二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.335 )
- 日時: 2019/02/28 11:43
- 名前: ガオケレナ (ID: DWh/R7Dl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ドームシティの混雑具合はこれまで来ていたプレオープン時とは比べ物にならない程であった。
辛うじて歩けるスペースがあるものの、周りに見えるものは数多の飲食店やその他の店などではなく、人の頭である。
「岡田……普通にエグくねぇか?これ」
「ヤバいな……多分ドームの中は歩けないと思うよ?」
現在時刻は9時50分になろうとしていた。
もう少し早く歩くべきだったか?と一瞬思った高野だったが、ここまで混雑していれば時間通りに開会式が始まるとは思えない。
むしろこのままゆっくり歩いていても10時丁度にはドームに入れそうである。
高野は岡田と二人で目視で確認しながらそんな風に言い合う。
ある種の行進を続けていた高野と岡田だったが、1つのコンビニを越えた辺りだっただろうか。
高野は、自分の名が呼ばれた気がした。
しかし、どこを見ても見知った顔は隣を歩く岡田以外に見当たらない。
後ろを見ても黒い頭が見えるのみ。
東の方角にも、西にも、それは同様だった。
気のせいかと思い探すのをやめた高野は変わらないペースで静かに建っているドームへ視線を戻した時。
突然、左腕を掴まれた。
「えっ?」
「やーっと見つけた!あなたを探すのにどれ程苦労したと思っているの!?」
デッドラインの追っかけことメイだ。
やはり先程のは気のせいではなかった。
彼女の背が周囲に埋もれていたせいでその存在に気が付かなかっただけだった。
「もうルークも待っているわ。特に確認の作業は無いけれど急ぐわよ」
「ちょ、待てって!別に開会式があと10分だとしても参加選手は決まった場所に居なきゃいけないとか、そう言うのは無いだろ?」
「無いけれど、コレが終わればすぐに予選は始まるわ。簡単な準備位は済ませておきなさい!ほら、行くわよ。もうあなたの友達とやらも来ているわ」
「香流と豊川も居るのかよ!……あの野郎、俺への連絡より先にこっちに来ていたとは……」
忌々しくスマホを開くとメッセージが何件か届いていた。
30分ほど前に香流と山背から似たような中身のメッセージが届いていたようだったが、その時彼は自分の昔話に夢中になっていた頃である。気付くはずもなかった。
「……まぁ、いいや。ってかそうだ、岡田!」
高野はメイに引っ張られて遠ざかっていく岡田に対して叫ぶ。
「今誰か居るか分からないけれど石井とか高畠あたりに連絡してみてくれ!もしかしたら此処に居るかもしれないから合流してもいいかもな。悪いけど俺は此処で!!」
「あぁ、頑張れよ」
岡田はと言うと人を見送るようなにこやかな顔で彼の姿が人混みに埋もれるまで手を振り続けている。
「なぁ、メイ」
「なぁに?」
二人は人混みを掻き分け、時には突っ込みながらも先を急ぐ。
何故かメイは常に高野の腕を掴みながら先を進んでいるのだが。
「流石に開会式が終わっていつ頃に俺らの試合があるのかってまでは分からないよな?」
「分からないわね。私はすこーし裏事情に詳しいってだけで、運営については何も。でも、何戦か前には私らの番号でアナウンスが流れるからそれを聞いていれば問題ないわ。3戦前かららしいから余裕もあるだろうし」
「それならいいけどよ」
外もそうだったが、ドーム内も相変わらずの混雑具合であった。
その混み具合はラッシュ時の都内に位置する駅をも思わせる。
視界にまず初めに映った長椅子に彼は居た。
「……やっと来たか」
「友達とお喋りしながらゆーっくり歩いていたわ。別に悪い事ではないのだけれど」
「悪い、待たせたみたいだな。ルーク」
軽く睨まれた気がした高野はまずそのように言って反応を伺う。だが、ルークは鼻で笑うだけで特別反応は無かった。
「それじゃあ私たちはどうする?開会式と言っても何も参加者は此処に居ようが観客席で眺めてようがコートに出て直接話を聞こうが何も問題はないけれど」
「何処でもいいだろう。見てみろ周りを。好きには動けねぇだろ。見る感じコートに出てるのも観客席を陣取ってるのも早い者勝ちみたいだしな。俺は此処のモニターでお偉いさんの開会宣言を見るだけでいい」
ルークの冷静な分析に納得したのかメイは彼の隣に座り出した。
だが、何故かメイの隣が空いていない。
高野の座れるスペースが無かったのだった。
「……と、ところでこの後に出てくる開会宣言するお偉いさんってのは誰なんだ?」
自分だけ立ちっぱな事に不満げな高野は二人に向かってそんな質問を投げる。
答えたのは当然メイだった。
「幾ら大きな行事とは言っても上院の議長とか、議会最大のトップなんて人は出て来ないわ。私は塩谷が来るものかと思っていたけど違うみたい。上院の議員の誰かみたいよ」
「それはあれか?狙われるから、とか?」
「そんな所ね」
高野が時間通りに到着して20分。
開会予定の20分遅れた辺りに、観客席に囲まれたバトルフィールドという名のコートの真ん中に、そのコートに続くドームの建物内で待機している高野たちが見続けているモニターの中に、黒いスーツを来た見た目だけは若々しい男性が1人その姿を現した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.336 )
- 日時: 2019/02/28 15:15
- 名前: ガオケレナ (ID: i0ebQTFn)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
『えー……。本日は天気予報通りの真っ白な曇り空の下……』
はじめの言葉で高野は確信した。
これは朝礼の校長先生並に長い話になると。
「つまり、これは……俺があと少なくとも30分は立ちっぱなしになってしまう、と言う事か……っ!!」
「なに訳の分からない事言ってるの?」
メイは彼の本音に気が付かなかった。
暑苦しい環境下で1時間近く立ち続けるという事は朝礼途中に倒れる生徒と同じ運命を辿る可能性が高いということに。
『ポケモンと人が共存して、もう5年の月日が経とうとしています。……中には喜んだ方も居た事でしょう。中には恐怖を覚えた方も居た事でしょう。そのような、多くの混乱と期待を持って生きてきました。そして、今。私たちは新たな時代を生きようとしています……』
新時代。
高野洋平は開会宣言を行っているはずの議員の言葉の内、この単語だけに引っ掛かった。
本当に自分は今そんな時代に、世界に生きているのかと。
日々国際的なニュースが飛び込んでくるものの、新時代を迎えるという自覚が無かった。
世界は惰性で進んでいる。そんな感覚しか覚えないからだ。
ふと目に映ったメイの隣に座る男のスマホの画面にはニュースの映像が流れている。
中身は今目の前で繰り広げられている開会宣言だ。
恐らくモニターが遠いから見えにくいのか、それともその人の目が悪いなどの理由で見えないという理由なのだろう。
モニターと違うのはテロップが流れていること。
そのテロップには議員の名前が表示されている。
片平 光曜という名だった。
(知らねー名前だな……)
いつまでも盗み見しては悪いので、高野は目をモニターへと戻す。
『この行事は、今までの私たちとポケモンとが作り上げてきた素晴らしい日常を称え、そして、これからも、共に生きてゆく事を……生きてゆけるよう望む事を願い、奉るために開かれました』
もしも高野という男が深部とは何の関係もない人間だったら、今の言葉をどう受け止めていただろうか。
希望を覚えただろうか。
感動していただろうか。
しかし、彼は裏の世界を、深部を知ってしまった身である。
その言葉たちが全くのデタラメであり、嘘でしか無い事に彼は気付いてしまっている。
ゆえに嫌悪感に襲われるのみだ。
(だけど……俺も同じかもしれねぇ……)
かけがえのない日常。
それを守る為に戦ってきていた自分の姿が一瞬脳裏に浮かんだ。
片平が一礼し、背を向けてモニターからその姿を消してゆく。それはつまり、開会宣言の終わりを意味していた。
所詮自分も勝手な事を言って勝手な事ばかりする人間のうちの1人であると言う事。
それを思い出すことしか出来ない最低最悪の開会式であった。
それを嘲笑うかの如く、彼の周りでは拍手喝采が鳴り響きながら。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.337 )
- 日時: 2019/03/03 16:25
- 名前: ガオケレナ (ID: DWh/R7Dl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「チッ……」
周囲との大きなギャップを感じた高野は軽く舌打ちをすると、観戦の為に更なる移動を始めた人混みに反して反対側の方向へ、つまりドームの外へとその場から逃げるかのように歩き出す。
「あら?どこへ行くの?」
声を掛けてきたのはメイだ。
彼の本音が見えない以上、高野の行動が不思議に見えてしまっているようである。
「あと少ししたら1戦目が始まるわ。じきにアナウンスも鳴るでしょうし。観ないの?」
「観たって何かある事なのかよ?どーせ此処から離れていてもメールかLINEでも通知来るんじゃないのか?ってかそんな風に設定出来ないの?」
「うーん……一応デフォルトの設定ではLINEからアナウンスと同じメッセージが送られるはずだから大丈夫だと思うけれど。それよりも何処へ行く気?」
「別に何処にも。少し1人にさせてくれ」
「はぁ……」
人の出入りが非常に激しい。
満員電車の如くそれに揉まれると一瞬にして高野の姿はメイとルークから消えてしまった。
ここに来る途中に岡田に昔話を語ったせいも相まって嫌な記憶が次々に蘇ってしまった。
それに加えた議会の綺麗事である。
不快指数がMAXなのは言うまでもなかった。
(とにかく喉が渇いた……適当に近くの喫茶店でコーヒーでも飲むか……)
期待に目を輝かせてドームへ歩いている人たちを後目に高野はひとまず目に付いた1番近い店に入ると、案内されるがままに一人席に座らせられ、予定通りコーヒーを頼む。
「あれ?」
店員が注文を受け去っていった後、自身のスマホで何か調べ物しようとしたとき、視界にふと見た事のある顔が見えた気がした。
「アイツ……確か……」
知的そうなイメージを持たせる眼鏡に、"とりあえず"なポニーテール。
"デッドラインの鍵"と呼ばれていたはずの少女だ。
(アイツ……まだ此処に居たのかよ。ってかアイツが此処に居る理由って何なんだろうな?)
予想以上に早く来たコーヒーを手にその少女の背中を高野は見送る。
仮にもデッドラインを冠した組織に関わる人間である。
一般人からは何者にも見えなくとも、ただでさえそれに紛れている深部の人間の、更なる一部の人間には知られている存在である。
メイだけならまだしも、より過激な連中や議会の人間に目をつけられる事必至であるはずだ。
にも、関わらず堂々と出歩くだけならまだいいにしても、開催地に居続ける理由がよく分からない。
「また話しかけようかなぁ……。でもまた殺意向けられんの嫌だしなぁ……」
結局彼は見逃すかのように何もすること無くデッドラインの鍵を外へと放してしまった。
決して恐れている訳では無い。
何を話せばいいのか分からず戸惑っていたら逃げられてしまった。それに近かった。
高野にとっての1つの話題が去った直後、思い出されたかのようにこれまで苦にしていた過去の記憶が再び舞い戻ってくる。
(クソっ……今更どうしろってんだよ……)
気が付けば驚く程に自分以外の客が極端に減っていた。
多くの人間は今頃始まったであろう予選の試合を観に行っているのだろう。
逆に言えばこの人の流れは試合の始まりを告げているかのようであった。
(いつまでも……逃げる訳にはいけねぇな)
深部の世界から離れた事で薄まってしまっていた、嘗ては自分自身に強く誓った約束を再び思い出し、胸に誓う。
(例え気に入らない人間共が居たとしても……俺のやる事に変わりはない。変わっちゃいけないんだ……)
議会の連中は確かに憎い。
相も変わらず殺意と敵意を向け続けることしか出来ない。
こんな環境を作り出した議会が確かに嫌いだ。
だが、今の自分がここに居るのは自分が起こした選択の果てにある。
そして、苦悩の最大の原因は議会ではなく自分だ。
過ちを犯した時から背負っていた十字架。
それが今になって重くのしかかっているようだった。
自分が弱ったのか、それとも重さに今気が付いたのか。
それでも、今は自分がやれる事をやるのみだ。
「ん?」
"逃げてはいけない"というワードから、大学講義専用のメールボックスから出されていた課題を取り組もうと1字か2字ほど打った直後、メイから直接電話が来た。
(そういや3人で会った時にそれぞれ電話番号交換したんだっけ?)
このタイミングでのメイからのコールだとしたらある程度予想はつく。
その上で電話に出た。
「もしもし?」
『あなた今どこにいるのよ?アナウンス流れてるわよ!』
「えっ?メッセージはまだ届いてないけど?」
『少しばかりズレているのよ。とにかく、どうせあなたのことだからあまり遠くにはいっていないだろうし、すぐに戻って来て!今やっているバトルの次の次よ』
わかった、と返事をする前に電話は切られる。
改めて画面を見ると、どうやら今メッセージが届いているようだった。
『チーム番号412番様。現在、出場される試合の2試合前です』
という『通知』が来ていた。
それを開くとLINE画面に移り、より詳しい内容が書かれている。
やれやれやっとかと長く長く待たされた感覚でこれまでやって来ていた高野は、残りのコーヒーを飲み干すと重い腰を遂に上げた。
レジで代金を支払うと迷わずドームへと突き進む。
待ちに待った戦いが今、始まろうとしていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.338 )
- 日時: 2019/03/10 17:09
- 名前: ガオケレナ (ID: dSEiYiZU)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
店から外に出ればドームはすぐ目の前だ。
少なくともこれを見越していた高野の表れであったが、ここまで自分たちの出番が早く来るとは思ってはいなかったようで、やや駆け足になってバトルドームへと向かう。
近未来なデザインの自動扉をくぐるとメイとルークはそこからは一番近い位置の長椅子に、つまり開会宣言を聴いていた時と同じ場所に居た。
「悪い、待たせたか?」
「全く同じセリフを言われた俺の身にもなってみろ……」
「と、とりあえず皆揃ったことだし控え室に向かいましょ?」
と、メイは2階に続く階段を指す。
観客席にも続いているのだろう。明らかに3人グループの参加者以上の数の人々が今にも登っている。
「これは予選だから各自2体のポケモンを使う訳だけど……皆は使うポケモンは決めているかしら?」
階段に登りながらメイが高野とルークに質問した。
「まぁ、一応は」
「同じく」
確定的でないものの、2人の反応を見てとりあえず彼女は無言の了承をする。
階段を登りきると、正面から見て右側の通路が観客席に通じる道のようだった。
多くの人が出入りできるよう、広く長い。
対して控え室に通じる廊下は特定の人しか受け付けないためかやや狭く扉もすぐ前だ。
開けた先には、これから出場するであろう選手らしき人達がそれぞれ思うことがあるのだろう。
緊張感を醸し出す表情をしている者がほとんどであった。
そして、全員が若い。
学生主体とした大会の為だろうか。
普段は中学高校の生徒と思しき人ばかりだ。
高野らと年齢が近い人はパッと見では見られなかった。
2試合前のアナウンスというシステム上そこまで多くの人はいない。
1つ前の試合を終えて居座っている者達も含めて20人前後と言ったところか。
その為席も空いている。
高野が座りだしたのを合図にメイとルークがそれぞれ彼を挟むようにして座る。
「順番はどうする?勝ち抜きではないから2回勝つ……つまり最低でも2人出ることになるわ。誰から行きたい?」
「特に拘りが無ければ俺が行こうか?」
真っ先に名乗り出たのは高野だった。
次にメイはルークの顔を伺うが無表示ゆえに意思が読めない。
今此処で出るか否かどちらでも良かったメイはしばしの無言の為自分が出ようかと思いを表に出そうと1言目を発した直後、
「じゃあその次は俺な」
ルークが突然一切の表情を変えずに、相変わらず壁のある方向を見つめながら呟いた。
「そ……そう、分かったわ。それから……」
次にメイは作戦会議のつもりだろうか、屈みながら顔を近付け、小さく続けた。
「これは予選よ。あなたたち程の実力を持った人ならば本気を出さずとも突破は出来ると思うの。そりゃ勿論、たまには強い人も出てくるだろうけど……あなたたちなら問題は無いわよね?」
「結局何が言いたいんだ?」
「ここで全力を出さないで欲しいの。出来れば持ち駒もあまり見せずに。絶対に今後手持ちを調べ尽くされて対策してくる人も出てくるはずよ」
「幾ら相手が未熟な学生達と言っても使うポケモンの制限は厳しくねぇか?6体の内1,2体だけで予選突破しろと?」
「そこまでじゃないわよ……」
メイは確認がてらスマホで大会専用のサイトを開きながら画面を見つめつつ説明を再開する。
「この大会はネットでの大会とは違って手持ちの制限は無いわよ。勿論使うポケモンはその時の手持ちのポケモンのみだけれど。スマホの使用は試合中は認められないわ。……でもね、手持ちポケモンは1試合毎に幾らでも変えていい事になっているの。だから好きなポケモンをいつでも使えるのよ」
「……なるほどな。つまりアレか。常に今の手持ちポケモンで出来るだけ予選を勝ち抜け。そう言いたいんだろ?オマエは」
「さっすがAランクのリーダーね。私が言いたかったのはそれよ」
何か馬鹿にされたような気がした高野だったが、深部の事情は確実に高野よりルークの方が詳しいだろう。そこは素直に認めるしかなかった。
1つの試合が終わったようだった。
より高く、より大きな歓声が微かに聴こえたかと思うと、試合を終えた2つのグループが対称的な表情を浮かべながら控え室にやって来た。
やはりと言うかどちらも学生のようだった。
中には制服を着ている者もいる。
「面白い事するわねぇ。あれアピールの1つよ」
「?」
作戦会議は終わったはずなのにまだ顔が近いメイが高野に向かってそう言った。
所々甘く優しい香りを発しているあたりつくづくあざとい女だとしか彼は思えなかったが。
「ウチの学校の生徒はポケモンが強いですよ!みたいなアピールをする学校も現れるなんて予測はこちらでもしていたけれど、まさか本当に来るとはね。あぁする事で来年の入学者数を増やす目当てなのかしら。ポケモンが強いってステータスは"表の"世界ではまだまだ浸透していないけれど。若しくは深部の人間がああやって制服着ることでカモフラージュしているのかも」
「単に着る服が無いだけだろ」
メイの深読みに半ば呆れつつ高野は嘗ての自分を思い出しつつ返す。
「いや、今日平日だろお前ら」
だが、ルークが最もらしい、学校帰りか若しくはその途中である事を思わせる"事実"をボソッと述べた。
「なんつーか、簡単だよな。一般人と俺らみたいなのを見分ける方法。被害妄想じゃねェが悉く深読みするのが俺らだな」
「間違ってないかもね」
メイはルークを見つめながら微笑む。
だが彼は一向にメイを見ようともしなかった。
「終わったようね」
待つこと10数分。
ストリートバスケットを彷彿とさせるようなブザーと共に大きな歓声が再び上がった。
同時に自分たちが出る前の試合が終わった事を告げている。
「さて、と。準備はいい?」
「いつでも」
「……待ちくたびれたぞ」
3人はそれぞれ呟くとと立ち上がる。
アナウンスでチーム番号を呼ばれつつ徐々に募ってくる緊張感を背負いながらバトルフィールドへと歩く。
控え室の扉とフィールドを繋ぐ短い廊下を歩き、外に出た瞬間、一気に心臓の鼓動が早まった。
まるである種の球技の世界大会を思わせる景色、雰囲気。
360°観客席で包まれた一般的なサッカーのコートと同じくらいのフィールドを、高野を先頭にメイとルークが歩く。
向こう側も同じく対戦相手であるだろう三人のグループがぐるっとフィールドを周りつつ眼前にやって来た。
時折解説者が進行状況を観客に伝える為かマイクを通してドーム全体に声を響かせる。
歓声が止むことを知らない。
これから起こるであろう派手なバトルを楽しみでいるせいか興奮が止まらない。それを思わせた。
だが、1つ違っていたのは歓声に紛れた音楽。
恐らく何処かの学校の吹奏楽部なのだろう。
選手を鼓舞する為か場を盛り上げる為か。
観客席から演奏をしていた。
対戦相手が制服を着ている辺り学生だとして、初めは彼らの応援かと思っていたが演奏は1箇所からではなく、少なくとも2箇所から聞こえた。
それぞれが違う曲、違う制服の為限定的な応援というわけでは無さそうだった。
作戦通り高野がまず初めにフィールドに立つ。
よく見ると、トレーナー専用の地点なのだろうか、白線で囲まれた小さな枠が設けられてあった。
此処からどうやら、ポケモンに指示を出したりボールを投げたりするのだろう。
白ワイシャツに眼鏡の格好をした青年の前に、制服を着た一人の男子高校生が同じくラインに立つ。
『バトル、スタート!!』
という解説者の合図とブザーと共に両者が動いた。
舗装されたフィールドの上に高野のポケモン、サザンドラがボールから飛び出す。
対して相手の学生はと言うと、
「いけっ!ワカシャモ!」
言葉を疑った。
だが、その宣言通りフィールドに現れたのは正真正銘の中間進化のポケモンワカシャモだ。
「えっ?どういう事?」
高野は戸惑いと、未だ止まぬ緊張を抱きながら'だいちのちから'を指示する。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.339 )
- 日時: 2019/03/13 20:04
- 名前: ガオケレナ (ID: rMENFEPd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野の初試合はその後も奇妙なことだらけだった。
まず、サザンドラは命令通り'だいちのちから'を発動させ、地面から地脈の類なのだろうか。
不思議な熱のようなエネルギーを吹き出すとそのまま直立していたワカシャモに直撃する。
この時、相手の学生トレーナーは「かわせ!」とは叫ばなかった。
避けつつ次の攻撃を繰り出そうともしていなかった。
道具なども持たせていなかったようで何のアクションも起きることなくワカシャモは倒れる。
悔しそうな表情を見せたあと、次に相手が出してきたのはマッスグマであった。
(マッスグマ……?まぁ、'しんそく'とか'はらだいこ'使えばそれなりに戦えるポケモンではあるけれど……何で今にそのポケモンのチョイスなんだ?)
相手の考えが全く読めない高野は、今度は'あくのはどう'を命令する。
サザンドラの全身から放たれた黒いオーラは鋭く一直線にマッスグマに突き進む。
この時も学生トレーナーは何も命令しない。
むしろマッスグマ程度のポケモンならば十分に避ける事は可能な、単純なバトルであるにも関わらず。
(何でヤツは何も命令しないんだ!?まさか、戦い方を知らないのか!?)
抱いた懸念が増すかの如く、マッスグマは一撃で倒れる。
高野のポケモン1体で勝利してしまった。
直後、終わりを告げるブザーが鳴り響く。
『試合、しゅううりょおおぉぉぉぉ!!!!』
迫力のある叫びに、会場は沸く。
一方的且つなんの面白みもないバトルであるにも関わらず、だ。
サザンドラをボールへ戻し、2人のもとへ高野は歩く。
「一体なんなんだ?あれは。戦ってるこっちも訳分かんねーんだけど?」
何年も深部という世界で戦い続けてきた高野にとって今ある光景を理解出来ていないのは無理もなかった。
目の前の状況ゆえ喜びが芽生えているメイはニコニコしながら、
「とりあえず勝ちね。お疲れさま。あとは彼のバトルでも眺めていましょう?」
高野の質問を無理矢理遮るかのように控え選手用のベンチへと誘導する。
今度はルークがラインの前に立った。
天井が無い構造上、風で腰に巻いた緑のジャケットが揺れている。
ルークに向かい合ってボールを向けているのもどうやら学生のようだった。
まだ真新しい名残を見せている制服だ。
『これより、チーム番号412番対チーム番号309番による2回戦目……開始ィィ!!』
元気すぎる司会の叫びを合図に、新たな試合の始まりが告げられる。
「さぁ行け、ニンフィア!」
ルークはと言うと彼の切り札的存在のポケモンを初っ端から繰り出す。
短期決戦のつもりだろうか。
相手はと言うと相性など何も考えていないといった調子でアゲハントを呼び出した。
「ニンフィア、'ハイパーボイス'だ」
ルークの感情が篭っていない冷たい命令を素直に受け取り、ニンフィアは直線上の敵に向かって音の衝撃波を真っ直ぐに飛ばして行く。
今度も相手は避けようとも技をぶつけようともしない。
まるで、"ゲームでのバトル画面のような"光景を辺りに見せつけて。
「まただ……」
高野はルークの戦いを眺めながら呟いた。
「'ハイパーボイス'は一見して形が見えないから避けにくいかもしれないけれど……それでも範囲を考えたら"それ"自体は難しくはない。なのに……」
「なのに相手は避けなかった。何故かしらね?」
まるで勝利を確信した笑み。
それを浮かべながらメイは高野に問いかける。
「分からねぇよ」
呟いた頃にはアゲハントは倒れ、今度は相手はヤジロンを繰り出す。
続けざまに起こる違和感を考える高野であったが、答えが出る前に勝負は決してしまう。
当然、ルークの勝ちで。
ーーー
「何がどう起きてるのか分からねぇよ……」
予選を1勝した彼ら3人組は休憩ついでに少し早い昼食を取りにドームから一番近いファミレスへ寄っていた。
相変わらず天気は曇り空で時折薄い雲から陽が差してくるも一向に晴れてこない。
そう思わせる空だった事を思い出しながら高野は2人にまるで相談するかのような重い口ぶりで話し出した。
「なにが?」
「何ってさっきの試合だよ。とても大会に出るような戦い方じゃなかった。そう感じてさ」
言いながら高野はフォークを回しながらパスタを口に運ぶ。
「少し考えれば分かることよ?だって、まず使って来たポケモン全部ホウエン地方のポケモンでしょ?」
「?」
ここで戦いを思い出す。
その中で対戦相手が使って来たポケモンはワカシャモとマッスグマとアゲハント、ヤジロン。
確かに第三世代のポケモンではある。
「だからって何だよ。今はオメガルビーとアルファサファイアが1番新しいソフトなんだからそれに寄ったポケモンが出てきたって……」
言いながら気が付いたようで、高野はフォークを動かす手を止めながらポカンと口を開けている。
「まさか……アイツらって……」
「やっと気付いたか」
隣に座っているルークは一言だけボソッと言いつつも意識をそちらに向けずにただひたすらに目の前の肉料理に集中する。
「戦い方を知らないのも無理はない……。シナリオも途中の初心者だったって事か!」
「そ。だから最初に言ったじゃない?本気を出すなって。こちらの世界を知っている私らとポケモンバトルを全く経験していない人達だと戦い方に差が出るのは当然だわ。あなたが戦ったのは深部とは無縁なんてレベルじゃない。ポケモン自体ほとんど知らないビギナーよ。だからポケモンも中間進化だったり、ゲームでしか見たことないバトルだけをするの」
納得しか出来なかった。
普段遊んでいるゲームも1番最新のものだけなのだろう。
だからこそ使って来たポケモンもシナリオ上でよく見るポケモンだったし、自分のサザンドラを不思議そうに見つめていたのもすべてが同じ理由だった。
だからこその本領を出すな、という作戦。
今後当たるであろう強敵に少しでも隙を見せない為に。
少ない手駒でも勝てる相手に多くの手を使わない為に。
「"彼ら"にとっても都合がいいわね。ここでふるいにかける事で素質のある人を選び抜く……。本来の目的にしっかり沿ってるじゃない。そこだけは感心するわ」
「俺からしたら全く嬉しくない」
人手不足である深部の世界へのスカウト。
その為の大会だということをしばしの間忘れていた高野であった。
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