二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.325 )
- 日時: 2019/02/14 14:05
- 名前: ガオケレナ (ID: Zxn9v51j)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
間違いなかった。
正真正銘のメガストーン、それもボーマンダナイトだ。
「遂に見つかった……。本当に長かった……やっと、やっと俺はコンプしたぞ……っ!!見つかった以上もういいし、さっさと出るか」
最大の目的を達成した今、長風呂する意味もない。
手に取り次第さっさと上がってさっさと脱衣室へと高野は戻って行った。
元々着ていた服に着替えて適当に髪を乾かした後に彼は食事処へと歩いて行く。ここで何かを食べるつもりは無いが彼も喉が乾いているしメイを待つためとりあえず来てみた感じだ。
当然だが彼女の姿はない。温泉に来てまだ1時間はおろかやっと30分経った頃であるから容易に想像できることだ。
「アイツが来るまで何してようか……。適当に水でも飲んで待っとくか」
そう独り言を呟いて無料で飲める給水器の前まできた彼はコップに手をかけようとしたところでピタッと動きを止める。
ふと、ある考えが駆け巡ってきたからだ。
(この半年で……見違えるほど俺の環境は変わった。いや、これまでの学生としての俺が100%反映されてると言うべきか)
高野洋平という男はこれまで、「学生50%、深部50%。それが俺」という考えを持って行動してきた。もしかしたらパーセンテージは違っていたかもしれないが。
だがあの時、香流に敗北したことでこの数値は成り立たなくなり、これまでとは全く違う生活を強いられた。
だが、これが本来過ごすべき自分なのだろうと。
学生50%深部50%ではなく、学生100%こそが自分なのだと。
(いいんだろうか、俺がこんな平凡な生活をしていて)
時期が時期だけに1月から3月は大学がずっと休みだったが、今日までに非常に落ち着いた過ごし方をしてきていた。好きな時に寝て好きな時に起きる。受けるべき講義を受けてサボる時はサボる。そこには血も殺戮もない。文字通り平和だった。
だが日本人と言うものは一時の幸せを感じると「この先いつ不幸が降りかかるのだろうか」と不安になるものである。
彼もまた同じであった。
(この時間がいつまで続くんだろうか。もしかしたら、もう……)
そこで彼は考えるのをやめた。
いつの間にか自分の後ろにオジサンが並んでおり、
「オイ、いつまでお茶か水にするかで悩んでるんだ」
と不意に突っ込まれたからである。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.326 )
- 日時: 2019/02/14 14:10
- 名前: ガオケレナ (ID: Zxn9v51j)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「あら?早いのね」
食堂兼休憩室に高野が入って40分ほど経った頃だろうか。
髪が完全に乾いていない状態でメイがこちらにやって来た。
「女子の割には早いのな」
「誰を基準にしているか分からないけれど、私はもしかしたら早い方かもね」
あらかじめ買っておいたのか、缶ジュースをテーブルに置いてメイは向かい側に座る。
チラッと壁にかけてある巨大なテレビ画面を見たあと、顔を戻してメイは聞いてきた。
「それで、メガストーンは?」
「あったよ。ボーマンダナイトがな」
実物をテーブルに置き、メイはそれを手に取って少しばかり眺めると鼻で笑って同じ場所へと置き戻した。
「ここまで時間かけてメガストーンコンプか。これだと大会が始まってもメガシンカを完全に使いこなすのは無理そうね」
「だからってメガシンカ全種を使う訳じゃねぇだろ。どうせメガストーンコンプが目標だったんだ。それについてはこれからでも明日でもいいだろ」
「あなた分かってるの?大会まであと3日よ?本来だったら遠くから来る参加者はもう大会側から部屋でも借りてるところよ?」
高野も話だけなら聞いたことがある。
桜ヶ丘ドームシティは元々は緑地と住宅地であった。
それをほぼ完全に破壊して今のイベント用の施設を作った際、その広大な土地を余らせない為にと遠くの地域から来る参加者の為に大会期間中に生活が出来るようにマンションやバンガローをかなりの数建設したのだとか。
それらが一箇所に集中しているからか参加者の間では'選手村'と呼ばれているらしい。
「俺は別に地方から来ちゃいねーよ」
「でもいいじゃない。生活費は食費以外かからないわよ」
「えっ、マジ?」
宿泊施設はすべて議会持ちである。
水道代や光熱費はもちろんの事、建物を利用する賃料も一切掛からない……。これはすべて大会用のホームページに載っている事だがそんな事に興味がなかった高野には知らないのも当然だった。
「さすが裏の目的として深部へのスカウトに必死になってるのな」
「あなたもどう?今の生活だと色々お金かかるでしょ?」
予想外のオイシイ話に、高野は唸り、それからは言葉が出なかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.327 )
- 日時: 2019/02/14 18:44
- 名前: ガオケレナ (ID: Zxn9v51j)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
曇り空の下、高野とメイは歩く。
あれから食事の1つの注文もしなければ、それ以上の会話の進展もなかった。
理由は2つ。
無駄に値段が高いとの時間が勿体ないからだった。
「結局どうするのよ?部屋は借りるの?借りないの?」
「今更感がどうしてもあるんだよなー。俺別に金には暫く困らないしさ、それに気持ちの問題もある」
「気持ちの問題?」
「深部じゃねーのに議会に都合良く使われるってのが嫌」
「くっだらない……」
もし仮に高野洋平という男がこの大会の主催が議会と知っていなければ文句の1つも言わずに選手村の仲間入りをしていた事だろう。
真実とはある意味人を不幸にしてしまうものだ。
「ん?」
突然、高野のスマホがメッセージを受け取った事で振動し出した。
何事かと思いそれを開くと、どうやら豊川からの返事だった。
「なんて来たの?わかったー的な?」
「……面倒だから取ってきてくんね?……だとさ」
高野は決して忘れていた訳ではなかった。
豊川修という男が極度な面倒臭がりだと言うことを。
彼が何の用もない日に大学に来る事など有り得ない、ましてや、休日に「デバイスを取りに行く」という理由だけで家から出る事など決してしない人間だと言うことを。
「……あぁそう」
メイもため息を着くと高野のスマホの画面から顔を離す。
顔がかなり近かった為にシャンプーの良い香りがこちらにまで伝わってきていた。
「っつーわけで面倒だけど今から行くかな、ドームシティに」
高野がそう言って塔の見える方向に足を向けつつモンスターボールを取り出した時だった。
「いや、いいわよ。そこまでしなくて」
何故か今日の発端であるメイが手を差し出して止めようとする。
「なんでだよ?」
「それは明日行えばいいわ。あなた、講義あるんでしょう?」
「そしたら尚更俺が今日ここに来た意味がねぇだろ!!」
「そうじゃなくて、あなたたちには明日にやってもらいたい事があるの。明日講義が終わってからでいいわ。例の友達2人連れてドームシティに来てちょうだい」
「……今度は何を企んでやがる?」
相変わらず高野の不信感は健在だった。
彼女の行動の真相が見えない以上仕方の無い事だが、だからと言って疑う本人も共に行動し過ぎている。
自分でその矛盾に気付いてはいたが決して口には出さなかった。
「やぁねぇ。まーたそうやって疑う……」
「自覚が無いのなら本当におめでたい奴だ」
「そうじゃなくて、明日は大会に関係する事よ。受付番号の照合をしてもらいたいの」
「照合?」
メイの簡単な説明と共にかつて自分で保護したメールがある事を思い出した。
香流と豊川と3人で一斉に大会にエントリーした際に受け取ったメール。
それに振られていた番号を大会運営事務局に照合させる事で少しでも大会進行の一助となってほしいとのことだった。
「当日には何千人という参加者が1箇所に集まるのよ。1人1人の番号の照合をしていたら日が暮れちゃうわ。だから……」
「それは構わないんだが、それをする事で当日メリットとかあるのか?」
「一応あるわよ。予選の対戦順は照合が済んだ人から先に組まれるわ。あ、当然ランダムでね」
「極端な言い方すると、より本戦に近づく事が出来るって事か?」
「そういう事」
それならば悪くない、とこの時高野は思った。
自分たちの結果を早く知る事が出来るのと対戦をより早く消化出来ること、そしてイベント進行の手助けにもなれることなどいい事尽くしである。
つくづく上手く出来ているとも同時に思った事だろう。
要はそれほど必死になっているとの表れでもあるのだが。
「じゃあ明日何とかして2人を連れてくるよ。どーせ空き時間の1つや2つあるはずだ。それがダメだったら昼休みにでも呼んでやる」
「私も待ってるわ。何かあったら宜しくね」
何やらお別れムードっぽくなってきたので高野も今日に限った用事は済ませた事だし、この後は家で厳選なり特訓なりをすればいい。
じゃあな、と手を振りながらメイとはそこで別れる。
高野は大学敷地内を突っ切って向かい側へと行く為そちらへと歩き出した。
メイは何故か、彼のその姿を見送って。
暫く歩いた頃だろうか。
大学の敷地を抜けたあたりで高野はふと思い出した。
「ん?何で明日あいつは"待ってる"なんて言ったんだ?俺と香流と豊川だけの話なのに……。まぁいいや」
彼にとっては些細な事だった。
もっと重要な事が待っている為である。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.328 )
- 日時: 2019/02/20 12:41
- 名前: ガオケレナ (ID: jFu2moab)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「暑いな……」
もうそう思うようになってしまったのかと、高野は改めて時間の進む速さを実感してしまう。
翌日の22日。
遅刻せずに朝からの講義を受けながら高野は夏の始まりを肌で感じていた。
11時前から開始されたこの講義が終われば昼休みである。
この後高野は香流と豊川と合流して時間内にドームシティに行くか後で改めて行くかまずは決めるところから始まる。
連絡で済ませなかったのはまず豊川から返事がなかったことと、高野が講義開始ギリギリに家を出た事などから後手に回ったのである。
ちなみに豊川からは講義中に『ごめん寝てた』と連絡が来たのでとりあえず昼休みに部室に来るよう伝えておいた。
講義内容は中東世界におけるツーリズムについてだった。
高野にとっても何の関わりのない地域を扱ったもののため、理解が難しい点もあるものの、講師の説明が分かりやすく、自然とノートに字が走ってゆく。
眠気を感じずに講義を終え、恐らく既に集まっているであろう香流と豊川に会いに部室へと向かう。
つい半年前まで此処が、構内までもが一時戦場になっていたとは思えない。
ふと蘇った過去を思い出しながら高野は歩く。
大学側も隠していたいのか、この場で起きた戦闘の一切は公表されていないばかりか、彼自身も何のお咎めもなかった。
一部を除いて彼がジェノサイドであった事を知る人は居ないからだ。
暖かいを通り越して若干暑い陽の光を浴びつつ部室のある建物へと向かう。
入口を入ってすぐがそれだった。
案の定2人と高畠を含む3年が何人か居た。
「よう、おはよう」
「レンやっと来たな!んで、どうかしたのか?」
豊川が3DSを閉じながら聞いてきた。
2人にはまだドームシティに行くとしか伝えていない。
「お前らすぐに向かうぞ。ドームシティでやる事があるんだ」
「メガイカリを取りに行く以外にもか?」
「あぁ、そうだ」
部室の扉を開けっ放しにしながら高野は移動を促す。
相変わらず豊川は面倒臭そうだからか、動作が非常にゆっくりだった。香流は真反対である。
「あんたたち大会出るんだよね?」
ポケモンユーザーでない高畠の声だ。
彼女はポケモンとは縁もゆかりも無いため、恐らく観戦に来る程度の認識なのだろう。
もしかしたら高畠からしたら「たかがポケモンで……」とも思っているのかもしれない。
それを含む声色のようだった。
「あぁ。もう明後日だ。時間の流れって本当に早ぇよ」
「それで、これから何をしに?」
「豊川はさておき、お前のやる事は1つ。照合だ」
「なんだそれ」
ーーー
3人はそれぞれのポケモンに乗りながら最短ルートでドームシティへと向かう。
高野が3人いっぺんに乗れるほどの大きなポケモンを持っていなかったためである。
妨害電波を受けないために入口手前で降りる事を頭に入れながら。
「つまり、俺達の持つ番号を照らし合わせて早めにエントリーするって事でいいのか?」
「まぁその通りだな。お前らも出来ることならば早めに1回1回のバトル進めたいだろ」
10分するかしないかの時間で"桜ヶ丘いろは坂"の標識が目に映る。
ポケモンから降りた後はひたすら徒歩であった。
きつめの坂を登り、その先のエレベーターに乗って暫く待つといつか見た現代的な聖塔と開けた大地が見えてくる。
「いつ見てもすげぇなこれ」
「いいから行くぞ。2人共本来は昼休みの後に講義あるんだろ?」
「いや、こっちは無いよ」
「俺はあるけどサボるわ。面倒くせぇ」
対象的な2人の反応を見て高野は暫く悩んだ。
これなら急いで来なくてもよかったのでは?と。
「先にどっち行く?」
「荷物増やしたくなければドームでいいだろ。とにかく照合を先に済ませよう」
大貫の工房へ続く分かれ道の前で立ち止まった2人に対し高野は直線に進むよう提案すると何の意見も交わさずに無言で歩いてゆく。
香流も豊川もそうだが、このサークルのメンバーたちは自分からリーダーを名乗るような、自分以外の人たちを纏めて行動に移す人が少ないように感じてしまう。
彼らの口癖が「どっちでもいい」がその表れでもあった。
と、考えながら高野は前に進むとやはりと言うか、昨日も見た女がそこにはいた。
「やっほー」
「お前いつもいるよな?」
そのまま素通りしようとした所を左腕を掴まれて動きを止められる。
つられて豊川と香流も足を止めた。
「何だよ……」
「今日は照合しに来たのよね?やり方分からないでしょう?教えてあげるわ」
「いらねぇよ……って待て待て!こっちの言葉無視して歩き出すな腕離せっての!!」
半ば無理矢理に連れていかれる形で高野はドームへと入ってゆく。
香流と豊川は以前似たようなパターンを見たぞとでも言いたげな顔をしながらそれに続いていく。
人はそれなりに集まっていた。
運営側もそれを見越していたのか、人員を大量に動員して対応に当たっていた。
「そこのiの下の受付でいいのか?」
「えぇ。とりあえず待っていればすぐに番は回ってくるわ。照合にはほとんど時間は掛からないし」
「お前はもう済ませたのか?」
「えぇ。この通り」
メイはポケットから"412"と振られた紙の入ったプレートを見せてきた。
412番目の登録者と言うことだろうか。
彼女の言葉通り5分程度で順番が回ってきた。
香流と豊川もそれぞれ隣に立ち、目の前の係員にメールに届いた仮番号を見せている。
だが、1つ気になったのは、いつまで経っても高野に対し番号が振られたプレートが渡されない事だった。
目の前の係員は見せられた仮番号とパソコンの画面を交互に見ながら首を傾げている。
番号が3人で共通なのだろう。
その為、香流と豊川にもプレートは中々配られなかった。
「少々お待ちくださいね」
高野は目の前の係員に言われると仮番号が表示されたスマホを持ちながら、上司らしき男性を呼ぶと2人で画面とにらめっこを始めた。
少しすると、男性職員が指を差した。
その先はスタッフ専用と書かれた扉である。
受付の女性と男性職員が何やら一言二言話をした後そちらへ消えていく。
本来なら終わるはずの5分が経った頃、受付の女性がプレートを持ちながら「大変お待たせいたしました」と言いながら"それ"を渡してきた。
「では、こちらで以上です。お待たせして大変申し訳ございませんでした」
と最後に言いながら。
少し時間経ったよなと思いながら同じく照合を済ませてロビーで待機していた香流と豊川、そしてメイと合流する高野。
「なんかお前だけ遅くなかったか?」
などと豊川に言われながら頷き、高野は番号を皆に見せる。
そこでやっと違和感に気が付いた。
高野の持つ番号は"412"。
対して、香流と豊川は"438"。
全く違う番号であったのだ。
「あれ?」
「レン……お前おかしくね?」
そもそもな話。
この大会は団体戦であり、3人で申し込んだ時から仮番号は共通していた。
チームの振り分けなので本来であれば1つの団体で同じ番号であるはずである。
高野も受付でそう聞かされた。
しかし、実際に持った番号は高野だけ違っていた。
そもそもこの番号は……
「この番号……お前と同じじゃねぇかよ!」
高野は、小さく微笑んでいるメイに振り向き、睨んだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.329 )
- 日時: 2019/02/20 16:46
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「そーいえばそうねぇー。奇遇ねー」
「シラ切ってんじゃねぇよテメェ何か仕組んでんだろどういう事だ説明しろ!!」
鋭い眼光を向けながら高野は今にもメイの胸倉を掴もうと腕を伸ばす。
しかし、騒ぎを起こしたくはないと内心思っている香流が彼の腕を押さえることで止めた。
「説明も何も……私は本当に知らないわよ……でもあなたの言った通り仕組まれているのは事実ね」
「だァからそれを言えって言ってんだよ!元々お前は怪しい人間だったし……何かあっても適当にはぐらかして説明逃れしやがってよォ……テメェが知ってる事全部吐け!そしてこれを、この大会の裏を全部喋れ!!」
周りの状況を一切考えていないようだった。
広いロビーに高野の怒号が響く。
近くの人間が何人かこちらを眺めたが所詮はそれに留まるだけだ。
それでも黙るメイなので、彼女に向かってこれでもない程の敵意に満ちた怒りの表情を見せながら思い切り舌打ちをして、直接受付に文句を言おうと踵を返した時だ。
「みっともねェな。ギャーギャー騒いでんじゃねぇよ……」
騒ぎの一部始終を見ていた男が自らのプレートを持ちながらこちらに向かって歩いてきた。
季節柄着れば暑いであろう緑のジャケットを腰あたりに巻き、古い街並みが描かれたデザインの、簡素なシャツを着た男が。
「……?お前は?」
「まさか忘れたとか言うんじゃねぇだろうな?わざわざ時間稼ぎの為だけにお前に協力してやったこの俺をなぁ?」
忘れる訳がなかった。
事ある毎に姿を現した、嘗ての敵を。
素直になれずにいつまで経っても仲間になろうとしなかったその男を。
そして、彼が忘れるはずがなかった。
自分たちの友を救う為に乗り込んだアジトで戦った、嘗ての敵を。
香流という男が彼を忘れるはずがなかった。
「お前は……」
「なんだ、お前も居たのか。と、言うことは無事平穏とやらを取り戻せたってか?いいねぇ、一般人とやらは」
フェアリーテイルのルーク。
時には敵として戦い、時には共闘した仲間がそこに居た。
奇しくも、"412"の番号を携えながら。
ーーー
「待って。わけがわからない」
メイとルークを連れて高野とその仲間たちは近くにあった飲食店で昼食を摂っていた。
何故こんな運びになったのか自分でも理解が追いついていないようだ。
「これで分かったろ。オマエは深部から抜け出そうが何だろうがマークされている。どんなに叫ぼうが抗議しようが無駄だ」
ルークは紅茶を飲みながらそんな事を言っている。
その姿からは以前命のやり取りをしていたとはとても想像が付かないほど柔らかくなっていた。
「だからってこの仕打ちはねぇだろ……俺はこいつらと出たかったのに……」
「逆に考えるべきよ。あなたと一緒だったら2人の命も狙われていたかも。特にあなた」
と、言いながらメイはケーキを食べながらフォークで香流を指す。
「あなたはちょっとした危険人物よ。何故だか分かる?」
「はいはい。どーせあれだろ。イケメンだから」
「やかましいわ」
若干アウェーな豊川がそれでも笑いながらボケた高野に突っ込む。
当の香流は目を泳がせ始めた。
「ブッサイクな議会の連中がカッコいい香流に嫉妬してるだけだろ、はいはいつまらんつまらん」
「あなたを、ジェノサイドを倒した功績があるからよ」
メイはあまり面白くなかったのか、表情を一切変えずに高野のおふざけを無視して結論だけを述べる。
それでも、議会が一般人すべてを網羅している訳では無いと付け加えながら。
「大体、奴らの一般見解ではアルマゲドンと議会から逃げてた俺は名も知らない格下のランクの奴に不意打ちされたって話じゃなかったのかよ?」
「それでも知っている人は知っているわ。塩谷なんかは直で見ているし。ほとんど無いだろうけど、過激な思想を持った議員なんかはジェノサイドの代わりだと言って狙ってくるかもしれないわ」
「しつけぇな……奴らも」
自分のこれまでの行動で友が狙われている。
過去の自分に後悔しているのはこれで何度目だろうと思いながら高野はコーヒーを飲んだ。
「でも、ほら……レンと戦うって決めたのはこっちなんだし、結局はこっちの責任じゃん?」
最もらしい事を香流が言うも、高野は苦い顔をしながら「そういう事じゃ無いんだがな」と小さく返事する。
ところで、大会における団体は3人で1組である。
このままでは香流と豊川のチームは1人抜けた事になってしまうので2人は参加出来なくなる。
そんな懸念を豊川がメイに対して言ってみた。
「1人分空けておくよう掛け合ってみるわ。その間にあなたたちは友達の1人でも連れてくればいいわ」
「少しは巻き込んでんだから協力してやったらどうなんだ?」
高野は彼女の軽い発言に反発する。
「だから言ったじゃない。掛け合うって。明日までに連れて来てくれれば問題ないわ」
「そうじゃねぇ。アテがねぇから言ってんだろうが」
「あなた友達いないの?」
心に深く突き刺さる思いを覚えた気がした。
それは、高野だけでなく、豊川や香流も同様であった。
「やめろ……」
「それを言うな……」
案の定2人はわざとらしく頭を抱えながらそんな事を言っている。
高野はフォローするつもりで、
「そんなことはない。ただ、ポケモンをやっている奴が周りに居ないだけだ。居たとしても戦力にならない」
「友達が少ねぇ証拠じゃねぇか」
そんな事を言ってみるも、またしてもルークから鋭い刃物が突き刺さる。
「んーーー、それはどうにかするしか無いわね。こちらから用意してもいいけど、深部の人間と一緒なんて嫌じゃない?」
「それか大会に自体を諦めるかだな」
微かに覗いてしまった議会と深部の闇。
高野は巻き込まれたくない一心で2人にそう言うも、
「でも今更なぁ……」
「勿体ねぇよなぁ……」
嫌な顔をしつつも2人はそれでも抜けたいとは思ってはいないようだった。
むしろ2人は高野に同様の思いを抱く。
「俺か?俺は参加するよ。仕方ねぇし。それに久々に敵って奴を見つけた。……この大会に参加するフリして俺にとっての"敵"って奴を捩じ伏せてやる」
深部最強の名残を見せつつコーヒーを飲み干した。
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