二次創作小説(新・総合)
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- ポケットモンスター REALIZE
- 日時: 2020/11/28 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
◆現在のあらすじ◆
ーこの物語に、主人公は存在しないー
夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険が今、始まる!!
第一章『深部世界編』
第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争』>>167-278
第二章『世界の真相編』
第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-
Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走>>536-
行間
>>518,>>525,>>535
~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。
四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。
そんな悪なる人間達<闇の集団>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。
分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。
はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。
【追記】
※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※
※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.450 )
- 日時: 2020/01/19 08:36
- 名前: ガオケレナ (ID: VbQtwKsC)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
靖国通りという最大にして点在する店舗数も最多の通り。
その真裏の細い道。
そこに、目当ての書店があった。
「黒薔薇堂……書店だと?」
高野はそのギャップに足が止まる思いだった。
今は平成27年である。
周りの土地、地形も現代的な建物や景色に沿っている。
しかし、此処だけは違っていた。
まるで、戦前の建物を彷彿とさせるようだ。
石造りの西洋風の外観で、扉は古い木で出来ているのか、上から塗り直している。
見た目のイメージのせいか、建物自体古く感じる。
何故ここまで存在感の大きい書店が表通りにないのかが不思議だった。
高野は妙に勘繰りつつも扉を開ける。
「うわっ……」
開けた瞬間、別世界が広がった。
濃い茶色の床の上に、縦に広い空間の中に天井まで届く本棚が奥まで続いていた。
無造作に本を積み、人1人が歩けるスペース程しかない周りの書店とは雰囲気も構え方もすべてが違う。
西洋ファンタジーにありがちな、魔法使いだとか古いメイド服を着ている司書が出てきそうなイメージを瞬間的に連想させた高野は、わざと鳴らすよう設計させているかのような見た目だけが古い木の床を踏みながら、臆しながらも目当ての本を探し始めた。
(水滸伝……だよな?本が多すぎて見つかんねぇよ……)
本棚の高さは4mと言ったところだろうか。
よくある書店にありがちな、ジャンル毎に仕切っていないせいでひとつひとつ時間を掛けて見ていくしかない。
流石に店内は暗いとは感じる程ではないので目を凝らせばどんなタイトルなのかは確認出来る。
「ごめんなさいね。待たせてしまって」
奥から女性の声が聞こえた。
「?」
高野は声がしたと思しき方向を見るも、そこには誰もいない。
と、思っていると真正面から床の音を響かせて女性が1人やって来る。
「いらっしゃいませ。何かお探し?」
見た目だけで理解した。
彼女は外国人であると。
日本人には見られない褐色肌をしていたからだ。
にも関わらず、日本語は堪能だった。日本人から見ても完璧に使いこなせている。
しかし、何処かで独特なイントネーションが見受けられた。
自分が嘗ては海の向こうで暮らしていた事を証明するかのように。
「あ、あぁ……。120回本の『水滸伝』を。ネットで調べたら文庫本でも出ているらしいんだけれど」
「えぇ。ちょっと待ってて」
客の対応と言うより友人同士の会話に近いやり取りだった。
高野はここでも、ある種のギャップを感じてしまう。
2分もしない内に彼女は戻って来た。
「これの事かしら?」
手渡されたのは、『水滸伝』の1巻。
訳者の名を見て、これが120回本だと理解出来た。
「おぉ。これだ。全巻ある?」
「勿論。買っていく?」
「頼む」
バタバタとした足音を聞いた後に袋を広げた音を聞いた。
どうやら奥にレジがあるらしく、高野はそちらへ向かう。
案の定、歩いた先に彼女がおり、8冊の本を紙袋に入れていた。
「凄いでしょう?全国から集めたのよ。ここの本は」
「図書館か何かと思ったくらいだよ。しかし……珍しいな。海外の方が都心で本屋を営んでいるなんて」
「趣味の戯れ……と言ったところかしら。はい」
と、紙袋の取っ手を笑顔でこちらに差し出した。
高野はそれを握りつつ、指定された8350円を表情を変えずに取り出す。
袋を掴み、背を向けようと瞬間だった。
「待って。……実は、他にも用があるんじゃない?」
呼び止められる。
「いや?特には何も無いが……」
「ごめんなさいね。実は私にはあるの」
「へっ?」
高野は不自然な空気を感じ取り、彼女の顔を見つめた。
「これを見てほしいの」
彼女は1枚の写真を取り出し、高野に見せる。
「彼を知っているかしら?」
「お前……いや、知らないな」
明らかにわざとらしい反応だった。
何故なら、出された写真に写っていた人間は彼には馴染みがあり過ぎたからだ。
「彼の名前はキーシュ。"ゼロット"という名前の過激派組織を束ねている人間よ」
砂漠の中に作られた街。
そこを背景に男が仲間と共に歩いている姿だった。
「知らない?」
「知らねぇな。過激派組織と繋がっている大学生とかヤバすぎだろ」
「では、これは?」
高野の気分は最悪だった。
まだ有るのかと。
いつまで地味な尋問紛いな事をされるのかと思うだけでも気が沈んでくる。
「これは、そんなキーシュと共に行動している……と思しき写真よ」
「えっ……はぁ?……いや、いやいやいや……ちょっと待てよ」
砂漠の中に伸びた1本の道路。
そこに、"彼ら"が写っていた。
1人はキーシュ。何かを指示しているようにも見える。
問題は彼と話をしている2人組にあった。
「彼らを知っているわね?」
「有り得ない……何で、こいつらが?」
「その上でもう一度尋ねるわ。この人を知っているわね?」
高野は睨むように彼女を捉える。
同時に強い怒りも生まれるが、それは彼女に向けても仕方が無かった。
「あなた……"デッドライン"よね?」
「俺を……ここまで呼んだと言うのか?」
見せられた写真。
そこに写っていたのは深部とは一切の関わりが無くて当然の人間たち。
石井真姫と山背恒平。
高野の在籍する大学の同級生にして、同じサークルに所属しているはずの明らかな"表側の世界"の住人だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.451 )
- 日時: 2020/01/19 20:12
- 名前: ガオケレナ (ID: DWh/R7Dl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「キーシュ・ベン=シャッダード。彼の本名よ」
「そんな事はどうでもいい。もう何が何だか意味が分からない……。一体コイツらは何をしている!?コイツらは何処だ?」
「それをあなたに調べてほしいの」
「はぁ?」
高野は思わず声を荒らげる。
自分の介入する余地などあるのだろうかと。
寧ろ、知人が巻き込まれているのだからどちらかと言うと被害者だ。
高野はその事を強く訴える。
「中々そう上手くは行かないわ。あなた、本当に自分が被害者だと思ってる?逆に加害者ではなくて?」
「……お前は何が言いたい」
「あなたにもある種の責任があると言いたいの。ゼロットと闘った際、あなたは勝敗を有耶無耶にしたまま彼の元を去っているわね?此処で、もしもあなたが再起不能までにキーシュを叩いておけば……少なくともこうはならなかったはずよ」
「あの時は……っっ!!」
高野は思い出す。
自身がゼロットと、キーシュと戦い、勝利した日の事を。
直後に自身の組織の基地が燃やされたと聞き、彼を放っておいて直ちに帰還した事を。
「あの時は……非常事態だった」
「理由になるかしら?当時は身内の問題で済んだのに、今となっては世界規模の危機にまで膨れ上がってしまった」
あの時。
基地には少ないながらも仲間が残っていた。
少しの間だけ彼らに任せ、自分はしっかりとゼロットと白黒付けていれば……と思いはしたものの、去年の話をされてもどうしようもない。
「俺に何をしろと言うんだ?」
その時、扉がゆっくりと開いた。
木製なせいかそれらしい音が響く。
その正体は香流と宮寺、そして吉川の3人だった。
それぞれに思うところがあるのだろう。
各々が考えに耽っているようだ。
「そうね……。1番望むのは、私たちと行動を共にして欲しい、と言ったところかしら」
「……私"たち"だと?」
高野は聞き逃さない。
自分を誘いこみ、深部の話をする辺り普通の人間では無い予感はしていたが、やはりそれは本当だった。
本の入った紙袋を香流に渡しながら高野は聴く。
「あっ、ごめんなさいね。自己紹介がまだだったわ。私は"エシュロン"という組織のルラ=アルバスよ。宜しく」
「エシュロン??ルラ……アルバス?」
全くと言っていいほど聞き覚えのない単語たち。
それのせいか高野の中で不信感が募ってゆく。
「まず、お前のそれは本名ではないな?」
「正解。私の組織は少し変わっていてね。身を守るためにそれぞれをコードネームで呼び合っているわ」
「それでお前は白い片翼の天使と言うわけか」
一体何処にそんな要素があるのか不思議で堪らない高野ではあったが、一々そんな事で突っ込んではいられない。
続けて彼女からの情報を待つ。
「キーシュ改め"武装組織ゼロット"は、新たな力を手に入れて怪しげな動きをしているわ。私含めあなたには、彼らの対処をして欲しいの」
「それで……場所は?写真を見るに日本には居なさそうだが……」
「サウジアラビア……もっと言うとルブアルハリ砂漠ね。そこに行ってもらうわ」
「嘘だろお前……」
予想以上のスケールだった。
まさか、こんな形で海外に行くとは思ってもみなかった。
彼の人生初の海外旅行がまさかの中東で、しかも世界最大と言われている砂漠になるとは、本人としても夢のような事実である。
ーーー
「知っていたのか?」
「実は……ある程度は」
黒薔薇堂書店を出た高野らは、帰る為に駅へと向かっていた。
その時の、高野の香流に対する問いだ。
「大会が終わって……1週間経つか経たないかって時にあの人が……こっちの家に来たんだ」
香流の家は和菓子屋である。
恐らくルラ=アルバスは客として来たのだろう。
高野は勝手にそう予想する。
「そしたら、例の写真を見せられて……。それから言われたんだ。レンを呼べってさ」
「俺を?じゃあ今日のここまでの流れは……」
「全部あの人が考えた事なんだ。レンにはその……申し訳ないとは思っているけれど、あの人がレンと話をしたがっていたし、その……何より……」
信じ難い事実に違いなかった。
まさか、1年の頃からの仲だった石井が、3年になって初めて知り合った同じゼミの山背と共に深部の組織に所属していたなどと。
それも、危険極まりないSランクの組織にだ。
「最初合成写真か何かだと思ったよ?……でも本当みたいなんだ。山背と石井は、何か大きな目的意識を持っている……っ!でなければ、あんな奴と手を組んだりしない!!」
嘗ては自分たちも彼と協力しようとしていた癖にと思った高野だったが、逆にそこを付け込まれたのだろう。
それは、香流だからこそ知っている風だった。
「キーシュと山背と石井……。特に石井は以前にキーシュと会った事もある。奴らと行動しているのもそれが一因って訳か」
「多分……。あぁ……、あの時あんな事しなきゃ良かったんだ……」
香流は酷く落ち込んでいるようだが、今更過去を悔やんでも仕方が無い。
「それらすべてを、俺が解決させればいいだけの話だ。直接エシュロンと現地に行って、2人から事情を聞き出す。ついでに連れ戻す。それでいいだろ」
神保町駅に到着した。
ここで、彼らとはお別れである。
家から直接自転車でやって来た香流は最後まで何度も謝りながら、その場を去って行った。
「さて、と。じゃあ俺らも帰るか」
大学のある方角へ向かう電車のホームへ行こうとした時だった。
「おい、待てよレン」
明らかな、敵意を含んだ喧嘩腰の声色。
それまで、あまり喋っていなかった吉川の声だ。
「お前さ……俺らに隠してる事あるだろ?」
その目は、その声は、正に憎い敵に対して放つものに相応しい姿だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.452 )
- 日時: 2020/01/21 16:10
- 名前: ガオケレナ (ID: ZH3Zd89o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「隠し事?」
それでも、高野は恍ける。
空気が、相手の気が一変しても尚。
「いいや?そんなモノは無いな?俺は正直がモットーさ」
「黙れよ」
ドスンと落ちるような吉川の声。
些細な事で気分を浮き沈みする事が多い彼だったが、こうも恐ろしさを振りまこうとしている姿を見たのは初めてかもしれない。
「調子に乗るのもいい加減にしろよ?デッドラインさんよぉ!?」
「……」
高野の顔から偽りの笑顔がフッと消えた。
遂に彼にも吉川の怒りに迎え撃つ準備がやって来てしまった。
「さっきの女から聞いたぞ全部!!……お前は、約束を……っ、香流との、『バトルに負けたら深部を辞める』っていう約束を破ったな?」
「吉川先輩……少し落ち着いた方が……街中ですよ?」
「落ち着いていられるかよクソが!!テメェのせいで……テメェが居たせいで何もかもが滅茶苦茶じゃねぇかよ!!」
最早反論も言い訳も、余地が無かった。
未だ平静を保っている宮寺の言葉を吉川は彼方へと消し去る。
こういう時は、ひたすら相手の言い分を聞くしかなかった。高野はそう悟る。
「テメェが深部だと……ジェノサイドだと言った日から全部狂っちまったじゃねぇか!戦わなくていい戦いに命を賭けるような流れが出来た時もあったし、香流は怪我するし、石井は目に付けられた挙句過激派の仲間入り!!そんな石井と仲良かった山背もお前の影響で同様にテロリストだよ!!どう責任取ってくれんだ?あぁ!?」
それは彼の正義感から来るものでは無かった。
奥底にあるのは1つの感情。
彼は、吉川裕也は石井真姫のことが好きだったのだ。
「俺はあいつと一緒になりたくて……好きだと伝えたくて奴や山背と同じゼミにも入った!!テメェが俺の居ない1年の頃に培ったサークル内での仲間意識と同様のものを、俺もあいつと近くなってみた!!その結果がコレだよ!何でなんの罪も無い石井が犯罪者にならなきゃならねぇんだ!!それもテメェがサークルに深部を持ち出したのがすべての原因じゃねぇかよ!!」
怒りが頂点に達した。
吉川はピカチュウの入ったボールを直接高野に投げ付ける。
顔に迫った硬いボールを腕で防ぐも、中までは防げない。
直後、尻尾を硬化させた攻撃が飛んできた。
「'アイアンテール'」
その尾は眼前、正に目の前だった。
高野の高い鼻に尻尾の先端が掠る。
血を見ることになるかもしれない。
しかし、そんな予想を高野自らが破る。
瞬間。
尻尾を掴まれたピカチュウは地面に叩き付けられた。
ゾロアークの'カウンター'だ。
どこからともなく現れたそのポケモンは、一瞬の内にピカチュウの動きを封じる。
「クッ……ピカチュウ……ッッ!」
「俺がすべての原因……?お前本気で言ってんのか?」
流れるような風が吹いた。
しかし、それはゾロアークの魅せる幻影である。
夕刻に差し掛かろうとする、夏もそろそろ過ぎる季節にそんな都合のいい風など吹くはずがないからだ。
「俺の知っている話と違うな?確かに深部の存在を知らしめたのは何を隠そうこの俺だ。……あの時、俺は強い覚悟を持ってこれまでやって来たにも関わらず、お前たちを見てきてそれが揺らいでしまった。それは事実だ」
昔の話になるが、
高野にも想い人が居た。
その人を守る為ならば、自分はどんな深い闇の世界に入っても構わない。
そんな思いでこれまでやって来た。
しかし、『traverer』という常に全員が笑顔でいられる平和で自由な世界に踏み入れてしまったせいで、その信念が崩れかけた。
自分は確かに罪を犯した。
しかし。
この世界に居られるという事は、そろそろ赦されてもいいのではないのだろうか?
身勝手極まりないが、これまで数多くの悲劇、苦しみを見てきた高野にとっては救いの手以外の何物でもない。
「俺はあろう事か、全員の前でネタばらししたさ。"俺はジェノサイドだ"ってな。だがお前らも餓鬼じゃねぇだろ……。自分に興味の無いもの、知ってはいけないもの、何より自身の命の危機に関わるものなんて、その時点で放っておけばいい話だろうが!……俺は知っているんだぞ?お前が先輩たちを唆すようにして言ったせいでここまで拗れる一因になった事をな!?」
例えば。
高野が深部の人間だとサークルの先輩たちに問題提起したのも、彼の深部での行動を逐一サークル内でチクったのも吉川本人だった。
高野がSランク組織ゼロットと戦うと知った時も。
『ゼロットに自分たちが協力してレンを負けさせる。それでレンを深部の世界から救おう』と提案したのも、歪んだ正義感から溢れた彼の考えだ。
つまり、追及している吉川にも原因は確かにあったのだ。
そして、それを知っているからこそ、今彼は怒りをぶちまけているにすぎない。
やり場の無い怒り、悲しみは更なる悲劇を生む。
それら負の感情は連鎖する。
事実を突きつけられ、思い切り叫んだ吉川はピカチュウに技を命令しつつ、自身も拳を握って駆け出した。
高野の元へ。
「うああああああっっっ!!レン……!!レンンンンンンンッッッッッ!!!」
「いい加減黙れ、ガキみたいに喚くなッ!」
しかし、彼の拳は届く事は無かった。
腕で押さえつけられていたピカチュウはその体勢のまま、ゾロアークに'10まんボルト'を放つ。
電撃に身を包まれ、確かにダメージを受けたゾロアークだったが、幾ら耐久が低いポケモンとはいえ、これだけで倒れるはずがない。
お返しにと'ナイトバースト'を放って吹き飛ばしたゾロアークは主を守る為にと、吉川に応じるように拳を固めて、そして放つ。
ポケモンと人間は基礎からして強さが違う。
結果として。
アスファルトの上で頬を腫らし、顔を腕で隠しながら泣く男の姿があった。
「うっ…………、ううっ、あっ……ちくしょう、ちくしょう!!……」
余りにもレベルの低い戦い。
深部の世界ではまず見られない甘い戦い。
しかし、決してそんな事は言わずに高野は吉川の元へ駆け寄り、腰を下ろした。
「お前の気持ちはよく分かる」
「分かって……たまる、かよ……っ、ううう……ぅぅ……」
その言葉は本心だった。
しかし、心の優しいはずのカビゴンはその意味を知らない。理解のしようがないのだ。
だからこそ、高野は高らかに宣言した。
「いいか。ヤツらは俺が必ず連れて帰る。ゼロットをぶっ潰して、石井と山背を必ず元の世界に連れ戻す。嘗ての、平和で豊かで自由なサークルの環境を戻してみせる。そこに2人を連れ戻してやる。……だからお前は、そこで寝ていろ」
それは、ある種の決別だった。
二度と優しい世界には戻れない。
サークルメンバー全員が揃って最後までの青春を楽しむ日々はやって来ない。もう存在しない。
高野洋平も、1年と2年の間に過ごした時間は再びやってくることは無い。
それを嫌でも痛感しつつも、何度も何度も否定したくなる本音を抑えつつも、闇に生きる道を選択する。
仲間を救う為に。
高野は、その足を止める事はしなかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.453 )
- 日時: 2020/01/26 17:57
- 名前: ガオケレナ (ID: DWh/R7Dl)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
日本から中継地で乗り継ぐこと約13時間。
リヤド。
そこは、文字通りの別世界だった。
「お、おぉ……」
高野洋平は正に言葉を失っていた。
自分の想像していた"国"とは全く違う景色が繰り広げられていたからだ。
現地時刻は夕方16時。
辺りはまだ明るかった。
「ちょ……っ、ちょっと待てよ?中東だよな?俺今海の向こうの国に居るんだよな!?」
「珍しくはしゃいでますねぇ〜。ジェノサイドさん?」
「ウチも海外は初めてだけれど……サウジアラビアって……」
今回、高野は仲間を連れて来ていた。
ジェノサイド改め『赤い龍』の面々である。
彼らには出発前日、つまりは、神保町にて騒動そのものを知ったその日に高野は真っ直ぐ基地へと戻ると仲間たちに報せた形となったのだ。
しかし、それは"普通の海外旅行"とは程遠いものだった。
「でも不思議ねぇ。中東の国って聞くと街中で銃声が聞こえるものだと思ってた」
「私も同様ですリーダー。テロが頻発してるものかと……」
「お前らの中東のイメージって驚く程に印象操作の賜物、って感じなんだな!?イラク戦争なんざとっくに終わっとるわ」
たとえ深部に身を落としていたとしても、そこ以外を切り取ってしまえば"普通の人間"なんだなと高野は不思議な感覚に陥る。
ミナミとレイジを見てそう感じた。
「サウジアラビアは平和な国だ。観光ビザが存在しないって言うそこらの国での当たり前がこの国には無いがな。その他にも、他国との違いを挙げればキリが無いが……」
キング・ハーリド国際空港を歩き回りながら、高野は見覚えのある顔を探そうと懸命にすれ違う人々の顔を見つめるも、上手くはいかなかった。
それもそのはず。
行き交う人々全員が外国人だからである。
顔や掘りからして日本人離れしている。恐らくその大半がアラブ人だろう。
むしろ、こちらを訝しんだ目で見られている。
(俺のような日本人顔なんてほとんどと言って見ないんだろうなぁ……。名目上"イスラム教徒の巡礼"って事になってるから尚更だ……)
そしてもう1つの理由。
女性は目以外黒い布でその顔を覆っているからだ。
誰が誰なのかも全く分からない。
ゆえに、この場所にルラ=アルバスが居てもその存在に全く気付かない。
此処は右も左も知らない異国の地。
何も出来なかった。
(勘弁してくれ……出来れば此処には長居したくないんだ……。ただでさえ怪しさMAXなのによ……)
高野が懸念する理由。
それは、この旅行の特異性にあった。
彼らは誰しもが"自分の"パスポートを所持していない。
つまり、不法入国だ。
手に持つそれは、偽造以外の何物でもない。
(確かにあの時、アイツはパスポートは要らないって言ってた……。って言うかそもそも時間が無くて準備が出来なかったからよぉ……。これから遭遇するアレも表沙汰にしたくない問題だしなぁ……。でも、だからって此処にずっとは居たくねーよ!!)
高野は頭を抱える思いだった。
いつまで広すぎる敷地内で彷徨っていればよいのかと。
どのようにして彼らと合流すればいいのか、そんな発想が思い付く余地が無い。
それほどまでに、知らない土地と言うのは不安で、恐怖そのものなのである。
傍から見れば家族かどうかも怪しい風にしか見えないミナミがやたらと喋る。
周りの目も気になる。
声を掛けられたら一巻の終わり。
そんな時だった。
「おい、お前……何処かで会ったか?」
プツン、と。
高野の中で命綱が切れる音がした。
当然、肩を叩かれ、話し掛けてきた男の人は見た事も無ければ会ったことも無く、全く知らない赤の他人であった。
ーーー
何度も家のチャイムが鳴った。
しかし、出る事は無い。
いや、出ようともしなかった。
時間は高野らが外国の空港で迷っている時から幾らか遡る。
吉川裕也は、既に明るくなっているにも関わらず、布団の上から起きようともしなかった。
タンクトップと短パンという格好で、未だ鳴く蝉の声を網戸越しに聞きながら仰向けに寝ていた。
右足に掛け布団が絡まっている。
どうやら、寝ている時に暑くて蹴飛ばしたようだ。
どれだけ無視しても、家のインターホンの嵐は止まない。
確か1階には母親が居たはずだ。
にも、関わらず出ない。
あんな事があった直後だ。
人前に出たいと思う気力など湧く訳がないのだ。
もうずっと、このまま寝そべっている間に時が流れてはすべてが終わって欲しい。
いっそこのまま、死んでしまいたい。
そんな気で居た吉川は、
「裕也ぁー。アンタいい加減起きなさい!チャイムくらい出なさいよー!」
と、言う母親の階層越しの言葉も右耳から入っては左耳を通り抜ける。
もはや、何かをする気力も起きなかった。
ぼーっとしていると再び母親の声がした。
「アンタにお客さんだよー。メイさんって女の子のー」
それまでの魂の抜けた思いが嘘のようだった。
がばっと起き上がると一目散に階段を駆け下りる。
玄関で見たその姿は。
「おっはよー!と言うよりこんにちはー!久しぶりね!」
大会期間中に何度も顔を合わせた、高野たちと普段一緒に居た少女、メイがどういう訳か自分の家に来ていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.454 )
- 日時: 2020/07/20 23:42
- 名前: ガオケレナ (ID: InHnLhpT)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「……えっ?ちょ、な、なんで……?」
吉川はただただ驚くのみであった。
何故、ほんの少しだけ絡んだ程度の人間の家が分かったのか。
何故に来ようと思ったのか。
"そういう事"にこれまで恵まれてこなかった吉川にとってはこの手のサプライズに憧れがあったため、内心としてはとても嬉しかったものがあったのだが。
「うん?どうして家の場所が分かったかって?あなたの在籍している神東大学の人だったり、あなたの友達だったり……とにかく人ずてに聞いていったからよ。ここまで辿り着くのに苦労したわ〜」
「どうしてそこまで……」
吉川には分からなかった。
メイと言えば、常に高野と行動していた人物である。
自分なんてモブでしかない。
にも、関わらず自らの手間と時間を惜しんで目の前にやって来たことなど、逆に理解に苦しんでしまう。
しかし、次の一言で彼の迷いは消え去った。
「ねぇ、今から遊びに行きましょう!海よ海!もう皆集まっているから……早く行こう!」
最早彼に、選択肢などなかった。
ーーー
遂に来てしまった。
終わりの時が。
治安当局に見つかり、身元も調べられ処罰される。
高野洋平はこれから起こるであろう地獄を見出しつつ、虚ろな目で呆然とするしかなかった。
自分に掛けられた声が日本語であったことにも気付くこともなく。
「おい……もしかしてお前じゃないのか?それらしい顔で話している言葉も日本語だったからお前とは思ったが……。符丁にも反応が無いな……。まったく、また探さなきゃならんのか」
レイジは見逃さなかった。
高野が手すりを掴みながら身を屈め、小さく独り言で「終わった……俺の人生終わった……」と、聞き飽きる程に繰り返し唱えている所を白人の男が日本語で彼に声を掛けていた場面を。
そして、"その言葉"を聞き逃さなかった。
「おや?あなたとはハンプトンズで会いましたよね?」
すかさずレイジが男に向かって語りかける。
まるで反射のような反応だった。
男が高野からレイジへと視線を切り替えて接近し始める。
対面した2人は、すべてを知ったような涼しい顔をして固い握手を交わした。
ーーー
即座に軽いシャワーと着替えを済ませた。
まだ暑さも残っている気温だと言うのに、メイはにこやかに待っていてくれていた。
「ごめん。お待たせ……。どこに行けばいいんだ?」
「湘南よ。西浜と東浜……どちらがいいかしら?っと、その前に移動よね。空を飛べるポケモンは持っているかな?」
と言いながらメイはムクホークを繰り出し、もう片方の手でぺリッパーのボールを握っていた。
「だ、大丈夫だ……。オオスバメ持ってるから」
吉川は『オメガルビー』の手持ちに、オオスバメが居ることを頭の片隅に置いていた。
瞬時に、ポケットの中にゲームと全く同じポケモンのボールが6個出現する。
吉川はその中から、オオスバメのボールを掴み、ポケットから引き抜いた。
「それじゃあ行こうか!折角の夏だもん。楽しもうよ!」
メイの言葉が合図となり2人は空へと飛び立った。
ーーー
高野は自分の身に降り掛かっている今の状況がイマイチ理解出来ていなかった。
彼を含むレイジとミナミは砂漠の横断も難なくこなすという広告で何度か見た事あるオフロード車に乗っている。
既に、街を離れて砂漠の中に敷かれた道路を延々と走っていた。
「そもそも……」
レイジが口を開く。
放心している高野を思っての発言らしかった。
「符丁の確認についてはジェノサイドさん本人が私たちに伝えてくれたじゃないですか?もしかして言っておきながら忘れていたんですか?」
「符丁……?確認……?」
高野は混乱している頭で記憶を頼りに探る。
まず、思い浮かんだのは神保町から帰って基地の中で2人に話した会話だ。
すると、泡が弾けるが如く次々に記憶が復活していく。
「……え、待てよ?もしかしてさっきのアレが合図だったの!?」
飛び上がるように驚いた高野は、自分に声を掛けてきた白人男性を見つめた。
金髪にして翠眼。やや筋肉質な体型をした、欧米人のイメージぴったりの男だ。
「……ジェノサイドさんが言ったんじゃないですか……。それらしい人に声を掛けられたら、"ハンプトンズで会った"と言えと。もしかして、他の事で頭いっぱいになってそれどころでは無かったのですか?」
ため息でも聞こえそうなレイジの声色。
だが、むしろ高野にとっては見知らぬ土地で冷静さを維持している事そのものに凄さを感じていた。
「とにかく、本人確認が取れて良かった。これからルラ=アルバスと合流する為に空軍基地へと向かう。そこでお前たちは指示があるまで待機するんだ」
「空軍基地?そんな所に俺たちが立ち入って大丈夫なのかよ?」
「俺たちエシュロンが既に許可を取っているから心配するな。だからと言ってそこのお嬢さんはアバヤを脱ごうとするなよ?」
エシュロンの男は、ミナミがさりげなく車内だから問題はないだろうと、顔を覆う黒い布を脱ごうとしたのを見逃さなかった。
特例中の特例とはいえ、"そういうものだけ"は何としてでも譲れないのだろう。
「暑いから脱ぎたいんだけどな〜」という彼女の不満が漏れるのも仕方がないのだが。
「これからどうするんだ?どう動くかとか、作戦のようなものはあるのか?そもそも、俺たちは何をどのようにしていればいいんだ」
「それに関しても基地に着いたらすべて伝える。それまでは待っていてくれ。じきに到着するさ。砂漠のど真ん中という訳ではないからな」
ふと窓を見れば砂利道の遥か彼方に砂の山が見えてきた。
普段砂漠と思い浮かべる姿そのものだ。
あの中で戦うと考えると、灼熱のような気温も相まって意識が遠のく。
だが、逆に石井と山背も此処に居る可能性を考えるとおざなりには出来ない。
本当に面倒な場面に出くわしてしまったと思うばかりであった。
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