二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.415 )
日時: 2019/11/12 15:05
名前: ガオケレナ (ID: DXOeJDi3)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


はじめに流れた映像に。

メイは咄嗟に、体を避けるような仕草をした。
何故ならば、突然眼前に人の足が、蹴りが迫ってきたからだ。

「えっ……?なに?これ……」

メイはまず最初に戸惑った。
高野の記憶の映像ならば目の前で映り、その中で話が続いている。
だが、その映像の見え方に問題があった。

視力を使って、目の前の煙の塊の中にある動画を見ている訳では必ずしもなかった。

頭の中。

まるで、直接脳内に届いている感覚。
視ている訳ではなく、脳で見ている。
物で例えるならば仮想空間だろうか。

現実ではないのに、現実だと錯覚させてくる。
分かっているからこそ、段々と気分が悪くなってくる。

これがムシャーナの力なのか、記憶を覗く結果こうなっているのかは分からない。
だが、こうなってしまった以上、彼の記憶を見る義務があるように思えてきた。

本人の意思に反し、それは続く。

ーーー

『とっとと死ねや雑魚!』

『早くくたばれクソが』

浴びせられる罵声と暴力。

彼の記憶の始まりは華々しいものでは無かった。
そこにあるのは言葉と力による暴行、傷害。即ち、いじめの現場だ。

ーーー

「待って……視点が……」

メイの戸惑った理由の1つ。
見えてくる映像の視点にあった。
そこに見える人の顔は知らないもののみ。
それも、どこかに幼さが見える。
決してその中に高野洋平は居ない。

人の虐めている現場を第三者視点で見ているものではなく、明らかにそれは被害者からの視点だったのだ。

(じ、じゃあ……これは……レンが虐められている場面!?)

ーーー

雰囲気や風貌を見るに中学生の頃の記憶のようだ。
その割には容赦という物がなく、飛んでくる言葉にも子供特有の優しさや甘さ、幼さが無い。

好奇心や趣味で動物や虫を殺す感覚に近いものがあった。

廊下の端に追いやられ、殴打と蹴りが続く。
だが、数分もすればそれらは止んだ。

チャイムが鳴ったからだ。

時間的に昼休みと午後の授業の合間。
その内の昼休みの終了を告げ、授業の準備をさせるためのものだ。
でなければ、さも余裕そうに平然と教室の外を歩いている人が少なくないのもその事から読み取れる。

そこでも異変を感じた。

何人かの生徒が明らかに"彼"の前を通るのだが、誰もが見向きもしない。
怪訝そうな目を向ける事も無ければ声を掛ける者も現れない。

その光景が生徒たちにとって当然の場面だったからだ。
"彼"が暴力を受け、晒しの目に遭っているのがその学校の日常であるから、誰もがおかしいと思わない。
決して素通りする人がおかしい訳ではなかった。

それらの生徒たちも、自室に突然ゴキブリが出てきたら叫ぶような人間である。
"彼"の記憶という物語で構成されている人物に、そういう意味でのおかしい人は居なかった。

ただ1人を除いて。

『あの……大丈夫、ですか……?』

それは、知っている顔だった。
同じクラスの人間であるにも関わらず敬語。
よっぽど"彼"がクラスメイトとのコミュニケーションを取っていないかが分かる。

その1人の少女は、大して仲も良くなければ大して会話すらもしない"彼"に手を差し出す。

だが。

『いいよ、1人で起きれる』

"彼"は恥ずかしさからその好意を拒否した。

それからは何事もない風景だった。
先程の虐めが嘘であるかのような日常。
その中で"彼"は普通に授業を受け、普通に掃除をして普通に家に帰り、普通にゲームで遊んでいた。

ーーー

「2007年……今から8年前の記憶を見ているの?私は……」

「一体何処から遡るつもりだ?コイツは常にこんな事を考えながら生きているのか?どーでもいいんだよ、深部と関係ない記憶なんざ」

ーーー

彼の日常に少しの変化があったのは、春になり学年が上がった時だった。

いじめがピタリと止んだ。
仲のいいクラスメイトにも恵まれ、それなりに人と会話する事も増えてきた"彼"の姿があった。

理由は単純だった。
いじめの首謀者とその片割れらと、クラスが離れたからだ。
しかし、それは"彼"にとっても良い意味でも悪い意味でもさほど覚えていなかったせいか、その1年はあっという間に過ぎ去っていく。

ちょっとした変化があったのは、それから翌年の中学3年の冬に差し掛かろうとしていた頃。
2学期の終わり頃か。

友人が1人増えた。

きっかけは些細な事だった。
昼食時にクラスの唯一の友達と食べていた時、その友達が他の人と、しかも女子と一緒だったので割り込み同然でその輪に入ったことだった。

『へぇ〜。白石と高野って家近いんだ〜』

『そ、そう。だからかな?小学校の頃からよく遊んでたよ』

その友達となった女子の顔に見覚えがあった。
2年前、"彼"のいじめに唯一助けの手を差し伸ばしてきたその少女だった。

『おーい、島崎。お前放課後音楽室で集まりあるからな?忘れるなよ?』

『うん!大丈夫!』

ーーー

「少女の名前が分からないけれど……島崎って呼ばれていたわね?」

メイの脳に、絶えずその後の話が続いてくる。
"彼女"に声を掛けたのはクラスメイトの男子。
音楽室の集まりとは委員会の事で、その男子と"彼女"が同じ委員会に所属していた、という本当にどうでもいい事である。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.416 )
日時: 2019/11/12 16:44
名前: ガオケレナ (ID: DXOeJDi3)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


本来、中学時代に生まれた友情とは、その後はどうなるものだろうか。
何も、中学時代に限った話ではないのだが、その大半は環境が変わって少し経てば風化していくものではないのだろうか。

だが、"彼"の場合、それは違った。

『よっしー!やっと来たぁー!』

"彼"は"彼女"からあだ名で呼ばれる程仲が近くなっていた。
既に中学を卒業し、新たな環境にそれぞれ身を置いて2ヶ月。
しかし、彼等はかつての友情そのままであった。

『ねぇ、よっしーって何処の高校通ってるんだっけ?』

『俺?俺は……隣町の境あたりにある高校だよ。皆とは真反対じゃないかな?』

『白石は?』

『僕は私立。だから都内だよ。神東商業高校ってところだよ』

『じゃあ私だけなんだねー。この街の高校生は』

『いや、俺も境ってだけでギリギリこの街だから』

傍から見てもその仲は親密そのものだった。
ある時にはそのメンバーの中の誰かの誕生日を祝っていたり、お互い離れているにも関わらず、それぞれの高校の文化祭に寄っている景色も流れてくる。

だが、一見平和に見えるその光景も、この後の大いなる変化に翻弄されるのは明らかであった。

ーーー

「そろそろ来るわ……"歓喜の誕生"が……」

「待たせすぎだ。下らない記憶ばかり持ちやがって……」

メイと倉敷。
2人の観客を相手にした映画はまだ続く。

ーーー

今日もゲームに変化があった。
"彼"は、下校中に寄ったゲーム屋にてWiFiを繋いで海外のポケモントレーナーと交換したばかりだった。
それから、ある変化に気付いた。

それまで行けなかったマップに、地点と名称が加わっていたのだ。

『ユナイテッド……タワー?なんだ?それ』

"彼"は知らなかった。
地球儀に新たに登録された国、地域が出てきた場合、そのトレーナーに会えるマップ"ユナイテッドタワー"に行けるようになる事を。

「グアドループ島の人かぁ……どんな所なんだろうなぁ……」

家に着き、ベッドに横になりながらゲームをしている"彼"。
夢中になってシナリオを続け、ジムバッジを幾つも手に入れていると、いつの間にか日が落ちていた。

もうそんな時間かと"彼"は寝転がっていた体を起こす。

その瞬間。狭い家に絶叫が響いた。

その日の日付は2010年9月20日。

歓喜の誕生と後世呼ばれた、ポケモンが実体化した日だ。

初めて見たその時こそ多少の恐れという感情があったものの、徐々にそれは失せていく。
代わりに、喜びや楽しみといった別の思いが芽生えてきた。

ゲームのデータの実体化のはずなのに、確かにそれには触感があった。
重みがあった。感情があった。そして、命があった。

小さな頃に夢見た、"ポケモンとの共存"が叶った瞬間でもあった。

しかし、当時はポケモンが突如世に現れた混乱期。
その力を別の意味で利用しようとしている者が特に闊歩していた時代。

その刃は、"彼"にも迫ろうとしていた。

『……?うっ、うわあぁぁぁぁ!!!』

突然だった。

ゾロアを連れ、見慣れた街を歩いていた日だった。
ただ、歩いていた。それだけで。

死角から突然、ゲーム機を手にし、パルシェンを従えた男がこちらに向かって猛ダッシュをしてきたのだった。

『ポケモンを持っている奴だ!問答無用で殺っちまえ!!』

パルシェンの'つららばり'が全身を鋭く刺してゆく。
存在だけでなく、技そのものも実体化されている。
しかし、そんな事を思える程の余裕を持てていない"彼"は、両手と両足、そして胸に5本の氷で出来た破片をその身に受け、今度は5つの岩の塊をその顔で受け止めると、地に倒れた。

ポケモンを持っていようがいなかろうが、無差別的に彼らの様々な欲や多くの目的。それらを満たすためだけに犠牲になった人々が居た時というのも、確かに存在していた。
後に彼らは"暗部ダークサイド"と呼ばれる形になって。

ある程度の攻撃が止んだ時、"彼"は生まれて初めて自覚した。
自身の死を。
死ぬ瞬間とはどんなものなのかを。

『ポケモン持ってる癖にあっけねぇなぁー?金持ってんのかなぁ?こいつ』

自分を今正に死に至らしめんとしている男が、そう言いながらこちらの顔を覗き込む。
死ぬ間際でも眺めていようというのだろうか。

だが、次の瞬間にはその男はそこには居なかった。居なくなったのだ。

突如現れたオノノクスに思い切り全身を切り裂かれ、"彼"が死ぬ前にその生を終えたせいだ。

自身の後ろから新たな声が聞こえる。

『大丈夫か……?まだ生きているだろうな、お前さん……』

しわがれた、老人の声。
遂に幻聴も聞こえてきたかと思ったが、離れつつあった意識がそこで戻りかけてゆく。

『安心しろ。もう大丈夫だ。お前さんを狙う不届き者はもう居ないからな……』

顔が見えた。

日本では、お洒落な雑貨屋か輸入品を扱っているお店でしか見れなさそうな煌びやかなオリエンタルなイメージを持たせる服に、長く白い髭。

その現実離れした姿に、やはり自分は幻でも見ているのではないかと朦朧とする意識の中でぐるぐると渦巻くが、そのまま何処かへと連れていかれ、次に目を覚ました時に見た光景を見てそれはやはり間違いだったと気付かされる。

『おや、お目覚めかい?』

自分を助けてくれた老人が優しい眼差しでこちらに来た。
どうやら、"彼"は老人の家か何かで寝かされていたようだった。
横になった時の感触も柔らかい事から、ベッドの上のようだ。

『俺は……どこで何をしているんだ……?』

だとしても、自分の身に一体何が起きたのか全く分からない。
混乱したまま、"彼"は問いかける。

『あなたは何処の誰で、俺は何をしていたんだ……?』

『まぁ待て。ゆっくり、1つひとつ話していこう』

自分が殺されそうになった所を救われた。

これが、後に巨大組織となる"ジェノサイド"のリーダーと、"彼"を補佐する男、バルバロッサとの出会いだった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.417 )
日時: 2019/11/13 16:34
名前: ガオケレナ (ID: twODkMOV)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


それから、"彼"の深部生活が始まった。
なんでも、今はポケモンの力を利用して悪さをする人間が多いらしい。

『お前さんにとって、ポケモンとはどんな存在だい?』

『どんな存在って……』

『孤独な自分を埋めてくれる愛玩動物ペットかい?人1人では難しい仕事もこなしてくれる仕事仲間かい?それとも、ゲームの中で冒険を進めるにあたって活躍してくれる相棒かい?』

『な、なぁ……何が言いたいんだ?』

『現実はどれも違う。そんな幻想を置いてけぼりにするほどの真実。周りを見てみろ。誰もが気軽に手に入れられる生物兵器だ。これのせいで、なんの罪も無い無垢の民たちが命を奪われ、平和を脅かしている』

『……』

『ならば、我々がすべき事は?お互い救われた者同士、救われぬ者に救いの手を差し伸べるべきなのさ』

『分かったよ……やるよ。その、ナントカってやつに……』

深部ディープサイドだ。お前さんはこれから、闇に生き、光のために為すべきことを為すのだ。覚悟はいいな?』

大仰な事を言われたものの、仕事は簡単だった。
街で暴れている人間をその場で捕まえるだけだった。

ある時は見知った駅で、ある時は人の流れが激しい繁華街で。

事ある毎に"彼"は深部の人間としての役割を担っていた。

『対象者はその場で処分しても良し。生きたまま捕まえて議会に引き渡すのも良し。お前さんの自由だ』

『じゃあ、人が死ぬ所は見たくないから生け捕りで』

彼の信念は確固たるものだった。
その言いつけをこの時も、そしてこれからも守るのであったのだから。

記憶の場面が急展開した。

それは、"彼"が坊主頭の大柄な男に絡まれたところから始まる。

『おうおうおう!!テメェどこに目ぇ付けて歩いてんだ!?おぉん??』

『ごめん、急いでてー……』

『ゴメンで済ますと思うかゴルァァ!者共、やっちまうぞゴルァァ!!』

"彼"は大柄な男とその取り巻き数名に囲まれる。
だが、彼は既に身に付けたアイデンティティーとも言えるべきポケモン、ゾロアークを従え、彼らと戦う。

結果は言うまでもなかった。
悪タイプだと油断した彼らは、カイリキーやその他格闘タイプのポケモンを使うも、そのすべてが'カウンター'の前に散る。

『ひ、ひぃぃーー!!悪かった、許してくれ……生きる為にはこうするしか無かったんだ……』

『お前も他の暗部ダークサイドのヤツら同様、放っておく訳にはいかない。殺しはしないから、このまま議会に引き渡す』

『や、やめてくれ!!俺達が議会なんかに連れてかれたら……それこそヤツらに殺されちまう!』

"彼"は少しばかり困った。
ここまで命乞いされるのは初めてだったが、彼等も訳あってそのような生活をしている節があったからだ。
確かにその誰もが身に付けている服はボロボロで汚く、日常的に風呂に入っていないせいか悪臭も酷い。

このまま貧しい人々を議会という名の保健所に連れて行って殺処分しても良いのだろうかと。

『お前さ……俺の仲間にならないか?』

『へっ?』

『俺と共に、深部組織を名乗って今のお前らのような人間を取り締まるのさ』

ーーー

「そうやって……あなたは仲間を増やしたのね……」

「ジェノサイドの馴れ初めだと?そんな物を俺は求めていないんだが」

相変わらず不満を漏らす倉敷を横目に、メイは真剣な眼差しで見続ける。

ーーー

『ケンゾウ、ハヤテ、居るか?行くぞ』

『ハイ、リーダー』

『ハイっす!』

彼の元には50を超える同志が集っていた。
仲間全員で掟を共有し、治安の改善の為、自らの生活の為、任務をこなす。

『随分と賑やかになってきたな?』

『やぁ、バルバロッサ。まぁ、これも1つの手かなと思って』

部屋の奥から、バルバロッサが姿を現す。
屋内でも、その格好は健在だった。

『救われぬ者に救いの手を。バルバロッサが教えてくれた事だろ?』

『まさか生活苦の暗部の人間を引き入れるとは……お前さんの性格の良さにはただただ驚くばかりだ。……だが、気を付けろよ?裏切られても知らんぞ』

『仲間を信じているからヘーキヘーキ』

場面は変わってゆく。
それはまるで、走馬灯のように多くの出来事が、続々と、そして早々と過ぎ去ってゆく。

『暗部が消滅……?』

『そうだ。これで1歩、世は平和に向かったぞ』

『やったぞぉぉ!!みんなぁぁ!!!』

ーーー

『大変ですリーダー!!我々の基地が攻撃を受けています!!』

『くそっ、やむを得ない……ここを捨てて別の住処を見つけよう……』

『八王子の林の中に、良い寝床を見つけました!棄てられた工場の跡地です!』

ーーー

『よぉ、高野ちゃんよぉ……お前、深部組織の"ジェノサイド"らしいなぁ……?』

『なんで……クラスメイトのお前が……俺と戦わなきゃならないんだよっ塚場ぁ!!お前は……俺と同じクラスの……友達だったんじゃなかったのかよぉ!!』

『ザーンネン。俺もお前と同じ深部の人間でしたってね。ところで今、この環境が……世界がどうなっているか知ってるか?』

ーーー

『塚場!!俺は決して人を殺さない!それは組織を作った時から……そして今になってもこの気持ちは変わらないっ!!』

『掟に従え!半端な気持ちで戦うな!!どんな御託を並べても俺もお前も深部ディープサイドだろう?命を差し出す覚悟を持って戦え。……俺は、この通り……持ったからな?』

ーーー

『お願い……高野……私の友達を……助けて……』

『お前の友達は今何処にいるんだ……?ポケモンを使っている奴に捕まっているんだって?場所を知っているなら教えてくれ、今すぐ助けに行く!!』

ーーー

『ごめん……高野。ウチ、深部ディープサイドなんだ……。高野を……ジェノサイドを殺す為の……人間なんだ』

『だったら、お前ごと救ってやる!黙って俺と戦って負けやがれ!!』

『見事だジェノサイド。見知った同じ高校の女子高生を救わんと戦ったその姿はまさに勇ましい。だが、これはゲームだ。この女がお前を殺すか、お前がこの女を殺すか。道は2つに1つだ。選べ』

『だったら俺は……お前を殺す。こんな気味悪い殺人ゲームを楽しんでいる奴を……俺は見過ごす訳にはいかねぇ!!』

『そこまでだお前さん。あとは私に任せておけ。此処は大人の話し合いと行こうじゃないか』

ーーー

『Cランク?俺達が?』

『そうですよ!リーダー!遂に我々"ジェノサイド"は組織のランクがCになりましたよ!』

『そうか……じゃあこれからもっと狙われるだろうし、頑張らないとな』

ーーー

『高野、お前正気か?春の学年旅行の合間に現地でAランクの人間倒すなんて……』

『滅多にないチャンスだ。このままAランクの人間倒して、俺達がAランクになろう』

『この期に及んでCランクの餓鬼が儂の前に現るとは……良い度胸だ』

『引っ込んでろ"ジェノサイド"。コイツはこの俺"ゼロット"が前々から狙っていた標的。雑魚のガキは大人しく引き下がってろ!』

『雑草を抜く感覚で人の命を奪う奴なんかを知らんぷり出来るかよ!!こればかりは許せない……俺がお前をぶっ倒してやる!!』

ーーー

そこに映るのはそれまで彼が戦ってきた猛者たちの姿。
隣の席の友人から、同じクラスの大人しめの女子だったり、Aランクに恥じない風格を見せる大男。
組織間抗争が激しくなった時期の、彼の生きた記録。
彼と彼のポケモンが紡いできた戦績だ。

「これらの戦いを元に……あなたは最強の座に近付いていった訳ね……」

メイは記憶の中の高野の生身の体に傷が付く度に目を逸らす。
それは、余りに生々しく、そして自らが傷付いているかのような錯覚を与えてくるからだ。

そして、その記録は思わぬ方向へと進んでゆく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.418 )
日時: 2019/11/16 16:10
名前: ガオケレナ (ID: GbYMs.3e)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


それは、偶然から始まった。
"彼"も突然の事で動揺していたようだ。
その証拠に、心臓の音が強く、速く、響いてくる。
ただ、"彼女"に遭遇しただけで。

2011年10月。
忘れられる訳がなかった。

『あれ……?よっしー?』

懐かしい声が自分を呼んだ気がした。
思わず後ろを振り返ったり、辺りをぐるぐると何度も回ってしまう。

そして、遂にその姿を見つけてしまった。

『島……崎……?嘘だろ?久しぶりだなー』

冷静に考えれば、2人が出会ったのは地元で尚且つそこそこ発展している駅である。
中学、高校の友人や知り合いに出会わない方が珍しい位だ。

"彼"は、此処で遊びに来た風を装ってはいるが、実際は此処に潜伏していた敵対組織の長をたった今倒して来たところである。
そんな"彼"の組織、"ジェノサイド"は既にAランクになっており、周辺の声も無視出来ない位に大きくなってしまっていた。
そんな中での出逢い。

"彼女"から見れば1年ぶりの再会。
"彼"からすればタイミングの悪すぎる幸せのひと時。

いつか出会いたい"彼女"だったが、今この状況ではあまり宜しいとは言えない。
どうにかして、改めて約束の1つでもしておこうかと思っていた頃。

"彼女"が突然泣き出した。
その理由は無いに等しいぐらいの、"感情の高ぶり"。

だが、"彼"にとっては見過ごせない一面。
勇気を振り絞って恐る恐る聞いてみる。

『白石とかから、色々聴いたんだけど……。島崎、お前の身に一体何が起こっているんだ?』

溢れる涙を拭いながら彼女は応えた。

とてもシンプルで、とても難解な"それ"を。

『あたしね……大切な人に裏切られちゃったんだ』

ーーー

基地に帰った"彼"は怒りを覚えながら、しかし苦しみ悶えながら自室のベッドに飛び込んだ。
今、自分のこの感情を何処にぶつければいいのか分からないでいる。

『大切な人……?裏切り……?島崎、お前まさか……』

『彼氏に……"お前はつまらない女だ"って言われて……別れられたんだ』

"彼女"の言葉が頭に焼き付いて離れない。
今日1日で"彼女"の身の回りに起きた事の情報の多さに捌ききれない。

"彼"は1人暗く冷たい自分の部屋で、頭を抱えながら呟いた。

『島崎は……高校の部活で彼氏と出逢い、付き合い始めた……。でも、弄ばれただけで挙句の果てに"つまらない女"だと……?クソふざけた事ぬかしやがって……』

その事実が、"彼"には辛かった。
これまで決して言えなかった、"彼"の本音。
勇気が出ずに言えなかった本心。

"彼"のこれまでの人生で出会った、何処の誰よりも可愛くて、綺麗で、そして美しい人。

誰も助けてくれない中、天使の慈悲の如く救いの手を与えてくれた、人の心の割には綺麗すぎる心を持ってしまった人間。

そんな人を罵倒し、侮辱し、見捨てた男が居る。

恋を通り越して愛に似た感情を持ってしまった"彼"の見出した"とある決心"は揺るぎないものだった。

一方的且つ、歪んだ愛だと気付く事もなく。
自分こそが正義で、相手が完全な悪だと自身の心の中で決めつけて。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.419 )
日時: 2019/11/16 17:12
名前: ガオケレナ (ID: GbYMs.3e)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


翌日。

"彼"は珍しく、そして人生で初めて学校をサボった。
目的のため、出掛けるためにだ。

『島崎の学校の場所は……知っている』

名前を何度か聞いたことがあった。
場所は携帯で調べるなり、古典的な方法では駅に立てられている周辺MAPでも見れば分かることだ。

『クソ野郎の顔は……覚えている』

"彼"の記憶は色褪せなかった。
いつか来てくれた高校の文化祭にて、"彼女"が連れて来ていた男。
彼こそが"彼女"を裏切った男。

もう後戻りは出来ない。
ゆっくりと、正義と罰を胸に誓って"彼"は何の変哲もない平日の昼間に、目的の地へと進み続ける。

ーーー

その日はいつもと何の変化も無い、文字通りの日常だった。

島崎しまざきかなでは授業の合間に、クラスの友人と笑い話の1つでもしながら次の授業の準備を始めるためにノート類を机でトントンと叩く。

そんな時の、友人の言葉に、胸が突き刺さった。

『かな〜。アンタあれから大丈夫?もう忘れられた?』

『あ、うん……もう、大丈夫……』

『あ、ごめん。もしかして思い出させちゃった……?』

『いや……そうじゃなくて……』

"彼女"もまた、罪を1つだけ犯していた。
それは、同情して欲しかったから。慰めて欲しかったから。憐れんで欲しかったから。味方が欲しかったから。

事実のある事ない事をでっち上げて1人の友人の心を惑わせてしまった事に多少の罪悪感を抱いていたのだ。

『あのね……あたし……』

友人にそれを打ち明けようと声を発したと同時、無駄に響く階段を駆け上がる何者かの足音に意識が向くはずも無く。

『オイ!今なんか学校内でポケモンが暴れてるらしいぞ!』

どこかの誰かの疑わしい噂話。
しかし、たったそれだけの情報であるにも関わらず、"彼女"は異常なまでの胸騒ぎを覚えた。

ーーー

『はぁっ……はあっ……ッ!!』

彼は走った。
夢中で、辺り構わず駆け回った。
いつかどこかで会ったらしい人が、突然鬼の形相でこちらを睨んだかと思うと、そのズボンのポケットからポケモンが飛び出てきては彼の腕を裂いたからだ。

自分の腕から血が吹き出るという、珍し過ぎる光景に自分も周りもパニックを引き起こす。
理性が追い付いた時、彼は自分が叫びながら校舎内を走り回っていた事を理解する。

後ろを振り向けば"彼"が相変わらず人でも殺しそうな顔をして追って来ている。

"彼"は部外者のはずなのに、誰も"彼"を止めようとしない。
"彼"は不審者のはずなのに、誰も"彼"を追おうとはしない。

自分は血を流しながら助けを求めているのに、誰も救ってはくれやしない。

視界が捉えたのは、基本閉じられている屋上の扉。
開くはずもない扉がその日、開いてしまった。

理由は1つ。

後方から"彼"が、"彼"のポケモンの放った技が扉を物理的に破壊したからだ。

彼は外へ投げ出される。
そして、追い詰められる。

後ろからゆっくりと、"彼"が忍び寄ってくる。
ジリジリと、ジワジワと。

『お前……誰だよ……っ!何で俺を狙うんだよ……!』

『島崎奏。コイツを知っているよなぁ?』

"彼"は裏の世界でしか見せない顔を、表の世界の住人に向ける。
裏の惨劇の一切を知らない、一介の男に。

『島崎……?あぁ、アイツか……。アイツとなら別れたよ』

彼は息を切らしながら淡々と事実だけを述べる。
決して誇張などが存在しない、"真実"を。

『何であいつを捨てた……?つまらない。そんな理由で捨てて良い理由があるのかよ!!』

『……なぁ、お前何なん?俺らの話にカンケーないよな?何で割り込んで……』

『他の誰よりも美しくて誰よりも優しいアイツが……幸せになるべき人間が……何でよりによってお前みたいなクズに好きなだけ遊ばれて捨てられなきゃならねェんだよっっ!!!』

"彼"は反論の余地を与えない。
例え必死に弁論していようと、例えどんなに真実や常識を述べようとしても、その瞬間そのものを許さない。

"彼"の心の奥底にあるのは、

"彼女"を侮辱したことへの"怒り"。
"彼女"を否定したことへの"失望"。
"彼女"と付き合っていたという事実への"嫉妬"。
そして。
"天使"と崇めていた"彼"そのものに対する否定への"怨み"だった。

『アイツは……本当に素晴らしい人間なんだ……。人間という枠組みに当て嵌めていいのかと思うぐらいに……綺麗なんだよ……?そんな人が何でお前と恋人になれた?お前がアイツと同じぐらい美しい人だから?違うよな?一方的にお前がアイツに好意を抱いて、お前が一方的に捨てた!ただそれだけの事だろ!!お前に出来て俺に出来ない事が何よりもおかしくて許せねぇんだよぉぉっ!』

"彼"の自己中心的で、幼稚で、信仰を否定された事への心の叫びは続く。

『アイツが善ならお前は悪だ!悪はこの世にあってはならないし、善を汚した事こそが大罪!お前はこの世の誰よりも真っ黒な大罪人だ!!』

"彼"は無意識なまでにポケットから別のモンスターボールを取り出す。
出てきたのは、最近育て終えたゴルーグだ。

『大罪人は……アイツを汚した人間は……この場で今すぐ死ね』

命乞いはさせない。

"彼"はまず、ゴルーグにその大きな拳で1発殴れと命令する。
心のないそのポケモンは実直なまでに従う。

巨大な拳は彼の顔と接触すると、その小さな体は屋上のフェンスへ、つまり、中心地点から端へと飛んだ。

全身がフェンスに打ちのめされる。
顔から、鼻や口から血が溢れ出る。

力が抜けて伸びたところを、"彼"は見逃さない。

『足を掴め』

ゴルーグは、片足を左手で掴むと持ち上げた。
人1人の体など、楽に浮かせてしまう。

『回せ。思い切りな』

ゴルーグはその手を、腕を回し始めた。

例えるなら、濡れたタオルをぶん回す光景。

それに全くそっくりであった。
この時、タオルと人の命が同等になってしまっただけで。

いつしか、回転が止む。
彼の足が少しばかり歪んでいたように見えたのは"彼"の錯覚か、記憶の誇張か。
ただ分かったことは、彼の意識が抜けかけていたことだった。
まともな息が出来ず、体のあちこちが痛みを発している。
どうして自分がこんな目に遭っているんだと思いつつ。

そんな彼の耳に、止めの一撃が放たれた。

『よし、ゴルーグ。此処から投げ捨てろ。その際、頭を思い切りフェンスにぶち当てながらな?』

語尾が若干笑みを含めていた事以外、覇気の無い言葉。
遅れつつある脳の処理機能がその言葉の意味を理解しようとした時、

彼の視界は闇に包まれた。

ーーー

遂にやった。

"彼"は忌々しい血を浴びながら何とも言えない達成感に包まれる。
これでまた1人、悪を滅ぼした。
目標を終え満足気に、帰ろうかと身を翻す。

目の前には、一部始終を見ていた、"彼女"の姿が有り。

『えっ……?』

『あっ……、えっ……。よ、よっしー……。なん……で?』

その声は震えていた。
上手く呂律が回らず、本来言うべき言葉が言えない。
その細い足は震え、顔も真っ青だった。
だからだろうか。

"彼"にはその姿が、その光景が、その言葉が忘れられないでいた。

『なん、……で?そんな、事したの……?よっしー?』

"彼女"は動転してその場で泣き出した。

"彼"はどうしたかと言うと、

『な、なんで……?何で泣いているの?』

その問いに、"彼女"は答えない。

『裏切ったクソ野郎を……なのに、なんで……?笑わないの?』

"彼"の感情にも大きな揺れが起き始める。

『なんで……。何であんな奴に対しても……泣ける……の?』


決して直せない過去。
たった今舞い戻った理性、良心。

大きな過ちを犯した"彼"もまた、その場で声を上げて泣き始めた。


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