二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.525 )
- 日時: 2020/07/18 13:52
- 名前: ガオケレナ (ID: 0.ix3Lt3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
少年とも青年ともいえる男は確かに虜になっていた。
学のない彼が、演奏されている曲が何なのかまでは知らないし、使われている楽器がヴァイオリンでなければ答えられなかっただろう。
音と音楽の違いすらも知らないし理解しようともしなかった。
しかし。
何も知らない人間であっても。
何も知らないからこそ。
予備知識なく、ただ純粋に音楽に感動する事が出来るのだ。
半開きの扉という狭すぎる入口を恨んだ。
出来ればもっとはっきりとその世界が見たい。
自分の目の前で聴いていたい。
だが、自分のような爪弾きをされた人間が忍び込めば、たとえ望んでいなくとも他者の世界は簡単に壊れてしまう。今までに何度もそんな光景を見てきた。
だから隙間からじっとして見ることしか出来なかった。
もしもその手の世界に詳しい人間がいたとするならば、例えば音楽の教師がその場に居れば仰天していた事だろう。
使用楽器はヴァイオリン。
奏でている曲はアルカンジェロ・コレッリの『ラ・フォリア』。
かなり難易度の高いものを、一人で悠々と奏でていく。それはまさに狂気だ。
不思議な音色だった。
緩やかに優しく包み込むような柔らかさを掻き立てる反面、"フォリア"の名の如く荒々しく騒がしい。
聴いていて心地よくなると共に不安を抱きそうな、何とも言えない思いを抱かせる。
うっとりと聴き惚れていたせいだろうか。
扉を押さえていた手に力が篭ってしまい、その意に反して徐々に、気付かぬままに二人の間に築かれていた境界線が消されていく。
「あっ、」
青年は体のバランスを崩し、音楽室へ倒れるように侵入してしまった。
異音に気が付いた少女はピタリと演奏を止めると、静かにゆっくりと振り向いた。
「だ、誰……?」
くっきりとした二重、大きな瞳。
その目は琥珀色に輝いていた。
外国の出で立ちを思わせるも、鼻はそこまで高くない。
まさに居るだけで浮きそうな、異質な姿だ。
追及されることを恐れた青年はそのまま走り去ろうとバタッと上履きから軽やかな音を発するも、
「ちょっと待ってよ。聴いていたんでしょ?いいよ!もう少し聴かせてあげる」
てっきり授業を抜けている事を厳しく言われるものかと思ったが、そういう訳ではないようだ。
見れば少女も同じ制服を着ているあたり、教師ではなく生徒のようだ。
つまり、彼女も授業を抜けている。
終始目を丸くしていた青年だったが、もうしばらくそこに留まることを決めた。
それが、始まりだったのだから。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.526 )
- 日時: 2020/07/20 22:20
- 名前: ガオケレナ (ID: InHnLhpT)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
Ep.2 隠したかった秘密
7日の早朝。
珍しく早起きできたルークは、涼しい風を浴びに部屋から外へ出た。
だが、予想以上に10月の朝というものは肌寒いものであり、これといって特にやる事がなければ屋内に戻るつもりであった。
彼は朝の日差しをゆっくりと浴びるような性格ではない。
そこに、保科萌花さえ居なければ。
「よう。お前も起きてたのか」
ルークは団地の敷地内にちょこんと設けられた公園内で、背伸びをし腕をうんと伸ばしながら日光浴をしている彼女を見つけ声を掛ける。
「おはようございます!本来は学校のある時間ですからねっ!」
その発言といい、彼女の身なりといい、ルークからすると怪しい点しか浮かんでこない。
なので、思い切って彼は尋ねた。
「昨日少し話をしたつもりだが……まだ分からねぇことがあるんだ。お前、学校は?」
「……」
一転して彼女の表情が曇った。
恐らく言いたくない事の一つ二つがあるのだろうが、ルークからすればスパイの可能性のある人間でもあるのだ。相手の心境などを気遣う余地は無い。
「行ってないんです。もう……何日も」
「それは何故だ?何かやましい事でもあったのか?」
「いえ……そんな事では……」
俯きながら否定はするも、嘘であることがバレバレだ。
こちらを見ようともしないし、人に聴かせる事を念頭に置いた声色でもない。
「大体なんだよその髪……。染めてんのかよ?それで注意とか受けねぇのかよ。戻せ、それくらい」
特に目がいくのが彼女の髪色だった。
光の加減によっては白や銀髪にも見えなくもない薄い橙色。
世間的に見ても珍しい色だ。
「あの……これ、信じてもらえないと思うんですけれど……地毛なんです」
「はあっ!?」
これも嘘なのだろうか、とルークはまたも疑った。
相変わらず目は逸らしっぱなしだが、だとしても嘘をつくメリットが無さそうにも見える。
いたずらに不信感が募るばかりだ。
「これのせいで何度も嫌がらせを受けました。学校からも注意を受けました……でも、事情を話したら特別に許してくれたんです」
「だとしても……かなり目立つだろ?」
「はい……」
ルークの過去にも似たような境遇の人間が居た。
あまりにも偶然が重なり過ぎて出来過ぎた話のようにも見えるし、気持ち悪くもなってくる。
「まぁいい」
これ以上プライベートな話は望めないとふんだルークは、
「昨日あの後にリーダーや仲間と少し話をした。……なんでも、探しものがあるんだってな?」
本題へと入った。
一瞬身構えたようにも見えた保科だったが、途端にハキハキとしだす。
「は、はいっ!人を探しているのでどうしても時間は掛かってしまう分迷惑をかけてしまって申し訳ないのですが……」
「ンな事はどうでもいい。問題は何処まで行って何をするかだ。それによっては仲間の動かし方も変わる」
「……と、言うと?」
「車で行くかそれ以外で行くかだ」
ルークの脳裏に、雨宮のスポーツカーがよぎる。
目的地にもよるが、彼の速い車ならば早く済ませそうでもあるし、人員も変わってくる。
だが、彼の中では早く終わらせたい。
その一心しかなかった。
ーーー
「つー訳で車出してくれ」
「嫌だよ。何で俺が……?」
朝食を食べに来ようと食堂に降りてきた雨宮にルークは頼み込むも、秒で拒否される。
「本当だったら組織の人間何人かで行きてぇよ?俺としても。だが、そうはいかねぇだろ。この組織も暇そうに見えて小競り合いかましてるんだし、それならお前の車に四人まで乗っけて戦える人間の最低限だけ確保しようってな」
「結局は都合のいい足が欲しいだけじゃねぇか……」
雨宮が本気で嫌そうな顔をするあたり、協力したいとは思っていない事が明白だ。
確かにルークにとっては便利な交通手段が欲しかったのはある。
だが。
「あー、分かった。じゃあ協力してくれたらサーキット連れてってやる」
「はぁ?」
「四人で行動する途中でも、終わった後でもいいからサーキットで走ってこいよ」
「ふっざけんなよ……だったら俺が勝手に行くわ」
「費用は全部出すぜ」
「なに?」
「それだけじゃねぇ……保科の探しもので費やした交通費……ガソリン代から高速代その他諸々……全部俺が出す。これでどうよ?」
甘い誘惑でしかない。
しかし、雨宮からすると、一切金の掛からない旅というのも悪くない。
自分は好きな運転だけしていればよいのだから。
「つまり……テメーは車走らせてろ、って言いてぇのか?」
「そうだな。自分以外に三人居て多少は重いだろうが……荷重移動を駆使出来るいい機会じゃねぇか?」
人間と荷物やパーツの類とは重さのベクトルが違うと反論した雨宮ではあったが、だとしても断る理由が無かったのも事実だ。
答えは最早決まっていた。
「ところで、四人って言ったな?お前と、俺と、保科とかいう女とあと一人は誰だ?」
「誰でもいいが……まぁ、リョウあたりかな」
珍しくルークにしては適当な返事が返ってきた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.527 )
- 日時: 2020/08/07 15:24
- 名前: ガオケレナ (ID: WZc7rJV3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「よし、行くぞ」
ルークは雨宮のスポーツカーの前でそう宣言し、リョウがこちらにやって来るのを確認すると自分が座るはずの助手席のシートを突然倒した。
見ると、後部座席に座る為の小さな通路が出来ている。
「あのー……ホントにオレが行くの?モルトでもよくない?」
「モルトは今頃大学だ。いくつになるか学年忘れちまったが、それを捨ててまで俺らと行動を共にする必要はねぇよ」
「オ……オレはいいってこと!?!?」
「オメーは常時暇してんだろうが……。退屈している位なら協力しろ」
「いいから乗るならさっさと乗ってくんね?要らぬ手間掛けさせんなー」
持ち主の雨宮の催促により、二人は乗り込む。
車はすぐにでも発車した。
「まずは何処へ行けばいい?」
ルークはシートベルトをしつつ後ろに座る保科に質問した。
保科は運転手である雨宮の真後ろに座っている。つまりは上座である訳だが、客人として持て成してのその位置なのか、そもそもそんなマナーを気にせずに適当に乗っただけなのか。恐らく後者なのだろうが、雨宮も保科本人も何も言わないので誰も気付いていないのだろう。
保科は少し考えたような顔をすると、
「あの……申し訳ないのですが、ちょっと学校までお願いしたくて……」
「学校?稜爛高校か」
「はい!」
ルークは彼女の返事を聴きつつ前を見た。
車は団地を抜けて街の方……やや大雑把だが聖蹟桜ヶ丘の方向へ進んでいる。
そこを更に進めば国立市へと繋がり、首都高へと入れば都心へと向かうのは容易だ。
「いきなり都市部か……走りにくいから面倒なんだがなぁ……」
「そう言うな雨宮。ナビにセットしておいたからその通りに進んでくれ。高速代は俺が出す」
「りょーかいっと」
何故初めに学校なのか。
様々な憶測がルークの頭の中でぐるぐると流れるも、直接問いただす事に抵抗感が生まれてしまう。それは自身の過去が少なからず関係しているのか、それとも彼女が難しい問題を抱えて居ることをどこかで察してしまうからなのか。
その理由を探す事すらもタブーのように思えてしまう。
開始七分ほどで車内は沈黙に支配された。
少しの隙間だけ生まれている運転席側の窓から入り込む、無駄に騒がしいエンジン音以外そこに音は無かった。
……はずだったが、
突然ルークの背後でポケモンがレベルアップした。
「は?」
「え?……。『は?』って、何に対しての『は?』なん?」
不意打ちを受けたような気分だった。
リョウが早速暇である事に苦痛を感じたのだろう。手持ちの3DSと"アルファサファイア"を起動し始めていたのだ。
「いや……リョウお前、今やるのか?」
「だって暇じゃね!?もえちゃんもいいよね?隣でポケモンやってても」
「え、えぇ。わたしは特に何とも……」
とは言ったものの内心うるささを感じていた。
狭い空間というのもあるが、リョウは最大に近い音量でゲームを始めている。
要するに全員が共通して「やかましい」という感情を抱いているのだ。
「保科、ところでお前は……」
だが、彼の勝手な行動はルークの中にも意外な変化を助長させる。
「ポケモンはやってないのか?」
「昔はよくやってましたよ!今は部活と勉強で忙しくてそれどころではなくて……」
「部活?」
もしや、と彼は微かな偶然性を見出した。
ここで彼女が"吹奏楽部"と答えたならば違った意味で見る目が変わったかもしれない。変に期待した彼だったが、
「はい。陸上部なんです。わたし……」
「あぁそう……」
「ポケモンは……中学上がって少しで終わっちゃいました。周りでポケモンやっている子は居るんですけどね〜」
ルークと雨宮は二人して表情を暗くさせる。
同じような軽いノリでリョウが相槌を打ってくれるのみだ。
「……お前さ。ロクにポケモンやってねぇんだろ?」
「……え」
「ド素人以下のお前は今俺たちと共にいる。それが何を意味するのか……。俺たちの元へ来た事自体にどんな意味があるのか……。考えた事はあるか?ねぇよな?」
「……」
表の世界に生きる人間が自分たちと同じ世界を渡る事。
その罪深さと重みを背負った上で、自覚したうえで生きていくこととなる。
そしてルークは知っている。
自覚が足らなかったせいで悲劇を迎えてしまった事例を、その目で見た事があるのだ。
「この車は学校へ向かっている。……その間まででいい。よく考えるんだ。まだ引き返せる、そのチャンスが残っているからな。何もお前も、これまでのすべてを失いたくはないだろう?」
中古ROMの持ち主を探すだけの旅に深部の人間を頼りにする必要はない。
このままでは要らぬ犠牲を払うことになるだけだ。
しかし、
「わたしはすべてを知り得た訳ではありませんが……でも言わせてください。もう、わたしには……失う物はありません」
「なんだと?」
ルークはどうしても分からなかった。
彼女がそこまで深部に拘る理由が。
そして、もしやとも思った。
果たして彼女の目的がそんなに安易なものなのかと。
幸いにも彼にもチャンスは巡って来た。
これから向かう学校に何かがあるとしたら、それは絶好の機会でもあるのだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.528 )
- 日時: 2020/08/09 20:12
- 名前: ガオケレナ (ID: ZZRB/2hW)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ほら、着いたんじゃねぇの?」
四人を乗せた群青色のスポーツカーは首都高に入っては途中のジャンクションを降り、都心部を悠々と走った末のこと。
いかにも、最近建てられましたと主張したがっている外観は真新しさを放ちつつ、また敷地内も整備が行き届いているようにも見える。
そんな、現代的でもありどこか近未来を感じさせるまさに"新しい"建物は四人を快くお出迎えしているのだが、
「どうやって入ればいい?」
「そのまま校門をくぐれ。門と校舎の間の広い通路の両端に車が幾つか停まっているはずだ。ここの教師共のものになる。少しぐらい借りたって文句はないはずだ。その内に……保科」
保科萌花は苗字を呼ばれ、顔を上げた。
ルークはそのまま続ける。
「保科。お前はその間に用事を済ませとけ。今の時刻は……十二時か。と、なると丁度お昼時か?」
「は、はい!そうですね……。今頃みんなお昼ご飯食べていると思います」
「よし。じゃあ手短に済ませてこい」
そう言うと、車が駐車されたタイミングを見てルークは扉を開け、自身が外へ出た。
保科を外に出す為でもあるが、自分も少し野暮用が出来た。その為だ。
「あれ……?ルーク、さん?車に乗らないんですか?」
「俺にも少し用事が出来た。まぁ、それについては歩きながら話そうや」
彼女が降りたのを見てルークは助手席のドアを閉め、そのまま校舎のある方へ歩き始めた。
「しっかし……懐かしいなぁ。この学校も」
「えっ!?来た事あるんですか?」
「俺はこの学校出身だ」
保科はこれでもかと言うほど驚く素振りを見せた。
此処は私立の高校。それに、授業料も高い事で評判の学校だ。
即ちそれは、お金持ちが通う学校という事となる。
しかし、保科にとってルークという男は、さほどお金を持っているようにも見えず、そして決して良いとは言えないような環境で育ったとしか思えなかったのだ。
本当にこの高校に通っていたのか、疑いたくもなる。
「お前に俺の情報を教えた、同好会の奴ら……。そいつらに用がある。何処に居る?」
「えっとですね……」
一体何をしでかそうと言うのか。
その手の情報を持ち合わせていない保科には想像すらも出来ない。
「放課後は空いている教室を……一年のクラスの教室に居るのですが今ですかぁ……。図書室かテラスに居ると思いますけど、」
「けど?なんだ?」
「ルークさんはどなたかご存知なのですか?多分この時間のテラスには普通の学生も大勢居ると思いますが……」
遂に昇降口が見えてきた。
途中、生徒らしきひとりの学生が二人とすれ違ったが、少しも変な顔をされなかったあたり警戒心は薄いようだ。
「大会時にジェノサイドの野郎と絡んでいる場面を見たことがある。顔さえ見つけてしまえば問題ない」
「……騒ぎだけはやめてくださいね?」
ルークは軽く睨んで立ち止まった。
その目は秘密を覗き込むような、裏を見ようとしている目だ。
「そんな風に見えるのか?」
「いえ……ただ、嫌な予感がしたので」
「うるせぇ。早く行け。どうせ俺より時間掛かるんだろうからよ」
二年ごときでは校舎の大きな配置は変わらない。
記憶を頼りにルークは三階のテラスへと、保科は自身のクラスの方へと進んで行った。
ーーー
広い廊下から直に繋がるテラス。
時間のせいかその扉は開いている。
六人は座れるだろうテーブルが四つほど確認出来た。
もしかしたらまだあったのかもしれないが、ルークの意識はそんなつまらないものに向くことはない。
途中で目当ての人物達を見つけたからだ。
確かに生徒たちには人気そうな空間だった。
明らかな定員オーバーであるにも関わらず、人で密集している。
座席を確保出来なかった生徒たちは各々何人かで固まってしゃがんで弁当を食べていたり、手すりを利用して立ち食いしている者までいる。
そこまでこの場所に拘る必要があるのかと何一つ理解出来ないルークは無言のまま彼らの座席へと近寄っていき。
「悪い、どいてくれ」
三人だけでは無駄に持て余すテーブル。
隣の空いたスペースに別の女子たちが数人で集まり談笑していたところを彼が割って入る。
ルークは目当ての男子生徒の隣に座っていた女子生徒の肩を掴んでは座席から引き剥がした。
「ちょっ……オメー何すんだよっ!!」
突然の出来事に戸惑い、怒り狂う女子ではあったがルークは知らんぷりを決め込み、呆然とこちらを見ている三人の顔をそれぞれ見定める。
「よう。何とか見つけて来たぜ……。俺は"赤い龍"のルーク。この名を知らないとは言わせないぜ?」
その自己紹介とも取れる言葉に、
「はぁ?」
隣に座っていた運動部にでも所属していそうな男子生徒は間抜けな声を発する。
唯一周りと違う反応を示していたのは彼から見て斜め左に座っていた女子生徒だ。
無表情を貫き、チラ見でルークの顔を確認すると
「知らないわね。あたしもう授業あるから」
そう言って彼女は食べ掛けの弁当箱に蓋をして席を離れようとする。
「まぁ待てよ。保科萌花。コイツの身柄を俺が保護している……。知ってんだろ?コイツの事」
その言葉に。
稜爛高校ポケモン部の相沢優梨香はピタリと立ち止まった。
「どうして……それを……?」
「奴はお前らから俺の情報を手にしたと言っているぜ?っつー事は俺の事も奴の事も知ってんだろ?」
「だとしたら……何が〜……目的なんですか……」
ルークの向かいに座る、気弱そうな男子生徒が俯きつつも呟いた。
その表情からは恐怖が隠し切れていないでいる。
「ん?まさかお前達を殺しに来た人間だとか思ってる?もしかして勘違いさせちまったか?悪ぃ悪ぃ」
「……あなたは」
相沢は改めて席に座った。
丁寧に弁当箱も開け直して。
「本当に……ジェノサイドさんの友人さんの……ルーク、さんですか?」
「奴の友人って印象が気に入らねぇな?俺は何度か見たぞ。お前らがジェノサイドとつるんでいる所をな。……まぁいいや。その通り。俺こそが大会時ジェノサイドの野郎とチームを組んで暴れてたルーク様本人だぜぇ?」
本気とも嘘とも取れるふざけた発言に、吉岡桔梗は一瞬だけこちらを見た。
自身の記憶と目の前の男の顔とを照らし合わせているのかもしれない。
「ご要件は?」
「保科萌花について教えろ。あいつがここの生徒だって事は知っている。だがそれ以外は何も知らない。何も言おうとしねぇんだ。奴がどんな生徒だったか……。どのようにして俺の情報を手にしたかその一切を話せ。それだけだ」
相沢は弁当を食べつつ必死に彼を分析しながら、そして目をこれでもかと合わせずにその要望に答えてみせる。
ーーー
保科萌花は先日まで日常の一部と化していた教室の前までやって来た。
今の自分の境遇も相まってそれまで当たり前だった世界が、目の前の教室の扉が恐怖でしかなく、非常に恐ろしい。
ほんのりと手が震えているようだった。
だが、二つある内の後ろにある扉だけが開いていたのを見ると、目当ての道具がロッカーにある事も相まってそちらへと駆けた。
そこはいつも通りの世界だった。
理不尽とか争いとか恐怖を知らない、平和で優しく甘い世界がそこにはあった。
二学期が始まって暫く経っている。
最早そこには一人で黙々と弁当を食べている者は一人もおらず、全員が全員何かしらのグループを作っては他愛もない会話を繰り広げている。
誰も自分の存在には気付いていないようだった。
足早に自分のロッカーの前まで来ると、パチンと音を立ててロッカーを開けた。
確かにあった。
この旅で必須とも言える彼女にとって重要な道具のすべてから、これまで使っていた勉強道具一式が。
それらすべてを手持ちのバッグに無理やりにでも詰め込もうとしているその時。
「おい、あれ……」
「保科じゃね?」
「まさか……保科の奴来たのかよ?」
「えっ……、今?」
その存在を完全に隠すことは出来なかった。
一変して平和だった世界は混沌と醜さで溢れた暗黒に包まれる。
ヒソヒソと耳打ちする声しかそこには無かった。
それまで友人だった者たちは彼女についてある事ない事一緒くたにして勝手に盛り上がっている。
恐らくだが彼らに害意はない。
だが、噂話という人の好奇心をくすぐる話題が突如現れては普段の生活の中では隠しているはずの負の側面、愚かな点が浮かび上がらずにはいられない。
その世界を誰よりも、何よりも嫌悪する保科はまたも無言で走り去った。
もう自分を守ってくれる世界はそこにしかない。
保科萌花は一目散にスポーツカーの停まっている方へと必死に走った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.529 )
- 日時: 2020/08/13 00:02
- 名前: ガオケレナ (ID: VTNklIIG)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
保科萌花が駐車場に辿り着いた時、心から安心した思いに浸ることが出来た。
群青色のスポーツカーは彼女を待っていてくれたからだった。
「やっぱりお前の方が遅かったな?」
ドアにもたれかかっていたルークは彼女がこちらにやって来るのを見るとドアを開ける。
助手席のシートは倒されたままだった。
それまでルークの後ろに座っていたリョウも隣に移動しており、乗り降りが大変スムーズな形になっているようだ。
「乗れよ。行くぞ」
特に引き止める様子を見せず、ルークが乗るのを見ると雨宮は無言で車を走らせた。
「次はどこへ?」
「えっと……南浦和まで……お願いします」
「今度は埼玉かよ」
ため息を重く吐いて雨宮は再び高速に乗るためそちらへと進める。
ここまでと同様に首都高経由で行くつもりのようだ。
「でも……なんでそんな所へ?ってか、覚悟の方は出来たんか?もう降ろさねぇぞ」
「待て雨宮。それについてはもういい」
稜爛高校ポケモン部の面々から聞いた話で彼女の一連の動きを知ったルークは、自分から脅かしておいてそのように遮った。
「あ?なんでだよルーク……。いいのか?一般人だぞ?」
「コイツは別だ。俺が許可する……保科」
ルークは真後ろに座る彼女に声を掛ける。
スマホを見ていたのだろうか俯いていた彼女は途端に顔を上げた。
「さっき野暮用と言ったが……。実はさっきまでポケモン部の三人とお前について話していた。何でお前が俺たちに近付いたのか、それまでに何が起きたのか……全部な」
「えっ……それじゃあ……」
「だが別に此処でそれを話すなんてふざけた真似はしない。そこでだ。俺たちがどんな存在か話しておこうと思ってな。もしかしたら少し知っているかもしれないが、悪いが聞いてくれるか」
保科萌花は隠し事をしている。
その事実があったとしても、深部という世界に棲む連中も同じように闇の部分を隠して尚日常を築いている。
そんな対比をさせたかったルークは自分たちが何者なのか。長い永い物語を語り始めた。
そんな、意味合いがあったのだ。
ーーー
「……そんな訳で、俺たちは自分たちの命を守る為に生きている。生半可な世界じゃねぇ。だが、奴らからお前の話を聞いて俺も決めたよ。目的を果たすまでお前の面倒を見てやる。だがいいか。この世界では簡単に人の命が消える。途中で誰かが死んでも決してビビるなよ」
「えっと……はい。分かり……ました」
少し話し過ぎたかもしれない。
たかだか普通の女子高生に、深部とはなにか、赤い龍とは、フェアリーテイルが何かなど話しても絶対に理解などしてくれないに決まっている。
それも、ポケモンの扱いがまるでない人間などに。
だが、それでも良かった。
お互い得体の知れない者同士というのは居心地も雰囲気も悪くなるものだ。無駄にストレスを抱えて気分も悪くなってゆく。それはいつか控えていてもおかしくない戦いにも影響されてしまう。
少なくとも、こうしてルークが自分の話をしてしまえば彼女にとって自分が得体の知れないなにかではなくなる。
そう思うと少しだけ気が楽になってきた。
一方的に喋っていたとはいえ、手短に纏めていたせいで車はまだそんなに進んではいないようだった。高速の真ん中だ。
さて、これからどうしようかと景色を見ながら考えていたルークだったが、
後部座席からルネシティのBGMが聞こえてきた。
「リョウお前……ブレねぇな」
「えっ?なにが?」
一般人相手に深部の存在を教えたという割と普通でない出来事が起きたあとであると言うのに、彼は終始ゲームに意識が向いている。そう言えば会話中もBGMが合いの手を挟んできたのを思い出す。
「あー!わたしコレ知ってます!小さい頃を思い出すなぁ」
「え?もえちゃん知ってんの?」
「小学生に上がる前とかちょくちょく遊んでました!」
オメガルビーやアルファサファイアは第三世代のリメイクである。
嘗て聞いた事のあるBGMが今の技術のアレンジも加わって復活しているのだ。
プレイしていた過去を持つ者ならば、そこに懐かしさを感じずにはいられない。
「懐かしいなぁ……あんな事もあったなぁ……」
保科は思い出す。
遠い過去の記憶を。まっさらだった時代の思い出を。
「おい、リョウ。今すぐ消せ」
だが、その光景にルークは懸念を示す。
彼女以外で唯一、本人の過去を知った人間なのだから。
「……へ?なんで?何を?」
「そのふざけたゲームをだよ!!今すぐ消すなり閉じるなり音消すなりしろォ!」
当然ながらリョウは彼が豹変しだした理由を知らない。
だが、穏やかな性格に変わりつつあったルークがここまで態度を露わにするのも今となっては珍しい。
そこに普通ではない何かを感じ取ったリョウが小さく謝っては3DSを閉じてリュックにしまった。
「どうした?敵でも居たか?こんな所に」
「奴らはこう言う音にも反応するからな。少しは警戒しとけってな」
そんな訳があるかと運転しながら雨宮は内心でルークをおちょくる。
南浦和まであと30分は掛かりそうだ。
ーーー
保科萌花は、鞄を開いた。
そこには、今まで学校に置きっぱなしにしていた資料集や勉強道具で詰まっていた。
それは、もう二度とあそこへは戻らないという強い覚悟の表れであり、ある種の諦めでもあった。
その中にシンプルでモダン調のステッカーが紛れていた。それも大量にだ。
一見すると、それはお洒落な雑貨屋にでも置いてありそうな売り物にも見えた。どこかの企業のロゴマークにも見えた。
だが、それはそのどちらでもない。
(これさえあれば……少し、変わるかもしれない……)
誰にも聞こえない声で呟くと、鞄の口を閉じた。
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