二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.430 )
- 日時: 2019/12/08 18:16
- 名前: ガオケレナ (ID: 8comKgvU)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野とメイはそれまで自分たちが戦っていた場所まで走り続けた。
とにかく、情報が欲しかったからだ。
「ねぇ、一体どうするのよ?」
後ろを走るメイの声だ。
だが、高野はそれを無視する。すぐに解決するからだ。
高野は目当ての場所へ近寄り、徐々に速度を緩めてゆく。
「おい敗北者……。俺の質問に答えろ」
高野は戦いに敗れてアスファルトに直に座ってボーッとしていたテルに話しかける。
当のテルは疲れ切った顔をこちらに見せた。
「この事件の首謀者……レミは何処だ」
「答えると思うか?」
ジェノサイドが自身の仲間の名を知っていた事に意外にも感じたテルだったが、顔色ひとつ変えずにそう言う。
いかにも、怒りを滲ませているんだぞと言いそうな顔をして、高野はテルの胸倉を掴んだ。
「言え。今起きているこの異変を何としてでも止めてやる……。奴が此処に居るのは分かってんだ。言え!!さもなくば殺すっっ!!」
文言通りの表情にテルは思わずくすりと小さい笑みを零した。
奴はいつもそうだと。
脅すだけで決して人の命は奪わないと。
そんな事を知っているからだ。
「殺せよ。俺はもう役目を果たした……。本当だったら世界が変わる様を見たかったが、こんな状況だしなぁ?ほら、言わないのなら殺すんだろ?殺せよ。殺してみせろよ?」
物騒な言い草の割にはその顔には余裕が読み取れた。
今更彼が自分を殺すとは思えないし、今自分が死んでもあまり意味は無いからだ。
高野は腕を震わせると、テルを突き飛ばす。
舌打ちをしながらスマホを少し操作し、出現したモンスターボールを頭上へと投げた。
出てきたのはシンボラーだ。
「何を……するつもり?」
「こうなる事ははっきり言って分かりきってた。そう都合良く敵がペラペラとバラすはずがねぇからな……。だからコイツを使う。コイツは俺の意識とシンクロさせることで、コイツの視た情報が俺の意識にも写る。つまり、何処に誰が居るのか分かるのさ」
既に主人と意識が繋がっているのか、何の指令も無しにシンボラーは翼を羽ばたかせて上昇していった。
上空からの景色が、状況が、そのまま高野の意識に、目へと視界へと入り込んでくる。
サーモグラフィーで見ているかのように、人が立っている地点だけ赤く反応しているようだ。
シンボラー越しに、自分やメイ、そしてその場に伸びているテルや彼の仲間が次々に見えていく。分かってゆく。
自分自身が空に浮かんでいるようだった。
目に見えるものが上から捉えたものなのだから。
「これは……?」
上へ上へと登るその途中、不自然な場所で不自然な反応を見つけた。
そこは、どうやらバトルタワーの屋上のようだった。
人影がひとつ、赤く輝いている。
「待て……誰か、居る……」
誰なのかまだよく分からない。
そちらをしっかり捉えるよう、シンボラーにテレパシーのように念を送る。
しかし。
ブツっと、それは突然途切れた。
「ぐああっっ!!」
突然の事に、高野は目を押さえて地面へと倒れ込んだ。
「ちょっと!どうしたのよ!?」
メイが心配そうに駆け込み、彼の体を支えながら改めて空を見た。
どうやら、シンボラーがディアルガと衝突したようだった。
思い切り弾き飛ばされて地上へと強く叩き落とされる。
ガン、と聞くだけでも耳が痛くなりそうな音が響いた。
高野は呻きながら手を離し、目をゆっくり開ける。
「ねぇ、大丈夫……?」
「シンボラーが……落とされたようだな……。でも大丈夫だ。痛みまでシンクロはしないから」
今自分は地上に居るんだと改めて強く意識に働きかける。
少し酔ったような嫌な気分になってしまったが、ヨロヨロしながらゆっくり立ち上がり、歩くとシンボラーをボールへと戻す。
「バトルタワーの上に……誰か居た……」
「もしかして……」
「いや、まだ分かった訳じゃねぇが……こんな状況でディアルガとパルキアに1番近い距離に居るなんて少しおかしいもんな……。その線は大いにあると思う」
そこにレミが居るか居ないかはもうどうでもいい。
怪しいものは片っ端から調べ尽くす。
もう、そうするしか無かったのだ。
「行くぞ。ゴールはきっとそこにある」
ーーー
「オラァくたばれやクソ雑魚共ォォ!!!」
わらわらと無限に湧き出る敵対組織の人々に向かい、ルークは叫んだ。
呼応するかの如くサーナイトの'はかいこうせん'が放たれる。
既にルーク含む赤い龍の面々はドームシティを下り、街へと繋がる長い坂道の途中に居た。
このまま下ってしまうと聖蹟桜ヶ丘駅に到達してしまう。
果たして市街地のド真ん中で戦いを繰り広げてもいいものなのか本来であれば多少は悩むものの今はそんな事をしている暇も余裕も無い。
迷いは即死だからだ。
敵味方入り乱れての大混戦。
ポケモンが、人が、それぞれを奮い立たせてはせめぎ合う。
「ルークッッ!どうすんだ!?このままじゃあ奴ら街になだれ込んじまうぞ!?」
仲間のモルトの声だ。
ドラピオンが倒れたのか交代したのかまでは分からないが、今度はその代わりにドラミドロが毒を周囲に撒き散らしている。
「知ったことかァッ!それが嫌なら今の内に殲滅させる事だなァ!!」
言っている内に、彼のポケモンのチラチーノが回転しながら'ロックブラスト'を放っては人もポケモンも纏めて宙へと飛ばしてゆく。
「チマチマと戦っていられっか!!全員まとめてぶっ殺してやるっっ!!」
チラチーノとサーナイトだけでは飽き足らず、今度はフレフワンとクレッフィをも呼び出さんと2つのボールを取り出した。
「おいっっ!アレ見ろ、ほら……ナントカって奴!!」
すると。
何やら肌の茶色い大男がこちらに向かって叫んでいるような気がした。
が、彼はそちらを振り向かない。
眼前に移る敵を屠るのみだ。
「ケンゾウ……ナントカって誰だよ……。ルークだろ?」
「あぁそうだルークだルークっっ!」
「あァ!?」
やはり茶色い大男は自分に対して何かを言っているようだった。
こんな忙しい時に何なんだと怒りを込めた目で彼もといケンゾウを見る。
ケンゾウはルークの視線に気付くと、強く主張したげに空を指した。
そちらへ目を向けてみる。
「なんだ……?ありゃあ……」
異変が発生してから1時間は経とうとしていた。
明らかに新たな異変が起きているようだ。
空に、1点に光が集まっている。
白く眩い光が1箇所に集中し、更に強く輝いているように見えた。
まるでそれは。
天国に繋がる門のようだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.431 )
- 日時: 2019/12/10 17:14
- 名前: ガオケレナ (ID: .p4LCfuQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野とメイはバトルタワーに向けて走り出した。
最早一刻の猶予も無い。
そもそも、これは事件解決に直接関わりのあるものではなく、第三者に説得させるための作業なのだ。
残り3時間となった今、ゆっくりせずにはいられなかった。
「ねぇ、レン……。また何か起きたわ」
メイが指し示した方向、遥か上空に、白く輝く光が集まっていた。
しかも丁度バトルタワーの頂上付近と来ている。
「クソっ……また何か始まったな……」
「彼らの言葉を当てはめる限りだと、あそこからアルセウスが出てくるのかしら?」
「知らねぇよ!!ンなもん今考える事じゃねぇだろっっ!!」
2人はバトルタワーの扉付近へと辿り着く。
ドームの時と同じく自動ドアが2人に反応して開き、そのまま入場する。
「ここも……避難している人がいるようね」
メイは自分らがいる1階付近を見た。
ドームほどでは無いが外の異変から逃げて来た人で溢れ返っていた。
向こうとは違って1つの空間に限りがあるので更に満杯になっているように見える。
「どうする?このままじゃあ人混みに紛れて上に着くのは大分時間が掛かりそうよ?」
メイは隣に居たはずの高野に向かって話しかける。
しかし、彼女が振り向いた時には彼はそこには居なかった。
高野洋平はと言うと、
「すいません……屋上のヘリポートに行きたいんですが……」
近くの大会運営スタッフに話し掛けていた。
スタッフも、突然の騒ぎのせいなのか苦々しい表情をしているように見える。
「何か、用でもあるのかい?」
「ラジオ局に勤めている友人が機材を置き忘れたとかで……」
「?」
即興の嘘なせいか、相手もよく分からないと言った顔をしている。
見兼ねたメイが、手に何かを持って2人に近付いた。
「塩谷議長の命令なんです。通して下さい」
その手に握っていたのは、手帳のような本だった。
左端には、議員がよく見せびらかしているバッジが縮小されて付けられている。
スタッフの男性は少し怪しみながら、不満な表情をしつつ2人をエレベーターのある方角を指した。
「アレだけでは屋上には行けないよ。行けるのは20階まで。そこからは関係者用の別のエレベーターがあるけれど、今は使えない」
「何故ですか?」
「マスコミ関係の方々を上の階で避難、保護しているからだ」
その、あまりの優遇っぷりに高野は思わず「はぁ?」と声を上げる。
しかも、この異変を異変としてしっかり見ているにも関わらず、だ。
これではリッキーが言っていたことと反している。
ある種の闇を垣間見てしまった高野ではあるが、
「行くとしたら……非常階段かな?」
またも、嫌な予感が駆け巡る。
ーーー
「最っっ悪だ……」
高野洋平の勘はまた1つ当たってしまった。
エレベーターで20階まで登ったところ"まで"はよかった。
彼は、2階に相当する距離を登ったところで1度立ち止まる。
息が切れたのだ。
「あなた……大丈夫……?そんなのでこれからディアルガとパルキアを止めるつもりで居たのかしら?」
「うるせーなー……。階段だけは駄目なんだって俺……。ってかさぁ!!」
高野は見上げた。
今まで自分たちが登った距離の半分はあったようにも見える。
単純に見て10階。その内の2階なので残りは8階というところか。
「なんでこんな目に遭うんだ俺は!!」
「……あなたが訳の分からない事言うからじゃない。今からでも作戦を変えるとか……」
メイの言っている傍から。
高野洋平が突如駆け出した。
体力の無さを憂う暇は無い。
先程までの気弱な面はどこに行ったと言わんばかりに足音を大きく響かせて全速力で走る。
「ちょ……ちょっと!大丈夫なの!?」
傍から見ても無理しているのは分かりきっていた。
本来ならばこれ以上のスピードは出せないにも関わらず、あと少しの距離だからと苦しいのを承知で走るゴール手前のマラソンを思い起こすかのごとく。
心臓が張り裂けそうだ。
普段は聞かない、耳で捉えただけでも縮こまりそうになるほどの、早すぎる鼓動。
それでも、止まる訳にはいかない。
あと少し、今ここで少しだけ無茶をすればすべての片がつく。
そう信じて。
「レンっ、危ないっっ!!」
通過しようとした階の非常扉が突如高野の目の前で開く。
中から現れたのは、銃を手にしたアルマゲドンの人間だった。
ーーー
爆弾の落ちるような爆音は未だ止まなかった。
見ると、互いに抱き合って怖がっている子供たちや、そわそわとウロウロしている大人が居る。
香流慎司はそんな混沌とした状況を見つめることで精一杯だった。
「香流ぇーーっ!!大丈夫だったか!?」
北川弘が観客席の方からやって来るのが見えた。
香流は大丈夫だという合図として手を振る。
「さっき……一瞬だけど外に出て戦ってたって聞いたんだが……」
いきなり走り回ったのだろう。
北川はぜーはーぜーはーと苦しそうだ。
「あぁ。でも、こっちは大丈夫だよ。今レンの仲間たちが外で戦っている」
「怪我は無いか!?」
「うん。大丈夫」
その言葉を聞いて北川はすっかり安心したようだった。
一緒に外に出ていた岡田と吉川も自分の目に見える範囲にいるのが分かったのでひとまず彼の中の不安は消え去った。
石井と高畠も、久しぶりの再会ということでミナミに抱きついている。
「レンは?あいつだけ居ないようだが……」
北川もこういう時は鋭いなと香流は頭の中で思いつつ、これまでの出来事を話す。
今彼はこの異変を止めるべく動いていると。
「そうか……あいつ、深部辞めたと思ったんだけどな……」
「レンはもうジェノサイドじゃないよ。その……たまたま色々な事に巻き込まれちゃうだけで……」
香流も彼の言葉を聞いて少し不安になった。
この大会にしてもそうだ。
高野洋平は自分たちよりも、深部の人間と動いている時の方が多い。
正当化出来る言い訳を並べても、楽観的に考えても何処かでまた、新たな不穏な種が出てくる。
「ねぇねぇー。香流。豊川は?」
女子3人で固まっていた高畠美咲がこちらへ話しかけてきた。
香流は、「あれ?」と思い辺りを見回すも、それらしい人影はない。
「あれー……。こっちはさっきまで皆と一緒に居るとか、ドームの中に居るって聞いたけれど……」
しかし、仲間も誰もが彼の存在を否定する。
確かに、バトルドームの中に豊川修は居なかったのだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.432 )
- 日時: 2019/12/11 16:04
- 名前: ガオケレナ (ID: .p4LCfuQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
リッキーは苦悩した。
そして愕然とした。
ラジオで流れている事実と、今目の前で起きている事実の乖離が凄まじかったからだ。
「何なんだ……これは……」
リッキーはあまりにも避難者からの助けの声を聞くので、きちんとラジオで放送されているのか、その確認を自分のスマホで聴いてみた。
「全然……違うじゃないか!?」
その耳から流れてきたのは、現実離れした現象を前にはしゃぐリポーター。
即ち、今の惨事を惨事としてではなく、ある種の演出のようにして嬉々として伝えていたのだ。
「何なんだこれは!?誰がこんな発表をしろと言ったんだ!!事実とかけ離れているじゃないか!?」
「し、しかし……私としても何が何だか……」
彼に捕まえられた大会運営スタッフも困惑していた。
スタッフの女性とラジオに関しては何の関係もないからだ。
「これで分かったよ……。何で状況が変わらないのかを。避難者が減るどころか徐々に増えていっているのを!!本当にこれが大会の演出だったらこの異変の発生から1時間経った今!増える必要が無いだろう!?」
そんな1人の男性の騒ぐ声を偶然にもミナミが、レイジが、そして香流が捉えた。
すぐさま彼らもリッキーの元へ駆け付ける。
「あの……リッキーさん、」
「ごめんよー今忙しいんだ。あとにしてくれるかい?」
「そうじゃなくて!!私はジェノサイドの仲間のミナミって言いますっ!」
ジェノサイド。
その聞き捨てならない言葉に、深部の一端を担っているリッキーは妙なまでの偶然性を感じざるを得なかった。
ーーー
銃声が響いた。
高野洋平は頭で考える前に手が伸びた。
相手の銃を握っている腕を必死な思いで掴み、曲げた。
銃口が真上を向く。
そのタイミングで引き金が引かれたのだ。
隙間を通って銃弾はぽっかりと空いた空へと吸い込まれてゆく。
高野はその手を離さなかった。
次は確実に撃たれること、そして今この場にて起こるデメリットを把握していたからだ。
「待っててレン!今すぐ助けるから……」
メイは迷わずにマニューラの入ったボールをポケットから引き抜くと投げる。
しかし、そのポケモンは姿を現す前にボールの中へと吸われるようにして消えていった。
「あ……、」
メイは忘れていた。
大会の会場を包むようにして、電波が溢れている事を。
しかも、それを高野に伝えたのは自分自身だった事を。
「お前だろうが!!一定の範囲超えたらポケモンが使えなくなるって言ったのは……特殊な電波が流れているからポケモンで移動出来ないって言ったのは……お前だろうが!」
今2人が居るのは地上を遥かに超えた地点だ。
奇しくも電波の範囲と一致してしまっている。
「そんな……」
だからこそ、敵は銃を所持していた。
ポケモンに代わる兵器を。
その時、銃声に気付いたパルキアがこちらに向かって'はどうだん'を放ってきた。
淡い紅玉は3人纏めて吹き飛ばす……
ことは無かった。
転落防止の為の非常階段の柵にぶち当たり、大きな穴を空けたに過ぎなかった。
「うおあああっっ!!危ねぇっ!」
堅固な壁に守られていた認識が突如として覆る。
今、高野の真後ろには地上へと直結する大穴が出現したのだから。
咄嗟に高野は相手の手首を捻って銃を取り上げる。
その際、相手が痛みに耐えきれず呻き、自分に対し蹴りを放った。
真横の柵に体がぶち当たる。
バランスを崩し、転倒したが落ちることはなかったので一瞬の合間だったが安心はした。
奪い取った銃が手の中に無い事に気付く。
相手も取り返した様子はない事から、落としたようだった。
「あなたは先へ行きなさい」
座り込んだ高野の肩を叩きながらメイが前へと、敵と対峙するかのように立ち塞がる。
「でもお前……ポケモンも何も使えないだろ……?」
「それはあなたとて同じでしょう!?でも、あなたには先を行く必要があるわ。あなたでないと話せない人が居るんでしょう?」
「だとしても危険すぎる!ここは2人で……」
「いいから行きなさいっっ!!」
メイが叫んだ。
その珍しい光景に、つい高野も相手も、周囲の空気もシーンと静まり返る。
「あなたを此処で死なせる訳にはいかないわ。かと言って私も死ぬ訳にはいかない。此処で時間を浪費すれば間に合わなくなるかもしれないのよ?」
汗が伝った。
高野洋平は仲間を置き去りにすることに罪悪感を覚えつつも腰を上げると階段を駆け登りだす。
「それからっ!!」
メイの言葉だ。
まだ、彼女の言葉は終わっていない。
「ひとつ約束して。生きてこの異変を止めて帰ってくること。私もあなたも、お互いに話していない秘密があるでしょう?」
高野は体を止めた。
はやる気持ちを理性で無理やり押さえ付けて。
「戻って来たら……話してあげるわ。私があなたに接触してきた本当の理由を」
「言ったな。約束だぞ」
捨て台詞のように吐き捨てて高野は再び登り始めた。
味方を捨てて。
しかし、必ずまた会うと心に誓って。
カンカンカン、と金属の階段を登る音が聞こえなくなった頃、メイは「さて、と」と言う合図代わりの言葉を発して敵と向き合った。
お互い何も持たない丸腰状態。
しかし、相手が男である為に純粋な力では向こうが上。
そのうえ、自分の背後には大穴があると来ている。
(あまり……良い状況ではないわね……)
絶体絶命であったとしても、諦める覚悟は無かった。
理由は単純である。
彼の秘密を知りたかったからだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.433 )
- 日時: 2020/01/23 18:57
- 名前: ガオケレナ (ID: DKoXxdqY)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ルークは立ち上がることが出来なくなった。
既にその体には、殴打の痕がある。
「く、そっ……。体が、もう……」
その頬、腕、足、腰には明日にでもなれば痣にあるほどの攻撃を受けていた。
体が普通でない、気持ち悪さを覚えるような震えを発している。
ルークのポケモンの4体は既に倒れていた。
このような大混戦の場合、とりあえず仕掛けているバトルを終わらせ、ポケモンを戻せばそれらは完全に回復し、次のバトルに臨めるものなのだが、それが成されていない。
つまり、たった1つの小休憩はおろか、バトルとバトルの間にポケモンをボールに戻すという簡単な作業すらも受け付けてはくれないのだ。
そうしようとするならば、次の敵とポケモンが現れては狙われる。
レシートが無くなりそうで替えたいのに、人の波が止まないスーパーのレジの状況に似ていた。
そして彼は、限界を迎えたのだ。
意思に反して、右手が震えている。
(やっぱり……さっきの'アイアンテール'がマズかったか……?)
相手のエビワラーの'メガトンパンチ'を肋骨を犠牲にして受け、怯んだところをハブネークの'アイアンテール'を右腕を中心に喰われてしまった。
暑さも痛みも忘れて眠くなってきた。
いや、それから逃れたいが為に本能が働いたのだろう。
(これで……俺、も……、行けるだろうか…………?アイツの、元へ……)
ゆっくりと、目を閉じる。
「ォイ……休んでんじゃねぇよ……起きろォォ!!」
仲間の声だ。
閉じかけた目が再びゆっくりと開いてゆく。
「雨……宮……?」
「勝手に此処で死のうってかァ?そんなザマが許されると思ってんのか!?」
仲間の雨宮が、フェアリーテイル時代からの見る事すらも飽きたと思わせるぐらいの仲間の顔が、必死に叫んでいる。
周りの状況も考えずに。
「此処で死んだら……これまでに死んだ仲間はどうなる!?仇はどうするってんだよォ!?」
「仇なら……。杉山は、……、もう、討ったろ……?」
「違う!!」
雨宮は強い眼差しを向けながらルークを見、彼の肩をがしりと掴むと思い切り揺すった。
「これからもだ!!俺たちの復讐は……こんな所で止まるほど弱っちょろいモンなハズがねぇ!これまでも……これからも……俺たちは歩み続けるッッ!そう言ったよなァ?お前はァァ!!」
強く揺すられながらルークの目は段々と穏やかになってきた。
それを見て、雨宮も揺さぶりを止める。
「痛てぇのはお前だけじゃねぇよ……。俺も、俺だって……痛てェよ……」
真正面からは見えなかった。
しかし、それは事実だった。
雨宮の背中は斜め一閃に斬られ、足の裾から滴り落ちている。
血が止まらないのだ。
「さっき……ダイケンキに斬られちまった……。俺だって痛てぇよ。血が止まらねぇよ…。死にてぇとも思うさ。けどなぁ……」
雨宮は手を差し伸べる。
しかし、その手は震えていた。
「アイツらが喜ぶまでは進み続けるって……。そう決めたよなぁ?」
ルークはその手を掴んだ。
体重を乗せて彼は立ち上がる。
だが、今度はその重さに耐えきれず雨宮が転びかけたが、それを起き上がったルークが支える。
「そうだよな……。決めたもんな。俺たち……。アイツが喜ぶまで復讐を……すべての敵をブッ殺すまで決して諦めないってな」
「アイツじゃねぇ……。アイツ"ら"だ」
ルークは静かに微笑んだ。
まだ、仲間が全員居た頃の、杉山に虐殺される前の記憶が脳裏に蘇った。
確かにそこに居たのは、"アイツら"だ。
ツンベアーが迫って来た。
背を見せた雨宮を狙っているようだったが、ルークは怒りも込めた眼差しをそのポケモンに放ち続ける。
しかし止まらない。
ルークはポケットの奥底に埋まっていたボールを掴んではそのままそこで開ける。
瞬間、ポケットが裂けた。
中に入っていたボールの幾らかが弾け飛び、どこぞへと転がる。
ボールを掴んでは取り出し、投げつけるという1連の動作を面倒だとして嫌ったルークは収納に適した空間を犠牲にしてそれを放ったのだ。
出てきたポケモンとはドータクン。
かつて、彼の仲間が愛したポケモンだった。
「'アイアンヘッド'」
ミサイルの如く飛んだドータクンは、目の前のツンベアー目掛けて突撃する。
弱点補正と重さと速さのエネルギーが相乗して骨が軋むような、聞くに絶えない音が響く。
だからだろうか。
敵のツンベアーがそれ以上攻撃をする事はなかった。
「ドータクン……だと……?お前……いつも使っているフェアリータイプのポケモンは、どうした……?」
「それは趣味の範囲内だ……。もう2度と……コイツは使わないって決めたんだがな。アイツが……死の淵から"使え"と命令してきやがった気が……したんだ」
「やれやれ……」
雨宮は呆れながら、それまでルークに預けていた体の体重を掛け直してはその足で立ち、彼から離れた。
「いつまでも男同士抱き合ってたって気持ち悪ィだろ……」
「さぁな……?アイツなら喜んだんじゃないか?」
「今頃草葉の陰から悶えながら見守ってくれてんだろうな……」
ーーー
「お願いですリッキーさん!レンのため……いや、ジェノサイドのためにも!今この場で苦しんでいる人々の為にもっ!ラジオでオラシオンを流して下さい!!」
言ってミナミは何度も頭を下げた。
それを相手されてリッキーも困った顔をしている。
「うーん……だけどなぁ……。彼も事実に即して動いているのかどうか……」
「その事実を伝えていないのがあなたたちマスコミじゃないの!!このまま見殺しを決め込むつもり!?」
「いや、それは……」
途端に強気になったミナミの相手がしんどくなってきた。
リッキーにも1人のDJとはいえ、やれる事など限られているのだ。
そもそも、本部の指令と相談無しに勝手に大会を中断している事さえも怪しいのだ。
「じゃあ、せめて今此処で起きている真実を伝えて下さい」
「いや、無理だ」
リッキーは即答する。
最早その返事には慣れが見えていた。
「数多くの、それこそ日本全国のマスコミ、メディアが1箇所に集まっている中で……1つだけ皆とは全く違う報道をしていたらどうなると思う?ネットでは英雄扱いされるかもしれないが……テレビやラジオ越しでしか見聞きしていない人からすれば"デマ流してんじゃねェよ"と思われてしまう。そうなれば僕たちは……FM田無はどうなる!?やって行けなくなるんだぞ!?」
「そんな……ひどい」
「一般の民衆なんてそんなもんだ!!本来あるべき事実から目を背けている!それは何故か?伝えないからだ!!伝える必要が無いと上が判断しているからなんだよ!?だから僕たちも……その判断に従って、民衆向けに報道をしなくちゃならない!!アフリカで子供たちが何万人と死のうと、君は気にも留めないだろう!?それと同じことが!これが今回此処で起きてしまったと考えるしかないんだ!!」
我ながら無力だと、諭しつつも悟ったリッキーが居た。
人々に楽しみを与えたくて、自らがエンターテインメントになる事を願って手に入れた職のはずなのに、今はどうだ。
人々に苦しみと痛みと悲しみしか与えていない。
理想と現実のギャップに誰よりも深く苦しみながらリッキーは訴えるしかなかった。
自分は何も出来ないと。
「……じゃあこっちがやります」
香流が静かに吠えた。
「やる?……何を?」
「レンはオラシオンを流しさえすればいいと言ってくれた……。そうなればこの騒ぎは収まるって。だったら、こっちが引き受けますよ。今からラジオ局ジャックして、オラシオンを流す」
「なっ……!?何を言って……!?」
誰よりも慌てふためいたのはリッキーでもミナミでもレイジでも無かった。
友人の高畠美咲だった。
「誰もがやりたがらないのなら……こっちがやる。やるしかない」
「だからって……香流がやる事じゃないでしょ!?」
「もう、やめてくれ……」
高畠と香流の言い合いに、リッキーは苦しそうに喚くような声で無理矢理にでも止めさせる。
「君たちは動いちゃダメだ……。これはもう、別の大きな力が動いているとしか思えないんだよ」
「大きな力?」
ミナミのオウム返しに、リッキーは静かに頷く。
「大きな……なるほど……」
これまでの流れを黙って見ていたレイジが呟く。
「リーダー。つまり、こういう事ではないでしょうか?」
「レイジ。アンタ居たんだ」
「むっ……私も影が薄くなったものですね……じゃなくて!……つまりはですよ!?何者かが我々に不信感を抱かせたいのですよ!」
「不信感?どうして?」
「そこの人の言う通りだ。メディアに対する目を変えたがっている者が居るとしか思えない。でないと、今のこのふざけた状況が説明出来ない!」
レイジの考えが偶然にも一致していたのか、リッキーが熱くなりながら彼の代わりに説明を、自身の考えを述べる。
「いいかい?黒幕という存在が居たとしよう。その人は、ここに居る人を対象にマスコミやメディアに対する不信感を与えたがっているんだ。事実と報道が全く違うからね。そうなるとどうなるか。今この場に居る人達は酷く怒るんじゃないかな?"どうして本当の事を言わないんだ"とね」
「その結果……どうなるんですか?」
「その結果……。対象者は不信感を募らせる。日本のマスコミは政府と癒着している。その不信感は……日本政府に……。国そのものに向かうんじゃないかな?」
「と、言うことはもしかして……」
香流は忘れていた。
これが1人の男の推測だと言うことを。
しかし、本業の人間だという事も合わさって真実に聴こえてしまっているのだ。
「変な話だけど……改革を……。国そのものを変えたがっている勢力があるって事じゃないかな?」
だからこそリッキーは言った。
君たちは関わるべきではないと。
必然的に動くべき人間が決まってくる。
「……よし。僕も覚悟を決めたぞ。……僕が、僕がやる。ココは1つ……。ジェノサイドに、協力してやる……っ!」
これまで培ってきた物すべてを捨てる覚悟で。
たった1人の無力な男が立ち上がった。
世界を救う為でも、黒幕に泡を吹かせる為でもなく。
1人の男の夢物語に付き合う為に。
最期の最期まで自身がエンターテインメントとなるために。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.434 )
- 日時: 2019/12/14 14:39
- 名前: ガオケレナ (ID: mG18gZ2U)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
メイは自分の身を守る為の護身術といった類のものは持ち合わせていなかった。
ポケモンこそが身を守る術だったからだ。
しかし、ポケモンが使えない状況下では。
己の肉体しか使えない世界では。
「うっ……ッ!」
相手の蹴りを受けて足を踏み外し、何段か階段を転げ落ちる。
息をするのも苦しい。
体のどこかから、染みるような痛みがした。
膝に手を当てると若々しさを象徴するような真っ赤な血が付着する。
「ひ、ひどくない……?か弱い女の子に……暴力を振るうなんて……」
痛みに耐えながら、手すりを使って立ち上がる。
これが無いだけでも彼女は立つことは出来なかっただろう。
「敵に女も子供も関係あるかよ?」
アルマゲドンの男は冷たく言い放つ。
余裕そうだが、大したものでもないのは分かっていた。
蹴りを受ける時にも感じたことだが、彼も喧嘩や肉弾戦は得意では無さそうだ。
そもそも、日頃はポケモンを使い、余程の時に限って銃を手にする者が強いはずが無いのだ。
それを分かっていながら、攻略できない。
前に進めない自分が居た。
「そう……ね。でないと、深部で戦う意味など無いものね」
髪は乱れてグシャグシャになっていた。
自身の視界さえも奪っている。
本来であれば髪も整えたいところだが、ひとたび腕を動かせば激痛が走る。
無駄な動作をする訳にはいかなくなったのだ。
「吾は先の戦いから、ジェノサイドが必ず来る事を知っていた……。だから吾はここに居る。奴を殺すことこそがここに居る理由だ……。だからお前とて殺さない理由は無い」
「別に私のことなんでどうでもいいでしょう?……それよりも、ここまでするアナタたちの目的を……理由を知りたいわ」
「父さんの願いを叶える……それだけだっっ!!」
話を交えるのは不可能。
それが知れただけでも収穫モノだった。
メイはチラリと背後を、パルキアが'はどうだん'で空けた大穴を見た。
空の向こうでは、互いに衝突したせいかディアルガとパルキアがじゃれ合っている。
「ところであなた……。あの2体が時々地上に向かって攻撃してくるけれど、なんでなのか……分かる?」
男はトドメを刺さんと走る。
拳を突き上げ、殴り飛ばさんとして。
「知らんな!!無力で汚い奴らに意識を向けるとでも思っているのかね!?」
「そう?私は気付いたわよ?」
タン、と。
足をわざと響かせて大穴を背にするよう何歩か歩いた。
「さようなら。せめて新たな世界で救われるといいわね……?」
そう言うとメイは体重を後ろに預ける。
ゆっくりと、穴に吸い込まれるように、
地上に向かって落ちて行った。
「なん……だとぉ!?」
男はその不可解な行動を、緩やかな自殺を見届けた後。
異変に、もう後戻りが出来ない事を察した。
ディアルガが、こちらに向かって'ときのほうこう'を撃つその瞬間だったからだ。
それまで女の影で見えなくなっていた景色が、鮮明に見えてくる。
パルキアはこちらを睨み、ディアルガは技を放つ。
ここまでがメイの策謀だったと、果たして気付けたであろうか。
それまで2人が立っていた非常階段がまとめて消し去る様を、絶望を与えるのみの轟音を響かせる。
その様子をメイは、落ちながら眺めていた。
階段は2つに裂けた。
ポケモンが使えない以上、そこから先へは行く事は出来ない。
「はぁー……。でも、仕方ないよね」
落下しながらメイはため息をつく。
状況を見るとかなり呑気だ。
(ディアルガとパルキアは悪意を汲み取って攻撃する……。私があそこから敵意や悪意を放ち続けていれば、いつか来るとは思っていたわ……)
重量とエネルギーに逆らって首を曲げる。
そろそろ墜落する頃だ。
そして、ここまで下ればポケモンを使う事が出来る。
「お願い!ムクホーク!」
メイは自分の体の真下に向かってボールを投げる。
出てきた猛禽ポケモンが羽ばたきつつ主人を包むと、ゆっくりと着地していった。
そのふたつの足で地面を掴むと、感謝の意を述べながらメイはポケモンを戻す。
「もしもポケモンが使えなかったら……私死んでたわね。これ……。今後もしかしたら、ポケモンのお陰で平均寿命上がるんじゃないかしら?」
それまで自分と高野が2人で暴れていたバトルタワーを眺める。
屋上に行く事は出来なくなってしまったが、約束は守れそうだ。
あとは、彼の無事を祈るのみ。
ーーー
自分たちより先頭に立つ者が騒ぎ立てていた。
このまま橋に到達すると街になだれ込んでしまうと。
無関係な人々も巻き込む恐れがあるなどと喚いている。
「いちいちくっだらねェんだよ……」
敵の波が引いた今、ルークはやっと初めてポケモンをボールに戻しては回復させた。
その間に自分たちの怪我の手当も簡単ながらに済ませた。
とは言っても、消毒液を吹きかけたり包帯を巻く程度の事しか出来なかったが。
「どうする?ルーク。このまま進むか?」
「俺は行く。だがお前は雨宮抱えて戻れ」
ルークは仲間のモルトにそのように指示した。
モルトは包帯代わりに何処かから持ってきた、あまり綺麗でない布を巻き付けられて寝かされていた。
当然息はまだある。
「ルーク……それだとお前が」
「分かってる。今先頭で戦っているジェノサイドの仲間がクソの役にも立たない事も、この状況で2人離れればキツくなるのもな。だが、俺や周りがその分動けばいい。お前らは戻れ。リーダーと共に避難してろ」
「俺が……許すと思うか……?」
巻いたはずの布をもう既に赤一色に染め上げた雨宮が、モルトに抱えられながら呟く。
「こんなところで……逃げると……思ってンのか?」
「いいからやれ。ほら、敵が来た」
見ると、前方で捌ききれなかったアルマゲドンの勢いがこちらに溢れ出てきた。
上り坂である事を気に止める様子もなく、彼らは自分たち目掛けて駆けてくる。
「早く行け!!ここで死なせる訳にはいかねぇんだよォォッッ!!」
ルークは叫ぶ。
「だったら戦えやアホがぁぁッッッ!!」
後ろから声がする。
しかし、それは雨宮でもモルトの声でもない。
ルークも聞いた事のない人間の声。
その声の主は、
追い付いた敵を己のポケモンの拳で吹っ飛ばした。
「お前は……?」
ルークは戸惑った。
突然、今このタイミングで助太刀が入るとは思わなかったからだ。
ヘラクロスを従え、その男は1箇所に固まっている3人を眺める。
「どんな状況だ?」
「いや、まずお前誰よ」
一変して空気が白けた。
助けに来たかと思えば第一声が「誰だお前」なのだから。
「あーーーっ!!クッソォォ!雰囲気台無しじゃねぇかカッコよく登場したと思ったのによぉぉぉ!」
「だからお前誰だっつーの!」
「いや、待て……お前、見た事がある……」
ルークの突っ込みも、彼のボケも無視してモルトが訝しんだ目を向ける。
「お前……ジェノサイドの友人とかだったよな?」
「あぁそうだよ!!アイツが大人しく避難してろとか言うから馬鹿らしくなって無視して来たところだ。自分こそ危ねーことしてるらしいしよォ!!」
胸から提げたメガイカリを周囲に見せつけながら、怪しい輝きを灯らせて豊川修は怪我をした3人を無視して前へと進む。
「いや、待て。テメェ……一般人だろ」
「え?」
ルークが、彼を不意に止める。
「テメェはジェノサイドの人間でも無ければ赤い龍の人間でもねェよぉだなぁ?そもそも、これらの言葉の意味が分からねぇ奴は文句無しに一般人だ。コレは赤い龍とアルマゲドンの戦いだ。テメェは下がれ」
「はぁ!?何お前味方2人下げてまでそんな調子のいい事言ってんのかよ!?」
「あのなァ……此処は危険だからとっとと消えろって言ってんだよド素人がぁぁ!!」
ルークが昂り、豊川は軽く舌打ちした。
そんなやり取りをしている間にも、軍勢は近付いて来ている。
「俺は誰にも従わねぇ」
豊川は小さく、しかしルークにだけは聞こえるように宣言する。
「どいつもこいつも勝手に動きやがって……うぜぇったらありゃしねぇよ……。とにかく!俺はレンやお前にも……誰の命令も受けねぇ!勝手にやってやる!」
そう言っては豊川は走り去った。
勿論、敵が待ち構える方へと。
「ったく……。コレで死んで俺のせいになるとかだったら知らねぇぞ?」
ルークは面倒事に巻き込まれたような顔をしつつもボールを改めて構える。
しかし、これほどまでの幸運に巡り会えた事もまた事実だった。
「お前らの仕事はさっきのアホに任せてやる。お前ら2人は戻れ」
「悪いルーク……。後は頼んだぞ」
雨宮を抱えながらモルトはクロバットとドラピオンを呼び寄せ、それらに飛び乗ると大会会場へと戻って行った。
見送った後にルークは空を眺めた。
未だ、変化は起きていないようだった。
ーーー
砂利を踏む音が聞こえた。気がした。
今自分が立つ場所はアスファルトで完全に舗装しているため、音がするとしたら下から持ち込んだ物が靴に付着し、それが今落ちたのだろう。
「やっと……やっと辿り着いたぞ……」
高野洋平は一点を見つめる。
1人の少女が佇んでいる様を。
黄金に染まった空と、その中を飛び回る2柱の神を見ている1人の少女を。
「お前が全ての元凶だな?一体何をしようとしているのか……すべて話せ」
高野はスマートフォンを取り出した。
犯人にすべて告白させ、それを証拠として地上の人間に伝えるために、だ。
「アナタはいつも……いつもいつも邪魔をするのね……」
その声を聞いたのは久方ぶりだった。
「でも残念。もうすぐお父さんが望んだ、幸福に包まれた世界が生まれるわ。だから今更アナタが何をしようと……何の意味も無いの」
涙を含んでいるような声だった。
そこで高野は確信した。
レミは泣いていると。
改めてよくみると、彼女の隣には見慣れない機械が置いてあった。
まるで、デスクトップパソコンを無理矢理屋外に持ち出したような感覚。
そんな場違いな機械がポツンと置いてあった。
(いや……場違いなハズがねぇ……!?)
この時この場所で置いてある謎の機械となると、思い浮かぶのは1つしかない。
実物を見た事がない故に本物かどうかは分からない。
しかし、高野は自然と体が動いた。
ゾロアークが彼の背後から突如として現れる。
「ゾロアーク、あの機械を破壊しろ」
1つ頷いて、ゾロアークは'ナイトバースト'を放った。
少女を掠めたそれは、正確に機械を飲み込んでは爆発音を轟かせ、木っ端微塵になる。
確かに今、高野は量子コンピュータを破壊した。
「よし……これで全部元通りに……」
なるはずが無かった。
相変わらず空は金色だからだ。
「な……っ、俺は今壊したはずだぞ!?」
「此処に量子コンピュータがあるはず無いでしょう?」
言って、遂にレミは振り返った。
確かにその目には涙を浮かべている。
「あなたが壊したのはディアルガとパルキアを数値化したモニター。アタシが確認する為だけに此処に置いておいたものよ。AKSとは一切関係無い」
「そう来ると思ったよクソッタレ……」
「アナタが何をしても意味が無いの。もう止まらない……止まれないのよ……。このポケモンを呼び出した時点でもう……世界は、未来は変わったの」
「勝手に言ってろ。もうお前らの夢を聞くのは飽きた」
「夢じゃない!!もうこれは……現実なのよ」
突如として。
まるで応じられたかの如く、ディアルガとパルキアが彼女の背後に現れた。
どちらも、高野を睨み付けている。
「えっ、まさかお前……操れんの?」
「だからもう……死んで」
ディアルガとパルキア。
2体が同時に彼に対して'はかいこうせん'を放った。
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