二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.480 )
- 日時: 2020/04/01 20:38
- 名前: ガオケレナ (ID: ZsN0i3fl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野洋平とレイジは呆然と砂漠の真ん中で佇んでいた。
既に高野の友人である山背恒平と石井真姫の姿はおろか、キーシュも、彼の仲間の誰一人として此処には無かった。
「さて、と……。如何しますか?ジェノサイドさん?」
レイジは苦しそうに息を吐く高野を見やる。
暑さと疲労とこの戦いのせいで消耗しているようだ。
「お前は……辛くは無いんだな」
対して高野はレイジを見て驚いた。
汗を全くかいていないのだ。
気温は40度に差し掛かろうとしていると言うのに、彼は涼しい顔でそこに立っている。
もしかしたら着ている服が白作務衣であるからして通気性が良いからかもしれないが、だからといってそれだけでは無いはずだ。
「体質まで……変わっちまったようだな。あの時、銃で撃たれて死んだとは思ったが……九死に一生を得る過程で色々変わったみてぇだ」
「リーダーには内密にお願いしますね」
レイジという男は1度、死にかけている。
去年の秋、議員の杉山渡と戦った際に彼は銃で狙撃されて倒れている。
誰もが死んだと思っていた中、彼は別の戦いで復帰した。その服を乾燥した血で彩りながら。
「何かの胡散臭い番組で観たことがあるんだ……。死の淵に立った人間は、"あの世"に片足を突っ込んだせいで不思議な力を得るって。内容が霊視だけに全く信用出来なかったけどな。だが……」
「流石に霊視とまでは言いませんが……少なくとも暑さに悩む事は無くなりましたね。でもこれ、本当は危険なのでは?」
暑さや寒さを感じなくなる。
単なる体質の変化ではないのだろう。
「体の防衛機能が失われてんだからお前早死にするかもな」なんて冗談を言いたかった高野だったが、言えるような心境ではない。
「しかしどうするかな……キーシュはまた姿を消しちまったし、あの建物も何も無さそうだしな。一旦エシュロンの誰かと落ち合って情報の連絡をしてみるか?」
『ありがとうデッドライン。1度戻って来てくれると私も助かるわ』
無線機からルラ=アルバスの声が響く。
どうやらここでの高野とレイジの会話はすべて筒抜けのようだ。
最早突っ込むのも飽きた高野は、
「お前は何処にいるんだ?普通に飛行機呼ぶだけでいいんだろうな?」
『私は『予言者の回顧録』を手に入れられる場所に居るわ。でもだーれも居ない。相手も予想していたみたいね。そうね。落下地点を計算して今あなたたちが居る所をこちらから特定するわ。じきに乗ってきた飛行機が来るはずだから、ひとまずそれに乗ってちょうだい』
「つくづく恐ろしい事を平然と言ってのけるな……」
やや声のトーンを落として独り言のように呟くも、それに意味は成さない事を言い終えてから気付く。
空を見上げながら高野は適当に歩き始めた。
「待って下さい、ジェノサイドさん」
不意にレイジに呼ばれ、足を止める高野。
振り返った瞬間、耳に掛けていた無線機を彼に外されてしまう。
「ちょっ、お前何すんの!?」
特に怪我も無く痛みも無いのだが、両耳を押さえる高野。
相変わらずレイジの顔は涼しげだ。
「少し……お話があります」
そう言ってレイジは自分と高野の無線機を砂の上に放り投げる。
2人の両耳に掛ける合計4つの小さな機械は柔らかい音を立てて落ちた。
「無線機を外したって事は……聞かれたらマズい事か」
「えぇ……。先程ゼロットのキーシュが叫んでいた言葉……。それに違和感を覚えましたので」
無線機を付けている以上会話はすべて伝わる。
キーシュと交わしたものも、恐らく手元に向かったはずだ。
「私はすべてを知っている訳ではありません。知識としてはあなたと同等……若しくはそれ以下かもしれませんが、お話しておきましょう。アメリカ国家安全保障局……NSAについて」
ーーー
秀麗なシルエット。
風になびくマントを翻してメガシンカを果たしたエルレイドは駆けた。
身代わり状態のズルズキンへと。
「もう構わないわ……エルレイド!'インファイト'よっ!」
「こっちも迎え撃て!'きあいパンチ'だ」
互いが互いの拳に力を溜める。
エルレイドの乱打が、ズルズキンの渾身の一撃が、腕を交差しつつ当てられる。
身代わりに1、2発当てた所でエルレイドは身体が浮いた。
'きあいパンチ'の衝撃により吹っ飛んだのだ。
だがメガシンカした力はそこまで脆くはない。
地に足を付けて思い切りブレーキを掛ける。
4、5メートルほど滑ったエルレイドだったが、踏ん張ったお陰で飛ばされる事はなくなった。
攻撃の威力も上がったお陰か、その2発でズルズキンの身代わりも消える。
「クソがっ!普通に耐えやがって」
もしかしたらテウダという男はあまり相性というものを理解していないようだ。
その途端、ミナミの頭の中でのこの戦闘に対する難易度のイメージが急激に下がってゆく。
エンブオーとイクナートンが邪魔な敵を蹴散らしてくれているのも、相まって。
「なぁんだ。あまり本気にならなくてもいいのね!」
精神的な余裕を取り戻したミナミは叫ぶ。
もう一度拳を握れと。
エルレイドはそれに応じ、加速した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.481 )
- 日時: 2020/04/11 17:52
- 名前: ガオケレナ (ID: 0vtjcWjJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
全体重を乗せた足が土を蹴る。
ひとっ飛びするようにエルレイドはズルズキンとの差を縮めていく。
「くっ、走れ走れ!とにかく奴から離れろ」
テウダは叫ぶ。
出来るだけ自分の持ち駒は長く使っていきたいという思いが正直に現れている言葉だ。
ましてや、度重なる'インファイト'の連打のせいでこちらにもチャンスが残っている場合は特に。
防御面が脆くなったエルレイドに、'みがわり'の連続使用で後に引けなくなったズルズキン。
お互いが同様な状況に置かれている中で、
拳に厚い氷を形成したエルレイドが追いつき、
そして1発、その攻撃を放って吹っ飛ばした。
ーーー
「エドワード・スノーデン。このお名前を聞いたことは?」
「あぁ。あるぞ。忘れたけど」
この時点でレイジは確信した。
高野洋平という男は一切の情報を持ち合わせていないと。
あらかじめ"同様もしくはそれ以下"とまで知識に対する予防線を貼ってはおいたが故に、直後としてそれが嘘になる。しかし何も知らない人が相手では気付かないものである。
気楽になったレイジは声のトーンが自然と高くなっていく。
「2013年6月。この男は途轍もない秘密を暴露しました。国際的監視網についてです」
まだ高野洋平がジェノサイドと呼ばれ、最強の座に君臨していた頃。
世界では動きがあった。
『NSAはPRISMを通して、世界中のデータ通信を監視している』
ある日のこと。
1人の男性が香港にてインタビューの際に発した暴露だ。
「つまりアメリカは協力国の援助の元、全世界を対象とした情報収集……と言うより監視や傍受をしていた訳です。何より問題だったのはこの男性がNSAの元職員だった事なんです」
「そもそもNSAって何だっけか?……聞いたことあるんだがなぁ。ウェブサイトの名前だっけか」
「それはMSN」
この状況でふざけるなよと本当ならば言いたかったような顔をしてレイジは簡単に説明した。
人を使ったスパイ組織がCIA。
電子機器を使った組織がNSAと。
「エドワード・スノーデンが内部告発した事で初めて、PRISMの存在が明るみになりました。それまでは都市伝説扱いだったのですよ?」
「な、なぁ……複雑で何が言いたいのかよく分からないと言うか……結局お前は何が言いたいんだ?」
「単純なことです」
レイジはひたすらに戸惑う。
目の前の男は本当にジェノサイドという男であって、彼に説明しているのだろうかと。
初めて会った頃と比べると外見も変化しているせいもあった。
黒を基調とした赤みも混じったローブと異様につばの長い帽子を被っていた怪しさ全開の男は今、ワイシャツと黒のスラックスを履いて眼鏡を掛けた優男へと変貌している。
威厳が最早存在していなかったのだ。
「敵の言動に振り回されている訳ではありませんが……キーシュは言いました。"何故NSAと共に居るのかと"。そこから……いいですか?私なりにひとつ思い浮かぶものがありまして……」
エシュロンという組織は存在しない。
そこはキーシュは本当の事を言っていた。
エシュロンという"通信傍受施設"ならば存在する。
つまりは、
「エシュロンってのは偽りの名で、NSAの暗喩だってか……?」
「それだけではありません。キーシュたちゼロットをここまで追っているように、彼らエシュロン……ではなく、NSAは電子機器を用いて独自に捜査しているとしか思えないのですよねぇ?」
そこで更に現れる疑問。
ゼロットの目的とは?
本当にテロ紛いの行動をしている、もしくはしようとしているのか?
ギラティナという爆弾を抱えているからという理由で追っているだけなのか?
「キーシュという男はどうやら『予言者の回顧録』という書物を集めているそうですね?この本がどういった内容なのか私はまだ分からないのですが……果たしてこれがどうやってテロに結び付くのでしょうかね?」
「いやだってお前……。それはあれだろ?奴らは、外部に滅ぼされた先祖の恨みを晴らすために何かするってのが今回のこの騒ぎなんじゃねぇのか?」
「それだとまだしっくり来ますが……本当にそうだと決まった訳ではありませんよね?ゼロット側の人間が言った訳ではありませんよね?」
その通りだった。
高野が言ったこの言い分はエシュロン側の、イクナートンの台詞だ。
それが事実とは限らないと言われても高野もピンと来ないし、逆に疑い始めているレイジもピンと来ない節がある。
「じ、じゃあ……これからどうするってんだ?」
「どうにかしてゼロットの人間と接触しましょう。そこで、彼らの目的を吐かせるのです」
レイジは携帯を取り出す。
相手はミナミ。彼女に今何しているのかとメールを送るためだ。
「私の疑念が訴えているのです……。もしかすると、これ以上エシュロンと関わるのは危険なのかもしれないと。嫌な予感がして堪らないのですよ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.482 )
- 日時: 2020/04/11 19:21
- 名前: ガオケレナ (ID: 0vtjcWjJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ズルズキンは倒れた。
'れいとうパンチ'が炸裂する瞬間、インパクトの瞬間に再びズルッグに邪魔をされるも、エルレイドは華麗に無視をする。
そのため純粋に目の前の敵を倒す事が出来た。
「クソがっ……ふっざけやがってよォ!!」
テウダは次なる手を打つ。
ボールを握り締め、遥か前方に向け投げる。
そのポケモンが現れると、たちまちにして熱気が充満した。
ふんかポケモンのバクーダ。
その姿にミナミは小さく体を震わせた。
(この……タイミング!?キーシュの手下となると……メガシンカしてくるのかしら?)
ミナミは未だ地上には降りられない。
テウダの仲間がまだ残っており、各々銃器などで反撃しているからだ。
そんな中地上を彼女のエンブオーが蹂躙する。
敵地のド真ん中で'フレアドライブ'を放っては敵の戦力を大いに削いでゆく。
途中、テウダの元にも迫って来たが辛くも身を捻る事で避ける事が出来た。
「遠慮するな……バクーダ……。'ふんか'だっ!!!」
その叫びが合図となる。
"メガシンカするかもしれない"というミナミの予想は大きく裏切られる形となった。
こだわりスカーフ。
それを巻いたバクーダが、通常よりも速くなったはずのエルレイドをも上回る。
巨大な砲声に似た轟音を響かせながら。
大きな爆発がすべてを包んだ。
敵も味方も巻き込んだ文字通りの噴火が地上も上空も真っ黒な黒煙で埋め尽くされた。
ーーー
しばらくすると、行きの際に乗っていた飛行機が戻って来た。
砂に埋もれかかった無線機を拾い、耳に付け直す。
案の定ルラ=アルバスから連絡があった。
『そろそろ飛行機が戻って来る頃じゃないかしら?ひとまず乗って頂戴』
「乗ってどうするんだ?何処に迎えと?」
『私と合流して貰うわ。たった今回顧録のページを入手したわ。上手く行けばこれに引っ掛かってゼロットの面々が現れるかもしれないわね』
要するに自分たちは罠に掛かった敵を捕らえる為の猟師という事だ。
「あのー……私としてはですねぇ……?今すぐにでも仲間のミナミと会いたいのですがー……」
レイジが高野とルラ=アルバスの会話に紛れ込む。
その意図は当然、本音と建前とで別だ。
『ごめんなさいね。もう少し我慢してちょうだい。集団での行動である以上勝手な真似は許されないの。私の指示に従ってもらうわ』
「だと思った」
高野は用心そうに呟く。
ミナミが仮にゼロットの人間と戦い、接触しているとしたら。
何とかしてその戦闘に混じって相手を確保し、彼らの目的を聞く。
その目論見は潰えた。
「仕方ありませんね。次にシフトしましょう。彼女が『予言者の回顧録』を手にしたのならば内容の確認ついでに現れるであろう敵の相手をしましょう。まだ何とかカバーは出来ますよ」
「上手くいけば良いけどな」
2人は乗り心地が良いとはいえない飛行機に乗り込むと直後に離陸を始める。
「ところで……場所は?」
高野はルラ=アルバスからの傍聴と返答を前提に発した。
やはりと言うか、無線機から女性の声が聴こえてきた。
『サラーラのバザールよ。私もまだそこに居て、待っているから出来るだけ早く来て欲しいわ』
「サラーラだと?何処だそりゃ」
『オマーンの街よ。その場所からならば……そうねぇ。飛行機ならば1時間程度で着くはずよ』
自分たちは今サウジアラビアの砂漠の中に居たはずである。
ただでさえ初めての海の向こうの世界だと言うのに、更に国境を超える事になるとは此処に至るまで高野は予想の範疇をも超えられる。
「サウジだけで終わると思ってたわー……」
『もう少し地理や歴史を学びましょう?』
ルラ=アルバスの裏表の無さそうな優しい声。
だからこそ余計に不信感が募ってゆく。
レイジの"これ以上関わるのは危険"という警告の説得力がじわじわと彼の中で上昇していった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.483 )
- 日時: 2020/04/15 12:50
- 名前: ガオケレナ (ID: uwN5iK1I)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
重く、深い黒煙が徐々に晴れてゆく。
テウダは、自分以外の位置から物音が完全に閉まっていることを確認した。
やった。
終わらせた。
今の一撃で残りの仲間も巻き込んではしまったが、その大半が既にエンブオーに突撃されて動けなくなっている。
あまり危惧するほどのものでもないように思えたのだ。
しかし、状況が分からない。
テウダは何度かグルグルと歩き回ってはみるが、
(何も……ねぇな?空を飛んでいた女はどうした?銃を使っていたNSAの野郎は?エルレイドは?)
視界が見えない以上どんなに考えていても意味は為さない。
意を決して煙の中へ1歩踏み出そうとしたその時。
(なんだ……!?熱を、感じる……っ!?)
熱い何かがまるで1本の線になったように、それはテウダの頬をなぞった。
それは前方、黒煙の中からだ。
何かが来る。
必死に本能を働かせて察知し、テウダは逃げるように走り回る。
その予感は的中した。
今まさに、それまで立っていたところへ、'フレアドライブ'を纏ってまるでジェットのように噴射したエンブオーが飛び込んで来たからだ。
それはテウダの立っていた地点を超え、彼を無視するかの如く突き進み、その先のバクーダが待ち構えている方へと迫る。
果たして、エンブオーの攻撃はバクーダに突き刺さった。
しかし、幾ら特性の'すてみ'で威力が強化されとはいえ、ほのおタイプのポケモンにそれは効果はいまひとつだ。
「あっ……いや、違う、これは……!?」
途端に理解した。
今の攻撃はダメージを与えるためのものではなく、近付く為のものだったと。
既にテウダは走り回ったせいでバクーダとの距離が離れてしまっている。
ここから叫んでも命令が届く保証がない。
踵を返すように足の向きを変えたところへ、
エンブオーの'じしん'が、地を揺らした強い振動の攻撃が始まった。
「クソったれ!!噴火の直前に命令していやがったな!?」
揺れる大地に対して、身を守らんと足を止めてしまうテウダ。
見れば、'ふんか'の範囲を超えるために遥か上空へと逃げた影があった。
放たれる直前の、音で掻き消される前にあらかじめ命令したのだろう。
苛立ちが募り、思わず立ち尽くした彼の元へ、
場の空気の読めない1発の銃弾が彼の肩へと深々と当たった。
ミナミが地上に降りた頃にはもう煙は晴れていた。
完全に無音と化した世界で、ミナミとカイリューとエンブオー、そしてイクナートンが突っ立っている。
「終わったの?最後に銃声が1度だけ聞こえたけど」
「こちらが撃った……。早く奴を確保しろ」
木の影から、煤で顔が汚れ、腕を押さえながらヨロヨロと弱々しく歩きながらイクナートンが現れる。
「俺も敵から狙撃を受けた……怪我は大したことはねぇからどうでもいい……。とにかく奴だ。1発撃った。生死の確認をしろ。生きていたら捕まえて、死んでいたら報告だ」
「ウ、ウチにそれをやれって言うの!?」
「いいから黙ってやれ。無傷のお前がやるんだ」
ぜーぜーと苦しそうに息を吐くイクナートンは普段以上に目つきを鋭くさせてミナミを見つめる。
そこには、任務に対する彼女の動きの遅さや、このような結果になった事への恨みさえも抱いているかのようだ。
ミナミは倒れたテウダに近付いて、彼が初めて呼吸をしている事を発見する。
「生きているわ!」
「なら、手足を縛って連れて来い。このまま場所を変えて尋問する」
イクナートンは怪我のない方の手で携帯を操作する。
ヘリの要請なのだろう。
その数分後にここに来るために乗っていたヘリがやって来たからだ。
「乗れ。俺の怪我の治療も兼ねて奴から話を聞く。そのまま奴も乗せろ」
イクナートンに命令されたミナミは、手足を手錠で拘束され、余計に叫ばれないためにテープで口を塞がれたテウダを抱えながら、不満そうな嫌な顔を浮かべながら、見慣れた空を飛ぶ機械へと乗り込んだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.484 )
- 日時: 2020/04/18 10:16
- 名前: ガオケレナ (ID: PY11CXvD)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
特別行政区にあるその街は規模において、オマーンの中でも第2の都市であった。
その中でも最大を誇る市場にて、ルラ=アルバスは1人、椅子に座っては襲いかかってくる暇と格闘していた。
(遅いわねぇ……。そろそろ1時間経つのだけれど……)
流石に場所を伝えておけばよかったかと頭の中を過ぎらせるものの、連絡さえ来れば気軽に言えることである。
とにかく今は、ひたすらに戦うしかなかった。
「お姉さん、どうした?一緒に紅茶飲まない?」
それは、幾度となくやって来る。
「ごめんなさいねー。人を待っているの」
女性が1人で出歩いているのを好機とみた男たちによるナンパであった。
ルラ=アルバスは内心喜びさえするものの、かと言って相手にする訳にはいかない。
そう言って席を立ってバザール内をフラフラしながら先程の椅子に腰掛ける。
ずっとこれの繰り返しだ。
「本当だったら、此処も楽しみたかったのだけれどねぇ……」
ルラ=アルバスは立ち止まってはぐるっと見回した。
サラーラ中央スーク。
この街で1番広く、大きい露店が集う市場だ。
しかし、この市場は平均的なイメージとは若干違う。
一般的なバザールがやや狭い露天が連なり、通りに面するようなアーケードを形作っているものであるのに対し、こちらは、ひとつの空間内で露天が密集している。
店と店の仕切りも完全に遮断した壁ではなく、平均身長の男性がなんとか背伸びしてしまえば覗ける程度の低い壁しかない。
根本的なものは同じなのだが、魅せる色が違うのは確かなようだった。
ルラ=アルバスは一通り野菜売り場を見た後に先程ここで入手した巻物を歩きながら広げる。
『予言者の回顧録』その1ページである。
解読を試みようとするも、最初の1文字を見た後の2文字目で完全にその熱意は冷めてゆく。
(私の……知っている文字じゃない、わね?これは一体……)
謎の文字列を睨みつける事に意識が集中して、足が止まる。
往来が激しい歩道のド真ん中で立ち止まる彼女は周囲からの視線や注目を浴びる中、文字の配置の仕方や繰り返し使われている単語に注視しつつ規則性を探ろうとするも、やはり解決には至らない。
あまりにも熱心なせいでそれまで使われていた例の椅子が空いたことも、ついさっき絡まれた男性に再び声を掛けられた事にも気が付かない。
「ヘイヘイ!そこのお姉さん?」
「……」
「お姉さん?そこの綺麗なお姉さん!お茶でもどうかな?」
「後にしてくれるかしら?」
肩を叩かれて初めて自分に声が掛かったと理解はするも、意識は向かない。そちらに対して返事だけをする。
「あのー……お姉さん?」
「うるっさいわねぇ!!つまらないナンパなんかで私の時間を奪わないで頂戴!!」
遂にしつこい誘いにルラ=アルバスは文字通りブチ切れた。
そこら辺に居ても違和感のない茶褐色の肌をした男という印象しか持てなかったその男性は、笑いかけていたまま表情が固まり、あまりの剣幕に肩に触れた手もビクッと震える。
「お姉さん、お茶……」
「どおりで聴いた声だと思ったわ!さっきそこで突然話しかけてきた人よねぇ!?いいわ、そんなにお茶がお好きならこの巻物を読んでちょうだいよ!あなたにこれが読めるかしら!?」
バッ、とルラ=アルバスは男の前で巻物を両手で広げる。
他の歩行者に腕がぶつかるも、お互いが気にせずにやり過ごす。
「う、うーん?これは……?」
「はい、読めないわね!終了!さっさとあっちに行ってちょーだいっ!!」
「これは……コプト語だね?」
どうせ分からないと答えると分かっていた彼女は広げた紙をくるくると巻き戻し始めたとき。
それは、あまりにも早すぎるタイミングだった。
「えっ……?」
「コプト語だよ!イスラーム化される前までに使われていたエジプトの言語だね!」
まさか固有名詞が聞けるとは思わなかった。
ナンパの為にデタラメを言っている可能性も否定は出来なかったが、何故に目の前の男がそんなチョイスをしたのかが少し気になるのも事実だ。
「どうして、分かったの?」
「そんなの見て分かるからさ!」
彼女の機嫌も戻ったからか、男もそれまでのヘラヘラとしているおどけた態度を取り戻したかのように明るく話す。
「僕もこれは何度か見たことあるよ!何でだと思う?知りたい?知りたいよね??」
と、男は声を掛けられるまで彼女が座っていたテーブルと椅子を指す。いつの間にか椅子は2つに増えていた。
「そしたらさー……話そうよ。こちらで」
その瞬間、ルラ=アルバスの視界が、意識が暗く深く沈む感覚に襲われた。
ーーー
「ッッ!?あっ、あの野郎……」
ヘリの中で弾の取り除きをメディックから受けているイクナートンが突然呟いた。
その片手には端末が握られている。
「どうしたの?何かあったの?」
「ルラ=アルバスの位置情報が突然消えた。何者かに素性が知られて端末を外されたか!?……オイ、デッドラインッッ!!」
イクナートンは無線機越しに叫ぶ。
返事は少し遅れて来たものの、予想通り不満げだ。
「お前は今何処に居る……。無線のやり取りでお前がサラーラに向かっている事は知っているんだ。到着に1時間掛かるとして……その1時間だ。お前たちは何処に居る!?」
『さっきから指図ばっかうっぜえええええ!!!言われた通りサラーラだよ!サラーラ国際空港!!』
「なら、そのままサラーラ中央スークに行け。ルラ=アルバスがそこで行方不明になった」
『はぁっ!?アイツ何やって……』
言いたい事をすべて言い切ったイクナートンはそこで通話を切った。無意味なやり取りだと解したからだ。
彼は時折心配そうにこちらを見るミナミに対し、
「捕らえた奴はどうしてる?」
「すぐそこで寝てる。と言うより気絶?」
「丁度いい。奴の目を布で隠せ」
と、イクナートンは壁に掛けてあった白い布を掴み取っては彼女に手渡す。
体を起き上がらせたせいでメディックから「まだ終わってないですよ!」と注意されながら。
「これから尋問を始める。俺の言う通りに、お前がやれ」
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