二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.485 )
- 日時: 2020/04/21 16:51
- 名前: ガオケレナ (ID: xGY5.0e4)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
自分が今生きていると理解したとき、ルラ=アルバスは漆黒の世界の中に居た。
「う、……ん?なによ?これ……」
一体何が起きているのか。何をしに何処にいるのか。それらすべてが分からない。
ただ覚えているのは、それまでは、下手くそなナンパをパキスタン人のような男性から受けていただけということだ。
「私は……ここは何処?」
「目覚めたかい?お嬢さん」
遥か遠くから、直接脳内に届くような男の声がする。
それは、直接やり取りした事はないものの、聞いた事のある声だ。
「その声……と、言うことはゼロットのキーシュ……ね?」
「ご名答。貴様の言う通り、俺様だ。そして此処は……言うならばそうだなぁー。"反転世界"と呼ぶべきかな?」
永い闇の中を遠くから歩いてきたはずだが、どういう訳か彼は今傍にいる。
「反転世界?どういう事かしら?」
「やぶれたせかいとも言う。俺様もよく分からないのだが……まぁ言ってしまえばギラティナの住処だろう」
見れば、彼女らの背後に世界が浮かび上がる。
上下逆さまとなった通路や家のような建物。
真横から吹き出る湧き水、真っ直ぐ歩いているつもりなのに壁を垂直になって立っているゼロットの構成員など。
そして、そんな空間を悠々と泳ぐように漂っているギラティナだ。
「存在して……いたのね。パラレルワールドが」
「パラレルワールドと断定出来た訳ではないが……少なくとも世界のバランスを保つためには必要となった世界だろうな。これは例の出現とは無関係ではないだろう」
「例の出現とは?」
「なぁ……?NSAのレディさんよぉ?俺様の質問に答える前にまず差し出すものと何か言わなきゃいけないものがあるんじゃないか?」
キーシュの脅しと共に、ルラ=アルバスを取り囲むようにゼロットの構成員が現れる。
その中には山背と石井の姿もあった。
「差し出すもの?言いたいこと?なんの事だか分からないわ?」
「面白い事を言うなぁ?この状況で貴様が無事で居られる保証はあるんだろうか?」
「さぁね?でも、あなたが何を言いたいのか……私には本当に分からないの」
嘘とも本音とも取れるその発言。
意識のこもっていなさそうな眼差しが更なる疑いの念を激しくさせる。
キーシュは舌打ちをして、
「分かった。ならばはっきりと言おう。貴様の持つ『予言者の回顧録』を渡せ」
「何でお前なんかが持っているんだ!何処で在り処を知りやがったんだ!」
囲んでいるうちの1人のバラバが叫ぶ。
今にも殴りかかりそうな勢いを、キーシュは腕を広げて遮った。
「バラバ……コイツはNSAだ。世界中の情報を持つ人間だ。"それくらい"知ろうと思えば容易いだろうよ?早く寄越せ」
「私が持っていると……確実に言えるのかしら?」
「惚けてやがるな?だったら見てみるか……?レーダーとやらを」
キーシュは身を返して道を作る。
彼の立っていた背後あたりに、世界を模した地図が浮かんだ。
「世界地図が何かかしら?この赤い斑点は……」
「残りの『予言者の回顧録』その位置だ。俺様がそのように設定した……。いいか?此処は元の世界と繋がった言わば"もう1つの世界"だ。いつでも、好きなタイミングで接続できる……。空間の情報を入力するだけでギラティナはすべて教えてくれるって訳だ。つまり、この世界に居るだけで俺様は世界中のあらゆる情報を手にする事が出来るって訳さ」
まるで自分たちの持つエシュロンと同じようなものだとルラ=アルバスは思った。
彼は『予言者の回顧録』というキーワードを空間の情報に付け加える事でこちらから監視、位置の特定をしていたということだ。
「その内のひとつ……。サラーラ中央スークにあった位置情報が消えた。奇しくも貴様が降り立って暫くして、だ。そして今、その反応は貴様を示している……」
自身で気付くことは出来なかったが、どうやら彼女の持つ回顧録が赤く示されているらしい。ギラティナを従わせているキーシュのみに見えるのか、それともギラティナのみが確認出来ているのか、それは分からない。
「さぁ、渡せ。それさえ言う通りにすれば元の世界に返してやるよ」
「……私の命を奪おうとは思わないのかしら?」
山背はこの時震えた。
敵の根城に居て、更にそんな彼らにいつ殺されてもおかしくない状況にある中で平静を保っていられている。
自分にはとても出来ない芸当だ。
「そんな事よりも優先度の高い事柄があるというだけだ……」
「果たしてそうかしら?私を此処で殺して奪う……正にあなたたちの先祖がやりそうな事じゃないの?」
「黙れっ!!お前の為に情けを……寛大であるだけだ!」
侮辱を受けて今にも飛びかかる気持ちを抑えてバラバは叫ぶ。
しかし、その内心は彼女と同様であった。
「組織と言うのは常に最新で無ければな……?いつまでも時代錯誤的であればついてくる人間も来なくなると言うわけさ。必要なのは敵に対しても抱く寛大な心さ」
「そんな敵を殺したくて堪らないんじゃないの?」
「そう思う奴も居る……この中にはな。だが、俺様は少し違う。そんな感情よりも先に思うものがある」
言いながらキーシュはチラリと、浮かび上がっている地図を横目に見た。
彼の意識が反映されてか、そこはひとつの国を指している。
「俺様にはやる事がある……。俺様だからこそやらなければならない事があるんだ」
「それと回顧録がどう関係するのかしら?」
「関係はない。俺様が小さい頃から抱いていた、自分自身に関するルーツ……。それが知りたいのさ。先祖がどう生き、今の俺様に行き着いたのか……。好奇心が抑えられない。だから俺様は今貴様が持つ書物を求めている訳だ」
「……そう?現状の根本たる原因である合衆国あたりが憎くて憎くて仕方がないって顔をしているわ?」
「もう黙れ!殺すっっ!!!」
1人の男がポケモンを、トリデプスをボールから取り出す。
現実世界で彼女をナンパした男、アスロンゲスだ。
「おいアスロンゲス……待て」
「待っていられるか!!どこまでも俺たちを馬鹿にしやがって!自分たちがどれほど世界に混乱を齎しているのか……自覚が無いようだなぁ!?それを、今っ!!お前の死体を手土産に知らしめてやる!!」
「お前が黙れアスロンゲス!何もするなと言っただろうが!?」
アスロンゲスは振り向いた。
普段の柔和で口ひげの似合う男の顔はそこには無かった。
それはまるで、自分にとって近しい人を殺した犯人に向かって放つような、殺意を持った目だ。
「……なぁ?お前は甘すぎるぞキーシュ……。何でお前は、そんなんでいられるんだ?回顧録がそこにあって、アメリカ帝国の人間がそこに居て、先祖も俺達も侮辱しやがって、あいつを殺した張本人が目の前に居るってのに……どうしてお前は平気でいられるんだ?」
「……やめろアスロンゲス。今その話はするな」
「お前が今此処に居る意味は?……理由は何だよ!?……死んだラケルに……報いる為じゃ、無いのかよ?」
1人の人物名が放たれた瞬間。
キーシュは強く目を瞑ったような残念そうな表情を見せる。
誰もが己の族長に意識が向いている。
ルラ=アルバスが視線を自身の足元に向けたとき、偶然にも現実世界の景色が映った水泡が浮いていた。
そこには、2人の仲間の顔がある。
ーーー
「おい!!ルラ=アルバス!聞こえているか!?おい!!」
高野洋平は叫ぶ。
無線越しに彼女に声を届けるためと、その場に居るであろう彼女に対してだ。
「言われた通りサラーラ中央スークとやらに着いたけど……何処にいるんだ?あいつは……」
「此処に居るとも限りませんよ。先程の連絡があったのがおよそ45分前です。既に連れ去られているのかも……」
言いながらレイジも首をやたらと振る。
だが、見えるのは多彩な露天のみだ。
「いや、連れ去られても位置情報くらいは残ってるだろうよ……?それが未だ無い事がおかしいんじゃないのか?」
「ルラ=アルバスさんからは……まだ連絡が来ないのでしょうか?」
レイジは無線機に手を当てた。
しかし、無意味な仕草でしかなく、何も変化は無い。
「ったく……捜査のプロが何やってんだか……」
高野は露天に置かれたショーケースを眺める。
中には壮麗な装飾品や宝石の類が並べられている。
そのショーケースに反射した自分の顔は息が乱れてとても慌ただしそうだ。
「ったく……本当に……、何やってんだよ……?」
高野は見逃さなかった。
鏡の代わりと化したショーケースが、内側から水面を発している事に。
そんな非現実的な現象を目の当たりにして注意深く訝しげに眺めていると、
「……えっ?うわ、うわっ!?」
その叫びにレイジが反応し、振り向く。
しかし、その時既に彼の姿は無くなっていた。
「えーっと……あのぉー……。ジェノサイド……さん?」
ただひたすらにレイジは困惑した。
ルラ=アルバスはおろか、高野洋平までもが忽然と姿を消したからだ。
そこには、バザールでの物音や人の声の騒がしいさましか残っていない。
何か途轍もなく恐ろしい現象に出くわしているのではないかと、そんな思いに駆られてしまう。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.486 )
- 日時: 2020/04/21 18:37
- 名前: ガオケレナ (ID: ZsN0i3fl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
異変が起きてからは彼は驚きはしなかった。
既に非論理的な現象が発生しているものの、その片鱗さえ見てしまえば沸き立つ感情よりも目的意識が強く働く。
ショーケースに水面が発生したかと思うと、そこからなんと人間の腕が生えてきた。
と言うよりは、腕がぬっと迫って来たと表現する方が正しいのかもしれない。
それが高野を掴むと、その細い腕のどこから出ているんだと思いたくなるような予想外すぎる強い力で引っ張られた。
ショーケースの中の、鏡の内側へと。
吸い込まれるようにぐんぐんと突き進む。
しばらくすると、放り投げられたような感覚と共に反射的に目を瞑ってしまう。
すぐに目を覚ますと、高野洋平は辺り一色が闇に包まれた真夜中の世界に居た。
(こ、ここは……?)
キョロキョロと首を動かしてみるものの、手がかりとなるものは何も見つからない。
しかし。
「待て……!!アスロンゲス!」
「…………待っていられるか!!…………お前の死体を手土産に……!!」
「お前が黙れ!……何もするなと…………」
遠くの方で怒鳴り声が聴こえた。
「なんだ?喧嘩か……なにかか?」
高野はゆっくりと、穏やかな足取りで声のする方へ向かうつもりだったが、どこか聞き覚えのあるその声で意識はガラリと変わった。
キーシュの声だ。
間違いなく、彼の声がした。
それを捉えた瞬間、足がピタリと止まり、背筋が震える。
この時、彼はすべてを理解した。
自分が何処に居て、何をしようとしているのかを。
頭が、処理能力が追いついてきたからか、闇の世界は反転世界としての景色を突如として見せてくる。
今、彼の目には現実では有り得ない姿をした世界が繰り広げられているのだ。
高野は走る。
声のする方へ。敵のいる方へ。
100メートルほど走ると、彼等の姿が見えてきた。
そこで高野はゾロアークを使う。
イリュージョンを使って、自分の姿を少し変える。
ポケモン本体の姿は悟られないように一切を消しながら。
「……死んだラケルに報いるんじゃなかったのかよ!?」
「……やめろ、今その話はするな」
喧嘩はまだ続いているようだった。
だが心做しか、少し落ち着いているようにも感じる。
タンっ、と1歩踏み込む。
距離を大幅に詰め、キーシュに迫る。
彼らが自分の存在に気付いた時にはもう遅い。
既に頂点に差し掛かった高野は、その手に古い装飾を纏った剣を握って今、己らの族長を叩き切ろうとしたその時だったからだ。
「なっ……ジェノサイド……だとっ!?」
キーシュはその外見やイメージに反してひどく驚く顔を見せる。
高野は剣を振り下ろし、誰もがキーシュが死んだと思わせる。
だが、彼は死なない。
その剣はイリュージョンで見せた幻影であるからだ。
剣を持った高野も、斬られたキーシュもそれぞれ感触を感じない。そう思って一連の騒ぎは終わりを告げる。
だが高野もただのアホではない。
自分が何故此処に、何故突然腕が自分を掴んだのかその理由さえも知ったからだ。
つまり自分は不思議な現象に巻き込まれたのではなく、誰かに求められて今此処に居る。
姿を消していたゾロアークが高野の背から飛び出すと彼とルラ=アルバスを囲むようにして立っていたゼロットの仲間たちに向かって'ナイトバースト'を放つ。
アスロンゲスのトリデプス共々、彼らは吹き飛ばされ、散り散りとなった。
「どういう……つもりだ?ジェノサイド……」
「街を歩いていたらコイツの腕が急に出てきてな?鏡と繋がっているみたいだな?この世界は」
高野はすぐに此処がギラティナの住処だと察知した。
確かにそのポケモンが自由そうに好き勝手に飛んでいるというのもあるが、非現実的な世界とキーシュの声というキーワードだけで分かったのだ。
「……んで?寄って集ってルラ=アルバスを虐めていた訳か?なんの為?」
「貴様は呼んでいない。帰れ」
「今しがた声が聴こえたぞ?ラケルって誰だ?」
「……黙れと言っているだろうが!!」
彼の叫びと共に、キラキラとした物体が放たれた。
それは猛スピードで、一直線に高野とゾロアークへと迫る。
高野を庇うようにゾロアークが躍り出てはその光線を一手に引き受けると爆発した。
「ゾロアーク!?」
膝を折って跪く。
きあいのタスキのお陰で体力が残されたようだ。
「不意打ちとは卑怯だぞ?……お前が例のジェノサイドか」
何人かが吹き飛ばされ消えた暗闇。
そちらから、先程までキーシュと喧嘩していた男の声がする。
トリデプスを従えながら。
「今の技……'メタルバースト'か」
「バーストとバーストのぶつかり合いとか少し面白いな?場所が此処でなくて、しかもお前が邪魔をしなければ尚良かったよ!!」
アスロンゲスが高野に立ち塞がる。
それは、戦う意思を示していた。
高野は呆気に取られ気味のルラ=アルバスへ叫ぶ。
「お前……どうやって俺を連れてきたかは知らないが、出来る事なら今すぐ元の世界へ戻れ。どうせ今も、"持っている"んだろ?」
「ごめんなさい、向こうの世界の人をこちらに連れてくる方法は今のあなたのお陰で分かったのだけれど、戻る方法はちょっと……」
「だったら、とにかく走れ。コイツらから逃げろ。コイツ倒したらすぐにお前と合流するっ!!」
それを聞くと、ルラ=アルバスは一目散に逃げ出した。
キーシュは2人の会話を聞いてクスッと笑う。
「俺様から逃げられると思っているのか?」
「トリデプスと1体の神……。問題ねぇな」
「ほざいてろ雑魚が」
ギラティナがこちらへと向かってくる。
やはりと言うか、姿はよりドラゴンらしいオリジンフォルムだ。
その間に高野はゾロアークを他のポケモンと入れ替える。
流石にタスキで体力が1だけ残ったゾロアークがトリデプスに勝てるとは思えないからだ。
しかし、代わりに出したのはゴウカザル。
勝負はもう見えている。
「そのトリデプスはさっきの'ナイトバースト'で特性の'がんじょう'を失った!!……ならば、これを打つのみだ。'インファイト'!」
一気に駆け出したゴウカザルはその拳と脚で打撃を、乱打を放つ。
動きの遅いトリデプスはそれらを避けるまでのポテンシャルは持ち合わせていない。
岩と鋼タイプを持ったトリデプスにとって格闘技は4倍弱点。
最早勝負は決した。
次なるポケモンが来ることを予測しつつ、高野はキーシュが佇んでいた方へ見るも、
「……居ない?」
薄々気配が無くなった事を察してはいたものの、やはりと言うか彼の姿は無くなっていた。
ルラ=アルバスはひたすらに走るも、とにかく混乱の連続だった。
まともに動けない。
壁だと思っていたものが道だったり、重力が弱いせいで予想以上に跳ねたり、突然足場が無くなって落下したりするのだ。
「あぁもう!何が何だか分からないわねこの世界は!」
「当然だ。元ある世界が正常であり続ける為の世界なんだからなぁ?」
そんな、四苦八苦する彼女の目の前に突如キーシュが現れる。
背後にギラティナを従えて。
「ど、どうして!?あれからかなり走ったはずよ?」
「あのなぁ……俺様がどれほど長くこの世界に居たと思う?景色はその都度違うが一定の規則性があるし、それに何よりギラティナの力で瞬間的に移動することも容易い」
キーシュは片手を差し伸べる。
まるで、転んだ自分を助けるかのように。
「回顧録を寄越せ。そうすれば、貴様とジェノサイドの命は助けてやる」
「ジェノサイドも?貴方にとって、彼は敵のはずよ」
「深部としての、な。だが俺様の最優先はジェノサイドの殺害なんかじゃねぇ……。本来奴はこの件に何の関係も無いんだからな?貴様らが連れてきただけだしな。さっさと差し出せ」
キーシュは掌を見せた方の手を執拗に振る。
催促のつもりだ。
ルラ=アルバスは服の内側から巻物を掴んでは少しだけ取り出す仕草を見せる。
それをしながら、言った。
「確かに私たちは、システムを使ってあなた達の会話、通話、電子上のやり取りを見聞きしてここまで辿り着いたわ。……でも変ね?"ラケル"という単語は初めて聞いたわ?」
「だから余計な事を言うなとあれほど……。目的に表と裏があったとしても何らおかしな事は無いだろう?イラク戦争なんて正にそれじゃないか?」
「私たちは、貴方方がそんな戦争紛いな事をしようとしている事に危機感を抱いているの。反米的な思想を持った人々を集めて組織を作ってギラティナの力を振るう。それが貴方の最終的な野望にしてゼロットと言うテロ組織の目的だと。諜報員の記録にはそうあるわよ」
「じゃあ今ココではっきりと言ってやろう。俺様の野望はそんな非現実的でつまらないものじゃない。そうでないのなら、貴様らが危機感を募らせる理由にもならない。さっさと本国に帰れ」
「その野望とは?交換条件としてそれを言いさえすればコレをあげるわ」
ルラ=アルバスは今後こそ、バザールで手に入れた巻物を衣服から取り出す。
完全にその手に握られていた。
キーシュは覚悟を決めたような顔をすると1回だけフフっと軽く笑った。
「ラケルは……アレッポに住んでいた」
「何ですって?」
「俺様の目的さ。コイツの力を使って、今現在、シリアで繰り広げられている騒乱を終わらせる。それが俺様たち……ゼロットの真の目的だ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.487 )
- 日時: 2020/04/24 14:16
- 名前: ガオケレナ (ID: B0dMG1jJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
予言者の回顧録
サラーラに到着して3日が経とうとしていた。
私は、今何処に居るのかが相変わらず分からない。
その内、もう1つの不安にも悩んだ。
『ムフタールよ、よいだろうか?』
『なんだ?友よ』
『私が初めに砂漠で迷っていた時の話だ。駱駝乗りが私に教えてくれた。"ここには何も無いからシバールへ向かえ"と。シバールにアアドに深い関わりのある何かがあると思った。そこで問いたい。私たちは何処へ向かっているのだろうか?』
『そんなの決まっている。アアドの民が生きていた港の街……サラーラだ』
『……それは今居る場所ではないのか?』
私は嫌な予感がした。
もしかしたら、私が1人で砂漠で彷徨っていた時のように、人が1人増えた状態で同じ状況に陥っているのではないかと。
『私はその駱駝乗りではないし、その駱駝乗りを知らない。なので何とも言えないが、シバールという街は存在しない。私ですらも聞いたことが無い』
ムフタールはそのように言ったのを今でも覚えている。
その時だけ体に神の雷光が走ったような感覚だったからだ。
『どういう事だ?』
『シバームという街ならば有ると言いたいのだ。駱駝乗りがシバールと言い間違えたか、お前が聞き間違えたかのどちらかだ』
『そ、それならば……!!今すぐそこへ寄ってくれ!私は何としてもアアドの民に会わなければならない』
私は必死に懇願した。
しかし。
『それは出来ない。シバームはお前と私が出会った街、アル・ムカッラーの近くだ。こことは真逆なのだ』
『それをどうして早く言わなかったのだ!?私たちは一体何処へ向かおうとしているのか!』
私は怒りに満ちた。
途轍もない裏切りに遭ったような気分だったからだ。
『シスルだ』
『何だって……?』
『シスルに、お前の求めているものがある。シスルの居場所は私が知っている。どうかここは落ち着いてついて来て欲しい』
シスル。当然ながら聞いたことが無い土地の名前だった。
一体何が待ち受けているのだろうか。
大いなる恐怖に包まれながら、私は馬の走る音をただ聞くのみだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.488 )
- 日時: 2020/04/24 15:14
- 名前: ガオケレナ (ID: B0dMG1jJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第五の道、古を刻む針
『これが……お前が過ごした地か』
『違う……。逃げて来ただけさ』
2015年2月。
レバノン、ベイルート。
キーシュはその光景を、特に魅入ることも無いと言いたそうな目を放って仲間と共に歩いていた。
仲間の名はバラバ。彼が日本を一旦離れて初めて会った男だ。
2人の歩く通りには白いテントがびっしりと、正に埋め尽くさんばかりに立てられていた。
正確にはそこは"通り"ではなかった。
戦争や内戦、テロから逃れて来た難民のテント。
即ちそれは、
『難民キャンプ……ねぇ。此処まで連れて来てお前は何がしたい?何を見せたかったんだ?』
『すまん、そういう訳じゃ……。ただ、その……此処に来るのも最後になるかなと思って』
『最後?どういう事だ?』
『"ジャポン"に戻るんだろう?』
『ジャポン……?あぁ、日本か』
キーシュは少し惑った。
ここで知り合った仲間を日本に連れたとして、そこから先は何をすべきなのかを。
彼には目標が無かった。
2ヶ月前にジェノサイドという組織と争ってから、世界から置いてかれたように感じられたのだ。
ジェノサイドという組織はある日突然この世から消失した。
自分と戦った事が遠因らしいのだが、最早負けた身としてはどうでもいい事だった。
少なくとも、100%客観的に判断して負けたという記録ではなかったが深部という狭いコミュニティでは噂は瞬く間に広がるだろう。
ゼロットはジェノサイドに負けたと。
それも、"Sランク同士の戦い"という前例の無い話題ともなれば尚更だ。
『日本に行っても何も無いさ』
『何も?何を言っているんだお前は。日本なんて平和で安全で、自由な国じゃないか。こんなに素晴らしい国が他にあるのか?』
意外だった。
海の向こうの人間の見る日本がそのように見えたとは。
確かに、食べ物だけでなく飲水には困らず、政府への不満や文句を言ったところで命の危機に及ぶ事がない点を見れば平和かもしれない。
それは深部組織として見ても同じだ。
『俺にとってはつまらないね。日本に戻るくらいならば、俺は人類のルーツを探ってそこでひっそりと暮らしたいね』
『何を言っているんだお前は……』
顎髭が少し生えた自分よりも歳上にも見えそうな男はそのように呆れてみせる。
互いが互いの気持ちの理解が出来ないのだ。
そして、キーシュはバラバには話していない事があった。
自分が古代のアラブ民族アードの民の末裔の可能性があると。
だが、ここで話せばバカにされるのが目に見える。
それに、"かもしれない"のだ。確定でない。
その悲惨な光景に気が沈み続けてウンザリした頃。
キーシュはいつまでここに居るのかと文句を、第一声を発した頃だ。
入口の空いたテントから啜り泣く声が聞こえた。
それは、小さな女の子の声のようだった。
『オイ……どういう事だ?ここでは小さい子供すらも放置ってか?』
キーシュとバラバはそのテントの前で立ち止まる。
その中では、小汚い女の子が1人でただ泣いていた。
『あぁ、またか……。この子は父親と一緒に来たんだが、父親が出稼ぎだとか何とかで子供を置いていくんだよ』
『おい、ガキ……。どうした?腹でも減ったか?』
それは彼から見てただの背景でしかなかった。
そのはずなのに、特別気に触ったのだ。
彼女が気になってしょうがない。
気付けば彼は屈んで話し掛けていた。
女の子はキーシュの言葉に首を横に何度も振る。
『じゃあどうした?具合でも悪いか』
女の子はまたしても同様の反応を示す。
『じゃあ何なんだ……。その泣き声は気分悪くなるから静かにして……
『おうちに……かえりたい』
『何だと?』
『お家に……アレッポに帰りたい』
キーシュは理解した。
その女の子が何故此処に居るのかを。何処から来たのかを。
『お前も……難民か。シリアの騒乱の』
すべては、ここから始まった。
今日まで続く数奇な運命を辿ることとなるキーシュ・ベン=シャッダードの、"ラケル"と名乗った少女との奇妙な出会いによって。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.489 )
- 日時: 2020/04/29 16:34
- 名前: ガオケレナ (ID: g41dHign)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
『よう。腹減ってんだろ?食えよ』
まさに早速といった行動だった。
本来であれば行きたくもなければ、眺めることさえも嫌になるはずの難民キャンプではあったのだが、どういう訳かキーシュは再びこの地を訪れた。
そこで1つのテントの前でしゃがむ。
ラケルと名乗った女の子が1人、そこに居たのだ。
『少し離れた所にナンを焼いている屋台を見つけてきた。味が無い訳ではないが何も食わないよりはいいだろう?ほら、食べろよ』
キーシュはそう言ってビニール袋から1枚のパン生地を女の子に手渡した。
お世辞には綺麗とは言えない手だった。
ラケルはゆっくりと食べ始める。
程よい焼き加減で上手くついた焦げ目がパリッとした食感を生む。
竈で焼いていたからか、風味も合わさって生地はしっとりでさっぱりとした味だ。
『おいしい。ありがとう』
『……なぁ、オマエはここで何やってんだ?』
終始無表情というのもどこか目につくものがある。
キーシュは真っ白なトガを着ているにも関わらず気にもせずに、しゃがむのを止めて膝を曲げて座り始めた。ナンを食べながら。
『昨日見た時もそうだったが、ずっとそこに居たよな?何もしてないのか?』
『お父さんが此処から出るなって言うから……』
『そのお父さんとやらはこっちに戻って来たか?』
ラケルは首を横に振る。
キーシュはこの時、言い方を間違えたのかと思った。
彼女の父親が来なかったのは昨日に限った話だったのか、それとも、無いとは思うがこれまでに1度も来ることは無かったのか。キーシュは前者の事だと思ってラケルは首を振った。そのように勝手に解釈した。
だが、迷いが生まれた以上答えははっきりと出したくなるものだ。
再度尋ねた。
『それは昨日1日だけの話か?それとも今までずっと?』
『ずっと。1度もお父さんは来てくれない』
まさにため息の出る思いだった。
内戦中でありながら、子を1人難民キャンプに置いて自分は1人勝手な行動をしている。
いや、もしかしたらという可能性も脳裏に過ぎった。
『お父さんに会いたいか?』
キーシュの問いにラケルは静かに頷いた。
『お父さんにもお母さんにも……お婆ちゃんにも弟にも会いたい』
『家族は何処にいる?それもアレッポか?』
『うん……。アレッポに、皆いる……』
『おーい、キーシュ?此処に居たのかー?お前は』
そんな時だった。
自身が目立つ格好をしていたお陰で遠くからでも仲間がその存在に気付き、こちらへと走って来た。
バラバが、男を1人連れて来ている。
『よう、バラバか。……そいつは?』
『紹介するよ。メナヘムという。考古学と古代史に造詣が深いんだと。メナヘム、彼が仲間のキーシュだ』
『宜しく、キーシュ』
そう言ってメナヘムは手を差し出してきた。
北方の血を継いでいるからなのだろう。
その肌は白かった。
『あぁ。宜しく』
キーシュはまだナンが何枚か入った袋を地面に置くと立ち上がり、握手を交わす。
『お前の言われた通り……考古学に詳しい人を連れて来たが、一体何をするつもりなんだ?』
『丁度いい。たった今出発しようか考えていた所だったんだ。一旦行ってみるとしようぜ』
『ど、どこに?』
バラバが言う。
場所を明かさない以上そのように質問するのは当たり前だった。
『アレッポだ。此処にいる4人で……今すぐ行こうぜ』
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