二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.470 )
日時: 2020/03/08 15:24
名前: ガオケレナ (ID: wUNg.OEk)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


結局、高野洋平はよく眠ることが出来なかった。

目の下にくっきりと隈を作って朝を迎える。
イクナートンからは「戦いを嘗めているのか」と嫌味たらしく言われ、ルラ=アルバスからは「どうして寝なかったのか」をしつこく追及され、これまでの居心地の悪い生活が幾度も続いたせいでそのストレスは限界に達していた。

軽く朝食を済ませると炎天の下、少し歩いただけで顔に砂がかかる外へ出る。

「これから飛行機で砂漠周辺を飛び回るわ。何か小さな発見でもあったら連絡を頂戴」

「連絡だぁ?おめぇは来ねぇのかよ」

高野はパイロットを含めると3人程乗れる戦闘機のタラップに片足を掛けながら彼を見送ろうとしているようなポジションに立っているルラ=アルバスに声をかける。

「私も行くわ。別の飛行機で別エリアへ。キーシュとその連中を空から探して見つけ次第拘束するという作戦だもの。全員が一緒に行動していれば捕まるものも捕まえる事が出来なくなるわ」

「そぉかよ」

高野は乗り込んで機体ドアを閉める。
機内には自分の他にやけにソワソワしているレイジが居た。

「いやぁ〜……リーダーと離れ離れになってしまうと不安と言いますか……。もしもリーダーの乗った飛行機が墜ちてしまったらと考えたらですね〜……」

「どんだけ心配性だお前は」

飛行機は不規則に揺れ、爆音と共に加速すると体が傾いた。
直後に離陸した事だと気付く。

(少しの発見があれば報告とは言ってたけどよぉ……)

高野は小さな窓から地上を見下ろすように見てみるも、既にうっすらと雲が掛かってまともに見ることが出来ない。

「何も見えねぇじゃねぇかよ」

『聞こえているわよー。デッドライン』

ヤケ気味にわざとやや大きな声で発すると、直後にルラ=アルバスの声が機内に響き渡る。

「は、はぁ!?ここでの会話も盗聴してんのかよ!?」

『人聞きの悪いことを言わないで。複数の機体同士連絡を取れるよう通信機器を接続しているの。いい?よく聞いて。これから複数の目標地点に向かって飛んでいるわ。機体αと機体βは過激派組織ゼロットの基地と思われる施設の近くに到着予定。機体γと機体δは"予言者の道"に到着予定よ。何か質問はあるかしら?』

「おいおい、予言者の道って何だ?そもそも俺の乗っている機体は幾つなんだ?」

分からない事だらけの高野は即座に質問を飛ばす。
途中に聞こえた聞き慣れない言葉は恐らく暗号か作戦における専門用語なのだろうが、その作戦に加わっている以上訊いてもいいはずだ。

だが、

『おいデッドライン……。聞いている質問ってのはそう言うんじゃねぇんだよ。無駄に時間を浪費させるのは辞めていただきたいな』

聞こえてきたのはイクナートンの声だった。

「はぁ!?確かに俺はド素人だが参加している以上知る権利があるだろ!はっきりと言えよ」

叫んではみるものの、返事は無い。
無視された事だけは何となく理解した。

「おいおい……あんまりだなぁ?これ好き勝手やっても文句言うなよって感じだよなぁ」

「やめておきましょうジェノサイドさん。気持ちは分かりますが」

しかし、ここは大人なレイジ。
エシュロンの面々の事情までは分からないものの、高野の思いを理解したうえで終始静かに徹する。

「ここで降りてくれ」

高野たちが乗る飛行機の操縦士が片言の英語で彼らに命令する。
しかし、その意味の理解と、突然の発声に戸惑う2人は、その操縦士に何度か怒鳴られた事で今自分たちが何をすべきかを理解する。

「……ここから降りる、んだよな?」

「そうでしょうねぇ」

「パラシュートが無い……ってことは……」

「ポケモンで降りるしか無さそうですね」

敵地の真ん中で着陸するようなご丁寧な事はしない。
空中から空を漂うことの出来るポケモンを使え。

恐らく彼らはそう言いたかったのだろう。

「クソッタレ!こうなったらキーシュも山背も石井も全員確保してとっとと日本に帰ってやるーっ!!」

重い機体ドアをやっとの思いで開く。

地上はやはりと言うか、砂一色に染まっていた。

「ほら行くぞ、オンバーン!」

高野は真下に放り投げるようにしてボールを落とす。
中身のポケモンが出るのを確認すると何の合図もなしに飛び降りた。

1秒か2秒ほど重力に任せて落下し、あまり柔らかいとは言えないオンバーンの体毛の上に着地する。
その時、オンバーンは自身に対して叫んだ。
恐らく落下のエネルギーが合わさって痛かったのだろう。

軽く謝って高野とオンバーンは着地する。
遅れてレイジがキルリアのサイコパワーによって浮かされながらゆっくりと落ちて来た。

「さて、と」

キルリアをボールに戻してレイジは彼方を眺める。
その先には監視をする為の塔のような建物が立っていた。

「恐らく、あそこを今から攻めるのでしょうね。距離は目視で4〜5kmといった所でしょうか。ジェノサイドさん、動けますか?」

「大丈夫だが……本気で言ってんのか?相手はポケモンだけじゃねぇ。火器の類で武装しててもおかしくねぇんだろ?こんな生身で突っ込むとか死ねって言っているのと同じじゃねぇのかよ?」

至極尤もなことを言う高野であったが、

『その通り。よく分かっているわね2人共。今からその建物を攻略して欲しいの。当然、2人の実力を理解しての配置よ。ポケモンを駆使して行ってちょうだい』

事前に手渡された、耳に掛けたハンズフリーの無線機からルラ=アルバスの声が響く。

自分らの強さは単体で軍隊に通用する。
と言うことだろうか。
だとしても無謀の2文字がよぎってしまう。

「私のポケモンエーフィで'リフレクター'を貼りつつ進みましょう。これなら、普通の銃弾くらいなら防げるはずです」

「普通ってなんだよ……」

常人の思考回路とはかけ離れている発想だが、実際に銃で撃たれた経験のある彼だからこそ導き出した答えなのだろう。
引き気味の彼をよそに特性'マジックミラー'のエーフィは'リフレクター'で2人を包む。

「行きましょうか。徒歩だと1時間ほど掛かりますが……焦って急いで狙撃されるよりはマシでしょう」

ーーー

キーシュは再び"探しもの"をしに基地を出て行った。
どうやら、彼らにとっては何よりも重要なものらしい。
そちらの事情に疎い"彼"は言葉では表しにくい不安を抱きながら待機していた。

『恐らくだが、今日ヤツらが此処に来る。貴様に任務を与えよう。ここで俺様が戻って来るまで足止めをしろ。無力化しても良し。生け捕りにしても良し。それは貴様に任せる。とにかく時間稼ぎをするという認識でいる事だ』

去り際のキーシュの言葉だった。
果たして自分に努まるのかどうか。
どうしても上手く想像できないがやるしか無い。
ここまで来てしまった以上、引き下がれないからだ。

熱風を頬に受けながら外を眺める。

人影が見えた。

"その時"は近い。

ーーー

「ジェノサイドさんっっ!!」

レイジが突然叫んだ。
遅れて高野が反応したあたり、初めに敵の存在に気が付いたのはレイジのようだった。

砂の山の影に隠れていたのか、2人が近付いたその瞬間。

大きく口を開けたポケモンが2人に、高野洋平に迫る。

「なっ……コイツは!?」

おおあごポケモンのオーダイル。

それが、高野洋平に狙いを定めては思い切り腕に噛み付いた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.471 )
日時: 2020/03/08 18:27
名前: ガオケレナ (ID: DWh/R7Dl)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


鋭い歯が右腕に突き刺さり、食い込む。
大きな顎の力が加わって骨がミシミシと音を立てて痛みが、強い力で、まるで万力に潰されているのではないかと錯覚するような痛みが身体の芯部に行き渡る。

「うっ……ぐっ、があああぁぁぁぁっっっ!!!」

「ジェノサイドさん!?」

レイジの叫びとオーダイルの出現のせいで高野自身行動が遅れる。
必死に左手でスラックスの左ポケットからボールを出そうと伸ばすものの、指を動かすだけでオーダイルが顎の力を強くする。

そのせいで力が入らない。

「く、っっ……そぉ……ッ!!」

苦悶の表情を浮かべ、恨めしい目でオーダイルを睨む。
レイジが慌てて次なるポケモンを出そうとポケットを漁っているその時。

「今だっっ!!奴を狙え!!」

何処かで聞いた事のある声で叫びが上がった。

それぞれ建物の方向から、砂山から、陰から隠れていたポケモンが、人が、一斉に高野に向かって群がって来たのだ。

「なん……!?これは、この声は!?」

違和感を感じずには居られなかった。
聞こえてきたのは日本語。そして日常生活においてのみ聞くはずの声。

山背恒平の声だ。

およそ5体ほどのポケモンが高野に対して獲物を捕らえる直前の獣の目を向ける。

およそ6人ほどの人間が高野に対してハンターの如く鋭い視線を放つ。

(そもそもこのオーダイルの時点でまさかとは思ってたんだ!!此処に、今目の前に山背が居るって事は間違いねぇ……。このポケモンは石井のものだ!!)

かつて。

ポケモンの全国大会が開催される直前。
高野洋平は石井真姫に対してポケモンを与えてしまった。
本人からすれば、"自分の身を護らせるため"渡したポケモンだ。

よりにもよって、孵化余りの、夢特性の高個体のポケモンを。
彼女が割と気に入っているポケモンだと公言していたワニノコを。

以前、デッドラインの鍵とかち合った際に助けてくれたポケモンが。

今回、自身に強く刃を向けている。

(俺が……自分で撒いた種に足元をすくわれているってのかよ……ッッ!!)

それだけでない。

敵に囲まれ、一斉攻撃をされるのが高野洋平にとって、そして、ゾロアークにとっても非常に対処し難い戦い方だった。

直後に高野の背後からゾロアークが登場するも、既に敵からの攻撃は始まっている。

(ゾロアークの幻影は広範囲に広がるが……。敵全員がそれに引っ掛かるとは限らねぇ……。特に、"幻影だと見抜いている"人間には)

'カウンター'は相手1体のみでの範囲しか持たない。
幻影は囲んだ敵全員に通用するほど万能ではない。
特に、自身が幻影使いだと"既に知られている人間が相手"では。

だが、やらないよりはマシである。
走って来た人間が銃を撃つ瞬間、すべてのポケモンが攻撃を放つ瞬間にゾロアークは辺り一面に闇を広げる。

それは、突然夜が訪れたような単純な黒い闇ではない。
それぞれ、1人ひとりが、1匹1匹が、目潰しをされて視界が役に立たなくなったかのような文字通りの闇。

その間に自分は少しでも相手から距離を離し、逃げられるタイミングを作りたかった。
だが。

「惑わされるな!!これは幻影だっっ!」

それでも、建物の方向から猛ダッシュしてきた山背が叫ぶ。
それでも効果はあったようだ。

ポケモンからの攻撃が来ない。
腕を噛み付いているオーダイルの力も弱まってきている。

「ゾロアーク、コイツに'カウンター'は打てるか?」

1歩か2歩、後ろに下がりつつ高野は隣に佇むゾロアークに尋ねるも、首を横に振られる返事が帰ってくるだけだった。

「やっぱり、自分が技食らってないとダメか……。ならゾロアーク、'ふいうち'だ」

オーダイルが自身に向かって"攻撃している"以上、有効と見た高野はそのように呟く。

直後に腕で突いた接触技がオーダイルの顎に直撃する。

「いっ、……っ」

振動が、技が突き刺さった際に顎の力が強まった痛みが腕に広がる。

しかし、それは一瞬だ。
腕から顎の力が抜けた今、高野は思い切り引き抜く。

遂にオーダイルが体から離れた。

「サンキューゾロアーク……。これで気兼ねなく放てるっ!'ナイトバースト'ッッ!」

腕がくっ付いた状態では千切れる可能性があったがために放てなかった大技を、今ここで炸裂させる。

体全体から発生させた赤黒いオーラがゾロアークの身から離れ、衝撃を伴って、辺りの砂山を吹き飛ばしつつ爆発させた。

あまりの必死さのせいで、山背や石井が巻き込まれるといった懸念を抱く事が出来ずに。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.472 )
日時: 2020/03/10 16:17
名前: ガオケレナ (ID: bp91r55N)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


背中がぐいっ、と引っ張られる。
高野は闇の中、吸い込まれるような不思議な力に身を任せて漂った。
それに不信感は抱かなかった。正体が分かっているからだ。

「ジェノサイドさん、数歩下がっただけでは距離を取るとは言いませんよ。これくらいしないと」

レイジのエーフィだ。
念波の力で高野はレイジと共に数メートルほど、それまで敵が居た位置から瞬時に移動する。

まだ目の前は真っ暗だ。
念の為にと高野はゾロアークに'ナイトバースト'と'かえんほうしゃ'を交互に、レイジもエーフィに'サイコキネシス'を感覚を空けて打つよう指示をする。

ボールに戻していなかったオンバーンにも'りゅうせいぐん'を打たせる。

耳から聴こえるのは爆発音と隕石が着弾した打撃音だけと相手の人数を考えると何かしらの反応があってもよかったのだが、それが一切ない。
それが高野にある種の不安を煽るが、

「そろそろいいだろ。イリュージョンを解いてくれ」

ゾロアークは全身から力を抜く。
空間を上塗りするかのように、背景が、砂の景色が、現実が姿を現していった。

「!?」

そこで高野は目を疑った。
幾度か転げ回ったのだろう。全身に土と埃と煤と少量の血を付けた山背が必死の顔を浮かべてすぐ目の前に迫っていたのだ。

「なっ、山背……まさかお前っ!?」

降り注ぐ'りゅうせいぐん'と他2体のポケモンの猛攻を音と感覚で躱しつつ時には身を受けながらそれでも高野に食いつく。

その一心でやって来れたのだろう。

「お、お前がそこまでする理由が……」

「お前をここで止めるっっ!さっさとくたばれジェノサイドぉぉぉ!!!」

片手でモンスターボールを、もう片手で握り拳を構えた山背は高野に眼前に到達し。

1発。
彼を殴った。

ーーー

「ね、ねぇ……此処は何処なのよ?」

「やかましい。黙って言われた通りのことをしろ」

ミナミはイクナートンと共にまたもや赤土色の砂漠の上へと降り立つ。
しかし、1つだけここまで見てこなかったおかしな跡がそこにはあった。

「大昔のキャラバンか、巡礼者の跡地……とでも言うべきか?とても遺跡とは言えない代物だがな……」

2人の前には白い岩で出来た櫓のような監視塔がデカデカと力強く立っていた。
それが古代に立てられた割には新しく、最近作られた割には粗末でつまらない外見で、いつか崩れ落ちそうなほどに劣化が目立っていた。

「ゼロットが此処に居座って周囲の探索を行っていても不思議じゃないな……。奴らは何か探し物をしているらしいからな」

「探し物?」

「アードの民族とその最期が記された書物だとか。都合良く砂の中に紙の切れ端が埋もれているなんておかしな話がある訳がないだろう?……恐らくキーシュは知った上で書物を探しているんだろうな。……全く無駄なことを」

「どうして、そんな事をしているの?」

「俺に聞いてどうする。どうせ目眩しの類だろう。ギラティナの力でアラビア半島中を短時間で逃げ回れる事を知らしめたいのだろう」

「それってどういう事かなー?ウチらが追い掛けている事を相手も知っているってこと?……だとしたら、どうやって知り得たんだろう……」

「あぁもう!無駄に勘のいいガキだな!いいから見ろ!ほら、早速出てきたぞ。ポケモンを持つ君の出番だ」

状況に反して呑気な会話を交わす2人の前に、数体のポケモンを従えた男が建物のある方角から、ゆっくりとこちらへ歩んで来る。

ーーー

高野は崩れかけた体のバランスを両足で固めんと砂を強く踏みしめる。

左手で殴られた頬を撫でつつ、ゾロアークの'ふいうち'で山背を小突く。

「似合わねぇなァ……?山背、てめぇにとってはなぁ?」

転ぶ寸前の体勢をピタリと止める。
かなりの前のめりになりつつ、高野は痛みを訴える様子を一切見せずに呟いた。

「深部のあれこれを知らねぇお前からすると……その一切が似合わないし真似事にも程がある」

「……真似事、だと?」

山背はボールをポトリと足元に落とす。
衝撃でジュカインが姿を見せた。

「僕は真似事なんて、してないよ。全部……本気だ」

ボールを拾いながら普段の口調で、大人しめで穏やかな声を奏でる。
場所とシチュエーションさえ無視すれば何事も無い日常の風景だ。

「本気、ねぇ。じゃあ深部の人間らしく今この場で俺を殺せるか?」

「出来るよ」

その発声と同時に。

砂を駆けるジュカインが腕に生えた刃を高野の首筋にピタリと当てて静止した。

視線を下に移す。陽の光が反射した淡い碧色の光が眩い。
しかし、芸術的な美しささえもがあったのも事実だった。

「今、ここで僕が……。1歩、いや……半歩踏み出しただけでジュカインは合図と見なしてその刃を振るうよ。つまり、お前の命は僕の足と意思にかかっている」

「ハッ、だから甘ぇんだよ。似合わねぇって言ってんだよ」

体を、首を数ミリ傾けただけで鋭い痛みがほんのりと走る。
少なくとも山背のジュカインは殺意満々のようだ。

が、高野は剣という脅しに対しても少しも臆せずに余裕さえも放ち続ける。

「俺は過去にこんな隙を与えられることなく斬られた事だってあるぞ?俺の背中を見てみろ。その時の傷痕が残っている」

「なに?修羅場をくぐり抜けてきた自慢?さっすが最強のジェノサイドは違うねぇ……」

「違うのはお前だよバカが。本気で殺すのならコレぐらいしろって言ってんだよ」

語尾が裏返る。
まるで、その瞬間からテンションが突如上がったかのように。

高野がその時見せた薄笑いが合図と化した。
幻影を見せつつ姿を隠していたゾロアークが山背の背後に突如として躍り出る。

瞬間的な殺意を感じ取った山背は即座に振り返るも、ゾロアークの動きには間に合わない。
襟首を捕まれ、真横に薙ぎ払うかのように地面に叩き落とされた。

主の危機に怒りが沸いたジュカインは短く叫ぶとその首を引き裂かんと腕を引く動作を行う。

が、それも遅い。

レイジのゲンガーの'シャドーボール'がジュカインを飛ばす。
共に地に伏したトレーナーとポケモン。
圧倒的な力の差を見せつけられて尚も。

無名の戦士は立ち上がる。

「何でだよ……。何でお前はそこまで戦おうとする?お前は何を思って……奴と行動を共にしているんだ!」

高野は叫ぶ。
山背は口の中に入った砂を吐き出しながらヨロヨロと立ち上がった。

「何で……って。生きる為以外に何があるんだよ……」

山背は背中に隠していた白い杖を取り出した。
それは、高野洋平にとっても、そしてレイジにとっても見覚えのあるファッション用の小物道具。

「僕と……"真姫"が生きるためなら……、こうするしか無いんだっ!!」

ジュカインが周囲の砂を巻き込みながら白い輝きを放ち始めた。

「"あの人"は間違っちゃいないっ!!あの人は真実の為に……己の正義の為に動いて、戦っているんだ!!外野のお前らがとやかく言うのは許さないっっ!」

莫大な風と衝撃が飛ばされた。

遺伝子を彷彿とさせるオーラが瞬きをするその一瞬にだけ魅せる。
より派手になったその格好をまざまざと高野に、レイジに見せつける。

「僕は生きる力と金と……真実を求める為にここに居る。僕は本気だ」

つくづく高野洋平は自分の愚かさを呪った。
山背に手渡したメガシンカの術が今、敵の手に渡って行く手を阻んでいるからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.473 )
日時: 2020/03/15 13:31
名前: ガオケレナ (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


迂闊だった。
まさかこちらに於いても追っ手が放たれるとは予想だにしていなかったからだ。

「だとしても意味ねぇけどな」

キーシュは炎天下の広々とした土地をゆっくりと歩く。
その手には短剣を携えて。

「つくづくNSAの捜査網は徹底的だな。今回の件にほとんど関係ないこの地をピックアップしておいて、俺様が来た所を狙う……。実に良い。だが、だからと言って何が出来るんだ?」

キーシュは、最早誰も居ない、生きている者が自分以外存在しない中嬉々と喋り続ける。

彼が今在る地。
オマーンのバット遺跡。

そこは古い遺跡であると同時に、古代の墓地が並ぶネクロポリスだ。
見ると、石を積み上げた蜂の巣状の墓が幾つか見られる。

「俺様とギラティナの力をまだ上手く知り得ていないようだな?生身の人間が銃を持った程度で捕まえられると思うなよ?」

キーシュを捕らえるべくやって来たエシュロンの面々は既に息絶えていた。
彼の周りにバタバタと倒れている人影がそれだ。

「しっかし、此処まで来るのに大変な手間が掛かったんじゃないか?首都のマスカットからでも車で40分かかるんだぞ?それを、俺様が来るまで待ち伏せでもしていたのだろうか?……憐れだ」

キーシュは歩く。ひたすら暑さに耐えながら少しづつゆっくりと。
墓を見つめては通り過ぎる。その繰り返しだ。

「俺様はギラティナの力を使えば……異空間からアクセスすればどれほどの遠い距離だろうと2~3分で着けるのだがな。その点でも情報は共有しないとなぁ?」

その声はまるで語り掛けているようだった。
何千年も前から眠り続けている者たちに向かって。

「しかし、そう考えると死ぬというのもある意味幸せだな。悩む必要がなくなるのだから」

着ている服が、1枚布のトガが風で翻る。
あまりにも吹くので解けて吹き飛ぶのではないのかと最初は思ったが今はもうそんな感情は無い。

「悩みというのは生きているうえで非常に厄介な問題だ。死にさえすれば解放されるのだから奴等は幸せ者だろう」

キーシュはまたも石の墓に横目で見ては通り過ぎる。目当ての物はそこには無い。

「……本当は知っているのさ。俺様の集めている予言者の回顧録に原本はもう存在していないという事を。集めているのは写本の1つに過ぎないとな。……それを付け込まれてNSAから狙われる要因になっている事もな?」

予言者の回顧録は幾らか失われたページが存在する。
そのページをキーシュは探している訳だが、その事を知っているのは相手も同じだった。
エシュロンはその在り処を先回りして突き止め、独自の捜査網をアラビア半島中に広げるに至った。

「知っているのさ。ページを集める度に、本が完成に近付くにつれて狙われる頻度も増えるという事をな。だが、止まらない。止められないのさ。真実を知りたいという好奇心は」

見れば、キーシュの眼前に高い塔が見えた。
まるでそれは、世界史の教科書で少しだけ載っていた聖塔ジッグラトを思わせるようだ。

「知りたいのさ。俺様の先祖がどんな道を歩んだのかを。それを知るにはクルアーンやアルフ・ライラ・ワ・ライラだけでは足りない。歴史に負けた者たちの歴史だからな」

文献によれば、アードの民とは非常に長命で背も高くそれは巨人の如くであったという。

だが、

「本当に有り得るだろうか?3000年近い間たった4人の統治者が治めていたなんてな。幾ら長寿でも長すぎやしないか?」

その疑問を払拭するための行動。
バット遺跡のネクロポリスへと訪れた最大の理由。

それはつまり、

「このジッグラトに……シャッダード王の墓がある」

墓を見ただけでは、暴いただけで何かが分かるとは限らない。
それでも何もしないよりは、身に付けた知識量として考えれば差は生まれる。

その足に迷いは無かった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.474 )
日時: 2020/03/15 16:31
名前: ガオケレナ (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


白い煙が晴れる。
その中からはドラゴンタイプが追加されたせいか、より猛々しく、より攻撃的な見た目になったジュカインが居た。

「僕はね……悔しかったんだよ」

メガジュカインと化したポケモンは前のめりになるとその口から光線を発する。

'りゅうのはどう'だ。

高野のゾロアークはと言うと主人からの命令も無く勝手に、しかし彼がもし仮に命令をしていたとするとその通りにやっていたであろう行動を取った。

'ナイトバースト'で'りゅうのはどう'を食い止め、抑え込む。

「レン、お前はいいよね?何がって力があるからだよ」

「……何が言いてぇ」

次にジュカインは'きあいだま'を放たんと両手を構えた。
そして、その一点に、その箇所にのみ全身の力を篭める。

「香流にも力があったよね。だってお前に勝つんだもん」

「だァから何が言いてぇんだ山背……」

ジュカインは放った。
格闘タイプの大技を。
当たればゾロアークを一撃で退場させる事の出来る弱点技を。

「僕は……お前たちが羨ましかった!そして悔しかった!僕に力がない事を……。僕1人ではどうにも出来ない事を!!」

しかし、その強い思いも虚しく、'きあいだま'は外れてしまう。

ゾロアークの居る位置を大きく逸れて砂山に直撃、大きな穴と共に膨大な量の砂埃が舞い散る。

「それを強く思い知ったのは大会の"あの日"だ!お前はすぐにあの異変の原因を突き止めて走ったよね?香流もどうにかすべしとすぐに行動したよね!?その結果がどうなったか……僕は知っている」

あの日。
アルマゲドンの人間らが現世においてディアルガとパルキアを召喚した日。
世界が終わろうとしていたその時、何としてでも止めようと高野洋平は首謀者の元へ駆け出し、神とも戦った。

香流慎司は協力者と共にこの異変を終わらせようと、オラシオンを流すべく走った。

その結果、世界の崩壊が止められた。
つまり今、この世があるのは紛れもなく高野と香流たちがあってこそなのだ。

だが、そんな中。
山背恒平は何をしていたかと言うと、

「僕は何も出来なかった……。本当ならば僕もお前と一緒にディアルガやパルキアと戦いたかった!出来る事なら……香流と一緒にオラシオンを届けたかった!でも出来なかった……僕には強さも勇気も無かったからさ」

高野のゾロアークは'かえんほうしゃ'を放つ。
しかし、直後にドラゴンタイプの存在を思い出したのでそのチョイスが間違いだと気付かされる。
しかし、ジュカインも'りゅうのはどう'で相殺して来たので結果オーライへと終わった。

「あの時のお前は格好良かったよ?勇敢だったよ?だって神と呼ばれるポケモンを相手に怯みもしなかったし躊躇すらもしなかったからね!?でも僕はどうだ!?未だにそんな事に後悔している……。自分が如何に弱い存在か……」

「だからお前はゼロットに加わった……ってか?」

「あぁそうだ!結局は強くなりたいから!好きな人1人守る事の出来るぐらいでいい……強くなりたかったからだ!お前や香流のようになりたかっただけだ!!」

ジュカインの周囲につむじ風が広がった。
それは次第に、葉や枝を含んだ大きな風へと、暴風へと変わる。

'リーフストーム'だ。

「僕だって真姫の事が好きだったんだ!だから……だから、僕は真姫と共に生きると決めた!ゼロットに加わって彼らに協力する代わりに……居場所と金と強さを手に入れる!!それが僕の想いであり、本音だァァ!!」

渾身の一撃が放たれた。
ジュカインを中心に渦巻いた嵐は直接ゾロアークにぶつけんと投げる。

しかし。

ゾロアークが軽く身を捻る。
それだけで。

「アアァァァァ!!!!また……また外れやがってエェェェェ!!!!」

山背は叫んだ。
ジュカインの必殺技はまたも命中を外してしまったからだ。

「強さが欲しい?だったらお前は何でもっと合理的な道を選ばなかったんだよ!?」

ゾロアークが大きく1、2歩飛ぶ。
その手には赤黒い光線を含んでいる。

「合理的?深部に入るってのが最も合理的じゃないのかよ!?」

ゾロアークがジュカインの目の前で'ナイトバースト'を放つ。
だが、ジュカインも立ち往生と言う訳にはいかない。
'りゅうのはどう'を撃つと見せかけて、横へと飛ぶように避ける。

「ただでさえ貧乏な大学生にとって……手軽に金を手に入れられる手段じゃないか!それなのに何でお前は否定するんだよ!」

「それは……」

直後に高野は言葉を詰まらせる。
言い分が通用するか途端に分からなくなった。

相手がゼロットだから?
そのゼロットがテロ組織だから?
一般人が深部の世界に踏み入ったから?

だがそれは。

「お前が……善良な市民が深部に肩入れしたからだ」

「それを言ったらレン、お前もだろ!?なんでレンは……5年前に深部の世界に入った?理由があったからじゃないのか!」

その通りだった。
高野は山背の言葉に反論出来ずに居る。

言い換えれば、5年前の自分に他の深部の人間が「ここには来るな」と言っているのと同じだからだ。

「お前は……お前には正義があるんだな」

「あるよ。そして、それはお前が止める事は許されないよ。これこそがお前に勝つ手段だからな」

決して分かり合えない。
それを垣間見た瞬間だった。

ある種の悟りを得た高野は、
その瞬間意識が遠のくのを感じた。

何かが頭を強く強打する。
固くて冷たい何かが。

ぐらっと自身の体が揺れる。
倒れるその時、瞼が閉じるその一瞬。高野は見た。

真横からオーダイルが、石井のものと思われるポケモンが自分に向かって'れいとうパンチ'を打ったと気付いた事に時間は要さなかった。


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