凶が御見えだ。

「俺はレートだとかネット対戦だとかが嫌いなんだ。その理由が……分かるか?」

「アナタが最強じゃなくなるから?」

「惜しい。半分正解だがな」

高野のゲッコウガが動いた。
手に手裏剣を握りながら走る。

「退屈だからだ。ゲーム空間だけのバトルと、この世界のすべてがバトルフィールドの戦いを比べると戦略の幅が違いすぎる。つまらないんだよ」

'みずしゅりけん'を打つと見せかけて、その瞬間武器を消してみせる。不意打ちだった。

ガルーラが身構えたとき、放たれたのは'れいとうビーム'だ。

(不意打ち!?ジェノサイドらしいと言えばらしいけれど)

しかしレミは終始落ち着き、頭の中で組まれたシュミレートを再現するのみだ。
恐れはない。抱く必要もない。

「'ねこだまし'」

どういったわけか、瞬間的に移動したガルーラがゲッコウガの眼前で手を叩き、動きを止める。

「チッ、"そっち"だったか……」

「まだ終わらないわ!!」

ガルーラの攻撃は終わらない。
メガシンカの影響で急成長した子ガルーラも母に続く。

子の'ねこだまし'も加わり、ゲッコウガの技は中断され動きは完全に止められた。

「あぁ、でもこれだったら'れいとうビーム'を待った後でもよかったかも」

次にガルーラは拳に力を込めた。
それは、カクレオンのせいで見覚えがあった技だ。

「'グロウパンチ'」

怯んだゲッコウガには難なく命中した。
1度とならず2度までも。
母ガルーラの大きな拳と子ガルーラの小さな拳がゲッコウガの顔にぶち当てられる。
距離は前の攻撃のお陰で目と鼻の先であったため、これも問題ではなかった。

「'グロウパンチ'は一撃ごとに攻撃力が増す技……それが2回攻撃となると……」

「そ。これがメガガルーラの恐ろしさよ。バランスの良いステータスに加えて1度に攻撃力が2段階上昇するのだから、果たしてのんびり戦ってていいのかしらね?」

「ほざいてろ!好きに言え。俺も好きにやらせてもらう!」

交代という選択肢はなかった。
高野も高野で今この場を耐え忍ぶ。
それだけで良かったのだから。

ーーー

「あばばばばばば……」

「ちょっとしっかりして!慣れないかもしれないけれど……あなたが正気でいてくれないとウチも困るの!方向コッチで合ってる!?」

カイリューは全速力で空を飛び回った。
ミナミとリッキーを乗せて。

深部の人間にしてジェノサイドの構成員から赤い龍のリーダーというとんでもない経歴を持つせいか、カイリューに乗る事に抵抗は無かったが、反面生身で強い風を浴びる事に慣れるほどリッキーは出来た人間ではない。

強い吐き気と目眩に襲われる。

「ぐっ……おろろろろろ……」

「ねぇちょっと!聞いているの!?」

「き……聞いてる聞いてる……大丈夫だぜぃ愛しのハニー……」

「……」

こりゃダメだとミナミは呆れ、ならば自分がと移り行く街並みを眺めるも、そこは見たことの無い街だ。

上空から線路や駅を見つけはするも、それが何処のものかまでは分からない。

「もう少しだ、もう少し真っ直ぐで……。あの辺で車から降りたんだから遠くはないはずだ。もうちょっと進んで〜。あ、でも僕は降りたいかも」

「だったら降ろしてあげようか!?ここから真下にね!」

車酔いにも似た症状が出ているせいか、最悪な気分を表すかのように「もう二度とカイリューには乗らねぇぇー!!」と大声で叫びながらこがね色の空を突き抜ける。

もう少し。その言葉を信じながら。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.441 )
日時: 2020/01/07 12:06
名前: ガオケレナ (ID: UEHA8EN6)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


圧倒的だった。
相手をする度に初見であるかのような感想を覚えてしまう。
それ程ある意味では強烈なのだ。

メガガルーラ。
高野洋平がこのポケモンと戦ったのは今回が初めてではなかった。
深部の戦いにしても、友達との遊び半分のバトルにしても。
だから、高野はこのポケモンが好きにはなれなかった。故に使う事はまず無かった。

ボロボロだったゲッコウガはガルーラの'グロウパンチ'に倒れる。

今レミのガルーラは攻撃が3段階上昇している。
この状況で"普通の"ポケモンを出してしまうと確実に負ける。
かと言って防御が極端に高いポケモンを呼び出しても泥仕合になるのは必至。

(ナットレイを使うか……?それともメガボスゴドラにするか?……いや、どれも'グロウパンチ'の餌だっ!)

詰み。

高野の脳裏に、シンプルなまでの2文字の言葉が浮かび上がる。
用意出来るポケモンすべてを想像し、頭の中で戦いを組み上げても勝てるビジョンが思い浮かばない。
それはつまり、最強と持て囃された人間であっても、メガガルーラの恩恵を受けた人間の前では為す術がないことと同義だった。

結局彼は強くも何ともない人間で……。

「……?」

空気が変化した。
高野は思わず俯きかけていた頭を上げる。

そんな事をしている最中にも、2柱のポケモンは自分を抹殺せんと攻撃を放ち、ゾロアークがそれを防ぎ、守っている。

そんな中の出来事だった。

「これ……は……?」

ーーー

「着いた!!あれだぞ!」

リッキーはほぼ毎日見ている建物を指して叫んだ。

上空に居ては現在地が分からない。
なので地上から約15mの位置を維持しながら、地上に被害が出ない程度にスピードを抑えて翔んでいた時のことだ。

「あれだ!あれが僕の職場……あの電波塔のすぐ隣!!」

休日である事も相まって広い道路に車がびっしりと張り付いている。
下町を思わせる、しかし都内らしく駅周辺は現代的な街並みで綺麗に整備された景色。
そんな駅を越え、やや拓けた土地の、学校や住宅地、そして畑と懐かしささえも覚えそうな街中に突如として現れた電波塔。
その真隣に、パッと見てスタジオだと分かる商業施設が凛とそそり立っていた。


「あの真ん前で止めてくれ!すぐに突入するっ!」

リッキーは街のランドマークでもある電波塔を示す。

「考えはある訳!?」

「勿論だろう!?念の為君も着いて来てくれ!1人じゃ心細い……やや手荒なやり方だからその気で居てくれよっ!」

そう言って着陸したカイリューからジャンプするように飛び降り、駆け出したリッキー。

それを追いかけるようにミナミも必死に走る。
警備の一切が無い無防備な入口をすり抜けるようにして侵入し、広いとは言えないスタジオを駆け回る。

「あれ……?リッキーさん?どうして此処に?」

顔見知りらしき仕事仲間の1人が声を掛けるも、彼は全速力で走っている最中である。
反応する間もなく廊下を走り抜ける。

「リッキーさん?」

「えっ?どうした?」

「大会会場に居るはずじゃ……」

「オイ誰だ!部外者入れた奴!!」

1つ1つのスタジオの前を通り過ぎる度に声が上がる。
ミナミは少し申し訳なさそうな顔をして通り過ぎてゆくと、

リッキーが突然乱立するスタジオの中の1つの扉を開けた。
そしてサッと入る。

「君も入れ!」

怒鳴られたミナミはその言葉通りに行動した後に返事をした。

「そうなんですか〜。ラジオネーム"たーくんママ"さんはこの大会がきっかけでポケモンを始めたのですか〜。いやぁ、影響かなり大きいんですね!」

スタジオの中は当然ながら収録中であった。
放映中の番組に沿ったDJがリスナーの便りを読み上げつつ曲やニュース、そして雑談を交えながら己の職を全うする。

変わり映えしない、当たり前の光景だった。
そんな空間を、1人の男が踏み荒らす。

リッキーは目の合図で「コイツを外に追い出せ」とミナミに送っているようだった。
その次の瞬間。

「ではー、今日のゲストです!現在注目度MAXのー……」

「ハイどもーーー!!お疲れSummer!!大人気DJ注目度MAXPOWERのリッキーでぇぇぇぇーーーす!!」

マイクを取り上げ、電波ジャックさながらにリッキーが番組に乱入。
その声は全国に放送された。

「えっ!?ちょっ……リッキーさん……」

女性DJは彼に思い切り両手で突き飛ばされ、その後すぐにミナミがその腕をぐいと掴み、瞬時に扉を開け、スタジオの外へと放り投げる。
それが済むと鍵をしっかりと閉め、密室空間へと変貌させた。

「ちょっと!!リッキーさん!?何をやっているの!!開けなさい!」

扉の向こうで何度も何度も女性DJがドンドンと扉を叩きながら叫ぶ。
その異変に気が付いた、周辺に居たスタッフ達がぞろぞろと集まってくる。

「いやねー。今日は多摩市の大会会場からではなく、直接スタジオからお送りしまっす!」

その声、その振る舞いはいつものテンションそのままだった。

普通ラジオ番組には台本が存在しない。
基本的なマニュアルのような、必ず言うべき文言を纏めたものならばあるのだが、番組内はDJがゲストやリスナーからのメールやハガキを元にオリジナルで進めていく。

その上で、今のこの非常事態。
占拠したも同然のこの状況において、リスナーに違和感を一切与えない。

本物のプロが、そこには居た。

それをまざまざと見せつけられてミナミは心が震えたのを感じていた。

(凄い……!?こんな時なのに……世界が終わりそうって時なのに……平然としている……。いつものリッキーが居る……!?)

ミナミは破壊されないようにと、扉を押さえつけながらその声をただ聴いた。

「みんなー。見てくれ。今のこの空を……。綺麗だよなぁ。凄いよなぁ!?……まるでカミサマでも降臨しそうな神々しい空だよねぇ……。そんな時に相応しい曲を聴いてみないかー?」

その間に、リッキーは機材を操作する。
とにかく時間の一切を無駄にせんと、告知しつつも目当ての楽曲を探す。

「おい開けろ!!何をしている!」

外から怒号が飛んできた。
役職が上らしい男性が息を切らしてやって来たかと思うと怒鳴りながらドアに突進をかます。
押さえるので精一杯のミナミは、ポケモンの手も借りようと必死な思いで巡らせていた頃。

リッキーの手が止まった。

「それじゃあ聴いてくれー。ラジオネーム"最強な雑魚"さんからのリクエストでー……"オラシオン"」

そう言って、彼の指が何か、"ボタンのようななにか"に触れた。

そして。

ーーー

「おや?何やら外が騒がしいね?」

「議長、これはスピーカーの音ですな」

塩谷利章は、バトルタワーの12階の応接室にて、数多くのマスコミ関係者と共にそこに居た。
突然この建物と会場、そして周辺敷地内のスピーカー音が大きくなったかと思うと、それまで放映されていたFM田無のラジオ番組が誰の耳にも届くレベルで行き渡り出したのだ。

「ちょっと……うるさくないかな?」

塩谷は隣に立っていた議員に苦笑いする。

「私が音を下げてきましょうか?」

「あぁ。済まないね」

去りゆく背中を見つめながら、塩谷は今後の展開を考える。
今も自分が此処でのんびりと大人しくしている間にも戦いは始まっている。
自分が思い描いた未来を現実とする為に、次なる一手を打つ。

その1つが情報統制だった。
現に、日本のメディアは真実を伝えていない。
桜ヶ丘ドームシティで繰り広げられている惨状の一切が闇の中に葬られている。

……その予定だった。

『みんなー。見てくれ。今のこの空を……。綺麗だよなぁ。凄いよなぁ!?……まるでカミサマでも降臨しそうな神々しい空だよねぇ……』

その声に、塩谷は耳を疑った。
異変は先程の議員が去ってすぐに起こった事だった。

(なん……?どういう……事だ?)

決して伝えるべからずと今居る報道各社に固く伝えたはずの事柄を易々と述べ続けている存在がいる。
何処で、どうやって漏れ出したのか。
塩谷は必死に頭の中を探るが答えは出ない。

すると、先程の議員が戻って来た。

「議長!ダメです!ドーム裏手の放送室でないと調節出来ませんっ!」

「その〜……放送室には行けないのかい!?」

「鍵が掛かっています!それから……ポケモンを使う怪しげな者に封鎖されていて近付けません!!」

「何だとっ!?」

塩谷も確信した。

深部の人間が絡んでいる事を。

自身の目論見が自身の駒によって潰えた。
完全に失敗した事実を噛み締めながら、ただ流れるラジオを聴くことしか出来ない。

『それじゃー聴いてくれ。"オラシオン"』

その直後、聖なる調べが奏でられ始めた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.442 )
日時: 2020/01/07 16:23
名前: ガオケレナ (ID: 9/mZECQN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


叫び声が響いた。
それも、1番聞きたくない声だった。

「やられたか……」

いつ出血したのか、自分でも定かでない血で顔を真っ赤にしながらルークは呟いた。
声の方向は先頭。

ちょうど、豊川が進んで行った方向からだ。
そして、紛れもなく彼の声だった。

「ルーク様……今の声はもしかして……」

「考えんじゃねぇ。全部自己責任だ。どうなろうが知ったことじゃねェよ」

「では……あれも無視して宜しいのですか?」

と、レイジは空を指した。
不思議に思い見上げると、

「また何か始まりやがった……」

白く輝く空に開いた天国の門。
そこから、蠢く影があった。
時折、手の指のようなものまで見えてくる。

既に2人は坂を下り、街に着いていた。
それはつまり、豊川を含む前線が市街戦を行っているという事。

しかし、止まる訳にはいかない。

終わりが見えない深い戦いへと身を投じ……。

奇しくも、聖歌が流れたのはそんな瞬間だった。

当然、彼らにそれは聴こえない。届かない。
しかし、"変化"は確実に起きていた。

蠢く指が止まる。
敵意剥き出しの2柱の神の動きもそこで鎮まる。

ーーー

その唄は、届いていた。

天に最も近く、そして神の鎮座する天辺に。

「なに……?これは……?」

レミは突然の変化に驚き戸惑いが隠せない。
'ときのほうこう'と'あくうせつだん'を放つその直前にあったにも関わらず、それらのポケモンの動きが突如として止まったからだ。

止まり方も異常だった。
外から無理やり縛り付けるような力で抑えているようなものでなく、自ら変化に気付いてそれに伺おうとしているような、柔らかい動きだったのだ。

それは確かに、唄を聴こうと集中しているかのように。

"たかだか人に満たないAI"が。
ヒトが造ったモノに揺らいでいる。

「間に……合ったのか……?」

高野は安堵した。
これ以上の救いは無いというほどに。
そして成功した。

ディアルガとパルキアの無力化に。

「ちょっと……どうして……?動いてよ、戦ってよ!!」

「無駄だ。コイツらはもう……動かない」

レミは叫ぶ。
しかし、外部からの侵入を悉く防ぐファイアーウォールの如くそれを受け付けない神の姿があった。

美しき歌は尚も紡がれる。

それに聞き惚れながらも、高野は続けた。

「お前は……ダークライの映画を観た事があるか?」

「はぁ?ダークライの映画?まさか……その通りの結末を再現しようと……」

「違う。だが、あれがヒントになったのは確かだ。……お前は、お前たちはポケモンの事を人工知能だと言ったが、それにしては不自然で、尚且つ不要なものがある。感情だ」

それは、これまで生きてきて見つけた事実。

昨今のSFで描かれる、無感情なAI。
それを否定するかのような、ポケモンと言う存在。

彼らには感情が確かに存在していた。

戦いに傷付けば痛みを感じ、敵を前にすれば敵意、悪意、殺意をぶつけ、そして最愛の人と共に在れば笑いさえ傾けてくれる。

高野洋平の日々が、それを証明していた。

「ディアルガが本当に時間を一方的に進めて敵を倒せば最初からそれをやっていればよかったんだ。だが、お前はしなかった。いや、出来なかったんだ」

時の証明。
それをレミやアルマゲドンという組織が手に持つ量子コンピュータで打ち込む事が出来なかった。

だから、

「お前たちは自分たちで思い描いた時空そのものをディアルガとパルキアという存在で定義した後に証明しようとした。その結果が"タイムラグのあるシンギュラリティの到来"だろ?」

ディアルガは確かに時間を操れる。
しかし、それは、本調子を取り戻してからの話だ。
その本調子とは、シンギュラリティ到来"後"そのもの。

故にレミは、アルマゲドンは神と呼ばれしポケモンを完全に操る事が出来ていなかった。

「そこで俺は考えたんだ。本調子でないのならば、力を振るうにはどうするんだろうとな。そこで脳裏に過ぎったのが……」

バルバロッサが嘗て操った、3体の伝説のポケモン。
トルネロスとボルトロスとランドロスだ。

バルバロッサはこの時、3体の本来の力を超えた"潜在意識"を利用して更なる力を得ていた。

真の力を使えない今、このポケモン達が時空を広げていると言う事は?

拳を振り上げ、殴りかかろうとしてくる人間が居た時、どうやって止められるか。

拳を振り上げるに足る戦意がそもそもな話存在しなければ良いのだ。

そういう事となれば。

「このポケモン達は止められる。その答えが……オラシオンだ」

空が、天国の門が、広がりかけていた時空が止まる。

祈りは終わった。
そして、その祈りは遂に届いたのだ。

ーーー

スタジオからは変化が臨めない。
曲を流し終えたリッキーは、静かに椅子から立ち上がる。

無言で歩き、椅子を尚も支えているミナミの肩を叩いた。

「もういいぞ……ありがとう。あとはいいから、テレポートか何か使って逃げてくれ」

「でも……それじゃあ……」

「いいんだ」

そう言って彼女を扉から離し、自らそれを開けたのでミナミも応じてキルリアを呼び出すと'テレポート'で屋外へと逃げる。

「自分が何をしたか……分かっているんだろうな?リッキー……」

「勿論です……。室長」

明らかに自分よりも立場が上の男を前にしても、リッキーは淡々とそのように言うのみ。
その目には強い覚悟が据わっていた。

ーーー

まず初めに、天国の門が消えた。
その後にディアルガとパルキアが飛び去るようにして消えた。

空も徐々に徐々に元通りの夏の青空へと戻ってゆく。

「そん……な、……。いやっ、嫌ァァァァァ!!!」

「お前らの目論見もここまでだレミ!!お前達がどんな理由を持ってしてこの世界をブチ壊そうとするならば……俺は如何なる状況でも必ず立ち塞がるっっ!それを手土産にさっさと消え去れ!」

頭を抱え、髪をグシャグシャにして半狂乱になりながらも、レミは高野を睨む。
殺意を通り越して怨念をも宿しているようだ。

「どうして……アナタはいつもいつもいつもいつも!!!!邪魔してくるのよっっ!!」

「当然且つ単純な理由だ。何としてでも守りたい人がいる。それだけだ」

その言葉を、彼女は呆然として聞いていた。

なんだ。それではまるで、自分達と全く同じじゃないか。

最愛の父親が目覚めない今。
野望も潰えた今。

父の思想に染め上げられた少女は、止められなかった。
その足を。

高野洋平は静かに歩む。
憎しみを抱いているであろう敵に向かって。

呼び出したばかりのヤミラミを通り過ぎ、どうやっても倒せなかった相手のメガガルーラの横を通り過ぎ、男は少女の前に立つ。

「お前はお前の父親同様……世界を敵にした。失敗し、損害を蒙った今お前は責任を取らなくてはいけない」

尚も歩む。
段々と近づくそれにつられて、レミは振り返らずに後ろへと下がる。

「俺もジェノサイドだった頃……口癖のように言われたよ。この世界は不完全だと。つまらなく汚く、最低な世界だってな。恐らくあいつは……バルバロッサは絶望していたんだろう。その想いは……不幸にもお前たちに受け継がれてしまった」

高野は足をふと止める。
レミも続いて足を止めた。
しかし、片足に違和感がある。踏む感触が無いのだ。

ディアルガとパルキアの攻撃で手すりが吹き飛ばされたせいで端へ端へと追いやられた。

つまり、自分は今落ちる寸前にあった。
レミはそれを自覚した。

「お前はこの世界に絶望しているか?」

高野は問いかける。
しかし、レミは答えない。
全身を震わせて静かに涙を流すのみだ。

「確かにこの世界はクソだ。俺らみたいな人間がどんなに頑張っても、富を得た"支配者たち"には及ばない。どんなに努力しても……どんなに苦しみに打ちのめされても……どれだけ悲しんでも……!!誰も助けてくれない……ッ!此処はそういう世界だ」

「アナタは……」

か細い声だ。
辺りが静まり返った今でも、注意深く耳を澄ましていないと聴こえない声だった。

「アナタは……絶望、している……の?」

「当然だ。でも俺には……使命がある。打ちひしがれている暇は無い程にな。だから俺は生きていける」

訳が分からないといった顔だった。
レミは、年長者の言っている言葉の意味が理解出来ない。

「お前は今から償え。それがお前に課した使命だ」

と、言って。

トン、と
彼女の体を軽く押した。

ーーー

退却命令。

自分たちにそんな情報が流れてきたのは、音楽が止んですぐのことだった。

「目的は成功。戦いは終わったので各々すぐに戻るように」

そんなメールが組織の長から届いた。

「ルーク様!ルーク様!!」

「ンだようっるせぇな……」

「空が!!空が元通りになっています!!」

物静かなレイジが叫んだと思ったら、その通りになっていた。
水に滲んだインクのように、金色の要素が抜けながら、青い空が姿を現してきている。

「まさか……やりやがったのか!?」

敵からの動きも無くなっている。
これ以上進む理由が無くなった今、ルークは現実を確かに受け止める。

ーーー

レミは突き落とされた。
死を覚悟した。

距離がある分、その死は突然ではなく緩やかに来るのだろう。
我ながら嫌な死に方だと思った。

そして、いい人生でも無かったと思い出すかのように巡った。
母親に棄てられてから歯車は狂った。
いや、もしかしたら産まれた瞬間から歯車のパーツが足りなかったのかもしれない。

いつまで経っても死はやって来ない。
恐ろしくて目を開ける事も出来ない。
瞑っているせいで視界は真っ暗だ。
もしかしたら、もう既にこれが死なのかもしれない。

「案外……あっさりしてるなぁ……」

その刹那、驚きと共に目を開けた。
どういう訳か、自分の呟いた声が耳を通して聴こえたからだ。

そして今の自分の状況を理解した。

パルキアが'はどうだん'で吹き飛ばした非常階段。
そこの、破壊されてひしゃげた鉄の網に服が絡まってぶら下がる格好でいた。
まさに彼女は九死に一生を得ていたのだった。

「えっ……生きて、いる……?この世界で……死ねなかった……?」

唐突に涙が溢れて来た。
理想の世界に立ち会えなかった事に。
愛する者の理想を叶えられなかった事に。

そして。

最後に、突き落とされた瞬間に発せられた彼の言葉を理解出来た事に。

高野はレミが落ち始めたその瞬間、こう言った。

『この世界を……もっと深く見ろ。そして見つけろ。それが、お前に課せられた……償いだ』

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.443 )
日時: 2020/01/07 17:05
名前: ガオケレナ (ID: 9/mZECQN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


Ep.7 Epilogue:Lost EDEN

戦いは、終わった。
ディアルガとパルキアの降臨を主とした世界の破滅は、1つの歌で護られた。

高野洋平は本当は此処から動きたくはなかったが、仲間が待っているような気がしたのでポケモンの力を借りて地上へ降りた。

しかし、バトルタワーの入口付近には誰も居なかった。
そこで、更なる面倒みを感じたがバトルドームへ赴くと、今度は予想通りだった。

仲間が出迎えてくれた。
メイからは抱きつかれた。
岡田や高畠からは肩を叩かれたり労いの言葉を貰った。
石井や山背からは感謝の言葉を貰った。

世界は守られた。

ただ、その真実が何よりも嬉しかった。

ーーー

およそ2週間後。

騒動の混乱と破壊に見舞われたせいで、大会は一時休止となっていた。

「えっ!?大会を中止にする!?」

そんな中での、伝えられた告白。

「今メディア界も大変な騒ぎになっているんだ……。あの異変を隠し切れなくなっている。そんな中で会場や施設の復興も終わっていない状況だし、上からは大会中止にする方向でいるそうだ」

「そんな……」

職場を追い出されたリッキーが、たまたまバトルドームへ遊びに来ていた高野らと遭遇し、今に至る。

「でも……この世界が救われたのは、リッキーさんのお陰ですよね?」

確かにこの目で見たんだと強く訴えかけているミナミが彼にそう言う。

しかしリッキーは、

「そう思っていたり理解している人は此処に居る全員だけさ。後の人は何とも思っていないよ」

「そんな……」

自分たちは何の為に頑張ったのか。
これでは、あまりにも報われなさすぎる。

「でもね……。その反面、無視できない声がもう1つあるんだ。それが……」

立ち話をしていた彼らの耳にもそれは伝わった。

大会中止に反対するデモ行進が、まさかのドームシティ内で行われていたのだ。

「君たちと同じように大会中止を受け入れられない人が大勢いる。特に、僕のあのラジオを聴いた人にとっては何で大会が中止になったのか分からないらしい」

「どうにかならないんですか?」

「今室長と話をしていてね。僕を、大会が終わるまでは面倒を見ると言ってくれた。だから多分今色んな人に働きかけている最中だと思う」

なんとも遣り切れない。
複雑で微妙な感情を心に残したまま、ただただデモ隊の主張を彼らは聞いていた。

ーーー

戦いの中で尊い命が失われた。
その事実が重くのしかかった。

高野洋平は二度とは来るつもりでは無かった"そこ"に、来ていた。

デッドラインの鍵。
湯浅ちえみが亡くなった場所だ。

神の到来なぞ知らんとその土地が言っているかのように、何の異変も無いようだった。その前後で、景色が変わっていない。
あの災厄を此処だけ被っていなかったかのようだ。

湯浅が落ちたその地点。
そこに花を手向け、両手を合わせる。

「まるで人が死んだみてェなノリだな……ジェノサイド」

久しぶりだった。その声を聴いたのは。

「ノリじゃない。実際に人が死んだ」

「分かってる。それも、深部とは一切の関わりが無かった一般人だったんだってな?」

ルーク。
既に怪我からは復帰し、しかし松葉杖を片手に険しい道を歩みに此処に来ていた。

「俺やお前の見知った仲間共は無事だったらしいがな」

「知ってる。だからこそ、俺は此処に居る」

「そう言えばお前の学校の友達も俺らの戦いに乱入してたぞ?どう言った指導をしていやがる」

「豊川の件は……済まないと思っているよ。でも、あいつも怪我が無くて良かった」

叫び声が上がったその時。
ルークもレイジも確かに彼の死を予感した。

だが、実際はちょっと違ったようだった。

「アイツが真っ先に空の異変に気付いたらしい……ッたく、紛らわしい声上げやがって……」

急に黙り込んだと思ったら、高野は手を合わせて合掌していた。
彼の声を無視して。

ルークは、やれやれと思いながらも、

『残された人々の心の中で生き続ける限り……それは死ではない』

突然、彼は詩的に呟いた。

「俺の好きな言葉だ。……ところでお前……デッドラインなんだってな?」

高野はゆっくりと振り向く。
悲しげな表情でルークの声を聞いていた。

「つまりお前の軽はずみな行動で、深部はおろかポケモンと全く関係のない女の子が日常世界を奪われた挙句に、お前とお前のお友達を利用しようとした議員の思惑に沿って大会が開かれ、しかも最後にその命を散らした訳だ」

「メイに……教えて貰ったのか?」

「んな事はどうでもいい。問題は、秘密主義なお前のせいで1つの尊い命が失われたという事だけだ」

ルークは近寄り、もう片方の手で高野の胸倉を掴む。

「テメェがこれからする事なんて決まってるよなァ!?テメェの都合で死んだ命だ……。だからお前は心に刻め。誓え。絶対に奴を忘れないとな……」

だからこその、今の言葉。

生きている者が忘れていなければ、その者の志は受け継がれる。
心で生き続ける限り、受け継ぐ者がある限り、その者に死はやって来ない。

その為には忘れない事。

そして、湯浅が望んでいたこと、その想いとは。

「平和な世界……。平穏な日常……」

「それを胸にテメェは生きろ。分かったな」

「で、でも意外だな……泣く子も黙るルークがそんなに丸く……いや、そんな言葉を知っていたなんてな」

「俺の好きな言葉なだけだ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.444 )
日時: 2020/01/07 19:10
名前: ガオケレナ (ID: 9/mZECQN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


涼しい風が頬を撫でた。
大山の山頂にて景色を眺めていた神主、武内は世の移り変わりを肌で感じていた。

2週間前に起こった事件は歴史に刻まれる。
深部の、まだ新しい歴史に。

「有難う御座います。高野さま……。また貴方に救われましたね」

直接その諍いを見た訳でも無いのに、半ば閉鎖された空間である山頂であっても、情報の伝達は成されていた。
ゆえに、彼もすべてを知った者である。

「革命とはいつ起きるものだと思う?戦士の剣の切っ先同士が触れ合って初めて起こるものだと思うか?暗殺者の懐から取り出された短剣から始まるのさ」

不意に後ろから、登山道の方向から1度は聞いたような声がした。

武内は振り返らずに答える。

「そろそろ来る頃かと」

「その割には無防備すぎやしないか?俺様は言葉通り剣を携えているぞ?」

武内は物覚えが良い方ではない。
だが、1度起きた衝撃的な経験と言うものは記憶に残りやすい。

「私は貴方がどなたが御存知でいますよ?」

忘れもしない。
途轍もない経歴を持ちながら、キーストーンを手に入れた際は適当な情報で監視から逃れた悪者の中の悪者。

「すべて話せ。お前……俺様の情報を誰かに売っただろ?」

「あぁ?やはりあれは貴方だったのですね。どうしてもと言うので仕方なく……」

「殺してやろうか?」

その鋭い刃物のような一言で武内は口を閉じた。

「何処で俺様の本名を見つけ出したのやら……このせいで予定よりも早く動く羽目になったぞ?」

「遅いよりはマシです」

「黙れ。死にたくなければ言う通りにしろ。俺様の話を誰にした?」

「……その前に私からも宜しいでしょうか?」

男は懐から短剣を取り出した。
陽の光で先端が眩い。

「貴方はこれから……何処で何をするおつもりですか?」

「復讐と部族の再興。それだけだ」

暗殺者は近寄り、そして剣を振るう。
復讐の第1歩が今、踏み込まれた。


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