二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.345 )
- 日時: 2019/03/27 20:12
- 名前: ガオケレナ (ID: pkc9E6uP)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
一際大きなブザーが鳴り響いた。
6月24日における最終試合が行われ、それの終わりを告げる合図だった。
一瞬だけ生まれた静寂。
それからすぐの事だった。
多摩川から打ち上げられた大きな花火が、既に真っ黒に染まった夜空の中で輝いた。
1つ、2つと打ち上がる度に観客席からは「おぉ〜!」と声が上がる。
大会初日が終わった。
高野洋平は2時間弱眺めていたこれまでの試合に対して「つまらない」だの、「わざと手を抜いている奴がいる」だの色々な思いを巡らせていたその思考を一旦ストップさせて隣に座るメイと共に空を眺めた。
「いつ見ても綺麗ね〜花火って。大会開催を祝してのコレなんだってさ」
「こういうのって普通閉会式の後とかにやらないのか?別にいいんだけどさ……」
「私って小さい頃から花火が好きなのよね。なんと言うか……この瞬間にだけ美しく咲いて、最後は静かに散ってゆく……諸行無常を表していて素敵だなあって思うの」
「いい例えだけど小さい頃から諸行無常を悟っていたって事の方が俺は心配なんだが」
「いや流石に意味は分からなかったわよ!?言葉に表さずとも理解していたというか……」
「いいから少し静かに見ていろよ……」
空を見上げながら軽く睨んだ高野の横顔を見てメイは不満足そうに黙る。
1つの間隔を空けることなく夏の風物詩と言われたそれは上がり続けた。
ーーー
「いい眺めだな。やはり此処からだと見やすい」
ドームシティからやや離れた、宿泊施設が密集する敷地内に構えた1つの事務所のようにも見える無機質な外見の建物から、その男は空に上がる花火をベランダから眺めていた。
周囲に邪魔になる建物や木々などが無いことから成せることだ。
それは、この地域にはまだ自然の名残がある事も意味をする。
人間が完全に開拓していないが故に自然との調和が取れているのは現代社会に対する皮肉だ、とその男、片平光曜はそんな風に思いながら低く笑う。
「どうかした?何か面白いことでも?」
後ろから声がする。
片平は振り返り、こちらに来るよう目で伝えた。
それに応じて女は隣に立つと空を眺め始める。
そのタイミングで1つの大きな花火が上がった。
「綺麗ね」
「だろう?この街で、この場所でいつかこれを見たかったんだ」
片平は満足そうにニヤけながら隣の女を見つめた。
知的そうな眼鏡を掛け、伸びたからという理由だけで後ろに束ねたポニーテール。
見た目から物静かな雰囲気が漂う。
「いい街ね」
「私もそう思うよ。だからこそ、この地を開催地にしたようなもんだ。人とポケモン。互いが築き上げた、美しい街だ」
酔いしれたように滑らかに喋る片平だったが、その女は話を聞いているという姿勢ではなかった。
花火を見つめてはいるが、その目は寂しさを魅せている。
ゆえに隣の男の話などが入ってくる余地が無かったのだ。
「……まだ今までの世界が恋しいかい?」
「別に。もう過ぎた事よ」
首が若干痛くなってきたのか、見上げるのを止めて隣の男を見る。
家屋の中だというのにその人の格好は現代的なスーツというつまらない姿である。
「私には使命がある。そうでしょう?」
「よく分かっているじゃないか」
片平はタバコを取り出すとガスライターの火を付けて吸い始めた。
風の向きと女に対する配慮の為か、背を向けている。
片平は大きく息を吐く。
「色々と思う事はあるかもしれないが、やるべき事というものがあるんだ。……頼んだよ」
女の顔をチラリと見た。
既に花火に意識は向けずに、ただただ夜景という夜を美しく飾り付けるもう1つの存在に目を奪われていた。
二、三分ほど花火を眺めた片平は咥えていたタバコを口から離して消すと、部屋へと戻っていく。
「それじゃあ、引き続き頼んだよ。デッドラインの鍵」
果たして彼女は去り際の男のその言葉を聞いていたのかどうか傍から見るだけでは分からなかった。
ただ1つ、デッドラインの鍵はこう呟くだけである。
「やっぱり良いわね。この街は」
花火の音をバックに広がる街の灯り。
彼女の目にはそれしか映らない。
若者たちの、夏が今始まりを告げた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.346 )
- 日時: 2019/03/29 18:51
- 名前: ガオケレナ (ID: 4sTlP87u)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
時空の狭間
『あっ、いたいたー!よっしー、こっちこっち!』
16の誕生日から約1ヶ月。
中学卒業して大分経つというのによく会うものだとその声を聴きながらつくづく思った。
断られるのを覚悟で高校の文化祭に誘った結果、なんと天使は来てくれた。
学校中を探し回って半ば諦めつつ一旦自分のクラスの教室に戻り、そこで再度メールを送ろうとした時のことだ。
あらかじめ自分が1年6組だと言うことを教えていたからか、彼女は教室の前で待ってくれていた。
『き、今日はありがとう……来てくれて』
『いいのいいの。どうせ暇だったし。ねぇ?』
と言って天使は隣を見て同意を求める仕草をする。
よく見ると見知らぬ男と一緒だった。
今まで会った中で一度も見たことの無い顔。
しかし、年齢は自分らと近いか、もしくは同じに見えた。
『その人は?』
心が震えるのを感じつつ平静を装い、しかし少しばかりどもりながら言う。
『うん?彼氏だよ?』
天使は隠す素振りも見せず平然と言ってのけた。
その時受けた衝撃は当時の拙い表現力しか持てない彼にはとても無理な事であった。
誰よりも輝いていて、美しく健気な天使に彼氏が居た。
普通に考えれば16にもなって共学の高校に通えば男女間の交流などよくあるものだ。
しかし、彼にはそれが恐ろしく認め難いものに見えてしまう。
『こんちは……』
まるで、自分や嘗て共に行動していた友達に似た物静かそうな男子。
外見と声色でそう判断できた。
彼は勝手に、部活で知り合った人なのだろうと推測した。
確か彼女は吹奏楽部に入っていたはずだったからだ。
『会えて早々申し訳ないんだけどさぁ、此処って現金使えないんだってね?』
天使のその言葉に、彼はハッとした。
彼が通う高校の文化祭では現金は使えず、換金した金券しか使用出来ない。
しかし、2人が来た時間は昼をとうに過ぎ、大規模な来客を見込んでいない一般の高校生にしてみればキャパオーバーを迎えた時間なのだ。
即ち、どこの出店も"売り切れ"の文字が並び、何かを楽しむという時間は終わりを迎えていた。
『ごめんね。一緒に回れなくて。でも、会えただけでも嬉しかったよ。それじゃあね!』
天使は笑顔で元気よく手を振る。
その顔は眩しく見えたが、今日の、しかも数分の間だけでそれまで保っていた彼女との距離が一気に遠く離れてしまった。
それしか感じられない、ある意味で忘れられない1日となった。
ーーー
それから更に2ヶ月後。
既にクラスの人とは完全に打ち解け、しかしもうすぐで進級を迎えようとしている冬のある日。
彼は中学時代四人でつるんでいた内の友達を1人連れて天使に招待された吹奏楽の定期演奏会に来ていた。
確かにホールの真ん中辺りに座り、得意の楽器に触れている彼女がいる。
しかし、気掛かりな事が1つ。
ついこの前に会った天使の彼氏の姿が見当たらない。
そもそも、これは彼女の部活の演奏会なのかと友達に彼は聞いてみた。
『あれ?知らなかったのか?お前。あいつ色々あって高校の部活辞めたらしいよ?』
またも衝撃を受けた。
中学の頃から好きで続けていた部活を辞めるなんて彼女らしくないからだ。
頭が真っ白になったせいで友達の、
『てか最初に言ったろ。この演奏会は地域のクラブ活動だって。高校の部活辞めたあとすぐにコレに入ったんだよ』
という言葉が聞こえなかった。
自分よりも友達の方が天使の事情に詳しい事が少し気に食わなかったが、今彼女の身に起こっている事がよく分からない。
そんな自分も周囲の人々に絶対に言えない隠し事を幾つかしているが、そんな事はどうでもよかった。
天使の今が知りたい。
彼女が今何をして生きているのか知っておきたい。
心地よい演奏を聴きながら、彼はいつしか覚悟を決めた。
そして、その年の春。
議会から正式に、『ポケモンを悪用して犯罪行為に走る者達、即ち"闇の集団"の消滅』という発表があった。
それは例えるならば、更なる地獄を意味する新時代を告げる喇叭の音色。
そして、すべてはここから始まった。
いつしか、"深部最強"と謳われることとなる、生ける伝説とその歴史が。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.347 )
- 日時: 2019/03/31 11:34
- 名前: ガオケレナ (ID: Y92UWh7z)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
Ep.5 繋がり始めた点と線
大会開催から1ヶ月後。
最早見慣れたテレビのチャンネルのニュース番組の天気予報士は、『今週末で梅雨明けです!』と、元気そうに言っていたのを思い出しながら高野洋平は家の窓から空を眺めた。
黒に近い灰色の空。
少なくとも小雨とは言えない雨量の雨。
見過ぎてそれだけでもイライラしてくる空模様だった。
「いい加減雨の降らない日になれよ……今日もズブ濡れの中大学とか会場に行けって言うのかよ?」
メイ曰くあと3勝ほどで自分らのチームの予選が終わるとの事だった。
昨日も雨の中戦った気がするが、相変わらず相手は弱い学生だった。
1戦も無い日もこれまでに何度かあったので感覚的には今日がその一度も戦わない日だと勝手に予想するが、それを抜きにしても今日は講義のある日である。
どんなに嫌でも外に出なければならない日であったのだ。
高野は雨の日であっても絶対に傘を差さない人間である。
傘を使っても必ずどこかが濡れるのと、高校時代に台風の日に深部組織同士で戦ってから雨に慣れてしまったからだ。
周りの人間の言う雨は、彼にとっては小雨である。
だから彼は傘を差さない。
鞄にタオルを1枚入れるだけであった。
雨に打たれながら高野は家を出て歩く。
数分もすれば大学なのでそこに苦はなかった。
案の定少し雨に濡れた程度の高野は、講義の為の教室に入ると席に座る前に鞄からタオルを取り出して頭を拭く。
ワイシャツに眼鏡という、大会の為の新しい格好で来ていたせいで眼鏡も水滴だらけでよく見えない。
コンタクトには無い欠点だと頭で呟きながらついでに眼鏡も拭きながら適当に空いている席へと座った。
出来ることなら今日は誰とも会うことなく、それこそ講義を受ける為だけに大学に行って、隙間時間にサークルの部室でポケモンを少しやって帰りたいと思っていた。
そう考えた瞬間、意識諸共スイッチが切り替わり、ひたすらに講義の内容に集中していく。
そのせいか、普段以上に研ぎ澄まされた感覚の中1時間半の講義を苦痛と思うことなく受ける事が出来た。
ーーー
講義終了を告げるチャイムを合図に、次はポケモンでもやるかと思っていた矢先、メイから連絡が来る。
念の為会場に来いとのことだった。
『面倒くせぇよバーカ』
というつまらない1行を秒の速さで打つとすぐに彼女へ送る。
すると、突然の挑発的でガキのような言い草から疑問に思った節があったようで、
『なんで?』
『はやくきて』
『きなさい』
と、立て続けに短いLINEが送られてくる。
ここがメールの怖い所だ、と高野はメッセージを無視してスマホをしまいながら考えた。
簡素すぎる文字の羅列では、相手の感情が全く読めないからだ。
紙面に書かれたものでも同様であるが。
重く長いため息をついて高野は大学構内のバス停へと向かった。
そこには、聖蹟桜ヶ丘駅行きの車両があるからだ。
「今日は行かねぇと決めてたのに……」
誰かに宣言した訳でも、誰かと約束した訳でもないのだが、これからの予定が狂わされて勝手に苦労しているのが気に入らない。
せめてもの救いはバスがすぐに来た事だったか。
岡田あたりがいつもこの為に待っているイメージがあったが、時間がたまたま重なったお陰で無駄に雨に打たれることがなくなった。
ここから聖蹟まで15分、そこから更にバスで会場まで5分か10分といったところか。
メイの希望通り"すぐ"には来れないが、来ないと決めていたのと比較すると早い方だ、と相手の事情を考えない結論を勝手に導く。
『今どこ?』
あれからのLINEを無視していたせいで、彼女からそんなメッセージが届く。
『バスなう。聖蹟行きの』
と、本当は無視したかったが今度もスルーすれば直に電話が来そうである。
なので正直に伝えることにした。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.348 )
- 日時: 2019/03/31 16:26
- 名前: ガオケレナ (ID: Y92UWh7z)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
バスを乗り継いで会場であるドームシティに到着した高野が見たのは、大会関係者らしき人に捕まり、連れられている男を眺めていたメイだった。
「何してんだ?お前」
「あー、やっと来たぁ……」
ひと騒動を迎えた後のような疲れた顔をしてメイが後ろから来た彼に気付く。
「何かあったのか?」
「えぇ。反議会の連中がまた暴れてね……」
以前高野は同じ場所で議会に対して否定的な考えを持つ男からテロ紛いの攻撃を受けていた。
また、それと同じようなものなのか。相変わらず治安は悪いと思ったところだった。
が、
「違うわ。そういう人達が暴れているという話を今までにあまり聞かなかったでしょう?運営側がそういうのに対して予防拘禁し始めているからよ」
「まさか……見た目が怪しいヤツを片っ端から捕らえてるなんてモンじゃねぇよな?」
「それは稀。大体がこれまでの深部での活動経歴を調べ上げられた連中よ」
「って事は俺もそろそろヤベェな」
状況は大体理解できた。
高野が思っていた程ではなかったが、それでも危うい事に変わりはない。
冗談交じりに自虐ネタを1つ言ったのは少しばかり和ませる為だ。
「と言うか移動しようぜ。俺はいつまでも無意味に雨に打たれたくはない」
「なんで傘差さないのよ?」
そう言うメイはコンビニで売ってそうなビニール傘を使っていた。
隣に入れるつもりで空いた空間と傘そのものを彼に差し出そうとするも、
「いらねぇよ。こんなの雨なんて言わない。小雨だから」
「とか言いつつビショビショだけど?」
「そう見えるだけ」
とは言い返すが、今の気温と相まって気分は最悪だ。
予選についても何か変化があったか確認の為ドームへと向かう事になった2人は退屈しのぎに到着までの間会話を始める。
「あんなに必死にLINE送ってきたのはさっきの奴らの為か?」
「それもあるかもね。一時期私1人でも中々止めにくい状況になっちゃって。幸い周りも私も怪我は無かったけれど」
「今日は講義終わったら家に居たかったんだがな……」
「ん?何か言った?」
メイには、高野の最後の言葉が小さすぎて聞こえなかったようだった。
本人からすれば独り言のようなものだったので聞かれるための言葉ではなかったが。
「とりあえず、シャワーでも浴びてくれば?施設内にあるわよ」
「俺も全く同じこと考えた。ここまでデカい会場だ。後ろのタワーなんかはポケモンの特訓施設もあるって言うじゃんかよ?だったら軽くひと浴びできるようなものもあるんじゃないかなって」
「じゃあ家に帰らずとも最初からここに来るつもりでもよかったわね!」
ここに来るまでがダルいんだ、という本音があったがここまで来てしまえばもう過去の話だ。
ドームの自動扉をくぐると、メイはくるっと振り返り、
「じゃあ私は此処で待っているわ。バトルタワーまではそこの廊下に続いているし、あとは案内にしろ看板にしろそれに従っていればたどり着くわよ。じゃあ、またあとでで!」
何がまた後で、なのか。
高野は今後起こるであろう面倒事がただただ嫌で仕方がなかった。
メイの指した方向へとゆっくりと歩いていく。
確かに、バトルタワーという名称の施設へと道が続いていた。
ドームシティの敷地やバトルドームと比べるとタワー内の人の出入りは多かった。
やはり屋内となると自然と利用する人も増えるのだろう。
ましてや、此処には大会の為の特訓が出来る施設もある。
戦いに慣れていないユーザーからすれば模擬試合が出来るこの施設は何よりも使いたいものなのだろう。
高野はそんな個々で盛り上がっている選手達を後目に、1人シャワー室へと向かう。
ーーー
それから30分後。
高野は全く同じ光景を同じ場所から眺めていた。
よく友達や、かつての組織の仲間からも「男のくせに風呂が長い」とよく言われたものだったが確かに長かったなと先程までの温もりと心地良さを思い出しながら高野は歩く。
「今日はいいけれど、今度此処を利用するのもいいかもな。ゾロアークの幻影を使った練習試合が出来そうだ」
高野はこれまで、家や大学の近くの公園で新たに育成したポケモンに対しゾロアークを使った練習をよく行っていたが、それらは満足のいくものではなかった。
此処のような予め整備された場所ならば、のびのびとそれも行える。
そんな独り言が飛び出た時だった。
1人の女子高生とすれ違う。
この時期ならば高校生をやたらと見るのは珍しくもない。
ましてや、制服姿の学生など大会期間でなくとも街中で見かけるほどだ。
ゆえに、高野はその人に対し特別な思いは抱かなかった。
「あの……すいません……」
すれ違った女子高生が、高野の背中に声をかける。
一瞬、ほんの一瞬歩く動作が止まる。
彼女は、それに追い打ちをかけるように続けた。
高野洋平という男がそれまで抱いていた、『あっ、JKがいる』程度に留まっていた思いを砕くかのごとく。
「あなた……"ジェノサイド"、ですよね?……Sランクの……」
足が止まった。
突然の事に驚愕に満ちたその表情で、背後にいるただの学生のはずの、そこらで見かける女子高生をその目で捉える。
恐る恐る振り返る。
しかしそこに居たのは、やはり何処にでも居そうな、社会に溶け込んでいてもなんの違和感のないシンプルという文字を姿で表した、1人の女の子だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.349 )
- 日時: 2019/04/07 18:26
- 名前: ガオケレナ (ID: bh4a8POv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野洋平という男の思考はこの時止まった。
聞こえた言葉ひとつひとつの意味をゆっくりと、しかし確実に理解し、捉えていく。
そのせいで10秒ほど硬直してしまった。
何故自分の事をジェノサイドと呼べたのだろうか?
何故既に面影のなくなったはずの名前で自分を呼んだのだろうか?
そして、それらを意味することは1つ。
高野はこの時どう返すか悩んだ。
最後の最後まで一般人を装い、嘘をつきこの場を去るか。
それとも、"そっち側"の人間に相応しい返事をするか。
「え、えっと……」
高野は苦笑いしながら目の前の高校生を見つめる。
この場や街に居てもどこもおかしい所が見当たらない純粋な女子高生にしか見えない。
だからこそおかしい。
深部の人間にしか知り得ない情報を、彼女が持っていることこそが。
深く考えるべきではない。
適当に捨て台詞でも吐いてさっさと退散しようかと思った頃か。
微かに発見した。
彼女の後ろから、友人らしき男子高校生がこちらに向かってダッシュしてくるのを。
(同じ……制服!?という事はコイツと同じ人間……)
高野がそうだと分かった理由は単純にも高校が同じである事を意味する、共通の制服を2人が着ていた事だった。
(まさか、新手か!?)
途端に察知した危機感。
これからやる事など既に決まっているようなものだった。
高野は周りの目も気にせずにゾロアークをボールから出す。
それは、つまり迎撃の意思。
「ゾロアーク……」
高野が呼び出したと同時にゆっくりと腕を標的に向ける。
それと、男子高生の起こしたアクションがほぼ同時だったのは奇妙な運命か否か。
「お〜い、相沢ぁ。勝手に行くなって言ったじゃんかよ〜……」
強大な敵を見つけたとしてはあまりにも間抜けすぎる声だった。
高野の腕と思考が一瞬止まる。
そして、男子高生も突如現れたゾロアークに驚き戸惑い、足が止まる。
急に止めたものだから体育館でよく聞くようなキュッ、というスニーカーを擦った音が綺麗に磨かれたトレーニングルームの床を響かせる。
「ちょっ、ちょっとストップ!!」
すべての元凶であった女子高生が叫ぶ。
それは2人と1匹に対して言われたものだった。
高野は恐る恐る視線を標的よりやや下を、アイザワと呼ばれた少女の方へ向ける。
それは、敵だと勘違いさせてしまった為か申し訳なさそうな顔をしているようだった。
「あれ?お前らってもしかして……」
高野も何かを察しようとした時。
「テメェ!!俺の友達に何してんだゴルァァァ!!」
真横から怒号と共に拳が飛んでくる。
その拳は高野の右のこめかみ辺りにヒットすると、ぐらっと体が揺れた。
(てめっ……やっぱり俺の命を狙う……敵かよ)
床に落ちるまで高野は激しく己を後悔し、そして無垢に見えた高校生たちを恨み、睨む。
だが、倒れた高野が聞いたのは、3人の他愛もない会話だった。
「何やってんだよ〜!東堂!コイツは敵じゃないって!!」
「だったら何だよさっき明らかにお前に向かってポケモン出してたじゃねぇかよ吉岡ァ!」
「2人ともやめて……原因はあたしだから」
幸か不幸か、気を失わずに済んだ高野はその会話を聞いて彼らが敵でもなく、そして自分と自分に対して殴りかかってきた男子高生が勘違いをしていた、という事を分かったことができた。
ーーー
「んで、お前達は一体何なんだ!?」
その後必死に謝られて唐突に自己紹介され、少しばかり会話せざるを得なくなった高野は適当に近くの喫茶店に寄って話を聞くに至る。
最初に話しかけてきた女の子が相沢優梨香、後ろからダッシュしてきた男が吉岡桔梗、そして隣から拳で語りかけてきた男子高生が東堂煌と各々名を名乗る。
「僕たちは同じ高校に通う、友達で〜……」
「いや、そこは良いからもっと重要な所をだな」
「つまり、これが知りたいんですか?」
相沢がストローでアイスコーヒーの中の氷をくるくると弄びながら静かに答え、そして続ける。
「"ディープ・サイド"なのかと」
高野はここで確信した。
彼らは深部の人間だと。
でなければ、一般人が知り得ない単語をそう簡単にポンポン出すはずがない。
「いや、それらの言動で分かったからもういいよ。重要なのは何故俺をジェノサイドと呼べたか、って事だ」
「それはつまり、自分はジェノサイドだと認めたって事ですか?」
「それをハッキリさせる前に答えてくれ。何故お前らは俺をジェノサイドだと仮にも突き止める事が出来たんだ?」
高野の薄い目が3人を見つめる。
東堂と言う男は、やってしまったと言う目をしていること以外何も分かる事はなかった。
(感情を上手く隠せてる……。コイツら、やっぱり深部の人間だ。それも、ある程度環境に身を置いてから時間が経ってる……。ったく恐ろしいガキだ)
対して高野も決して悟られない事を声に出さずに呟く。
「なんとか調べました」
「へぇ?」
やはりと言うか、口を開いたのは相沢だった。
「公にはなっていませんが……。以前神東大学内にてちょっとした騒動がありました」
「あそこはポケモン絡みの騒ぎが多いからどの事を言って……」
「ジェノサイドが写し鏡を奪って、尚且つそこに潜伏していると。それを奪うべく幾つかの組織が攻撃をした、という情報があったことを……掴んだんです」
「あれか……」
高野はうっすらと思い出した。
バルバロッサが写し鏡の解析の為に邪魔が入ってこないよう、"意図的に流した情報を元に対ジェノサイドの包囲網を形成"させ、襲撃したあの日の事を。
あの時は確かまだルークが敵だった頃の話だ。
「また懐かしい話題を……。じゃあそこから順に追っていって、」
「はい。あなたを、見つけました」
自分たちが掴んだ情報が確実。
それを表すかのような強い目だった。
高野は、これは1杯食わされたかと言う代わりになりそうな大きなため息をつくと、
「全く……何の意味もないじゃんかよ……。この格好」
初見の敵の目を欺く為のワイシャツとスラックスと眼鏡と言った格好のはずだった。
赤と黒のローブ姿=ジェノサイドというイメージがある彼等の目を騙すための。
その筈だったが、ここで簡単に見破られる。
高野はメイを軽く恨んだ。
面倒な事してやってんのにバレたぞ、と。
「そうだ。お前達の情報は正しい。確かに俺は半年前までジェノサイドなんて呼ばれていたよ」
その途端。
それまで緊張していた3人の表情が安堵のものに代わり、言葉やガッツポーズといった仕草で喜びを表す。
まるで、ジェノサイドを見つけることこそが大きな任務であったかのように。
「じ、実はっ!!お話がしたいな〜なんて、思ってて!」
吉岡がやや慌てながらテーブルから身を乗り出す。
「もう話ならしてるけどな。今になってお命頂戴致す!とかならやめて欲しいがな」
「いやいや!!そんな事じゃないです!ほら、コイツと違って!」
吉岡の体を無理矢理引っ込めさせ、東堂を強く指した相沢もまた、テンションが高くなりながら高野を一直線に捉える。
逆に東堂は「もうやめろ!」と言いながら手を払い除けながら、
平和な世界で平和な語り合いが広がっていく。
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