二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.510 )
日時: 2020/07/03 20:20
名前: ガオケレナ (ID: pACO7V1S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「外したか」

銀髪の男ユダは事の顛末を見届け、もう一度高野洋平を狙おうか悩んだ。

「ユダ……お前、何をやっている?」

「ジェノサイドを殺そうと思ったが……失敗したようだ。奴は今後脅威となるだろう」

「とにかくっっ!!このままじゃあキーシュが死んじまう!どうにかしてくれよユダぁ!」

バラバがキーシュを抱えつつ叫ぶ。
だが、ユダは顔色一つとして変えようともしない。

「知らんな。死にゆく人間になど微塵も興味は湧かない」

「ユダ……」

何処も彼処も絶叫だらけで非常に煩い。
他人にとってはとにかく耳に悪い場所だった。

ーーー

「ハヤテ……?おい、ハヤテ……」

高野は開ききった瞳孔でハヤテをただ凝視した。
片腕を千切られた仲間は、向こうの首領以上に深刻そうである。

「リー……、ダー……」

「ハヤテすまない!!俺が油断していたばっかりに!!頼む、すぐに助けるからっっ!!あと少しだけ……」

「ごめん、なさい……。リーダー……」

そう言うと、ハヤテは二度と口を開かなくなった。
半開きの生気の無くなった目が、無常なる事実を告げながら。

「ハヤテ……」

高野は彼を抱き、頬に手を触れる。
実感が無かった。
まだ生きている。

そう思いたかった。
そうとしか思えなかった。

だが、瞳は決して動かない。
少しだけ開いた口から息が吐かれる事もない。

高野洋平は、諦めた。

肩の力をがっくりと抜き、無念そうにゆっくりと目を閉じる。

「リーダー……まさか、ハヤテは……」

ケンゾウが駆け寄った。
だが、彼には見せられない。
誰にも見せたくない。

特にハヤテを溺愛していた彼だ。
何も、言える事が無かった。

「そんな……ハヤテが、死んだ……なんて言うんすか?」

筋肉質で逞しい彼からは普段見せることの無い、震えた声。静かに流す涙。

「俺の……せいだ。俺が、殺した……」

高野は、誰にも聞こえないほどの小声でそう呟いた。

「そろそろいいか?」

イクナートンがわざとらしく咳払いをしながら小馬鹿にするような声色で2人に声をかける。

そんな時だった。

「ギラ……ティナァァ……」

呼吸音と共にキーシュが真上を向く。

そして。

「ギラティナァァァァアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

死にかけの人間が発する言葉とは思えない絶叫が響いた。
その場に居た誰もがそちらを見た事だろう。

そして。

次の瞬間には、ギラティナ含めゼロットの人間諸共完全に姿を消した。

キーシュの叫びにギラティナが応え、彼等をやぶれたせかいへと飛ばしたのだった。

「逃げ……られたか……?」

イクナートンが出来うる限りの彼等なりの抵抗をいくつも幾つも頭の中で浮かべては消えてゆく。

「おい、起きろデッドライン」

仲間との別れ。
それすらも許さないと言いたげに。

イクナートンは彼を睨み付けたまま命令する。

「キーシュがギラティナと仲間と共に逃げやがった。今すぐ追え。そして捕まえろ。今すぐだ。ほら、起きろ」

「起きろ……だと?」

全速力で走ってきたミナミとレイジにハヤテの体を預けると、負けじと彼もイクナートンを強く睨みながら立ち上がる。

「ほら、起きたぞ?次は……どうしたらいい?それとも、今この場でテメェを殺してやろうか?」

「フッ、ハハッ……。面白いジョークだな?ネタの1つくらい言えるのだな?」

だがそれは、明らかに面白いものを見ている反応では無かった。
鼻で笑い、瞼はピクリとも動いていない。
嘘であることが丸分かりだ。

「キーシュが異世界を伝って逃げた。反撃をされる前に叩くぞ。幾つかの候補地をピックアップし、先回りするんだ。……まぁ、俺からすれば実際に国を攻撃してくれた方が理由付け出来て非常にやり易いのだがな」

「仲間が……死んだ」

「気の毒な事だ」

「5年間連れ添った仲間が死んだんだ!!コイツを弔ってやりてぇんだ……」

「そいつは残念な事だな。だが、よくある事だ」

「イクナートン……悪いがこれ以上は協力出来ねぇ。ひとまず日本に帰らせて貰うぞ……」

「敵はそこまで待ってくれるとは思えないんだが?」

「うるっせぇよぉぉ!!何が気の毒だっ!!何が理由付けだクソ野郎!!テメェからすれば自国民すらもどうなってもいいってのかよ!?」

「オイオイ、何もそこまで言っていないだろう?愚民が幾ら死んだところで、誰が悼むってんだ?」

怒りの限界だった。
ここまで他人に殺意を抱いたのはいつ以来だろうか。

ボールに戻したと見せ掛け、姿を隠したゾロアークを忍ばせた今。

再び、変化が起きた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.511 )
日時: 2020/07/04 12:20
名前: ガオケレナ (ID: pACO7V1S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「イクナートン!!イクナートンっっ!!!」

ただ事では無いことをその声の主から判断したエジプト系の男は振り向く。
ルラ=アルバスが大いに焦っていた。

「大変なの!確保していたゼロットの男の子が居なくなっちゃったわ!!」

「なんだと!?」

前日に捕らえたテウダの事だろう。
拷問を加えつつ情報を吐き出させてやろうと思った途端にベラベラとすべて喋った情けない人間というイメージしか無かったせいでその衝撃は大きい。

「拘束されたり撃たれたりでダメージはデカい筈だが……よくもまぁ逃げやがって」

高野洋平とのやり取りは一先ず保留とし、テウダが居残っていたヘリへと向かう。

確かに、そこには誰も居なかった。
逃げるわけが無いと高を括ったのがどうも間違いだったようだ。

「どうする?」

「どうもしない。キーシュの真の目的を吐かせるために連れて来たようなものだ……存在価値など最早無いさ」

悪いな、と軽い調子で高野に対して言う。
対象が対象なので余裕さを保ち続けている風を装いつつイクナートンは彼等が立っていた場所へと戻ろうとして、

ふいに立ち止まった。

「……なん、だと?」

今まで見てきた物は何だったのか。
それまでのやり取りは現実か。

高野洋平の姿が消えていた。

彼だけではない。
その周りに漂っていた彼の仲間の一切が、事切れて動けなくなった人間の姿も無い。
何10人といた仲間の誰もが消えている。

痕跡そのものが丸ごと無くなったようだった。

「一体……ヤツは何処へ行った……?」

有り得ない。
一体どんな手段を講じて逃げたというのか。

周りに使える乗り物は無い。
ポケモンの'テレポート'では一度に遠距離を移動するのは不可能。

「どこへ……消えやがったあの野郎!?」

四方八方を睨むイクナートン。
その際に、見てしまった。

そして、発覚した。

空の遥か遠くに、数機の飛行機が飛んでいるのを。

ボン、とふざけた爆発音のような異音が鳴る。
自分の周りの景色が超スピードで流れていくような映像を見せられる感覚に陥らせる。

「やられた……」

イリュージョン。

高野洋平は、彼がテウダに意識が向いたその時から、もしくはそれよりも以前に自分の周りの景色を、イクナートンと彼の仲間全員を対象に化かして見せたのだ。

『ひこうきだせ』

メイに見せたゲーム画面には、そんなふざけたゾロアが表示されている。

ーーー

「よかった……上手く行けたようだ」

高野は10人程が乗れる飛行機に乗り、窓から地上を見下ろしながら言った。

「あらかじめサラーラ国際空港に用意しておいて良かった……奴の事だ。携帯でやり取りしていればバレちまう」

「それで、ゲームを合図に使った訳ですね」

破れた白作務衣姿のレイジが今初めて理解したように反応する。

「ですが……貴方にはやるべき事が残っていたのでは?」

「山背と石井は……あそこには居なかった……。こんな事になっちまった以上2人の保護は無理だ……。もう、諦めよう」

続けて2機の飛行機がついて行くように飛んでいる。

結局何も手にする事は出来なかった。

仲間の生命と2人の友。

海の向こうで多くのものを失った。
それを抜きに彼が手にした物と言えば、更なる混乱だろう。

まさに、最悪な旅だった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.512 )
日時: 2020/07/06 22:13
名前: ガオケレナ (ID: ix3k25.E)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「着いたぞ。ここでいいのか?」

「本当にありがとう……なんてお礼をしたらいいのか……」

ピックアップトラックの運転席に座っているテウダはその景色を眺めていた。

丁度、飛行機が真上をかっとんでいた所だ。

「これも何かの縁だろう。あの時お前達に会わなければ、1人で逃げていた所だからな……」

彼はぼんやりとその光景を思い出す。

その時。
誰もがキーシュに意識が向いていた時の話。

チャンスだと感じた。

自分はNSAのヘリコプターの中で取り残されていたのだが、戦いが始まる頃には手枷足枷は解かれ、たった1人の監視を付けられるに留まっていた。

だが、"その時"にはその監視役の兵士も異変を感じたのだろう。
短機関銃を手に戦地と化した遺跡へと走り去ったのだ。

キーシュ達が消えたのは突然の事であり、そして一瞬であったのでその間に逃げるのは不可能であった。

高野洋平がイクナートンといがみ合いを始めた直後から。

誰も彼を意識していなかった。

一目散にヘリから逃げ、彼等から1番遠い位置に置いてあるピックアップトラックに乗り込み、エンジンを始動してはバック走行で"陣地"から逃げ出す。

遺跡の敷地から離れ、まずは近くの街へでも繰り出そうと考えていたその時だった。

壁を挟んだ向こう側から、2人の男女が飛び出してきた。

走り始めた直後でスピードが乗っていない事が幸いし、彼等を轢く直前で停止する。

『危っねーーんだよクソがっ!!』

大声で怒鳴るも、2人はきょとんとしていた。
そして、その顔を見て理解した。

最近仲間入りした、コウヘイとマキの2人だったのだ。

『お前ら……どうしてこんな所に……?』

『あいつらから逃げて来たところだったんだ!!』

2人はキーシュにより、戦わないよう指示されていた。
全く使い物にならないのと、高野洋平の目の前で姿を現してしまえば彼の意識に変化が現れてしまう。

悪い方向に向かってしまうことを恐れたのだ。

『あの場所には……遺跡には来るなと言われていたな……?隙を見て逃げたのか』

特に見捨てる理由も無かったのでテウダは2人を乗せた。
そして、その果てに彼等を空港まで連れて行っては降ろしたのだ。

「本当に……ありがとう」

「行けよ。日本にさっさと帰れ」

「あの……あなたは、どうするの?」

心配そうな眼差しで石井が覗き込んできた。
キーシュと仲間がいなくなった今、特にする事がない。

「そうだな……今更国に帰っても意味無いし……。キーシュ達を探すさ。ギラティナと共に異世界に逃げたんだろう?お前たちと会えたのと同じように、どこかで突然会えたりするようなもんだろ」

希望を望んでいるような言いぶりではあったものの、期待しているようには聴こえなかった。

山背はテウダに対し大きな不安を覚えたが、

「いいから行け。追っ手が来てもおかしくないぞ」

その場で立ち止まってはどうしようもない。
彼の素人から見て説得力のありそうな言葉に影響され、山背はぺこりと一礼すると石井の手を握り空港へと走り去って行く。

それを見届けたテウダも、2人の姿が完全に消えた事を確認すると再び車を走らせた。

ーーー

日本に到着したのはそれから3日後の事だった。
荷物が無くて本当に良かったと何度も飛行機の中で思った。

「まさか……メイさんと繋がっていたとは……意外ですね?」

「正確にはそのバックに控えている塩谷議長だな。アイツには本当にお世話になったよ」

高野がルラ=アルバスと知り合い、日本を離れる直前。
彼は塩谷利章と連絡を取り合い、如何なる理由で日本を離れ、何をするかをすべて伝えていた。

その結果が、

「メイを挟んで連絡をしろってさ。だがその甲斐あってゲームでやり取りが出来た。ゲームを操作するだけだったら俺じゃなくてもいいもんな」

高野がレイジに説明を続ける。
確かにあの時、彼がイクナートンに怒りを向けていた最中にゲーム画面を開きメイとやり取りをしていたのは高野本人ではなく、仲間の1人であった。
そのお陰で高野洋平とレイジ、ミナミとその仲間たち全員は飛行機に乗れていたのである。

飛行機が着陸姿勢に入った。
ガタガタと揺れるその動きは、決してそんなわけは無いのだが、前時代に作られた機体なのではと変に想像を膨らませてしまう。

暫く待つと、飛行機は完全に止まった。
どうやら空港に着いたようだ。
地上に足を付ける時が来た。

1週間ぶりの日本の土だ。
施設の中を暫く歩き、ふと振り向けば、成田空港と示された案内が掛かっている。

国内に残っていた面子が事前に準備をしてくれていたからか、特別チェックを受けること無くゲートを抜ける。
その先に、メイが居た。

そして抱きつかれた。

どういった思いなのか。
それは彼女本人にしか分からないが、

「おかえりなさい」

その言葉は、とても優しく響いた。

「ただいま」

得るものよりも失ったものが多かった、追って追われての逃走劇が終わった瞬間だった。

「ハヤテが……死んだ」

「うん」

「山背と石井を……連れて帰る事は出来なかった」

「うん……」

魂の篭っていない、力の抜けた報告をする高野だったが、その間メイは彼から離れない。
抱きつく手の力を強め、そして後ろに控えているミナミらの視線にも臆すること無く彼の言葉を聞き続けている。

「キーシュは……逃がしちまった」

「……」

「アメリカのスパイ組織に……目を付けられちまった」

「全部知ってる。でも……」

メイはやっと埋めていた顔を上げる。
そこで初めて彼女の表情を見た。

「あなたが無事で……よかった」

嘗ての敵だったとして、誰がその言葉を、事実を信じるだろうか。

その目は腫れていた。
彼の為に涙を流していた。

高野洋平という1人の男の無事。
それが知られた事が、彼女にとって何よりも良いニュースだったのだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.513 )
日時: 2020/07/07 20:35
名前: ガオケレナ (ID: pACO7V1S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


眠れない日が続いた。
これまでの7日間が非日常過ぎたせいもあったからか、すべてから解放され、これまでにあった1つひとつの出来事を思い出しては考える余裕が生まれてきた。

だが、それでも認め難いものや理解できないことの1つや2つが蘇る。
それを思うだけで眠れなかったのだ。

動けない日も続いた。
時差ボケと言われればそれまでだが、この時までに蓄積された疲労で起き上がる気力すらも湧き上がらなかった。
一日中ベッドの上でスマホを見ては寝るサイクル。
大きな怪我が無かっただけマシなのだろう。
それでも、何をする気にもなれなかった。

高野洋平は、ジェノサイドというこれまで自分が動かしてきた組織の残党が多く残る人間の中に紛れていた。

ミナミとレイジが主とする組織、赤い龍。
嘗て、ジェノサイドにも組み込まれた連中の集まりだ。

赤い龍の基地は高野が通う大学からでもほど近い団地を丸々利用していた。
傍から見れば団地住みにしか見えない為カモフラージュにも適している。
いいセンスだと初めて聞いた時は思ったこともあった。

その中のワンルームに彼は居座っていた。
空き部屋ならまだ数多くあるとの事なので心配は無かったのだが、自分には関係の無いことだ。

「な、なぁ……ジェノサイドのヤツ全然出てこねぇぞ……?」

「ほっとけや。勝手に行って勝手に死んでんだろ」

やることが無いと周りの音がいつもよりもよく聞こえてくる。
自室の扉の前で、ルークとリョウが自分の事で会話をしている。

身近な仲間であっても、自分の事で盛り上がっていてもひどくどうでもいい。
普段通りならば隠れて喜んではいられたのだが。

「でもよぉ、ルーク。聞いた話だとジェノサイドの仲間が死んだらしいとかで……」

「だから何だよ?組織の人間なんざその辺の戦いでバタバタ死ぬぞ?たまたま見知った奴が死んだだけの話だ。そう考えると奴にとって俺たち構成員ってのは生きてても死んでても変わらない道具なんだろ。今までそんな目で見てたって事だろ」

「ルーク……何もそこまで言わなくても……」

自分が突っかからないと知ると好き勝手に言うのは高野洋平という人間も同じなのだが、そういった愚痴の類は本人の知らないところでやるものである。

このように自分が聴ける範囲でやられると非常に複雑な気分になってくる。

いつになったら扉越しの会話が途絶えるのか。
そんな事を思いつつスマホを操作していると、

「ほらほら、ちょっとそこどいて男子たち!私はその部屋の人間に用があるのっ!!」

「あぁ?何でお前が此処に……」

「め、メイさん!?一体どうして……」

声で分かった。
この組織には所属していない人間が此処にやって来たに過ぎない。
にも関わらず何故ルークとリョウの2人はそこまで狼狽えているのだろうか。
不思議に思ったのもつかの間、

バキッという色々な意味で不安になりそうな音を立てて無理矢理開けたメイが部屋へと上がり込んでくる。

と、言うより扉は破壊されている。

「おはよっ!レン」

「もうこんにちはー……の時間だろが」

「起きないの?」

「勝手に起きるから心配すんなー」

「……」

メイは突然黙り出しては横になっている高野を眺める。

そして、バサッと彼から掛け布団を剥ぎ取った。

「おい何すんだよ……まだ眠い」

「いつまで寝ているつもり?」

「……」

「誰も……敵は待ってちゃくれないよ」

決して絶望している訳では無かった。
その目を見れば分かるのだ。

「お前も……俺に戦えと言うんだな」

「当たり前でしょ。あなたしか頼れないもの」

「またそんな嘘を……」

と、言いつつまるで何事も無かったかのように起き上がっては部屋から出ようとする高野。
何故こうも上手く行くのかと不思議そうに眺めているリョウは反射的に声を掛けた。

「ど……何処へ行くんすか?」

「適当に。夜までには戻る」

ーーー

「んで?何の用だ」

「先生が会いたがっているわ」

高野とメイは外に出て散歩がてら団地の周りの整備された公園のような敷地を悠々と歩く。
彼女が来るということは相応の理由がある筈だからだ。

「先生?お前にそんな奴が居るのか?」

「塩谷議長」

「なら素直にそう言えや」

恐らくアラビアで起きた事の顛末を知りたいのだろう。
生きて帰ってきた自分以外に説得力のある人物が他に居ない事が悔やまれるが、彼としても主張したい事があるのは確かだ。

「塩谷議長は何処にいる?」

「先生は毎日出掛けているわ。そこらの議員と違って決まった事務所や議会場に居る訳じゃないの」

「じゃあ会うのは無理だな」

「ところがね!今日は知り合いに会いに行くとかで神東大学に居るのよ!」

「何でだよ都合良すぎだろ本当に居るのかよあんなチンケな大学で」

「もう少しゆっくり話しましょう?」

団地からは離れ、山の名残が残っている坂道を2人は歩く。

大学も団地もいずれも山の上に立てられたものだ。
少し歩くだけで校舎が見えてきた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.514 )
日時: 2020/07/08 19:34
名前: ガオケレナ (ID: pACO7V1S)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


神東大学に到着した。
この学校を見るのは1ヶ月ぶりだ。

講義は休み明けにも再開……つまり、夏休みは残り2日との事なので単位の足りていない高野は毎日来る羽目になる。

「議長はどこに?」

「あそこよ」

メイは1つの建物を指す。

「食堂前のラウンジ」

「あのなぁ……」

ひどく呆れた。
議会の重役が来ているのなら、もっと安全で安心出来る場所に居るべきだ。
知り合いに会うと言うのなら、その人の研究室が手っ取り早い。
不特定多数の人間が入れ替わる所に居座るのは不用心と言うのではないのか。

そこへ行ってみると本当に彼が居たので尚更に拍子抜けしてしまう。

塩谷利章は2人の若者を見つけると木製の椅子から立ち上がった。

「やぁやぁ。騒動の後に呼び出してすまないね」

「いえ……もう休めたので」

「んん?」

塩谷は高野の反応に思わずにやけてしまった。
彼とは1月にも会ってはいるが、明らかに初対面時と比べて丸くなっている。
色々経験した、ということなのだろう。

「さて、と。それじゃあ話を聞こうかな?」

「まさかここで話を?もっといい所でもいいのでは?」

「高野くん?この大学は……とてもいい所だよ。でも君の直感は正しいね。一箇所に留まって話をするのは危険だから……そうだね。歩きながらでもいいか」

どこまで此処を気に入ったんだと疑問に思った高野だが、ここは無言で応じる事にした。
色々とお世話になった人に口を挟むのは好きではないのだ。

「先生……私は離れていましょうか?」

「いや、君も一緒でいいよ。3人で共有するのが1番だ」

塩谷はそう言って歩き始めた。
行先は決まっていなさそうな足取りだ。

「それじゃあ……アラビアで何が起きたのか、高野くん。まずは話してもらっていいかな?」

「え、えぇ……分かりました」

高野洋平はこれまであった事。

友人の香流慎司たちに誘われて神保町に行ったところから始まったこと。
"エシュロン"を名乗る人物に出会ったこと。
組織"ゼロット"が暗躍していること。
サウジアラビアへ赴き、キーシュとも邂逅したこと。
どういう訳かギラティナを操っていたこと。
自分の友人がゼロットに関わっていること。

そして。

ギラティナの正体が自然発生したポケモンであること。
キーシュの目的がシリア騒乱を終わらせること。
エシュロンの正体がNSAで、戦争を継続させたいが為にキーシュに突っかかったこと。
仲間も死に、結局友人とは会えなかったこと。

一切を話した。つもりだった。

「ふむ……報告にあった事とほとんど同じだね。ゼロットとNSAの目的も知る事が出来て良かった」

「じゃああなたは……ギラティナが何処へ消えたのか分かっていないのね?」

キーシュとギラティナ、そして彼らの仲間は一斉に世界から姿を消した。
恐らくはやぶれたせかいに潜めているのだろうが、そこを経由して世界の何処かへ瞬間移動するのも容易い。

今となっては素人の高野が居場所を掴む事など不可能だ。

「メイくん。ギラティナの事はどちらかと言えばいいんだ。彼も平和を愛していた……と言うことだろう?」

塩谷はそろそろ70にもなる年寄りだ。
声に張りはあるものの、その顔や皺は色々な事を見てきたのだろう。
実年齢よりも老けて見える。

ほとんど白髪の頭を掻き上げながら塩谷は言った。

「高野くん。君なら察しが付いていると思うが……今回の騒動で一番恐ろしいのはギラティナじゃないんだ。いや、ギラティナも怖いんだけどね?」

「NSAか」

「それもあるが、一番の問題は君たちが外国でポケモン絡みの騒動を起こした事だ」

「……」

「ポケモンによって治安の悪化が進んでいるのは何も日本だけではないんだ。同様の問題は各国で起きている。一番危ないのはアメリカかな?毎日殉職者が出ている始末だしね」

「でも、アメリカは犯罪者……つまりポケモンを使う側も毎日警察か軍によって死んでいるのよね?」

「その通り。ポケモンはトレーナーが居なければ動けないからね。最新の武器だけでは勝てないポケモンでも、ただの人間なら簡単に死ぬ事が出来る」

「おいおい……俺は今のアメリカ事情なんて興味もねぇしそんな話をする為に来たんじゃねぇぞ?」

おっと、と。
塩谷はそこでメイとの会話を止めた。

「すまない、脱線したね。実は……深部という存在は諸外国からは追及を求められていてね。それに我が国の政治家が四苦八苦しているというのが現状なんだ。中々すべてを話す事は出来ないからね?」

「そりゃそうでしょうねぇ。世間を守っているのが深部という名の自警団で、警察は使い物にならない。でもそんな自警団は金と名誉の為に同じような組織と殺し合いをしているだなんて口が裂けても言えないだろ?」

「正式には、あとは議会の補助金削減の為だね。組織間抗争と言うのは君たちだけに利がある訳じゃないんだ」

結局のところ。
政治家たちの面子を保つためなのだと言う事に高野は心底ウンザリした。
その為だけに塩谷が派遣され、「勝手な事をするな」と言われてしまっている。

最早何の為の戦いなのかが分からない。

「勘違いしてはいけないのが……」

「……?」

「NSAの手引きで今回の争いが生まれてしまった事にあるんだ。今後、日本の深部を快く思わない連中が攻撃をする可能性も否定できない。それが明確化された事が今回の事件の真の恐ろしさにあるのさ」

「それは……つまり政治家の面子がすべてじゃないと?」

「それもあるが……コレと比べたら弱い。もっと大きな要因があるのさ」

「もう、分からねぇな。俺はそんな事意識して行動した訳じゃねぇのに……」

「戦争屋なぞそんな物さ。傍観してはある事ない事でっち上げて作り上げる。昔からその手口は変わらないものさ」

ーーー

会話の内容が内容だけに不安を覚えた高野は立川の議会場まで塩谷を送る事にした。
過去に襲撃を行った議会場だけに行くことに抵抗が非常にあったものの、彼の安全の為にはやるしか無かったのだ。

「何もそこまでしなくてもねぇ……でも有難う。助かったよ」

「いえ、こちらこそ……話が聴けてよかったです」

「先生!どうか今後もお気をつけて……」

それぞれが最後に言葉をかけ、塩谷は議会場へと入ってゆく。

それを見送った高野とメイはくるりと後ろを向くと基地へ戻らんと歩き始めた。

「俺がずっと寝ていた事なんだが……」

「部屋に引き篭ってたアレのこと?」

「悩みが……いや、なんでもねぇ」

高野にとってメイは幾度も助けてくれた恩人のような存在である。

だが、それでもこの手の相談には一歩引いてしまう。
年齢が近い事も、異性である事もその理由の1つだがそれ以上の抵抗感が存在していた。

さっさと帰って明日に備える。
その事しか高野の頭の中には無かった。


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