コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.56 )
- 日時: 2011/03/23 14:33
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
このビルは、一階から七階までが書店で、八階にはオフィスがある。
健人と雪見は、一階奥にあるオフィス直結のエレベーターに向かった。
気を付けなければならないのは、このエレベーターまでの間だ。
書店の一階部分は、大半が週刊誌雑誌コーナーが占めていて
みんな、立ち読みに余念がないのだが
気づかれるとまずいので、慎重に足早に、さっさと奥まで進む。
オフィス直結エレベーターにさえ乗り込んでしまえば、一安心。
八階までノンストップで、オフィスのあるフロアへ。
当麻からのメモを片手に、「HNK」という部屋のドアを開ける。
すぐのカウンターは無人で、呼び鈴が付いているので押してみた。
「なに?『HNK』って。『NHK』じゃなくて?」
雪見が小声で健人に質問する。
「『秘密の猫かふぇ』の頭文字だって。紛らわしいのが良いみたい。」
健人も小声で答える。
程なくして奥から、黒の執事服を着た初老の男性が出てきた。
二人とも、本物の執事らしき人に驚いた。
健人もドラマで執事役をやったことはあったが、
本物はまだ見たことがなかった。
二人の間に、少しの緊張感が走る。
「入会の申し込みに来た、斎藤健人です。」
「お待ちしておりました、斎藤様。
先ほど、三ツ橋様よりご連絡を頂いておりました。
三ツ橋様からの紹介状はお持ちですか?」
健人は、タクシーの中から当麻にメールをしていた。
当麻くん、お疲れです!
俺これからゆき姉と一緒
に、例の猫かふぇ行って
くるから!ゆき姉のお陰
で早くに仕事が終わった
んだも〜ん(^^)v
楽しみだけど、ドキドキ
です(^^ゞ
んじゃ、撮影頑張れよ!
またね。
by KENTO
このメールを見て、当麻が電話を入れておいてくれたかと思うと、
やっぱり当麻はいい奴だ!と、改めて親友を見直すのであった。
健人が当麻からの紹介状を差し出す。初老の執事がそれに目を通した。
「入会手続きに入ります。どうぞこちらへお入り下さい。」
健人と雪見は、第一ゲートを無事クリアし、ホッと一息ついた。
重厚なドアの向こうには、広い応接室があった。
二人はふかふかのソファーに腰掛け、執事からの諸注意を聞き
同意書にサインをした。
「当店は、非日常空間をお楽しみ頂くと共に、
お客様方の日頃のストレスや疲れを癒やして頂くことを
第一の目的として造られました。
店内に入られるとおわかりいただけるかと存じますが、
たくさんの芸能界の方もお見えです。
ですが、ここでは他人に一切干渉しないのが一番のルールに
なっておりますので、たとえすれ違ったのが大先輩であろうとも
ご挨拶はせずに、素通りして結構です。
最初、お若い方ですと、なかなかこれを実行するのが心苦しくて
つい上の方にご挨拶してしまいがちですが、
これは後ほど必ず相手の方から苦情が入りますので
くれぐれもご注意を。
要は、その空間には自分たちしかいない、と考えるのが正解です。
周りの人達は見えていないことにするのです。
そうすることによって、初めて心身の解放が得られ、
深い安らぎを覚えることができるでしょう。
あとは、当店でお客様のお相手をさせて頂く可愛い猫たちに
心の癒しを与えてもらい、お帰りの際にはまた明日への活力が
生まれていることを、従業員一同願っております。
それでは、店内へとご案内させて頂きます。
何かご質問がございましたら、店内の従業員になんなりと
お申し付け下さい。
では、こちらへどうぞ!」
穏やかに話す黒服の執事の後について、健人と雪見は長い通路を歩く。
すでに始まっている非日常の世界に、二人の胸は高鳴った。
アミューズメントパークのアトラクションに並ぶのと同じ、高揚感。
どんな世界が広がっているのか、ワクワクドキドキの二人である。
「次回からは、真っ直ぐこの店内直結エレベーターにお乗り下さい。
先ほどお渡しした会員証をかざさないと、
エレベーターは動きませんのでお忘れなく。では、どうぞ。」
二人は執事と共にエレベーターに乗り込み、会員証をかざした。
すると静かにドアが閉まり、すーっと地下二階まで降りて行く。
エレベーターのドアが開くと、そこはすでに『秘密の猫かふぇ』店内で
三匹の子猫が健人と雪見を出迎えた。
「うわっ!めっちゃ可愛いよ、こいつ!
こっちの黒は、すげー人懐っこい!おいで、おいで!」
いきなりの可愛い出迎えに、健人のテンションはすでにマックスに
達している。
雪見も久しぶりに触れる子猫に、やっぱり猫はいいなぁと思っていた。
八階から先導してくれた執事は、ここでフロントのスタッフに
健人と雪見が新規の客であることを告げ、二人に一礼して
またエレベーターに乗り、八階の持ち場へと戻って行った。
今度は若い黒服のフロントスタッフが、人気俳優 斎藤健人の
顔を見ても顔色一つ変えずに、店内の説明をする。
「ここから先は、お客様のお好きな場所にておくつろぎ下さい。
場所さえ空いていれば、途中で別の所に移動されても結構です。
お飲み物のご注文は、備え付けのインターホンにてどうぞ。
夜十二時から翌朝六時までは、店内メンテナンス及び猫の自由時間
として、一時閉店させて頂きます。
それから繰り返しになりますが、どうか他のお客様の前を通られる時は
空気になったおつもりで。
ここのシステムは、お互いの信頼の元に成り立っております。
それさえお守り頂ければ、当店はお客様にとって、かけがえのない
安らぎの空間になることでしょう。
ご用がございましたら、なんなりとお申し付け下さい。
では、どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さいませ。」
若い黒服に丁寧にお辞儀され、健人と雪見も思わず深々とお辞儀した。
さあ、ここから先は手を取り合って、まずは店内探検に出掛けよう!
これから初めて乗るアトラクションへの期待のように、
二人のワクワク感は更に高まった。
誰の目も気にすることなく、変装もしなくていい健人と雪見のデートは
今やっと始まったばかりだ。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.57 )
- 日時: 2011/03/25 09:07
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
『秘密な猫かふぇ』というだけあって、
店内は地下の洞窟にある、秘密基地といった雰囲気を演出していた。
健人と雪見が、手をつないで秘密の通路へと足を踏み入れる。
そこは薄暗く、狭い洞窟に掘ったトンネルといった感じで、
所々にたいまつを模した間接照明がある以外は何もない、
先の見えない曲がりくねったトンネルだった。
「俺、ちょー楽しい!こういうの大好きだもん。
なんかTDLみたいじゃない?
俺、ゆき姉とディズニーランド行きてぇ!」
健人はすでに、頭の中ではアトラクションの中のお客になりきり、
このワクワク感を存分に楽しんでいる。
雪見はと言うと、こういう所は健人と同じで大好きなのだが
さっき牧田から買い取ったばかりの、履き慣れないサボのお陰で
どうも足元がおぼつかなく、健人にしがみつくようにして歩いていた。
「ねぇ、今度の休みにでも、二人でディズニーランドに行かない?」
健人が隣の雪見に目を合わせて聞いてみた。
「今度の休みなんて、いつあるの?
今日のスケジュールだって今野さんが、しばらく休みは無いからって
あの撮影だけにして、後は空けてくれたのに。」
「あーあ、そうだよねぇ…。このあとのスケジュール、見た?
俺、死んじゃうかも!」
「確かにあれは辛いよね。体調管理だけはしっかりして、
なんとか年末に向けて頑張らないと!
あ、そうだ!今度、キムチ持ってってあげようか?
健人くんのおばさんに聞き直したレシピで作ったやつ。
もうちょっと漬けた方が美味しいから、まだ先になるけど
スタミナつけるにはいいと思うよ!
まぁ、おばさんのキムチって、結構にんにく効かせたレシピだから、
ドラマのキスシーン前はNGだけどね。」
「キスシーンなんて当分無いから! っつーか、平気なの?ゆき姉。」
「そりゃ仕事だもん。そんな、子供じゃありませんって!」
ワイワイ言いながら歩いていると、やっと先が明るくなってきた。
パッとひらけた視界には、三つのブースに分れたくつろぎスペースが
健人と雪見を待っていた。
一番手前の左側は、雰囲気の良いバーカウンター。
ここでは別料金で、お酒が飲めるらしい。
右側の手前に、大きな応接セットと映画を見るためのスクリーン。
その奥のスペースには暖炉があって、その前には大きなふかふかの
ムートンのラグが敷いてあった。
この三つのスペースは、それぞれに程よい距離感があり
お互いのスペースからは視線を遮るように、観葉植物が置かれたり
家具で目隠しされていたり、パーティションで区切られてたりする。
照明は全てが間接照明で、洞窟の中という設定に合わせ
かなり薄暗くはあるが、それがかえって心を静め、
外の喧噪など忘れさせてくれる効果がある。
だが、ここにいると時間の流れが穏やかな上に
外の景色がまったくわからないので、時間に余裕がない時は
かなり注意が必要だ。
壁には時計も無いし、くつろぎすぎて次の予定に大遅刻!
なんてことにもなりかねない。
健人と雪見は、最初のくつろぎスペースを通り過ぎ、
まだ先にある次のくつろぎスペースを目指して
第二のトンネルをくぐることにした。
ここまでの間に、まだ他の客とは出会わなかった。
みんな、人目に付きやすい手前のスペースを避け、
奥へ奥へと進んで行ったに違いない。
「ねぇ、どこまで続いてるんだろうね、このトンネル。
さっきのとこより天井が低い気がする。」
曲がりくねったトンネルは、先の明かりが見えない。
天井にしても、決して頭がぶつかるような高さではないのだが、
視覚的に天井が低くて狭い感じを演出しているので
170㎝と156㎝の二人でも、思わず頭を低くして通り抜ける。
「あっ!明かりが見えた!」
次に待っていたのは左側手前が、大きな本棚にたくさんの本が詰まった
書斎風のスペースで、よく見ると本棚には世界中の猫の写真集が
数多く収められていた。
雪見は思わず嬉しくなり、そのうちの何冊かを棚から抜き取って
座り心地の良さそうな、黒い革張りの重厚な椅子に腰掛ける。
健人はと言うと、その右側に広がる、大きなベッドを備え付けた
パーティースペースに目が行っていた。
そこは奥のほうに大きなベッドが三つあり、手前には毛足の長い
ムートンのラグが敷き詰められ、その上に丸い大きなローテーブルが
置かれている。
たぶんここが、当麻がこの前ワインを持ち込んで
『秘密の猫かふぇ』会員仲間とパーティーを開いたと言う
スペースなのではないかな?と思って健人は見ていた。
当麻は、大きなウォーターベッドがめちゃめちゃ気持ち良かった!
と言っていた。
ワインを飲みながらみんなでトランプをしたり、本を読んだり、
良い気分になったらベッドで一眠りしたり…。
凄く疲れが取れてリフレッシュし、次の日からのハードスケジュールも
難なくこなせたと言う。
「ねぇ、こっちにしよう!ベッドのあるとこに!」
健人が、猫の写真集を見ていた雪見に言った。
雪見は驚き慌てて、「なに言ってんの!こんなところで!」
と、健人をたしなめた。
が、健人は
「あれぇ?なに勘違いしてんの、ゆき姉!
俺は別に、変な意味で言ったんじゃないから!
当麻が、『すっげーリラックスできるウォーターベッドがあるから
一度寝てこい!疲れが取れて元気が出るから。』って話してたから
横になってみたかっただけなのに。」
と雪見に笑って言った。
「でも、こんな広いスペースに私たち二人だけって言うのは
悪いでしょ?こっちでいいよ。」
「だって、さっき説明してくれた人は、空いてればどのスペースでも
使っていいって言ってたじゃん!
誰かここを使いたい人達が来たら移動するから、それまでいいでしょ?
どうしてもこっちがいい!」
健人の強力なお願い目線にやられて、雪見は渋々OKする。
「じゃあ、誰か来るまでだよ!この猫の写真集、もっと見たいから
そっちに運ぶの手伝って!」
「よっしゃ!何冊でも運んじゃうよ!じゃ、飲み物も頼もう!」
そう言って、健人はベッド脇のインターホンをとった。
「あ、すいません!別料金で、ビール二つお願いします!」
二人だけのパーティーは、今やっと始まろうとしている。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.58 )
- 日時: 2011/03/25 12:06
- 名前: くまのむすめ (ID: ZpTcs73J)
この小説コメントゼロー(笑)wwww
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.59 )
- 日時: 2011/03/25 12:40
- 名前: くまのむすめ (ID: ZpTcs73J)
ありったけwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.60 )
- 日時: 2011/03/26 06:33
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
健人と雪見は、ふかふかのラグの上にぺたっと座り
運ばれてきたビールでまずは乾杯をした。
「お疲れ〜!はぁーっ。仕事の後のビールって、
なんでこんなに美味いんだろ!生き返るぅ〜!」
「ほんとだね。さすがに私も今日は疲れたなぁ…。
やっぱり、やり慣れない事をするって大変な事だよね。
そう考えると健人くんって、凄いよなぁ!
毎日毎日、違う事の連続でしょ?
それを難なくこなしていくんだから、尊敬してます!」
雪見が健人に向かってぺこんと頭を下げた。
「えっ?俺ってゆき姉に尊敬されてんの?マジで?
だったら、すっげー嬉しいんだけど!」
「いっつも尊敬の眼差しでカメラ覗いてるのに、気が付かなかった?」
「カメラ覗いてたら、目なんて見えないっつーの!」
「なんだ、残念!」
いつものように、バカ言って笑い合える時間が愛しかった。
撮影の終わりに見せた健人の憂いの表情は、一体何だったのか…。
影も形も見えなくなった今となっては、その原因を探る方法がない。
私の勘違いだったの?だとしたら、それで良かった。
今はただ、明日からの忙しさに備えてエネルギーの充電だけを
心がけよう。
明日はいよいよ一時から、写真集の製作発表だ。
きっとそこから劇的に、物事が動き出すに違いない。
その先の変化は、雪見にはまだ想像すらつかずにいた。
「ねぇ、明日の制作発表会、どんな格好で行けばいいんだろ?
テレビで日本中の人が見るんでしょ?
やだな、考えただけで震えがきちゃう!」
雪見は、初めてのグラビア撮影にだけ全神経を集中させてたので、
今やっと明日の会見を思い出し、段々と不安な気持ちが募っていった。
「大丈夫だよ!服なんて向こうで衣装を用意してるから。
明日はいつも通りに会場に行けばいいさ。
また牧田さんと進藤さんが、ちゃんとやってくれるって。」
健人は、何度も何度もこんな不安を乗り越えて、
今の堂々とした健人が出来上がったに違いないと、雪見は思った。
「まだ、たったの21歳なのに、いっぱい苦労も辛い思いも
してきたんだよね。
歯を食いしばって頑張ってきたから、今の人気者の斎藤健人が
いるんだよね。健人くん、頑張ったね…。」
健人のここまでの道のりを思うと、簡単ではなかったことが
容易に想像できて、雪見の瞳からは涙が突然溢れてきた。
「な、なんで泣いてんの!?俺、なんか嫌なこと言ったぁ?」
「ごめんごめん!なんでもない。なんで最近すぐ涙が出ちゃうんだろ。
おかしいなぁ。」
そんな話の流れでは無かったのに、なぜ今涙が溢れたのか
自分でも解らずに戸惑った。
「大丈夫?無理してない?」 健人が心配そうに雪見の肩に手を置く。
その時、どこからともなく一匹の黒い子猫が忍び足で現れて、
雪見の側へやってきた。
生後二ヶ月ほどであろうか。一番子猫らしい時期の子猫である。
「うわぁ!可愛い黒ちゃんだ!いい子だね、こっちにおいで!」
子猫の出現に二人は一気に盛り上がり、つい何十秒前の涙の事なんか
きれいさっぱりと洗い流してくれた。
「すっげーツヤツヤしてる!いいもん食わせてもらってんな!
お前良かったなぁ、ここに拾われて…。」
そう言いながら、健人が黒い子猫の頭を撫でた。
「えっ?この子、捨て猫だったの?」
「そう。ここの猫は全部、保健所から引き取ってきた猫なんだって。
ここに慣れさせるためには子猫しか引き取れないんだけど、
それでもかなりの数がここにもらわれて来てるみたいだよ。
これだけ広い店の中を自由に歩き回れて、ご飯がもらえて、
猫が好きな人達に可愛がられて…。
こいつらは、ラッキーな星の下に生まれたんだ。」
良かったな、良かったなと言いながら子猫を撫でる健人の瞳にも
うっすらと涙が滲んでいた。
「そうだったんだ、知らなかった。いいお店だね、ここって!
教えてくれた当麻くんに感謝だ!」
「そう!あいつ、すっごくゆき姉に会いたがってんだけど!
会うたびにゆき姉を紹介しろ、紹介しろ!ってうるさくて。」
「やだぁ〜!当麻くんに会ったって、何話せばいいのかわかんない!
また健人くんったら、当麻くんに私のこと誇大広告してない?
会ってがっかりした!とか言われたら、立ち直れないから。」
「当麻はそんな奴じゃないよ。すっげーいい奴!
優しいし年下なのに頼りになるし、けど俺と一緒で優柔不断!」
「うん、わかる気がする!健人くんも、結構優柔不断なとこあるし。
お互い似てるとこがあると、すごく近くに感じて嬉しいよね。
けど、優柔不断男が二人でいたら、何かを決める時に大変そう!」
「当たりっ!飯食いに行こうって時に決められない!
誰か決めてー!って感じになる!」
当麻の話をする健人は本当に嬉しそうで、大事な親友なんだと言う事が
ひしひしと伝わってくる。
そんな健人の笑顔は、雪見の心をも暖かくした。
『当麻くん。健人くんのことを、これからもよろしくね!』
まだ見ぬ当麻に向かって、雪見は心の中でそんなことをお願いした。
そのあとも、いろんな猫たちが入れ替わり立ち替わり
二人の元へ挨拶に来る。
健人と雪見は、時間も忘れて猫たちと戯れた。
猫と遊んでは二人でおしゃべりをしたり、猫の写真集をのぞいたり。
当麻から聞いてた通りの気持ち良いウォーターベッドは、
二人の疲れた身体を包み込み、目を閉じると一瞬で夢の中へと
落ちて行きそうだった。
「まだ時間はあるから、健人くんは少し寝て!
このベッドなら短時間でも熟睡できそうじゃない。
ここんとこ寝不足が続いてるんだから、少しでも休まなきゃ。
私はまだまだ読みたい本があるから、一時間ぐらいしたら
起こしてあげる。それからご飯食べに行こう!」
「いいの?じゃあ、少しだけ寝ていい?
さっきまでは全然眠くなかったのに、このベッドに横になったら
急に眠気が来ちゃった。ごめん、じゃ少しだけ…。」
そう言ったかと思うと、スッと健人は眠りに落ちた。
まるで催眠術にかけられたかのように…。
「何にも言わないけど、疲れてるんだね…。おやすみ。」
健人の寝顔を横に見ながら、雪見はそっとベッドの上から降り
側らによしかかりながら、また違う写真集のページを開いた。
静かに静かに幸せな時間が流れていった。
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