二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.385 )
日時: 2019/09/01 18:07
名前: ガオケレナ (ID: MJZFt8Ev)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


戦いの始まりと終わりのブザーは音の質は同じだがリズムが違う。

始まりと比べて若干長いそれは、高野洋平に考える時間を与えるには十分だった。
高野は、ブザーが鳴り終わってから体が動くまでの数秒間、その頭の中では大量の情報が行き来していた。

このタイミングで終わったということ。
それは即ち自分たちが勝ったのかと言うこと。
本当に勝ったのか?夢じゃないだろうか?
夢だったら何処から何処までが夢なのか?
ここで勝ったということは予選突破という事だろうか?
と、すると今後はどうなるか?

結論が出る前に高野は思わず駆ける。
その先はフィールドに立つメイである。

会場から歓声が上がった。
特別耳のいい人間ならば、彼の友人たちが喜んでいる声も聴こえただろう。
DJのリッキーも、「予選突破おめでとう」的な事を言っている。

しかし、彼の目には目の前の仲間にしか意識が向かない。
興奮と喜びのせいでこれまで彼女に抱いていた不信感がこの時だけその一切を失った。

とにかく今は祝福したい。
労いの言葉をかけ、喜びを分かち合いたい。

高野は隣まで走ると、メイに対してハイタッチを求めようと右手を差し出す。

しかし、何故だかメイはこちらに意識を向けようとしていない。
何処か遠くを睨んでいるようだった。

それは、彼女の言葉で理解できた。

「あなた……手を抜いたわね?」

その言葉の先には先程の対戦相手が居る。
2人の男女はきょとんとした表情で、メイと彼女の放つ雰囲気には場違いの男の、はしゃいでいる姿が見えていたことだろう。

男の方がクスッと笑うと、

「それについては後な。ほら、今は横見ろ横」

と、暗に高野を指すような仕草をする。
不思議そうにメイも真横に振り向く。

そこには、喜びから一転、微妙な表情をした高野が未だにハイタッチを求めんと右手を差し出していたところだ。

「……え、なに?」

「……予選突破、おめでとう。的な?」

彼の予想に反して物凄く小さいそれを交わすと、高野も段々と普段の調子を取り戻してきたようで、先程のやり取りについて聞き始めていた。

「もしかして、さっきの奴らとは知り合いか?」

「えぇ。まぁね。実を言うと古い仲よ。ここだとアレだから移動しながら話さない?」

ーーー

「さっきの対戦相手、私の知り合いなの。"First Civilization"って聴いたことある?」

高野とメイは今、バトルを終え、会場を抜けるとバトルタワーへと続く通路を歩いている。
そこには彼には彼の、彼女には彼女の目的があるからだ。

「ふぁーすと……シヴィライゼーション……?」

聞き慣れない単語に、高野はしばらく考えた後に小さく笑いだす。

「くっ、……ははっ……それってアレじゃねぇか。俺が3年前に倒した組織の名前だ」

「私はそこの構成員だったわ」

「えっ、」

「あなたの言った通り、3年前の2012年。突然宣戦布告されたあなたたちジェノサイドに為す術なく敗れたわ。それまであった組織の環境や仲間、そしてお金。すべて失ったわ」

「お前が……俺に負けた組織の人間だったとはな……。あれ?でも俺はお前とは会ったことないし戦った事もなかったぞ?」

「当時の私がその立場になかっただけ。ポケモンを始めたばかりの人間が、最強の組織との戦いの最前線に行くかしら?フツー」

「って事はあれか?お前が俺と接触したがってた1番の理由は組織を潰された事による復讐か?決して敵は殺さない俺だけど、それのせいで復讐の目に遭うのは何回かあったが……お前もそのクチか?」

「本当に復讐が目的なら初めて会った時に背後からマニューラの爪で引き裂いてるわよ。目的はまた別。これからバトルタワーでそんな彼らと合流する所だったけれど……あなたもどう?」

「お断りだ。なんか気まずい。それに俺も俺で会わなきゃいけない仲間がいる」

通路を抜け、扉を開けるとそこはもうバトルタワーの1階である。
やや大きな扉は既に開いていたが。

彼女の嘗ての同胞は目立つ場所に居たようで、メイはすぐに駆けて行った。

高野の仲間。
即ち大学のサークルの友人たちはまだ来ていないようだった。

適当に座りながら待っていようと思った矢先。

「HEY!HEY!HEY!お疲れSummer!!さっきの試合観てたよー?」

隣から、何処かで聴いたことのあるような声が聴こえる。
最後の試合に出場しなかった彼からすれば結果が重要であり、試合の中身はどうでもいいことである。
「はいはい、どーも」と、軽く返事をして移動中に買った飲み物を飲みながら、折角だから声の主が誰なのか確認しようとした時。

思わず飲んでいた飲み物を吹き出した。

「うっ……ゲホッゲホッ……なっ、何でリッキーが此処に!?」

しかも、丁寧にカメラマン付きである。
リッキー本人がマイクを持っているあたりこれはラジオ番組のための取材だろう。

「さて、先程試合を終わらせて見事予選突破した事について何か一言!……ついでにお名前もいいですか?」

「ちょっ、ちょっと待って!!さっきまで大会の実況やってましたよね!?コレどういう時間!?ってか多忙すぎくない??」

「あー……労いの言葉ありがとう。……と、いう訳でー……」

高野はそんな彼の言葉で察した。

これは生放送だと。

リッキーはこの大会の実況をやっているが、本業はローカルなラジオ局のリポーター兼DJのはずだ。
そのせいでこちらでもDJ呼ばわりされている。

「えっと……高野洋平、20歳、学生です」

簡単な自己紹介を済ませてこれまでの大会での経験、感想を言うとそのままスタジオへ、そしてラジオを介してリスナーの元へ届いたのだろう。

『はーい、リッキー君リポート有難う御座います!』

と、いう現在ラジオで放送中の番組DJの声なのだろう。リッキーのマイク越しにそれが聴こえると彼のひと仕事が終わる。即ち合図だ。

「はい、カットです!ご協力ありがとうございましたー!」

と、リッキーが放送関係者や周囲の人々、そして高野に声をかけていく。

「なんで俺に、しかもこのタイミングで……?」

小さく独り言を呟き、その場を後にしようと歩き始めた高野だったが、

「あーちょっと待ってキミ。少し話いいかな?」

ガシッと肩を掴まれる。
声の主は当然リッキーだ。

「高野洋平って言うの?」

「ええ、そうですけど……?」

「そうかぁー。本名なんだね」

結局今高野は取材を受けるまで座っていた場所にリッキーと2人で座っている。
彼の時間は平気なのかと思った時もあったが今は大会の方も暑さ対策のための休憩中であった。

加えてラジオの方もたった今仕事を終え、カメラマンなどの姿も見えなくなっている。

つまり、リッキーとしても今は休憩中なのである。

「声だけのラジオだから良かったけれど……深部の人間が軽い気持ちで名前名乗っちゃダメだよ?」

高野はまたもや吹き出しそうになった。
そして戦慄した。

何故、外の世界の一般人がそんな事を知っているのかと。

「うん?あぁ、ごめんね。驚かせちゃったかな?僕も深部の人間なんだ。とある組織に属していて、ね。だから君がジェノサイド"だった"ってのも知っている。だからこうして今取材という名目で君に近付いたんだ」

「ローカル局のDJが深部の人間……??そんな事って有り得るのかよ……」

「十分あるさ!現に君だって色々な人間見てきたでしょうに!君が組織のトップの割には世間知らずだっていう噂は本当だったみたいだ」

「それで、そんなアナタサマがどうして俺なんかに?」

「いや、特に目的は無いし今の深部どーのこーのって話をする訳でもないんだ。僕はどちらかと言うとメインは"こっちの"世界のDJで副業みたいなノリの深部だからね。ゆえに深部の人間で僕がDJやってるってのを知っているのは君ぐらいさ」

「益々わからん……」

「目的は特に無いって!僕は単にこの大会を楽しめているのかなーって思ってそれを聞きたかっただけさ。僕もこの大会を作っている側の人間だからね。ある意味」

「まぁー、そうですね。楽しいですよ」

「それは良かった!君とはまたこの期間中に会えたらいいね。それじゃ、また!」

と、言うとリッキーは何処かへと走り去ってしまう。
時計を見ながら席を離れたので、恐らく時間か何かだったのだろう。

多忙の極みだと彼の走る後ろ姿を見ながら高野は呆然としながら思う。

そうしている内に、彼の仲間がやって来た。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.386 )
日時: 2019/08/31 15:56
名前: ガオケレナ (ID: 4CP.eg2q)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


今日1日だけでドラマが有りすぎた。
それが、高野洋平の率直な感想だった。

既に陽は落ち、空は闇に包まれている時刻。

彼は今、山背恒平の家に寄ってサークルメンバーらと予選突破を祝って宅飲みをしている所だった。

「ほら、香流お前もっと飲めって!全然進んでねぇじゃんかよー!」

「いやこっちは酒弱いんだって……。それに怪我人!!もっと労わってよ〜」

会場から近いという理由だけで集まった山背の家だったが、如何せん人が多すぎる。
スペースが少なく窮屈だったが、そんなもん知るもんかと言いたげに吉川が香流にビールを勧めてくる。

そんな香流は既に顔が真っ赤であった。

「なーにが怪我人なんだか……ピンピンしてるじゃない」

「大したもんじゃなかったからだよ……みんな心配し過ぎなんだって」

「おーい、とりあえずお好み焼き出来たけど食うかー?みんな」

高野は改めて思った。
こいつら自由過ぎるだろ、と。
このメンバーで大学が休みの日など、外で遊ぶ機会もあってその時も何度も思ったが、全員が全員マイペースなのだ。
そこに結束とか団結は無い。にも、関わらずトラブルは起きない。

つくづく不思議な空間だ、と思いながら高野は一旦外に出ようと立ち上がる。

「ん?レン、どうした?」

お好み焼きを山背と一緒に作っていた北川がキッチンを横切った高野に声をかける。
高野は「ちょっと外に出たくて」と言うと鍵のかかっていないドアを開けて夜中になりつつある外へと出て行った。

結局あの後も何の問題や滞りも起こることなく大会の予選は進み、予定通り終わりを迎える事が出来た。

山背の家に皆で集まろうと提案されたのはバトルタワーにて彼らと会った時だ。
どうやら既に企画だけなら進んでいたらしい。

冷たい夜風を全身に浴びながら、買い出し時に近くのスーパーで買った瓶のビールをゆっくりと飲んでいく。

「どうしたの?外にでも出たい気分?」

後ろから母親のような、姉のような優しい声色の声がする。
だが、高野は振り返らない。
声の主を知っているからだ。

「俺は気分屋なんだ」

「知ってる」

メイ。
高野と同じチームの、深部の人間。
当然彼らサークルの人たちとは何の関わりも無いのだが、誰かが突然、

「レンの仲間たちも一緒に呼ばね?」

と提案した事でたまたま予定が空いていた彼女がお邪魔したことになったのだ。
一応ルークにも連絡こそはしたのだが、返事は分かりきっていた。

『あァ?ジェノサイドのオトモダチと飲みィ?っざけんなよ。こっちにはこっちの居場所と仲間が居るんだっつーの』

と、いう何とも彼らしい言葉が返ってくるのみだったのは既に過去の話だ。

「平和ね、みんな」

「当然だろ。あれが普通なんだよ」

「やっぱり、あの平和を壊してしまうのが怖い?」

高野は念の為メイの顔を横目でチラッと見た。
顔色に変化はない。
あまりにもおかしな事を聴いてくるので飲み過ぎて本音が出てしまうほど酔っているのかと思ったがそうではなさそうだ。
と、言うより彼女は1杯も飲んでいない。

「そうじゃねぇよ。あいつらが普通で俺らが異常なだけだ。異常な俺達はあそこに踏み入れるべきではない。分けて切り離すべきなんだ。壊すとか護るとかそうじゃないんだよ」

「それがあなたの信念……なのね」

「だからこそ昨日香流が怪我をしたと聞いて割と焦った。遂に俺のせいで狙われたんだなってな。分けて切り離されるべきが、向こうから踏み荒らして来やがった」

「それで、どうするの?確か明日から行動するのよね?」

「それについては幾らか考えがある。問題は無い」

そう言うと高野はビールをもう一度口に含めて飲んでいく。
瓶特有の冷たさが未だに残っているのが舌触りで分かった。

「それにしても信念……ね。どうして深部最強とまで言われたあなたがそんな事を強く意識するのか不思議だわ。何かそう思ったきっかけとかあったのかしら?」

分かっているはずなのに、高野はメイの顔色を確認するも、やはり変化はない。
むしろ自分の頭がボーッとしてきているのか、振り向くだけでそんな違和感が伝ってきた。

「きっかけ……まぁ、トラウマみてぇなもんかな。色々あったんだよ」

「あなたがこれまでどういった道を歩んできたのか……個人的に気になるわ。いつか話してほしいなぁ」

「絶っっっ対に話さないから安心しろ」

話しながら高野は星なんて見えない空を見上げた。
そうする事で、山背の家が選ばれた理由がよく分かるからだ。

ここからでも聖蹟桜ヶ丘の駅前に広がるビル群が見える。
要するに、会場に1番近いのが彼の家だったのだ。

「それにしても……あなた中々洒落たモノ飲むのね。コロナよね?それって」

「……マッチョな登場人物たちがスーパーカー乗り回すアメリカ映画の主人公がコレ好きなんだよ。試しに俺も飲んでみたけど思った以上に飲みやすくてハマってな」

「要するに影響されたってこと?あなたって意外にも影響され易いのね」

夜になっても涼しくならない。
そんな事を思いながら風を浴びる高野は、明日以降の事しか頭になかった。

大会は一旦の区切りが付いた。
今度は、こちらが反撃する番だ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.387 )
日時: 2019/10/06 18:38
名前: ガオケレナ (ID: UbyZEBNe)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


蝉がうるさい。

動物や昆虫らが活発な地域は総じて田舎だという固定観念を見事に砕いた都内のど真ん中の、とある学校。

相沢優梨香と東堂煌は互いに顔を見合わせると普段から通っている高校に入っていくように進み始めた。

大会の予選が終了し、1週間のインターバルが設けられた初日の7月29日。

彼らは高野洋平の連絡の元、自身らが過ごす東京都内にある私立しりつ稜爛りょうらん高校に辿り着いていた。

「おはよー。時間通りだね?」

「あぁ。でも……」

東堂は誰かを探すかのような少し不安な顔をしながら周囲をぐるりと回りながら言う。

「吉岡はどこだ?アイツだけ居なくないか?」

「正式には高野さんもね。2人は別行動をしているのよ。何でも、それが高野さんの望みらしくて。……ってか、この事もLINEのグループで話し合っていたはずだよ?ちゃんと見てた?」

定期的に笛の鳴る音が聴こえる。
恐らくは校庭で練習している陸上部だろう。

その音の中をくぐり抜けるようにして2人は校舎のある方へと進んでいく。

ーーー

同時刻。
東京都墨田区両国。
スカイツリーを望める下町を感じさせる街の中で、吉岡桔梗は体を震わせた。

どこかで自分の噂をされている。そんな気がしたからだ。

「あの〜、高野さん……?」

「ん?なんだ?」

呼ばれた高野洋平は歩きつつも振り返る。
歩道が狭く人1人しか歩けない幅だが、それでも躊躇せずに高野は後ろの吉岡を見た。

「本当に僕で良かったんですか〜?バックアップはあの2人でいいんでしょうか?」

「もしもの事を考えたら、の結果さ。本当だったら3人で調べ物してても良かったんだが、人数が半々の方がいいかなと思って」

「此処って〜……両国……ですよね?これから何をするんですか?」

「まず香流の家に寄る。そこから、あいつの駅までの通学ルートを辿る。あいつが怪我をした地点までな。一種の追体験みたいなもんだよ。そこで何かしらの手がかりを掴む事が出来れば万歳ものだ」

「それって〜……最悪敵と遭遇する事も有り得ますよね?そうだと1番実力のある相沢を連れて来ていた方がよかったん……じゃあ……?」

「なんだ?自分の実力に不安でもあるのか?」

「いや〜……不安と言うか……」

吉岡は本心を言おうか悩んだ。
だが、不自然に顔を逸らして顔をほんのりと赤らめたところから、高野も高野で察するものがある。

「なるほど、確かに不安かもな」

その言葉に、吉岡は小さく「えっ?」と呟くと顔を上げて彼の顔を見る。
前を向いているせいで表情は見えなかったが、その鋭さに心臓の鼓動が早まるのを感じた。

「お前、さてはあの女の子の事が好きだな?自分の知らない所でもう1人の友達と2人きり。だから不安になった。そんな所かな?」

「その……高野さんって……凄いですね。あっ、で、でもっ!!……その事は秘密に〜……」

「分かってるって!そういう話題の秘密に関しては特に口が堅いと評判の俺だ。安心してくれ」

「でも〜……よく分かりましたね?それもゾロアークを使い続けた結果とかですか?」

「ゾロアークと心の読みは必ずしも密接の関係とは限らないさ。俺も同じだったからな。だからその気持ちはよく分かる」

「えっ?……そ、それって〜……」

「いいから。その気持ちは表彰式まで取っておけよ?優勝した暁に告白とかちょっとイケてるんじゃないか?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.388 )
日時: 2019/09/26 14:57
名前: ガオケレナ (ID: EugGu6iE)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「それじゃあ始めちゃおっか」

相沢と東堂は普段の学校生活において、情報の授業でしか使わないパソコン室へ入ると適当な席に座って適当なPCを立ち上げた。

ちなみに、これを使うにあたって2人はわざわざ教職員たちに対し自習で使う旨を伝えた。
夏休みの宿題をネタにしなかったのは、彼らの学年の課題でPCを確実に使わなくてはならないものが無いため、嘘をついたことがバレないための措置だ。

「さっさと調べてさっさと見つけて終わらせちゃおう!そっちは大丈夫?」

「あぁ……。だが……」

東堂には分からなかった。
何故学校に来てまでパソコンを使うのかを。
目の前の機械だけならば家にもある。

「ここまでする必要ってあるのか?俺には分からん」

「高野さん曰く有るみたいよ?とりあえず、言われた通り『深部』とか、『ジェノサイド』みたいに、あたしらに関連した事柄を調べてみようよ」

ーーー

「へぇ〜……」

吉岡は目的地に着いてまずはその意外性に驚いた。

建物自体は古いわけではないが、古都などでよく見られる、背景に同化したかのようなデザイン。
それを思わせる木造建築だった。

「凄いですね。高野さんの友人さんの実家って和菓子屋だったんですか〜」

「そう。なんでも、明治創業の老舗らしいぜ。とにかく、これ食えよ」

と、高野は売り場の隣に設けられた食堂のようなスペースで腰掛けると、吉岡に三色団子を渡し、自分はみたらし団子を食べ始める。

すると、高野洋平が来たという噂を聞きつけて建物の奥から聞き慣れた足音がこちらにやって来た。

「レン……?一体どうしたんだ?」

「おう。お邪魔してるぜぃ。それよか、お前こそどうしたんだよ。大学の講義は?」

「……先週試験があって、それが最後。だから夏休み明けまで水曜の講義は無いよ。レンは?」

「聞くな」

即答だった。恐らく吉岡には伝わらなかったが、香流は香流で察するものがあったのだろう。
冗談で「あっ、察し」と言うと若干ニヤけながら吉岡の隣に座った。

「今日来たのってもしかして……」

「そう。そのまさかだ。俺1人じゃ辛い部分もあるから助っ人として彼にも手伝ってもらってんだ」

と、言って向かいの吉岡を指す。
吉岡は応じるかのように香流に対し、軽く会釈した。

「これ食ったらすぐ向かうよ。あまり長居しても迷惑だろうし」

「そんな事ないよ。折角ここまで来てもらったのに……。こっちも何か手伝おうか?」

「いや、」

高野は香流の良かれと思って言った提案をはっきりと否定すると、団子を飲み込むために一呼吸置いてから続けた。

「前にも言ったけど、相手によってはお前の身元もバレてる。最悪此処が狙われる可能性も無きにしも非ずなんだ。本当だったらコイツを置いていきたいところだけど、とりあえず様子見たいし……。だから俺としては逆に目立たないようにしてほしいんだ」

「そうか……。でも、そう言うと思ってたよ。分かった。今日は部屋で大人しくしてる」

「悪いな。……本当だったら、犯人を探すだけなら此処に来るべきではなかった。敵に、より多くの情報を与えてしまう危険性があるからな。でも、俺はやる。俺が居たからって理由で何の罪も無い人間が傷ついていい訳がないんだ……。バックに誰が居るのかも全部ハッキリさせてやる」

「レンの悪い癖だな。全部自分で抱えようとしているのか?こっちだって戦えるよ?」

と、言って香流は少しはにかむ。
彼は最悪を想定したうえで、「この家を守る為に」戦うと言ったはずだった。

それは高野にも伝わった。

が、

「そうか……。そりゃそうだもんな。俺に勝ちやがった奴だからな」

ニヤニヤしながら立ち上がり、「また今度な」と、捨て台詞のように吐いて出ていってしまった。
それを見ていた吉岡は違和感を覚えながらも、いそいそとあとを着いていくように走り去る。

「はぁ……」

2人が離れて数分経っただけで香流の店に静寂が訪れる。
香流は、石井から聞いた話をうっすらと自身の頭の中で思い出そうとしていた。

(レンは……議会の人間の何かしらの繋がりがあると考えている……んだよな?)

デッドラインの鍵と片平光曜のコンビの前に挑もうとしていたあの日。
その時の話をしていた石井真姫の不安に満ちた顔と声が忘れられなかった。

「石井は……レンが考え過ぎているとか、危うい思想を持っているとか言っていたけれど……」

その一方で、高野のチームメイトであるメイやルークといった現役で深部に身を置いている人間が語った、自分が狙われた理由についての説明。

その時の妙なリアルさに少なからず気持ち悪さを覚えたのは錯覚ではないはずだった。

「案外……レンの読みは当たってるのかも……しれないな」

引いてはきたものの、まだ軽く痛む足をゆっくりと上げて、香流は軽くテーブルを片付けると店の奥でゴミを捨て、2階にある部屋へと戻ってゆく。

途中、母親と目が合ったものの、特に会話を交わすことなく、互いが互いを干渉することなく何事も無かったかのように通り過ぎる。

「こっちも……調べなきゃいけないかな。議会の事とか」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.389 )
日時: 2019/09/28 20:35
名前: ガオケレナ (ID: 3T3.DwMQ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「なーるほどなぁー」

高野洋平は、吉岡桔梗と共に事故現場に辿り着いて一言発した。

2人が立っているのは隅田川の流れに沿った、両国駅へと繋がっている歩道である。

「奴は、ここを自転車で走行中にポケモンに襲われた……。真面目なアイツが反対車線の、しかも歩道を走っていたっていうのが少し気に入らないが、」

「使われたポケモンは分かっているんですかね〜?」

こんな状況でそんな事を気にするのはお前ぐらいだ。警察かよと心の中で突っ込んだ吉岡は、そんな事を一切悟らせない為に無表情で気になった事を言ってみる。

高野は聴きながら、ガードレールや川を見渡せる為に設けられた手すりを触り、眺めている。

「香流が言うにエイパムらしい」

「エイパム!?何でそんなポケモンを〜……」

「いいか。一応お前も深部の人間だから覚えておいてほしいんだが……」

高野は、本当だったら言いたくないと言いたげな沈みかかった表情をしながら続けた。
暗い表情の訳は香流をネタに使っていることも相まっているのは、彼には分かった。

「対象を狙う時に強いポケモンを使う事が最適解だとは必ずしも無いんだ。例えば、闇夜に紛れて相手を倒す際にテラキオンなんかは使えないだろ?」

「圧倒的な〜……存在感……」

深刻な顔をしつつシュールなギャグを使ってくる高野に、吉岡は笑いを堪えるのに必死だった。
ここで笑うのは彼と彼の仲間のためを思うとやってはいけないと、吉岡の脳は絶えずサイレンを鳴らし続けている。

「少し例えが極端すぎたが、人とポケモンなんて持っているポテンシャルが違うんだ。生身の人間相手ならキャタピーの'いとをはく'だけで動きは封じられる。大きくて強いポケモンに比べてどんな所も進む事が出来て、その存在もその瞬間になってからでないと気付かれないって点で未進化のポケモンや中間進化のポケモンは刺客として好まれる事もあるんだ」

「じゃ、じゃあ〜香流さんはもしかしたら殺さていたとか……?」

「そこがおかしいんだ。対象である香流をし損じただけにあらず、止めの一撃なんてのもやっていない。相手は、エイパムの尻尾の一撃だけ食らわせて即退散と来ている。これの意味が分からなくてな。俺からするとそれで済んだとホッとするしか無いが、どーも違和感しか湧かねぇんだな。これが」

当然ではあるが現地に行くだけでは何の手がかりも得る事は出来ない。
高野としては本物を見れただけでもピンと来るものはあったが、それでも分からないものは分からないのだ。

これからどうするべきか5分か10分ほどその場をウロウロしたり考え込んだ後に、

「そうだ、お前さこれからどうする?ぶっちゃけ今の段階ではどうしようも無いからさ」

高野は吉岡に1つの提案をしてみた。

「どうする……とはどういう事ですか〜?」

「今の俺にはどうする事も出来ないって訳よ。だから帰りたければ帰ってもいいし、学校に行って友達と合流するのも良しだし、何ならついでにスカイツリー寄って少し買い物するとかどうよ?折角此処まで来たんだしさ」

「何呑気な事言ってんですか〜!!ソラマチって大体高いんすよ!?はした金しか持っていない高校生が気軽に行けるもんじゃないですよ!」

対して、吉岡は愛しの子に対する不安と高野のズレた提案に自然と声が大きくなってしまう。
結局、その後の2人の行動は分かりきったものとなってしまった。


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