二次創作小説(新・総合)

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ポケットモンスター REALIZE
日時: 2020/11/28 13:33
名前: ガオケレナ (ID: qiixeAEj)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

◆現在のあらすじ◆

ーこの物語ストーリーに、主人公は存在しないー

夏の大会で付いた傷も癒えた頃。
組織"赤い龍"に属していた青年ルークは過去の記憶に引き摺られながらも、仲間と共に日常生活を過ごしていた。
そんなある日、大会での映像を偶然見ていたという理由で知り得たとして一人の女子高校生が彼等の前に現れた。
「捜し物をしてほしい」という協力を求められたに過ぎないルークとその仲間たちだったが、次第に大きな陰謀に巻き込まれていき……。
大いなる冒険ジャーニーが今、始まる!!

第一章『深部世界ディープワールド編』

第一編『写し鏡争奪』>>1-13
第二編『戦乱と裏切りの果てに見えるシン世界』>>14-68
第三編『深部消滅のカウントダウン』>>69-166
第四編『世界終末戦争アルマゲドン>>167-278

第二章『世界プロジェクト真相リアライズ編』

第一編『真夏の祭典』>>279-446
第二編『真実と偽りの境界線』>>447-517
第三編『the Great Journey』>>518-

Ep.1 夢をたずねて >>519-524
Ep.2 隠したかった秘密>>526-534
Ep.3 追って追われての暴走カーチェイス>>536-

行間
>>518,>>525,>>535

~物語全体のあらすじ~
2010年9月。
ポケットモンスター ブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiは最早'誰もが持っていても当たり前'のアイテムと化した。
そんな中、ポケモンが現代の世界に出現する所謂'実体化'が見られ始めていた。
混乱するヒトと社会、確かにそこに存在する生命。
人々は突然、ポケモンとの共存を強いられることとなるのであった……。

四年後、2014年。
ポケモンとは居て当たり前、仕事やバトルのパートナーという存在して当然という世界へと様変わりしていった。
その裏で、ポケモンを闇の道具へと利用する意味でも同様に。

そんな悪なる人間達<ダーク集団サイド>を滅ぼすべく設立された、必要悪の集団<深部集団ディープサイド>に所属する'ジェノサイド'と呼ばれる青年は己の目的と謎を解明する為に今日も走る。

分かっている事は、実体化しているポケモンとは'WiFiを一度でも繋いだ'、'個々のトレーナーが持つゲームのデータとリンクしている'、即ち'ゲームデータの一部'の顕現だと言う事……。




はじめまして、ガオケレナです。
小説カキコ初利用の新参者でございます。
その為、他の方々とは違う行動等する場合があるかもしれないので、何か気になる点があった場合はお教えして下さると助かります。

【追記】

※※感想、コメントは誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願い致します。※※

※※2019年夏小説大会にて本作品が金賞を受賞しました。拙作ではありますが、応援ありがとうございます!!※※

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.375 )
日時: 2019/06/25 23:02
名前: ガオケレナ (ID: z5NfRYAW)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


歓声が発生しだした。
遅れてブザーが鳴り響いた。
高野洋平は戦えて満足した、とでも言いたげなロトムをボールに戻しながら前へ前へと歩く。

その先にいるのはケンゾウだ。

2010年。
世界にはまだ深部という概念が無く、ただひたすらにポケモンを悪用した輩に対する恐怖に怯えながら生きていた時代に出会った友。
奇妙な成り行きで仲間になり、次第に自身の右腕として互いに信頼し合っていた仲。

そんな彼とは組織ジェノサイドを解散した2014年12月から一切の交流を断っていた。
それがこの日になって改まった瞬間となったのだ。

互いの健闘を称えるための握手が今、交わされる。
観客の99%はこの行為の意味が分からないであろう。
にも関わらず、雰囲気とノリで楽しみたい観衆たちは大いに叫び、猛る。

そんな騒がしい世界の中で高野は真っ直ぐにケンゾウを見つめる。
日焼けしたような肌に坊主頭の見た目をここまで見たのは久しぶりにも感じてしまうほどだ。

「ありがとう。いい試合だったよ」

「それはこっちのセリフっす!……っあ〜あ。一瞬勝てる!と思ったんすけどね!」

言葉に感情が乗っているのか、手の力が次第に強くなる。
地味に痛い高野はそろそろ手を解いて戻ろうかと思ったがケンゾウがまだそれを許さない。

ずいっ、と不意にケンゾウが顔を近付けてきた。
高野の左耳に声がはっきりと聞こえる位置で、隠し事でも話すかのような調子でこそこそとケンゾウは話す。

「……例の件"それらしい"情報を見つけたっす。また後で連絡するっすよ」

「あぁ。わざわざ済まないな。これで奴も今まで通り無事に過ごせるだろう」

高野が軽く笑い、ケンゾウが手をパッと離す。
これで戻る事ができると思った高野だったが、

突然ケンゾウが思い切り高野を抱き締めはじめた。
太い腕から発せられる怪力により、背骨あたりからボキボキボキッッ!!と嫌な音がする。

「ちょーっと待ってくださいよぉぉ!!久しぶりに会えたんだから前見たくぎゅーってさせてくださいよぉ!!」

「ごふあぁぁっ!死ぬ……っ、死ぬから!ケンゾウっっ……」

確かに組織にいた頃は「リーダー軽いしスマートだから」なんて理由でよく抱き締められた気もするが、まさかここでやられるとは思っていなかったようで、久々に聞く骨のきしむ音に妙な不安を覚えてしまう。

「ケンゾウのやつ……見境なしだな」

「いいじゃないの?久々に会えて嬉しいんでしょ」

「勝負に負けて物理的に勝つつもりか……」

その光景を向こう側から見ていた同じチームのミナミ、ハヤテは懐かしさと恥ずかしさを覚えつつまだ戦いは終わっていないがために急かせるためにケンゾウの名を呼び叫ぶ。

遂に解放された高野は背中を擦りながら戻って来た。

「いってぇ……あいつの腕力更に上がってんじゃねぇのか?」

「あなたのお友達って面白いのばかりなのね?」

「……Sランク最強の組織が友情ごっこで維持されていると聞いて発狂する奴らが果たして何人いるかな?」

やっぱりコイツらは少しばかり捻くれている。
ここ最近普通の世界で生きて、かつての仲間とたった今接触した事で過去を思い出した高野はそうとしか思えない感情を生み出すに留まった。

見ると、メイがモンスターボールを幾つか持って外のバトルフィールドへと出ようとしているようだった。

「次、私でいいかしら?」

「悪い。ちょっと待ってくれ。俺が前の試合勝ったから引き続き俺は戦えるよな?」

「ん?勿論よ。負けるまでだったらいくらでも戦えるわよ」

「だったら、今度も俺に戦わせて欲しい」

高野の目には、遠くながらも、今にもフィールドに立とうとしているミナミの姿があった。

組織赤い龍のミナミ。
今となってはジェノサイド後継のトップである。

今まで戦ったことが無いが故の興味と仲間を束ね纏めていた者同士。
正しくどちらが最強かを決めるには売ってつけすぎる瞬間だった。

状況を限定的に察したメイは口元を緩ませる。

「いいわ。行きなさい。その代わり私が出ようと思っていたのだから勝たなきゃダメだからね?」

「おいおい……俺を誰だと思ってる?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.376 )
日時: 2019/06/30 16:28
名前: ガオケレナ (ID: gf8XCp7W)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


一言二言仲間と言葉を交わした後、高野洋平は再び戦場に立った。

その先にいるのは当然ミナミだ。

出会った当初は性別を隠すような格好をし、口数も少なく、しかし1度心を開けば気の強く負けず嫌いだった少女は今、ショートヘアは相変わらずだが若干伸びた、ある意味では少女らしい髪型をし、薄緑色のワンピースを着ている。
去年まででは考えられなかった光景だ。

「正直な話をするとね」

広いフィールドに騒がしい観客の声に掻き消されてその声はほとんど聴こえない。
だが、所々を捉えることは出来た。

「あんたとはもっと勝ち進んでから当たりたかったよ」

「本選で戦いたかった、ってか。こればっかりは仕方ねーだろ」

「ウチね……これまで大変だったんだよ?……どっかの誰かが無責任に組織ほっぽり出して行方不明になるもんだからウチが纏めるしかなくて……そんな中少なからず現れた敵とも戦って……それで、大会の準備もしなくならなくて。……本当にこの半年間大変だった」

彼女の言葉から何となくだが想像できた。
彼もまた組織を束ね、倒しても倒してもしつこく沸いてくる害虫のような敵を倒し、それを繰り返し……気付いたらもう5年の月日が流れていたからだ。

「だから……この戦い……。ウチがあんたに勝てば少しは報われるよね?これまでの苦労がっ!!」

そして、いつか自分もそんな台詞を言ってみたい。
ミナミの言葉を聴いて小さく笑った高野洋平はそう思いながら1つのボールを放り投げる。

ミナミもつられてモンスターボールを手前へと投げた。

それを見ていた大会実況のリッキーは、自身の合図を無視した流れに慌てふためき、

「おっ!?おおっとぉ!?!?試合開始だぁー?」

と、翻弄されたさまを伝えてしまう。

「さぁ、見せるわよ!!強くなった……ウチらを!」

そう言ったミナミの前には凛々しい姿のゴウカザルが現れる。

対する高野洋平が繰り出したポケモンはコジョンドだ。

「格闘タイプ同士のポケモン……!?リーダーは……ミナミさんが格闘タイプのポケモンを好んで使う事を知っていたはずだぞ!?ファイアローは使わないってのか!?」

「それは多分……気持ちの問題だと思う……」

始まり出した試合を眺めて狼狽えるのはケンゾウ。そして、それを制したのは隣に座っているハヤテだ。

「確かにリーダーはファイアローを持ってはいる。こだわりハチマキを持たせて'ブレイブバード'を使うだけのポケモンだったらミナミさんだろうが草タイプだろうがなんだろうが……とにかく簡単に倒せると思うよ?でも、そういうのを許せないんだと思う……。あくまでも対等なバトル。それを行いたいんじゃないかな?」

「大会でそのスタイルか……ミナミさん的にはやりやすそうだが……ちょっとばかし甘くねぇかな?」

「もしくは、ファイアロー無しで勝つ。リーダーは……きっとそれを伝えたいんだと思う。ジェノサイドのリーダーだった過去を踏まえて……"俺とお前には大きな差がある"……なんて事は無いか、流石に」

ハヤテとケンゾウが確証も無い推測をしている内に、ゴウカザルとコジョンドの両者が同時に動く。
そして、互いに"全く同じ動作"をしようとしていた。

"似ている"のではなく"同じ"動き。
それに目を奪われはするが、どこか気持ちの悪い。
妙な感情を生む光景だ。

全く同じ動きの正体、それは、

「「'ねこだまし'」」

高野の声がやや遅れて2人は命令を送る。

ポケモンバトルにおいて重要なのは技を指示するタイミングである。
ポケモンがどんなに有用な技を覚えていようが、トレーナーが命令しなければポケモンは決して動かない。
高野のゾロアークという例外こそは存在するが。

1歩遅れたかのように見えたコジョンドだったが、それを自身の素早さがカバーする。

性格の問題で相手より速いコジョンドが、先に手を伸ばす。

しかし、俊敏性があり身軽なゴウカザルが身を捻りながらコジョンドの手を避ける。
本来ならば動きを止められる空間であった場所にゴウカザルは居ない。

しかし、技の命令を受けたのはゴウカザルがほんの少し早い。

つまり、

「相手のゴウカザルが……避けながら技を……!?」

「ゲームでは何をするか分からないなんて評されていたポケモンだったが……現実世界こっちではまた別の意味で何するか分からねぇな」

メイとルークはそのゴウカザルの動きに魅入られ、しかしゾッとしながら試合を見つめる。
本人たちは気付くことはなかったが、観ている立場でいながら熱くなっているようだ。

互いの'ねこだまし'は不発に終わった。
互いが互いの差し伸ばした掌同士がぶつかり合ったからだ。

互角。

誰もがそう思った。
そして、彼らの関係を知る者はこうも思った。

ミナミという赤い龍の人間は深部最強の人間と互角の強さを持っている、と。

「横に跳べ、コジョンド!」

高野は叫ぶ。
あのゴウカザルと常にくっついているのは危険。
これまでの経験と直感が悟った。

足場を使ってジャンプしたコジョンドは跳びすぎた影響でフィールドの壁に迫ろうとしている。
このままでは壁に当たり、相手に隙を与えてしまう。
しかし、そこで止まるトレーナーとポケモンではない。

「壁を利用して上に跳ぶんだ!」

ひとたびジャンプしたコジョンドは、その命令に答えるためにその言葉通り壁に足を当てると力を込め、その反動で何メートルも上に跳んだ。

そのアクロバティックな動きに観客達の首がつられて動き、そして誰もがその目を丸くする。

そして理解した。

コジョンドが、ゴウカザルの真上に移動した事に。

「さぁ、ブチ当てろ。'とびひざげり'!!」

動きの早いゴウカザルには打つのを躊躇する技。
しかし、それは正面からで且つ正攻法のやり方に留まること。

少し工夫して動けば無くなる不安などザラにあるのだ。

ガンっ、と音を立ててコジョンドの蹴りが命中し、ゴウカザルは地面に叩きつけられる。

成功した。

そして勝利に1歩近付いた。
それを見て勝ち誇って笑みを浮かべた高野。

「まだだよ」

ミナミの声が突き刺さる。

見ると、ゴウカザルが頬を拭いながら立ち上がった、その瞬間だった。
その間しゅるり、と布のようなものが落ちた。

きあいのタスキである。

「耐えたァァ!!確定1発の技を……ゴウカザルはきあいのタスキで見事に耐えたァァァ!!」

さも当然の事をこのDJは大袈裟に叫ぶ。
だが、場を高揚させるには十分のようであった。

スタジアムが余計に騒がしくなる。

「ゴウカザルに襷か。意外と普通なんだな」

「普通?果たして本当にそうかな?」

「なんだって?」

「"コレ"を見ても普通だって言える?」

直後。

ゴウカザルの体が燃えだした。
特性の'もうか'込みのせいかその炎の揺らめきが強く思えるのは恐らく気のせいではなかっただろう。

「待……て」

高野洋平は知っていた。
ゴウカザルはいたずらに自身の全身を燃やしているだけでは無いということに。

高野洋平は知っている。
その炎の性質を。その技の名前を。

「お前さっき……ゴウカザルが落とした道具を見たよな?……お前は、襷を持たせておきながらその技を覚えさせていたって言うのかよ!!」

'フレアドライブ'。

きあいのタスキという道具の性質上相性が合わない反動技。
それをこの女は、このタイミングで使おうとしている。

完全に油断した。そして後悔した。
ついさっきまで"普通"だという言葉を使って評したことに。

技を当てたせいで近い距離に立っていたコジョンドを、ゴウカザルは炎を身にまとって突進する。

吹き飛ばされ、壁にその体を打ち付けるコジョンド。
残り体力1の状態で反動技を使ったゴウカザル。

戦闘不能となり、倒れたその瞬間までも同時だった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.377 )
日時: 2019/07/07 14:50
名前: ガオケレナ (ID: VbQtwKsC)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


果たして、ここまでの戦いを予想した者がこの中にどれほど居ただろうか。

相打ち。

白熱した戦いに呑み込まれないはずがなかった。
誰もがその結末を見届けようと熱い眼差しを送っている。

「なんつーかさぁ……」

高野洋平はコジョンドのボールをポケットにしまい込んでからのんびりそうに、しかし面倒そうに言うと案の定ミナミは意識を向けたような目つきでこちらを見てきた。

「お前やっぱり変わったな?戦い方といい強さといい、性格といい……。お前には何か大きな"目的意識"を感じる。確かにジェノサイド解散は大きな出来事ではあったけどよぉ、お前に強い想いを抱かせる何かがあの日にあったのかよ?」

言いながら、高野はリザードンを繰り出す。
飛行用兼特殊技専門のリザードンとは違う、"もうひとつの"リザードンだ。

「あるに決まってるよ。決まってるじゃない!……ウチらがもっと強ければ……守れたんだもん」

「?それって、もしかして……」

「ウチがもっともっと強ければアルマゲドンとかゼロットとか!!杉山渡にも勝てたんだもん!守れる人だって……あんただって、あの組織だって……全部守れたのに!!……だから、決めたの。もし次会う時には……また皆で再会できた日には、もっともっと強くなって、それこそあんたよりも強くなってまた会おうって。皆で誓い合ってからウチはこの大会に参加したの」

まさか、と思った時が彼にもあった。
何処かに一定の勢力があったとして、彼等が"それ"を望んでいる可能性があったとしたら、と。

ほんの少しばかりだがその勢力とは今のミナミが束ねた集団じゃないか、とも嘗ては思ったことはあった。

それが今、彼女の台詞で確信した。

彼等は、ミナミは、組織ジェノサイドの復活を求めていると。

その為に抱いた彼女の強い意識。
そして、それは目的を成さない限り失う事はないだろう。それまでの強い圧迫感を高野はヒシヒシと受けている。

(と、言うことは……この勝負この俺が呆気なく負けたらある程度気持ちは揺らぐのか?)

意地悪そうに思い浮かべながら高野は今の仲間たちを横目に見る。
不安そうに見守るメイと、長期化してきている高野の独擅場に飽きてきたルークの冷たい眼差しがあるのみだ。

「余計な事は……考えない方がいいか」

高野はリザードンの持つ特別な石と、眼鏡に嵌め込んだキーストーンの光を交互に見る。

そして、眼鏡の蝶番部分に軽く手を触れた瞬間。

突如としてメガシンカが始まった。

明るく眩しいその体は、漆黒に染まる。
自由を象徴していそうな、空を思わせるかのような蒼も混ざり合ってゆく。

メガリザードンX。

最後の2体目に選択したメガシンカ。
その意味は、

「ここで終わらせる」

強く決心した眼差しで高野の目はミナミと、たった今彼女が召喚したエルレイドを睨んだ。

負けじとミナミの髪に留めてあるかんざしとエルレイドが輝く。
見慣れたと言うよりも数秒前に起きたそれを高野は再び観測することとなった。

「お前も……メガシンカかよ」

「正直ほっとしたよ。Yの方だったらどうしようかと」

鋭く伸びた刃と一体化した腕を振るい、マントのように伸びた体毛を風になびかせながらエルレイドは突如として駆け出した。

その腕に、サイコパワーをイメージさせるような仄かな紫色の発光を灯らせながら。

「'サイコカッター'のつもりか!?だったら飛べ、リザードン!」

主人の命令に頷いたリザードンは翼を軽くはためかせただけでその体は上昇していく。
直線上に刃を振るおうとしたエルレイドは、それまで足元だった位置まで走ると、飛んでゆくリザードンを呆然と眺めつつその足を止めた。

「と、思ったぁ!?」

瞬間。

エルレイドは土を蹴る。
リザードンの飛ぶ5mの位置まで、助走無しでジャンプしてしまう。

「なんだとぉ!?」

「簡単には逃がさないよ!お互い負けられないバトルだもんね!」

エルレイドに射程距離があるとしたら、それの課題はクリアしていた事だろう。
手を伸ばせば届く位置に、リザードンが居るのだから。

「さぁ、エルレイド……見せてあげなよ!ウチらの変わった実力を!!」

そして、高野はまたもや度肝を抜かれた。
彼女の発した命令に、その技に。

「'しねんのずつき'」

結果。

刃よりも威力の高い頭突きを至近距離から受けたことにより、リザードンは地へと叩き落とされ、周囲には土埃が舞った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.378 )
日時: 2019/07/17 17:36
名前: ガオケレナ (ID: 2A4ipe89)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「お前はいつの間に……」

高野洋平は汗を流しながら一点を見続けた。

エルレイドが存在している上空ではなく、地上に落とされたリザードンでもなく、ミナミを。

「エルレイドの主力技を'サイコカッター'から'しねんのずつき'にしたんだ?ゲームと違って威力に差異あれど、技ひとつにも利点がある。だからポケモンを強くする事を"極めようと"すると技の威力に目が行きがちだ。必ずしも正解ではないが……お前は何よりも手っ取り早い方法として"それ"を選んだ……」

「ひとつ間違い」

ミナミは高野の言葉を遮りつつ否定から入った。
彼の言葉には興味が無いということか。

「ウチが過去に'サイコカッター'を選んでいた事の理由なんて無いよ。単に覚えられたから。あんたとは違って物事を深く深く考えようとはしない。……それが違いだったのかな。でも、この戦いでウチが勝ったらその"違い"にも変化が出るよね!?」

スタッ、と爽やかな音がした。
エルレイドのその身体が地上のフィールドに着地した時に生じた音だった。

そのままリザードンの元へと駆けてゆく。
対するリザードンは何故か動けずにいるようだ。理由はひとつ。

「あの野郎のポケモン……怯んでやがる」

試合を静かに眺めていたルークが思わず発した言葉だ。
隣に座るメイも静かに頷く。

「奴も変わったな……。今までは一時いっときの感情や目先だけで動いていたはずの人間だったのに、いつの間にか1つのアクションであらゆる恩恵を得られるような動きをするようになっているな」

「今のジェノサイド……じゃなかったわ。赤い龍は思った以上に厄介な集団、という事かしらね」

拳に力を入れ、駆ける足を早めるエルレイド。
対してリザードンは苦しみ呻くことしか出来ないでいる。
高野はその様子を歯噛みしながら指をくわえて見守ることしか出来ない。

「クッ……ソっっ!!」

ミナミが'しねんのずつき'をチョイスした理由は威力だけでなかった。
このような追加効果に期待するためでもあるからだ。
そして、彼女の描いたシミュレーションが現実になろうとしている。

「'インファイト'」

ミナミの命令だ。
予め頭に叩き込まれていたからだろうか、エルレイドは命令と同時に技の動作を始めだした。

拳と脚からくる肉を乱打する音がドームに響く。
長く暫く続けて聴いていると不快感でも生まれそうな音は高野洋平を、彼の仲間の顔を引きつらせるには十分すぎるものだった。

これでもかと乱撃は続く。
まるでその時その瞬間だけ神が悪戯に時間の流れを遅くしているかのように。

その間、エルレイドはリザードンを殴り、消耗しているさまを表している顔を蹴り、アッパーをかまして重い体を宙に飛ばした後に思い切り蹴り飛ばす事でフィニッシュ。

……になる予定のはずだ。

「ミナミ……。お前のさっきの言葉だけど……。俺も全く同じ感情だったよ」

勝負を諦め、結果を受け入れる様子の高野の言葉……。

には聞こえなかった。

「俺も、お前とは本選で戦いたかったよ」

完全に晴れない中で暴れたせいで余計に砂埃が濃くなっているようだった。
観る側の人々からはリザードンがどのように伸びていて、エルレイドがどれほどの華麗な動きをしているのかがよく分からない。

だが、高野洋平は違う。

何故なら、

「すべて……想定通りだ」

ミナミが晴れつつある霧の中で見たのは、"蹴り飛ばされるはずの"リザードンが、エルレイドの細くしなやかな脚をガッチリと両腕で掴んでいたその時だった。

「え、……待って。まさか……」

「そのまさかだっ!!」

化けの皮が剥がれる。

メガリザードンXに化けていたゾロアークが周囲の空間を捻じ曲げているような演出で真の姿を現す。
その直後、エルレイドのバランスを崩さんと掴んでいた片足を放り投げるように離した。

'イリュージョン'に驚いているトレーナーとポケモン共々が見せた、体の動きを止める一瞬。

それを狙った'カウンター'が、ゾロアークの両腕に集中している倍加したエネルギーを纏った拳が今。

エルレイドに炸裂した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.379 )
日時: 2019/07/21 14:17
名前: ガオケレナ (ID: aOtFj/Nx)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


試合を眺めていたハヤテとケンゾウは戦慄した。
その光景、その現実が、嘗ての戦いをフラッシュバックさせたからだ。

「ケンゾウ……今の」

「あぁ……。まるでバルバロッサ戦のリーダーを見ているようだな。1度見たとは言っても、現実そのものを常に疑っていないと防ぎようがねぇ……」

エルレイドの爆撃をきあいのタスキで耐えたゾロアークは、己の拳という一点にそれまで受けた痛みを、エネルギーを集める。

結果。

自身の'インファイト'の倍のダメージを受けたエルレイドは綺麗に宙を舞った。

今目の前で何が起きたのか理解が追い付いていない観客と、本来の仕事を忘れて思わず見とれていた実況のリッキーらが作り上げた沈黙という空間の中で、ただ一人高野洋平だけが決着が着いた事を確認するとゾロアークをボールに戻そうとダークボールを取り出そうとした。その時だった。

「う、嘘よ……今のは何!?まさかアンタ……不正でもやったって言うの!?一体何が起きたのよ!!」

「待て待て。とりあえず落ち着け」

混乱し、若干のパニックを引き起こしたミナミは現状を理解できずにヒステリックに叫ぶ。
何が起きているのか脳の理解が追い付いていないのだ。

「落ち着けですって!?こんな時こんな所で……おかしな不正されて落ち着く方がおかしいわよ!大体アンタはなんで……」

「いいか、今から俺の言う言葉をゆっくりでいいから理解しろ。ゾロアークは……」

「そのゾロアークがリザードンに化けたところまではいいわよ!問題はなんで"きあいのタスキが発動しているのか"ってところよ!」

「だからさぁ……ゆっくり聞けっての。ゾロアークって何タイプだよ?」

彼の言葉に口が止まるミナミ。
そして、それから2、3秒ほど考えたのだろう。
黙り込み、沈黙すると何か大きな真実に気付いてしまったような驚愕に満ちた表情を見せると大急ぎでエルレイドをボールへ戻すと仲間の方へ走り去っていってしまった。

そこで観客の連中も全体を理解したのか、事の流れを見た結果か、大いに熱の篭った声を上げた。

「ええぇぇっ!?……と、試合しゅーりょーだぁぁぁ!!」

と、リッキーも素を出しつつその旨を告げた。

高野洋平は今度こそゾロアークを戻すとメイとルークのいる方へと歩いていく。

その背に、「よって勝者、412番チームっっ!!」という言葉を受けながら。


「お待たせ。これであと1戦で予選は終わりかな?」

「相変わらず心臓に悪いものばかり見せるわね?流石の私も騙されたわよ」

「まさかメガリザードンXに化けるだけでは飽き足らず……'しねんのずつき'を受けたフリ、もしくは幻影を見せるとはな……テメェが最強だと言われてた所以だとつくづく痛感させられる」

「……と、とにかくこれで彼の言う通り本選出場決定まであと1戦。しかもそれも予選最終日の今日中に決まるわ。大きな相手を倒したからって油断しないことね?」

「分かってるって。でも俺は少し休憩してぇ」

ーーー

交通機関や徒歩で40分以上かかる距離でも、ポケモンに乗って移動すれば10分もしない。

香流と佐野が会場に到着した時は丁度試合の終わりを告げる観客の大歓声が上がった時だった。

何事かと佐野が階段を駆け上がり、香流も遅れて彼に続くと、コートを遠く観客席から頭を出して見た。

高野洋平とミナミが互いにポケモンを戻したその瞬間だ。

「あれは……レン君?と、見た事のある顔だね?」

「終わった……のか。一体どっちが勝ったんだろ?」

仲間であるが故に高野の勝敗が気になる香流だが、これまでの交流もあってミナミのチームの結果も気になる。
その悩みは直後のリッキーの言葉で解消されたが。

「チーム番号412……。レンが勝ったのか」

「あれ?そう言えば大会が始まってそれなりに経つよね?これまだ予選……だよね?いつまでやるの?」

「予定では今日までです。レンがあと幾つ勝って予選突破かは分からないけれど……こっちのチームはあと1つで予選が終わります」

「へぇー!もうそんなところまで行ったんだ。それなら僕もきちんと情報を知っておくべきだったなぁ。レン君や香流君とも戦えたかもしれないのに〜……」

「その代わりこっちたちの戦いを観て楽しんでくださいよ!悔いのないバトルをするつもりなので!」

「なんて言うか……香流君コンタクト付けて見た目の印象も変わったけど言葉もカッコよくなったね?どうしたの?」


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