二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.260 )
- 日時: 2019/01/29 15:07
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
増えた人影たちは工場まで走り続け、その中に自分達の見知った人、即ちミナミがいると気づいた時は足を早めて無防備な入口へと入っていく。
そのせいで彼等のほぼ全員が息を切らしていた。
その中の一人が自分の名を叫んだ気がした。声でそれが佐野だと分かると、香流はホッとした表情を見せる。
「お仲間登場って訳か。ったく、見ていてウザってぇ……」
忌々しそうにルークは睨む。それに刺激されたのか、常磐がボールを一つ取り出した。
「おっと待ちな!!部外者どもよく聞け。俺は今コイツと命のやり取りをしている。もしもこれを邪魔しようってんなら一瞬にして目の前のオトモダチの首をはね飛ばす。こちとらテロリズムやってるジェノサイドなもんでな。そんじょそこらの奴等とは訳がちげぇーぞ?」
試しに安っぽい脅しをかけてみるが、
「今そんなバトルに何の意味があんだよ。俺達は今どうしても会わなきゃならねぇ奴がいるんだ」
流石に深部をこの目で見て死地をくぐり抜けた一般人は違った。
ただポケモンを振り回す人間とは明らかに違う反応だった。
ある程度予想していた事だったのでルークはゾクゾクと沸き起こる喜びを我慢しつつ、ならばと再び違うタイプの脅しをかけてみることにする。
「そのお前らが探してるオトモダチがどこにいるのかぐらい検討はつくだろ。そもそも何で俺が今ここで戦っている?敵対者であるコイツからリーダーを守る為だろうがぁ!!」
ビシィッ!!と力強く且つわざとらしく香流を人差し指で差す。
常磐たちはその言葉と共に、彼の後ろにひっそりと構えてある一つの扉に意識が集中した。
この工場にはまだ小部屋が一つある。
これまでのただ広いだけの土地を走り回り、その最終地点にこの建物が、さらにその奥の一つの扉。
恐らくここにいる全員の考えが一つになっただろう。
「'アイアンヘッド'」
冷たい香流の声がタイミングを破る形で放たれる。
ギルガルド姿が若干身軽そうな外見になると、頭を尖らせて突進してきた。
「おいおい……」
興味深そうな目で眺め、退屈そうに吐くとエルフーンは突如見たこともないような、まるでぬいぐるみのような姿に変身するとただポツーンと、ギルガルドが迫るのを待っているように佇む。
分かる人なら分かったはずだ。
エルフーンはその時'みがわり'を使用した。
ゲームでもおなじみの、同時期にポケモンセンターで販売していた「エルフーンの身代わりぬいぐるみ」と全く同じ姿に変化したのだ。
エルフーン本体がいきなり異空間へと飛ばされたのでどうなっているのかは全く分からないが、身代りが解ければ元に戻るだろう。
結局ギルガルドの攻撃は無防備なぬいぐるみへと当たるとすぐに消滅してしまう。
と、同時に本物のエルフーンが姿を現した。
「香流君のギルガルドは物理型なんだね?」
「あのさぁ松本……」
バトルの状況そっちのけで松本は佐野にふと生まれた疑問をぶつけてみた。
だが、それを指摘しても仕方ないので佐野もため息をつくと話に乗ることにした。
彼が慕われる所以である。
「そうだよ。香流君は幾つかの型を持っているけれど、その中でもあのギルガルドは物理型。それに'キングシールド'も覚えていない、完全な物理一本型だよ。レン君のは'キングシールド'も覚えている特殊型だね。二人ともギルガルド使うからたまに分かんなくなるか?」
「いや……香流君とは何度もバトルしたからそこは平気。ただの確認だよ」
「んだよ……。レンくんは稀にサザンドラとギルガルドを手持ちに加えたコンビ、所謂"サザンガルド"を使っているけれど、元々香流君のをパクったものだからね。香流君もよく言っているよ。ギルガルドのデザインが好きだって。それに加えてサザンドラとのコンビがカッコイイとか、ギルガルドの絵師がロックマンの人とか色々語ってたのをレン君も聞いていたみたいだ」
「ヘェ。このギルガルド、'キングシールド'覚えてないのか。じゃあもうバトルが終わるまでずっとブレードフォルムだな」
常磐の声だ。それが聴こえるとギクッッ!!と松本と佐野の肩が同じタイミングで震えた。
敵であるルークにバレてしまった。何だか物凄く重要そうなバトルなのに、自分達はとてつもない失敗をしてしまったんじゃないかと二人は大量に汗を流してしまう。
だが、「……別にいいっすよ……」と、何だか頼りなさそうではあるが香流もこう言っていたので恐らくは平気だろう。
それに、今の敵のポケモンはエルフーンである。
(相性が良い以上こっちに分がある……。最初に演出か何かで'ミストフィールド'を出した時にもしやとは思ったけど……とにかく好きな鋼タイプのポケモンを多めに持ってきてよかった……。こっちが'アイアンヘッド'を連打するのならば、相手は絶対に'アンコール'はしない……。'やどりぎのタネ'を打つ可能性もあるけど……その後に二発三発とこっちが攻撃すれば勝てる。かなり長めの試合になりそうだけど……この勝負、勝てる!!)
香流は互いが最後の一匹にしてこの状況を見た結果、強い思いを抱く。
ルークもその時に香流の目が変わったことから、何かしら察するものがあった。
(なるほどねぇ……勝負を決めにきたところか……。まァ俺としてもここまでやれたのなら上出来だしむしろここまで上手くやれるとは思わなかった。リーダーだったら泣いて喜んでんだろ)
フッ、とルークは軽く笑うと一言。
「'おきみやげ'」
その瞬間、エルフーンだけに留まらずその場にいた者すべての呼吸が一瞬、止まった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.261 )
- 日時: 2019/01/29 15:14
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ルークを除くすべての人間の目が文字通り点になった瞬間であった。
ここにいた人間は、今叫ばれた言葉の意味と理解ができずにいる。
今、この男は何と言った?
今、自分のポケモンに何と命令した?
バタッと顔を伏せて倒れるエルフーン。それを眺めて呆然とする香流と、一気に疲れを見せ始めたギルガルドの姿があるが、何故今自分達の視界にこんな世界が広がっているのかが分からない。
「はぁ!?!?」
と、耳が痛くなるほどに叫ぶ声もあった。その主はミナミ。
見かけ上味方であるはずのミナミは、ルークの行動が全く分からない。何の意図をもち、そしてここまでやって来たと思ったら突如乱入し出したのか。その理由が理解できない。
本当にただ暴れたかったなんてアホな理由などないはずだ。確実にこの男は何か思うものが、目的を持ってここに来たはずなのだから。
「あ、アンタねぇ!!!」
お淑やかそうなミナミの外見からは想像できない鬼のような顔をしながらこれでもかと怒鳴る。
特に、香流たちのこれまでのイメージを破壊した瞬間でもあった。
「あ……アンタっっ!!何の為にここまで来てしかも乱入して来たってのよ!!散々人を馬鹿にした癖に自分から負けるとかホントに馬鹿じゃないの!?」
'おきみやげ'と言う技は自身を犠牲にして相手のポケモンの攻撃と特攻を大幅に下げる技だ。
相手がギルガルドならばかなり有効な手段であっただろう。
しかし、互いに最後の一匹であったため、このタイミングで使うという事は自ら負けに行くのと同じ。
即ち降伏。
何故ルークほどの深部に精通した人間が一般人相手に負けに行ったのか。
そんな色々な思いが交差して余計にミナミは分からなくなる。
「決まってんだろ。勝ち目が無かったからだ」
「は……はぁ?」
「いや見ろよ。エルフーンとギルガルドで勝てるかっての。'みがわり'や'やどりぎのタネ'打っても追いつかねぇよ。いつか負ける」
「それだったらその時まで戦えばよかったじゃないの!」
「負けと分かっていて長く戦うのは嫌いだ」
いつまでもとぼけているようなルークに対し、ミナミはイラつきしか沸かない。他に何か言いたそうだったが拳を握って震えている辺り今度は言葉よりも先に鉄拳が飛んできそうだった。
それを自覚した上で黙りだしたのだろう。
「おい一般人」
勝敗の付き方にざわつく彼らだったが、勝ったらしいことは勝った。しかし、素直に喜べるはずもなくまるでひそひそ話をしているかのように香流は先輩らの集団にくっついて不平不満、疑問を投げている最中だった。
負けたにも関わらず完璧に下に見ている発言に、常磐が文句を垂れていたが、それが自分を指していると気づいた香流はルークに顔を向けた。
「アレ見ろよ。お前らが求めていたモンがそこにあるからよ」
ルークの親指の先には少し小さい扉があった。
ハッと何かを思い出したかのような顔をして、香流はゆっくりと歩き出す。
「そこに……レン君いんの?」
松本の言葉を合図に、彼らが一斉に振り向く。
「レンいるの?そこに」
「コソコソと最後まで隠れるとはアイツらしいじゃんかよ」
遂に高野に会える。彼らサークルのメンバーの期待に胸が膨らむ中、ルークは歩く香流に対し付け加えるように言う。
「その扉を開けた時、同時にお前は俺のこれまでの行動すべてを理解することになる」
どういう事かと扉の前で立ち止まり、彼の顔を伺った香流だったが、結局何も汲み取れなかったので手に力を込めて思い切り扉を開く。
ギ……と重く古い鉄のような音を響かせたその先に。
少し開けた小部屋があった。
そこの真ん中にはたった一つの古ぼけた椅子があり、
高野洋平が、黒と赤のローブを着たジェノサイドの格好をして深く座りながら静かにこちらを笑っていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.262 )
- 日時: 2019/01/29 15:24
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「レ……レン?」
顔には出なかったが、香流はとにかく高野に会えたことが嬉しかった。
その証拠に、足取りが少しずつ早くなっていっていく。
空間に限りがあったためはっきりとは見えなかったが、とにかくこの建物にいた全員にその姿が確認できたようだ。
「レン、無事だったんだね?大丈夫?」
早足となり、どんどん近づいていく香流に対し、高野は椅子から立ち上がってにっこりと笑いながら右手を差し出してきた。
その手はまるでやって来る香流を迎え入れているように見え、その純粋な笑顔はかつて彼が深部ともジェノサイドとも関係なかった、"ただの学生として"のかつての高野の笑顔のようだった。
彼らが期待と喜びを背負って高野に駆け寄ろうとすると、
高野洋平は跡形もなく消滅してしまう。
「……えっ、」
急ブレーキでもかけたようにいきなり止まった香流は高野が立っていた地点、今いる小部屋、その小部屋を含んでいるこの工場すべてに目を向けるも、彼の姿はどこにもなかった。
「はぁ?れ、レンは?レンはどこいった!?」
「え、まさかレン君……消えちゃった……?」
激しく狼狽しているのは吉川と佐野だ。何となく声で分かったのと高野関連でいつも動揺しているのがあの二人だったからだ。
「あっ、ちょっと……」
香流の突然の声に、ピタッとすべてが静まり返る。
どういう事か、何があったのか隙間から何人かが香流の背を覗き込むがよく分からない。
その代わり、香流の目には暗闇で蠢く小さな影があった。
「これは……」
それを見つけ、何やら掴んでいるようだが皆からは相変わらず彼の後ろ姿しか見えない。
痺れを切らした常磐がこっちに来いと言う。
その直後。振り返った香流の姿に文字通り全員が絶句した。
香流が両手で、まるで大事そうにゾロアを抱えに戻ってきたからだ。
「香流お前それ……」
「えぇ……。さっきのレンはレンじゃありませんでした……ダミーです」
一人壁に背中を預け、状況を見ていなかったルークがその話を聞くやいなや鼻で笑う。
「だから言ったろう?俺がここに来た意味が分かると」
「意味……?」
「あぁそうだ」
壁から身を離し、再び勝者を見つめる。その目は嗤っていたが。
「俺たち組織に一番大事なものはその組織のリーダーだ。俺たち深部のルールに『組織の長を死なせてはならない』なんて訳の分からないルールがあるからな」
「どういう事だよ。それにお前が関係あんのか?」
こっちの事情に一番詳しいと思えた常磐の声だ。単にすべてを知り尽くしていなかったのか、それとも発想力がないのか。どちらにせよルークは彼に失望した。
「大ありさ。今俺らジェノサイドは大変危険な状態にある。変な組織に喧嘩売られ、同時期に議会……まァ俺たちにとっての政府みたいなモンか?俺はそうは思いたくないがな。とにかく、今はこの二大勢力に追われている身だ。どっちかに捕まった時点で死ぬ。そんな状況で俺達が無傷でいられるにはただ一つ。この組織が存在していること。それに必要なのはリーダーの命って訳だ」
「いまいちピンとこねぇぞ。それにお前とレンのダミーに何の関係が……」
言っている途中で。
常磐は何かに気づいたのか、口を開けたままぼーっと突っ立っている。よく見ると身体が震えているのが分かった。
「……理解したようだな?」
「お、……俺の予想が正しければだが……」
口元が震え、うまく声に出すことができない。最初の方は声が裏返り、やけに甲高い声になってしまう。
「レ、レンは此処にはいない。となると、どこか遠くで一人隠れているんだ……お前は、いや……お前達はレンが逃げるための時間稼ぎをやった訳だな!?」
ルークは笑顔が止まらなかった。
人を騙し、予想通りにハメることが出来てしまう事に興奮を覚えるからだ。
特に相手が純粋な人間だと喜びも大きくなる。
「スゲェな。お前の思った通りだ。俺たちは紛れ込んだお前らを捕らえる為にここまで誘い込んだ……。そして奴が十分に逃げられるまでお前らを離さなかった。それも今果たしたと言える。もう奴は遠いどこかだろうな」
「レンは何処だよ」
「知らねぇよ。俺やここに居るジェノサイドの人間全員はアイツからここに来るようにとしか言われてないんだ。それ以降連絡もねぇよ。知りたきゃ自分で探しな」
「いいから答えろ!!レンはどこにいんだよ!!!」
遂に常磐は怒りを爆発させた。
彼はルークを強く鋭く睨み、拳を固めて怒りが滲み出ている足音を鳴らしながら歩いてゆく。
暴力沙汰に発展されては色々と面倒だ。あらかじめ予想していたのか、吉川と香流と佐野が常磐を押さえ、宥める。
「おめぇはコイツのこの態度に何とも思わねぇのかよ!!」
「思うよ。僕だってムカつく。でも、これはすべてレン君の考えだったんだ。敵は彼だけでなくレン君と考えるべきだよ」
クラスメートの落ち着いている言葉にリラックスしたのか、常磐は拳を緩め、ただ彼を睨むだけで終わる。
「ったくよぉ……」
つまらない映画を見た後の観客のようなため息をして後悔の念に駆られたような寂しい目つきで常磐を睨み返した後にルークは雰囲気を破って第一声を発する。
「大体俺はヤツの事なんか何も知らねぇよ。そこの女の方が詳しいってのに……何で俺ばっかに求めんだよ。おめぇがずーっと喋んねぇからか?あぁ?」
ルークはミナミの方に振り向いてその顔を伺うが、いつ来たのか定かでないレイジが彼女を庇う。
その光景を見て鼻で笑ったルークは仕方ねぇなと小さく呟く。
「俺はヤツの過去なんて知らねぇしヤツがどんな人間かってのも知らねぇ。ただアイツがどんな目的で深部に入り、今こうして何を思って活動しているのかと考えると場所までは分からねぇが何処へ行くかなんてのは想像できる」
「何が……言いてぇんだ」
常磐は佐野の肩を押しのけると彼らよりも一歩前へ出る。聞き取りにくかったのだろう。
「何が……ってアイツの行き先だよ」
ルークは窓に写る真っ白な月と真っ黒な夜空を眺める。アイツも同じ景色を見ているとかと思うとなんだが気持ち悪くなってきた。
「生命の危機に晒され、絶体絶命のどうしようもない状況におかれたとき人間は……、アイツならどうするか?過去を想うんじゃないかな?つまり、今ヤツがいるのはソイツの過去に関係する所……。アイツにとっての大事な所にポッツーンと突っ立ってるだろうな」
ミナミとレイジを含む彼らに笑いを向けた時、大急ぎで工場から出たと思ったら何やらガヤガヤ騒ぎ出した後各々空を飛ぶポケモンを取り出して夜空の闇へと消えていってしまう。
残されたミナミとレイジに一言も交わすことなくルークは下らなそうに舌打ちするとわざとらしく天井を見上げ、棒読みに近い声色でこう言い放った。
「あーあ。負けちまった」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.263 )
- 日時: 2019/01/29 20:36
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイド改め、高野洋平は一人誰も居ない夜の公園の芝生の上で夜空を眺めていた。
燃える基地から命からがら脱出したものの、これから先が不安でしかなかった。
アルマゲドンはいいとして、議会から逃げ切れるとは思っていないからだ。
「はぁ……面倒だ」
出来ればずっとこうして空を眺めて星でも見ていたい。心からそう思っていた高野はふと夜空から目を離して周りに目を凝らす。
ここは森に囲まれ、農業用のため池を作り、その上を大正時代の線路を復元した西洋風のレンガの橋が架かっている。
長池公園だ。
大学からも比較的近い場所に位置し、平日には子連れや犬の散歩をしにくる人などで賑わっている。当然今は誰もいないが。
森がすぐ隣にあるので時折野生動物の歩く足音や鳴き声も耳に入る。それくらい、静寂に包まれていた。
この公園は高野にとって大切な場所だった。
初めてメガストーンを手に入れたのも、レイジとミナミに会ったのも、学生としての自分が初めて友達に弱音を吐いたのも此処だったからだ。
だが、それだけの記憶であれば恐らく此処には来なかっただろう。もっと前に、偶然だが彼にとってもっと大切な出逢いがここにはあったのだから。
空が汚れていて星はあまり見えなかったが此処は綺麗だ、と高野は思う。
東京にあるのに自然にあふれ、世にも珍しい煉瓦橋が静かに自分を見つめているからだろうか。
この時期の水場は寒いが、彼はローブを着ているため特に寒さは感じられない。
そんな過ごしやすい環境に包まれていた。その様は一種の逃げだっただろう。
草を踏む動物の歩く音がまた聴こえた。
その音のなる方へ顔を向けるも、何も見えない。と、言うよりも不自然に感じた。
足音が森からではなく明らかに自分の方へ近づいているものだったからだ。
遂にその足音は彼に姿を見せた。
それは動物でも鳥でもない。
「ゾロア……?」
一目で自分が常に可愛がっているゾロアだと分かった。
何故なら、すぐさま胸に飛び込んだと思ったら彼が被っているつばが異様に大きい帽子の中へ入り込んだからだ。
頭に乗っかろうとする癖をこのゾロアは持っているからだ。
何事かと思う前に、既に何が今自分の目の前で起きているのか察するものがあった。
「レンならここにいると思ったよ」
聞き慣れた声だった。普段だったら何故か安心する友の声だが、今は不思議と緊張感しか感じられない。
平穏なテリトリーに踏み込まれたからだろうか。
「メンバーがいつもよりも少ないな。先輩は?」
座る高野の目には香流と石井、高畠がいる。確かに他の人達の姿が見当たらなかった。
「レンの居そうな所を片っ端から探しているよ。その為に分かれたんだ」
なるほど、と口に出さなかった高野は彼らから敵意を感じ取らなかったので寝そべろうとする。
頭の中でもぞもぞ動くゾロアを帽子の中から取り出す。
「そのゾロアはレンのだよ」
「知ってる。じゃなきゃ頭に乗っかろうとしねぇよ」
彼らの間に静寂が包む。
しばらくしたあと高野は沈黙を自ら破った。
「……あそこから逃げ切ったんだな」
「逃げたんじゃない。ちゃんと戦った」
香流がやけにはっきりと喋る。口下手な彼がここまで話したがるとなると本当は自慢したかったのだろう。
そんな彼の様子と、再奥の小部屋に用意させたゾロアをここまで連れてきたということは南平の基地で何が起こったのか想像がかなり難しかったが、そうせざるを得なかった。
「それで?ここまで来て何しようってんだよ。よく来れたね、おめでとうとか言われたいのか?」
「違う、レンと約束をしに来たんだ」
声のする方からカチャッと小さな金属音が響く。それくらい静かなのだ。
どういう訳か体を起こして香流を見る。
香流は自らのモンスターボールをポケットから取り出してそれを高野に向けていたのだ。
ただ事ではないと感じ取った高野は草まみれの服を叩いて立ち上がる。ポケットに入っているボールに指先が少し触れた。
「レン、みんなと約束してくれ。今からレンはこっちと戦って。レンが勝ったらもう好きにしてもいい」
いきなり何を言い出すんだコイツと面倒臭そうに香流を見つめる。しかし、彼の目は、声は本気だ。
「勝負は三対三のバトル。先に三体のポケモンを倒した方が勝ち」
「おいおい、俺が負けたらどうするってんだ?」
何故か告げていない、高野が負けたらどうするのか鋭く指摘する。暗くてよく見えなかったが多分この時香流の顔は一瞬曇った事だろう。
「レンが負けたら……もう二度と深部と関わらない……。そう約束するんだ」
その声に高野は目が覚めたかのような衝撃に襲われた。まさか自分の友達からこんな事を言われるなどと想像したことがあっただろうか。
「お前にしては珍しくジョークを言うんだな……。俺がどんな人間か分かるのか?俺はただの大学生にして深部最強の組織、ジェノサイドのリーダーだぜ?」
まるで小さな子供が気の利いた台詞を言った時のような親の顔をして高野は香流を、石井を、高畠を見つめる。
どこまで本気かは分からないが、とにかく香流本人からは覇気を感じる。戦いの予感がした。
草むらに放り投げられたゾロアは寒かったのか、急いでジェノサイドの体を駆け巡り、再び帽子の中へと吸い込まれる。
ふぅ、と高野は肩の力を抜きながら息を吐く。
相手が戦う意志を示している以上拒否することも逃げることも許されない。
何故なら、高野はジェノサイドでもあるからだ。
戦わない理由などない。
冬の闇と静寂に包まれた平和な空間で、二人は遂に拳を交える。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.264 )
- 日時: 2019/01/30 09:59
- 名前: ガオケレナ (ID: QXFjKdBF)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
香流はゲッコウガを、高野はロトムを、それも、水タイプが付いているウォッシュロトムをそれぞれ召喚する。
「ゲッコウガ」
「ゆけっ、ロトム」
放った直後にはロトムは電撃を飛ばし、それが一直線にゲッコウガへと突き進んでいく。
「ゲッコウガ、'れいとうビーム'!」
命令に呼応する形でゲッコウガの口から冷気が発射され、光線となったそれは電撃とぶつかりあい、打ち消された。
同時にゲッコウガのタイプが氷タイプとなり、以前よりもロトムに対して耐性を持つ、見えにくい"逃げ"を見せてゆく。
(これならまだ戦えるけど……。こちらから出せる対抗策が……)
香流は悩みに悩みまくり、このポケモンの真の姿を見せつけることを決めた。
「'ダストシュート'」
直後、高野の顔が強張り、さらにゲッコウガの足下から大きな毒々しい塊が生み出されるとそれを蹴るようにしてロトムに思い切りぶつけてきた。
(ゲッコウガが'ダストシュート'!?こいつ、一体……)
高野は自身が持っているアルファサファイアの殿堂入りが済んでおらず、そのため、ゲーム内でチャンピオンになったその先に教え技があるという事を知ってはいなかった。
情報不足とも言うべきだが、一度作ったポケモンは再び育成しないという高野の変わった考えに沿っている行動パターンの表れでもある。
もし、これがなければポケモンの育成サイトのゲッコウガの欄にきちんと「教え技:ダストシュート」があったはずだからだ。
動きの鈍いロトムは上手く躱す事が難しそうであった。
巨大なエネルギー弾をその小さい身で思い切り受けてしまう。
ドンッ、という鈍い音がした。
吹き飛んだロトムは二度三度と地面をバウンドすると、芝生の上で引き摺られて倒れてしまう。
「教え技だよ。このゲッコウガは……」
「両刀型ってか。つくづく面白い型作るよな、お前」
序盤から攻める香流であり、ロトムに負けない自信はまずあった。言葉一つ一つの重みから何となく察する事ができる。
それに合わせると高野は序盤から攻められている身である。
にも関わらず笑っていた。
「ブツリ、ガタ……」
そのボソッと、不気味とも狂気とも思える不協和音のような高野の低い声が変に意識が向いてしまい、香流の耳に妙に残る。
「後悔する事だな。ソイツがもし、普通のゲッコウガだったら、となぁ?」
一瞬高野が何を言いたいのか分からなかった。
しかし、
何故か、
ゲッコウガから離れて芝生で横たわっていたはずのロトムだったのに。
そのゲッコウガの足下で倒れているのだ。
「ん?」
最初、ロトムは何らかの形で瞬間移動したのかと思った。
だがロトムにそんな力は本来は無い。だからこそ不自然だった。
しかし、そんな考えている途中に嫌な予感が駆け巡る。
普通のゲッコウガ。つまり特殊型のゲッコウガだったら、と。
もしや、と。
一つの答えが導き出される。
「まさかそのロトム………ッッ!!」
「……'カウンター'……」
命令の途中にゲッコウガは大きく吹き飛ばされ、池の上を飛び、風圧で水すらも飛び散らせ、池を挟んだ向こうに構えている橋を構成しているレンガ、即ち壁となった橋にぶち当たると、起き上がることはなくなった。
香流はゲッコウガと、高野と彼の前に立つロトム。に化けていたゾロアークを交互に見る。
その後は何かに気づいたかのようにゲッコウガの元へと走ろうとした。
「いいよ。あたしが行く」
香流を止めた高畠が手を差し出す。ゲッコウガのボールを渡せと言っているのだろう。
「ごめん。わざわざありがとう」
純粋な深部のポケモントレーナーとすれば命の次に大事なモンスターボールを絶対に人には渡さないだろうが、香流は何の抵抗もなく高畠に渡した。
高畠もボールを渡されてすぐに飛び出すように駆けてゆく。
「よくもまぁ、あんな事できるよなお前」
高野は二人のやり取りを見て呆れとも寂しさともとれる目をして言う。
「たとえ信頼できる人でも、大事なポケモンを他人に渡すなんて事俺にはできねぇや」
「でも、こっちと高畠は友達だから……」
「そうじゃねぇよ。もっと根本的にだな」
結局それ以降は何も言わずにバトルを続けろとでも無言の圧力をかけていく。
ゲッコウガをボールに入れ、戻ってきた高畠から香流は自分の相棒を受け取ると、すぐさま次のポケモンを戦場へと送る。
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