二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.390 )
日時: 2019/10/03 15:54
名前: ガオケレナ (ID: WwlU5OLB)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


機械音が漏れ出ている空間の中、相沢優梨香は困惑していた。
当初の予想を大幅に超えたそれに、以後どうしていいのか分からなくなっているのだ。

「ダメねー……。一体どうすればいいのかしら?」

「おーい、とりあえず昼飯買ってきたぞ。パンとおにぎりどっちがいい?」

「んー。じゃあおにぎりで」

近くのコンビニまで昼食の買い出しに行っていた東堂が、PC室の扉を開けてそう言った。
相沢の隣の席に座り、コンビニ袋を2人の手の届くようにお互いのキーボードの間にぱさっと音を立てて置く。

「何か見つかったか?」

「全然ダメ。それらしい単語が含まれた掲示板や呟きなら幾つかヒットするんだけど見れなくてさー。フィルタリングのせいよ」

「フィルタリングぅぅ??それじゃあ意味ねぇーじゃん。何の為に俺らを此処に呼んだんだか」

「本当にそれよ。だから今自分のスマホからPCからは入れないサイトにアクセスしてる。吉岡からも連絡が来たわ。手掛かりはナシって」

「ったく……」

2人は高野から、「学校のパソコンから深部やジェノサイドについてとにかく調べて欲しい」と言われていた。
しかし、結果はこのように2人が退屈する運びとなっている。

記事やサイトといった類が全く表示されないのだ。
出てきたとしてもフィルタリングが掛かって入る事が出来ない。

最早ここに居る意味が分からない相沢は出来ることなら帰りたい思いに駆られたが、その感情は吉岡からのLINEで即座に消える。

「ねぇ、吉岡がこっちに来るって。高野さん連れて」

「マジで?何の為に?」

「分からない。だからまだ帰らないでくれってさ」

「ちぇっ、いいけどさぁ。それくらい」

東堂は初めからこうすればよかったと思わんばかりに、相沢同様に自分のスマホから色々なサイトへ接続するも、デマを掴まされてはため息をついてそのサイトを閉じる。

それが昼食を食べ終えるまでの簡単な作業と化していった。

「ねぇ、キー君……。どうして高野さんはあたしらにこんな事させたんだろうね?」

「さぁー……。単に面倒だからだろ」

「面倒、ね」

相沢の脳裏に高野の横顔がよぎる。
寂しそうな雰囲気からは想像も出来ないような、残虐性と絶対性を兼ね備えているといった勝手に生まれたイメージ。

そんな彼が、何を思って自分たちにお願いしたのか。

そんな時。

「えっ?教室どっち?こっち?あ、ここでいいの?」

「そこです、そこ。そこで合ってますよ〜」

突然、普段から聞き慣れた声と1度か2度聴いたような声が外からしたと思うと、引き戸であった教室の扉が開かれる。

「おぉ……。合ってた……。待たせてごめんな、2人とも」

「高野……さん?」

相沢と東堂の視界は確かに捉えていた。

急いでやって来たせいか、汗をびっしょりかいた元ジェノサイドの高野洋平。
両国から彼をここまで迷わせること無く導いた吉岡桔梗の2人のその姿を。

高野は、ほっとしたような緩い笑顔を見せると教室へと入っていった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.391 )
日時: 2019/10/03 17:16
名前: ガオケレナ (ID: WwlU5OLB)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「状況はどうだ?」

「どうもこうも無いっすよ!それらしいサイトはヒットするけどフィルタリングだとかで入れないんすよ」

「あ〜、やっぱりな」

高野は東堂の使っていたPCを横から掠め取るかのように、彼が昼食を食べ終えていない隙にいじり始める。

「やっぱり?……って事はある程度予想していたって事っすか?」

東堂が益々自分たちがしてきた事が無駄に思えてきたせいでイライラを募らせながら彼に問いかける。

「少しはな。だが、そのお陰で犯人が何処にいるのか掴めそうだ」

言いながら高野は手当たり次第にヒットしたサイトを見ては閉じてを繰り返す。

「高野さん……そもそも学校内に入れた……のですか?」

「相沢ぁ〜、それが問題なくてさ。夏休みだしそういう監視も緩いだろなんて2人で話してたら本当にスンナリ入れたよ」

「此処……私立だったわよね?確か」

相沢が学校側のその防犯性にドン引きしながらペットボトルのお茶を飲んでいる時、隣では動きがあった。

「やっぱり、俺の読み通りだったな」

高野は言うと、3人に表示された画面を見せる。

「何ですか〜?それは」

「個人が立ち上げたポケモンのゲームの攻略サイト。その掲示板さ」

学校のパソコンからは一切のSNSや掲示板を遮断されている。
にも関わらず、サイトのオマケ程度に作られた掲示板はその網を潜り抜けて今、確かに見えていた。

「そろそろ教えてくださいよ!高野さん何を考えてこんな事させたんすか?」

「分かった分かった。読みが的中した今全部話すよ」

夏休みの割には更新頻度が高いとは言えないその掲示板に少し目を通すと、カーソルを止める。

「普通な状態でネットの海から"ポケモン"とか"ジェノサイド"なんて単語で探そうとするととても苦労するだろ?多分2人も試したと思うけど、俺の名前で検索しても変なサイトや嘘っぱちばかりが出てきたと思う。それらの大半をブロック出来るのが学校のパソコンって訳」

「じゃあ、本当に初めから分かってて……?」

「そう。無駄な情報網をカット出来るこいつで、犯人のいる居場所に辿り着けるかが今日の目標だったけど……多分それは達成出来そうだな」

「いや、待ってくださいよ!だったら初めから俺らにそれを言ってくれれば、なんの手掛かりも無いなんて状況は回避出来たかもしれないんすよ!?何でそれを言わなかったんですか?」

「それはちょっと申し訳ないと思っているよ。でも、俺の中でもちょっとした賭けだったんだ。例えば、俺の事を殺したいくらい憎い奴が居たとする。そいつが俺に対する恨みつらみをネットで吐いたとしよう。大手の掲示板やSNSだったら速攻で消されるのがオチだ。俺らの存在を表向きにしたくはない連中がいるからな。……でも、もしもな。もしも、そいつが学生だったら?」

3人がそれぞれの顔を見合わせた。
共通してピンとくるものがあったようだ。

「授業中でも部活中でもいい。学校から、俺への悪口を吐いたとして、そこから入れる場所と言ったら……こういう所だと思うんだ」

そう言いながら高野はその掲示板にある、サイト内を検索できるバーをクリックすると"ジェノサイド"と打つ。

すると、幾つかのスレッドやレスが検索された。
中身は確かに自分に対する恨みや悪口、殺人予告紛いのものまで様々なものが表れる。

「どうして……」

相沢は、彼が来て5分かそこらであるにも関わらず言った通りの状況になっているのが不思議でたまらなかった。
何故こんなものを知っているのか。
何故こうなっていると知っているのか。
ただそれを聞きたかった。

「どうして……こうなっていると分かったんですか?だって、普通思い付かないじゃないですか!フィルタリングを潜り抜けるサイトのことなんて……まるで初めから全部知っていたとしか……」

「実を言うと知っていた……と言うか60%くらいかな。それくらいの思いではあったよ」

「じゃあ、なんで……?」

「昔、全く同じような状況があったからだよ」

ピクリ、と喋っていた相沢の体が震える。
昔ということは彼がジェノサイドとして活動していた時以外の何物でもない。

「4年くらい前になるかな。正体不明のトレーナーから突然攻撃を受けたんだ。不意打ちなんて初めて食らったから自分の身を守るのに精一杯でポケモンの強さ比べなんて頭に入る余地は無かった……。宣戦布告が無かったから組織の人間として俺を攻撃したのか、そういうのに属していないけれど俺の存在は知っているっていう奴が単独で攻撃したのかその2択が容易に想像出来たけど……問題はそこからだった。"誰が"やったのかが分からなかったんだ」

高野は、話し相手が年下だと自分の経験談を長々と話すのはつまらないオヤジ共だけかと密かに馬鹿にしていたのと同じ事をやっている事に薄々気が付くも、最早そういうもんだと今までの考えを半ば否定しながらも話を続けた。

「当時mixiの勢いがまだある頃でさー……」

「うわっ、懐かしー」

「mixiとかあったよね」

彼らが意外にもそれを知っていた事に少し驚きつつも、構わずに高野はその遮りを無視していく。

「俺も表向きは普通の高校生を演じていたから、友達やクラスメートと共にそれをやっていたんだけど、ある時偶然見つけちゃってさ。そこでジェノサイドについて話してた奴を。リアルタイムで見てたから観測出来たのはその時だけだったし、噂を拾った程度の一般人の投稿だったから気にならないものだったけどそこで閃いたんだ。表向きには隠されている存在だけどネットで調べたら出てくるんじゃないかってね。そしたら見事に見つかったよ。敵も判明した」

「何処にヒットしたんですか?」

「今はもうサービスが終了しているSNSだったよ。確かアバターが売りだったかな?そこのサイト内にあるサークルがソレだった」

「敵は……どんな人だったんですか?」

「同じクラスの隣の席の奴。まさかの知人ってオチさ」

「えっ……」

彼の話に魅入ってた相沢と東堂は傍から見ればわざとかと思うほど瞳を大きくさせて静かに話を聞き、そして想像した。

もしも、自分が同じ立場だったら、と。

「当時学校内でポケモンが流行っていたとはいえ、まさかこうなるとは思ってもみなかったよ。普段仲良く会話していた奴が実は深部で、俺を殺す事だけを考えいた、なんてさ」

「それからは……その後はどうなったんですか!?」

「奴の居場所を突き止めて戦ったよ。結果は分かるよな?俺が今此処に生きているって事はさ」

2人はそれも気になっていたが本当に知りたかったのはそれではなかった。
その知人がどうなったかだ。

「そいつは友達でもあったんだが……いやぁある意味辛かったな。あのバトルは。その事実もショックだったけど、ひこうジュエルからの'アクロバット'を使ってくるあのアーケオスが恐ろしかったね 」

「あの……その友人は……どうなったんですか?今も元気ですよね?」

いつまでも引っ張る高野に焦れったさを感じた相沢は自分から尋ねた。
正直今知りたいのはそれだけで、その時のバトルだとか、使われたポケモンだとかに興味は無い。

「あいつはもう居ない。戦いの後に死んだんだ」

高野はその時の光景がまるで昨日見たかのように鮮明に自身の記憶の中で蘇る。

深部同士の戦いを繰り広げた2人。
片方は命のやり取りは御免だと叫びながら説得し、もう片方は掟に厳格になれとそれを否定する。

誰も殺したくない。誰も傷付けたくない。
自分は確かにそう言った。
しかし、敵は真っ向から否定する。

『掟に従え。半端な気持ちで戦うな。どんな御託を並べても俺もお前も深部ディープサイドだろう?命を差し出す覚悟を持って戦え。……俺は、この通り……持ったからな?』

彼の最期の言葉は未だに重くのしかかるようだった。
一言一句正確に覚えていられている、という事は未だに引き摺られている現れである。

「そう言って、あいつは自分の脈切って死んだよ。本当に色々とショックだった。つい昨日まで親しかった奴がこうも簡単に動かなくなると言うか、無造作に放り投げられた人形のようにぱったりと動かなくなる事が出来るんだな……って。その時は思ったっけな。人の命って案外脆くて弱くて儚いんだなぁ……」

その友人がもしも、無駄に真面目で、知っているルールは1つの漏れも無いかのように厳格に振る舞うような性格でなければ今も生きていたかもしれない。

しみじみと思い出すかのように語って、初めて高野は周りの空気が白けていた事に気が付いた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.392 )
日時: 2019/10/12 18:25
名前: ガオケレナ (ID: nj0cflBm)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「なんか……ごめんな。凄くシケちまった」

「いや、高野さんは何も悪くないですよ〜……」

そろそろ15時に差し掛かろうとしていた時刻。
4人は学校をあとにしていた。
今日のうちにやれる事はすべて達成出来たので解散する流れだった。

「まさか知らなかった……高野センパイにそんなエグい過去があったなんて」

「腐ってもジェノサイドだったからねー。何でもありな世界の頂点に立った人間だったわけだし、まぁ……その……色々あった訳さ」

「でも、これでハッキリ分かったよね〜?2人とも……」

深刻そうな顔をして吉岡が相沢、東堂の先をゆく足に向かって投げかける。

「僕たちじゃあ最強になるなんて無理だよ〜……。そうなる為には覚悟が足りなさ過ぎるよ……」

「正直俺もヘコんだわ」

言いながら、ペースの落ちた吉岡の歩調に合わせて東堂もゆっくりと歩き始める。
隣を歩く相沢も遅れてそれに合わせてきた。

「住んでる世界が違いすぎるなってな。やっぱり俺たちみたいなポケモンやってワイワイやるだけの連中じゃ無理な話なんだな」

「いや、そんな事は無いんじゃないかな?」

諦めかけていた彼らに優しく励まそうとしたのは何を隠そう、高野本人だった。

「俺だって最初はポケモンを好んで遊んでいた高校生だったわけだしさ……本当にたまたま変な人に声掛けられたのがきっかけだったってだけで……。確かに天才と呼ばれる人だとか、人から注目を浴びられる人ってのはそれに至るまでに想像も出来ないような下積み時代と言うか……苦難を伴う時ってのがあると思うんだ。それを経験したわけじゃないのにそんな話を見聞きして夢を諦める……ってのは少し話が違う気がするんだ。だってさ、自分のこれからの境遇とか運命とかがそうなるとは限らないじゃん?自分次第じゃん?」

彼らの"最強になりたい"という純粋な夢を否定も肯定もしない。
ただ、自分の過去を聞いて夢を諦めるということには否定する。

必ずしも自分とは同じ道を歩むとは限らないからだ。
高野は、その事だけを伝えたくて長々と、やや早口で語り続けた。

ーーー

「じゃあ、俺はここで」

高野は、学校から歩いて15分ほどで到着した駅にて彼らにそう言うと手を振った。

「あとは俺の方から探りを入れてみるよ。何かあったら連絡するけれど……また来てくれる、かな?」

不安が一瞬まとわりついた。
今日1日で彼らに重い荷物を背負わせてしまったかもしれない。
これに対し彼らが「もう、いいです」と言っても高野はその気持ちを尊重するつもりでいた。
この一件に彼らを巻き込んだのは自分だからだ。

ところで、3人も同様の事を考えていたのだろう。
高野の問いの後に、しばし考え込んでいるのか静かになったかと思うと、

「いいともーーー!」

「タモさんかっつの」

東堂のボケに相沢が軽く頭をはたく。
高野も吹き出したかのように軽く笑ってしまった。

そうだ、彼らに求めていたのはこれなのだ、と。
友人同士時にはふざけて、時には悩み、苦難を乗り越える。
3人まとめて自分の話で暗くなる必要など一切無いのだ。

そう思い、安心した高野は再度手を振って駅の中の人混みへと吸い込まれていった。

「いいとも……去年で終わっちゃったけどね〜」

「知ってるよそんなの」

インターバル1日目は普段通りの日常を写しながら、時は過ぎてゆく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.393 )
日時: 2019/10/06 17:12
名前: ガオケレナ (ID: ylrcZdVw)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


講義の終わりを告げる心地よいチャイムが鳴った。

「ふぅ。終わった……」

高野洋平は書き終えた答案用紙を教室の1番手前に置かれた教卓の上に優しく乗せると、そそくさと出て行った。

7月30日木曜日。
今日は、彼の今季最後の登校日だ。
つまり、彼も明日からやっと夏休みな訳だが、先程の「終わった」と言うのが、果たして今季における終えた講義全てに対してなのか、試験の結果に対して言ったのかは心の中を覗かない限り決して分からない。

時刻は12時を過ぎたところだった。
最後の授業を終えた今、あとは帰るだけなのだが本来ならば木曜といえばサークルのある日だ。
どれほど集まるのか分からないが、それによっては今帰るのは少し勿体無い。

試しにとコンビニで軽く昼食を買っては部室へ行ってみる。

「やっぱり、誰も居ないか……」

文字通りの空室。
それもそのはず、大学も3年となればある程度単位は取れてきているので毎日来る必要がなくなるのだ。
更に、今週はすべての講義の最終日。
集まりが少なくなるのは最早必然だった。

「一応LINEのグループで聞いてみるかな?今日のサークル来るかどうか。……いや、やっぱりいいや」

やる事も限られてくる上に人も少ないのならばわざわざ行く必要もない。
ならば、本来のやるべき事をやるのみだ。

「さてと……?」

高野は結局誰もいない部室へ入り、昼ご飯を食べながらスマホを開く。

画面には昨日見つけたポケモンの掲示板が写っている。

(俺の予想だと此処に香流を狙った奴がいる……。あとは此処でどれだけの会話をしたのか、犯人が誰で仮にいた場合、どうやって接触するのかだよなぁ)

何度かページを更新しては画面をスクロールするのを繰り返こと3分。

『ジェノサイド死ね』

……という、物騒なスレッドのタイトルが目に付いた。

「これはもしかして……もしかするやつか?」

レスは300ほど付いていた。
パッと見、人がもうほとんど居ない掲示板であるらしい中ここまで伸びたスレも少し珍しいものだった。

高野は即座にスレを開く。

スレ主の唐突な恨み節をスルーしながら、1つひとつのレスに目を通す。
最初の内は怪しいものは見当たらない。

「どうやらこいつは……俺の事を知っていて尚且つ本当に恨みを持っている人間のようだな?噂で聞いただけなのか、こいつ自身も深部の人間なのか……それはまだ分からんが……」


思いながら見ていくと、

ーーー

Re:ジェノサイド死ね(No.57)
2015/5/4 18:35
名無しさん

>>0
ジェノサイドとやらについてkwsk

ーーー

「へぇ……57番目にしてやっと言及来たか」

ーーー

Re:ジェノサイド死ね(No.58)
2015/5/4 18:37
名無しさん

>>57
ポケモンを使って悪さしている連中がいるのは知ってる?
その中の大ボス言い換えればマフィアのドンみたいなのでジェノサイドって言うのが居るんだよ

ーーー

「話盛ってんじゃねーよっっ!!」

高野は思わず誰もいない部屋だからこそ叫ぶ事が出来た。
あまりにも行き過ぎた表現を見て認識の違いというものをつくづく痛感する。

だが、

「でも待てよ?こいつ、俺の事知ってるのにマフィアのドンとかいう表現はおかしくないか?どういう事だ?」

スレを進めながら3つほどの可能性をすぐさま浮かばせる。

ひとつは、深部を単に知らないパターン
ふたつは、深部を知っていて、悪意ある表現をしたパターン
みっつは、深部を知っているのだが、知らない人向けに表現したパターン

「とにかく今のままじゃ分からん……スレを進めるしかない……」

画面をスクロールしていく速度が少しづつ上がっていった。
つまり、ひとつひとつのどうでもいいレスに対しては記憶に留めないほどの速さで流し読みしていく。

ーーー

Re:ジェノサイド死ね(No.92)
2015/5/4 21:02
名無しさん

>>91
実を言うと俺も裏社会にいた人間だった
所属していたチームというか組織みたいなのがあって、普段から他の組織と潰し合い殺し合いをしている訳だが俺の組織も結構前にジェノサイドに潰された

だから憎い

ーーー

「なるほど……」

ここで高野は理解した。
このスレの恨みの原因は組織間抗争において自分に敗れた人間であること。
即ち彼がまだジェノサイドだった頃の話で、2014年12月以前にまで話が遡る事が出来ることだった。

それ以降は「嘘乙」だの、「んんwww有り得ないwww」といったレスが大半を占めるようになったが、結局のところ一般人には理解できないということだろう。

スレの勢いが投稿時間を見る限り落ちていった頃。

ーーー

Re:ジェノサイド死ね(No.113)
2015/5/9 13:05
名無しさん

>>0
私でよければ協力しましょうか?
差し支えなければ私のメアド宛に連絡をいただけないでしょうか
ーーー

遂に事件への繋がりを匂わせるレスに辿り着いた。
突然の来訪に当時スレ主も驚いたのだろう、これに対し「わかりました」とだけレスしたようで、そこから1ヶ月ほどスレの更新はなかった。

「この113がどんな奴か分かるわけがないが……この後に裏で色々と接触していたのは確かだな。あとはコイツらが香流を狙ったすると確実な証拠があればいいんだけ……ど??」

変化は急に訪れる。

ーーー

Re:ジェノサイド死ね(No.120)
2015/7/27 9:02
名無しさん

作戦完了。
ターゲットは地面に倒れた

ーーー

「は????」

高野は思わずまた叫んだ。
この1つのレスだけで彼にとっては情報量が多すぎたからだ。

「いや、待て……こいつ……やっぱりこいつだ……。こんなにもあっさりと見つけられた事に驚きだけど、本物だ」

彼が目を付けたのは投稿時間。
この日のこの時間こそ、香流が襲われた直後の時間だったからだ。
更に前後のレスで"両国"の単語があったこと、彼がエイパムを使ったことまでやたらと詳しく書いていた事もあり、この瞬間確信へと変わる。

「あとはコイツとどう接触するかだな……」

画面を睨みながらしばし考え、何かを思い付いたかのような顔をすると、スマホを何度か叩く。

無機質な掲示板の画面が、アドレス帳へと変化していった。
そして、表示された1つの番号。

(こいつは以前言った……。ジェノサイドと同等のネットワークがあるって……)

高野の記憶に1つの情景が蘇る。
デッドラインの鍵と呼ばれた少女の話を聞いた時のあの時、あの瞬間を。

迷いはなかった。
画面を押して電話をかける。

コール音は4度か5度くらいで切れた。
つまり、相手が出たのだ。

「もしもし?ミナミか?少し頼みたい事があるんだけどさ……」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.394 )
日時: 2019/10/09 17:24
名前: ガオケレナ (ID: quQfBDMh)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「おっすー。……あれ?」

「あーカビゴンだ」

サークル活動場所として借りている教室に、太い体に太い声をした男が入ってくる。
年長者にしてサークル会長の高畠美咲がギャグを振り撒くような柔らかい声で、まるで彼が来たのを喜んだかのように言う。
実際会長としての立場上、サークルに誰かが来ることは嬉しいことなのだが。

「だーれがカビゴンじゃぼけ」

最早言われ慣れて自分からもネタにするレベルだが、彼のその持ちネタは返しも"込み"だ。
自分から「カビゴンって呼んでくださーい」って言っているにも関わらずデブを否定する。
そんな面白おかしさを持ちネタにしているのが吉川裕也という男だ。

「なぁ、珍しくないか?レンの奴来てないよな?」

吉川は初めに気付いた違和感を、椅子に座って改めて周りと共有しようとする。
すると、木曜日に来る事が当たり前となっていた岡田翔がいち早くその声を拾った。

「レンなら来ないよ。用事があるとかで」

「用事ィ?……あいつに何かあったのか?」

「いや、レンに何かあった訳じゃないよ」

お菓子を食べながら高畠が2人の話に入ってくる。
このサークルの活動内容と言えば皆で集まってお菓子を食べるかボードゲームするかポケモンするかの3つしかない。
今日のような、長期の休みが目前に控えている時は旅行サークルらしく旅行先を決めたりスケジュールの作成などがあり、今日はまさにその為に集まったようなものだが。

「今日の2限にレンが試験受けてるのを見たよ。だから今日ここに来ているのは確実。んでもって、3限のはじまりくらいかなー?レンが停留所からバスに乗って駅に向かって行ったのもたまたま見たよ」

「バス?あいつ確か大学近くに一人暮らししてたはずだよな?」

「あぁ。俺もレンにLINE送ったんだけど来た返事は『用事があって行けない』って。あいつも忙しいんだろ。香流もとっくに今季の講義終えたから来ないし。まぁー、俺たちで話するしかねぇよな」

「うーん……レンなぁ……。また、あの事で動いてなきゃいいけどな」

吉川たちの後ろで声がした。
男の声だ。

「北川ぁ、お前かよ!ってお前居たのか」

「居るわ吉川が来る前からな!」

北川弘。
飲み会とイベントと旅行、そして最近では大会の観戦あたりにしか姿を表さない彼がサークルに来るのは少し珍しかった。これも、旅行の日程決めが少なからず絡んでいるからだろう。

だが、彼の疑念を大きくさせたのは彼のその一言だ。

「ん?北川……"あの事"って何だ?」

「あの事ってあの事だよ!香流が怪我した事故の犯人追ってるアレ!」

「あぁ……そういや前にレンそんな事言ってたなぁ……。何か進展あったんかね?」

「ワカンネ」

そんな会話の中、また新たな影が入り込んでくる。
特別仲のいい高畠が先にその存在に気が付いた。

「あぁ、真姫じゃん!」

石井真姫。
偶然拾った会話のせいか、少し怖い顔をしているような気がするのは、誰もが抱いていた。
だが、一瞬で元の穏やかな表情かおへと戻る。

「お疲れ、みんな!もう皆は今季終わった?」

それが合図となった。
彼等の、何事も無い日常。
外の世界で起きている物騒な事件や陰謀などといったものから隔絶された平和な日常というものが確かにそこにあった。

彼等のサークル活動は、その後にチラホラとやって来た自分たちの後輩も含めて進んでいく。

ーーー

一昔前か二昔前に建てられたようなシンプルなデザイン。
特別な感情を抱かせない姿の校舎を瞳に写した彼女は、仲間の声で自分の世界から引き剥がされた。

「いつまで見てんの?」

「いや、別に。あそこに湯浅ちえみが居たんだなー……って思って」

「お得意の妄想か」

仲間の1人がくくっと笑う。
それに対し女の方は否定も肯定もしなかった。

デッドラインを追う女、メイ。
彼女もまた、デッドラインの鍵の正体が湯浅ちえみという名のごく普通の女子高生だったという所に辿り着いていた。
彼女"たち"First Civilizationの元メンバーは湯浅が通っていた高校の前に来ている。

だが、する事と言えば現地に来て校舎を見つめることだけだ。
怪しい外部の人間が「行方不明者を探しています」なんて言えたものでは無い。

そもそもメイの提案した、「湯浅ちゃんが通ってた高校に行ってみたいなー」とその時の気分も交えて発したものが原因だったようなものだ。
実際に攫われた場所も確認したかったというのもあったが。

「んで、これからどーすんのさ」

「そうねぇ……。今度は両国にでも行こうかしら」

「はぁ!?」

大会にてあの時対峙していた男が、嘗ての自分の仲間だった男が、有り得ない理不尽を被ったときのような声で叫ぶ。

「お前ぶっ飛びすぎるよ!此処からどんだけ離れてると思ってんだ!!」

First Civilization。
それを意味するのは先駆者。

先を往く者たちが、それぞれの世界を、それぞれの糸を、点と点を結んでゆく。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。